説明

平版印刷版原版

【課題】 コンピュータ等からのデジタル信号に基づいた走査露光による直接製版が可能であり、現像ラチチュードが広く、画像部のインク着肉性に優れた平版印刷版原版を提供する。
【解決手段】 支持体上に、下記一般式(I)で表される高分子化合物と、オニウム塩と、赤外線吸収剤とを含有する感光性組成物からなる記録層を有することを特徴とする。一般式(I)中、R1は炭化水素基、R2は水酸基を置換基として有する芳香族基を表す。m=5〜40モル%、n=10〜60モル%、o=1〜10モル%、及び、p=5〜50モル%である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線露光によりアルカリ性水溶液に対する溶解性が変化するポジ型感光性組成物を含有する記録層を有する平版印刷版原版に関し、詳細には、コンピュータ等のデジタル信号に基づいて赤外線レーザ光を走査することにより直接製版できる所謂ダイレクト製版が可能なポジ型平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年画像形成技術の発展に伴い、細くビームを絞ったレーザ光をその版面上に走査させ、文字原稿、画像原稿等を直接版面上に形成させることで、フイルム原稿を用いずに直接製版することが可能となった。このような版材は、コンピュータ トゥー プレート(CTP)用平版印刷版原版と呼ばれる。
サーマルポジ型の平版印刷版原版は、レーザ光照射により記録層中で光熱変換を起こすことによって、記録層のアルカリ可溶性を増大させポジ画像を形成する画像形成材料である。このようなサーマルポジ型の平版印刷版原版においては、レーザ露光による記録層中において、バインダーの分子間相互作用の微妙な変化を画像形成原理として利用しているために、露光部分/未露光部分のアルカリ可溶性の差異(溶解ディスクリミネーション)が小さくなり、現像ラチチュード(使用条件による現像安定性)が不充分になるという問題があり、現像液の活性変動により、現像不良や画像部の白ヌケが生じるなどの懸念があった。
【0003】
上記のような問題に対し、現像ラチチュードを広げ、記録層の画像形成性を実用に耐え得る程度に改善する目的で重層構造の記録層を設けた画像記録材料が提案されている。例えば、アセタール単位をペンダント基として有するポリビニルアルコールを主鎖としたポリマーをポジ型作用組成物に添加する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)このようなポリマーは、アルカリ現像液溶解性が高く、露光部の現像不良については改善されるが、未露光においてもアルカリ溶解性を高めてしまい、現像ラチチュードの改善はみられず、また、未露光部(画像部)のインキ着肉性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特表2003−530581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術の欠点を考慮してなされた本発明の目的は、コンピュータ等からのデジタル信号に基づいて、赤外線を放射する固体レーザまたは半導体レーザを用いて記録することにより、直接製版可能であり、現像ラチチュードが広く、且つ、画像部のインキ着肉性に優れたCTP型赤外線感光性ポジ型平版印刷版原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意研究の結果、特定の構造を有する高分子化合物と、オニウム塩とを含有する感光性組成物を記録層に適用することにより、上記課題目的が達成される条件を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、下記一般式(I)で表される高分子化合物(以下、適宜「特定構造ポリマー」と称する。)と、オニウム塩と、赤外線吸収剤とを含有する記録層を有することを特徴とする。
【0006】
【化1】

【0007】
一般式(I)中、R1は炭化水素基、R2は水酸基を置換基として有する芳香族基を表す。m=5〜40モル%、n=10〜60モル%、o=1〜10モル%、及び、p=5〜50モル%である。
【0008】
本発明の作用は明確にはなっていないが、上記一般式(I)のようなアセタール構造を有する高分子化合物は酸素原子を多数有するため、オニウム塩と併用することで、未露光部においては、特に強固な相互作用を引き起こし、強固な被膜を形成し、現像液に対しても高い溶解抑制性を発現していると推測される。一方、露光部では、該相互作用が熱等のエネルギーで容易に解除され、特定構造ポリマーの有する酸基に起因する高い現像性が確保されるため、層全体としてのディスクリミネーションが向上し、現像ラチチュードが広がるほか、画像部親油性が特異的に向上し、優れたインキ着肉性を発現するのと考えられる。
画像部を形成する未露光部は、上述したとおり、極めて強固な現像液に対する溶解抑制効果を保持しており、版の取り扱い時に生じる傷付きも抑制され、さらに、現像時にキズ跡からの所望されない溶解が生じ難くなるとともに、被膜の疎水的な特性による、インキ着肉性を確保しているものと推測される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンピュータ等からのデジタル信号に基づいた走査露光による直接製版が可能であり、現像ラチチュードが広く、且つ、画像部のインキ着肉性に優れた平版印刷版原版を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の平版印刷版原版の記録層は、前記特定構造ポリマーと、オニウム塩と、赤外線吸収剤とを含有するポジ型感光性組成物からなる記録層である。
【0011】
本発明の平版印刷版原版の記録層を構成する感光性組成物の特徴的な成分である特定構造ポリマーについて詳細に説明する。
(特定構造ポリマー)
本発明の平版印刷版原版の記録層に用いられる特定構造ポリマーは、下記一般式(I)で表される高分子化合物である。この特定構造ポリマーは、アルカリ可溶性のポリマーである。
【0012】
【化2】

【0013】
一般式(I)中、R1は炭化水素基、R2は水酸基を置換基として有する芳香族基を表す。 mは5〜40モル%、nは10〜60モル%、oは1〜10モル%、及び、pは5〜50モル%である。
【0014】
上記構造単位(a)中、R1は炭化水素基を表し、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が好適に挙げられる。
1としては、炭素数1〜12(好ましくは炭素数3〜10のアルキル基であることが好ましく、具体的には、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1−メチルブチル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、2−ノルボルニル基を挙げることができる。これらの中でも、炭素数が3〜10のアルキル基であることが好ましい。
一般式(I)中、構造単位(a)の共重合比であるmは、5〜40モル%であり、10〜35モル%であることがより好ましく、15〜30モル%であることがさらに好ましい。
一般式(I)で表される高分子化合物中、構造単位(a)は、同一のR1を有する構造単位(a)のみを含んでいてもよく、異なるR1を有する構造単位(a)を複数種含んでいてもよい。
【0015】
上記構造単位(b)中、R2は水酸基を置換基として有する芳香族基を表す。R2に含まれる芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、等が挙げられる。
2は、水酸基を置換基として必須に有するが、水酸基以外の他の置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、例えば、水素を除く一価の非金属原子団が用いられる。好ましい例としては、ハロゲン原子(−F、−Br、−C1、−I)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリーロキシ基等が挙げられる。
【0016】
一般式(I)で表される高分子化合物中、構造単位(b)は、同一のR2を有する構造単位(b)のみを含んでいてもよく、異なるR2を有する構造単位(b)を複数種含んでいてもよい。
一般式(I)中、構造単位(b)の共重合比であるnは10〜60モル%であり、20〜55モル%であることがより好ましく、30〜50モル%であることがさらに好ましい。
【0017】
一般式(I)中、構造単位(c)の共重合比であるoは1〜20モル%であり、2〜15モル%であることがより好ましく、3〜10モル%であることがさらに好ましい。
また、構造単位(d)の共重合比であるpは5〜50モル%であり、10〜45モル%であることがより好ましく、15〜40モル%であることが更に好ましい。
【0018】
一般式(I)で表される高分子化合物は、上記構造単位(a)(b)(c)及び(d)以外の他の構造単位を含んでいてもよい。
一般式(I)で表される高分子化合物の中でも、本発明における特定構造ポリマーとしては、下記一般式(II)で表される高分子化合物であることがより好ましい。
【0019】
【化3】

【0020】
一般式(II)中、構造単位(a)(b)(c)及び(d)は、一般式(I)における構造単位(a)(b)(c)及び(d)と同義であり、好ましい範囲も同様である。
構造単位(e)中、R3は、―(CH2)XCOOH、−C≡CH、又は以下に示す基を表す。Xは1以上の整数を表し、好ましくは1〜12の整数を表す。qは0〜20モル%である。
【0021】
【化4】

【0022】
上記式中、R4は、−COOH、―(CH2)XCOOH、−O−(CH2)XCOOHを表す。Xは1以上の整数を表し、好ましくは1〜12の整数を表す。
一般式(II)中、構造単位(e)の共重合比であるqは、、0〜20モル%であり、3〜17モル%であることがより好ましく、5〜15モル%であることがさらに好ましい。
一般式(II)で表される高分子化合物中、構造単位(e)は、同一のR3を有する構造単位(e)のみを含んでいてもよく、異なるR3を有する構造単位(e)を複数種含んでいてもよい。
【0023】
感光層を形成する感光性組成物における特定構造ポリマーの含有量としては、良好な記録層の形成という観点から、10〜99質量%の範囲であることが好ましく、30〜95質量%がさらに好ましく、もっとも好ましくは50〜90質量%の範囲である。
【0024】
(その他の高分子化合物)
本発明に係る感光性組成物は、上記した特定構造ポリマーに加えて、さらなる性能向上の観点から、上記特定構造ポリマー以外のポリマーを添加してもよい。
併用しうるその他の高分子化合物(ポリマー)には、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択されるが、ポジ型感光性を損なわないという観点から、一般にはアルカリ可溶性ポリマーが用いられる。
【0025】
好ましい併用ポリマーであるアルカリ可溶性樹脂としては、下記(1)〜(6)に挙げる酸性基を高分子の主鎖及び/又は側鎖中に有するものが挙げられる。
【0026】
(1)フェノール基(−Ar−OH)
(2)スルホンアミド基(−SO2NH−R)
(3)置換スルホンアミド系酸基(以下、「活性イミド基」という。)
〔−SO2NHCOR、−SO2NHSO2R、−CONHSO2R〕
(4)カルボン酸基(−CO2H)
(5)スルホン酸基(−SO3H)
(6)リン酸基(−OPO32
【0027】
上記(1)〜(6)中、Arは2価のアリール連結基を表し、Rは、水素原子又は炭化水素基を表す。
【0028】
上記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂の中でも、(1)フェノール基、(2)スルホンアミド基および(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂が好ましく、特に、(1)フェノール基または(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂が、アルカリ性現像液に対する溶解性、現像ラチチュード、膜強度を十分に確保する点からさらに好ましく、(1)フェノール基を高分子の主鎖及び/又は側鎖中に有するものが最も好ましい。
【0029】
(1)フェノール基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、以下のような樹脂を挙げることができる。
例えは、フェノールとホルムアルデヒドとの縮重合体、m−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、p−クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、m−/p−混合クレゾールとホルムアルデヒドとの縮重合体、フェノールとクレゾール(m−、p−、またはm−/p−混合のいずれでもよい)とホルムアルデヒドとの縮重合体等のノボラック樹脂、およびピロガロールとアセトンとの縮重合体を挙げることができる。さらに、フェノール基を側鎖に有する化合物を共重合させた共重合体を挙げることもできる。或いは、フェノール基を側鎖に有する化合物を共重合させた共重合体を用いることもできる。
【0030】
なかでも、特定構造ポリマーとの相互作用形成性や、ポリマー自体のディスクリミネーションが比較的高いという点から、ノボラック樹脂であることが好ましい。
ノボラック樹脂としては、例えば、フェノールホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−、p−、o−、m−/p−混合、m−/o−混合およびo−/p−混合のいずれでもよい。)混合ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
これら好適な併用ポリマーであるノボラック樹脂としては、重量平均分子量は1,500以上、数平均分子量が300以上のものが好ましい。更に好ましくは、重量平均分子量が3,000〜300,000で、数平均分子量が500〜250,000であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1〜10のものである。
【0032】
また、その他のフェノール基を有する化合物としては、フェノール基を有するアクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、またはヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0033】
(1)フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂以外の、好ましいアルカリ可溶性樹脂について説明する。
(2)スルホンアミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、スルホンアミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、窒素原子に少なくとも一つの水素原子が結合したスルホンアミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物が挙げられる。
【0034】
なかでも、本発明においては、特に、m−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0035】
(3)活性イミド基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、活性イミド基を有する化合物に由来する最小構成単位を主要構成成分として構成される重合体を挙げることができる。上記のような化合物としては、下記構造式で表される活性イミド基と、重合可能な不飽和基と、を分子内にそれぞれ1以上有する化合物を挙げることができる。
【0036】
【化5】

【0037】
具体的には、N−(p−トルエンスルホニル)メタクリルアミド、N−(p−トルエンスルホニル)アクリルアミド等を好適に使用することができる。
【0038】
本発明の記録層に用いられるアルカリ可溶性樹脂を構成する、前記(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する最小構成単位は、特に1種類のみである必要はなく、同一の酸性基を有する最小構成単位を2種以上、または異なる酸性基を有する最小構成単位を2種以上共重合させたものを用いることもできる。
前記共重合体は、共重合させる(1)〜(6)より選ばれる酸性基を有する化合物が共重合体中に10モル%以上含まれているものが好ましく、20モル%以上含まれているものがより好ましい。含有量が10モル%未満であると、添加による現像ラチチュード向上効果が十分に得られない傾向がある。
【0039】
これらのアルカリ可溶性樹脂としては、前記フェノール性水酸基を有する重合性モノマー、又は活性イミド基を有する重合性モノマーの単独重合体或いは共重合体が好ましく、特にm−アミノスルホニルフェニルメタクリレート、N−(p−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド、N−(p−アミノスルホニルフェニル)アクリルアミド等の、スルホンアミド基を有する重合性モノマーの単独重合体或いは共重合体のものが好ましい。
アルカリ可溶性樹脂の重量平均分子量は、2,000以上、数平均分子量が500以上のものが好ましい。更に好ましくは、重量平均分子量が5,000〜300,000で、数平均分子量が800〜250,000であり、分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.1〜10のものである。
また、本発明においてアルカリ可溶性樹脂がフェノールホルムアルデヒド樹脂、クレゾールアルデヒド樹脂等の樹脂である場合には、重量平均分子量が500〜20,000であり、数平均分子量が200〜10,000のものが好ましい。
【0040】
これらアルカリ可溶性樹脂は、それぞれ1種類或いは2種類以上を組合せて使用してもよい。アルカリ可溶性樹脂は、感光性組成物中の前記特定構造ポリマーに対して、1〜50質量%で含有されることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。また、被膜の耐久性、感度の観点から、記録層中における含有量は全固形分中、1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%、特に好ましくは5〜20重量%の範囲である。
【0041】
〔オニウム塩〕
本発明の平版印刷版原版の記録層には、オニウム塩を含有することを要する。本発明に用いうるオニウム塩は、下記一般式(A)で表される化合物である。
一般式(A) M+-
一般式(A)中、M+は置換基を有していてもよいスルホニウム、ヨードニウム、ジアゾニウム、アンモニウム、ホスホニウム、セレノニウム、及びアジニウム等から選択されるカチオンを表し、スルホニウム、ヨードニウム、ジアゾニウム、アンモニウムがより好ましい。X-は任意の対アニオンを表し、なかでも有機酸アニオンが好ましい。
本発明において、オニウム塩は、水不溶性且つアルカリ可溶性の高分子化合物と混合することによって、該高分子化合物の水又はアルカリ現像液に対する溶解性を下げる溶解抑制剤として機能する。
【0042】
以下に、一般式(A)で表されるオニウム塩化合物の具体例を例示するが、本発明はこれらに制限されず、一般式(A)で表される範囲においては、任意に化合物を選択することができる。
【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
これらオニウム塩は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、感度向上及び現像ラチチュード拡大の観点から、記録層全固形分に対し0.1〜30質量%含有することが好ましく、1〜20質量%の割合で含有することがさらに好ましい。
【0054】
(赤外線吸収剤)
本発明に係る赤外線吸収剤は、700nm以上、好ましくは750〜1200nmの赤外域に光吸収域を有し、この範囲の波長域の光により、光/熱変換能を発現する物質を指す。具体的には、上記波長域の光を吸収し熱を発生する種々の染料又は顔料を用いることができる。
【0055】
染料としては、例えば、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレ−ト錯体、オキソノ−ル染料、ジイモニウム染料、アミニウム染料、クロコニウム染料等の染料が挙げられる。
【0056】
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、フタロシアニン染料、オキソノ−ル染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、チオピリリウム染料、ニッケルチオレ−ト錯体が挙げられる。さらに、下記一般式(a)で示されるシアニン色素が、光熱変換効率に優れ、本発明の平版印刷版原版の記録層に使用した場合に、アルカリ溶解性樹脂との高い相互作用を与え、且つ、安定性、経済性に優れるため最も好ましい。
【0057】
【化16】

【0058】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−NPh2、X2−L1又は以下に示す基を表す。ここで、X2は酸素原子又は、硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。
【0059】
【化17】

【0060】
上記式中、Xa-は、後述するZa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリ−ル基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、さらに、R1とR2とは互いに結合し、5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0061】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7及びR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za-は、対アニオンを示す。但し、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレ−トイオン、ヘキサフルオロホスフェ−トイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェ−トイオン、及びアリ−ルスルホン酸イオンである。
【0062】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、以下に例示するものの他、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−40638号公報の段落番号[0012]〜[0038]、特開2002−23360号公報の段落番号[0012]〜[0023]に記載されたものを挙げることができる。

【0063】
【化18】

【0064】
【化19】

【0065】
【化20】

【0066】
他の好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクアリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0067】
また、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号記載の置換されたアリ−ルベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。
また、染料として好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0068】
顔料としては、市販の顔料又はカラ−インデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)および「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
【0069】
顔料の種類としては、例えば、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、ポリマ−結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレ−キ顔料、縮合アゾ顔料、キレ−トアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレンおよびペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレ−キ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カ−ボンブラックを用いることができる。
【0070】
顔料の粒径は0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましく、顔料分散物の塗布液中での安定性、記録層の均一性の観点から、0.05μm〜1μmの範囲にあることがさらに好ましく、特に0.1μm〜1μmの範囲にあることが好ましい。
【0071】
顔料を分散する方法としては、インク製造やトナ−製造等に用いられる公知の分散技術が使用できる。分散機としては、超音波分散器、サンドミル、アトライタ−、パ−ルミル、ス−パ−ミル、ボ−ルミル、インペラ−、デスパ−ザ−、KDミル、コロイドミル、ダイナトロン、3本ロ−ルミル、加圧ニ−ダ−等が挙げられる。詳細は、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0072】
これらの顔料又は染料は、感度、記録層の均一性及び耐久性の観点から、記録層の上層を構成する全固形分に対し0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。特に、染料の場合には、0.5〜10質量%の割合で含有するすることが好ましく、顔料の場合には、0.1〜10質量%の割合で含有することが好ましい。
【0073】
(その他の成分)
本発明に係る記録層には、更に必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。
例えば、溶解性を調節するために、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物、多官能アミン化合物等、添加するとアルカリ水可溶性高分子(アルカリ可溶性樹脂)の現像液への溶解阻止機能を向上させるいわゆる溶解抑止剤を添加することが好ましく、中でも、o−キノンジアジド化合物、スルホン酸アルキルエステル等の熱分解性であり、分解しない状態ではアルカリ可溶性樹脂の溶解性を実質的に低下させる物質を併用することが、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図る点で好ましい。
【0074】
好適なキノンジアジド類としてはo−キノンジアジド化合物を挙げることができる。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物は、少なくとも1個のo−キノンジアジド基を有する化合物で、熱分解によりアルカリ可溶性を増すものであり、種々の構造の化合物を用いることができる。つまり、o−キノンジアジドは熱分解により結着剤の溶解抑制能を失うことと、o−キノンジアジド自身がアルカリ可溶性の物質に変化することの両方の効果により感材系の溶解性を助ける。本発明に用いられるo−キノンジアジド化合物としては、例えば、J.コーサー著「ライト−センシティブ・システムズ」(John Wiley&Sons.Inc.)第339〜352頁に記載の化合物が使用できるが、特に種々の芳香族ポリヒドロキシ化合物あるいは芳香族アミノ化合物と反応させたo−キノンジアジドのスルホン酸エステル又はスルホン酸アミドが好適である。また、特公昭43−28403号公報に記載されているようなベンゾキノン(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとピロガロール−アセトン樹脂とのエステル、米国特許第3,046,120号及び同第3,188,210号に記載されているベンゾキノン−(1,2)−ジアジドスルホン酸クロライド又はナフトキノン−(1,2)−ジアジド−5−スルホン酸クロライドとフェノール−ホルムアルデヒド樹脂とのエステルも好適に使用される。
【0075】
分解性溶解抑止剤であるo−キノンジアジド化合物の添加量は、好ましくは記録層の全固形分に対し、1〜10質量%、更に好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1〜2質量%の範囲である。これらの化合物は単一で使用できるが、数種の混合物として使用してもよい。
【0076】
o−キノンジアジド化合物以外の添加剤の添加量は、好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.1〜1.5質量%である。本発明に係る添加剤と結着剤は、同一層へ含有させることが好ましい。
【0077】
また、分解性を有さない溶解抑止剤を併用してもよく、好ましい溶解抑止剤としては、特開平10−268512号公報に詳細に記載されているスルホン酸エステル、燐酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、芳香族ジスルホン、カルボン酸無水物、芳香族ケトン、芳香族アルデヒド、芳香族アミン、芳香族エーテル等、同じく特開平11−190903号公報に詳細に記載されているラクトン骨格、N,N−ジアリールアミド骨格、ジアリールメチルイミノ骨格を有し着色剤を兼ねた酸発色性色素、同じく特開2000−105454号公報に詳細に記載されている非イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0078】
また、本発明に係る記録層に使用される添加剤としては、感度を向上させる目的で添加される、環状酸無水物類、フェノール類、有機酸類を挙げることができる。また、後述する界面活性剤、画像着色剤、および可塑剤も、本発明に係る記録層に添加することができる。
上記の環状酸無水物、フェノール類、及び有機酸類の記録層中に占める割合は、0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0079】
また、これら以外にも、エポキシ化合物、ビニルエーテル類、更には特開平8−276558号公報に記載のヒドロキシメチル基を有するフェノール化合物、アルコキシメチル基を有するフェノール化合物及び本発明者らが先に提案した特開平11−160860号公報に記載のアルカリ溶解抑制作用を有する架橋性化合物等を目的に応じて適宜添加することができる。
【0080】
また、本発明には、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤、EP950517公報に記載されているようなシロキサン系化合物、特開平11−288093号公報に記載されているようなフッ素含有のモノマー共重合体を添加することができる。
上記非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の記録層塗布液中に占める割合は、0.05〜15質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0081】
また、本発明の平版印刷版原版の記録層には、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を加えることができる。
焼き出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、同53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、同54−74728号、同60−3626号、同61−143748号、同61−151644号及び同63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0082】
画像の着色剤としては、前述の塩形成性有機染料以外に他の染料を用いることができる。塩形成性有機染料を含めて、好適な染料として油溶性染料と塩基性染料を挙げることができる。具体的にはオイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。これらの染料は、記録層全固形分に対し、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜3質量%の割合で記録層中に添加することができる。
【0083】
更に、本発明の記録層を構成する感光性組成物には必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤が加えられる。例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
【0084】
〔平版印刷版原版〕
以下、前記記録層を有する本発明の平版印刷版原版の好ましい態様について説明する。
〔層構成〕
本発明の平版印刷版原版における記録層の層構成は任意であり、単層構造、相分離構造、及び重層構造のいずれでも用いることができるが、単層構造、相分離構造をとることが好ましい。
記録層が相分離構造を取る場合、前記した本発明の特徴的な感光性組成物は、相分離構造のマトリックス(分散媒相)、分散相のいずれに用いられてもよい。
【0085】
〔記録層の形成〕
本発明の平版印刷版原版では、前記感光性組成物を溶媒に溶かし、適当な支持体上に塗布し、乾燥することにより、記録層を形成することができる。
ここで使用する溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、メチルブチロラクトン、トルエン等をあげることができるがこれに限定されるものではない。これらの溶媒は単独あるいは混合して使用される。
溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
また、塗布、乾燥後に得られる支持体上の記録層の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般に、乾燥後の塗膜量が、単層の場合、0.5〜5.0g/m2が好ましい。また、重層構造をとる場合の下層としては、0.1〜5.0g/m2が好ましく、0.2〜3.0g/m2がさらに好ましい。上層(最上層)としては、0.01〜5.0g/m2となる量が好ましく、0.05〜2.0g/m2となる量がより好ましい。塗布量が少なくなるにつれて、見かけの感度は大になるが、記録層の皮膜特性は低下する場合がある。
【0086】
記録層塗布液を塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0087】
記録層を重層構造にする場合、2つの層(上層及び下層)を分離して形成する方法としては、例えば、下層に含まれる成分と、上層に含まれる成分との溶剤溶解性の差を利用する方法、又は、上層を塗布した後、急速に溶剤を乾燥、除去させる方法等が挙げられる。
【0088】
また、本発明に係る記録性層中には、塗布性を良化するための界面活性剤、例えば、特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を添加することができる。好ましい添加量は、記録層全固形分中0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0089】
[支持体]
本発明に係る平版印刷版原版の支持体としては、寸度的に安定な板状物であり、必要な強度、可撓性などの物性を満たすものであれば特に制限はなく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフイルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記のごとき金属がラミネート、もしくは蒸着された紙、もしくはプラスチックフイルム等が挙げられる。
【0090】
印刷版用の支持体としては、ポリエステルフイルム又はアルミニウム板が好ましく、その中でも寸法安定性がよく、比較的安価であるアルミニウム板は特に好ましい。好適なアルミニウム板は、純アルミニウム板及びアルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板であり、更にアルミニウムがラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフイルムでもよい。アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがある。合金中の異元素の含有量は多くとも10質量%以下である。本発明において特に好適なアルミニウムは、純アルミニウムであるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものであってもよい。
【0091】
このように印刷版支持体に適用されるアルミニウム板は、その組成が特定されるものではなく、従来、公知公用の素材のアルミニウム板を適宜に利用することができる。この目的において用いられるアルミニウム板の厚みはおよそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mm〜0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。
【0092】
アルミニウム板は形成される記録層との密着性を向上させる観点から粗面化して用いられることが一般的であるが、粗面化するに先立ち、所望により、表面の圧延油を除去するための例えば界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液などによる脱脂処理が行われる。アルミニウム板の表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的に粗面化する方法、電気化学的に表面を溶解粗面化する方法及び化学的に表面を選択溶解させる方法により行われる。機械的方法としては、ボール研磨法、ブラシ研磨法、ブラスト研磨法、バフ研磨法などの公知の方法を用いることができる。また、電気化学的な粗面化法としては塩酸又は硝酸電解液中で交流又は直流により行う方法がある。また、特開昭54−63902号公報に開示されているように両者を組合せた方法も利用することができる。この様に粗面化されたアルミニウム板は、必要に応じてアルカリエッチング処理及び中和処理された後、所望により表面の保水性や耐摩耗性を高めるために陽極酸化処理が施される。アルミニウム板の陽極酸化処理に用いられる電解質としては、多孔質酸化皮膜を形成する種々の電解質の使用が可能で、一般的には硫酸、リン酸、蓚酸、クロム酸あるいはそれらの混酸が用いられる。それらの電解質の濃度は電解質の種類によって適宜決められる。
【0093】
陽極酸化の処理条件は用いる電解質により種々変わるので一概に特定し得ないが、一般的には電解質の濃度が1〜80質量%溶液、液温は5〜70℃、電流密度5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間10秒〜5分の範囲であれば適当である。陽極酸化皮膜の量は1.0g/m2より少ないと耐刷性が不十分であったり、平版印刷版の非画像部に傷が付き易くなって、印刷時に傷の部分にインキが付着するいわゆる「傷汚れ」が生じ易くなる。陽極酸化処理を施された後、アルミニウム表面は必要により親水化処理が施される。本発明に使用される親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、第3,280,734号及び第3,902,734号に開示されているようなアルカリ金属シリケート(例えばケイ酸ナトリウム水溶液)法がある。この方法においては、支持体がケイ酸ナトリウム水溶液で浸漬処理されるか又は電解処理される。他に特公昭36−22063号公報に開示されているフッ化ジルコン酸カリウム及び米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号、同第4,689,272号に開示されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法などが用いられる。
【0094】
[下塗層]
本発明に係る平版印刷版原版は、支持体上に、前記した特定構造ポリマーを含む記録層を設けたものであるが、必要に応じて支持体と記録層の下層との間に、下塗層を設けることができる。
この下塗層を設けることで、支持体と記録層との間の下塗層が断熱層として機能し、赤外線レーザの露光により発生した熱が支持体に拡散せず、効率よく使用されることから、高感度化が図れるという利点を有する。また、本発明に係る記録層は、この下塗層を設ける際にも、露光面或いはその近傍に位置するため、赤外線レーザに対する感度は良好に維持される。
また、未露光部においては、アルカリ現像液に対して非浸透性である画像記録層自体が下塗層の保護層として機能するために、現像安定性が良好になるとともにディスクリミネーションに優れた画像を形成することができ、且つ経時的な安定性も確保されるものと考えられる。
【0095】
下塗層成分としては、種々の有機化合物が用いられる。例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アラビアガム、2−アミノエチルホスホン酸などのアミノ基を有するホスホン酸類、置換基を有してもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸及びエチレンジホスホン酸などの有機ホスホン酸、置換基を有してもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸及びグリセロリン酸などの有機リン酸、置換基を有してもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸及びグリセロホスフィン酸などの有機ホスフィン酸、グリシンやβ−アラニンなどのアミノ酸類、及びトリエタノールアミンの塩酸塩などのヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩等から選ばれるが、2種以上混合して用いてもよい。
【0096】
さらに、下記式で示される構造単位を有する有機高分子化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む下塗層も好ましい。
【0097】
これらの下塗層は次のような方法で設けることができる。即ち、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液をアルミニウム板上に塗布、乾燥して設ける方法と、水又はメタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤もしくはそれらの混合溶剤に上記の有機化合物を溶解させた溶液に、アルミニウム板を浸漬して上記化合物を吸着させ、その後水などによって洗浄、乾燥して下塗層を設ける方法である。
前者の方法を実施するにあたっては、上記有機化合物の0.005〜10質量%の濃度の溶液を種々の方法で塗布できる。また後者の方法では、溶液の濃度は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%であり、浸漬温度は20〜90℃、好ましくは25〜50℃であり、浸漬時間は0.1秒〜20分、好ましくは2秒〜1分である。これに用いる溶液は、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化カリウムなどの塩基性物質や、塩酸、リン酸などの酸性物質によりpH1〜12の範囲に調整することもできる。
また、平版印刷版原版の調子再現性改良のために黄色染料を添加することもできる。下塗層の被覆量は、耐刷性の観点から、2〜200mg/m2が適当であり、好ましくは5〜100mg/m2である。
【0098】
本発明の平版印刷版原版は熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられるが、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザ、YAGレーザ等の固体高出力赤外線レーザによる露光が好適である。
【0099】
レーザの出力は100mW以上が好ましく、露光時間を短縮するため、マルチビームレーザデバイスを用いることが好ましい。また、1画素あたりの露光時間は20μ秒以内であることが好ましく、記録材料に照射されるエネルギーは10〜500mJ/cm2であることが好ましい。
【0100】
本発明の平版印刷版原版は露光後、現像により非画像部領域が除去されて平版印刷版となる。ここで用いうる現像液は、pHが9.0〜14.0の範囲、好ましくは12.0〜13.5の範囲にある現像液である。現像液(以下、補充液も含めて現像液と呼ぶ)には、従来公知のアルカリ水溶液が使用できる。例えば、ケイ酸ナトリウム、同カリウム、第3リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、第2リン酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、炭酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、ほう酸ナトリウム、同カリウム、同アンモニウム、水酸化ナトリウム、同アンモニウム、同カリウムおよび同リチウムなどの無機アルカリ塩が挙げられる。また、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン、ピリジンなどの有機アルカリ剤が挙げられる。これらのアルカリ水溶液は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
上記のアルカリ水溶液の内、本発明による効果が発揮される現像液は、一つは塩基としてケイ酸アルカリを含有した、又は塩基にケイ素化合物を混ぜてケイ酸アルカリとしたものを含有した、所謂「シリケート現像液」と呼ばれるpH12以上の水溶液で、もう一つのより好ましい現像液は、ケイ酸アルカリを含有せず、非還元糖(緩衝作用を有する有機化合物)と塩基とを含有したいわゆる「ノンシリケート現像液」である。
【0102】
前者においては、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液はケイ酸塩の成分である酸化ケイ素SiO2とアルカリ金属酸化物M2Oの比率(一般に〔SiO2〕/〔M2O〕のモル比で表す)と濃度によって現像性の調節が可能であり、例えば、特開昭54−62004号公報に開示されているような、SiO2/Na2Oのモル比が1.0〜1.5(即ち〔SiO2〕/〔Na2O〕が1.0〜1.5)であって、SiO2の含有量が1〜4質量%のケイ酸ナトリウムの水溶液や、特公昭57−7427号公報に記載されているような、〔SiO2〕/〔M〕が0.5〜0.75(即ち〔SiO2〕/〔M2O〕が1.0〜1.5)であって、SiO2の濃度が1〜4質量%であり、かつ該現像液がその中に存在する全アルカリ金属のグラム原子を基準にして少なくとも20%のカリウムを含有している、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液が好適に用いられる。
【0103】
前記現像液及び補充液には、現像性の促進や抑制、現像カスの分散、又は、印刷版画像部の親インキ性を高める目的で、必要に応じて、種々の界面活性剤や有機溶剤を添加できる。前記界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系および両性界面活性剤が好ましい。更に、前記現像液及び補充液には、必要に応じて、ハイドロキノン、レゾルシン、亜硫酸、亜硫酸水素酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩等の還元剤、更に有機カルボン酸、消泡剤、硬水軟化剤等を加えることができる。
【0104】
前記現像液及び補充液を用いて現像処理された平版印刷版は、水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体を含む不感脂化液で後処理される。後処理としては、これらの処理を種々組み合わせて用いることができる。
【0105】
更に自動現像機を用いて現像する場合には、現像液よりもアルカリ強度の高い水溶液(補充液)を現像液に加えることによって、長時間現像タンク中の現像液を交換する事なく、多量のPS版を処理できることが知られている。本発明においてもこの補充方式が好ましく適用される。現像液及び補充液には現像性の促進や抑制、現像カスの分散及び印刷版画像部の親インキ性を高める目的で必要に応じて種々の界面活性剤や有機溶剤を添加できる。
好ましい界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性界面活性剤があげられる。更に現像液及び補充液には必要に応じて、ハイドロキノン、レゾルシン、亜硫酸、亜硫酸水素酸などの無機酸のナトリウム塩、カリウム塩等の還元剤、更に有機カルボン酸、消泡剤、硬水軟化剤を加えることもできる。
上記現像液及び補充液を用いて現像処理された印刷版は水洗水、界面活性剤等を含有するリンス液、アラビアガムや澱粉誘導体を含む不感脂化液で後処理される。本発明に係る印刷版原版の後処理としては、これらの処理を種々組合せて用いることができる。
【0106】
近年、製版・印刷業界では製版作業の合理化及び標準化のため、印刷版用の自動現像機が広く用いられている。この自動現像機は、一般に現像部と後処理部からなり、印刷版を搬送する装置と各処理液槽及びスプレー装置からなり、露光済みの印刷版を水平に搬送しながら、ポンプで汲み上げた各処理液をスプレーノズルから吹き付けて現像処理するものである。また、最近は処理液が満たされた処理液槽中に液中ガイドロールなどによって印刷版を浸漬搬送させて処理する方法も知られている。このような自動処理においては、各処理液に処理量や稼働時間等に応じて補充液を補充しながら処理することができる。また、実質的に未使用の処理液で処理するいわゆる使い捨て処理方式も適用できる。
【0107】
本発明においては、画像露光し、現像し、水洗及び/又はリンス及び/又はガム引きして得られた平版印刷版に不必要な画像部(例えば原画フイルムのフイルムエッジ跡など)がある場合には、その不必要な画像部の消去が行なわれる。このような消去は、例えば特公平2−13293号公報に記載されているような消去液を不必要画像部に塗布し、そのまま所定の時間放置したのちに水洗することにより行う方法が好ましいが、特開平59−174842号公報に記載されているようなオプティカルファイバーで導かれた活性光線を不必要画像部に照射したのち現像する方法も利用できる。
【0108】
以上のようにして得られた平版印刷版は所望により不感脂化ガムを塗布したのち、印刷工程に供することができるが、より一層の高耐刷力平版印刷版としたい場合には、所望によりバーニング処理が施される。
平版印刷版をバーニングする場合には、バーニング前に特公昭61−2518号、同55−28062号、特開昭62−31859号、同61−159655号の各公報に記載されているような整面液で処理することが好ましい。
その方法としては、該整面液を浸み込ませたスポンジや脱脂綿にて、平版印刷版上に塗布するか、整面液を満たしたバット中に印刷版を浸漬して塗布する方法や、自動コーターによる塗布などが適用される。また、塗布した後でスキージ、あるいは、スキージローラーで、その塗布量を均一にすることは、より好ましい結果を与える。
【0109】
整面液の塗布量は、一般に0.03〜0.8g/m2(乾燥質量)が適当である。整面液が塗布された平版印刷版は必要であれば乾燥された後、バーニングプロセッサー(たとえば富士写真フイルム(株)より販売されているバーニングプロセッサー:「BP−1300」)などで高温に加熱される。この場合の加熱温度及び時間は、画像を形成している成分の種類にもよるが、180〜300℃の範囲で1〜20分の範囲が好ましい。
【0110】
バーニング処理された平版印刷版は、必要に応じて適宜、水洗、ガム引きなどの従来より行なわれている処理を施こすことができるが水溶性高分子化合物等を含有する整面液が使用された場合にはガム引きなどのいわゆる不感脂化処理を省略することができる。この様な処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機等にかけられ、多数枚の印刷に用いられる。
このようにして得られた、本発明の平版印刷版原版は、高感度で記録可能であり、現像ラチチュードが広く、現像液の活性の変動に関わらず良好な画像形成性を発現するとともに、印刷時における画像部のインキ着肉性に優れる。
【実施例】
【0111】
以下、本発明を実施例に従って説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔支持体の作製〕
厚さ0.3mmのJIS−A−1050アルミニウム板を用いて、下記に示す工程を経て処理することで支持体を作製した。
【0112】
(a)機械的粗面化処理
比重1.12の研磨剤(ケイ砂)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的な粗面化を行った。研磨剤の平均粒径は8μm、最大粒径は50μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0113】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板に温度70℃のNaOH水溶液(濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%)をスプレーしてエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m2溶解した。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
【0114】
(d)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/リットル水溶液(アルミニウムイオンを5g/リットル)、温度50℃であった。交流電源波形は電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、DUTY比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助陽極にはフェライトを用いた。使用した電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。
その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.20g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0115】
(f)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーで水洗した。前記デスマットに用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的な粗面化を行う工程の廃液を用いた。
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/リットル水溶液(アルミニウムイオンを5g/リットル含む)、温度35℃であった。交流電源波形は矩形波であり、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電解槽はラジアルセルタイプのものを使用した。
電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。
その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0116】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%でスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0117】
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
【0118】
(j)陽極酸化処理
電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも硫酸濃度170g/リットル(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度は43℃であった。その後、井水を用いてスプレーによる水洗を行った。
電流密度はともに約30A/dm2であった。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
【0119】
<支持体A>
上記(a)〜(j)の各工程を順に行い(e)工程におけるエッチング量は3.4g/m2となるようにして支持体Aを作製した。
<支持体B>
上記工程のうち(g)(h)(i)の工程を省略した以外は各工程を順に行い支持体Bを作製した。
【0120】
<支持体C>
上記工程のうち(a)及び(g)(h)(i)の工程を省略した以外は各工程を順に行い支持体Cを作製した。
<支持体D>
上記工程のうち(a)及び(d)(e)(f)の工程を省略した以外は各工程を順に行い、(g)工程における電気量の総和が450C/dm2となるようにして支持体Dを作製した。
上記によって得られた支持体A、B、C、Dには、引き続き下記の親水処理、及び下塗り処理を行った。
【0121】
(k)アルカリ金属ケイ酸塩処理
陽極酸化処理により得られたアルミニウム支持体を温度30℃の3号ケイ酸ソーダの1質量%水溶液の処理層中へ、10秒間、浸漬することでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行った。その際のシリケート付着量は3.6mg/m2であった。
【0122】
〔下塗り処理〕
上記のようにして得られたアルカリ金属ケイ酸塩処理後のアルミニウム支持体上に、下記組成の下塗り液を塗布して、80℃で15秒間乾燥しすることにより下塗層を形成した。乾燥後の被覆量は15mg/m2であった。
【0123】
(下塗層用塗布液)
・下記高分子化合物(下記(I)又は(II)) 0.3g
・メタノール 100g
・水 1g
【0124】
【化21】

【0125】
〔実施例1〜3、比較例1、2〕
前記方法で得られた下塗り層付き支持体に、下記組成の記録層塗布液Aをワイヤーバーで塗布した。塗布後140℃60秒間の乾燥を行い、総塗布量を1.80g/m2として実施例1〜3及び比較例1、2のポジ型平版印刷版原版を得た。
【0126】
<記録層塗布液A>
・表1記載の特定構造単位含有ポリマー 0.75g
・m−クレゾール/p−クレゾールノボラック樹脂
(モル比60:40、重量平均分子量5,000) 0.25g
・表1記載のオニウム塩 0.25g
・p−トルエンスルホン酸 0.003g
・テトラヒドロ無水フタル酸 0.03g
・シアニン染料X(下記構造) 0.017g
・ビクトリアピュアブルー(BOHの対アニオンを
1−ナフタレンスルホン酸アニオンにした染料) 0.015g
・γ−ブチルラクトン 10g
・メチルエチルケトン 10g
・1−メトキシ−2−プロパノール 1g
【0127】
【化22】

【0128】
〔実施例4〜6、比較例3、4〕
実施例1〜3と同様の方法で得られた下塗り層付き支持体に、下記組成の記録層塗布液Bをワイヤーバーで塗布した。塗布後150℃100秒間の乾燥を行い、総塗布量を1.40g/m2として実施例4〜6、及び比較例3、4のポジ型平版印刷版原版を得た。
【0129】
<記録層塗布液B>
・表1記載の特定構造単位含有ポリマー 12.0質量%
・表1記載のオニウム塩 3.0質量%
・シアニン染料X(前記構造) 0.12質量%
・クリスタルバイオレット 0.05質量%
・フッ素系界面活性剤
(メガファックF−780、大日本インキ化学工業(株)製) 0.03質量%
・メチルエチルケトン 84.8質量%
【0130】
[平版印刷版原版の評価]
次に、実施例1〜6及び、比較例1〜4ポジ型平版印刷版原版の性能評価を行った。なお、評価試験は記録層塗布後、25℃で30日間保存したものについて行った。
【0131】
(現像ラチチュードの評価)
得られた実施例1〜6、比較例1〜4のポジ型平版印刷版原版をCreo社製Trendsetter800にて、ビーム強度10.0W、ドラム回転速度250rpmの条件でテストパターンの画像状に描き込み(露光)を行った。
次に、実施例1〜3、比較例1、2については、富士写真フイルム(株)製現像液DT−2Rの水希釈(1:9)にて、電導度が37mS/cmになるまで炭酸ガスを吹き込んだ液及び富士写真フイルム(株)製フィニッシャーFG−1の水希釈(1:1)液を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサーLP−940HIIを用い、液温を30度に保って現像時間12秒で現像した。その後、現像液にDT−2Rの水希釈(1:9)液を適量加え、電導度を39mS/cmに調整し、先ほどと同じくテストパターンを画像状に描き込んだ平版印刷版原版を現像した。更に電導度を2mS/cmずつ上げ、画像の現像による膜減りが顕著に観察されるまでこの作業を続けた。
【0132】
また、実施例4〜6、比較例3,4については、富士写真フイルム(株)製現像液DT−2Rの水希釈(1:9)にて、電導度が50mS/cmになるまで炭酸ガスを吹き込んだ液を用い、富士写真フイルム(株)製フィニッシャーFG−1の水希釈(1:1)液を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサーLP940HIIを用い、実施例1〜3と同様の方法で評価した。
【0133】
これら現像後の実施例及び比較例の版において、各電導度で現像した版を、現像不良の非画像部残膜に起因する汚れや着色がないかを50倍のルーペで確認し、良好に現像が行えた現像液の電導度を決定した。次に、現像によるベタ部の現像抑制が維持される限界の電導度、具体的には、現像前のベタ部の画像濃度をGRETAG反射濃度計D196(GretagMacbeth社製)で測定して、この画像濃度から0.10以下の画像濃度となるベタ部が形成された現像液の電導度を決定した。
現像が良好に行えた現像液の電導度とベタ部の現像抑制が維持される限界の電導度の幅を現像ラチチュードとした。この数値が大きいほど現像ラチチュードが広いことを表す。結果を表1に記す。
【0134】
(インキ着肉性の評価)
得られた実施例、及び比較例のポジ型平版印刷版原版をCreo社製Trendsetter3244にて、ビ−ム強度10.0W、ドラム回転速度250rpmの条件でテストパタ−ンの画像状に描き込み(露光)を行った。
上記条件露光後、実施例1〜3、比較例1、2については、富士写真フイルム(株)製現像液DT−2(希釈して、電導度43mS/cmとしたもの)及び富士写真フイルム(株)製フィニッシャ−FP−2W(1:1で希釈したもの)を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサ−LP−940Hを用い、液温を30℃に保ち現像時間12秒で現像した。
また、実施例4〜6、比較例3、4については、富士写真フイルム(株)製現像液DT−2Rの水希釈(1:9)にて電導度が54mS/cmになるまで炭酸ガスを吹き込んだ液を仕込んだ富士写真フイルム(株)製PSプロセッサーLP940HIIを用い、液温を30℃に保って現像時間12秒で現像した。
その後、実施例、及び比較例の印刷版を、ハイデルKOR−D機で印刷し、印刷開始から、画像部の正常なインキの乗りがみられた最初の印刷物までの枚数を求め、枚数が少ないほど着肉性に優れていると判断した。結果を表1に記す。
【0135】
【表1】

【0136】
表1中の「特定構造ポリマー」は以下の通りである。
【0137】
〔特定構造ポリマー〕
【化23】

【0138】
・特定構造ポリマー(a):(a/b/c/d/e=36/37/2/25/0;重量平均分子量:16,000)
1=n−ブチル基
2=4−ヒドロキシベンジル基
・特定構造ポリマー(b):(a/b/c/d/e=12/49/17/22/0;重量平均分子量:14,000)
1=n−ブチル基
2=3−ヒドロキシベンジル基
・特定構造ポリマー(c):(a/b/c/d/e=30/41/2/20/9;重量平均分子量:18,000)
1=n−ブチル基
2=2−ヒドロキシベンジル基
3=グリオキシル酸基
・特定構造ポリマー(d):(a/b/c/d/e=21/43/2/24/10;重量平均分子量:16,000)
1=n−ブチル基
2=3−ヒドロキシベンジル基
3=プロパルギル基
【0139】
・特定構造ポリマー(e):(a/b/c/d/e=38/42/2/18/0;重量平均分子量:18,000)
1=n−ブチル基
2=2−ヒドロキシベンジル基
・特定構造ポリマー(f):(a/b/c/d/e=25/38/12/26/0;重量平均分子量:16,000)
1=n−ブチル基
2=4−ヒドロキシベンジル基
・特定構造ポリマー(g):(a/b/c/d/e=16/10/12/44/18;重量平均分子量:18,000)
1=n−イソバレル基
2=2−ヒドロキシベンジル基
36=4−ホルミルフェノキシ酢酸基
・特定構造ポリマー(h):(a/b/c/d/e=14/44/2/40/0;重量平均分子量:16,000)
1=n−ブチル基
2=3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシベンジル基
【0140】
・ポリマー(i):比較ポリマー
N−(4−アミノスルホニルフェニル)メタクリルアミド/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル(36/34/30、重量平均分子量50,000)
【0141】
表1に示されるように、特定構造ポリマーとオニウム塩と赤外線吸収剤とを含有する本発明の実施例1〜6の平版印刷版原版は、記録層が単層構造のものも、相分離構造のものも同様に、現像ラチチュードが広く、画像部のインキ着肉性に優れることがわかった。
【0142】
一方、特定構造ポリマーを含有しない組成物を記録層に用いた比較例1、3、5の平版印刷版原版は、現像ラチチュード及び画像部の着肉性のいずれにおいても、実施例の平版印刷版原版よりも劣っていた。また、特定構造ポリマーを有していてもオニウム塩を含有しないを含有しない組成物を記録層に用いた比較例2、4、6の平版印刷版原版は、現像ラチチュード及び画像部の着肉性のいずれも著しく劣ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、下記一般式(I)で表される高分子化合物と、オニウム塩と、赤外線吸収剤とを含有する記録層を有する平版印刷版原版。
【化1】

[一般式(I)中、R1は炭化水素基、R2は水酸基を置換基として有する芳香族基を表す。m=5〜40モル%、n=10〜60モル%、o=1〜10モル%、及び、p=5〜50モル%である。]

【公開番号】特開2006−58430(P2006−58430A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238183(P2004−238183)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】