説明

広帯域発振回路

【課題】LC型VCOの出力する発振信号の周波数帯域が比較的狭くても、連続した周波数の発振信号(分周信号)の出力が可能な広帯域発振回路の実現。
【解決手段】発振信号を出力する発振器11と、発振器の出力する発振信号を受け、フィルタリングして注入同期信号NINJを出力するフィルタ14と、自己発振動作を行い、注入同期信号により発振動作が規制されて発振信号の分周信号を出力し、制御信号VbDに応じて分周比が変化する注入同期型周波数分周器12と、を備え、フィルタ14は、分周信号に同期したフィルタ制御信号に応じて、発振信号を通過させる通過特性を時間的に制御して注入同期信号NINJを発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い範囲で周波数が可変な発振信号を出力する広帯域発振回路に関し、特に発振回路およびその出力を分周する分周回路を有する広帯域発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
発振周波数を可変設定可能な発振回路として、例えばLC型の電圧制御発振器が従来から各種開発されている。LC型の電圧制御発振器は、制御電圧により容量の容量値を可変設定して、その可変設定された容量値に応じて発振回路を構成するスイッチング素子の発振状態、すなわち発振周波数を制御する。
【0003】
LC型の電圧制御発振器は、一定の周波数範囲内では発振信号の周波数精度が比較的高く、例えば受信周波数や送信周波数を連続的に変化させる必要のある通信装置に設ける発振器として広く普及している。
【0004】
近年、無線通信に利用される周波数帯域として、数GHzといった非常に高い周波数帯域まで利用されるようになってきている。例えば、携帯電話端末として普及している無線通信端末では、1台の端末で、数百MHzから数GHzまでの広い周波数帯域で無線通信を行うようにしたものが存在する。
【0005】
ところが、従来から通信機などに内蔵されているLC型の電圧制御発振器単体では、そのような広い周波数範囲の発振が困難であったり、無理に発振周波数範囲を広げようとすると、発振信号の雑音特性が劣化するという問題があった。このため、従来は例えば発振周波数範囲が異なる複数のLC型発振回路を設けて、広帯域の通信に対処していた。
【0006】
このような複数の発振回路を備える構成は、回路規模が大きく高コストであるだけでなく消費電力が大きいため好ましくない。広帯域の発振回路であれば1つ設けるだけでよく、回路規模が小さく低コストになると共に、通信装置の消費電力も低減することが可能であるため、広帯域で雑音特性の良好化な高品質の発振回路が要望されている。
【0007】
そこで、電圧制御発振器の発振出力を、複数の分周器で分周し、その複数の分周器の出力を混合して、発振周波数範囲を広げた発振回路が提案されている。ところが、複数の分周器の出力を混合する回路構成では、混合器での混合時に不要帯域にも信号が発生する、いわゆるスプリアスが発生するという問題があり、実用上の大きな問題になっていた。また、無線通信には4相の発振出力が必要であるが、混合器を備える構成では、4相出力を得るのが難しかった。
【0008】
上記のような問題を解決するため、特許文献1は、狭帯域ではあるが低位相雑音のLC型電圧制御発振器(VCO)と、注入同期型周波数分周器(ILFD)を組み合わせた広帯域電圧制御発振回路を記載している。
【0009】
図1は、特許文献1に記載された広帯域電圧制御発振回路の構成および動作特性を示す図であり、(A)が構成を、(B)がILFDの同期周波数範囲の変化を、(C)が広帯域電圧制御発振回路の出力する発振信号の周波数範囲を、示す。
【0010】
図1の(A)に示すように、特許文献1に記載された広帯域電圧制御発振回路は、LC型電圧制御発振器(VCO)11と、注入同期型周波数分周器(ILFD)12と、ILFD12のインバータ回路のバイアス電圧VbDを出力してILFD12の発振周波数範囲を制御する制御部13と、を備える。
【0011】
LC型VCO11は、周波数f0の発振信号を発生する。LC型VCO11は、制御電圧に応じて回路中の容量の容量値が変化し、それにより発振動作の時定数が変化するように構成されている。なお、容量値の代わりにインダクタンス値を変化させる構成、および容量値とインダクタンス値の両方を変化させる構成などもある。LC型VCO11は、f0=8GHz〜12GHzの高い周波数範囲の発振信号を出力し、発振信号は低雑音の比較的良好な特性を有する。
【0012】
ILFD12は、リング状に接続した複数のインバータ回路を備え、自己発振するリングオシレータ型の発振回路である。LC型VCO11の出力する周波数f0の発振信号により発振動作が規制され、周波数f0の発振信号の分周信号を発生する。ILFD12は、インバータ回路のバイアス電圧VbDを制御することにより、自己発振周波数が変化するので、分周比が変化する。制御部13は、ILFD12から出力する分周信号の周波数に応じて、インバータ回路のバイアス電圧を制御する。
【0013】
図1の(B)は、f0=8GHzの場合に、制御部13の出力する電圧信号VbDに応じた、ILFD12の同期周波数の範囲、すなわち分周信号の周波数範囲の変化を示す図である。図1の(A)に示すように、f0=8GHzの発振信号を2分周して4GHzの分周信号を出力する場合には、ILFD12の同期周波数がAで示す範囲になるようにインバータ回路のバイアス電圧VbDを制御する。同様に、f0=8GHzの発振信号を3分周および4分周する場合には、ILFD12の同期周波数がそれぞれBおよびCで示す範囲になるようにインバータ回路のバイアス電圧VbDを制御する。
【0014】
図1の(C)は、特許文献1に記載された発振回路で得られる周波数範囲を示す図である。上記のように、LC型VCO11は、f0=8GHz〜12GHzの発振信号を出力し、この範囲で発振周波数は可変である。ILFD12は、インバータ回路のバイアス電圧VbDを制御することにより、入力される発振信号を、周波数が1/2、1/3、1/4および1/6になるように、分周することが可能である。言い換えれば、周波数f0の発振信号を、2分周、3分周、4分周、6分周することが可能である。
【0015】
図1の(C)に示すように、LC型VCO11は、f0=8GHz〜12GHzの発振信号を出力可能であり、これを2分周すると、4GHz〜6GHzの分周信号が得られる。同様に、3分周すると2.66GHz〜4GHzの分周信号が得られ、4分周すると2GHz〜3GHzの分周信号が得られ、6分周するとf0=1.33GHz〜2GHzの分周信号が得られる。また、ILFD12の出力する分周信号を通常の2分周回路で2分周すると2GHz〜3GHzの分周信号が得られ、以下通常の2分周回路で分周を繰り返せばより低周波数の分周信号が得られる。通常の2分周回路で得られる分周信号も、スプリアスの無い低雑音の信号である。
【0016】
以上説明したように、特許文献1に記載された発振回路により、15MHz〜6GHzの連続した周波数の発振信号を発生させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2009−225438号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】S. Hara, K. Okada and A. Matsuzawa, “A 9.3MHz to 5.7GHz Tunable LC-based VCO Using a Divide-by-N Injection-Locked Frequency Divider”, IEEE A-SSCC, Nov. 2009
【非特許文献2】B. Razavi, “Multi-Decade Carrier Generation for Cognitive Radios”, IEEE Symp. on VLSI Circuits, pp.120-121, June 2009
【非特許文献3】P. Nuzzo, K.Vengattaramane, M. Ingels, V. Giannini, M. Steyaert and J. Craninckx, “A 0.1-5GHz Dual-VCO Software-Defined ΣΔFrequency Synthesizer in 45nm Digital CMOS”, IEEE RFIC Symp. pp.321-324, June 2009
【非特許文献4】Y,Ito, H.Sugawara, K. Okada and K. Masu, “A 0.98 to 6.6GHz Tunable Wideband VCO in a 180nm CMOS Technology for Reconfigurable Radio Tranceiver”, IEEE Asian Solid-State Circuits Conference (A-SSCC), pp.359-362, Hangzhou, China, Nov. 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
図1の(C)で、4GHzの分周信号は、f0=8GHzの発振信号を2分周するか、f0=12GHzの発振信号を3分周して得ることができるが、そのためには8GHz/2と12GHz/3の分周信号が連続している必要がある。したがって、LC型VCO11は、分周比1/2と1/3が一致する3/2倍以上の周波数可変範囲、言い換えれば10GHzに対して±20%以上の周波数可変範囲を必要とする。
【0020】
LC型VCO11の出力する発振信号の周波数帯域と位相雑音は、トレードオフの関係を有し、広帯域になるほど位相雑音が劣化する。LC型VCO11の出力する発振信号を8GHz〜12GHzの広帯域とした場合、位相雑音を十分な品質レベルに維持できないという問題がある。そこで、位相雑音を改善するために、LC型VCO11の周波数帯域を狭くしても連続した周波数の発振信号(分周信号)の出力が可能な広帯域発振回路が望まれている。
【0021】
本発明は、LC型VCOの出力する発振信号の周波数帯域が比較的狭くても、連続した周波数の発振信号(分周信号)の出力が可能な広帯域発振回路を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の広帯域発振回路は、上記目的を実現するため、発振器と注入同期型周波数分周器(IFLD)の間に、分周信号に同期したフィルタ制御信号に応じて、発振信号を通過させる通過特性を時間的に制御するフィルタを設け、フィルタの出力を注入同期型周波数分周器(IFLD)に注入する。
【0023】
すなわち、本発明の広帯域発振回路は、発振信号を出力する発振器と、前記発振器の出力する前記発振信号を受け、フィルタリングして注入同期信号を出力するフィルタと、自己発振動作を行い、前記注入同期信号により発振動作が規制されて前記発振信号の分周信号を出力し、制御信号に応じて分周比が変化する注入同期型周波数分周器と、を備え、前記フィルタは、前記分周信号に同期したフィルタ制御信号に応じて、前記発振信号を通過させる通過特性を時間的に制御して前記注入同期信号を発生することを特徴とする。
【0024】
本発明の広帯域発振回路では、フィルタが分周信号に同期したフィルタ制御信号に応じて発振信号を通過させる通過特性を時間的に制御するため、注入同期型周波数分周器は、整数比以外の分周比で分周信号を発生することが可能になる。これにより、注入同期型周波数分周器の発生する分周信号の周波数範囲の数を増加させて、周波数範囲を相互にオーバーラップさせることができ、発振器の出力する発振信号の可変周波数範囲が狭くても連続した周波数の分周信号を発生することができる。
【0025】
例えば、特許文献1に記載された従来例によれば、周波数を1/2、1/3、1/4および1/6に分周可能であり、1/2から1/3では分周比の比率は3/2であり、同様に、1/3から1/4、1/4から1/6では、比率は4/3、6/4であり、最大の比率は1/2から1/3の3/2であり、VCO11は3/2倍(±20%)の周波数可変範囲を必要とする。
【0026】
これに対して、本発明によれば、周波数を3/4、2/3、3/5、1/2、2/5、1/3、1/4および1/5に分周可能であり、周波数範囲を隣接させるための比率は、9/8、10/9、6/5、5/4、6/5、4/3および5/4であり、最大の比率は1/3から1/4の4/3であり、VCO11は4/3倍(±14.3%)の周波数可変範囲でよい。
【0027】
注入同期型周波数分周器は、差動2段構成のリングオシレータ型ILFDで、差動増幅器のバイアス電圧を変化させることにより分周比が変化する回路であることが望ましいが、同様の機能を有するならば、どのようなものを使用してもよく、例えば、負荷容量を切り換えてもよい。
【0028】
注入同期型周波数分周器が差動2段構成のリングオシレータ型ILFDである場合、ILFDは4相の分周信号を出力する。フィルタ制御信号は、ILFDの一方の段の出力信号を使用し、注入同期信号に応じてILFDの他方の段の出力を接続するスイッチに印加される。この場合の接続は、短絡する場合や、ある程度のインピーダンスで接続される場合を含む。なお、フィルタ制御信号は、ILFDの4相の分周信号のいずれを使用することも可能であるが、注入同期信号を印加するILFDの回路内の位置は、適宜選択する必要がある。また、ILFDの4相の分周信号のうちの複数の信号をフィルタ制御信号として使用し、複数のフィルタが複数のフィルタ制御信号に応じて発振信号を通過させる通過特性を時間的に制御してそれぞれ複数の注入同期信号を発生し、複数の注入同期信号をILFDの回路内の複数の位置に印加することも可能である。
【0029】
フィルタは、発振信号が入力される入力端子および注入同期信号を出力する出力端子を備え、発振信号を通過させる通貨特性を制御する通過スイッチと、通過スイッチの出力端子を所定の電位に接続するか否かを制御する接続スイッチと、を備え、フィルタ制御信号に応じて、通過スイッチが抑圧状態になると共に接続スイッチが接続状態になるように構成できる。通過スイッチと接続スイッチは、異なる極性、同一極性の2個のトランジスタで構成し、注入同期型周波数分周器の出力する分周信号が2個のトランジスタのゲートに印加されるようにする。また、通過スイッチと接続スイッチは、2個のトランジスタで構成し、2個のトランジスタのゲートは、抵抗を介して所定の電位に接続されると共に、容量を介して分周信号が印加されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、注入同期型周波数分周器の発生する分周信号の周波数範囲の数を増加させて、周波数範囲を相互にオーバーラップさせることができるので、発振器の出力する発振信号の可変周波数範囲を狭くでき、その分発生する発振信号(分周信号)の位相雑音を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、従来のLC型電圧制御発振器(VCO)と、注入同期型周波数分周器(ILFD)を組み合わせた広帯域電圧制御発振回路の概略構成および動作特性を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態の広帯域電圧制御発振回路の基本構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、実施形態の広帯域電圧制御発振回路の具体的な回路構成を示す回路図である。
【図4】図4は、実施形態のLC型電圧制御発振器(VCO)に設けられる容量バンクの構成例示す図である。
【図5】図5は、実施形態の注入同期型周波数分周器(ILFD)をインバータ記号で表した場合の回路図である。
【図6】図6は、実施形態の広帯域発振回路の動作を説明するタイムチャートである。
【図7】図7は、フィルタを設けずに、発振信号を直接ILFDに供給する従来例と、実施形態の動作の差を説明する図である。
【図8】図8は、実施形態のフィルタの変形例の構成を示す図である。
【図9】図9は、実施形態のILFDおよびフィルタの変形例の回路構成を示す図である。
【図10】図10は、ILFDにおいて、注入同期信号を印加する位置について説明する図である。
【図11】図11は、各分周比の場合に、4相の分周信号に対して、どのタイミングで発振信号を印加できるかを示す図である。
【図12】図12は、図10の(A)から(C)に示した注入同期信号を印加する位置に関する例と、分周可能な分周比の関係を示す図である。
【図13】図13は、実施形態において、分周信号の位相雑音を、分周信号の周波数を横軸として、表したグラフである。
【図14】図14は、ILFDの差動インバータのバイアス電圧VbDと自己発振周波数の関係を示す図である。
【図15】図15は、実施形態の広帯域発振回路の出力する分周信号をさらに2分周するフリップフロップ回路を直列に接続して、更に広い周波数範囲の分周信号を得られるようにした発振回路の構成を示す図である。
【図16】図16は、図15の発振回路で得られる発振信号の周波数範囲を説明する図である。
【図17】図17は、従来例の発振回路で得られる発振信号の周波数範囲を説明する図である。
【図18】図18は、発振信号をフィルタ制御信号として利用するフィルタの変形例の構成を示す図である。
【図19】図19は、フィルタの変形例の構成を示す図である。
【図20】図20は、ILFDの変形例の構成を示す図である。
【図21】図21は、実施形態のILFDの変形例の回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図2は、本発明の実施形態の広帯域発振回路の基本構成を示す図である。
【0033】
図2に示すように、実施形態の広帯域発振回路は、LC型電圧制御発振器(VCO)11と、注入同期型周波数分周器(ILFD)12と、ILFD12のインバータ回路のバイアス電圧VbDを出力してILFD12の発振周波数範囲を制御する制御部13と、VCO11の出力する周波数f0の発振信号を受け、フィルタリングして注入同期信号NINJをILFD12に出力するフィルタ14と、を備える。
【0034】
LC型VCO11は、図1に記載した特許文献1に記載されたものと同じであり、したがって、LC型VCO11は、容量値の代わりにインダクタンス値を変化させる構成、および容量値とインダクタンス値の両方を変化させる構成などを備えることも可能ある。
【0035】
ILFD12および制御部13は、図1に記載した特許文献1に記載されたものと同じであるが、実施形態では、制御部13がILFD12のインバータ回路のバイアス電圧VbDを特許文献1の場合より一層細かく制御し、自己発振周波数の範囲をより一層精密に制御する。
【0036】
ILFD12は、注入同期信号NINJにより発振動作が規制され、周波数f0の発振信号を、整数比および整数比以外での分周比で分周した分周信号を発生する。
【0037】
フィルタ14は、分周信号に同期したフィルタ制御信号FCSに応じて、周波数f0の発振信号を通過させる通過特性を時間的に制御して注入同期信号NINJを発生する。ここで、時間的に制御するとは、発振信号のパルスを通過させるか否か、すなわち発振信号の一部パルスを間引くことである。また、トランジスタによるスイッチは、完全な遮断状態を作ることはできないので、通過特性の時間的な制御には、パルスの一部を抑圧して、通過するパルスの信号が部分的に小さくなる場合も含むものとする。なお、以下の説明では、説明の都合上、通過スイッチは完全な遮断状態になるものとして説明するが、抑圧状態も含まれるものとする。フィルタ制御信号FCSは、分周信号に同期した信号であり、ILFD12の発生する分周信号を使用することも可能であるが、所定の分周比については周波数f0の発振信号から発生した信号を使用することも可能である。
【0038】
ILFD12は、注入同期信号NINJにより発振動作が規制される。注入同期信号NINJは、周波数f0の発振信号を間引いた信号であり、ILFD12の発振動作が規制する回数が周波数f0の発振信号で規制される場合より少なくなる。そのため、ILFD12は、注入同期信号NINJにより発振動作が規制される場合の方が、周波数f0の発振信号で発振動作が規制される場合より、多様な周波数で発振可能であり、周波数f0の発振信号を整数比以外の分周比で分周した周波数でも発振可能である。制御部13の出力する信号VbDにより自己発振周波数範囲を適宜選択することにより、ILFD12の多様な発振可能周波数から、実際に発振する周波数を設定できる。
【0039】
図3は、本発明の実施形態の広帯域発振回路の詳細な回路構成を示す図である。図3に示す構成は、図2の基本構成をより一層具体化した回路例である。なお、図3では制御部13の図示を省略している。
【0040】
図4は、実施形態の広帯域発振回路のLC型VCO11の容量値を選択する容量バンクCap.bankの回路構成を示す図である。
【0041】
図3および図4に示した実施形態の広帯域発振回路のLC型VCO11は、非特許文献1に記載されたVCOと類似のものであり、その構成および動作は広く知られているので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0042】
実施形態の広帯域発振回路のLC型VCO11は、発振周波数が8GHz〜12GHzの範囲で可変な相補の発振信号VCO+とVCO−を発生する。
【0043】
図3に戻って、フィルタ14は、PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタを有する。PMOSトランジスタは、発振信号VCO+を通過させるか否かを制御する通過スイッチを形成する。通過スイッチは、発振信号VCO+が入力される入力端子と、注入同期信号NINJを出力する出力端子を有し、PMOSトランジスタのソースが入力端子に、PMOSトランジスタのドレインが出力端子に、それぞれ対応する。NMOSトランジスタは、通過スイッチの出力端子、すなわちPMOSトランジスタのソースをグランドレベルに接続するか否かを制御する接続スイッチを形成する。PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタのゲートには、ILFD12の4つの分周信号のうちの分周信号Q+が印加される。
【0044】
フィルタ14では、分周信号Q+が低レベルの時には、PMOSトランジスタが導通(オン)状態に、NMOSトランジスタが遮断(オフ)状態になり、発振信号VCO+を通過させる。また、分周信号Q+が高レベルの時には、PMOSトランジスタが遮断(オフ)状態に、NMOSトランジスタが導通(オン)状態になり、発振信号VCO+を通過させず、出力端子は低レベルになる。
【0045】
ILFD12は、2個の差動インバータ15Aと15Bをリング状に接続したリングオシレータ型の発振回路であり、1段目の差動インバータ15Aの第1の出力I+が2段目の差動インバータ15Bの第2の入力に、1段目の差動インバータ15Aの第2の出力I−が2段目の差動インバータ15Bの第1の入力に、2段目の差動インバータ15Bの第1の出力Q+が1段目の差動インバータ15Aの第1の入力に、2段目の差動インバータ15Bの第2の出力Q−が1段目の差動インバータ15Aの第2の入力に、それぞれ入力される。2個の差動インバータのバイアス用NMOSトランジスタのゲートに制御部13からの信号VbDが印加され、バイアス電圧が設定される。1段目の差動インバータの第1の出力と第2の出力の間にNMOSトランジスタ16Aが接続され、そのゲートに注入同期信号NINJが印加される。したがって、注入同期信号NINJが高レベルの時には、1段目の差動インバータ15Aの第1の出力I+と第2の出力I−が短絡され、I+とI−は同レベル(中間レベル)になる。ここで、短絡状態には、ある程度のインピーダンス(抵抗)で接続される状態も含まれるものとする。2段目の差動インバータ15Bの第1の出力と第2の出力の間にNMOSトランジスタ16Bが接続され、そのゲートはグランドレベルに接続される。したがって、このNMOSトランジスタ16Bは、導通(オン)状態になることはなく、このNMOSトランジスタ16Bを設けなくてもILFD12は動作するが、実施形態では、1段目と2段目の差動インバータの対称性を向上するために設けている。なお、後述するように、対称性を一層向上するために、差動インバータ15Bの第1の出力と第2の出力の間のインピーダンスを所定の値とするように、NMOSトランジスタ16Bのゲートに所定電位を印加するようにしてもよい。以上のように、ILFD12は、4相の分周信号I+、I−、Q+およびQ−を発生する。
【0046】
図5は、図3に示したILFD12で、差動インバータをインバータ記号で表した場合の回路図である。
【0047】
図3および図5に示した実施形態の広帯域発振回路のILFD12は、特許文献1および非特許文献1に記載されたILFDと類似のものであり、その構成および動作は知られているので、ここではこれ以上の詳しい説明は省略する。
【0048】
図6は、実施形態の広帯域発振回路の動作を説明するタイムチャートであり、分周比にかかわらず分周信号の周期で正規化して示している。図6では、ILFD Outputは、4相の分周信号のうち、I+、I−およびQ+を示している。
【0049】
上記のように、フィルタ14は、分周信号Q+が低レベルの時に発信信号VCO+を通過させ、分周信号Q+が高レベルの時に発信信号VCO+を遮断する。ここでは、分周信号Q+が最低レベル付近の短い期間のみ発信信号VCO+を通過させ、それ以外の期間は遮断するように、PMOSトランジスタおよびNMOSトランジスタの閾値が設定されているとする。これにより、注入同期信号NINJがILFD12に供給される注入効率(Injection efficiency)は、図6に示すように、分周信号Q+の低レベル部分に対応して出現するパルス状に変化する。
【0050】
図6において、VCO+は、点線で示す正弦波状に変化する。VCO+の高レベルが注入効率のパルスに一致する時に、注入同期信号NINJの高レベルがILFD12に供給され、I+とI−を同レベルにする。2分周(Divided by 2、以下同様)の場合、VCO+とNINJが一致するのは、VCO+の2周期に1回、Q+の1周期に1回であり、この周期で発振する。言い換えれば、VCO+の2倍の周期で発振する。以下、同様に、3分周、4分周および5分周の場合、VCO+とNINJが一致するのは、VCO+の3周期、4周期および5周期に1回、Q+の1周期に1回であり、VCO+の3倍、4倍、5倍の周期で発振する。
【0051】
これに対して、3/2分周の場合、VCO+とNINJが一致するのは、VCO+の3周期に1回で、Q+の2周期に1回であり、VCO+の2/3倍の周期で発振する。また、4/3分周の場合、VCO+とNINJが一致するのは、VCO+の4周期に1回で、Q+の3周期に1回であり、VCO+の3/4倍の周期で発振する。さらに、5/3分周の場合、VCO+とNINJが一致するのは、VCO+の5周期に1回で、Q+の3周期に1回であり、VCO+の3/5倍の周期で発振する。さらに、5/2分周の場合、VCO+とNINJが一致するのは、VCO+の5周期に1回で、Q+の2周期に1回であり、VCO+の2/5倍の周期で発振する。
【0052】
単に一対の分周信号を一致するように規制するだけであれば、上記周期の整数分の1の周期でも発振可能であるが、制御部13から信号VbDによりILFD12の自己発振周波数範囲を設定することにより、上記の周波数で発振させ、その発振状態を維持するようにロックする。
【0053】
図7は、特許文献1に記載されたフィルタ14を設けずに、VCO+を直接ILFD12に供給する場合と、実施形態の場合の動作の差を、4分周を例として説明する図である。
【0054】
図7に示すように、4分周の場合には、分周信号I+およびI−の周期は、VCO+の4周期に一致する。VCO+を直接ILFD12に供給すると、VCO+が供給された時、分周信号I+とI−が同じレベルになり交差する。この時からVCO+の1周期後、I+は最小レベルに、I−が最大レベルになり、さらにVCO+の1周期後(合計2周期後)、I+とI−は交差し、さらにVCO+の1周期後(合計3周期後)、I+は最大レベルに、I−が最小レベルになり、さらにVCO+の1周期後(合計4周期後)、I+とI−は交差する。これが分周信号I+とI−の1周期である。
【0055】
図7の上側に示すように、VCO+を直接ILFD12に供給する場合、分周信号I+とI−が交差してからVCO+の1周期後、I+が最小レベルに、I−が最大レベルになる付近で、VCO+がILFD12に供給され、I+とI−の出力端子を短絡するように動作するため、I+は少し増加し、I−は少し減少し、I+とI−の波形が谷と山の部分で歪むことになる。この歪のため、VCO+の2周期後に再びI+とI−が交差するタイミングが遅れ、4分周でロックするための位相シフト量が増加する。これが、位相雑音を増加させる。
【0056】
これに対して、実施形態では、図7の下側に示すように、フィルタ14により、分周信号I+とI−が交差してから、VCO+の1周期、2周期および3周期後のVCO+は遮断され、注入同期信号NINJは、このようなVCO+のパルスを含まないので、I+とI−の出力端子が短絡されることはない。このため、上記のような歪は発生せず、位相雑音も増加しない。
【0057】
図8は、実施形態のフィルタ14の変形例の構成を示す図である。
【0058】
図8に示したフィルタ14は、図3の実施形態のフィルタ14において、通過スイッチを形成するPMOSトランジスタのゲートおよび接続スイッチを形成するNMOSトランジスタのゲートを、抵抗Rを介して所定の電位源VFに接続すると共に、容量Cを介して分周信号Q+を印加する。図8のフィルタ14は、電位源VFの電位、抵抗Rおよび容量Cの容量値を適宜設定することにより、所望の注入効率を容易に設定できる。
【0059】
図3および図5に示した実施形態の広帯域発振回路のILFD12では、I+とI−を出力する1段目の差動インバータ15Aの出力端子を接続するNMOSトランジスタ16Aのゲートに注入同期信号NINJを印加した。これに対して、Q+とQ−を出力する2段目の差動インバータ15Bの出力端子を接続するNMOSトランジスタ16Bのゲートにはグランドレベルを印加して、このNMOSトランジスタ16Bは実質的に動作しないように設定した。しかし、このNMOSトランジスタ16Bを動作させてQ+とQ−を同レベルにすること、すなわち短絡するように動作させることも可能である。
【0060】
図9は、2段目の差動インバータの出力端子を接続するNMOSトランジスタ16Bを、Q+とQ−を短絡させるように動作させるILFD12およびフィルタ14の変形例の回路構成を示す図である。図9では、NMOSトランジスタ16Aおよび16Bのゲートに印加する注入同期信号NINJ+およびNINJ−を発生させるフィルタ回路14Aおよび14Bは、図8に示した回路構成を備える。フィルタ回路14Aは、VCO+が供給され、容量Cを介して分周信号Q+が供給される。したがって、注入同期信号NINJ+は、実施形態での注入同期信号NINJとほぼ同一の信号である。これに対して、フィルタ回路14Bは、LC型VCO11の発生する他方の発振信号VCO−が供給され、容量Cを介して分周信号I−が供給される。したがって、注入同期信号NINJ−は、注入同期信号NINJ+を分周信号の1/4周期遅らせた信号に相当する。分周信号I+とI−が交差するタイミングと、分周信号Q+とQ−が交差するタイミングは、分周信号の1/4周期分ずれている。したがって、注入同期信号NINJ+およびNINJ−をNMOSトランジスタ16Aおよび16Bのゲートに印加してI+とI−およびQ+とQ−を短絡することにより、同一の分周信号を異なる位置で規制することになり、実施形態に比べて分周信号をより強くロックすることになる。
【0061】
ここで、ILFD12において、注入同期信号を印加する位置について図10を参照して説明する。なお、後述するように、NMOSトランジスタの代わりにPMOSトランジスタを用いることも可能である。図10の(A)は、NMOSトランジスタ16Aを1段目の差動インバータ15Aの出力端子の間に配置し、NMOSトランジスタ16Aのゲートに上記のNINJ+を印加する構成を示す。
【0062】
図10の(A)の構成は、実施形態のILFD12において、実質的に動作しないNMOSトランジスタ16Bを除いた構成であり、第2実施例と同様の動作を行う。
【0063】
図10の(B)の構成は、図9に示した構成であり、図10の(A)の構成に比べて2分周時には強くロックできる。しかし、3分周、4分周、5分周や非整数の分周には適用できない。図10の(B)の構成において、注入同期信号NINJ−を発生するフィルタ14Bで、2分周には、VF2をフィルタ14AのVF1と同じとし、2分周以外の時には、VF2を高レベルに切り換えて、注入同期信号NINJ−が常時低レベルとなり、NMOSトランジスタ16Bが動作しないように切り換えてもよい。これにより、2分周時には強くロックし、2分周以外での分周が可能になる。
【0064】
図10の(C)の構成は、図10の(A)の構成において、1段目の差動インバータ15Aの出力端子間に、NMOSトランジスタ16Aに加えて、NMOSトランジスタ16Cを設けた構成である。NMOSトランジスタ16Cのゲートに印加する注入同期信号NINJ+’は、図8のフィルタ回路において、Q+の代わりにQ−を供給することにより発生する。図10の(C)の構成は、4分周のみに適用可能で、それ以外の分周比の場合には適用できない。
【0065】
図10の(D)の構成では、1段目の差動インバータ15AのI−の出力端子をNMOSトランジスタ16AAを介してグランドレベルに接続し、I+の出力端子をNMOSトランジスタ16ABを介してグランドレベルに接続し、2段目の差動インバータ15BのQ+の出力端子をNMOSトランジスタ16BAを介してグランドレベルに接続し、Q−の出力端子をNMOSトランジスタ16BBを介してグランドレベルに接続する。NMOSトランジスタ16AAのゲートに印加する注入同期信号NINJ1は、図8のフィルタ回路において、Q+の代わりにI−を供給することにより発生する。同様に、NMOSトランジスタ16AB、16BAおよび16BBのゲートに印加する注入同期信号NINJ2〜4は、図8のフィルタ回路において、それぞれQ+の代わりにI+、Q+およびQ−を供給することにより発生する。なお、NMOSトランジスタ16AA、16AB、16BAおよび16BBは、グランドレベル以外の所定の電位に接続することも可能である。また、NMOSトランジスタ16AA、16AB、16BAおよび16BBを、PMOSトランジスタとして、高電位源VDDまたは所定の電位に接続することも可能である。
【0066】
図11は、各分周比の場合に、分周信号I+、I−、Q+およびQ−に対して、どのタイミングでVCO+およびVCO−を印加できるかを示す図であり、分周信号の1周期を40として、Q+とQ−の対については下線で表している。
【0067】
図11に示すように、分周信号I+とI−の対は、0、20、40、60で交差し、Q+とQ−の対は10、30、50で交差する。
【0068】
2分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、20、40、60で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して10、30、50で印加可能である。
【0069】
3分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、13(正確には40/3)、27、40、53で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して、7、20、33、47、60で印加可能である。
【0070】
4分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、10、20、30、40、50、60で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して、5、10、15、25、35、45、55で印加可能である。
【0071】
5分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、8、16、24、32、40、48、56で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して、4、12、20、28、36、44、52、60で印加可能である。
【0072】
6分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、7、13、20、27、33、40、47、53、60で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して、3、13、20、27、33、40、47、53、60で印加可能である。
【0073】
4/3分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、30、60で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して、15、45で印加可能である。
【0074】
3/2分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、27、53で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して13、40で印加可能である。
【0075】
5/2分周の場合には、発振信号VCO+は、分周信号I+とI−に対して、0、16、32、48で印加可能であり、VCO−は、Q+とQ−に対して8、24、40、56で印加可能である。
【0076】
図12は、図10の(A)から(C)に示した注入同期信号を印加する位置に関する例と、分周可能な分周比の関係を示す図である。図10の(A)の構成であれば、2分周、3分周、4分周、5分周、6分周、4/3分周、3/2分周、5/2分周が可能である。図10の(B)の構成では、2分周と6分周が可能であるが、他の分周比では分周できない。図10の(C)の構成では、4分周のみが可能であり、他の分周比では分周できない。
【0077】
図13は、実施形態において、発振信号の周波数f0=8GHzとして、4/3分周、3/2分周、5/3分周、5/2分周、2分周、3分周、4分周、5分周した場合の位相雑音を、分周信号の周波数を横軸として、表したグラフである。図13に示すように、周波数が高くなると位相雑音も増加する。
【0078】
図14は、制御部13が出力するILFD12の差動インバータのバイアス電圧VbDと、ILFD12の自己発振周波数の関係を示す図である。バイアス電圧VbDを増加させると、ILFD12の自己発振周波数(Free-run frequency)は三角印で示すように増加する。したがって、ILFD12が発生する分周信号の周波数に応じてバイアス電圧VbDを設定することにより、所望の分周比での分周が行える。分周比4/3、3/2、5/3、2、5/2、3、4、5の分周を行う場合のバイアス電圧VbDの範囲、すなわちILFD12の発振がロックする周波数範囲、すなわちロックレンジを矢印で示す。
【0079】
図15は、実施形態の広帯域発振回路の出力する分周信号をさらに2分周するフリップフロップ回路を直列に接続して、非常に広い周波数範囲の分周信号を得られるようにした発振回路の構成を示す図である。
【0080】
図15に示すように、この発振回路は、LC型電圧制御発振器(VCO)11と、フィルタ付ILFD19と、フィルタ付ILFD19の出力する分周信号を順次2分周するように直列に接続した7個のフリップフロップ回路(FF)20−1、20−2、…、20−7と、を備える。フィルタ付ILFD19は、実施形態のILFD12と、制御部13と、フィルタ14と、を含む。言い換えれば、この発振回路は、実施形態の広帯域発振回路に、7個のフリップフロップ回路(FF)20−1、20−2、…、20−7を直列に接続した回路である。
【0081】
VCO11は、周波数f0の発振信号を出力し、その周波数は所定の範囲で可変である。この発振信号は、フィルタ付ILFD19に供給されると共に、第1の出力端子に出力される。
【0082】
フィルタ付ILFD19は、適宜設定された分周比Nで分周した分周信号を出力する。この周波数f0/Nの分周信号は、FF20−1に供給されると共に、第2の出力端子に出力される。
【0083】
FF20−1は、周波数f0/Nの分周信号を2分周して周波数f0/2Nの分周信号を出力する。この周波数f0/2Nの分周信号は、FF20−2に供給されると共に、第3の出力端子に出力される。以下同様に、FF20−2〜20−7は、供給される分周信号を2分周して次段に供給すると共に、第4〜第9出力端子に出力する。
【0084】
第1〜第9出力端子から出力される発振(分周)信号を選択するセレクタを設ければ、所望の周波数の発振信号が得られる。
【0085】
図16は、図15の発振回路で得られる発振信号の周波数範囲を説明する図である。
【0086】
図16に示すように、VCO11は、7.8GHz〜10.5GHzの可変周波数範囲を有する。
【0087】
フィルタ付ILFD19は、VCO11の出力する発振信号を4/3、3/2、5/3、2、5/2、3、4および5分周して、15.6GHz〜7.875GHzの周波数範囲の分周信号を出力する。各分周信号は、隣接する周波数の分周信号と範囲がオーバーラップしており、1.56GHz〜7.875GHzの周波数範囲の分周信号を連続して得ることができる。
【0088】
FF20−1〜20−7は、フィルタ付ILFD19の出力する分周信号を分周して1.56GHz以下の発振(分周)信号を発生する。ここでは1/2までの分周が行われるので、最小周波数は12.3MHz(0.01GHz)の発振信号を得ることが可能である。
【0089】
図17は、特許文献1および非特許文献1に記載された発振回路で得られる発振信号の周波数範囲を説明する図である。
【0090】
図16と比べて、VCOの可変周波数範囲が8GHz〜12GHzと広いこと、6GHz〜8GHzの周波数範囲の発振(分周)信号は得られないこと、およびILFDの発生する分周信号の周波数範囲が一部オーバーラップしていないことが異なる。
【0091】
本発明の広帯域発振回路を利用すれば、特許文献1および非特許文献1に記載された発振回路での問題点が解消できる。
【0092】
上記実施形態では、フィルタに供給する分周信号に同期したフィルタ制御信号として、ILFD12が発生する4相の分周信号I+、I−、Q+、Q−のいずれかまたはそれらの組合せを利用したが、それ以外の信号でも、分周信号に同期したであればフィルタ制御信号として利用可能である。
【0093】
図18は、VCO11の出力するVCO+またはVCO−をフィルタ制御信号として利用するフィルタの変形例の構成を示す図である。このフィルタは、図8の構成に加えて、VCO+またはVCO−を分周する分周回路30を備え、VCO+またはVCO−の分周信号を容量Cに供給する。ILFD12が発生する分周信号は、VCO11の出力するVCO+またはVCO−に同期しているので、注入同期信号NINJを発生させることが可能である。
【0094】
本発明の広帯域発振回路は、PLL回路の一部として使用することも可能である。また、本発明の広帯域発振回路を、特許文献1に記載されたように、LC型VCOをPLL回路に一部として使用し、その出力をフィルタを介してILFDに入力して分周信号を発生するように使用することも可能である。
【0095】
以上、本発明の実施形態を説明したが、記載した実施形態は発明を説明するためのもので、当業者には、特許請求の範囲において各種の変形例があり得ることが容易に理解可能である。以下、いくつかの変形例を図示し、簡単に説明する。
【0096】
図19は、フィルタ14の変形例を示す図である。図19の(A)は、図8のフィルタにおいて、通過スイッチをNMOSトランジスタに、接続スイッチをPMOSトランジスタに変更したもので、PMOSトランジスタの一方の端子は高電位源VDDに接続され、分周信号Q−が供給される。
【0097】
図19の(B)は、図8のフィルタにおいて、通過スイッチをNMOSトランジスタに変更したもので、NMOSトランジスタのゲートには分周信号Q−が供給され、PMOSトランジスタのゲートには分周信号Q+が供給される。
【0098】
図19の(C)は、図8のフィルタにおいて、接続スイッチをPMOSトランジスタに変更したもので、PMOSトランジスタの一方の端子は高電位源VDDに接続され、NMOSトランジスタのゲートには分周信号Q−が供給され、PMOSトランジスタのゲートには分周信号Q+が供給される。
【0099】
図20は、ILFD12の注入同期信号を印加する部分の変形例を示す図である。図20の(A)は、図5のILFD12において、NMOSトランジスタ16Aおよび16Bを、PMOSトランジスタとしたもので、PMOSトランジスタ16Bのゲートは高電位源VDDに接続される。PMOSトランジスタ16Aのゲートに印加する信号NINJ+は、例えば、図19の(A)および(C)の接続トランジスタがPMOSトランジスタであるフィルタ14で発生した信号を使用する。一般的に、ILFD12の差動インバータの出力端子を短絡または所定の電位に接続するトランジスタとしてNMOSトランジスタを使用する場合には、接続トランジスタがNMOSトランジスタであるフィルタ14で発生した信号を使用することが望ましく、ILFD12の差動インバータの出力端子を短絡(接続)または所定の電位に接続するトランジスタとしてPMOSトランジスタを使用する場合には、接続トランジスタがPMOSトランジスタであるフィルタ14で発生した信号を使用することが望ましい。
【0100】
図20の(B)は、図5のILFD12において、NMOSトランジスタ16Bのゲートを、抵抗と容量を並列に接続した回路を介してグランドに接続したものである。この構成では、NMOSトランジスタ16Bのゲート電圧をグランドレベル以外の所定のレベルに適宜設定して、差動インバータ15Aと15Bの出力端子間のインピーダンスを揃えることが可能である。
【0101】
図21は、ILFD12の変形例の回路構成を示す図である。図3のILFD12は、2個の差動インバータを有する差動型リングオシレータであったのに対して、図21のILFDは、シングルエンド型のリングオシレータである。2個のインバータをリング状に接続した発振回路が2個設けられており、フィルタ14Aおよび14Bからの逆相の注入電荷信号により、2個のNMOSトランジスタが導通して発振が制御される。これ以上の詳しい説明は省略する。
【0102】
以上説明した実施形態および変形例以外にも多数の変形例が可能であることは、当業者には容易に理解可能である。また、記載した実施形態および変形例では、一部の要素が他の例の要素と置き換え可能であることも、当業者には容易に理解可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、広い周波数範囲の発振信号を発生する広帯域発振回路に適用可能である。
【符号の説明】
【0104】
11 LC型電圧制御発振器(VCO)
12 注入同期型周波数分周器(ILFD)
13 制御部
14、14A、14B フィルタ
15A、15B 差動インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振信号を出力する発振器と、
前記発振器の出力する前記発振信号を受け、フィルタリングして注入同期信号を出力するフィルタと、
自己発振動作を行い、前記注入同期信号により発振動作が規制されて前記発振信号の分周信号を出力し、制御信号に応じて分周比が変化する注入同期型周波数分周器と、を備え、
前記フィルタは、前記分周信号に同期したフィルタ制御信号に応じて、前記発振信号を通過させる通過特性を時間的に制御して前記注入同期信号を発生することを特徴とする広帯域発振回路。
【請求項2】
前記注入同期型周波数分周器は、整数比以外の分周比の分周信号も出力する請求項1に記載の広帯域発振回路。
【請求項3】
前記発振器は、出力する前記発振信号の周波数を所定範囲で変化可能である請求項1または2に記載の広帯域発振回路。
【請求項4】
前記注入同期型周波数分周器は、リングオシレータ型である請求項1から3のいずれか1項に記載の広帯域発振回路。
【請求項5】
前記注入同期型周波数分周器は、前記制御信号に応じて、前記リングオシレータ型の注入同期型周波数分周器を構成する増幅器のバイアス電圧を変化させることにより、前記分周比が変化する請求項4に記載の広帯域発振回路。
【請求項6】
前記注入同期型周波数分周器は、差動2段構成のリングオシレータ型である請求項4または5に記載の広帯域発振回路。
【請求項7】
前記フィルタ制御信号は、前記リングオシレータ型の注入同期型周波数分周器の一方の段の出力信号を使用し、
前記注入同期信号に応じて、前記リングオシレータ型の注入同期型周波数分周器の他方の段の出力を接続する請求項6に記載の広帯域発振回路。
【請求項8】
前記フィルタは、
前記発振信号が入力される入力端子および前記注入同期信号を出力する出力端子を備え、前記発振信号を通過させる通過特性を制御する通過スイッチと、
前記通過スイッチの前記出力端子を所定の電位に接続するか否かを制御する接続スイッチと、を備え、
前記フィルタ制御信号に応じて、前記通過スイッチが前記発振信号の通過を抑圧する状態になると共に前記接続スイッチが接続状態になる請求項1から7のいずれか1項に記載の広帯域発振回路。
【請求項9】
前記通過スイッチと前記接続スイッチは、2個のトランジスタで構成され、前記注入同期型周波数分周器の出力する前記分周信号が、前記2個のトランジスタのゲートに印加される請求項8に記載の広帯域発振回路。
【請求項10】
前記通過スイッチと前記接続スイッチは、2個のトランジスタで構成され、
前記2個のトランジスタのゲートは、抵抗を介して所定の電位に接続されると共に、容量を介して前記分周信号が印加される請求項8に記載の広帯域発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−160276(P2011−160276A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21335(P2010−21335)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】