説明

建設機械の暖機装置

【課題】建設機械の極寒冷地での稼動に伴い、作動油が粘度の低い作動油に交換された場合にも、その暖機運転を効率的に実行することができる建設機械の暖機装置を提供する。
【解決手段】建設機械の暖機装置において、作動油を貯留する作動油タンク3と、前記作動油タンク3内の作動油を、建設機械の油圧回路に給送する油圧ポンプ2と、前記油圧ポンプ2を駆動するエンジン1と、前記作動油タンク3内の温度を検出する温度検出器8と、前記作動油の温度に対応した閾値を設定する設定器9と、前記設定器9によって入力された閾値を記憶する記憶部71と前記温度検出器8からの温度値を取込み、この温度値を前記記憶部71に記憶した前記閾値と比較し、前記温度値が前記閾値に達するまで、暖機運転指令を前記エンジンに出力する演算部72とを有する制御装置7とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の暖機装置に係り、更に詳しくは、極寒冷地で稼動する建設機械に好適な暖機装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に建設機械は、建設機械に装設した作業機等を操作するアクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプと、作動油を冷却するためのオイルクーラとを有する油圧回路を備えている。この種の建設機械の油圧回路を循環する作動油は、ある一定の温度範囲の環境下では良好な性状を示すが、寒冷地、高地等の温度の低い環境においては、粘性抵抗を増大させる。このような低温環境の下で、建設機械に搭載したエンジンの始動直後に、油圧ポンプを高速運転すると、高い粘性抵抗の作動油を油圧ポンプが十分に吸い込めないため、キャビテーションが発生する場合がある。油圧回路にキャビテーションが発生すると、その程度によっては、油圧回路や油圧機器に損傷を与える場合がある。
【0003】
この点を改善するために、各種アクチュエータに作動油を供給するための油圧ポンプの上流側の作動油の油温を検出する油温検出器と、オイルクーラの上流側の作動油の圧力を検出する圧力検出器と、油温検出器の検出値に基づいて、前記油圧ポンプの吐出流量を調節し、圧力検出器の検出値に基づいて警報装置を作動するコントローラとを備えたものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−41204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
極低温の環境下で建設機械を稼動させる場合に、作動油の粘性抵抗の増大を防止するために、一般仕様の作動油から、極低温の環境に適合する粘度特性、即ち、粘度の低い作動油に入れ替えることが、一般に行われている。
【0006】
このような低粘度の作動油に入れ替えたとしても、作動油の状態を常時監視しているものではないため、作動油の粘性抵抗が増大した場合には、油圧ポンプのサクションフィルタにおいてフィルタ目詰りを発生させる虞が解消されない。また、作動油の粘度特性は、多岐に亘るため、作動油の粘度特性を意識しないと、始動時における作動油の温度を上昇させるための暖機運転が必要以上に長時間行われてしまう可能性がある。暖機運転が必要以上に長時間行われると、通常作業開始までの待機時間が長くなり、燃料費が増大するとともに、建設機械の稼動効率を低下させるという問題が発生する。従来の暖機運転はオペレータの経験に依存する部分が多かった。
【0007】
本発明は、上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的とするところは、建設機械の極寒冷地での稼動に伴い、作動油が粘度の低い作動油に交換された場合にも、オペレータの経験に依存することなくその暖機運転を効率的に実行することができる建設機械の暖機装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、建設機械の暖機装置において、作動油を貯留する作動油タンクと、前記作動油タンク内の作動油を、建設機械の油圧回路に給送する油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動するエンジンと、前記作動油タンク内の温度を検出する温度検出器と、前記作動油の温度に対応した閾値を設定する設定器と、前記設定器によって入力された閾値を記憶する記憶部と前記温度検出器からの温度値を取込み、この温度値を前記記憶部に記憶した前記閾値と比較し、前記温度値が前記閾値に達するまで、暖機運転指令を前記エンジンに出力する演算部とを有する制御装置とを備えたものとする。
【0009】
(2)上記目的を達成するために、本発明は、建設機械の暖機装置において、作動油を貯留する作動油タンクと、前記作動油タンク内の作動油を、建設機械の油圧回路に給送する油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動するエンジンと、前記作動油タンク内の温度を検出する温度検出器と、前記油圧ポンプの吸込み側の作動油圧力を検出する圧力検出器と、前記作動油の温度と圧力に対応した閾値を設定する設定器と、前記設定器によって入力された閾値を記憶する記憶部と、前記温度検出器からの温度値、及び前記圧力検出器からの圧力値を取込み、この温度値及び圧力値を前記記憶部に記憶した前記閾値と比較し、前記温度値及び圧力値が前記閾値に達するまで、暖機運転指令を前記エンジンに出力する演算部とを有する制御装置とを備えたものとする。
【0010】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記制御装置における前記記憶部は、第1乃至第3の閾値を記憶し、前記制御装置の前記演算部は、前記温度検出器からの温度値が、前記第1の閾値に対応しているかにより暖気運転するか否かを判断する手順と、前記手順により、暖気運転をすると判断した場合に、エンジン回転数を低回転で回転制御する信号を前記エンジンに出力し、その後、前記圧力検出器からの圧力値が、前記第2の閾値に達した場合、前記第3の閾値に達するまで、エンジン回転数を高回転で回転制御する信号を前記エンジンに出力し、前記温度検出器からの温度値が前記第1の閾値に達した場合、又は前記圧力検出器からの圧力値が前記第3の閾値に達した場合、通常の運転モード信号を前記前記エンジンに出力するものとする。
【0011】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかにおいて、好ましくは、前記制御装置の前記演算部は、前記暖機運転指令の出力時、エンコンダイヤルからの指令を無効処理するものとする。
【0012】
(5)上記(2)乃至(4)のいずれかにおいて、好ましくは、前記作動油の温度に対応した閾値は、作動油の種類ごとに設定され、前記作動油の圧力に対応した閾値は、建設機械の特性に基づいて設定されているものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、建設機械の極寒冷地での稼動に伴い、作動油が粘度の低い作動油に交換された場合にも、オペレータの経験に依存することなくその暖機運転を効率的に実行することができるので、そのための待機時間が最適になり、建設機械の稼動効率が向上する。また、最適な暖機運転が実行されるため、油圧機器をキャビテーション等による損傷から保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図2】本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態に用いる作動油の温度と粘度の関係を示す特性図である。
【図3】本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態による状態制御の内容を示すフローチャート図である。
【図4】本発明の建設機械の暖機装置の第2の実施の形態を示す構成図である。
【図5】本発明の建設機械の暖機装置の第2の実施の形態による状態制御の内容を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の建設機械の暖機装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態を示す構成図である。この図1において、1は、例えば油圧ショベルなどの建設機械におけるディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)であり、2は、このエンジン1によってポンプミッション1Aを介して駆動される可変容量型の油圧ポンプである。この油圧ポンプ2の吸込み側は、作動油タンク3に管路4とオイルフィルタ5を介して接続され、油圧ポンプ2の吐出側は、例えば建設機械におけるアクチュエータ(図示せず)などに管路4を介して接続されている。この油圧ポンプ2で加圧された駆動油圧が、アクチュエータを駆動することにより、建設機械に設けられたショベル等の作業機械を作動させている。
【0017】
また、本実施の形態は、エンジン1の回転数及び燃料噴射量を制御するエンジンコントロールモジュール(以下、ECMという)6と、オペレータの操作指令,各状態量,各条件に基づいて演算し算出されたエンジン回転数指令、及びエンジントルク指令をECM6に送信する制御装置7と、作動油タンク3に設けられ、作動油タンク3内の作動油の温度Tを検出する油温度検出器8と、建設機械で使用している作動油のデータを入力可能とする設定器を有するディスプレイ装置9と、エンジン1の出力を調整可能とするエンコンダイヤル10とを備えている。
【0018】
ECM6は、エンジン1の動作状態をモニタリングすると共に、燃料噴射装置(図示せず)からエンジン1へ噴射される燃料の噴射量を制御する電子ガバナ6Aの制御を行う。ECM6は、制御装置7から送信された指令値から必要な燃料噴射量を演算し、電子ガバナ6Aのアクチュエータの角度を制御するために、例えばサーボ機構に電流信号を出力する。
【0019】
制御装置7は、予め各種設定値を記憶する記憶部(メモリ)71と、各種手順を実行する演算部(CPU)72と、図示しない入出力装置I/Oとを備えるコントローラユニットで構成されている。
【0020】
制御装置7には、油温度検出器8から作動油タンク3内の作動油の温度検出信号が入力される。また、例えば、建設機械の運転室に設けられたエンコンダイヤル10からのエンジン出力指令値が入力される。さらに、制御装置7には、建設機械で使用している作動油のデータが、ディスプレイ装置9の設定器によって入力される。また、ディスプレイ装置9には、選択されている作動油のデータも表示される。
【0021】
制御装置7の記憶部71には、各種作動油の作動油温度に対する作動油の粘度の関係を示す特性が入力されて記憶されている。また、建設機械におけるエンジン1の稼働基準粘度、作動油暖機モードにおけるエンジン1の暖機回転数が入力されて記憶されている。また、演算部72は、ディスプレイ装置9の設定器から取り込んだ作動油データと建設機械におけるエンジン1の稼働基準粘度とに基づき、第1の閾値として作動油の温度閾値S(作動油温度)を決定する手順と、この温度閾値Sと油温度検出器8で検出された作動油の温度とを比較し、作動油温度が温度閾値S以下の場合には、作動油暖機モードを選択してECM6に暖機回転数指令を出力する手順と、前記作動油温度が温度閾値Sより以上となった場合には、通常運転モードを選択してECM6に暖機回転数指令以外の通常の回転数指令を出力する手順とを備えている。
【0022】
上述した各種の作動油の作動油温度と作動油の粘度の関係を示す特性の設定の一例を、図2を用いて説明する。
図2は、本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態に用いる作動油の温度と粘度の関係を示す特性図である。図2において、横軸は作動油温度、縦軸は作動油の粘度を示す。特性線Bは、作動油Bにおける特性を示し、特性線Aは、作動油Aにおける特性を示す。図2において、稼働基準粘度αは、建設機械の通常運転が可能となる作動油の粘度であって、この稼働基準粘度αに該当する作動油温度が各種作動油の温度閾値Sとなる。つまり、作動油Bであれば、温度閾値SはBとなり、この温度閾値Sまでに作動油温度が上がれば、暖機運転を完了して良いことになる。作動油Aにおいても同様である。具体的には、ディスプレイ装置9の設定器において、建設機械で使用する作動油を選択入力することにより、選択された作動油の温度閾値Sが、制御装置7の制御要素として入力される。
【0023】
次に、上述した本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態の動作を図3を用いて説明する。図3は、本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態による状態制御の内容を示すフローチャート図である。
まず、図3のステップ(S100)では、キースイッチONにより、制御装置7の例えばコントローラに制御電源が供給され制御プログラムがスタートし、例えば初期化処理などが行われる。
【0024】
次のステップ(S102)では、作動油データが入力される。具体的には、ディスプレイ装置9において、建設機械で使用する作動油を選択入力するか、その作動油の各種データを入力することで、制御装置7に各種データが入力される。
【0025】
次のステップ(S104)では、上記ステップ(S102)で入力された作動油データに基づき温度閾値Sを制御装置7の演算部72が算出する。具体的には、記憶部72に記憶されている各種の作動油の作動油温度と作動油の粘度の特性と、建設機械におけるエンジン1の稼働基準粘度から、ディスプレイ装置9で選択された作動油のデータを抽出し、温度閾値Sとして、作動油の暖機完了温度を算出する。この温度閾値Sは、記憶部71に記憶されると共に、ディスプレイ装置9に表示される。
【0026】
次のステップ(S106)では、エンジン1がスタートする。表示されていないが、一般には、例えばキースイッチをON位置から、スタート位置に切り換えることと、点火系統機器の条件成立によって、エンジン1がスタートする。
【0027】
次のステップ(S200)では、作動油タンク3に設けられている油温度検出器8が作動油の温度Tを検出し、制御装置7の入力部に入力する。一方、演算部72が運転モードの選択を行う。具体的には、入力された作動油の温度Tと、予め記憶部71に記憶された作動油の温度閾値Sとの大小比較演算を行う。この比較演算の結果、作動油の温度Tが温度閾値S未満の場合には、YESと判断され作動油暖機モードが選択され、ステップ(S202)に移る。
【0028】
ステップ(S202)では、作動油暖機モードが実行される。具体的には、エンジン1の回転数を、例えば700rpmのLO回転に固定するために、制御装置7からECM6に対して、暖機回転数指令が出力される。この作動油暖機モードにおいては、この暖機回転数指令が優先され、例えば、オペレータがエンコンダイヤル等を操作したとしても、これらの操作は受け付けられず無効となり、エンジン1は700rpmの定速運転が継続されることになる。
【0029】
次のステップ(S204)では、制御装置7の演算部72において、再度、入力された作動油の温度Tと、予め記憶部71に記憶された作動油の温度閾値Sとの大小比較演算を行う。この比較演算の結果、作動油の温度Tが温度閾値S未満の場合には、YESと判断され作動油暖機モードが選択され、先のステップ(S202)に戻り、作動油暖機モードが継続して実行される。一方、作動油の温度Tが温度閾値S以上の場合には、NOと判断され通常運転モードのステップ(S206)に移る。
【0030】
上述したステップ(S200)において、NOと判断された場合は、作動油の温度Tが温度閾値S以上の場合であるから、通常運転モードが選択され、ステップ(S206)に移る。
【0031】
ステップ(S206)では、通常運転モードが実行される。具体的には、先のステップ(S202)でECM6に出力されていた暖機回転数指令が、取り消され、例えば通常回転数である2000rpmまでの通常回転数指令が出力され、その後、エンコンダイヤル10や、トルク指令等の内部演算で算出された回転数指令が演算部72からECM6に出力され、通常のエンジン1の運転が継続されていく。
【0032】
上述した本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態によれば、建設機械の極寒冷地での稼動に伴い、作動油が粘度の低い作動油に交換された場合にも、交換された作動油に応じた温度閾値が選択されて、その温度閾値に作動油温度が上昇するまで、エンジンの暖機運転が実行される。この結果、オペレータの経験に依存することなく暖機運転を効率的に実行することができるので、そのための待機時間が最適になり、建設機械の稼動効率が向上する。
【0033】
また、各作動油の温度閾値は、作動油の温度―粘度特性と、建設機械の稼働基準粘度の値によって定まり、これらの特性値は、ディスプレイ装置の設定器から入力することができる。したがって、特性の判明している作動油を使用するのであれば、作業環境の気温に影響されることなく、その建設機械に最も適切な暖機が可能となる。この結果、油圧回路におけるキャビテーションの発生など、暖機不良による不測の事故を確実に防止することができる。
【実施例2】
【0034】
次に、本発明の建設機械の暖機装置の第2の実施の形態を図4及び図5を用いて説明する。図4は本発明の建設機械の暖機装置の第2の実施の形態を備えたシステムを示す構成図、図5は本発明の建設機械の暖機装置の第2の実施の形態による状態制御の内容を示すフローチャート図である。なお、図4、図5において、図1乃至図3に示す符号と同符号のものは同一部分又は相当する部分であるので、その部分の説明を省略する。第2の実施の形態においては、油圧回路におけるキャビテーションの発生などの不測の事故を確実に防止することと共に、効率のよい暖機運転の実現を目的として、油圧ポンプの吸込み管路部に作動油の圧力を検出する圧力検出器を設け、この作動油圧力値に応じた暖機運転モードを設けている。
【0035】
本実施の形態においては、図4に示すように、第1の実施の形態における油圧ポンプ2の吸込み側であるオイルフィルタ5と油圧ポンプ2の吸込み側の間の管路4に、作動油の圧力P0を検出する油圧力検出器11が設けられている。また、制御装置7には、第1の実施の形態における構成要素の他に、油圧力検出器11から作動油の管路4内圧力検出信号が入出力装置I/Oを介して演算部72に入力されている。また、記憶部71には、第1の実施の形態における各種設定値の他に、その建設機械固有の値である第3閾値として、油圧ポンプ2の通常稼働時における作動油の管路圧力が圧力閾値P1として記憶されている。また、第2閾値として、圧力閾値P1よりやや高く、油圧ポンプ2の回転数を上昇させてもキャビテーションが発生しにくい作動油の管路圧力が圧力閾値P2として記憶されている。また、演算部72は、これらの圧力閾値P1,P2と油圧力検出器11で検出された作動油の圧力とを比較し、作動油圧力が圧力閾値P2以上の場合には、作動油暖機モードを保持してECM6への暖機回転数指令の出力を継続する手順と、前記作動油圧力が圧力閾値P2未満になった場合には、ECM6への暖機回転数指令を例えば700rpmから1900rpmまで可変させて、高回転数域での暖機回転数指令を出力する手順と、前記作動油圧力が圧力閾値P1以上の場合には、高回転数域での暖機を保持してECM6への回転数指令の出力を継続する手順と、さらに前記作動油圧力が圧力閾値P1未満になった場合には、通常運転モードを選択してECM6に暖機回転数指令以外の通常の回転数指令を出力する手順とを備えている。
【0036】
次に、上述した本発明の建設機械の暖機装置の第2の実施の形態の動作を図5を用いて説明する。
図5において、ステップ(S100)からステップ(S106)までは、図3に示す本発明の建設機械の暖機装置の第1の実施の形態の動作と同じであるので、その部分の説明を省略する。
【0037】
ステップ(S106)においてエンジン1がスタートした後、ステップ(S300)では、作動油タンク3に設けられている油温度検出器8が作動油の温度Tを検出し、制御装置7の入力部に入力する。一方、演算部72が運転モードの選択を行う。具体的には、入力された作動油の温度Tと、予め記憶部71に記憶された作動油の温度閾値Sとの大小比較演算を行う。この比較演算の結果、作動油の温度Tが温度閾値S未満の場合には、YESと判断され作動油暖機モードが選択され、ステップ(S302)に移る。
【0038】
ステップ(S302)では、作動油暖機モードが実行される。具体的には、エンジン1の回転数を、例えば700rpmのLO回転に固定するために、制御装置7からECM6に対して、暖機回転数指令が出力される。この作動油暖機モードにおいては、この暖機回転数指令が優先され、例えば、オペレータがエンコンダイヤル等を操作したとしても、これらの操作は受け付けられず無効となり、エンジン1は700rpmの定速運転が継続されることになる。
【0039】
次のステップ(S304)では、制御装置7の演算部72において、入力された作動油の圧力P0と、予め記憶部71に記憶された作動油の圧力閾値P2との大小比較演算を行う。この比較演算の結果、作動油の圧力P0が圧力閾値P2以上の場合には、YESと判断され、先のステップ(S302)に戻り、作動油暖機モードが継続して実行される。一方、作動油の圧力P0が圧力閾値P2未満の場合には、NOと判断されエンジン回転数を可変させて、高回転数域での暖機運転モードのステップ(S306)に移る。
【0040】
ステップ(S306)では、エンジン高回転数域での暖機運転モードが実行される。具体的には、エンジン1の回転数を先のステップで実行されていた作動油暖機モードの例えば700rpmから、1900rpmのHi回転に固定するために、制御装置7からECM6に対して、高回転数域での暖機回転数指令が出力される。このエンジン高回転数域での暖機運転モードにおいては、この暖機回転数指令が優先され、例えば、オペレータがエンコンダイヤル等を操作したとしても、これらの操作は受け付けられず無効となり、エンジン1は1900rpmの定速運転が継続されることになる。
【0041】
次のステップ(S308)では、制御装置7の演算部72において、再度、入力された作動油の圧力P0と、予め記憶部71に記憶された作動油の圧力閾値P1との大小比較演算を行う。この比較演算の結果、作動油の圧力P0が圧力閾値P1以上の場合には、YESと判断されエンジン高回転数域での暖機運転モードが選択され、先のステップ(S306)に戻り、エンジン高回転数域での暖機運転モードが継続して実行される。一方、作動油の圧力P0が圧力閾値P1未満の場合には、NOと判断され通常運転モードのステップ(S310)に移る。
【0042】
上述したステップ(S300)において、NOと判断された場合は、作動油の温度Tが温度閾値S以上の場合であるから、通常運転モードが選択され、ステップ(S310)に移る。
【0043】
ステップ(S310)では、通常運転モードが実行される。具体的には、先のステップ(S306)でECM6に出力されていた高回転数域での暖機回転数指令が、取り消され、例えば通常回転数である2000rpmまでの通常回転数指令が出力され、その後、エンコンダイヤル10や、トルク指令等の内部演算で算出された回転数指令が演算部72からECM6に出力され、通常のエンジン1の運転が継続されていく。
【0044】
本発明の建設機械の暖機装置の第2の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様な効果を得ることができるとともに、油圧ポンプ2の作動油の吸込み圧力を検出し、キャビテーション発生の虞のない圧力において、暖機を高回転数で実施することにより、暖機運転時間の短縮を図ることができる。
【0045】
また、作動油の管路における圧力を検出しているので、作動油の流れ状態が把握できる。この結果、油圧回路におけるキャビテーションの発生など、暖機不良による不測の事故を確実に防止することができる。
【0046】
さらに、高回転数域での暖機回転数指令は、時間と回転数とを可変設定することができるので、各建設機械に適合したプログラムを採用することができる。この結果、最適な暖機運転が可能となり、建設機械の稼動効率を上昇させることができる。
【0047】
なお、本実施の形態において、高回転数域での暖機回転数指令を1900rpmで説明したが、この回転数に限るものではなく、例えば予めプログラムされた回転数指令に従って、段階的に回転数を上昇させてもよい。また、エンジン高回転数域での暖機運転モードにおいては、さらに、油圧ポンプの流量を最小に固定させることで、作動油の暖機時間を早めてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 エンジン
1A ポンプミッション
2 油圧ポンプ
3 作動油タンク
4 管路
5 オイルフィルタ
6 エンジンコントロールモジュール(ECM)
6A 電子ガバナ
7 制御装置
71 記憶部
72 演算部
8 油温度検出器
9 ディスプレイ装置
10 エンコンダイヤル
11 油圧力検出器
S 温度閾値(第1閾値)
P1 圧力閾値(第3閾値)
P2 圧力閾値(第2閾値)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械の暖機装置において、
作動油を貯留する作動油タンクと、
前記作動油タンク内の作動油を、建設機械の油圧回路に給送する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するエンジンと、
前記作動油タンク内の温度を検出する温度検出器と、
前記作動油の温度に対応した閾値を設定する設定器と、
前記設定器によって入力された閾値を記憶する記憶部と前記温度検出器からの温度値を取込み、この温度値を前記記憶部に記憶した前記閾値と比較し、前記温度値が前記閾値に達するまで、暖機運転指令を前記エンジンに出力する演算部とを有する制御装置とを備えた
ことを特徴とする建設機械の暖機装置。
【請求項2】
建設機械の暖機装置において、
作動油を貯留する作動油タンクと、
前記作動油タンク内の作動油を、建設機械の油圧回路に給送する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するエンジンと、
前記作動油タンク内の温度を検出する温度検出器と、
前記油圧ポンプの吸込み側の作動油圧力を検出する圧力検出器と、
前記作動油の温度と圧力に対応した閾値を設定する設定器と、
前記設定器によって入力された閾値を記憶する記憶部と、前記温度検出器からの温度値、及び前記圧力検出器からの圧力値を取込み、この温度値及び圧力値を前記記憶部に記憶した前記閾値と比較し、前記温度値及び圧力値が前記閾値に達するまで、暖機運転指令を前記エンジンに出力する演算部とを有する制御装置とを備えた
ことを特徴とする建設機械の暖機装置。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械の暖機装置において、
前記制御装置における前記記憶部は、第1乃至第3の閾値を記憶し、
前記制御装置の前記演算部は、前記温度検出器からの温度値が、前記第1の閾値に対応しているかにより暖気運転するか否かを判断する手順と、前記手順により、暖気運転をすると判断した場合に、エンジン回転数を低回転で回転制御する信号を前記エンジンに出力し、その後、前記圧力検出器からの圧力値が、前記第2の閾値に達した場合、前記第3の閾値に達するまで、エンジン回転数を高回転で回転制御する信号を前記エンジンに出力し、前記温度検出器からの温度値が前記第1の閾値に達した場合、又は前記圧力検出器からの圧力値が前記第3の閾値に達した場合、通常の運転モード信号を前記前記エンジンに出力する
ことを特徴とする建設機械の暖機装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の建設機械の暖機装置において、
前記制御装置の前記演算部は、前記暖機運転指令の出力時、エンコンダイヤルからの指令を無効処理する
ことを特徴とする建設機械の暖機装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の建設機械の暖機装置において、
前記作動油の温度に対応した閾値は、作動油の種類ごとに設定され、
前記作動油の圧力に対応した閾値は、建設機械の特性に基づいて設定されている
ことを特徴とする建設機械の暖機装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−270647(P2010−270647A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122166(P2009−122166)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】