説明

廃棄物溶融処理方法及び廃棄物溶融処理炉

【課題】炉内乾留残さの流動化を抑制して炉内乾留残さの飛散を減らし、燃焼性を良好にして安定操業でき、且つ、排ガス処理系のコンパクト化を図ることができる廃棄物溶融処理方法及び廃棄物溶融処理炉を提供する。
【解決手段】廃棄物溶融処理炉1の炉上部から廃棄物および塊状炭素系可燃物質を投入し、炉体に複数段設置された羽口8から酸素源を供給し、炉底部の排出孔から反応熱によって溶融した廃棄物中の灰分および非燃焼物を排出し、炉上部から不完全な燃焼により発生したガスを排出する炉内に充填層を形成して廃棄物を溶融処理する廃棄物溶融処理方法において、前記充填層を形成する廃棄物の粒径に応じて炉内の空塔速度を制御する。空塔速度を充填層の粒径に応じて0.15〜1.0Nm/secとし、また、空塔速度を最下段羽口の直上部Aで0.15〜1.0Nm/secとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物溶融処理方法及びこの方法に使用する廃棄物溶融処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般ごみ、シュレッダーダストなどの廃棄物の処理に廃棄物を溶融処理する方法が利用されている。
【0003】
例えば、灰分の多いシュレッダーダスト(ASR)等の廃棄物の溶融処理方法として、特許文献1には、廃棄物を塊状炭素系可燃物質と共にシャフト炉方式の廃棄物溶融炉の炉上部の装入口から装入し、炉下部の羽口から酸素源を供給し、炉底の排出孔から反応熱によって溶融した廃棄物中の灰分および非燃焼物を排出し、炉上部から不完全な燃焼により発生したガスを排出する廃棄物の溶融処理方法において、廃棄物を細かく裁断または破砕し、鉄を回収した残渣のシュレッダーダストを溶融処理する際、溶融炉内の空塔速度が0.1Nm/sec以上となるように酸素および空気を羽口から供給する方法が開示されている。
【0004】
この方法では、溶融炉内の図1に示す充填層のBの位置における空塔速度が0.1Nm/sec以上となるように酸素および空気を羽口から供給することにより、シュレッダーダストに含まれる微細な灰分を飛散させ、炉内に微細な灰分が滞留することによる炉内の通気抵抗の増加、ガスの偏流等のトラブルを回避でき、安定操業できるというものである。
【特許文献1】特開平6−129618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の空塔速度を0.1Nm/sec以上とする溶融処理方法では、送風を行う最下段羽口直上部で且つごみ堆積部における炉内の空塔速度を早くしすぎると、炉内流動化現象が起こって、(1)炉内乾留残さの飛散量が増加、(2)灰分飛散により燃焼室における燃焼性が悪化、(3)排ガス量の変動が大きくなるため安定操業ができなくなる、更に(4)燃焼室、IDなどの排ガス系設備の余裕率を大きくしなければならないなどの問題が生じる。逆に、空塔速度を遅くし過ぎると溶融物の排出などの問題が生じる。
【0006】
そこで本発明は、炉内乾留残さの流動化を抑制して炉内乾留残さの飛散を減らし、燃焼室における燃焼性を良好にして安定操業でき、且つ、排ガス処理系のコンパクト化を図ることができる廃棄物溶融処理方法及び廃棄物溶融処理炉を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の廃棄物溶融処理方法は、廃棄物溶融処理炉の炉頂部から廃棄物および塊状炭素系可燃物質を投入し、炉体に複数段設置された羽口から酸素源を供給し、炉底部の排出孔から反応熱によって溶融した廃棄物中の灰分および非燃焼物を排出し、炉上部から不完全な燃焼により発生したガスを排出する炉内に充填層を形成して廃棄物を溶融処理する廃棄物溶融処理方法において、前記充填層を形成する廃棄物の粒径に応じて炉内の空塔速度を制御することを特徴とする。前記構成において、前記空塔速度を充填層の粒径に応じて0.15〜1.0Nm/secとし、また、空塔速度を最下段羽口の直上部で0.15〜1.0Nm/secとする。
【0008】
本発明の廃棄物溶融処理炉は、炉上部から廃棄物および塊状炭素系可燃物質を投入し、炉体に複数段設置された羽口から酸素源を供給し、炉底部の排出孔から反応熱によって溶融した廃棄物中の灰分および非燃焼物を排出し、炉上部から不完全な燃焼により発生したガスを排出する炉内に充填層を形成して廃棄物を溶融処理する廃棄物溶融処理炉において、前記充填層の廃棄物粒度に応じて最下段羽口から供給する酸素源供給量を制御する制御装置を配設したことを特徴とする。前記構成において、前記羽口は炉体回りに複数設置し、また、前記溶融炉内充填層内に設置し、また、前記最下段の羽口直上部の炉内径が、空塔速度が0.15〜1.0Nm/secとなるように設定する。また上記羽口は炉体回りに複数設置する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、空塔速度を炉内廃棄物粒径に応じた適正な範囲に抑えることによって、炉頂から投入された廃棄物は流動化させずに健全な充填層を形成して効率的な熱交換を行うことができ、かつ、後流の排ガス処理系にダイオキシン類発生源となる炉内乾留残さの飛散を減らし、排ガスCOピークを低減させ、排ガス処理系をコンパクト化することができる。
【0010】
また、炉内乾留残さは炉内に滞留して乾留残さ層を形成しながら炉内を下降し、コークスベット層にて溶融、炉底より排出され、これによって投入灰分の大部分を溶融物として回収、再利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般に、粒子の終末沈降速度は粒径の2乗に比例しており、炉内廃棄物の粒径と炉内廃棄物の充填層を流動化させる炉内廃棄物流動化速度との間には関係がある。また、炉内廃棄物の粒径は処理対象物によって異なり、炉内乾留残渣を例としてみると、一般ごみでは70〜80μm程度であるのに対し、ASR処理時で16μm程度と小さく流動化しやすい。しかしながら、流動化開始速度は、炉内廃棄物粒径だけでなく、炉内状況などによって大きく異なり、理論的に算出することは困難である。
【0012】
そこで、炉内廃棄物の充填層が流動化すると、炉内乾留残さの飛散量が増加(即ちチャー発生量の増加)、不完全燃焼による排ガス未燃COガスの排出が考えられることから、炉底部空塔速度とチャー発生量及びCOピークの関係を導き出した。図2は空塔速度とチャー発生量の関係を示すグラフ、図3は空塔速度と排ガスCOピーク割合の関係を示すグラフである。
【0013】
なお、最下段羽口直上部(図1のAの位置)の空塔速度(以下、「炉底部空塔速度」という。)は以下の式で算出する。
【0014】
Q=送風空気量(Nm/h)+送風酸素量(Nm/h)
T={炉底O量(kmol)×97000(kcal/kmol)−CO発生量(kmol)×39600(kcal/kmol)}/Q/炉底部ガス比熱(kcal/℃/m) または、
T=([理論発熱量]−[吸熱量])/Q/炉底部ガス比熱
V=Q/炉底部断面積(m)/3600 または、
V‘=Q×(273+T)/273(Bm/h)/炉底部断面積(m)/3600
ここで、Q:炉底部ガス量(Nm/h)、T:炉内断熱温度(℃)、V:炉底部空塔速度(Nm/sec)、V‘:炉底部空塔速度(Bm/sec)
ASR処理試験の結果、図2に見られるように、チャー発生量と炉底部空塔速度との間には正の相関があり、炉体部空塔速度が2.6Bm/secを越えるとチャーの飛散量が急激に増加することがわかった。また、図3に見られるように、炉底部空塔速度が2.6Bm/secを越えると、排ガスCOピークが増加することもわかった。図2及び図3より炉底部空塔速度を増加させるとチャー発生量及びCOピークが急激に増加する傾向がみられ、これは(1)流動化によるチャーの飛散が増加し、(2)飛散チャーにより燃焼室における燃焼性が悪化することを意味する。したがって、チャーの飛散を抑え、燃焼室で完全燃焼させるためには炉底部空塔速度を2.6m/sec以下に抑える必要がある。
【0015】
一方で、一般ごみ処理時は空塔速度をASR処理時よりも大きくとることができるが、炉内空塔速度が10Bm/sec(1Nm/sec)以上になると、一般ごみにおいても流動化もしくは炉内偏流が生じ、溶融炉安定操業が困難となる。
【0016】
図4は炉底部空塔速度と炉内廃棄物粒径との関係を示すグラフである。図4より、同じ一般ごみにおいても灰分の多い一般ごみにおいては炉内廃棄物粒径も小さくなるため、炉底部空塔速度は低くする必要がある。但し、炉底部空塔速度を落とすために炉内径を大きくし、炉内空塔速度を1Bm/sec(0.15Nm/sec)以下にしてしまうと、炉底断面積当たりの酸素燃焼量(Nm/h・m)(炉底燃焼負荷)が減少してしまい、炉底に不活性部分が形成されることによるスラグ排出不良などの2次トラブルが発生する可能性が考えられる。したがって、炉底部空塔速度および炉底燃焼負荷の双方を満たす送風条件および炉底径の選定が必要となる。特に、空塔速度でも炉上部空塔速度よりも初速を与える送風を行う最下段羽口直上部のごみ堆積部における空塔速度の影響が大きく、この部位の空塔速度を制限することが重要である。特に、ASR処理の場合は2.6Bm/sec以下としなければならない。
【0017】
炉底部空塔速度を0.15〜1.0Nm/secとなるように、最下段羽口直上部を最適な炉内径とし、または送風条件を選定することで、溶融物を安定的に排出しながら、炉内乾留残さの炉内での流動化を防止し、炉内乾留残さの飛散を抑制することが可能となる。その結果として、飛灰量の減少、燃焼室での燃焼性向上、排ガス変動抑制による設備コンパクト化を図ることができる。
【0018】
図1は本発明に使用する廃棄物溶融処理設備のブロック図である。廃棄物溶融処理炉1には、廃棄物を副資材であるコークス、石灰石とともに炉上部の装入装置2から投入し、下段羽口8から空気及び酸素を吹き込んで燃焼・溶融させ、廃棄物中の灰分および金属などの非燃焼物を溶融物として出湯口3から排出する。廃棄物中の可燃物は一部が乾留されてガスとなってダクト4から排出され、また一部は炉下部で羽口8から吹き込まれた空気及び酸素によって燃焼するが、残りの可燃物は可燃性ダストとなって廃棄物溶融処理炉1の炉頂から排出される。なお、ASR処理の場合には、ASRは水分が非常に少ないために乾燥を行うためのシャフト部をなくすことも可能である。
【0019】
炉頂から排出される可燃性ダストは可燃ダスト捕集装置5で捕集されて可燃ダスト貯蔵タンク6に貯蔵され、可燃性ダスト切り出し装置7で切り出されて、酸素富化空気を供給する羽口8から炉内へ吹き込まれる。
【0020】
また、可燃ダスト捕集装置5から排出される可燃性ガスを含む排ガスは、燃焼室9で燃焼空気を吹き込んで燃焼させてボイラー10で熱回収を行い、ボイラー10で発生した蒸気は蒸気タービン・発電装置11へ送られる。ボイラー10の排ガスは、温度調整器を経て集じん装置12で固気分離され、誘引送風機(IDF)13により煙突14から排出される。
【0021】
羽口に空気を供給する空気供給配管、酸素を供給する配管にはそれぞれ流量調整弁が設けられる。
【0022】
流量調整弁は、最下段の羽口直上部の空塔速度を0.15〜1.0Nm/secとなるように、制御装置により羽口に供給する酸素量及び空気量が調整される。
【0023】
制御装置には、炉内の炉底部空塔速度を制御するため、装入廃棄物と生成される乾留残さ粒径との関係が予めメモリに記憶され、装入廃棄物の混合割合を入力することで上記式のQ(炉底部ガス量)、T(炉内断熱温度)からV(炉底部空塔速度)又はV‘(炉底部空塔速度)が演算され、制御装置により羽口に供給する酸素量及び空気量が調整される。
【実施例】
【0024】
ASR処理試験結果を表1に示す。
【表1】

【0025】
表1においてASR100%処理試験時に炉底部空塔速度を0.35Nm/secとしたところ、チャー発生量が急激に増えてしまい安定操業を継続することが困難であった。これは炉内が流動化することによると考えられる。しかし、空塔速度を0.3Nm/secに下げたところ、チャー飛散量が減少し、安定操業を継続することができた。ただし、0.15Nm/sec未満に下げると炉底部からの溶融物の排出が困難となり、安定操業を継続することができなかった。
【0026】
一方で、ASR100%で流動化が発生したと考えられる、0.35Nm/secの空塔速度でASR混合率90%および80%で試験を行ったところ、チャー発生量の増加は見られず安定操業を継続することができた。このように空塔速度の上限値はASRの混合割合によってかわることがわかった。
【0027】
具体的にはASR100%で0.3Nm/sec、70%で0.35Nm/sec、30%で0.5Nm/sec、0%で1.0Nm/secであった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に使用する廃棄物溶融処理設備のブロック図である。
【図2】チャー発生量と炉底部空塔速度の関係を示すグラフである。
【図3】炉底部空塔速度とCOピーク割合の関係を示すグラフである。
【図4】炉底部空塔速度と炉内廃棄物粒径との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1:廃棄物溶融処理炉
2:装入装置
3:出湯口
4:ダクト
5:可燃ダスト捕集装置
6:可燃ダスト貯蔵タンク
7:可燃ダスト切り出し装置
8:出湯口
9:燃焼室
10:ボイラー
11:蒸気タービン・発電装置
12:集じん装置
13:誘引送風機
14:煙突
A:炉底部
B:シャフト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物溶融処理炉の炉上部から廃棄物および塊状炭素系可燃物質を投入し、炉体羽口から酸素源を供給し、炉底部の排出孔から反応熱によって溶融した廃棄物中の灰分および非燃焼物を排出し、炉上部から発生したガスを排出する炉内に充填層を形成して廃棄物を溶融処理する廃棄物溶融処理方法において、
前記充填層を形成する廃棄物の粒径に応じて炉内の空塔速度を制御することを特徴とする廃棄物溶融処理方法。
【請求項2】
上記空塔速度を充填層の粒径に応じて0.15〜1.0Nm/secとすることを特徴とする請求項1に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項3】
上記空塔速度は最下段羽口の直上部で0.15〜1.0Nm/secとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の廃棄物溶融処理方法。
【請求項4】
炉上部から廃棄物および塊状炭素系可燃物質を投入し、炉体羽口から酸素源を供給し、炉底部の排出孔から反応熱によって溶融した廃棄物中の灰分および非燃焼物を排出し、炉上部から発生したガスを排出する炉内に充填層を形成して廃棄物を溶融処理する廃棄物溶融処理炉において、
前記充填層の廃棄物粒度に応じて最下段羽口から供給する酸素源供給量を制御する制御装置を配設したことを特徴とする廃棄物溶融処理炉。
【請求項5】
前記羽口は前記溶融炉内充填層内に設置されていることを特徴とする請求項4に記載の廃棄物溶融処理炉。
【請求項6】
前記最下段の羽口直上部の炉内径が、空塔速度が0.15〜1.0Nm/secとなるように設定されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の廃棄物溶融処理炉。
【請求項7】
上記羽口は炉体回りに複数設置されていることを特徴とする請求項4、5又は6に記載の廃棄物溶融処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−207912(P2006−207912A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19327(P2005−19327)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】