説明

本発明は、ケーシング(110,111)、環状のシール要素(140,146)及び可動の閉鎖要素(170)を有する弁(100,101)であって、シール要素(140,146)及び閉鎖要素(170)が、ケーシング(110,111)内に配置され、弁(100,101)は、シール要素(140,146)への閉鎖要素(170)の当接により閉じられるようになっている形式のものに関する。本発明によれば、弁(100,101)は、シール要素(140,146)の外側の領域に設けられた中空室(131,132)を有し、中空室内に、シール要素(140,146)の一部分(143,144)が熱膨張の際に受容されるようになっている。更に本発明は環状のシール要素としてO・リング(150)を有する別の弁(102)にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング、環状のシール要素及び可動の閉鎖要素を有する弁に関する。
【0002】
前記形式の弁は、ガス及び液体の容積流を制御するために使用される。可能な使用領域は、例えば自動車の冷却回路であり、自動車の冷却回路においては、冷却媒体により、エンジンが冷却され、熱せられた冷却媒体は、必要に応じて車両暖房装置に用いられる。冷却回路若しくは暖房回路又は加熱回路の分岐部における冷却媒体の分配は、電気制御式の弁を用いて制御されている。
【0003】
自動車の冷却回路に用いられる従来の弁は、弁ケーシング、弁ケーシング内に配置された環状又はリング状のシール要素及びシール円錐体として形成された閉鎖要素を有している。弁座とも称されるシール要素は、スペーサースリーブを用いてケーシングのストッパーに対して締め付けられている。弁体とも称される閉鎖要素は、ケーシング内に移動可能又はスライド可能に支承された行程ロッドに結合されており、行程ロッドを用いて閉鎖要素が、弁の閉鎖のためにシール要素に当接されるようになっている。行程ロッドは、引張りばねに結合されており、引張りばねは、シール要素からの閉鎖要素の引き離しのための力を行程ロッドに作用させている。
【0004】
弁の操作のために、ケーシング内に配置されたヨーク及び閉鎖要素に結合された接極子が設けられている。接極子とヨークとの間には、ばね力に抗しかつ(ポンプにより生ぜしめられる)媒体圧若しくは冷媒圧に抗して作用する電磁的な吸引力が形成され、これによって弁の開閉が制御されるようになっている。接極子とヨークとは、一般的に弁の閉鎖状態で接極子とヨークとの間に相互の間隙(残存隙間)を有している。
【0005】
前述の弁において、高い冷媒温度は、閉鎖特性を低下させてしまうことになる。問題は、特に、環状のシール要素の熱膨張であり、シール要素の熱膨張の、弁の軸線方向の成分により、接極子とヨークとの間の、弁の閉鎖状態での間隙は広げられてしまっている。このことは、電磁的な閉鎖力の減少につながり、結果として弁の漏れが発生することになる。
【0006】
本発明の課題は、改良された弁を提供し、該弁により、特に温度の高い場合の著しく安定した高い閉鎖特性を可能にすることである。
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の1つの構成によれば、ケーシング、環状若しくはリング状のシール要素及び可動の閉鎖要素を有する弁であって、シール要素及び閉鎖要素はケーシング内に配置されており、該弁は、シール要素への閉鎖要素の当接又は接触により閉じられるようになっている形式のものにおいて、シール要素の外側又は外周の領域に中空室が設けられており、中空室内には、熱膨張の際にシール要素の一部分、つまり膨張の際の膨らみ部分が受容され、換言すれば、シール要素の膨張若しくは膨らみが中空室へ逃がされるようになっている。
【0008】
環状のシール要素の外側の領域、つまり、(半径方向で)外へ向けられた側の領域に中空室を有する形態の弁は、シール要素の温度に起因する半径方向の変形(体積増大)のための自由空間を提供し、これにより、シール要素の軸線方向の膨張(変形)が減少されることになる。このような構成により、軸線方向の変形に伴うシール問題は避けられ、若しくは小さくされ、その結果、弁は極めて安定した閉鎖特性を有している。
【0009】
本発明の有利な形態によれば、中空室は、シール要素の外側と、ケーシングの、シール要素の外側と相対する内側との間に設けられている。このような形態において、シール要素は、有利には中空室の領域にシールリップを有しており、シールリップは、ケーシングの内側又は内周面に接触しており、これにより、弁の高いシール性が得られている。
【0010】
本発明の有利な別の形態によれば、弁は更に、ケーシング内に配置されたシリンダー状若しくは中空円筒形のスペーサースリーブを有しており、スペーサースリーブは、シール要素に接触していて、シール要素をケーシングのストッパー又は端面壁部分に向けて押圧している。このような構成により、シール要素はケーシング内に確実に固定されている。
【0011】
別の有利な形態によれば、スペーサースリーブは、シール要素の外周の領域とシール要素の内周の領域とでのみシール要素に接触している。このような構成により、スペーサースリーブの熱膨張が、(シール要素の熱膨張に加えて)、特に内周の領域でシール要素の閉鎖特性(シール特性)の低下につながる軸線方向の変形を惹起してしまうようなことを、避けることができるようになっている。
【0012】
スペーサースリーブを、シール要素の外周の領域とシール要素の内周の領域とでのみシール要素に接触させる形態の有利な構成によれば、スペーサースリーブの、シール要素に隣接する領域は、縦断面で見て、段階的な断面形状若しくは階段状の断面形状を有している。この場合に、環状のシール要素も、対応して段階的な断面形状若しくは階段状の断面形状を有し、下側の区分と上側の区分とにより、例えば、断面で見て下側の幅(半径方向の寸法)の広い方の区分と上側の幅の狭い方の区分とにより形成されており、複数の中空室のうちの1つ(一方)の中空室は、下側の区分の外側又は外周の領域に設けられており、かつ別(他方)の中空室は、上側の区分の外側又は外周の領域に設けられている。
【0013】
弁には、弁の操作又は作動のために、ケーシング内に配置(固定)されたヨーク及び閉鎖要素に結合された接極子が設けられており、接極子とヨークとの間に形成される電磁力(相互作用)により、接極子が、ヨークに向けて運動(移動)させられ、その結果、閉鎖要素がシール要素に当接されるようになっている。
【0014】
本発明の別の構成に基づく弁は、同様に、ケーシング、環状(リング状)のシール要素及び可動の閉鎖要素を有しており、シール要素及び閉鎖要素は、ケーシング内に配置されており、弁は、シール要素への閉鎖要素の当接(接触)により閉じられるようになっており、シール要素はO・リングにより形成されている。
【0015】
シール要素をO・リングにより構成する形態も、シール要素の熱に起因する軸線方向の膨張を減少させることができ、このような構成により、弁は、頑丈な閉鎖構造を有し、ひいては極めて高い閉鎖特性を有している、O・リングは、従来のシール要素に比べて比較的小さい体積しか有しておらず、従って、熱膨張も相応に小さくなっている。O・リングは、スペーサースリーブなしの取り付けを可能にしており、従って、スペーサースリーブの使用に伴う問題が避けられる。
【0016】
本発明の有利な形態によれば、シール要素は、二色射出成形によりケーシングと一体成形されるO・リングとして形成されている。このような構成により、O・リングと弁ケーシングとの間の安定した確実な固定結合が行われている。
【0017】
次に、本発明を図示の実施形態に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】環状のシール要素及びシール要素の膨張のための中空室を有する弁の概略的な縦断面図である。
【図2】図1の弁の、シール要素の半径方向の膨張を示すための下側の領域の概略図である。
【図3】図1の弁の環状のシール要素の軸線方向の膨張を示すための概略図である。
【図4】環状のシール要素及びシール要素の膨張のための中空室を有する別の弁の概略的な縦断面図である。
【図5】シール要素としてO・リングを備えた別の弁の概略的な縦断面図である。
【図6】図5の弁の、O・リングの軸線方向の膨張を示すための下側の領域の概略図である。
【0019】
以下において、本発明に係る電気制御式の弁を、図示の実施形態に基づき説明する。例えば自動車の冷媒回路に用いられる弁は、温度による弁構成部材の変形に際しても確実に保証される閉鎖特性を有するものである。
【0020】
図1は、弁100の縦断面を概略的に示している。弁100はケーシング110を有しており、該ケーシングは、ほぼ中空円筒形の内室105を包囲している。例えばプラスチック材料から成っているケーシング110には、下方の接続開口部120と側方の接続開口部122とが設けられている。媒体が、非対称に配置された接続開口部120,122を経て、弁ケーシングの内室105内を流過するようになっている。自動車の冷媒回路に関連して、例えば下方の接続開口部120が、(ポンプにより吐出される)冷却液体の供給(流入)のために用いられ、側方の接続開口部122が冷却流体の排出(流出)のために用いられるようになっている。
【0021】
弁100は更に、内室105内にリング状のシール要素140(以下、シールリング140と称する)、及びシールリング140と協働する閉鎖要素170を有しており、該閉鎖要素はシール円錐体170として形成されている。シール円錐体170は、実施形態では金属材料、例えば黄銅を含んでいる。弾性変形可能な材料、例えば特にエラストマ材料から成るシールリング140は、断面で見て、各側にそれぞれ段状の形(輪郭)を有していて、下側の区分141と上側の狭い区分142とにより形成されている。上側の区分142は、シールリング140の内周の領域の上側に丸味の付けられた輪郭を有している。シールリング140の内周の領域で、シール円錐体170が、図1に示してあるように、シールリング140に接触するようになっており、これにより弁100は閉じられる。シールリング140の下側の区分141は、内周の領域に、下方の接続開口部120に向かって広がる形状を有している。
【0022】
ケーシング110内にシールリング140を固定するために、弁100は、ケーシング110の内側に接する中空円筒形のスペーサースリーブ160を有しており、該スペーサースリーブは、例えばプラスチック材料から形成されている。スペーサースリーブ160を用いて、シールリング140が、ケーシング110の下方の接続開口部120の領域にあるストッパー115に対して締め付けられている。スペーサースリーブ160は、図1に示してあるように、側方の開口部162を有しており、該開口部は、ケーシング100の側方の接続開口部122と合致しており、これにより、容積流がケーシング内室105から接続開口部122を経て流れるようになっている。更にスペーサースリーブ161は、シールリング140と接している区分に、断面で見て、シールリング140に向かって幅広くなる形を有している。
【0023】
弁100は、ケーシング110の上側に接続プレート185を有しており、該接続プレートは、固定手段、例えばねじ(図示省略)を用いてケーシング110に取り付けられている。接続プレート185の下側に、シール部材180が設けられており、該シール部材は、スペーサースリーブ160上に装着されていて、スペーサースリーブ160をシールリング140に向けて押圧しており、これにより、ストッパー115へのシールリング140の前述の締め付けが行われている。
【0024】
シールリング140と協働するシール円錐体170は、行程ロッド171に結合され、若しくは行程ロッド171に一体成形されている。行程ロッド171は、移動可能若しくはスライド可能に支承されており、このような構成により、弁100が開閉され、若しくは接続開口部120,122を経て弁100を通って流れる容積流が制御されるようになっている。図1に示してある位置、つまり、シール円錐体170がシールリング140に当接又は接触している位置で、弁100は閉じられており、従って、接続開口部120,122間に容積流は形成されていない。
【0025】
行程ロッド171は、弁ケーシング110内からその上側でシール部材180を貫いて突出している。シール輪体若しくはシールつばとも称されるシール部材180は、行程ロッド171の案内部を密閉するために、行程ロッド171の領域でシールブッシュとして形成されていてよく、或いはシールブッシュを含んでいてよい。行程ロッド171は、その上方の端部で引張りばね195に結合されており、該引張りばねは、シール円錐体170をシールリング140から引き離して弁100を開く力を、行程ロッド171に作用させている。
【0026】
行程ロッド171を移動させ、これによりシール円錐体170をシールリング140に向けて移動させ、その結果、弁100を閉じるために、弁100は、ヨーク190及び接極子191を有しており、該ヨーク及び接極子は、実質的に円筒形に形成されていてよい。図示の実施形態では、行程ロッド171は、中間の部位でヨーク190内に通して案内されており、接極子191は、行程ロッド171の上側の領域で該行程ロッドの周囲に固定されている。ヨーク190が、ケーシング110に対して上側に設けられて、接続プレート185に配置され、若しくは固定されていて、該ヨークの上側に円錐形のくぼみを有しているのに対して、接極子191は、その下側に円錐形の区分を有しており、該円錐形の区分の輪郭は、ヨーク190の円錐形の領域(くぼみ)の輪郭に相応している。
【0027】
接極子191とヨーク190とは、これらの構成部分間に電磁的な吸引力が発生して、行程ロッド171に固定された接極子191がヨーク190に向けて引っ張られ、結果として、シール円錐体171がシールリング140に向けて移動させられるように、構成されている。つまり、実施形態によれば、例えば接極子191が電気的に制御可能な電磁石として形成され、かつヨーク190が永久磁石として形成されている。この場合に逆の構成とすることも可能である。接極子191とヨーク190との間の電磁力(電磁的な吸引力)は、ばね195の引張り力に抗して、かつ(ポンプにより形成されかつ下側の接続開口部120に作用する)媒体若しくは冷媒の圧力に抗して作用するようになっている。電磁的な吸引力により若しくは該吸引力の変化に基づき、弁の開閉が制御されるようになっている。図1に示してあるように、弁を閉じた状態でも、接極子191とヨーク190との間には、例えば構成部分の製作誤差の補償のために、間隙(残存隙間)が設けられている。
【0028】
弁100は、頑丈であり、特に温度の高い場合若しくは温度変化、ひいてはシールリング140に発生する熱膨張(体積増加)に際して保証される極めて高い閉鎖特性を有している。高い温度は、弁100を貫流する媒体により発生している。前に述べてある自動車用の冷媒回路の場合には、使用されている冷媒は、約110℃の温度まで熱せられる。
【0029】
弁100は、確実な閉鎖のために、シールリング140の外側の領域、つまり、(半径方向で)外へ向けられた側の領域において、下側のシールリング区分141に隣接する下側の中空室131と、上側のシールリング区分142に隣接する上側の中空室132とを有している。中空室131,132は、シールリング140の温度に起因する半径方向の変形のための自由空間若しくはスペースを提供するものであり、これにより、シールリング140の軸線方向の膨張が、従来の弁とは異なり、著しく抑制されることになる。下側の中空室131の形成のために、ケーシング110内にはストッパー115の領域に、(半径方向で)ケーシング内側を全周にわたって延びる切欠き若しくは溝(環状の切欠き若しくは溝)が形成されており、該切欠き若しくは溝には、下側のシールリング区分141の一部分が入り込んでいる。このような構成により、シールリング140の(部分的な)固定(スペーサースリーブ160の使用による締め付け固定に対して追加的な固定)が行われている。図示の実施形態では、下側の中空室131は、シールリング14とケーシング110の内側とによって画定されている。これに対して、上側の中空室132は、シールリング140と、シールリング140若しくはシールリング区分142と相対するケーシング内側と、更に追加的にスペーサースリーブ160の一部分とによって画定されている。
【0030】
下側のシールリング区分141は、外周に追加的に、全周にわたって延びるシールリップ149を備えており、該環状のシールリップは、弁100の高い密閉性を保証するために、ケーシング110の内側に接触している。このような構成により、下側の中空室131は2つの部分室に区分けされている。シールリップは、上側のシールリング区分142にも設けられてよい、或いは上側のシールリング区分142にのみ設けられてよいものである。
【0031】
中空室131,132は、前に述べてあるように、シールリング140の一部分を、温度に起因する半径方向の膨張に際して受容するために用いられ、換言すれば、シールリングの半径方向の膨張を吸収するために用いられるものである。この種の膨張は、弁100の下側の領域を概略的に示す図2に、シールリング区分141,142の変形143,144によって示してあり、この場合に、シールリップ149の記入は省略してある。半径方向の変形143,144が、中空室131,132内に吸収され、これによってシールリング140の軸線方向の変形が比較的小さくなっている。
【0032】
図3は、シールリング140の熱膨張の際にシールリング140に発生する膨出若しくは変形145を例示するものである。変形145は、上側において、スペーサースリーブ16がシールリング140の外側(上側)に接触している、つまり外側からシールリング140を締め付けていることに基づき、特にシールリング140の内周の領域に発生し、つまり、(弁100の閉鎖時に)シール円錐体170がシールリング140に当接する部位に発生している。変形145は、ずらして鎖線で描かれた円により示してあるように、軸線方向の膨張Aを含んでいる。軸線方向の膨張A(軸線方向のずれ又は移動)により、シールリング140に当接するシール円錐体170が、(ひいては行程ロッド171及び接極子191がヨーク190に対して)軸線方向に移動させられ、結果として、接極子191とヨーク190との間の間隙が広げられることになる。
【0033】
シールリング140、中空室131,132により与えられる半径方向の熱膨張能力(熱膨張可能性又は熱膨張容量)に基づき、熱に起因する変形145、ひいては弁100における軸線方向の移動Aは小さくなっている。これとは逆に、中空室のない従来の弁においては、シールリングのための半径方向の熱膨張能力がなく、従って、軸線方向の極めて大きな変形、ひいては接極子とヨークとの間の間隙の増大が生じている。接極子とヨークとの間の間隙の増大は、電磁的な吸引力の減少をもたらし、電磁的な吸引力の減少の量は、従来の弁において弁の漏れが発生するほどに大きくなっている。
【0034】
中空室131,132を設けることにより得られる効果は、従来の弁と図1の弁100に相当する構造の弁とを用いて行った実験及びシミュレーションで得られた次の値により明らかである。空間温度が110℃の温度まで上昇した場合に、(中空室を有していない)従来の弁において発生する軸線方向の膨張は、0.17mmであるのに対して、中空室を備える弁における膨張は0.06mmだけである。軸線方向の変形のこのような最小化により、接極子とヨークとの間の磁力の約1.5Nの増加が達成される。
【0035】
中空室131,132は、シールリング140に対する熱膨張能力の付与のほかに、例えば(特にスペーサースリーブ160の)製作誤差を補償し、ひいては該誤差に伴って発生するシールリング140の変形を減少させるためにも適している。シールリング140の、中空室131,132により与えられる熱膨張能力若しくは変形能力に基づき、シール円錐体170及び行程ロッド171の発生することのある傾倒も補償されるようになる。
【0036】
図4は、別の実施形態の弁101の概略的な断面図である。弁101は、図1に示す弁100と実質的に同じ構造を有している。弁101は、中空円筒形の内室105を包囲している弁ケーシング111を有しており、該弁ケーシングは、非対称的に配置された接続開口部120,122を備えている。内室105内には、弾性的に変形可能なシールリング146が配置されており、該シールリングは、ケーシング111内での固定のためにスペーサースリーブ161を用いてケーシング111のストッパー115に対して締め付けられている。スペーサースリーブ161には、接続開口部122と合致する開口部162が設けられている。シールリング146は、段階的な断面若しくは階段状の断面を有し、つまり、断面で見て、下側の広い方の区分147と上側の狭い方の区分148とを有している。同様に、シールリング146の外側には、シールリング140の半径方向の熱膨張能力を付与するため、その結果、図1の弁100に相応してシールリング146の軸線方向の膨張をできるだけ抑制するために、中空室131,132が設けられている。
【0037】
弁101のケーシング111は、弁100とは異なり、ストッパー115の領域に、下側の中空室131のための環状の切欠きを有していない。従って、下側の中空室131は、シールリング146若しくはシールリング区分147と、ケーシング内側と、更にスペーサースリーブ161の一部分とによって画成されている。シールリング区分147は、図4に再び示してあるように、ケーシング内側に接触しかつ全周にわたって延びるシールリップ149を有していてよい。
【0038】
更に、スペーサースリーブ161、より具体的には、スペーサースリーブ161の、シールリング146に向かって広がる下側の区分が、(断面図で見て)下側に段部を備えており、これにより、上側の中空室132が、シールリング146とスペーサースリーブ161とのみによって画成されている。スペーサースリーブ161の下側の階段状の区分並びにシールリング146の階段形状により、スペーサースリーブ161は、シールリング146の上面において、外周の領域と内周の領域とのみに接触している。このような構成により、スペーサースリーブ161の温度に起因する長手方向膨張が、シールリング146の内周領域における、閉鎖特性の低下につながる膨出若しくは軸線方向の変形を惹起してしまうようなことを、効果的に避けることができるようになっている。
【0039】
図5は、更に別の実施形態の弁102の概略的な断面図である。弁102は、図1及び図4の弁100,101とほぼ同じ構造を有している。
【0040】
弁102は、中空円筒形の内室105を包囲している弁ケーシング112を有しており、該弁ケーシングは、非対称的に配置された接続開口部120,122を備えている。内室105内には、弾性的に変形可能な環状のシール要素150が設けられており、該シール要素は、弁の閉鎖のために行程ロッドに一体成形された、若しくは固定されたシール円錐体170と協働するようになっている。スライド可能に支承されている行程ロッド171は、ケーシング112の、接続プレート185及びシール部材180により閉鎖されている上側から突出している。行程ロッド171は、その上方の端部で引張りばね195に結合されている。弁102の作動のために、ケーシング上面に配置されたヨーク190と行程ロッド171に固定された接極子191とが設けられており、前記ヨークと前記接極子との間には、ばね195の引張り力に抗しかつ(ポンプにより形成されかつ下側の接続開口部120に作用する)媒体若しくは冷媒の圧力に抗して作用する電磁的な吸引力が形成されるようになっている。
【0041】
弁102の環状(リング状)のシール要素150は、図1及び図4の弁101,102とは異なり、O・リング150として形成されている。O・リング150は、図示の実施形態では、ケーシング112の接続開口部120の上側の領域において減径部若しくは段部の縁部又は角部(面と面の交わる部分)に設けられている。O・リング150は、比較的小さい寸法、つまり比較的小さい体積で実施され得るものである。結果として、温度に起因する膨張、つまり熱膨張(これは体積にほぼ比例する)も比較的に小さくなり、ひいては軸線方向の変形が比較的に小さくなる。
【0042】
O・リング150を用いる場合には、スペーサースリーブなしの取り付け(固定)が可能であり、その結果、スペーサースリーブの使用に伴う問題、例えば特に製作誤差の問題や熱に起因する長手方向の膨張の問題、ひいてはシール要素若しくはシールリングの(軸線方向の)変形の問題等が避けられる。O・リング150は、該O・リングの確実で安定した固定のために、有利には二色射出成形によりケーシング112と一緒に成形される。
この場合に、O・リング150のためには、例えばエラストマが用いられ、ケーシング112のためには、例えば熱可塑性樹脂が用いられる。
【0043】
O・リング150の使用による作用効果を明らかにするために、図6に、O・リング150の熱膨張及びその軸線方向の成分A(ずらされて鎖線で描かれた円)が示してある。図5の弁102の構成に相当する構成を有する弁の実験及びシミュレーションにおいて、空間温度又は室内温度(実験室温度又は実験スペース温度等)が110℃の温度に上昇した場合の当該O・リングの軸線方向の膨張は、0.02mmだけであり、該値は、従来の弁の場合に発生する変形量の0.17よりも著しく小さいものである。従って、接極子とヨークとの間の磁力の温度に起因する低下が実質的に避けられる。
【0044】
本発明は、図示の実施形態に限定されるものではなく、環状のシール要素の外側に中空室を設ける弁若しくはO・リング形のシールを用いる弁の種々の形態で実施され得るものである。外側の中空室を設ける構成において、(断面で見て)シールリング140,146とは異なる形のシール要素(シールリング)を設けることも可能である。弁構成要素の前記材料は例として挙げたものであり、ほかの材料も用いられるものである。
【符号の説明】
【0045】
100,101,102 弁、 105 内室、 110 ケーシング、 111 弁ケーシング、 115 ストッパー、 120,122 接続開口部、 131,132 中空室、 140 シールリング又はシール要素、 141,142 区分、 143,144,145 変形、 146 シールリング、 149 シールリップ、 150 シール要素、 170 閉鎖要素又はシール円錐体、 160,161 スペーサースリーブ、 162 開口部、 171 行程ロッド、 180 シール部材又はパッキン輪、 185 接続プレート、 190 ヨーク、 191 接極子、 195 引張りばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁であって、ケーシング(110,111)、環状のシール要素(140,146)及び可動の閉鎖要素(170)を有しており、前記シール要素(140,146)及び前記閉鎖要素(170)は、前記ケーシング(110,111)内に配置されており、該弁は、前記シール要素(140,146)への前記閉鎖要素(170)の当接により閉じられるようになっている形式のものにおいて、
前記シール要素(140,146)の外側の領域に中空室(131,132)が設けられており、該中空室内に、前記シール要素(140,146)の一部分(143,144)が熱膨張の際に受容されるようになっていることを特徴とする、弁。
【請求項2】
前記中空室(131,132)は、前記シール要素(140,146)の外側と、前記ケーシング(110,111)の、前記シール要素(140,146)の外側と相対する内側との間に設けられている請求項1に記載の弁。
【請求項3】
前記シール要素(140,146)は、前記中空室(131,132)の領域にシールリップ(149)を有しており、該シールリップは、前記ケーシング(110,111)の内側に接触している請求項1又は2に記載の弁。
【請求項4】
前記ケーシング(110,111)内に、中空円筒形のスペーサースリーブ(160,161)が設けられており、該スペーサースリーブは、前記シール要素(140,146)に接触していて、該シール要素(140,146)を前記ケーシング(110,111)のストッパー(115)に向けて押圧している請求項1から3のいずれか1項に記載の弁。
【請求項5】
前記スペーサースリーブは、前記シール要素(146)の外周の領域と内周の領域とにおいてのみ、該シール要素(146)に接触している請求項4に記載の弁。
【請求項6】
前記環状のシール要素(140,146)は、階段状の断面形状を有し、下側の区分(141,147)と上側の区分(142,148)とにより形成されており、複数の前記中空室(131,132)が設けられており、前記1つの中空室(131)が、前記下側の区分(141,147)の外側の領域に設けられており、かつ前記別の中空室(132)が、前記上側の区分(142,148)の外側の領域に設けられている請求項1から5のいずれか1項に記載の弁。
【請求項7】
前記弁は、前記ケーシング(110,111)内に配置されたヨーク(190)及び前記閉鎖要素(170)に結合された接極子(191)を有しており、前記接極子(191)と前記ヨーク(190)との間の電磁力の相互作用により、前記接極子(191)が、前記ヨーク(190)に向けて運動させられ、これにより、前記閉鎖要素(170)が前記シール要素(140,146)に当接されるようになっている請求項1から6のいずれか1項に記載の弁。
【請求項8】
弁であって、ケーシング(112)、環状のシール要素(150)及び可動の閉鎖要素(170)を有しており、前記シール要素(150)及び前記閉鎖要素(170)は、前記ケーシング(112)内に配置されており、該弁は、前記シール要素(150)への前記閉鎖要素(170)の当接により閉じられるようになっている形式のものにおいて、
前記環状のシール要素がO・リング(150)であることを特徴とする、弁。
【請求項9】
前記シール要素が、二色射出成形により前記ケーシング(112)と一体成形されたO・リング(150)である請求項8に記載の弁。
【請求項10】
前記ケーシング(112)に配置されたヨーク(190)及び前記閉鎖要素(170)に結合された接極子(191)を有しており、前記接極子(191)と前記ヨーク(190)との間の電磁力の相互作用により、前記接極子(191)が、前記ヨーク(190)に向けて運動させられ、これにより、前記閉鎖要素(170)が前記シール要素(150)に当接されるようになっている請求項8又は9に記載の弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−532299(P2012−532299A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518887(P2012−518887)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059169
【国際公開番号】WO2011/003769
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】