説明

建設機械用キャビンの前窓保持装置

【課題】前窓の開閉力を低減させることができるとともに、前窓をキャビンの前面に配置した場合のオペレータの良好な視界を確保することができる。
【解決手段】キャビン1の前面に設けられる上前窓2を天井部4まで摺動させる摺動手段と、天井部4で上前窓2をロック可能なロック装置8と、このロック装置8の故障時の安全装置である落下防止装置10を備え、摺動手段は、一端が上前窓2の側面を形成するフレーム2に回動自在に連結され、他端がキャビン1のフレームに回動自在に連結されるアーム7を有し上前窓2の両側のそれぞれに配置される一対のリンク機構を含み、落下防止装置10は、キャビン1の本体を構成するフレーム9に設けられ、天井部4に配置された上前窓2に対向するようにこの上前窓2の下方に位置し、上前窓2が落下しようとした際に上前窓2に当接して上前窓2を支持する支持部、すなわちL字ピン10Dを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械に備えられ、キャビンの前面に配置された前窓を、前面の開放に際してキャビンの天井部まで摺動させて、この天井部で保持させるようにした建設機械用キャビンの前窓保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は従来の建設機械用キャビンの前窓保持装置が備えられるキャビンの外観斜視図、図5は図4に示すキャビンの一部を切り欠いた天井部付近をキャビン内の下方から見た要部斜視図である。
【0003】
これらの図4,5に示す従来のキャビン21は、前面の上側位置に配置される前窓、すなわち上前窓22と、前面の下側位置に配置される下前窓23とを備えている。上前窓22は、前面の開放に際して、キャビン21の天井部24まで摺動可能になっている。
【0004】
キャビン21は、図5に示すように、前面を形成する左右のフレーム25のそれぞれに溝26を備えている。また、天井部24にも溝26に連設される溝を備えている。上前窓22は、ガラス22Aと、このガラス22Aを保持するフレーム22Bを有し、このフレーム22Bの四隅のそれぞれには、上述した溝26等のうちの対応する溝26等内を転動可能な上下ローラ22Cを有している。上述した溝26等と4つの上下ローラ22Cとによって、上前窓22を、キャビン21の前面の開放に際してキャビン21の天井部24まで摺動させ、また、前面の閉鎖に際して天井部24から前面まで摺動させる摺動手段を構成している。
【0005】
また、上前窓22を前面にロック可能であるとともに、そのロックが解除されて図5に示すように上前窓22を天井部24まで摺動させた際に、この天井部24で上前窓22をロック可能なロック装置27を備えている。
【0006】
さらに、ロック装置27の故障時の安全確保のために、すなわちロック装置27が故障した際の天井部24に配置された上前窓22の前面側への移動(以下、これを「落下」と称す。)を防ぐために、落下防止装置28を備えている。この落下防止装置28は、上前窓22のフレーム22Bに固定され上前窓22の横方向に張り出すように設けられるラッチピン28Aと、キャビン21に設けられ、ラッチピン28Aが挿入、離脱可能な孔を有するブラケット28Bとから成っている。
【0007】
上述した溝26及び上下ローラ22Cを含む摺動手段と、ロック装置27と、落下防止装置28とによって、従来の前窓保持装置が構成されている。この種の従来技術は、特許文献1に開示されている。
【0008】
上述した図4,5、あるいは特許文献1に示される従来の前窓保持装置は、重量のある上前窓22を開閉するために比較的大きな開閉力を要していた。
【0009】
このようなことから、従来、一端が前窓の側面に回動自在に連結され、他端がキャビンのフレームに回動自在に連結されるアームを、前窓の両側のそれぞれに設け、これらのアームと、前窓と、キャビンのフレームとによって、一対のリンク機構を構成したものがある。すなわち、前窓を摺動させる摺動手段に一対のリンク機構を含ませた構成にし、これらのリンク機構にダンパーを装着することで、前窓の開閉力の低減を図ったものが別に提案されている。この別の従来技術も、上述した図4,5に示す従来技術と同様に、前窓をキャビンの前面あるいは天井部にロック可能なロック装置と、このロック装置の故障時に安全装置として活用される落下防止装置を備えることが必要とされる。この別の従来技術に相当するものは、特許文献2に開示されている。
【0010】
なお、この特許文献2に示されるように、リンク機構を構成するアームと前窓との連結部が描く軌跡は、下に凸となる円弧状軌跡であり、この円弧状軌跡は、前窓がキャビンの天井部の直近に至った際に、天井部に対して略直交する鉛直線に近似した軌跡となっている。
【特許文献1】特開平10−311061号公報
【特許文献2】特開2002−70074公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した図4,5、あるいは特許文献1に示されるリンク機構を備えていない従来技術は、前述したように上前窓22の開閉に際して比較的大きな開閉力が必要となる。また、落下防止装置28が、上前窓22に設けられ、この上前窓22の横方向に張り出すラッチピン28Aを備えていることから、上前窓22をキャビン21の前面に配置し、しかもこのラッチピン28Aをより強固な構造にした場合には、ラッチピン28Aによってキャビン21内のオペレータの視界が妨げられる問題がある。
【0012】
特許文献2に示される別の従来技術は、摺動手段にリンク機構を含ませたことによって前述したように、前窓の開閉力を低減でき、これによってオペレータの負担を軽減できる利点がある。しかし、この別の従来技術に備えられる落下防止装置を、前述の図5に示したのと同等のラッチピンにより構成した場合には、前窓をキャビンの前面に配置した場合に、前窓に設けられたラッチピンによってオペレータの視界が妨げられる問題が残る。
【0013】
特に、リンク機構は前窓の両側に一対設けることになるので、これらのリンク機構に応じて前窓に2つのラッチピンを設けることが必要になる。すなわち、前窓の両側においてラッチピンが横方向に張り出す構成にしなければならない。これにより、オペレータの視界が、前述した図4,5等に示す従来技術よりもさらに悪くなる問題がある。なお、仮に一対のリンク機構のうちの一方のリンク機構に対応させて、落下防止装置を前窓に一つのラッチピンを設けるだけの構成にした場合には、ロック装置が故障した際に、ラッチピンが設けられていない側のリンク機構の作動を許してしまい、これに伴って前窓が落下する事態を生じ、落下防止装置をロック装置に対する安全装置として機能させることができなくなる。
【0014】
このように摺動手段にリンク機構を含ませた別の従来技術は、前窓の開閉力の低減に有効である一方、前窓に設けられる2つのラッチピンによって、オペレータの視界がさらに悪くなる問題がある。また、落下防止装置の部品数が多くなることから、この落下防止装置の製作コストが高くなる問題もある。
【0015】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、前窓の開閉力を低減させることができるとともに、前窓をキャビンの前面に配置した場合のオペレータの良好な視界を確保することができる建設機械用キャビンの前窓保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的を達成するために、建設機械のキャビンの前面に設けられる前窓を、上記前面と天井部間に摺動させる摺動手段と、上記前窓を、上記前面及び上記天井部にロック可能なロック装置と、このロック装置とは別に設けられ、上記天井部に配置された上記前窓の落下を防ぐ落下防止装置とを備えた建設機械用キャビンの前窓保持装置において、上記摺動手段は、一端が前窓に回動自在に連結され、他端が上記キャビンに回動自在に連結されるアームを有し上記前窓の両側に配置される一対のリンク機構を含み、上記落下防止装置は、上記キャビンの本体に設けられ、上記天井部に配置された上記前窓の下方に位置し、上記前窓の落下に際し、この前窓を支持する支持部を有することを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明は、天井部に配置された前窓をロックしているロック装置が故障して前窓が天井部から落下しようとした際、天井部に近いリンク機構のアームと前窓の連結部が描く軌跡は、鉛直線に近似する軌跡であり、したがって落下しようとする前窓が、この前窓の下方に位置する落下防止装置の支持部に当接することによって、この前窓の落下を防止することができる。そして本発明は、前窓を摺動させる摺動手段がリンク機構を含むことから、このリンク機構を介して前窓の開閉力を低減させることができる。また、落下防止装置を前窓に設けずに、キャビンの本体に設けたことから、前窓をキャビンの前面に配置した場合に、落下防止装置が設けられていない前窓を通してキャビン内のオペレータは良好な視界を確保することができる。
【0018】
また、本発明に係る建設機械用キャビンの前窓保持装置は、上記発明において、上記支持部は、上記前窓と当接する部分に、上記前窓との接触による上記前窓の損傷を防ぐ損傷防止部材を有することを特徴としている。
【0019】
このように構成した本発明は、天井部まで摺動させた前窓と落下防止装置の支持部とが接触する際には、前窓は支持部の損傷防止部材に接触するので、支持部との接触による前窓の損傷を確実に防ぐことができる。
【0020】
また、本発明に係る建設機械用キャビンの前窓保持装置は、上記発明において、上記落下防止装置を、上記キャビンの上記前面に対向する背面の上記天井部に近接する位置であって、上記背面の幅方向の略中央位置に配置したことを特徴としている。
【0021】
このように構成した本発明は、落下防止装置を1つ設けるだけで、落下防止装置の支持部によって前窓落下時の前窓の荷重を左右均等に受け、この前窓の天井部からの落下を防ぐことができる。
【0022】
また、本発明に係る建設機械用キャビンの前窓保持装置は、上記発明において、上記落下防止装置の上記支持部は、水平方向に延設される下部延設部と、この下部延設部に連設され鉛直方向に延設される立ち上がり部を有するL字ピンから成り、上記落下防止装置は、上記L字ピンの上記立ち上がり部をその軸心を中心に回動可能となるように保持するガイド部と、上記L字ピンの上記下部延設部が選択的に係合する複数の切欠きを有する受け部とを備え、この受け部の上記複数の切欠きのうちの一つは、上記L字ピンの上記下部延設部を、上記キャビンの上記前面に対向する背面に沿うように保持可能な第1切欠きから成り、上記複数の切欠きのうちの別の一つは、上記L字ピンの上記下部延設部を、上記背面から上記前面方向へ突出するように保持可能な第2切欠きから成ることを特徴としている。
【0023】
このように構成した本発明は、前窓がキャビンの前面に配置されているときには、例えばL字ピンの下部延設部を受け部の第1切欠きに保持させ、この下部延設部をキャビンの背面に沿うように保持させればよい。これによりL字ピンをキャビン内で邪魔にならないように保管することができる。また、前窓を天井部まで摺動させた際には、L字ピンの立ち上がり部及び下部延設部を回動させて、このL字ピンの下部延設部をキャビンの背面から前面方向へ突出させるように第2切欠きに保持させればよい。これにより、ロック装置の故障時に前窓が落下しようとする際には、L字ピンの下部延設部によって前窓の落下を受け、この前窓の落下を防止することができる。本発明は、落下防止装置が、下部延設部及び立ち上がり部を有するL字ピンと、このL字ピンを保持するガイド部と、第1切欠き及び第2切欠きを有する受け部とを備える程度の簡単な構成であるので、容易に製作することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、前窓をキャビンの前面と天井部間で摺動させる摺動手段が、一端が前窓に回動自在に連結され、他端がキャビンに回動自在に連結されるアームを有し前窓の両側に配置される一対のリンク機構を含み、ロック装置が故障した際の前窓の落下を防止する落下防止装置が、キャビンの本体に設けられ、天井部に配置された前窓の下方に位置し、前窓が落下しようとした際に前窓を支持する支持部を有することから、リンク機構によって前窓の開閉力を低減させることができ、前窓を手操作で開閉するオペレータの負担を軽減できるとともに、前窓をキャビンの前面に配置した場合のキャビン内のオペレータの良好な視界を確保でき、この前窓保持装置が備えられる建設機械における操作性、及び作業性を従来に比べて向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下,本発明に係る建設機械用キャビンの前窓保持装置を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0026】
図1は本発明に係る建設機械用キャビンの前窓保持装置の一実施形態が備えられるキャビンの外観斜視図、図2は図1に示すキャビンの一部を切り欠いた天井部付近をキャビン内の下方から見た要部斜視図、図3は本実施形態に備えられる落下防止装置を示す斜視図である。
【0027】
本実施形態に係る前窓保持装置は、例えば小旋回型油圧ショベルの形状寸法が比較的小さく形成されたキャビン1に備えられるもので、このキャビン1は図1に示すように、前面の上側位置に配置される前窓、すなわち上前窓2と、前面の下側位置に配置される下前窓3とを備えている。上前窓2は、前述した図4に示した従来技術と同様に、前面の開放に際してキャビン1の天井部4まで摺動可能になっている。
【0028】
キャビン1は、図2に示すように、前面を形成する左右のフレーム5のそれぞれに溝6を備えている。上前窓2は、ガラス2Aと、このガラス2Aを保持するフレーム2Bを有し、図2における前面側に位置する両側部分(上前窓2の前面閉塞状態にあっては下端部の両側部分)にはそれぞれ、前述の溝6内を転動可能な下ローラ2Cを有している。
【0029】
また、一端が上前窓2の側面を形成するフレーム2Bに回動自在に連結され、他端がキャビン1のフレーム5における前面部と天井部との間の角部付近に回動自在に連結されるアーム7を有し、上前窓2の両側のそれぞれに配置される一対のリンク機構を備えている。これらのリンク機構のそれぞれは、上前窓2の両側に配置されるアーム7と、上前窓2の両側部に備えられるフレーム2Bと、キャビン1のフレームとによって構成されている。
【0030】
上述したキャビン1の前面を形成するフレーム5の溝6と、上前窓2に設けた2つの下ローラ2Cと、アーム7を含む一対のリンク機構とによって、上前窓2を、キャビン1の前面の開放に際してキャビン1の天井部4まで摺動させ、前面の閉鎖に際して天井部4から前面まで摺動させる摺動手段を構成している。
【0031】
また、上前窓2をキャビン1の前面にロック可能であるとともに、そのロックが解除されて上前窓2を天井部4まで摺動させた際に、この天井部4で上前窓2をロック可能なロック装置8を備えている。このロック装置8は、例えばフレーム2Bにおけるアーム7の連結部7A近傍に設けられ、出没するピン等により上前窓2のフレーム2Bに対するアーム7の回動を禁止させるように構成されている。
【0032】
なお、上述したリンク機構を構成するアーム7と上前窓2のフレーム2Bとの連結部7Aが描く軌跡は、アーム7のフレーム5との連結部を中心として下に凸となる円弧状軌跡であり、この円弧状軌跡は、上前窓2がキャビン1の天井部4の直近に至った際に、天井部4に対して略直交する鉛直線に近似した軌跡となっている。
【0033】
また、本実施形態は、図2に示すように、上述したロック装置8の故障時の安全確保のために設けられ、天井部4に配置された上前窓2の落下を防ぐ落下防止装置10を備えている。この落下防止装置10は、キャビン1の本体に設けられ、天井部4に配置された上前窓2に対向するようにこの上前窓2の下方に位置し、上前窓2が落下しようとした際に上前窓2に当接して上前窓2を支持する支持部を有している。
【0034】
例えば、図2に示すように、落下防止装置10を、キャビン1の前面に対向する背面の天井部4に近接する位置に設けられたフレーム9上の、幅方向の略中央位置に1つ配置してある。
【0035】
また、落下防止装置10は、図3に示すように、互いに重ねて配置される前面カバー10Aと後面カバー10Bとを備えている。前面カバー10Aの2つの孔10A1と、後面カバー10Bの2つの孔10B1のそれぞれ対応するものが一致するようにして、後面カバー10Bの前側に前面カバー10Aが配置され、孔10A1,10B1のそれぞれにフレーム9に締結されるボルトが挿入され、これらの前面カバー10A及び後面カバー10Bがキャビン1の背面を形成するフレーム9に固定される。
【0036】
また、落下防止装置10は、天井部4の上前窓2が落下しようとした際に、上前窓2に当接して上前窓2を支持する上述した支持部、例えば同図3に示すL字ピン10Dを備えている。このL字ピン10Dは、水平方向に延設される下部延設部10D1と、この下部延設部10D1に連設され鉛直方向に延設される立ち上がり部10D2とを有し、上前窓2と当接する部分、例えば下部延設部10D1の先端部分に、上前窓2との接触による上前窓2の損傷を防ぐ損傷防止部材、例えば弾性を有するラバー10Eを有している。L字ピン10Dの立ち上がり部10D2は、前面カバー10Aに固定された筒状のガイド部10C内に挿入され、その軸心を中心に回動可能にガイド部10Cに保持されている。ガイド部10C内には、L字ピン10Dの立ち上がり部10D2を下方に付勢するスプリング10Fを収納させてある。
【0037】
また、この落下防止装置10は、L字ピン10Dの下部延設部10D1が選択的に係合する複数の切欠きを有する受け部10Gを備えている。この受け部10Gは、前面カバー10Aの下方に張り出した後面カバー10Bの部分に固定してある。受け部10Gの複数の切欠きのうちの一つは、L字ピン10Dの下部延設部10D1を、キャビン1の上述した背面を構成するフレーム9の表面に沿うように保持可能な2つの第1切欠き10G1,10G2であり、複数の切欠きのうちの別の一つは、L字ピン10Dの下部延設部10D1を、キャビン1の背面を構成するフレーム9から前面方向へ突出するように保持可能な第2切欠き10G3である。
【0038】
このように構成した本実施形態は、図1に示すように上前窓2がキャビン1の前面に配置されているときには、ロック装置8によって上前窓2がロックされる。これによりキャビン1の前面は閉鎖状態に保たれる。この状態にあっては、例えばL字ピン10Dの下部延設部10D1をスプリング10Fの力を介して受け部10Gの第1切欠き10G1あるいは第1切欠き10G2に係合させて保持させ、このL字ピン10Dの下部延設部10D1をキャビン1の背面に、すなわち図2に示すフレーム9の表面に沿うように保持させればよい。これにより、L字ピン10Dをキャビン1内で邪魔にならないように保管することができる。
【0039】
キャビン1の前面を開放する場合には、ロック装置8による上前窓2のロックを解除した後、手操作により上前窓2に開く方向の力を与えて引き上げることにより、上前窓2の下ローラ2Cがキャビン1のフレーム5の溝6内を転動して上昇する。同時にアーム7を含む一対のリンク機構が作動する。これらの動作により、上前窓2を天井部4まで摺動させることができる。上前窓2が天井部4に至ったとき、ロック装置8による上前窓2のロックが行なわれる。これにより上前窓2は天井部4に保持され、キャビン1の前面が開放された状態に保たれる。
【0040】
この状態において、落下防止装置10のL字ピン10Dをスプリング10Fの力に抗して上昇させながら90°回動させ、その下部延設部10D1をスプリング10Fの力を介して受け部10Gの第2切欠き10G3に係合させて保持させ、このL字ピン10Dの下部延設部10D1をキャビン1の背面を構成するフレーム9から前面方向へ突出させる。このとき図2に示すように、L字ピン10Dの下部延設部10D1は上前窓2に対向するように、この上前窓2の下方に位置し、上前窓2が落下しようとした際に、上前窓2に当接可能な状態となる。
【0041】
このように上前窓2が天井部4に配置され、ロック装置8によってロックされている状態において、何らかの理由によりロック装置8が故障し、そのロックが解除されて上前窓2が落下しようとするときには、L字ピン10Dのラバー10Eを有する下部延設部10D1によって上前窓2の落下を受け、この上前窓2の落下を防ぐことができる。なお、上述したようにリンク機構のアーム7と上前窓2との連結部7Aの描く軌跡は、天井部4の直近では略鉛直線に近似した軌跡になることから、上前窓2の落下を、この上前窓2の下方に配置したL字ピン10Dの下部延設部10D1によって確実に防ぐことができる。
【0042】
天井部4に配置され、ロックされている上前窓2をキャビン1の前面の閉鎖に際して天井部4から前面まで摺動させる際には、落下防止装置10のL字ピン10を回動させて下部延設部10D1を第1切欠き10G1または10G2に係合させて退避させ、天井部4におけるロック装置8のロックを解除させた後、手操作により上前窓2に閉じる方向の力を与えて引き下げればよい。これらにより、下ローラ2Cが溝6内を転動して下降し、リンク機構が作動して上前窓2をキャビン1の前面に配置することができる。この状態で、ロック装置8を作動させることにより、上前窓2はキャビン1の前面に再びロックされる。
【0043】
本実施形態によれば、上前窓2を摺動させる摺動手段が、アーム7を有するリンク機構を含むことから、このリンク機構を介して上前窓2の開閉力を低減させることができる。これにより、上前窓2を手操作で開閉するオペレータの負担を軽減できる。また、落下防止装置10を上前窓2に設けずに、キャビン1の本体、すなわち背面を構成するフレーム9に設けたことから、上前窓2をキャビン1の前面に配置した場合に、落下防止装置10が設けられていない上前窓2を通して、キャビン1内のオペレータは良好な視界を確保することができる。これにより、本実施形態が備えられる小旋回型油圧ショベルにおける操作性、及び作業性を向上させることができる。
【0044】
また、上前窓2の落下に際して上前窓2のガラス2A等に落下防止装置10の支持部、すなわちL字ピン10Dが接触する際には、上前窓2はL字ピン10Dの下部延設部10D1の先端に設けたラバー10Eに接触するので、このL字ピン10Dとの接触による上前窓2のガラス2A等の損傷を確実に防ぐことができ、信頼性の高い前窓保持装置が得られる。
【0045】
また、落下防止装置10をキャビン1の背面を構成するフレーム9の幅方向の略中央位置に1つ設けるだけで、この落下防止装置10のL字ピン10Dによって上前窓2の落下時の上前窓2の荷重を左右均等に受け、この上前窓2の天井部4からの落下を防ぐことができる。このように落下防止装置10を1つだけ設ければ済むので、この落下防止装置10に係る部品数を少なくすることができ、製作コストを安くすることができる。
【0046】
また、本実施形態に係る落下防止装置10は、図3に示すように、下部延設部10D1及び立ち上がり部10D2を有するL字ピン10Dと、このL字ピン10Dを保持するガイド部10Cと、第1切欠き10G1,10G2、及び第2切欠き10G3を有する受け部10G等を備える程度の簡単な構成であるので、容易に製作することができ、実用性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る建設機械用キャビンの前窓保持装置の一実施形態が備えられるキャビンの外観斜視図である。
【図2】図1に示すキャビンの一部を切り欠いた天井部付近をキャビン内の下方から見た要部斜視図である。
【図3】本実施形態に備えられる落下防止装置を示す斜視図である。
【図4】従来の建設機械用キャビンの前窓保持装置が備えられるキャビンの外観斜視図である。
【図5】図4に示すキャビンの一部を切り欠いた天井部付近をキャビン内の下方から見た要部斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 キャビン
2 上前窓
2A ガラス
2B フレーム
2C 下ローラ
4 天井部
5 フレーム
6 溝
7 アーム
7A 連結部
8 ロック装置
9 フレーム
10 落下防止装置
10A 前面カバー
10A1 孔
10B 後面カバー
10B1 孔
10C ガイド部
10D L字ピン(支持部)
10D1 下部延設部
10D2 立ち上がり部
10E ラバー(損傷防止部材)
10F スプリング
10G 受け部
10G1 第1切欠き
10G2 第1切欠き
10G3 第2切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のキャビンの前面に設けられる前窓を、上記前面と天井部間に摺動させる摺動手段と、上記前窓を、上記前面及び上記天井部にロック可能なロック装置と、このロック装置とは別に設けられ、上記天井部に配置された上記前窓の落下を防ぐ落下防止装置とを備えた建設機械用キャビンの前窓保持装置において、
上記摺動手段は、一端が前窓に回動自在に連結され、他端が上記キャビンに回動自在に連結されるアームを有し上記前窓の両側に配置される一対のリンク機構を含み、
上記落下防止装置は、上記キャビンの本体に設けられ、上記天井部に配置された上記前窓の下方に位置し、上記前窓の落下に際し、この前窓を支持する支持部を有することを特徴とする建設機械用キャビンの前窓保持装置。
【請求項2】
上記請求項1記載の発明において、
上記支持部は、上記前窓と当接する部分に、上記前窓との接触による上記前窓の損傷を防ぐ損傷防止部材を有することを特徴とする建設機械用キャビンの前窓保持装置。
【請求項3】
上記請求項1記載の発明において、
上記落下防止装置を、上記キャビンの上記前面に対向する背面の上記天井部に近接する位置であって、上記背面の幅方向の略中央位置に配置したことを特徴とする建設機械用キャビンの前窓保持装置。
【請求項4】
上記請求項1記載の発明において、
上記落下防止装置の上記支持部は、水平方向に延設される下部延設部と、この下部延設部に連設され鉛直方向に延設される立ち上がり部を有するL字ピンから成り、
上記落下防止装置は、上記L字ピンの上記立ち上がり部をその軸心を中心に回動可能となるように保持するガイド部と、上記L字ピンの上記下部延設部が選択的に係合する複数の切欠きを有する受け部とを備え、
この受け部の上記複数の切欠きのうちの一つは、上記L字ピンの上記下部延設部を、上記キャビンの上記前面に対向する背面に沿うように保持可能な第1切欠きから成り、上記複数の切欠きのうちの別の一つは、上記L字ピンの上記下部延設部を、上記背面から上記前面方向へ突出するように保持可能な第2切欠きから成ることを特徴とする建設機械用キャビンの前窓保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−197480(P2009−197480A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40251(P2008−40251)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【出願人】(392017129)共和産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】