説明

広域抗ウイルス治療および予防薬

本発明は病原体の感染を予防および治療するための新規な組成物および方法に関する。具体的には、本発明は自らを標的細胞に結合させる結合領域と、同細胞の外部にあってウイルス等の病原体の同細胞への感染を防止する薬効領域とを有する化合物を提供する。これに好適な標的細胞は上皮細胞である。本発明は、標的細胞の外部において同細胞のウイルス感染に干渉し得る酵素活性部分と結合した、標的細胞との結合領域を有する化合物を使用してインフルエンザ等のウイルス性疾患を予防する組成物と方法を提供する。本発明はまた、標的細胞の外部において同細胞のウイルス感染に干渉し得るプロテアーゼ阻害剤と結合した、標的細胞との結合領域を有する化合物を使用してインフルエンザ等のウイルス性疾患を予防する組成物と方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は米国出願公開 60/428,535(2002年11月22日)「広域抗ウイルス治療および予防薬」、ならびに米国出願公開 60/464,217(2003年4月19日)「広域抗ウイルス蛋白質類」に対し優先権を主張する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明はヒトまたは動物への病原体の感染を予防および治療するための治療用組成物、より具体的には、ウイルス感染の予防と治療、たとえばインフルエンザ感染の予防と治療に用いられる蛋白質系治療用組成物に関する。
【0003】
関連技術の説明
古くから人類にとっての脅威であったインフルエンザは極めて感染性の強い呼吸器疾患であり、毎年繰り返される流行と周期的な世界的流行を特徴とする。インフルエンザによる罹患率および死亡率は高く、したがって直接間接の社会的経済的影響が大きい。米国のみをとっても毎年の流行による入院患者数は30万人、死者は2万5000人に達している。前世紀には4回の世界的流行があり、合計で数千万人が死亡した。それ以前の流行に基づく数学モデルを用いた推定によれば、死亡者数 89,000〜207,000、外来患者数 1800〜4200万、次の世界的流行における推定患者数2000〜4700万である (Meltzer MI, Cox NJ, Fukuda K, (1999) Emerg Infect Dis 5:659-671)。
【0004】
インフルエンザは典型的には A 型および B 型の2種のインフルエンザウイルスへの感染によって生ずる(C 型インフルエンザウイルスは通常の感冒と似た弱い症状を引き起こすにすぎない)。これらはいずれもオルトミクソウイルス科に属する RNA ウイルスである。A 型ウイルスも B 型ウイルスも、8つのセグメントから成るマイナス鎖 RNA ゲノムを持ち、それらは宿主細胞に由来する脂質エンベロープに包まれている。エンベロープはヘマグルチニン (HA)、ノイラミニダーゼ (NA)、M2 蛋白質の3種の蛋白質から成るスパイクに覆われている。ヘマグルチニンはウイルスを宿主細胞の受容体に結合させ、ウイルス膜と細胞膜との融合を媒介する。ノイラミニダーゼは宿主細胞から新しいウイルスの分離を助ける。M2 蛋白質は少数で、イオンチャンネルとして働く。
【0005】
A 型または B 型インフルエンザウイルスによる感染は、典型的には気道上部の粘膜に始まる。ウイルスの増殖は多くの場合気道上部に限られているが、気道下部まで広がり、致命的な気管支肺炎を引き起こすこともある。
【0006】
インフルエンザウイルスの蛋白質であるヘマグルチニン (HA) はエンベロープに含まれる主要な蛋白質であり、ウイルス感染に際して重要な役割を演ずる。HA の重要性は宿主の免疫応答によって産生される中和抗体の主な標的であることから明らかである (Hayden, FG (1996) In: Antiviral drug resistance (ed. D. D. Richman), p.59-77, Chichester, UK: John Wiley & Sons Ltd.)。現在ではウイルス感染に際して HA が2つの異なった役割を演ずることが知られている。すなわち、第一に、HA はシアル酸細胞受容体へのウイルスの付着を引き起こす。第二にウイルスのエンベロープと細胞膜との有効を引き起こすことにより、ウイルスの標的細胞への侵入を媒介する。
【0007】
HA は前駆蛋白質 HA0 として合成され、ゴルジ体を経て三量複合体として細胞表面に輸送され、さらに開裂して HA1 の C 末端(HA0 の残基 328)と HA2 の N 末端を生成する。この開裂は細胞表面、または遊離したウイルス上で起こると考えられている。HA0 の HA1/HA2 への開裂は、HA のシアル酸受容体への結合の必要条件ではないが、ウイルスの感染性発現のためには必要と考えられる (Klenk HD, Rott R (1988) Adv. Vir. Res. 34:247-281; Kido H, Niwa Y, Beppu Y, Towatari T (1996) Advan. Enzyme Regul. 36:325-347; Skehel JJ, Wilye DC (2000) Annu. Rev. Biochem. 69:531-569; Zambon M (2001) Rev. Med. Virol. 11:227-241)。
【0008】
現在行われているインフルエンザ対策としてはワクチン接種と抗ウイルス薬がある。不活化インフルエンザワクチンは現在全世界的に、特にハイリスク群に対して使用されている。ワクチンウイルスは鶏の有精卵中で成長させた後、化学的方法によって不活化し精製したものである。ワクチンは通常三価、すなわち代表的な A 型ウイルス(H1N1 および H3N2)と B 型ウイルス株を含んでいる。ワクチン株は有効性を維持するため定期的に変更する必要があり、この作業は世界保健機構 (WHO) の指導下で行われている。世界的大流行の中間の時期では、変更されたワクチンが市販されるまでには通常8ヶ月を要する (Wood, J. (2001) Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 356:1953-1960)。しかし歴史的に見ると大流行は多くの大陸で6ヶ月以内に広がっており、将来の流行は国際的な人の移動が増加していることから更に短期間で広がるものと予想される (Gust ID, Hampson AW, Lavanchy D (2001) Rev. Mod. Virol. 11:59-70)。したがって将来の大流行に際しては、その第一波において有効なワクチンが入手不可能になるか、著しく不足することは必至である。
【0009】
抗ウイルス薬は大流行の中間期における主要な治療法となっており、また現状では大流行初期においてワクチンの供給が不足である場合にこれに代わり得る事実上唯一の手段である。現在市販されている抗ウイルス薬には、M2 阻害剤(アマンタジン、リマンタジン)と NA 阻害剤(オセルタミビル (Tamiflu)、ザナミビル (Relenza))の2種があり、いずれもインフルエンザの予防・治療に効果があることが実証されている。しかし化学予防法として広く試用するためには、副作用と耐性ウイルスの発生が二大問題点とされている (Hayden FG (1996) In: Antiviral drug resistance (ed. D.D. Richman), pp. 59-77、Chichester, UK: John Wiley & Sons Ltd.)。最も重要なことは、将来の大流行を生ずるウイルス株が、自然進化によるか、生物兵器として遺伝子工学的に作り出されるか、いずれにせよ既存のすべての抗ウイルス薬に対して耐性を持つ可能性である。これが現実となれば全世界にわたって破滅的な影響を及ぼすであろう。
【0010】
要約すれば、現在利用できるワクチンや抗ウイルス薬は基本的な問題を抱えており、将来の大流行に備えるには新規な予防法、治療法が必要とされる。
【0011】
発明の簡単な説明
本発明は、病原体感染の予防および治療のための薬物が現状では適時の供給に困難があり、好ましくない副作用を持つ可能性があり、かつ薬物耐性の病原体株を生ずる可能性があることの認識に基づいてなされたものである。
【0012】
本発明は病原体感染の予防および治療のための新規な組成物および方法を提供するものであり、具体的には自らを標的細胞の表面に結合させる結合領域と、同細胞の外部にあってウイルス等の病原体の同細胞への感染を防止する薬効領域とを有する化合物を提供する。
【0013】
本発明はその1つの側面として、病原体感染の予防または治療のための蛋白質系組成物を提供する。この組成物は、標的細胞の病原体への感染を防止する少なくとも1つの細胞外活性部位を有する少なくとも1つの薬効領域と、同細胞の細胞膜上またはその近傍に結合し得る結合領域とを有する化合物から成る。
【0014】
本発明のこの側面の実施態様においては、前記少なくとも1つの薬効領域は標的細胞の病原体への感染を防止または阻害する機能を有する。好ましい実施態様においては、この阻害機能は標的細胞の感染に必要なウイルス蛋白質に作用するプロテアーゼの活性を阻害する。特に好ましい実施態様においては、前記化合物はインフルエンザウイルスの HA 蛋白質への作用を阻害し、前記結合領域は気道上皮細胞への結合を実現する。
【0015】
本発明のある種の実施態様においては、前記少なくとも1つの薬効領域は触媒活性を有する。好ましい実施態様においては、同触媒活性は標的細胞の表面から、標的細胞の感染に必要な構成成分を除去する。特に好ましい実施態様においては、薬効領域は標的上皮細胞の表面のシアル酸成分を消化するシアリダーゼであり、結合領域は上皮細胞表面のヘパリンまたはヘパラン成分と結合する、ヒト蛋白質の GAG 結合領域である。
【0016】
本発明は他の側面として、病原体感染を治療または予防する薬剤組成物を含む。同薬剤組成物は本発明による、少なくとも1つの薬効領域と少なくとも1つの結合領域を含む化合物を含む。同薬剤組成物は溶液、安定剤、増量剤等を含んでいてもよい。好ましい実施態様においては同薬剤組成物は吸入剤として、また他の好ましい実施態様においては点鼻用噴霧剤として調製される。
【0017】
本発明は更に他の側面として、病原体感染の治療または予防の方法を含む。同方法は、少なくとも1つの標的細胞に対して薬効を発揮する量の本発明の組成物を適用することを含む。同薬剤組成物は好ましくは噴霧剤または吸入剤として適用される。
【0018】
発明の詳細な説明
定義
ここで使用する科学技術用語は、特に別様に定義されない限り、本発明の分野の当業者に一般的に理解されている意味を有する。一般に本明細書で使用する命名法および以下に記載する製造方法・実験方法は当業者に周知であり広く使用されているものである。これらの方法には、各種の一般的参考資料に記載されているような従来法が用いられる。用語が単数形で記されている場合、複数形の用法も含意されている。引用する参考資料の間で用語や定義に不一致がある場合には、本出願における用語は改めて定義する。本明細書において以下の用語は他の指定がない限り次の意味で使用する。
【0019】
「病原体」とは、細胞に感染し得る何らかのウイルスまたは微生物を指す。病原体はウイルス、細菌、原生動物のいずれでもよい。
【0020】
「標的細胞」とは、病原体に感染し得る何らかの細胞を指す。
【0021】
「標的細胞の病原体への感染を防止する細胞外活性」とは、標的細胞の外表面またはその近傍において同細胞の病原体への感染を防止または阻害する作用を指す。このような細胞外活性には触媒活性や阻害剤作用が含まれるが、これらに限定されるものではない。触媒活性にはたとえば病原体、標的細胞あるいは標的細胞の近傍において、感染に寄与する1つ以上の構成成分(リガンド、受容体、酵素などを含み、これらに限定されない)を分解する酵素活性、あるいは病原体、標的細胞あるいは標的細胞の近傍において、それら構成成分をその感染促進性が低減するように修飾する触媒作用がある。阻害作用には、受容体またはリガンドとの結合により、感染に必要な、または感染を促進する構成成分とそれらとの結合を阻害する作用、あるいは感染に必要な、または感染を促進する機能の発現に必要な酵素または受容体の機能を阻害する作用がある。標的細胞の外部には標的細胞の細胞膜自体のほか、標的細胞を取りまく細胞外環境、たとえば細胞外マトリックス、細胞間空隙、内腔空間などが含まれる。上皮細胞の場合、細胞外部には更に内腔層を成す細胞膜の末端または内腔面、および内腔面近傍の細胞外環境が含まれる。「標的細胞の病原体への感染を防止する細胞外活性」は、蛋白質、ポリペプチド、ペプチド、核酸、ペプチド核酸、核酸アナログ、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、有機低分子、ポリマ、脂質、ステロイド、脂肪酸、炭水化物など任意の化学物質でもよく、ないしはそれらの組み合わせでもよいが、ペプチドまたは蛋白質を含むか、またはこれらと結合しているものが好ましい。
【0022】
「少なくとも1つの薬効領域を標的細胞膜に結合させる領域」(「細胞外結合領域」または簡単に「結合領域」ともいう)とは、細胞表面上または外部、あるいはその近傍にある成分に安定な結合を形成する物質である。細胞外結合領域は可逆的または不可逆的に1つ以上の構成部分、たとえば好ましくは1つ以上の薬効領域と結合することができ、これにより前記1つ以上の薬効領域が真核細胞の外表面上またはその近傍に保持される。細胞外結合領域は標的細胞表面上の少なくとも1つの分子、または標的細胞表面と密接に関係する少なくともひとつの分子と結合することが好ましい。たとえば細胞外結合領域が標的細胞の細胞膜と共有的あるいは非共有的に会合し、または標的細胞を取り巻く細胞外マトリックスに存在する分子と結合するなどである。細胞外結合領域はペプチド、ポリペプチド、または蛋白質であることが好ましく、またそれ以外の化学物質、たとえば他の1つ以上の蛋白質、ポリペプチドまたはペプチド、核酸、ペプチド核酸、核酸アナログ、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、有機低分子、ポリマ、脂質、ステロイド、脂肪酸、炭水化物など、あるいはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0023】
本明細書においては、蛋白質またはペプチドの配列がある基準配列と同一であるか、または基準配列と比較して1つ以上のアミノ酸の欠失、1つ以上のアミノ酸の増加、または1つ以上の保存的なアミノ酸置換を有し、かつ基準配列と同一ないし実質的に同一の活性を有するとき、同配列は基準配列に対して「実質的に相同」であるという。保存的置換は 下記の5つの群のいずれかとの交換と定義される。
I. 小さい脂肪族、非極性または弱極性残基:Ala, Ser, Thr, Pro, Gly
II. 負電荷を有する極性残基およびそのアミド:Asp, Asn, Glu, Gln
III. 正電荷を有する極性残基:His, Arg, Lys
IV. 大きい脂肪族、非極性残基:Met, Leu, Ile, Val, Cys
V. 大きい芳香族残基:Phe, Try, Trp
上記各群の範囲内において、Asp/Glu, His/Arg/Lys, Phe/Tyr/Trp, Met/Leu/Ile/Val の各置換は「高度に保存的」と見なされる。また上記 (I)〜(IV) のうち2つの間の交換で、(I)(II)(III) を含む上位群 A または (IV)(V) を含む上位群 B に限られたものは「準保存的な置換」とされる。更に、疎水性アミノ酸とは Ala, Gly, Pro, Met, Leu, Ile, Val, Cys, Phe, Trp の各アミノ酸を指し、親水性アミノ酸とは Ser, Thr, Asp, Asn, Glu, Gln, His, Arg, Lys, Tyr の各アミノ酸を指す。
【0024】
「シアリダーゼ」は基質分子からシアル酸残基を除去することのできる酵素である。シアリダーゼ類(N-アシルノイラミノシルグリコヒドロラーゼ類、EC 3.2.1.18)はシアル酸糖複合体を加水分解によって除去し得る一群の酵素である。
【0025】
シアル酸は炭素原子9個の骨格を有するαケト酸であって、通常糖蛋白質および糖脂質に結合したオリゴ糖鎖の最外端に位置する。主要なシアル酸の1つは N-アセチルノイラミン酸 (Neu5Ac) であり、生合成において他の多くの型の前駆体となる。基質分子の例としてはオリゴ糖、多糖、糖蛋白質、ガングリオシド、合成分子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。たとえばシアリダーゼにより、シアル酸残基と基質分子の残部との間の、α(2,3)-Gal, α(2,6)-Gal またはα(2,8)-Gal を持つ結合を開裂させることができるが、シアリダーゼはその他シアル酸残基と基質分子の残部との間の任意の、あるいはすべての結合を開裂させることができる。Neu5Ac と炭水化物側鎖の末端から2番目のガラクトース残基との天然に見出される結合としては Neu5Ac α(2,3)-Gal および Neu5Ac α (2,6)-Gal の2種が主なものである。Neu5Ac α(2,3)-Gal 分子も Neu5Ac α (2,6)-Gal 分子もインフルエンザウイルスによって受容体と認識されるが、ヒトインフルエンザウイルスは Neu5Ac α(2,6)-Gal を、鳥およびウマインフルエンザウイルスは Neu5Ac α(2,3)-Gal をそれぞれ好むようである。シアリダーゼは天然のシアリダーゼでも加工したシアリダーゼ(たとえばアミノ酸配列が天然シアリダーゼのアミノ酸配列に本質的に相同な配列であるなど、天然シアリダーゼのアミノ酸配列に基づくもの、ただしこれに限定されない)でもよい。本明細書でいう「シアリダーゼ」には天然シアリダーゼの活性部分、あるいは天然シアリダーゼの活性部分に基づく配列を含むペプチドまたは蛋白質をも含むものとする。
【0026】
1. 病原体感染の予防または治療用組成物
本発明は、少なくとも1つの薬効領域を真核細胞の細胞膜に結合させ得る少なくとも1つの領域と、細胞の病原体への感染を防止し得る細胞外活性を持つ少なくとも1つの薬効領域とを有する、ペプチド系または蛋白質系化合物を含む。「ペプチド系または蛋白質系化合物」とは、前記2つの領域がアミノ酸がペプチド結合した形のアミノ酸骨格を有する化合物を意味する。このペプチド系または蛋白質系化合物は、アミノ酸骨格ないし主鎖に結合した他の化合物または原子団、たとえば結合領域の結合性に寄与する構成成分、または薬効領域の感染防止作用に寄与する構成成分などを持つものでもよい。本発明による蛋白質系治療薬が含み得る化合物や分子の例としては、炭水化物、脂肪酸、脂質、ステロイド、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、核酸分子、核酸アナログ、ペプチド核酸および分子、有機低分子、あるいはポリマなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の蛋白質系治療薬は修飾アミノ酸または非天然アミノ酸を含んでいてもよい。化合物の非アミノ酸部分には任意の目的に使用することができる。そのような目的の例としては、化合物の精製の容易化、化合物の溶解度または分散性の向上(医薬品組成物等において)、化合物の各領域の結合または化合物と化学的構成成分との結合、化合物の二次元的または三次元的構造への寄与、化合物全体の寸法の拡大、化合物の安定性の増大、化合物の結合作用または薬効への寄与などが挙げられ、かつこれらに限定されない。
【0027】
本発明によるペプチド系または蛋白質系化合物は、前記結合領域および薬効領域以外の蛋白質またはペプチド配列を含んでいてもよい。そのようなペプチド配列は、上に挙げた諸目的(化合物の精製の容易化、化合物の溶解度または分散性の向上、化合物の各領域の結合または化合物と化学的構成成分との結合、化合物の二次元的または三次元的構造への寄与、化合物全体の寸法の拡大、化合物の安定性の増大、化合物の結合作用または薬効への寄与)を始め、特に限定されない各種目的のために使用することができる。この追加的蛋白質またはアミノ酸配列は、結合領域および薬効領域を含む単一のポリペプチドまたは蛋白質鎖の一部であることが好ましいが、実現可能な蛋白質配列はすべて本発明の範囲に含まれる。
【0028】
前記結合領域および薬効領域の配置関係は、標的細胞の病原体感染を防止または阻害する薬効領域の細胞外活性が発揮されるように化合物が標的細胞の細胞膜上またはその近傍に結合できるようなものであれば任意である。化合物は少なくとも1つの蛋白質またはペプチド系結合領域と、少なくとも1つのペプチドまたは蛋白質系薬効領域を持つものであることが好ましい。この場合両領域はペプチド骨格に沿った直線状に、任意の順序で配置することができる。結合領域の薬効領域に接する側は N 末端でも C 末端でもよい。1つ以上の薬効領域の両側に1つ以上の結合領域が接する配置、あるいは1つ以上の結合領域の両側に1つ以上の薬効領域が接する配置も可能である。1つの化合物の各領域の一部またはすべてを、化学的ないし好ましくはペプチド結合要素を用いることもできる。
【0029】
各領域を非直線的、分岐状に配列することも可能である。たとえば薬効領域は、結合領域を含む、あるいはこれと結合されているポリペプチド鎖の一部であるアミノ酸誘導側鎖に結合していてもよい。
【0030】
本発明による化合物は2つ以上の結合領域を有することもできる。2つ以上の結合領域が存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。本発明による化合物は2つ以上の薬効領域を有することもできる。2つ以上の薬効領域が存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。複数の結合領域が存在する場合、それらは直列に(結合領域の介在の有無を問わず)配列されていても、また他の領域たとえば薬効領域と交互に配列されていてもよい。複数の薬効領域が存在する場合、それらは直列に(結合領域の介在の有無を問わず)配列されていても、また他の領域たとえば結合領域(これに限定されない)と交互に配列されていてもよい。
【0031】
本発明によるペプチドまたは蛋白質系化合物は、天然の蛋白質を精製し、必要に応じて希望する機能領域を得るため蛋白質分解により開裂し、この機能領域を他の機能領域に結合させる工程を含む、任意の適切な方法によって製造することができる。しかし好ましくは、本発明によるペプチドまたは蛋白質系化合物は核酸構成体を、連続的ポリペプチド鎖中の少なくとも1つの結合領域と少なくとも1つの薬効領域(核酸結合要素の有無を問わず)をコードするような遺伝子操作により作成するのが好ましい。この核酸構成体は適切な発現配列を有することが好ましく、原核細胞または真核細胞へのトランスフェクションにより薬効ある蛋白質系化合物を発現させ、精製することができる。精製後のペプチドまたは蛋白質系化合物には更に任意の化学成分を結合させることができる。場合によっては蛋白質系薬効領域の発現のために、望ましい翻訳後の修飾(グリコシル化はその一例であるが、これに限定されない)の能力を持つ細胞株を選ぶこともできる。
【0032】
核酸構成体の設計は極めて多様なものが可能であり、それらの蛋白質産物を希望する活性(たとえば結合領域の結合能、薬効領域の結合・触媒または阻害活性など)を試験することができる。核酸構成体の蛋白質産物はまた標的細胞の病原体感染を予防ないし阻害する能力についても試験することができる。病原体の感染性に関する in vitro 試験または インビボ 試験の方法、たとえば実施例に記載するインフルエンザウイルスへの感染性の試験方法は当業者には公知である。
【0033】
結合領域
本明細書の「細胞外結合領域」または「結合領域」とは、標的細胞の外表面上またはその直近に存在する何らかの対象物に安定に結合する構成成分である。結合領域は本発明による化合物を標的細胞の外表面上またはその近傍に保持する働きをする。
【0034】
細胞外結合領域は好ましくは 1) 標的細胞表面上に発現した分子、または標的細胞表面上に発現した分子の構成成分、領域あるいは抗原決定基、2) 標的細胞表面上に発現した分子に結合した化学物質、3) 標的細胞を囲む細胞外マトリックスの分子、のいずれかに結合する。
【0035】
結合領域は好ましくはペプチドまたは蛋白質領域(修飾または誘導体化したペプチドまたは蛋白質領域を含む)であるか、あるいはペプチドまたは蛋白質に結合した構成成分を含む。ペプチドまたは蛋白質に結合した構成成分は、結合領域と標的細胞表面上またはその近傍に存在する物質との結合に寄与する分子であれば特に限定されないが、好ましくは有機分子、たとえば核酸、ペプチド核酸、核酸アナログ、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、有機低分子、ポリマ、脂質、ステロイド、脂肪酸、炭水化物、あるいはそれらの任意の組み合わせである。
【0036】
結合領域が結合する分子、複合体、領域または抗原決定基は標的細胞に関して特異的であっても非特異的であってもよい。たとえば結合領域が分子に存在する抗原決定基に結合する場合、その分子は標的細胞上またはその直近に存在する場合も、それ以外の位置に存在する場合もあり得る。しかし多くの場合、本発明による薬効化合物の所在は、局所的に供給することにより標的細胞の表面付近に限定される。また他の場合には、結合領域の結合する分子、複合体、構成成分、領域、または抗原決定基は標的組織または標的細胞の種類に関して特異的である。
【0037】
標的組織または標的細胞の種類には、動物またはヒトの体内において病原体が侵入あるいは増殖する箇所が含まれる。たとえば病原体に感染し得る上皮細胞は標的細胞となり得る。本発明による組成物は、標的細胞表面上の抗原決定基、たとえば上皮細胞に特異的な抗原決定基に結合する結合領域を含むことができる。また別の例においては、標的細胞は上皮細胞であり、本発明の組成物は各種上皮細胞の表面上の抗原決定基、あるいは各種上皮細胞の細胞外マトリックス中に存在する抗原決定基に結合することができる。この場合、組成物の局所的供給により、病原体の標的である上皮細胞の部位に所在を限定することができる。
【0038】
病原体感染の予防または治療用化合物は、上皮細胞の表面上またはその近傍に結合する結合領域を持つものでもよい。たとえばヘパラン硫酸塩はヘパリンと密接に関係する、グリコサミノグリカン (GAG) の一種であり、気道上皮細胞を含め細胞膜に広く存在する。ヘパリン/ヘパラン硫酸塩に特異的に結合する蛋白質は多数あり、それらの GAG 結合性配列が同定されている (Meyer FA, King M, Gelman RA (1975) Biochimica et Biophysica Acta 392: 223-232; Schauer S., ed., pp.233. Sialic Acid Chemistry, Metabolism and Function. Springer-Verlag, 1982)。たとえばヒト血小板因子 4 (PF4) (SEQ ID NO:2)、ヒトインターロイキン 8 (IL8) (SEQ ID NO:3)、ヒトアンチトロンビン III (AT III) (SEQ ID NO:4)、ヒトアポ蛋白質 E (ApoE) (SEQ ID NO:5)、ヒト血管関連移動細胞蛋白質 (AAMP) (SEQ ID NO:6)、またはヒトアンフィレグリン (SEQ ID NO:7)(図2)がヘパリンに対して強い親和性を持つことが知られている (Lee MK, Lander AD (1991) Pro. Natl. Acad. Sci. USA 88: 2768-2772; Goger B, Halden Y, Rek A, Mosl R, Pye D, Gallagher J, Kungl AJ (2002) Biochem. 41: 1640-1646; Witt DP, Lander AD (1994) Curr. Bio. 4: 394-400; Weisgraber KH, Rall SC, Mahley RW, Milne RW, Marcel Y (1986) J. Bio. Chem. 261: 2068-2076)。これらの蛋白質の GAG 結合性配列は受容体結合性配列と明確に異なっているため、完全長蛋白質や受容体結合性領域に関連する生物活性が誘導されることはない。これらの配列、またはヘパリン/ヘパラン硫酸塩結合性として同定されている、ないし将来同定されるその他の配列、あるいはヘパリン/ヘパラン硫酸塩結合性として同定されている配列と実質的に相同であってヘパリン/ヘパラン硫酸塩結合性を有する配列は、インフルエンザウイルスまたはその他の気道上皮細胞に感染するウイルスによる疾患の予防または治療のための本発明による化合物の上皮細胞結合性領域として使用することができる。
【0039】
結合領域には、特定の種の標的細胞タイプに特徴的な構成成分にのみ結合するものも、あるいは2つ以上の種の標的細胞タイプに見出される構成成分に結合するものもあり得る。結合領域が2つ以上の種の標的細胞の表面に存在する構成成分に結合し、ウイルスないし病原体が2つ以上の種に感染し得る場合、薬効化合物は(薬効領域が種を超えて有効であるならば)2つ以上の種に対して有効であり得る。たとえばインフルエンザウイルスに対して有効な治療用化合物の場合、ヘパリン/ヘパラン硫酸塩に結合し得る本発明による治療用化合物は哺乳類(ヒトを含む)と鳥類の両方に使用できる。
【0040】
薬効領域
本発明による化合物は、細胞の病原体感染を防止または阻害し得る細胞外活性を持つ少なくとも1つの薬効領域を有する。薬効の例としては、結合能力、触媒活性、阻害性などがあるが、これらに限定されるものではない。本発明のある種の実施態様においては、薬効は細胞の病原体感染性に寄与する病原体の機能を変化させ或いは阻害するように働き、また他の実施態様においては標的細胞または標的生物体の機能を変化させ或いは阻害するように働く。
【0041】
たとえば薬効領域は、標的細胞上にあって病原体の結合に必要な受容体に結合し、これによって病原体の標的細胞への結合を妨害して感染を防止する。あるいは薬効領域は病原体上の分子あるいは抗原決定基に結合し、感染に必要な同分子あるいは抗原決定基と標的細胞との相互作用を阻止する。薬効領域はまた、病原体または宿主の分子または抗原決定基を分解することにより、宿主が標的細胞の感染を可能にし、あるいは促進する作用を阻害することができる。更に別の実施態様においては、薬効領域は標的細胞の病原体への感染に必要な作用を阻害する活性を有する。
【0042】
薬効領域は細胞外において作用すること、すなわち感染防止作用が標的細胞表面上または細胞外マトリックス、細胞間空隙、組織の末端空間など標的細胞直近の環境内で起こることが好ましい。
【0043】
薬効領域は好ましくはペプチドまたは蛋白質領域(修飾または誘導体化したペプチドまたは蛋白質領域を含む)、あるいはペプチドまたは蛋白質に結合した構成成分を有する。ペプチドまたは蛋白質に結合した構成成分の種類は、標的細胞の病原体への感染を防止または阻害し得るものであれば特に限定されないが、好ましくは核酸、ペプチド核酸、核酸アナログ、ヌクレオチド、ヌクレオチドアナログ、有機低分子、ポリマ、脂質、ステロイド、脂肪酸、炭水化物、あるいはこれらの任意の組み合わせなどの有機分子である。
【0044】
薬効領域は合成ペプチドまたはポリペプチドでもよく、またペプチドまたはポリペプチドと結合し得る合成分子を含んでいても、天然のペプチドまたは蛋白質あるいはそれらの一領域であってもよく、更には天然のペプチドまたは蛋白質と実質的に相同なペプチドまたは蛋白質であってもよい。
【0045】
薬効領域には特定の種に対して効果を持つものも、2つ以上の種による病原体感染を防止し得るものもある。たとえば病原体の機能を阻害する薬効領域は一般に宿主に感染する一連の種に適用されるのに対して、宿主の性質に干渉して宿主と病原体との相互作用を遮断する薬効領域には種に特異的なものと非特異的なものがある。多くの場合、結合領域と薬効領域は共に2つ以上の種に対して有効であり、したがって本発明による化合物はヒトにも動物にも使用でき、動物宿主を通じてのウイルスの伝播を防止することができる。たとえば薬効領域がシアリダーゼである場合、シアル酸残基と基質分子残部との結合2種以上を開裂させ得るシアリダーゼ、特にα(2,6)-Gal とα(2,3)-Gal の両結合を共に開裂させ得るシアリダーゼを用いれば、鳥・ブタ・ウマなど様々な動物種を元来の宿主とする広範囲のインフルエンザウイルスのヒトへの感染を防止することができる。
【0046】
結合要素
本発明による化合物は、その各領域を結合する1つ以上の結合要素を含んでいてもよい。結合要素は各領域の適切な隔たりまたは重なりを実現するために用いられる。結合要素によって結合される領域は、薬効領域、結合領域、あるいは安定化、精製促進など付加的な機能を提供するその他の領域ないし構成成分のいずれであってもよい。本発明の化合物の各領域を結合する結合要素は、化学的結合要素、アミノ酸、あるいはペプチド結合要素のいずれでもよい。1つの化合物に2つ以上の結合要素が含まれる場合、それらは同一でも異なっていてもよい。また1つの化合物に2つ以上の結合要素が含まれる場合、それらの長さは同一でも異なっていてもよい。
【0047】
有機化学分野において、組成、極性、反応性、長さ、可撓性、開裂可能性が様々に異なる多種の化学的結合要素が知られている。本発明において好ましい結合要素としてはアミノ酸またはペプチド結合要素がある。ペプチド結合要素は当業者に周知である。結合要素の長さは本発明の化合物を限定するものではないが、好ましくはアミノ酸1〜100個、さらに好ましくはアミノ酸1〜30個である。結合要素は、本発明の単量体によりコードされるペプチドまたは蛋白質の配座および活性に干渉しないアミノ酸配列を含むことが望ましい。本発明において好ましいペプチド結合要素の例としてはグリシンを含むものがある。たとえば配列 (GGGGS (SEQ ID NO:10))n(n は 1〜20、好ましくは 1〜12 の整数)は本発明の薬効化合物における領域の結合要素として使用することができる。
【0048】
少なくとも1つの結合領域と少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤を含む組成物
本発明のある側面においては、細胞外にあって細胞の病原体感染を防止する薬効領域はプロテアーゼ阻害剤である。このプロテアーゼ阻害剤は炭水化物、ポリマなどいかなる化学的形態のものでもよいが、好ましくは酵素活性を阻害する蛋白質またはペプチドである。プロテアーゼ阻害剤は、病原体が感染性を持つために病原体または宿主細胞の蛋白質の処理が必要な場合に、病原体または宿主細胞の蛋白質の少なくとも1つを少なくとも部分的に処理する酵素の活性を阻害するものが好ましい。病原体が感染性を持つために必要なウイルス蛋白質の処理を行う酵素は、病原体の持つ酵素であるか、または宿主生物に起因する酵素である。標的細胞表面またはその近傍に結合した本発明の化合物が酵素活性を効果的に阻害するためには、処理酵素は標的細胞表面またはその近傍で作用するものであることが好ましい。
【0049】
プロテアーゼ阻害領域を含む本発明の化合物は、生活史において宿主細胞の表面またはその近傍で活性なプロテアーゼを必要とするいかなる病原体による感染をも防止することができる。そのような蛋白質系組成物には、たとえば次のような構造を持つものがある。

(結合領域)n-結合要素-(プロテアーゼ阻害剤)n (n = 1, 2, 3 またはそれ以上)
または:
(プロテアーゼ阻害剤)n-結合要素-(結合領域)n (n = 1, 2, 3 またはそれ以上)

【0050】
プロテアーゼ阻害剤はペプチド単量体でもポリペプチドでもよく、あるいは同一ポリペプチドを直接または介在配列を解して結合したものでもよい。あるいは異なったポリペプチド系プロテアーゼ阻害剤を互いに結合したものでもよく、たとえば大豆プロテアーゼ阻害剤とアプロチニンをプロテアーゼ阻害機能領域とすることができる。ポリペプチドまたはペプチドは直接結合してもよく、ペプチド結合配列から成るスペーサを解して結合してもよい。結合領域は標的細胞表面またはその近傍で結合を形成し得るものであれば任意のペプチドまたはポリペプチドでよい。
【0051】
プロテアーゼ阻害剤は天然のプロテアーゼ阻害剤(ないしその活性部分)でも、遺伝子操作によるプロテアーゼ阻害剤でもよい。本発明の化合物に用いるペプチド系プロテアーゼ阻害剤は、天然のプロテアーゼ阻害剤に本質的に相同な、すなわち1つ以上の欠失、増加、あるいは置換が存在するが本質的に同一の活性を持つ配列を有するものでもよい。
【0052】
本発明の好ましい実施態様の1つにおいては、本発明の薬効化合物はヒトインフルエンザの予防および治療を目的とし、薬効領域は、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン前駆体蛋白質 HA0 を HA1 と HA2 とに開裂させ得るセリンプロテアーゼを阻害する蛋白質系またはペプチド系プロテアーゼ阻害剤である。
【0053】
培養細胞、ニワトリ胚、感染したマウスの肺において HA の開裂によるインフルエンザウイルスの活性化を妨げるセリンプロテアーゼ阻害剤が多数知られている。一般的に用いられているトリプシン阻害剤にはこれに属するものが多く、たとえばアプロチニン (Zhirnov OP, Ikizler MR, Wright PF (2002) J. Virol. 76: 8682-8689)、ロイペプチン (Zhirnov OP, Ikizler MR, Wright PF (2002) J. Virol. 76: 8682-8689; Tashiro M, Klenk HD, Rott R (1987) J. Gen. Virol. 68: 2039-2043)、大豆プロテアーゼ阻害剤 (Barbey-Morel CL, Oeltmann TN, Edwards KM, Wright PF (1987) J. Infect. Dis. 155: 667-672)、e-アミノカプロン酸 (Zhirnov OP, Ovchartenko AV, Bukrinskaya AG (1982) Arch. Virol. 73: 263-272)、n-p-トシル-L-リシンクロロメチルケトン (TLCK) (Barbey-Morel CL, Oeltmann TN, Edwards KM, Wright PF (1987) J. Infect. Dis. 155: 667-672) などの例がある。これらのうちアプロチニンのエーロゾル吸入薬はインフルエンザおよびパラインフルエンザ気管支肺炎に対する治療効果がマウスに対しても (Zhirnov OP, Ovcharenko AV, Bukrinskaya AG (1984) J. Gen. Virol. 65: 191-196; Zhirnov OP, Ovcharenko AV, Bukrinskaya AG (1985) J. Gen. Virol. 66: 1633-1638; Zhirnov OP (1987) J. Med. Virol. 21: 161-167; Ovcharenko AV, Zhirnov OP (1994) Anitiviral Res. 23: 107-118) ヒトに対しても (Zhirnov OP (1983) Problems Virol. 4: 9-12 (露文)) 確認されている。
【0054】
アプロチニン (SEQ ID NO: 1, 図1) はアミノ酸58個から成るポリペプチド阻害剤であり、トラシロール、またはウシ膵臓トリプシン阻害剤 (BPTI) とも呼ばれる。本発明の化合物は1つ以上のアプロチニン領域を持つことができる。たとえば本発明の化合物は1〜6個のアプロチニンポリペプチド、好ましくは1〜3個のアプロチニンポリペプチドを持つことができる。本発明の化合物はまた、アプロチニンのアミノ酸配列と実質的に相同なポリペプチドまたはペプチドを含む薬効領域を持つものでもよい。
【0055】
プロテアーゼ阻害剤を含むインフルエンザ予防または治療用化合物としては、上皮細胞表面またはその近傍に結合し得る結合領域を有するものが好ましい。いくつかの好ましい実施態様においては、上皮細胞への結合領域はヒト蛋白質由来の GAG 結合性配列、たとえばヒト血小板因子4 (PF4) (SEQ ID NO: 2)、ヒトインターロイキン8 (IL8) (SEQ ID NO: 3)、ヒトアンチトロンビン III (AT III) (SEQ ID NO: 4)、ヒトアポ蛋白質 E (ApoE) (SEQ ID NO: 5)、ヒト血管関連移動細胞蛋白質 (AAMP) (SEQ ID NO:6)、またはヒトアンフィレグリン (SEQ ID NO:7)(図2)などの GAG 結合性配列である。本発明の化合物はまた、SEQ ID NO: 2, SEQ ID NO: 3, SEQ ID NO: 4, SEQ ID NO: 5, SEQ ID NO: 6, SEQ ID NO: 7 に挙げた GAG 結合性領域のアミノ酸配列に実質的に相同な配列を持つポリペプチドまたはペプチドを含む結合領域を有するものでもよい。
【0056】
臨床的には、アプロチニンと上皮細胞への結合領域とを含む薬物はエーロゾル吸入により投与することで気道全体を被い、インフルエンザウイルス、または生活史においてセリンプロテアーゼを必要とする何らかのウイルス(たとえばパラインフルエンザウイルス)に起因する気管支肺炎を予防または治療することができる。さらにアプロチニン/上皮細胞結合領域を融合させた蛋白質は、インフルエンザまたはその他のウイルス性疾患の流行以前の予防手段として使用することができる。
【0057】
少なくとも1つの結合領域と少なくとも1つの触媒活性部位を含む組成物
本発明のある側面においては、細胞外にあって細胞の病原体感染を防止する薬効領域は触媒活性部位である。酵素活性は触媒活性の一種として、病原体の感染性に寄与する宿主の分子または複合体、または病原体の分子または複合体を除去、分解または修飾することができる。本発明の化合物の酵素活性によって除去、分解または修飾される宿主の分子または複合体、または病原体の分子または複合体は、標的細胞表面に結合した本発明の化合物が宿主または病原体の分子または複合体を有効に阻害できるように、標的細胞の表面上またはその近傍に存在することが好ましい。
【0058】
薬効領域はたとえば宿主と病原体との結合およびそれに続く病原体の標的細胞への侵入に必要な分子または抗原決定基を消化し得る触媒活性を有する。標的細胞へのウイルスの侵入を助ける細胞上の受容体は本発明の化合物の酵素活性の標的となり得る。
【0059】
触媒活性部位を含む本発明の化合物は、標的細胞への侵入のために受容体を利用するすべての病原体による感染を阻害するために、受容体の除去が生体を損傷しない限り使用することができる。そのような蛋白質系組成物には、たとえば次のいずれかの構造を持つものがある。

(結合領域)n-[結合要素]-(酵素活性部位)n (n = 1, 2, 3 またはそれ以上)
または:
(酵素活性部位)n (n = 1, 2, 3 またはそれ以上)-[結合要素]-(結合領域)n
ただし結合要素は任意

【0060】
酵素活性部位はペプチド単量体でもポリペプチドでもよく、あるいは同一ポリペプチドを直接または介在配列を解して結合したものでもよい。あるいは異なったポリペプチド系プロテアーゼ阻害剤を互いに結合したものでもよい。ポリペプチドまたはペプチドは直接結合してもよく、ペプチド結合配列から成るスペーサを解して結合してもよい。結合領域は標的細胞表面またはその近傍で結合を形成し得るものであれば任意のペプチドまたはポリペプチドでよい。
【0061】
本発明の好ましい実施態様の1つによれば、薬効領域は上皮細胞表面のシアル酸を除去するか濃度を著しく減少させることのできるシアリダーゼを含む。シアル酸はインフルエンザウイルスの受容体であるから、気道上皮細胞をシアリダーゼで処理することによりインフルエンザへの感染を予防し、あるいは早期に遮断することができる。薬効領域はシアリダーゼ蛋白質全体、またはその活性部分のいずれを含むものでもよい。シアル酸残基を開裂しインフルエンザウイルスまたはその他の病原体の標的細胞への感染を防止するために組成物が有効であるか否かの試験は、実施例に示す当業者に周知の方法によって行うことができる。
【0062】
好ましいシアリダーゼは受容体シアル酸 Neu5Ac α(2,6)-Gal および Neu5Ac α(2,3)-Gal を分解し得る大型の細菌シアリダーゼである。たとえば クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)(Genbank アクセッション番号 X87369)、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)(Genbank アクセッション番号 X62276)、アースロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)、ミクロモノスポラ・ビリディファシエンス(Micromonospora viridifaciens)(Genbank アクセッション番号 D01045)からの細菌シアリダーゼが使用できる。本発明の化合物の薬効領域は大型細菌シアリダーゼのアミノ酸配列の全部または一部、あるいは大型細菌シアリダーゼのアミノ酸配列の全部または一部に実質的に相同なアミノ酸配列のいずれを含むものでもよい。その他の好ましいシアリダーゼとしてはヒトシアリダーゼ、たとえば遺伝子 NEU2 によってコードされるもの(SEQ ID NO: 8、Genbank アクセッション番号 Y16535、Monti E, Preti, Rossi E, Ballabio A, Borsani G (1999) Genomics 57: 137-143)、あるいは NEU4 によってコードされるもの(SEQ ID NO: 9、Genbank アクセッション番号 NM80741、Monti E, Petri A, Venerando B, Borsani G (2002) Neurichem. Res. 27: 646-663) がある(図3)。本発明の化合物の薬効領域はヒトシアリダーゼのアミノ酸配列の全部または一部、あるいはヒトシアリダーゼのアミノ酸配列の全部または一部に実質的に相同なアミノ酸配列のいずれを含むものでもよい。薬効領域が天然シアリダーゼのアミノ酸配列の一部、あるいは天然シアリダーゼのアミノ酸配列の一部に実質的に相同なアミノ酸配列を含む場合、同部分はヒトシアリダーゼと実質的に等しい活性を有することが好ましい。
【0063】
酵素領域を含むインフルエンザ予防または治療用化合物は上皮細胞の表面またはその近傍に結合し得る結合領域を含むことが好ましい。いくつかの好ましい実施態様においては、上皮細胞への結合領域はヒト蛋白質由来の GAG 結合性配列、たとえばヒト血小板因子4 (PF4) (SEQ ID NO: 2)、ヒトインターロイキン8 (IL8) (SEQ ID NO: 3)、ヒトアンチトロンビン III (AT III) (SEQ ID NO: 4)、ヒトアポ蛋白質 E (ApoE) (SEQ ID NO: 5)、ヒト血管関連移動細胞蛋白質 (AAMP) (SEQ ID NO:6)、またはヒトアンフィレグリン (SEQ ID NO:7)(図2)などの GAG 結合性配列である。この上皮細胞結合領域はまた図2に挙げた GAG 結合性領域のアミノ酸配列に実質的に相同なものでもよい。
【0064】
インフルエンザ、パラミクソウイルス、コロナウイルス、ロタウイルスまたは シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)などを含みこれらに限定されない各種病原体への感染の予防または治療に、ヒトシアリダーゼまたはヒトシアリダーゼに実質的に相同なシアリダーゼを含み結合領域を含まない化合物を用いることも本発明の範囲内である。本発明はそのような感染が、NEU2, NEU4 その他のヒトシアリダーゼを含みこれらに限定されないシアリダーゼを使用することによって防止または軽減されることを認識している。これらシアリダーゼ類は遺伝子工学的または化学的操作により、あるいは薬剤としての組成によって、気道上皮細胞上の半減期または保持時間を延長することができる。
【0065】
インフルエンザウイルスは主として気道上部に感染するので、鼻腔ないし鼻咽頭領域において局所的に受容体シアル酸を除去することにより感染を防止し、または早期に遮断することができる。シアリダーゼは点鼻用噴霧剤として気道上部に投与することができ、インフルエンザ(またはその他の感染症)の初期において治療薬として用いることも、感染が生ずる前に予防薬として用いることも可能である。あるいはインフルエンザの治療あるいは気管支肺炎などのインフルエンザ併発症の予防のため、吸入剤として気道下部に投与することもできる。
【0066】
II. 薬効組成物
本発明は、薬剤組成物として調剤した本発明による化合物を含む。この薬剤組成物は、保存および好ましくは続く投与のために薬剤学的に許容し得る担体を含み、組成物は薬効を示し得る量の前記化合物を薬剤学的に許容し得る担体ないし希釈剤中に含むものである。許容し得る担体ないし希釈剤は薬剤学において周知であり、たとえば Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA (1990) に記載されている。薬効組成物には保存剤、安定剤、着色料、あるいは香料を加えることができる。たとえば安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、p-ヒドロキシ安息香酸エステルを保存剤として添加することができる。更に抗酸化剤や懸濁剤を使用することもできる。
【0067】
本発明の化合物は標的細胞に応じて、経口投与用の錠剤、カプセルまたはエリキシル剤、局所投与用の軟膏剤、直腸投与用の坐剤、吸入剤または点鼻噴霧剤用の滅菌溶液、懸濁液などの形態に調剤することができる。注射剤も通常の方法により、溶液または懸濁液、注射直前に溶液または懸濁液とすることのできる固形物、あるいは乳剤として調製することができる。賦形剤としてはたとえば水、食塩水、デキストロース、マンニトール、乳糖、レシチン、アルブミン、グルタミン酸ナトリウム、システイン塩酸塩などが適当である。更に注射剤には必要に応じて少量の無毒の補助剤、たとえば湿潤促進剤、pH緩衝剤などを添加してもよい。
【0068】
薬効の発現に必要な投与量は、投与経路、治療対象である患者ないし動物の種類、および動物の身体的特性によって異なる。投与量は所望の効果を得るように調節できるが、体重、食餌、並行治療などの要因の影響を受けることは医療従事者において周知のとおりである。本発明の方法の実施においては、薬効組成物は単独でも2種以上を組み合わせても用いることができ、また他の治療用あるいは診断用薬剤と併用してもよい。これらの薬物は好ましくは哺乳類、好ましくはヒトに対して インビボ で用いることも、あるいは in vitro で使用することも可能である。これらの薬物を インビボ で用いる場合、投与経路は局所、腸管外、静脈内、皮下、筋内、結腸内、直腸内、鼻腔内、腹腔内など多様なものが可能であり、それに応じて多様な剤型を使用することができる。またそのような方法は試験用化合物の インビボ 活性試験のためにも利用できる。
【0069】
好ましい実施態様においては、これらの薬効組成物は経口投与用の懸濁液または錠剤、点鼻用噴霧剤、あるいは吸入剤の形態で使用する。
【0070】
懸濁液として経口投与する場合、本発明の化合物は薬剤学において周知の方法によって調剤され、バルクを形成する微結晶セルロース、分散媒としてのアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、増粘剤としてのメチルセルロース、および公知の甘味剤または香味剤を含むことができる。即効性錠剤とする場合には、当業者に周知のように、微結晶セルロース、燐酸二カルシウム、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、乳糖またはその他の賦型剤、結合剤、増量剤、分解剤、希釈剤、滑剤などを含むことができる。口内洗浄剤として用いる場合の成分としては、当業者に周知の抗菌剤、界面活性剤、界面活性補助剤、油類、水、その他甘味剤・香味剤などが可能である。
【0071】
飲用溶液とする場合には、組成物は本発明の化合物1種またはそれ以上を適当な pH 調整剤および担体と共に水に溶解して得られる。同化合物は蒸留水、水道水、天然水等に溶解することができる。pH は約 3.5〜約 8.5 の範囲に調節することが好ましい。甘味料、たとえば蔗糖 1% (w/v) 溶液を添加してもよい。
【0072】
ロゼンジは 米国特許第3,439,089号 に基づいて調製することができる。
【0073】
点鼻用エーロゾルあるいは吸入剤として投与するときは、薬効組成物は調剤分野において周知の方法で調製することができる。たとえば当業者に周知のベンジルアルコールまたはその他の適当な保存剤、バイオアベイラビリティ向上のための吸収促進剤、フルオロカーボンまたはその他の安定剤ないし分散剤などを用いて食塩水溶液として調製することができる。たとえば Ansel, H. C. et al., Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, 6th Ed. (1995) を参照されたい。これらの化合物および組成物は、適切な無毒性かつ薬剤学的に許容される成分を配合して調剤することが好ましい。このような成分は点鼻剤関係者には周知であり、一部は当分野の標準的参考書である Reminbton's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co., Easton, PA (1990) に記載されている。適切な担体の選択は点鼻剤の形態、たとえば溶液、懸濁液、軟膏、ゲルなどによって大きく異なる。点鼻剤は一般に有効成分のほかに大量の水を含む。少量のその他の成分、たとえば pH 調節剤、乳化剤または分散剤、保存剤、界面活性剤、ゲル化剤、干渉剤またはその他の安定化・可溶化剤などが存在してもよい。点鼻剤は鼻腔内分泌物と等張的であることが望ましい。
【0074】
点鼻剤は液滴、スプレー、エーロゾル、又は、その他の鼻腔内投与型で投与することができる。投与システムとして一回量システムを用いることもできる。1回の投与に使用する溶液ないし懸濁液の容積は約 5〜約 2000 ml の範囲ならば任意であるが、好ましくは約 10〜約 1000 μl、更に好ましくは約 50〜約 500 ml である。これら種々の剤型の投与システムとしては、滴下ボトル、押し出し式プラスチック容器、アトマイザー、ネブライザー、薬剤用エーロゾルなどが可能であり、一回量、多回量いずれの包装も可能である。
【0075】
本発明の調剤は、(1) pH 調節用の他の酸または塩基、(2) ソルビトール、グリセリン、デキストロース等の浸透圧調節剤、(3) 他のパラヒドロキシ安息香酸エステル、ソルビン酸エステル、安息香酸エステル、プロピオン酸エステル、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、水銀剤等の抗菌保存剤、(4) ナトリウムカルボキシメチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、その他のガム類等の増粘剤、(5) 適当な吸収促進剤、(6) 重亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などの抗酸化剤、エデト酸ナトリウムなどの金属キレート剤等の安定剤、ポリエチレングリコール等の可溶化剤を含むように変更することも可能である。
【0076】
III. 病原体感染の予防または治療方法
本発明は病原体による感染の予防または治療の方法をも包含する。この方法は、病原体に感染した、あるいは感染のおそれのある治療対象を、標的細胞表面上またはその近傍に結合し得る少なくとも1つの結合領域と、標的細胞の病原体への感染を防止し得る少なくとも1つの細胞外活性部位を有するペプチドまたは蛋白質を含む少なくとも1つの薬効領域とを含む本発明の化合物を用いて治療することにある。治療対象はヒトでも動物でもよい。
【0077】
本発明の化合物はヒト用にも動物用にも設計することができる。本発明のある側面においては、本発明の化合物はある類の動物、たとえば哺乳類の感染防止に使用できる。また他の側面においては組成物をヒトにも動物にも用いることができる(ただし調剤組成は異なってもよい)。これらの場合には化合物の薬効領域は病原体の2つ以上の種、タイプ、サブタイプまたは株に対して有効であり、また2種以上の宿主において活性を持つことができる。たとえば本発明によるいくつかの好ましい化合物は、活性領域としてたとえばインフルエンザウイルスの HA 蛋白質の反応を阻害するプロテアーゼ阻害剤、標的細胞からシアル酸を除去するシアリダーゼを、あるいは結合領域としてヘパリンまたはヘパラン硫酸塩に結合するものを有し、鳥類、哺乳類またはヒトに対して用いることができる。このような各種の宿主に感染し得る病原体に有効な化合物は、ヒトに用いて通常他の種を宿主とするウイルスへの感染の予防に使用することができる。
【0078】
本発明のいくつかの好ましい実施態様においては、薬効を発揮し得る量の薬効組成物を治療対象の気道上皮細胞に作用させることによりインフルエンザへの感染を予防する。これを実施するには吸入器または点鼻用噴霧器を用いる。これらは1日に1〜4回使用することが好ましい。
【0079】
投与量
当業者には周知のように、有効な インビボ 投与量および投与方法は、患者の年齢・体重・類別、使用する組成物、および組成物の使用目的によって異なるが、当業者は前述の常用の諸方法によって、有効な投与量すなわち所望の結果を得るために必要な量を決定することができる。ヒト以外の動物を用いた研究では、投与量の大きいレベルから始め、次第に用量を減らして所望の効果が消失、あるいは有害副作用が低減ないし消失するまで試験を行う。本発明の化合物の投与量は所望の効果、用法、投与経路、化合物の純度および活性によって大きく異なる。典型的な場合、ヒトに対する臨床的使用は投与量の小さいレベルから始め、所望の効果が出現するまで次第に次第に用量を増加させる。あるいは試験用化合物の有効な使用量および投与経路を適当な in vitro 試験によって決定することができる。典型的な投与量は約 1 ng/kg〜約 10 mg/kg の範囲であり、好ましくは約 10 ng/kg〜約 1 mg/kg、更に好ましくは約 100 ng/kg〜約 100 mg/kg である。
【0080】
正確な調剤、投与経路および用量は個々の医師により患者の条件を考慮して決定される(Fingle et al., in The Pharmacological Basis of Therapeutics (1975) を参照)。毒性、臓器不全或いはその他の副作用が現れたとき、いつどのように投与を終了または中断し、あるいは用量を変更するかは担当医師が判断し得ることに留意すべきである。反対に臨床的反応が不十分であるとき投与量を増加させることも医師の判断である。対象とする障害の管理における投与量は症状の程度および投与経路によって異なる。たとえば症状の程度は標準的な予後評価方法によって評価することができる。更に投与量あるいは投与頻度も個々の患者の年齢、体重、応答により異なる。この事情は動物を対象とする場合も同様である。
【0081】
このように本発明はインフルエンザウイルス感染の治療および予防のための方法および薬効組成物を提供する。治療は、薬剤担体と薬効発現に十分な量の本発明による化合物のいずれか、または薬剤学的に妥当なその塩を、そのような治療を要する患者に投与することを含む。
【0082】
好ましい処方においては、適切な投与量を点鼻用噴霧剤または経口用ロゼンジとして投与する。ただし個々の患者に対する具体的な投与量や投与頻度には幅があり、塩またはその他の投与形態の活性、化合物の代謝に関する安定性や作用時間、患者の年齢・体重・一般的健康状態・性別・食餌、投与方法および投与時間、排泄レート、他の薬物との組み合わせ、病変の程度、対象宿主など多数の条件に依存することが了解されなければならない。
【0083】
実施例
実施例 1:アプロチニンの遺伝子的合成とアプロチニン融合蛋白質の精製および試験
序論
インフルエンザウイルスの蛋白質であるヘマグルチニン (HA) は主要なエンベロープ蛋白質であり、ウイルス感染において本質的な役割を有する。HA の重要性は、宿主の免疫応答によって産生される中和抗体の主要な標的であることからも明らかである (Hayden, FG (1996) In Antiviral drug resistance (ed. D.D. Richman), pp.59-77, Chichester, UK: John Wiley & Sons Ltd.)。現在では HA がウイルス感染において2つの異なった機能を持つことが知られており、第一はウイルスを細胞のシアル酸受容体に結合させること、第二はウイルスのエンベロープと細胞膜との融合反応を開始することによって、ウイルスの細胞への侵入を媒介することである。
【0084】
HA は前駆体蛋白質 HA0 として合成され、ゴルジ体を介して三量体複合体の形で細胞表面に移動する。HA0 は更に開裂して HA1 の C 末端(HA0 の残基 328)と HA2の N 末端を生ずる。この開裂は細胞表面でも遊離のウイルスにおいても起こると考えられている。HA0 の HA1/HA2 への開裂は、HA とシアル酸受容体とが結合するための必要条件ではないが、ウイルスの感染可能性にとっては決定的である (Klenk HD, Rott R (1988) Adv. Vir. Res. 34: 247-281; Kido H, Niwa Y, Beppu Y, Towatari T (1996) Advan. Enzyme Regul. 36: 325-347; Skehel JJ, Wiley DC (2000) Annu. Rev. Biochem. 69: 531-569)。
【0085】
HA0 の宿主プロテアーゼへの感受性は HA0 分子の外部ループの蛋白質分解部位によって決定される。蛋白質分解部位は単独の Arg または Lys 残基を含むか(単塩基開裂位置)、または複数の Lys, Arg またはその両者を含む R-X-K/R-R モチーフを含む(多塩基開裂位置)。多塩基開裂位置を持つのはインフルエンザ A ウイルスのうちサブタイプ H5 および H7 だけであり、他のインフルエンザ A, B, C 各ウイルスはすべて単塩基開裂位置を有する。多塩基開裂位置を有するインフルエンザ A ウイルスは伝染力が大きく、全身感染を引き起こすが、単塩基の HA 部位を持つウイルスの初期感染は哺乳類の気道あるいは鳥類の気道と腸管に限られる (Klenk HD, Garten W, (1994) Trend. Micro. 2: 20-43 の総説参照)。伝染力の大きい鳥インフルエンザウイルス A の H5 および H7 タイプへのヒトの感染は幸いにしてごく少数の例にとどまっており、その大部分は香港で発見されたものである。大多数のインフルエンザ感染は HA 蛋白質が単塩基開裂位置で開裂されるウイルスによるものである。
【0086】
多塩基開裂位置を持つサブタイプ H5 および H7 のインフルエンザウイルスは、スブチリシン様エンドプロテアーゼの一種であるフューリン、または蛋白質前駆体コンベルターゼ類によって活性化される。ウイルスを細胞内で開裂させるフリンは種々の細胞に遍在し、それらのウイルスによる重篤な全身感染を引き起こす (Klenk HD, Garten W (1994) Trend. Micro. 2: 39-43; Nakayama K (1997) Biochem. 327: 625-635)。他のインフルエンザウイルスはすべて単塩基開裂位置を有し、分泌されるトリプシン様セリンプロテアーゼにより活性化される。インフルエンザウイルス活性化に関与する酵素としては、プラスミン (Lazarowitz SG, Goldberg AR, Choppin PW (1973) Virology 56: 172-180)、ミニプラスミン (Murakami M, Towatari T, Ohuchi M, Shiota M, Akao M, Okumura Y, Parry MA, Kido H (2001) Eur. J. Biochem. 268: 2847-2855)、トリプターゼクララ (Kido H, Chen Y, Murakami M (1999) In B. Dunn (ed.), Proteases of infectious agents, p.205-217, Academic Press, New York, N.Y.)、カリクレイン、ウロキナーゼ、トロンビン (Scheiblauer H, Reinacher M, Tashiro M, Rott R (1992) J. Infec. Dis. 166: 783-791)、血液凝固因子 Xa (Gotoh B, Ogasawara T, Toyoda T, Inocencio N, Hamaguchi M, Nagai Y (1990) EMBO J. 9: 4189-4195)、アクロシン (Garten W, Bosch FX, Linder D, Rott R, Klenk HD (1981) Virology 115: 361-374)、ヒト気道洗浄で得られるプロテアーゼ (Barbey-Morel CL, Oeltmann TN, Edwards KM, Wright PF (1987) J. Infect. Dis. 155: 667-672)、Staphylococcus aureus および Pseudomonas aeruginosa の細菌プロテアーゼ(それぞれ Tashiro M, Ciborowski P, Reinacher M, Pulverer G, Klenk HD, Rott R (1987) Virology 157: 421-430 および Callan RJ, Hartmann FA, West SE, Hinshaw VS (1997) J. Virol. 71: 7539-7585) がある。宿主のセリンプロテアーゼによるインフルエンザウイルスの活性化は一般に細胞膜において、または細胞からのウイルスの遊離後に細胞外で起こるものと考えられている。
【0087】
アプロチニン(トラシロール、またはウシ膵臓トリプシン阻害剤 (BPTI) とも呼ばれる)はアミノ酸58個から成るポリペプチドで (クニッツ)Kunitz 型阻害剤に属し、トリプシン、キモトリプシン、プラスミン、血漿カリクレインなど広範囲にわたるセリンプロテアーゼを競争的に阻害する。アプロチニンは古くからヒトの医療に使用されており、たとえば膵臓炎、各種ショック症状、線溶亢進による出血、心筋梗塞などに適用されている。また心肺バイパス手術などの開心手術における血液喪失の軽減のためにも使用される (Fritz H, Wunderer G (1983) Arzneim.-Forsch. 33: 479-494)。
【0088】
ヒトに対するアプロチニンの安全性に関しては、多年にわたる臨床的使用によって十分に実証されている。更にアプロチニン固有の抗体はこれまでヒト血清中に見出されていないことから、アプロチニンは極めて弱い免疫原と考えられる (Fritz H, Wunderer G (1983) Arzneim.-Forsch. 33: 479-494)。アプロチニンが安定性に優れていることも候補薬物として好ましい特徴であり、室温で18ヶ月以上保存しても活性を失わない (Fritz H, Wunderer G (1983) Arzneim.-Forsch. 33: 479-494)。
【0089】
従来行われている動物実験では顕著なウイルス阻害性能を得るため大量のアプロチニンが投与されていた。たとえばマウスへの腹腔内投与では 280〜840 mg/日が6日間使用されている (Zhirnov OP, Ovcharenko AV, Bukrinskaya AG (1984) J. Gen. Virol. 65: 191-196)。エーロゾル吸入では所要量はこれより少ないが、それでも6日間にわたり 63〜126 mg が投与された (Ovcharenko AV, Zhirnov OP (1994) Antiviral Res. 23: 107-118)。これらのマウスのデータからの外挿によれば、ヒトに対しては極めて大量のアプロチニンを投与することが必要になる。したがってヒトに対する効率を高めるため、アプロチニン分子の効力を大きく改善する必要がある。
【0090】
アプロチニンはセリンプロテアーゼを競争的に阻害することにより機能する。セリンプロテアーゼは大部分が宿主の気道上皮細胞の表面上に存在する。したがって宿主のプロテアーゼの近傍におけるアプロチニンの局所的濃度がその相対的効力を決定する重要な要因である。気道上皮細胞表ジェン上のアプロチニンが競争上優位を占めるようにするためには2つの相補的なアプローチが用いられ、それらの相乗効果が期待できる。
【0091】
第一は、アプロチニンの抗原結合力(機能的親和力)を増加させるため、アプロチニン蛋白質2個、3個あるいはそれ以上から成る多価アプロチニン融合蛋白質を形成させることである。このような分子は膜プロテアーゼと多価的に結合し、アプロチニン単量体に比べて速度論的に極めて有利である。アプロチニン単量体はウシトリプシンと極めて強く結合し、解離定数 (Ki) は 6.0×10-14 mol/l である。しかしその親和力は、キモトリプシン、プラスミン、カリクレインなどインフルエンザウイルスの活性化に関与する他のプロテアーゼに比較すると遥かに弱く、Ki は 10-8〜10-9 mol/l の程度である (Fritz H, Wunderer G (1983) Arzneim.-Forsch. 33: 479-494)。これらのプロテアーゼに対するアプロチニンの親和力は多量化によって指数関数的に増大する。
【0092】
第二は、アプロチニンを気道上皮細胞との結合領域と融合させることである。結合領域はアプロチニンを宿主の細胞膜に結合したプロテアーゼの近傍に局在化させ、上皮細胞表面におけるアプロチニンの局所的濃度を高く保つ。結合領域はまた気道上皮細胞上の薬物の滞留時間を延長させる。
【0093】
クローニング
アプロチニンはアミノ酸残基58個、鎖内のジスルフィド結合3個を持つ単鎖ポリペプチドである (SEQ ID NO: 1)。アプロチニンのアミノ酸配列を図1に示す。アプロチニンおよびアプロチニン融合蛋白質をコードする遺伝子は、重複オリゴヌクレオチドとテンプレートとしての 大腸菌(E.Coli)における発現に関して最適化したコドンを用いた PCR により合成される。PCR 産物を pCR2.1-TOPO ベクター (Invitrogen) にクローニングし、配列決定の後、発現ベクター pQE (Qiagen) にサブクローニングする。このベクターは精製タグ Hisx6 を持ち、組み換え蛋白質を容易に精製できる。この構成物を用いて 大腸菌(E.Coli)の形質転換を行う。転換細胞を LB-アンピシリン培地で mid-log phase まで成長させ、標準プロトコルにより IPTG を用いて誘導する。細胞はペレット化し、燐酸緩衝食塩水 (PBS) に超音波溶解する。His6 精製タグを有する酵素はニッケルカラム (Qiagen) を用いて精製する。
【0094】
下記のアプロチニン融合蛋白質を作成する。
1. 二量体および三量体アプロチニン:2個または3個のアプロチニン遺伝子を下記のようなフレキシブルな結合要素で結合する。

アプロチニン−(GGGGS (SEQ ID NO: 10))n (n = 3, 4 または5)−アプロチニン;
および
アプロチニン−(GGGGS (SEQ ID NO: 10))n (n = 3, 4,または5)−アプロチニン−(GGGGS (SEQ ID NO: 10))n (n = 3, 4,または5)−アプロチニン

結合配列の長さはアプロチニン多量体の三次元的可撓性、ひいては分子の機能的親和性に影響する。このため各種の長さの結合要素を有する構成体を作成する。
【0095】
完全に機能的な組み換えアプロチニン単量体が大腸菌(E. coli)で作成されている (Auerswald EA, Horlein D, Reinhardt G, Schroder W, Schnabel E (1988) Biol. Chem. Hoppe-Seyler Vol. 369 Suppl., pp. 27-35)。したがって多価アプロチニンの本来の折り畳みが 大腸菌(E. coli)細胞中に存在するものと予想される。大腸菌(E.Coli)の一般的な株、たとえば BL21, JM83 などでの発現のほか、多価アプロチニン蛋白質は OrigamiTM 細胞 (Novagen, Bad Soden, Germany) でも発現する。Origami 細胞株はチオレドキシンおよびグルタチオンレダクターゼを持たず、したがって酸化性細胞質を有する。この細胞株を用いてジスルフィド結合を含む多くの蛋白質の発現がなされている (Bessette PH, Aslund F, Beckwith J, Georgiou G (1999) Pro. Natl. Acad. Sci. USA 96: 13703-13708; Venturi M, Seifert C, Hunte C (2001) J. Mol. Biol. 315: 1-8)。
【0096】
2. 上皮細胞結合性アプロチニン:上皮細胞結合性の配列をアプロチニンに融合させる。上皮細胞結合性の配列は、上皮細胞表面に対して親和性を有する任意のペプチドまたはポリペプチド配列である。我々は3種のヒト GAG 結合性配列、すなわち PF4 (aa 47-70; SEQ ID NO: 2)、IL-8 (aa 46-72; SE1 ID NO: 3)、AT III (aa 118-151; SEQ ID NO: 4)(図2)を選んだ。これらの配列はナノモル程度の親和力でヘパリン/ヘパラン硫酸塩に結合する(表1)。ヘパリン/ヘパラン硫酸塩は気道上皮細胞上に遍在する。これらの GAG 結合性配列はそれぞれ別の構成体において、一般式 GGGGS で示される結合要素配列を介して N 末端および C 末端のアプロチニン遺伝子と結合し、次の構成体を形成する。

(GAG 領域−GGGGS (SEQ ID NO: 10)−アプロチニン); および

(アプロチニン−GGGGS (SEQ ID NO: 10)−GAG 領域)

【表1】



【0097】
光度測定によるトリプシン阻害試験
アプロチニンおよびアプロチニン融合蛋白質のトリプシン阻害活性を既に詳細に報告されている光度測定法 (Fritz H, Wunderer G (1983) Arzneim.-Forsch. 33: 479-494) により測定した。簡単に述べれば、この試験においてアプロチニンはトリプシンにより触媒される Na-ベンゾイル-L-アルギニン-p-ニトロアニリド (BzArgpNA またはL-BAPA) (Sigma) の加水分解を阻害することが405nmの光度測定により確認された。トリプシン単位 (UBAPA) 1個は基質 1 mmol/minの加水分解に対応する。阻害剤1単位 (IUBAPA) は2個のトリプシン単位(算術的にはトリプシン 1 UBAPA の阻害剤に相当)の活性を 50% 減少させる。アプロチニンの比活性は IUBAPA/ポリペプチド mg で表現される。
【0098】
表面プラズモン共鳴試験
アプロチニン二量体および三量体と単量体との各種結合要素への親和性を比較するため、ヒトプラスミンを標的とする表面プラズモン共鳴試験または BIAcore アッセイ (BIAcore, Piscataway, NJ) を行った。同様にヘパリンを標的とする BIAcore アッセイにより GAG 結合性アプロチニン融合蛋白質とヘパリンとの親和性を検討した。
【0099】
プラスミンを標的とする試験では、精製ヒトプラスミン (Sigma) を CM5 チップに製造者 (BIAcore, Piscataway, NJ) の指定に従い固定化した。ヘパリンを標的とする場合は、既知の方法 (Xing Y, Moss B (2003) J. Virol. 77: 2623-2630) により、ビオチニル化アルブミンおよびアルブミンヘパリン (Sigma) をストレプタビジン被覆 BIAcore SA チップに捕捉した。
【0100】
実施例2:インフルエンザウイルス感染研究用の改良された組織培養モデルの確立
インフルエンザウイルス株
インフルエンザウイルス株は ATCC および聖ジュード小児研究科病院(St. Jude Children's Research Hospital )から入手した。インフルエンザウイルスを用いる実験はすべて生物安全性レベル II で実施した。
【0101】
ウイルスは既知の方法 (Zhirnov OP, Ovcharenko AV, Bukrinsukaya AG (1985) J. Gen.Virol. 66: 1633-1638) により9日齢のニワトリ胚尿膜腔に注射して増殖させるか、またはウシ血清アルブミン 0.3%、トリプシン 0.5 mg/ml を加えた最小必須培地 (MEM) 中で Madin-Darby イヌ腎臓細胞 (MDCK) 上で成長させた。48〜72時間培養の後、培地を低速遠心により清澄させ、蔗糖 25% クッションを用いた超遠心によりウイルスをペレット化した。精製したウイルスは 50% グリセロール−0.1 M トリス緩衝液 (pH 7.3) に分散させ、-20°C で保存した。
【0102】
プラーク測定
ウイルス株の感染性および力価は標準法と改良法の2種のプラーク測定法 (Tobita K, Sugiura A, Enomoto C, Furuyama M (1975) Med. Microbiol. Immunol. 162: 9-14; Ovcharenko AV, Bukrinskaya AG (1982) Arch. Virol. 71: 177-183) によって決定した。標準プラーク測定法はウイルスの力価測定に広く利用されているが、MDCK 単層への感染直後にトリプシンを含む寒天のオーバーレイが必要であり (Tobita K, Sugiura A, Enomoto C, Furuyama M (1975) Mted. Microbiol. Immunol. 162: 9-14)、これによって未開裂 HA を持つウイルス粒子がすべて活性化されるため感染性が人為的に増大する。
【0103】
Zhirnov らの考案した改良プラーク測定法では二重の寒天オーバーレイを用い、トリプシンは感染の24時間後に第二層に添加する (Zhirnov OP, Ovcharenko AV, Bukrinskaya AG (1982) Arch. Virol. 71: 177-183)。感染の3日後に細胞をホルムアルデヒド 10% 溶液で固定し、アガロース層を除去し、固定した細胞をヘマトキシリン-エオシン溶液で染色してプラークを計数する。この改良法によれば、開裂 HA と未開裂 HA を共に持つウイルス株の真の感染性を正確に決定することができる。標準法と改良法の両者による結果を比較すれば、開裂または未開裂 HA を含むウイルスを区別することができ、ウイルス株の感染性と HA の開裂状況との相関が求められる。
【0104】
ヒト細胞培養モデル
1. 初代ヒト上皮細胞の短期間培養:インフルエンザウイルスを in vitro で感染させる従来の方法は一般に培地に外生的にトリプシンを加えて MDCK 細胞中で行われるが、トリプシンは インビボ においてインフルエンザウイルスを活性化するプロテアーゼではないから、この方法は生理的条件とは程遠く、本発明の提案する作業に適していない。外生的プロテアーゼを用いずにインフルエンザウイルスの成長を支持し得るような in vitro 組織培養モデルとして提案されているものはごく少数に限られており、霊長類の腎由来細胞の初代培養、胚を有する卵の尿膜腔および羊膜腔を被覆する細胞、胎児の気管軟骨の器官培養、およびヒトアデノイド上皮細胞の初代培養があるにすぎない (Endo Y, Caroll KN, Ikizler MR, Wright PF (1996) J. Virol. 70: 2055-2058)。これらのうち最も新しいヒトアデノイド上皮細胞の初代培養がヒト体内の条件に最も近い。この場合 Endo ら (Endo Y, Caroll KN, Ikizler MR, Wright PF (1996) J. Virol. 70: 2055-2058) はヒトアデノイドの外科標本から上皮細胞を分離し、Transwell インサート (Costar, Cambridge, Mass.) 中でコラーゲンマトリックス (Vitrogen 100, Celtrix Laboratories, Palo Alto, California) 上で培養し、成長因子および微量元素を加えたハム F12 50%、Eagles 最小必須培地 50% の混合培地に維持した。細胞は10〜14日で集密状態に達し、大部分は単層をなすが、繊毛細胞から成る明瞭な区画も存在し、繊毛活動は集密状態到達後1〜3週間にわたって正常に保たれる。この系ではインフルエンザ A ウイルスは力価 106 PFU/ml まで成長し、多重感染度は 0.001 であった (Endo Y, Caroll KN, Ikizler MR, Wright PF (1996) J. Virol. 70: 2055-2058)。感染中には漸進的な細胞病理学的効果も見られた。この系の最大の欠点は新鮮なヒトアデノイド組織を必要とすることである。
【0105】
この問題を解決するため、ヒトアデノイド上皮細胞の代わりに市販のヒト気道細胞 (Cambrex) を用い、同じ条件で培養した。このヒト気道上記細胞の短時間培養は比較的早く完了し、インビボ 感染および抗ウイルス作用に関する大部分の実験において優れた実験モデルとして利用することができる。
【0106】
2. 完全分化ヒト気道上皮 (WD-HAE):ヒトの気道の インビボ 条件を最もよく模倣するものとしては完全分化ヒト気道上皮 (WD-HAE) のモデルが利用できる。WD-HAE は機能的繊毛細胞や粘液濾過細胞など正常なヒト気道上皮のすべての分化細胞を持つ層状の上皮である。したがってこのモデル系においてはインフルエンザウイルスが宿主の生理学的に有効なプロテアーゼによって活性化される可能性が高い。WD-HAE は呼吸器多核体ウイルス (RSV) (Zhang L, Peeples ME, Boucher RC, Collins PL, Picles RJ (2002) J. Virol. 76: 5654-5666)、麻疹ウイルス (Sinn PL, Williams G, Vongpunsawad S, Cattaneo R, McCray PB (2002) J. Virol. 76: 2403-2409)、ヒトライノウイルスなどによる気道の感染の研究に広く利用されているが、インフルエンザウイルスの研究に用いられた例はない。
【0107】
WD-HAE の詳細なプロトコルが最近発表された (Krunkosky TM, Fischer BM, Martin LD, Jones N, akley NJ, Adler KB (2000) Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 22: 685-692)。簡単に述べれば、市販のヒト気管支上皮細胞 (Cambrex) を、ラット尾由来コラーゲン I の薄層でコートした Transwell インサート (Costar) で培養する。最初の5〜7日は気管支上皮細胞成長培地 (BEGM) (Cambrex) と成長因子を添加したグルコース含有量の高い DMEM (Krunkosky TM, Fischer BM, Martin LD, Jones N, Akley NJ, Adler KB (2000) Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 22: 685-692) との 1:1 混合培地で液体培養し、70%が集密状態となったとき(5〜7日目)培地上部を取り除いて気液界面を作り細胞の底面のみが培地と接するようにする。培養をこの気液界面上で更に14日間継続し、合計21日間の培養の後実験に供する。分化した上皮は in vitro で数週間維持できる。
【0108】
上皮の形態および分化の程度は通常の組織学的方法で確認できる (Endo Y, Caroll KN, Ikizler MR, Wright PF (1996) J. Virol. 70: 2055-2058)。簡単に述べれば、上皮細胞を緩衝した 10% ホルマリンで固定化した後、パラフィンに包埋して切断し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、粘液分泌細胞は過沃素酸シッフ法で染色する。
【0109】
上記2つのモデル系におけるインフルエンザ感染は 0.001〜1 MOI のウイルスを分化上皮細胞に加えることで行う。上澄液中のウイルスの力価および感染力を3〜7日間追跡する。インフルエンザウイルス増幅レベルおよびウイルスの感染力は標準および改良プラーク試験により評価する。
【0110】
実施例3:アプロチニン融合蛋白質の機能の in vitro 比較試験
アプロチニン融合蛋白質の抗ウイルス効果
1. 感染前の処理:アプロチニン融合蛋白質を種々の濃度で初代ヒト培養細胞に加え、1時間インキュベートした後、新鮮な培地で洗浄し、直ちにインフルエンザウイルスを MOI 0.01〜1 で接種する。1時間後に再び洗浄した後、3〜5日間培養し、上澄液中のウイルスの力価および感染力を2種のプラーク試験法により適時測定する。ウイルス感染により引き起こされた細胞変性効果を評価するため、実験終了時に細胞をクリスタルバイオレットで染色し、570 nm での吸光度を測定する。アプロチニン融合細胞による細胞保護率は 100×[(アプロチニン処理試料 - 未処理感染試料)/(未感染対照 - 未処理感染細胞)] により計算する。薬物としての細胞保護効果は細胞の 50% が保護される有効濃度 (EC50) で示される。HA の活性化は新たに遊離されたウイルス粒子にのみ起こるから、ウイルス感染の第一ラウンドは正常に進行し、最初の24時間はウイルスの力価が増大するが、第二ラウンド以降はアプロチニン処理の結果としてウイルスの感染力が低下し、ウイルスの力価は次第に減少する。この実験の結果によれば、各種のアプロチニン融合蛋白質を1回の予防的処理の有効性によって区別することができる。
【0111】
別の方法として、最初のウイルス感染のタイミングをアプロチニン処理直後から処理後2〜24時間に変更してもよい。感染後3〜5日にわたって上記の方法でウイルスの力価、感染力、細胞変性効果を測定する。この実験の結果によれば、各種のアプロチニン融合蛋白質を1回の予防的処理の有効期間の長さによって区別することができる。
【0112】
2. 感染後の処理:多回処理では、まず MOI 0.001〜1 でのウイルス接種を1時間行い、その直後に種々の濃度のアプロチニン融合蛋白質を加え、以後接種の48時間後まで8時間ごとに追加処理を行う。培養は感染後7日目まで継続する。この過程全体を通じて培地中のウイルスの力価と感染力を追跡し、細胞変性効果は実験終了後に評価する。
【0113】
単回処理では、まず MOI 0.001〜1 でのウイルス接種を1時間行い、その後48時間にわたり種々の濃度のアプロチニン融合蛋白質で処理を行うが、1つの細胞試料は実験全体を通じて1回しか処理されない。培養は感染後7日目まで継続する。この過程全体を通じて培地中のウイルスの力価と感染力を追跡し、細胞変性効果は実験終了後に評価する。これらの実験の結果から、薬効の異なる各種のアプロチニン融合蛋白質を区別することができる。
【0114】
アプロチニン融合蛋白質による HA 開裂の阻害
アプロチニン融合蛋白質が HA 蛋白質の開裂を阻害することによりインフルエンザウイルス感染を防止することを実証するため、初代ヒト上皮細胞培養を MOI 1 でインフルエンザウイルスに感染させる。アプロチニン融合蛋白質はウイルス感染の直前または直後に培養に添加する。感染の 6.5 時間後に、コールドメチオニンを含まず 35S 標識メチオニン (Amersham) 100 mCi/ml(パルス)を含む MEM 中で培地を1時間インキュベートし、ついで細胞を 10 倍濃度のコールドメチオニンを含む MEM で2回洗浄し、更に MEM 中で3時間インキュベートする(チェース)。標識後の細胞は放射性免疫沈降試験 (RIPA) 用緩衝液に溶解し、感染に用いたウイルス株に対する抗血清で HA を沈降させ(抗インフルエンザ血清は ATCC または Center of Disease Control and Prevention から入手できる)、免疫複合体をプロテイン G セファロース (Amersham) で精製する。試料を SDS-PAGE で分画した後、オートラジオグラフィーを行う。アプロチニン融合蛋白質による処理を受けていない試料では HA の主な種類は HA1 と HA2 であると予想されるのに対して、アプロチニン処理試料では HA は主に HA0 であることが予想される。
【0115】
実施例4:5種のシアリダーゼの遺伝子の合成、シアリダーゼ蛋白質の発現と精製
序論
インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科に属する RNA ウイルスであり、A 型・B 型のいずれも、宿主細胞に由来する脂質エンベロープに包まれた8つのセグメントから成るマイナス鎖 RNA ゲノムを持つ。エンベロープを被っているスパイクは3種の蛋白質、すなわちウイルスを宿主細胞の受容体に付着させ、ウイルス膜と細胞膜の融合を媒介するヘマグルチニン (HA)、宿主細胞からのウイルスの新たな遊離を促進するノイラミニダーゼ (NA)、およびイオンチャンネルとして働く少数の M2 蛋白質から成る。インフルエンザ A ウイルスでは HA と NA のいずれも抗原シフトと抗原ドリフトを受け、HA および NA の血清学的差異によってサブタイプが区別される。HA には15種 (H1〜H15)、NA には9種 (N1〜N9) があるが、ヒトインフルエンザA ウイルスに存在することが知られているのは3種の HA (H1〜H3) と2種の NA (N1, N2) だけである (Granoff A, Webster RG, ed. Encyclopedia of Virology, 2nd Ed., Vol.2)。これに対してインフルエンザ B ウイルスには抗原サブタイプは知られていない。
【0116】
インフルエンザ B ウイルスはヒトの間を循環するのみであるが、インフルエンザ A ウイルスはブタ、ウマ、ニワトリ、アヒル、その他の鳥類など多様な動物から分離されており、このため遺伝子再集合が起こり抗原のシフトが生ずる。哺乳類および鳥類に感染するすべてのインフルエンザウイルスの起源は野生水鳥にあると考えられ、水鳥相互間およびブタ、ウマを含む他の種へのウイルスの移動、更にはブタを介してのヒトへの間接的な移動の証拠は豊富に存在する。ブタまたはニワトリからヒトへの直接の感染も立証されている (Ito T (2000) Microbiol. Immlunol. 44(6): 423-430)。
【0117】
宿主細胞のインフルエンザウイルス受容体は細胞表面のシアル酸である。シアル酸は炭素原子9個の骨格を持つ α-ケト酸で、通常は糖蛋白や糖脂質に付着しているオリゴ糖鎖の外側末端に位置する。シアル酸の重要な種類の1つは N-アセチルノイラミン酸 (Neu5Ac) で、他の種類の大部分の生合成における前駆体である。Neu5Ac と炭化水素側鎖の末端から2番目のガラクトース残基との結合で天然界に存在するものとしては Neu5Ac a(2,3)-Gal と Neu5Ac a(2,6)-Gal が重要である。Neu5Ac a(2,3)-Gal も Neu5Ac a(2,6)-Gal もインフルエンザ A ウイルスにより受容体として認識されるが (Sauer R (1982) Adv. Carbohydrate Chem & Biochem. 40: 131-235)、ヒトウイルスは Neu5Ac a(2,6)-Gal を好むのに対して、鳥およびウマのウイルスは主として Neu5Ac a(2,3)-Gal を認識する (Ito T (2000) Microbiol. Immunomol. 44 (6): 423-430)。
【0118】
インフルエンザ A および B ウイルスによる感染は、気道上部の粘膜面に始まるのが典型的である。ウイルスの複製は当初は気道上部でのみ起こるが、気道下部へ拡大することもある。その結果起こる気管支肺炎は致命的となる場合もあり、致死率は感染1万件につき1件程度であるが、大流行期においては心肺の既往症を持つハイリスクグループや免疫を持たない者ではこれより遥かに高くなる。
【0119】
Neu5Ac a(2,3)-Gal と Neu5Ac a(2,6)-Gal のいずれの受容体シアル酸をも分解し得るシアリダーゼを含む薬物は、動物ウイルスをも含めた広範囲のインフルエンザウイルスに対する保護力を有し、またウイルス株が毎年変化しても有効である。シアリダーゼはウイルスではなく細胞を標的とするものであり、ウイルスの生活環における1つの関門に作用するのであるから、耐性ウイルスが発生する可能性はほとんどない。蛋白質と結合したシアル酸は細胞表面で半減期 33 時間で均一に代謝回転する (Kreisel W, Volk BA, Buchsel R, Reutter W (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 1828-1831)。したがってシアリダーゼを1日1〜2回投与すればインフルエンザに対して十分な予防効果が得られるものと推定される。
【0120】
シアリダーゼは高等真核生物のみならずウイルス、細菌、原生動物など多くは病原性の微生物にも見出される。ウイルスおよび細菌のシアリダーゼの特徴はよく知られており、三次元構造が決定されたものもある (Crennell SJ, Garman E, Laver G, Vimr E, Taylor G (1994) Stricture 2: 535-544; Janakiraman MN, White CL, Laver WG, Air GM, Luo M (1994) Biochemistry 33: 8172-8179; Pshezhetsky A, Richard C, Michaud L, Igdoura S, Wang S, Elslikger M, Qu J, Leclerc D, Gravel R, Dallaire L, Potier M (1997) Nature Genet. 15: 316-320)。最近ではヒトシアリダーゼ数種のクローニングも行われている (Milner CM, Smith SV, Carrillo MB, Taylor GL, Hollinshead M, Campbell RD (1997) J. Bio. Chem. 272: 4549-4558; Monti E, Preti A, Nesti C, Ballabio A, Borsani G (1999) Glycobiol. 9: 1313-1321; Wada T, Yoshikawa Y, Tokuyama S, Kuwabara M, Akita H, Miyagi T (1999) Biochem. Biophys. Res. Communi. 261: 21-27; Monti E, Bassi MT, Papini N, Riboni M, Manzoni M, Veneranodo B, Croci G, Preti A, Ballabio A, Tettamanti G, Borsani G (2000) Biochem. J. 349: 343-351)。キャラクタリゼーションのなされているシアリダーゼはすべてアミノ末端部分に4つのアミノ酸モチーフを有し、これに続いて3〜5回繰り返される Asp ボックスモチーフを有する (Monti E, Bassi MT, Papini N, Riboni M, Manzoni M, Veneranodo B, Croci G, Preti A, Ballabio A, Tettamanti G, Borsani G (2000) Biochem. J. 349: 343-351; Copley RR, Russell RB, Ponting CP (2001) Protein Sci. 10: 285-292)。シアリダーゼ類全体としてのアミノ酸の同一性は比較的低く 20〜30% にとどまるが、分子、特に触媒的アミノ酸のフォールドは酷似している (Wada T, Yoshikawa Y, Tokuyama S, Kuwabara M, Akita H, Miyagi T (1999) Biochem. Biophys. Res. Communi. 261: 21-27; Monti E, Bassi MT, Papini N, Riboni M, Manzoni M, Veneranodo B, Croci G, Preti A, Ballabio A, Tettamanti G, Borsani G (2000) Biochem. J. 349: 343-351; Copley RR, Russell RB, Ponting CP (2001) Protein Sci. 10: 285-292)。
【0121】
シアリダーゼ類は一般的に2つの類に分けることができる。「小型シアリダーゼ」は分子量 42 kDa 程度で、活性最大化のために2価金属イオンを必要としない。「大型シアリダーゼ」は分子量 65 kDa 以上で、活性化のために2価金属イオンを必要とするものがある (Wada T, Yoshikawa Y, Tokuyama S, Kuwabara M, Akita H, Miyagi T (1999) Biochem. Biophys. Res. Communi. 261: 21-27; Monti E, Bassi MT, Papini N, Riboni M, Manzoni M, Veneranodo B, Croci G, Preti A, Ballabio A, Tettamanti G, Borsani G (2000) Biochem. J. 349: 343-351; Copley RR, Russell RB, Ponting CP (2001) Protein Sci. 10: 285-292)。
【0122】
シアリダーゼの蛋白質としては15種以上が精製されており、それらの基質特異性や酵素作用の速度論は相互に大きく異なっている。シアリダーゼが各種インフルエンザウイルスに対する広域的な保護能力を持つためには、a(2,6)-Gal, a(2,3)-Gal のいずれの結合のシアル酸も、糖蛋白質およびある種の糖脂質の両環境にわたって効果的に分解できるものでなければならない。インフルエンザ A ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、ニューカッスル病ウイルスなどのシアリダーゼは一般に Neu5Ac a(2,3)-Gal に特異的に作用し、Neu5Ac a(2,3)-Gal の分解効率は極めて低い。細菌の小型シアリダーゼは一般に糖蛋白質や糖脂質に結合しているシアル酸との反応性が低い。これに対して細菌の大型シアリダーゼは大部分の天然環境において a(2,6) 結合、a(2,3) 結合のいずれのシアル酸も開裂させることができる(図4、Vimr DR (1994) Trends Microbiol. 2: 271-277; Drzeniek R (1973) Histochem. J. 5: 271-290; Roggentin P, Kleineidam RG, Schauer R (1995) Biol. Chem. Hoppe-Seyler 376: 569-575; Roggentin P, Schauer R, Hoyer LL, Vimr ER (1993) Mol. Microb. 9: 915-921)。このように基質特異性の幅が広いことから、大型シアリダーゼの方が有力な候補物質となる。
【0123】
図4に示した、基質特異性が既知の細菌性大型シアリダーゼのうち、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae) のシアリダーゼは活性化に Ca2+ を必要とするため好ましくない。好ましいシアリダーゼとしてはクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens) 由来の 71 kDa の酵素、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)由来の 113 kDa の酵素、アースロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens) のシアリダーゼである。第三のシアリダーゼである ミクロモノスポラ・ビリディファシエンス(Micromonospora viridifaciens)由来の 68 kDa の酵素はインフルエンザウイルス受容体を破壊することが知られており (Air GM, Laver WG (1995) Virology 211: 278-284)、したがってこれも候補物質となる。
【0124】
これらの酵素は比活性が高く(C. perfringens に対して 600 U/蛋白質 mg (Corfield AP, Veh RW, Wember M, Michalski JC, Schauer R (1981) Biochem. J. 197: 293-299)、A. viscosus に対して 680 U/蛋白質 mg (Teufel M, Roggentin P, Schauer R (1989) Biol. Chem. Hoppe-Seyler 370: 435-443))、2価金属イオンの存在なく十分に活性化し、大腸菌(E.Coli)の組み替え蛋白質として精製されている (Roggentin P, Kleineidam RG, Schauer R (1995) Biol. Chem. Hoppe-Seyler 376: 569-575; Teufel M, Roggentin P, Schauer R (1989) Biol. Chem. Hoppe-Seyler 370: 435-443; Sakurada K, Ohta T, Hasegawa M (1992) J. Bacteriol. 174: 68896-6903)。さらに C. prefringens は 2〜8°C の溶液中で数週間安定であり、アルブミン存在下では 4°C で2年以上安定である (Wang FZ, Akula SM, Pramod NP, Zeng L, Chandran B (2001) J. Virol. 75: 7517-27)。A. viscosus は凍結・融解に際して不安定であるが、pH 5 の 0.1 M 酢酸緩衝液中では 4°C で安定である (Teufel M, Roggentin P, Schauer R (1989) Biol. Chem. Hoppe-Seyler 370: 435-443)。
【0125】
蛋白質の投与は気道上部に局所的に行われ、全身的に吸収されることはないので、細菌性シアリダーゼが免疫反応を引き起こす可能性は極めて低いが、ヒトに対して長期間使用するにはヒト由来酵素の方が一層好ましいであろう。
【0126】
ヒト由来のシアリダーゼ遺伝子としてはこれまでに4種がクローニングされている。すなわち NEU1/G9/リソゾームシアリダーゼ (Pshezhetsky A, Richard C, Michaud L, Igdoura S, Wang S, Elsliger M, Qu J, Leclerc D, Gravel R, Dallaire L, Potier M (1997) Mature Genet. 15: 316-320; Milner CM, Smith SV, Carillo MB, Taylor GL, Hollinhead M, Campbell RD (1997) J. Bio. Chem. 272: 4549-4558)、ヒト脳から分離された形質膜局在シアリダーゼ NEU3 (Wada T, Yoshikawa Y, Tokuyama S, Kuwabara M, Akita H, Miyagi T (1999) Biochem. Biophy. Res. Communi. 261: 21-27; Monti E, Bassi MT, Papini N, Riboni M, Manzoni M, Veneranodo B, Croci G, Preti A, Ballabio A, Tettamanti G, Borsani G (2000) Biochem. J. 349: 343-351)、ヒト骨膜に微少量発現する 42 kDa のシアリダーゼ NEU2 (Monti E, Preti A, Nest C, Ballabio A, Borsani G (1999) Glycobiol. 9: 13413-1321)、および検討された限りのすべてのヒト組織で発現するアミノ酸497個から成る蛋白質 NEU4 (Genebank NM080741) (Monti E, Preti A, Venerando B, Borsani G (2002) Neurochem. Res. 646-663) である。
【0127】
アミノ酸配列の比較によれば、NEU2 (SEQ ID NO: 8) と NEU4 (SEQ ID NO: 9) は共に細胞質ゾルのシアリダーゼであり、ネズミチフス菌(S. typhimurium)のシアリダーゼの触媒部位を構成する12個のアミノ酸のうち9個を保存している (Monti E, Preti A, Nesti C, Ballabio A, Borsani G (1999) Glycobiol. 9: 1313-1321, 図3)。さらに NEU4 は既知の哺乳類由来シアリダーゼには類例のないアミノ酸残基約80個の配列 (294〜373) を有する (Monti E, Preti A, Venerando B, Borsani G (2002) Neurochem. Res. 27: 646-663)。NEU2 と NEU4 は細菌性大型シアリダーゼの一部と異なり基質特異性が知られておらず、インフルエンザウイルス受容体を有効に破壊できるかどうかの試験が必要である。
【0128】
シアリダーゼ試験
NEU2, NEU4, M. viridifaciens 酵素は PBS および 50% グリコール中 -20℃ で保存する。C. perfringens および A. viscosus 酵素は 10 mM 酢酸緩衝液 (pH 5) 中 4℃ で保存する。蛋白質調剤のキャラクタリゼーションは HPLC および SDS-PAGE 電気泳動で行う。酵素の比活性および安定性はシアリダーゼ試験により追跡する。
【0129】
シアリダーゼの酵素活性は蛍光測定用の 2'-(4-メチルウンベリフェリル)-a-D-N-アセチルノイラミン酸 (4MU-NANA) (Sigma) を基質として測定する。具体的には、0.1 M クエン酸/燐酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.6) 中、ウシ血清アルブミン 400 mg および 4MU-NANA 0.2 mM の存在下で最終容積 100 mL の反応系を2つ設定し、37°C で5〜10分インキュベートし、グリセリン/NaOH 0.2 M (pH 10.2) を加えて反応を停止させた後、蛍光光度計を用いて励起波長 365 nm、発光波長 445 nm で測定する。検量線は 4-メチルウンベリフェロン (4-MU) を用いて作成する。
【0130】
実施例5:In vitro でのシアリダーゼの機能比較と1種の選出
1. インフルエンザウイルス株
インフルエンザウイルス株は ATCC および 聖ジュード小児研究科病院(St. Jude Children's Research Hospital)のレポジトリから入手し、ウシ血清アルブミン 0.3%、トリプシン 0.5 mg/mL を加えた最小必須培地 (MEM) 中で Madin-Darby イヌ腎臓細胞(MDCK 細胞)上で培養する。48〜72時間のインキュベーションの後、低速遠心で培地を清澄させ、蔗糖 25% クッションを用いた超遠心によりウイルス粒子をペレット化する。精製したウイルスは 50% グリセロール−0.1 M トリス緩衝液 (pH 7.3) に懸濁させ、-20°C で保存する。ウイルスの力価はプラーク試験 (Tobita K, Sugiura A, Enomoto C, Furuyama M (1975) Med. Microbiol. Immunol. 162: 9-14)、または TCID50(MDCK 細胞の50%を感染させるに必要なウイルスの量)で評価する。
【0131】
ヒトおよび動物インフルエンザ A ウイルスのうち、Neu5Ac a(2,6)-Gal または Neu5Ac a(2,3)-Gal に特異性を持ち、受容体への親和性(血液凝固活性の高さで評価する)の高いものを in vitro 試験用として選ぶ。すなわち
1. Neu5Ac a(2,6)-Gal 受容体を認識する株としては、ヒトから分離された A/aichi/2/68, A/Udorn/307/72, A/Prot Chaimers/1/73, A/Victoria/3/75 などがある (Connnor RJ, Kawaoka Y, Webster RG, Paulson JC (1994) Virology 205: 17-23)。
2. Neu5Ac a(2,3)-Gal に特異性を有する株としては、動物から分離された A/duckUkraine/1/63, A/duckMemphis/928/74, A/Eq/Prague/71 などがある(Connnor RJ, Kawaoka Y, Webster RG, Paulson JC (1994) Virology 205: 17-23)。
【0132】
2. 血液凝固試験
この試験は各酵素による Neu5Ac a(2,6)-Gal および Neu5Ac a(2,3)-Gal 受容体の破壊の効率を迅速に判定するために行う。
【0133】
具体的には、ニワトリ赤血球 (SPAFAS Inc., Norwich, CT) 6 ml を2倍量の PBS で希釈し、500 x g で5分間遠心した後、原容積の PBS に再懸濁させ、種々の濃度のシアリダーゼを加えて室温で30分インキュベートする。ついで細胞を3回洗浄してシアリダーゼ蛋白質を除去し、PBS に再懸濁させて 6 ml とする。対照細胞は BSA で培養し洗浄する。マイクロタイタープレートを用いて、Neu5Ac a(2,6)-Gal または Neu5Ac a(2,3)-Gal を受容体として認識する上記の各種インフルエンザウイルスを PBS で順次希釈した液 (100 ml) を調製する。シアリダーゼ処理したニワトリ赤血球または対照試料の懸濁液(上記 0.5% 溶液 100 ml) を各ウェルに 4℃で加え、2時間後にプレートの読み取りを行い、赤血球を凝固させるウイルスの最小濃度を1凝血単位と定義する。この方法により、すべてのウイルスによる凝血を有効に阻止する酵素を探索する。
【0134】
3. ウイルス阻害試験
MDCK 細胞の集密単層を種々の濃度のシアリダーゼで1時間処理し、緩衝液で2回洗浄した後各種インフルエンザウイルスに感染させる。1時間のインキュベーションの後、細胞を再度洗浄して未結合のウイルスを除去する。細胞表面上のウイルス結合部位の減少を評価するため細胞に寒天層を被覆し、37°C でインキュベートし、シアリダーゼ処理細胞と対照細胞のプラーク数を比較する。あるいは別法として、細胞を通常の培地で 37°C で培養し、培養中数回にわたり培地のウイルス力価を TCID50 として測定する。
【0135】
シアリダーゼ処理が既に起こった感染を阻止し得ることを示すため、MDCK 細胞単層をまず低力価のウイルスに感染させ、未結合ウイルスを洗浄により除いた後、シアリダーゼ存在下で培養する。24時間ごとに新鮮なシアリダーゼを添加し、72時間にわたって培地のウイルス力価を追跡する。
【0136】
4. 細胞毒性試験
初代のヒト気管支上皮細胞(Cloneticsより購入)を製造者の指定に従い添加剤を加えて最小培地で培養する。シアリダーゼを種々の濃度で培地に添加し、7〜10日間にわたり細胞の成長を測定する。顕微鏡的細胞変性効果についても定期的に観察する。
【0137】
実施例6:シアリダーゼ融合蛋白質の構成と試験
1. 結合領域としての GAG 結合性配列の選択
抗ウイルス活性、毒性、安定性、製造の容易さなどの性質を総合的に見て最も優れたシアリダーゼを選択し、遺伝子工学的に GAG 結合性配列を結合させ、融合遺伝子を pQE ベクターにサブクローニングし、大腸菌(E.Coli)で融合蛋白質を発現させ精製する。
【0138】
ヒト GAG 結合性配列としては、PF4 (aa 47-70) (SEQ ID NO: 2), IL-8 (aa 46-72) (SEQ ID NO: 3), AT III (aa 118-151) (SEQ ID NO: 4), ApoE (aa 132-165) (SEQ ID NO: 5), アンフィレグリン (aa 22-45) (SEQ ID NO: 6), ヒト血管関連移動細胞蛋白質 (AAMP) (SEQ ID NO: 7) の6種(図2)を選択した。これらの配列は一般にナノモルレベルの親和力でヘパリンと結合するが、親和力は1桁程度の範囲で相互に異なる(表1)。いずれの結合領域がシアリダーゼの機能にとって最も効果的であるかは未知なので、4種の GAG 結合領域すべてをシアリダーゼ遺伝子の N 末端または C 末端に、一般的結合要素配列 GGGGS を介して融合させ、下記の構成体を得る。

(GAG 結合性領域 − GGGGS (SEQ ID NO: 10) − シアリダーゼ);または

(シアリダーゼ − GGGGS (SEQ ID NO: 10) − GAG 結合性領域)

【0139】
各融合蛋白質を変形ウイルス阻害試験法で比較する。具体的には MDCK 細胞の集密単層を等量の各融合蛋白質で一定時間、たとえば30分間処理し、緩衝液で2回洗浄して未結合のシアリダーゼ融合蛋白質を除去した後培地で更に1時間インキュベートする。ついで各種のインフルエンザウイルス株を加え、1時間後に再度細胞を洗浄して未結合ウイルスを除去する。培養中の72時間にわたって培地のウイルス力価を TCID50 として追跡する。この試験では融合していないシアリダーゼ蛋白質を融合蛋白質と比較する。結果の数値が近く、すべての融合蛋白質の順位付けが困難な場合には処理ウィンドウの短縮、蛋白質濃度の低減、ウイルスのチャレンジレベルの増加などにより試験条件をより苛酷にする。
【0140】
2. 融合蛋白質構成体の最適化
以上の実験により最良の融合蛋白質を選択した後、結合要素の長さを種々に変えて試験し、構成体を更に最適化する。この目的のために下記の構成体を作成する。

(シアリダーゼ − (GGGGS (SEQ ID NO: 10))n (n = 0, 1, 2, 3または4) − GAG 結合性領域)

蛋白質は発現・精製の後、前記のように変形ウイルス阻害試験法により比較する。
【0141】
更に、これまでのデータで融合蛋白質のヘパラン硫酸塩への親和力が高いほど効力が大きいことが示されたならば、GAG 結合の神話利欲を高めることで効力を更に増大させる可能性についても試験する予定である。このためには下記のような構成体をにより、多価の GAG 結合性領域を持つ融合蛋白質を実現する。

(シアリダーゼ − (GGGGS (SEQ ID NO: 10))n− HS 結合性領域 − GAG 結合性領域);
または:
(GAG 結合性領域 − (GGGGS (SEQ ID NO: 10))n − シアリダーゼ − (GGGGS (SEQ ID NO: 10))n − GAG 結合性領域)

精製した融合蛋白質は、前記のように変形ウイルス阻害試験法により比較する。
【0142】
3. 細胞毒性試験
正常細胞の成長と形態に対する融合蛋白質の影響を追跡するため、初代ヒト気管支上皮細胞を種々の濃度の融合蛋白質と共に培養し、成長曲線を追跡するとともに顕微鏡的な細胞変性効果を観察する。
【0143】
実施例7:他の感染性微生物に対する融合蛋白質の効果
機能領域と結合領域から成る融合蛋白質は、その他多くの目的のために設計することができる。インフルエンザウイルス以外にも細胞受容体としてシアル酸を利用することが知られている感染性微生物は多く知られており(たとえばパラミクソウイルス類 (Wassilevba L (1977) Arch. Virol. 54: 299-305)、コロナウイルス類 (Vlasak R, Luytjes W, Spann W, Palese P (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 4526-4529)、ロタウイルス類 (Fukudome K, Yoshie O, Konno T (1989) Virology 172: 196-205)、Pseudomonas aerginosa (Ramphal R, Pyle M (1983) Infect. Immun. 41: 339-44) など)、本発明において提案するシアリダーゼ融合蛋白質をそれらによる感染の治療ないし予防に利用することができる。たとえばヘパリン結合性領域を融合したアプロチニンから、インフルエンザウイルス以外にも活性化のために宿主のセリンプロテアーゼを必要とする他のウイルス、たとえばパラインフルエンザウイルスによる感染の予防ないし治療に使用できる融合蛋白質を得ることができる。
【0144】
文献
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【0145】
本出願(文献表、付帯文書を含む)において引用した特許、Genbank 配列データベースの項目(核酸およびアミノ酸配列、付随情報を含む)、学術論文等の資料はすべて、それらを個別に引用した場合と同等の目的をもって、参照のためにここに記載したものである。
【0146】
見出しはすべて読者の便宜のためのものであり、特に断らない限り見出し以下の本文の意味を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】図1はアプロチニンの一次アミノ酸構造の模式図である。
【図2】図2は4つのヒト遺伝子、すなわち PF4(ヒト血小板因子)、IL8(ヒトインターロイキン8)、AT III(ヒトアンチトロンビン III)、ApoE(ヒトアポリポ蛋白質 E)、AAMP(ヒト血管関連移動細胞蛋白質)の GAG 結合性配列を示すものである。
【図3】図3はヒトシアリダーゼ NEU2 および NEU4 の配列の比較である。
【図4】図4は細菌および真菌シアリダーゼの基質特異性を比較した表である。
【配列表】







【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドまたは蛋白質を含み、標的細胞の病原体への感染を防止し得る少なくとも1つの細胞外活性部位を有する、少なくとも1つの薬効領域と、
ペプチドまたは蛋白質を含み、真核細胞の表面またはその近傍に結合し得る、少なくとも1つの結合領域
とを含む化合物を含む、病原体による感染を防止または治療するための蛋白質系組成物。
【請求項2】
前記結合領域が上皮細胞または内皮細胞の表面またはその近傍に結合し得ることを特徴とする請求項 1 の組成物。
【請求項3】
前記結合領域が上皮細胞の表面またはその近傍に結合し得ることを特徴とする請求項 2 の組成物。
【請求項4】
前記結合領域が上皮細胞の表面分子に結合し得ることを特徴とする請求項 3 の組成物。
【請求項5】
前記上皮細胞の表面分子がグリコサミノグリカンであることを特徴とする請求項 4 の組成物。
【請求項6】
前記結合領域がヘパリンまたはヘパラン硫酸塩に結合し得ることを特徴とする請求項 5 の組成物。
【請求項7】
前記結合領域がペプチドであることを特徴とする請求項 6 の組成物。
【請求項8】
前記ペプチドが天然に存在する GAG 結合性アミノ酸配列、または天然に存在する GAG 結合性配列と実質的に相同なアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項 7 の組成物。
【請求項9】
前記ペプチドが哺乳類蛋白質の GAG 結合性アミノ酸配列を有することを特徴とする請求項 8 の組成物。
【請求項10】
前記ペプチドがヒト蛋白質の GAG 結合性アミノ酸配列を有することを特徴とする請求項 9 の組成物。
【請求項11】
前記ペプチドが SEQ ID NO: 2, SEQ ID NO: 3, SEQ ID NO: 4, SEQ ID NO: 5, SEQ ID NO: 6, SEQ ID NO 7 のいずれかに実質的に相同なアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項 10 の組成物。
【請求項12】
前記ペプチドがヒト血小板因子 4 (SEQ ID NO: 2)、ヒトインターロイキン 8 (SEQ ID NO: 3)、ヒトアンチトロンビン III (SEQ ID NO: 4)、ヒトアポ蛋白質 E (SEQ ID NO: 5)、ヒト血管関連移動細胞蛋白質 (SEQ ID NO: 6)、ヒトアンフィレグリン (SEQ ID NO: 7) のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項 11 の組成物。
【請求項13】
前記病原体がウイルスであることを特徴とする請求項 1 の組成物。
【請求項14】
前記ウイルスがインフルエンザウイルスであることを特徴とする請求項 13 の組成物。
【請求項15】
前記インフルエンザウイルスがインフルエンザ A またはインフルエンザ B ウイルスであることを特徴とする請求項 14 の組成物。
【請求項16】
前記少なくとも1つの薬効領域がプロテアーゼ阻害剤を含むことを特徴とする請求項 13 の組成物。
【請求項17】
前記プロテアーゼ阻害剤が、ウイルス蛋白質の反応に関与する酵素を阻害することを特徴とする請求項 16 の組成物。
【請求項18】
前記ウイルス蛋白質の反応に関与する酵素が宿主の酵素であることを特徴とする請求項 17 の組成物。
【請求項19】
前記プロテアーゼ阻害剤がセリンプロテアーゼ阻害剤であることを特徴とする請求項 18 の組成物。
【請求項20】
前記プロテアーゼ阻害剤がアプロチニン、ロイペプチン、大豆プロテアーゼ阻害剤、e-アミノカプロン酸、n-p-トシル-L-リシンのいずれかであることを特徴とする請求項 19 の組成物。
【請求項21】
前記プロテアーゼ阻害剤がアプロチニンであることを特徴とする請求項 20 の組成物。
【請求項22】
前記薬効領域が酵素またはその活性部位であることを特徴とする請求項 1 の組成物。
【請求項23】
前記薬効領域がシアリダーゼであることを特徴とする請求項 22 の組成物。
【請求項24】
前記シアリダーゼが、少なくとも1種のウイルスシアリダーゼ、少なくとも1種の細菌シアリダーゼ、または少なくとも1種の真核シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 20の組成物。
【請求項25】
前記シアリダーゼが、少なくとも1種の細菌シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 24 の組成物。
【請求項26】
前記シアリダーゼが、シアル酸の α 2-6 結合および α 2-3 結合を開裂させ得る細菌シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 25の組成物。
【請求項27】
前記シアリダーゼが、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)シアリダーゼ、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)シアリダーゼ、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)シアリダーゼ、または、ミクロモノスポラ・ビリディファシエンス(Micromonospora viridifaciens) シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 26 の組成物。
【請求項28】
前記シアリダーゼが、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)シアリダーゼ、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)シアリダーゼ、または、ミクロモノスポラ・ビリディファシエンス(Micromonospora viridifaciens)シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 27 の組成物。
【請求項29】
前記シアリダーゼが、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)シアリダーゼ、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)シアリダーゼ、または、ミクロモノスポラ・ビリディファシエンス(Micromonospora viridifaciens)シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 28 の組成物。
【請求項30】
前記シアリダーゼが、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)シアリダーゼ、アクチノマイセス・ビスコーサス(Actinomyces viscosus)シアリダーゼ、または、ミクロモノスポラ・ビリディファシエンス(Micromonospora viridifaciens)シアリダーゼの配列の少なくとも一部を含むことを特徴とする請求項 29 の組成物。
【請求項31】
前記シアリダーゼが少なくとも1種の真核シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 24 の組成物。
【請求項32】
前記シアリダーゼが少なくとも1種のヒトシアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 31 の組成物。
【請求項33】
前記シアリダーゼが NEU1, NEU3, NEU2, NEU4 のいずれかの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 32 の組成物。
【請求項34】
前記シアリダーゼが NEU2 (SEQ ID NO: 8) または NEU4 (SEQ ID NO: 9) のいずれかの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 33 の組成物。
【請求項35】
前記少なくとも1つの結合領域と前記少なくとも1つの薬効領域を結合する少なくとも1つのペプチド結合要素を更に含むことを特徴とする請求項 1 の組成物。
【請求項36】
前記少なくとも1つのペプチド結合要素が1〜100個のアミノ酸を含むことを特徴とする請求項 35 の組成物。
【請求項37】
前記少なくとも1つのペプチド結合要素が少なくとも1つのグリセリン残基を含むことを特徴とする請求項 36 の組成物。
【請求項38】
前記少なくとも1つのペプチド結合要素が配列 (GGGGS)n(n は 1〜20 の整数)を含むことを特徴とする請求項 37 の組成物。
【請求項39】
前記少なくとも1つのペプチド結合要素が配列 (GGGGS)n(n は 1〜12 の整数)を含むことを特徴とする請求項 38 の組成物。
【請求項40】
少なくとも1つの結合領域が1つの結合領域であることを特徴とする請求項 1 の組成物。
【請求項41】
前記結合領域が前記少なくとも1つの薬効領域に対して N 末端で隣接することを特徴とする請求項 40 の組成物。
【請求項42】
前記結合領域が前記少なくとも1つの薬効領域に対して C 末端で隣接することを特徴とする請求項 40 の組成物。
【請求項43】
少なくとも1つの結合領域が少なくとも2つの結合領域であることを特徴とする請求項 1 の組成物。
【請求項44】
前記少なくとも2つの結合領域のうち少なくとも1つが前記少なくとも1つの薬効領域に対して N 末端で隣接し、前記少なくとも2つの結合領域のうち少なくとも1つが前記少なくとも1つの薬効領域に対して C 末端で隣接することを特徴とする請求項 43 の組成物。
【請求項45】
前記少なくとも2つの結合領域と前記少なくとも1つの薬効領域がペプチド結合要素によって接続されていることを特徴とする請求項 45 の組成物。
【請求項46】
少なくとも1つの薬効領域が少なくとも2つの薬効領域であることを特徴とする請求項 1 の組成物。
【請求項47】
請求項 1 の組成物を含むことを特徴とする医薬品製剤。
【請求項48】
噴霧剤として調製したことを特徴とする請求項 47 の医薬品製剤。
【請求項49】
吸入剤として調製したことを特徴とする請求項 47 の医薬品製剤。
【請求項50】
治療上有効な量の請求項 1 の組成物を治療対象の上皮細胞に適用することを含むことを特徴とするインフルエンザ感染の治療または予防方法。
【請求項51】
前記適用を点鼻用噴霧剤により行うことを特徴とする請求項 50 の方法。
【請求項52】
前記適用を吸入器により行うことを特徴とする請求項 50 の方法。
【請求項53】
前記適用を1日に1〜4回行うことを特徴とする請求項 52 の方法。
【請求項54】
少なくとも1種のシアリダーゼを含む組成物を用い、治療上有効な量の同組成物を治療対象の上皮細胞に適用することを含むことを特徴とする病原体感染の予防または阻止にシアリダーゼを使用する方法。
【請求項55】
前記シアリダーゼが、少なくとも1種のウイルスシアリダーゼ、少なくとも1種の細菌シアリダーゼ、または少なくとも1種の真核シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 54 の方法。
【請求項56】
前記シアリダーゼが少なくとも1種の真核シアリダーゼの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 55 の組成物。
【請求項57】
前記治療対象がヒトであり、前記シアリダーゼが少なくとも1種のヒトシアリダーゼの少なくとも一部と実質的に相同であることを特徴とする請求項 56 の組成物。
【請求項58】
前記シアリダーゼが NEU2 (SEQ ID NO: 8) または NEU4 (SEQ ID NO: 9) のいずれかの少なくとも一部に実質的に相同であることを特徴とする請求項 57 の組成物。
【請求項59】
前記適用を点鼻用噴霧剤により行うことを特徴とする請求項 54 の方法。
【請求項60】
前記適用を吸入器により行うことを特徴とする請求項 54 の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−508193(P2006−508193A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−510377(P2005−510377)
【出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2003/037158
【国際公開番号】WO2004/047735
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(505171953)
【出願人】(505171986)
【Fターム(参考)】