説明

建築物の構造

【課題】 建築物の開口部を大きくとることができ、鉄筋量を大きく減らすことができ、さらに梁が柱に先行して降伏することによって、柱の降伏およびせん断破壊を避け、建築物全体の破壊を避けることができる建築物を提供する。
【解決手段】 桁行方向の大梁は、梁せい寸法よりも梁幅寸法の大きい、フラットビーム1で構成する。このフラットビーム1の内部にはアフターボンドPC鋼より線2を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に集合住宅のような開口部を大きく取る必要がある建築物では、逆梁構造が採用されている。
逆梁とは、スラブを支持する大梁を、スラブの上面に突出させる工法であり、この逆梁をバルコニーの先端に位置させれば、床から天井までの開口部の高さを十分に取ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし逆梁構造では次のような問題がある。
<イ> 逆梁をバルコニー先端に配置する「逆梁アウトフレーム工法」では、通常なら10〜15cm程度の厚さにすぎないバルコニー先端の腰壁の厚さが、40〜70cmにもなってしまう。そのためにバルコニーの利用できる奥行きが減少するという問題がある。
<ロ> 通常の場合にはバルコニーは屋外にあり、床面積に算入されないが、逆梁アウトフレーム工法では、バルコニーが建物全体の骨組みである大梁の内側に位置するために室内扱いとされ、床面積に算入しなければならない。そのために敷地面積に対する床面積の割合を定める建ぺい率が制限値ぎりぎりで計画している場合には、逆梁アウトフレーム工法を採用することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような従来の構造の課題を解決した本発明の建築物の構造は、桁行方向の大梁は、梁せい寸法よりも梁幅寸法の大きい、フラットビームで構成し、フラットビームの内部にはアフターボンドPC鋼より線を配置して構成した、建築物の構造を特徴としたものである。
さらに本発明の建築物の構築方法は、桁行方向の大梁として、梁せい寸法よりも梁幅寸法の大きい、フラットビームを採用し、フラットビームの内部にアフターボンドPC鋼より線を配置し、アフターボンドPC鋼より線を緊張後、一定時間経過した後にアフターボンドPC鋼より線とシースの間に充填してある樹脂を硬化させて行う建築物の構築方法を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の建築物の構造は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<イ> 集合住宅やオフィスビルでは、開口部を大きく取れる構造が要求されているが、本発明の工法では、フラットビームを採用して梁せいを減らすことができるから、建築物の開口部を大きくとることができる。
<ロ> 鉛直荷重の多くをアフターボンドPC鋼より線によって負担することによって、鉄筋量を大きく減らすことができる。
<ハ> 鉄筋量が減少することによって、地震時に梁が曲げ降伏しやすくなるが、地震時に梁を先行して曲げ降伏させることによって、梁で地震エネルギーを吸収させることができる。
<ニ> その結果、梁が柱に先行して降伏することによって、柱の降伏およびせん断破壊を避け、建築物全体の破壊を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図面を参照しながら本発明の建築物の構造の実施例を説明する。
【実施例】
【0007】
<1>全体の構成。
本発明の建築物の構造は、桁行方向の大梁として、梁せい寸法よりも梁幅寸法の大きいフラットビーム1を採用し、フラットビーム1の内部にアフターボンドPC鋼線2を配置することを特徴としている。以下、具体的に説明する。
【0008】
<2>フラットビーム1。
本発明の建築の構造では、桁行方向の大梁を高さは通常の梁せいより低い30〜50cm程度、幅は通常の梁より広い60〜80cm程度のフラットビーム1構造を採用する。
【0009】
<3>フラットビーム1の問題。
フラットビーム1自体は従来から知られているが、従来のフラットビーム1には次のような問題が指摘されていた。
すなわち、フラットビーム1構造は通常の梁と比較して剛性が低いため、ひび割れ、長期撓み、振動障害などが避けられない。
またフラットビーム1構造は地震時の耐力が不足しがちで、耐震設計が困難であると考えられている。
以上のような問題を解決するために、本発明の構造ではフラットビーム1の内部にアフターボンドPC鋼より線2を配置して対処する。
【0010】
<4>アフターボンドPC鋼より線2。
アフターボンドPC鋼より線2とは、PC鋼より線の表面に常温で硬化する特殊なエポキシ樹脂を塗布し、その上から表面に凹凸形状を与えたポリエチレンシースを被覆した鋼線であり、一般名称としては「プレグラウトPC鋼材」または「後硬化型PC鋼材」と呼ばれることがある。
これらの製品で採用されている樹脂は、硬化までに長期間を要するものが採用されている。
その硬化時間は、PC鋼より線を型枠の内部に配置し、コンクリートを打設し、緊張力を導入するまでの期間は未硬化の状態を維持し、緊張後の十分な時間の経過とともに徐々に硬化が進行するように調整してある。
そのために硬化前はアンボンド工法と同様にPC鋼より線はシースを介してコンクリートと縁が切れており、硬化後はPC鋼より線とシースの間にグラウトを注入するグラウト工法と同様にPC鋼より線はコンクリートと一体化する。
【0011】
<5>アフターボンドPC鋼より線2の設置。(図1)
フラットビーム1には上記したような問題があったが、アフターボンドPC鋼より線2と組み合わせることによって問題を解決することができた。
すなわち、フラットビーム1の内部にアフターボンドPC鋼より線2を、空中に送電線を架け渡したときに見られる二次曲線を形成するように型枠の内部に配置し、コンクリートを打設する。
このアフターボンドPC鋼より線2の量は、アフターボンドPC鋼より線2によって大部分の鉛直荷重を負担し、アフターボンドPC鋼より線2の負担分の残りを鉄筋3で負担するように配置する。
その後に型枠の内部にコンクリートを打設してコンクリートを硬化させる。
コンクリートの硬化後にアフターボンドPC鋼より線2を緊張すると、コンクリートを上方へ持ち上げる方向の力、すなわち荷重キャンセル効果が発揮される。
これによって主として梁の自重など長期に持続する荷重によって生じるコンクリートのたわみ、ひび割れの発生を抑制することができる。
すなわちフラットビーム1が剛性が低いことから生じる問題は、フラットビーム1の内部にアフターボンドPC鋼より線2を配置して緊張することによって、ひび割れ、長期のたわみ、振動障害などを避けることができる。
また耐震設計が困難であるという問題は、フラットビーム1の内部にアフターボンドPC鋼より線2を配置して緊張することによって、スラブおよび梁の自重を主たる要因とする長期荷重の一部をキャンセルする効果があり、これによって梁の鉄筋量が長期荷重に支配されず、地震に対して最適な鉄筋量を選定することができる。
【0012】
<6>梁の先行降伏。
以上のような構造を採用することによって、大地震時には柱よりも先に梁を曲げ降伏させるように設計することができる。
その結果、梁が地震エネルギーを吸収して柱の損傷を防ぐように設計することが可能となる。
もし梁よりも先に柱が破壊すると建物全体の崩壊につながり危険な壊れ方となるが、本発明の構成であれば梁を柱に先行して降伏させることができるから、上記のような致命的な破壊を避けることができる。
【0013】
<7>大きい開口部。
フラットビーム1の高さは前記したように30〜50cmであり、床スラブの厚さは通常は20〜25cmである。
そのために図3の下に示すように、スラブ下面からの突出量は10〜25cm程度に収まる。
それに対して通常の大梁aのスラブ下面からの突出量は図3の上に示すように40cm程度であることと比較すると大幅に突出量を減少することが明らかである。
その結果、図3に示すように開口部が広がり、明るくすっきりとした室内の設計が可能となる。
【0014】
<8>床スラブとの組み合わせ。
実際に集合住宅では1住戸の主要な床部分は、図1に示すようにフラットビーム1とフラットビーム1、および戸境壁4と戸境壁4とで囲まれた空間となる。
このフラットビーム1間は、その中間に小梁を配置しない1枚スラブ5として架け渡し、そのスラブ5の内部にはフラットビーム1と平行な方向にアンボンドPC鋼より線6を配置したプレストレスト鉄筋コンクリート構造とする構成が望ましい。
ここにアンボンドPC鋼より線6とは、シースで被覆したPC鋼線であり、シースとPC鋼線の間にオイルを介在させてあり、相互に拘束していない構造の鋼線である。
このような構成を採用することによって床スラブ5およびフラットビーム1とともに、ひび割れ、たわみ、およびひび割れにともなう振動障害がなく、遮音性能と耐久性に優れた集合住宅に最適な構造体を得ることができる。
【0015】
<9>アウトフレーム工法。
本発明のフラットビーム1構造をアウトフレーム工法に採用することもできる。
従来のアウトフレーム工法では図4の上に示すように、バルコニー先端の大梁aは逆梁として配置されるが、本発明のフラットビーム1構造では、図4の下に示すようにアウトフレーム工法でも通常のスラブ下面に突出する梁として配置することになる。
その結果、図4で比較するように、大梁aの場合のバルコニーの有効幅がB‘であるのに対して、本発明の構造であればバルコニーの有効幅を広くB取ることができる。
このようにアウトフレーム工法と本発明の構造を組み合わせることによって、柱が室内に突出しないというアウトフレーム工法の利点だけでなく、広いバルコニー空間を確保できるという効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の建築物の構造の実施例の説明図。
【図2】アフターボンドPC鋼より線の配置の説明図。
【図3】開口部の寸法を比較した説明図。
【図4】バルコニーの寸法を比較した説明図。
【符号の説明】
【0017】
1:フラットビーム
2:アフターボンドPC鋼より線
3:鉄筋
4:戸境壁
5:スラブ
6:アンボンドPC鋼より線
7:柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桁行方向の大梁は、梁せい寸法よりも梁幅寸法の大きい、フラットビームで構成し、
フラットビームの内部にはアフターボンドPC鋼より線を配置して構成した、
建築物の構造。
【請求項2】
桁行方向の大梁として、梁せい寸法よりも梁幅寸法の大きい、フラットビームを採用し、
フラットビームの内部にアフターボンドPC鋼より線を配置し、
アフターボンドPC鋼より線を緊張し、
緊張後、一定時間経過した後にアフターボンドPC鋼より線とシースの間に充填してある樹脂を硬化させて行う、
建築物の構築方法。
【請求項3】
請求項1記載の構造であって、
上記のフラットビーム間に掛け渡した床は、アンボンドPC鋼より線を配置した床である、
建築物の構造。
【請求項4】
請求項1記載の構造であって、
アフターボンドPC鋼より線によって大部分の鉛直荷重を負担し、
アフターボンドPC鋼より線の負担分の残りを鉄筋で負担する、
建築物の構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−226068(P2006−226068A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44298(P2005−44298)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(505062802)有限会社シーアンドシーエンジニアリング (1)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】