説明

引抜きピン、及びボルト孔の位置ズレ修正方法

【課題】打撃音の発生を解消し、ボルト孔からの抜け落ちを防止して安全性を向上させた引抜きピンを提供する。
【解決手段】部材接合部に設けられたボルト孔31に圧入して、該ボルト孔31の位置ズレを修正する引抜きピン11であって、該引抜きピン11は、ピン本体部12と、該ピン本体部12に対して着脱自在に螺合されるナット部材13とから構成され、ピン本体部12は、円柱部14と、該円柱部14の一端14aに連設され先端側に行くに連れて次第に細くなるテーパー部15と、該テーパー部15に連設される雄ネジ部16とを少なくとも備え、ナット部材13は、所要長さに形成され、一端17側の内周面に雄ネジ部16と螺合する雌ネジ部18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引抜きピン、及びボルト孔の位置ズレ修正方法に関するものであり、更に詳しくは、主に建築物構築や橋架工事等の鉄骨組立作業等において、部材接合部に設けられたボルト孔の位置ズレの修正に使用する引抜きピン、及びボルト孔の位置ズレ修正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のドリフトピンは、例えば、建築物構築や橋架工事等の鉄骨組立作業等において、ボルト施工時又は部材同士の孔合せの段階で、部材接合部のボルト孔に対して、先端側のテーパー部を挿入し、ハンマーで基部側の抜止部材を打撃することにより、ボルト孔内に強制的に圧入している。
【0003】
なお、特開2000−46024号公報、及び特開2001−322073号公報には、建築物構築の鉄骨組立作業において、柱や梁等を接合させる際の接合穴の位置ずれの修正に使用するドリフトピンが開示されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−46024号公報
【特許文献2】特開2001−322073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この従来例のドリフトピンにおいては、ハンマー等で打撃した際の打撃音が可成り大きいために、近隣に騒音を発してしまうという問題点を有している。
【0006】
また、ハンマー等で打撃した際に、その反動でドリフトピンがボルト孔の反対側に抜け落ちてしまうおそれが有り、この場合は、作業上大変に危険であるという問題点も有している。
【0007】
従って、従来例におけるドリフトピンにおいては、打撃音の発生を解消することと、ボルト孔からの抜け落ちを防止して安全性を向上させることとに解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、部材接合部に設けられたボルト孔に圧入して、該ボルト孔の位置ズレを修正する引抜きピンであって、該引抜きピンは、ピン本体部と、該ピン本体部に対して着脱自在に螺合されるナット部材とから構成され、前記ピン本体部は、円柱部と、該円柱部の一端に連設され先端側に行くに連れて次第に細くなるテーパー部と、該テーパー部に連設される雄ネジ部とを少なくとも備え、前記ナット部材は、所要長さに形成され、一端側の内周面に前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部を備えることである。
【0009】
前記円柱部の他端は、段部を介して縮径部が連設され、該縮径部は、貫通孔が形成され、該貫通孔には、係止ピンが取外し自在に係止されること、;
を含むものである。
【0010】
また、本発明の要旨は、請求項1に記載の引抜きピンを用いた、部材接合部に設けられたボルト孔の位置ズレ修正方法であって、前記ボルト孔に前記ピン本体部の前記雄ネジ部を挿通し、該雄ネジ部に対して、前記ナット部材の一端側を挿入し前記雌ネジ部を強制的に螺入することによって、前記ピン本体部が前記ボルト孔に圧入して、該ボルト孔の位置ズレを修正し、更に、前記ナット部材を前記雄ネジ部から取り外して、該取り外したナット部材を反転させ、前記雄ネジ部に対して、前記ナット部材の他端側を挿入し前記雌ネジ部を強制的に螺入することによって、前記ピン本体部を前記ボルト孔から取外し方向へ移動させることである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る引抜きピンによれば、ボルト孔に挿通した雄ネジ部に対して、ナット部材の一端側を挿入し雌ネジ部を強制的に螺入することによって、ピン本体部がボルト孔に圧入して、該ボルト孔の位置ズレを修正できるので、従来例のようにハンマーで打撃する必要がなく騒音が発生しないという優れた効果を奏する。
【0012】
円柱部の他端は、段部を介して縮径部が連設され、該縮径部は、貫通孔が形成され、該貫通孔には、係止ピンが取外し自在に係止されることによって、係止ピンがボルト孔の縁に引っ掛かるので、ピン本体部が作業員の意に反してボルト孔の反対側に抜け落ちることがなく、安全性が向上するという優れた効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係るボルト孔の位置ズレ修正方法によれば、ボルト孔に挿通した雄ネジ部に対して、ナット部材の一端側を挿入し雌ネジ部を強制的に螺入することによって、ピン本体部がボルト孔に圧入して、該ボルト孔の位置ズレを修正するので、従来例のようにハンマーで打撃する必要がなく騒音が発生しない。
また、雄ネジ部に対してナット部材の一端側を挿入して、雄ネジ部の基部まで雌ネジ部を螺入した際には、ピン本体部がボルト孔に位置することとなり、ピン本体部が意に反してボルト孔の反対側に抜け落ちない。
更に、ナット部材を反転させてから、雄ネジ部に対してナット部材の他端側を挿入して、雄ネジ部の基部まで雌ネジ部を螺入した際には、円柱部の他端がボルト孔の端部に位置することとなり、ピン本体部が意に反してボルト孔の反対側に抜け落ちない。
即ち、上述の係止ピンの存在と相俟って、ピン本体部が作業員の意に反してボルト孔の反対側に抜け落ちることがないので、従来例のドリフトピント比較して安全性が格段に向上するという種々の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る引抜きピン11の斜視図である。
【図2】本発明に係る引抜きピン11を、ピン本体部12とナット部材13とに分離して示した斜視図である。
【図3】本発明に係る引抜きピン11の正面図である。
【図4】ピン本体部12の正面図である。
【図5】ナット部材13の正面図である。
【図6】ナット部材13の横断面図である。
【図7】ボルト孔31にピン本体部12の雄ネジ部16を挿通した状態を示す説明図である。
【図8】雄ネジ部16にナット部材13の雌ネジ部18を螺入して、ピン本体部12がボルト孔31に圧入した状態を示す説明図である。
【図9】反転したナット部材13を、雄ネジ部16に挿入する状態を示す説明図である。
【図10】雄ネジ部16にナット部材13の雌ネジ部18を螺入して、ピン本体部12をボルト孔13から取外し方向へ移動させる状態を示す説明図である。
【図11】雄ネジ部16にナット部材13の雌ネジ部18を螺入して、ピン本体部12をボルト孔13から取外し方向へ移動させた状態を示す説明図である。
【図12】ボルト孔13からピン本体部12取り外した状態を示す説明図である。
【図13】ボルト孔13にボルト32とナット33を締結した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、図1から図3において、符号11は引抜きピンを示し、この引抜きピン11は、ピン本体部12と、このピン本体部12に対して着脱自在に螺合されるナット部材13とから構成される。
【0016】
ピン本体部12は、円柱部14と、この円柱部14の一端14aに連設され先端側に行くに連れて次第に細くなるテーパー部15と、このテーパー部15に連設される雄ネジ部16とを備える。
【0017】
円柱部14の他端14bは、段部26を介して縮径部27が連設され、この縮径部27は、貫通孔28が形成されている。この貫通孔28には、係止ピン29が取外し自在に係止されている。
【0018】
ナット部材13は、図3及び図5に示すように、雄ネジ部16よりもやや短めな長さであり、外周が六角ナット状に形成されている。また、図6に示すように、内部が中空に形成され、一端17側寄りの内周面には、雌ネジ部18が形成されている。この雌ネジ部18は、ピン本体部12の雄ネジ部16と螺合可能である。
【0019】
また、雌ネジ部18の一端17側は、段部19を介して空隙部20が形成されている。更に、雌ネジ部18の他端21側は、段部22を介して空隙部23が形成されており、この空隙部23の他端21側には、段部24を介して拡径した空隙部25が形成されている(図6参照)。
【0020】
次に、以上のように構成された引抜きピン11を用いて、鋼材30等の部材接合部に設けられたボルト孔31の位置ズレを修正する方法について説明する。
【0021】
まず、図7に示すように、ボルト孔31にピン本体部12の雄ネジ部16を挿通する。この時、テーパー部15の長さの約3分の2程度がボルト孔31の内部に位置する。そして、雄ネジ部16に対してナット部材13の一端17側を挿入する。
【0022】
そして、図8に示すように、雄ネジ部16に対して、ナット部材13の雌ネジ部18を強制的に螺入する。この雌ネジ部18の螺入によって、ピン本体部12が先端側に強制的に移動することとなり、ピン本体部12がボルト孔31に圧入して、ボルト孔31の位置ズレを修正する。
雌ネジ部18が雄ネジ部16の基部まで螺入した状態においては(図8参照)、ピン本体部12がボルト孔31に位置するので、ピン本体部12が作業員の意に反してボルト孔31の反対側に抜け落ちない。
【0023】
このような状態の引抜きピン11にあっては、ピン本体部12がボルト孔31内に位置したまま、必要期間放置される。
【0024】
更に、ピン本体部12をボルト孔31から取り外す方法について説明する。まず、係止ピン29を貫通孔28から取り外す。そして、図9に示すように、ナット部材13を雄ネジ部16から取り外して、取り外したナット部材13の左右を反転させる。つまり、ナット部材13の他端21側を雄ネジ部16に向けてから、他端21側を雄ネジ部16に対して挿入する。
【0025】
続けて、図10及び図11に示すように、雄ネジ部16に対して、ナット部材13の雌ネジ部18を強制的に螺入する。この雌ネジ部18の螺入によって、ピン本体部12がボルト孔31から取外し方向(先端方向)へ移動する。
雌ネジ部18が雄ネジ部16の基部まで螺入した状態においては(図11参照)、円柱部14の他端14bがボルト孔31の端部に位置するので、ピン本体部12が作業員の意に反してボルト孔31の反対側に抜け落ちない。
【0026】
円柱部14の他端14bがボルト孔31の端部に位置したピン本体部12は(図11参照)、作業員が簡単に手で取り外すことができるので(図12参照)、当該ピン本体部12が確実に作業員の手の中に収まることとなる。
【0027】
このようにしてボルト孔31の位置ズレを修正した後には、図13に示すように、ボルト孔31にボルト32とナット33を締結することができる。
【符号の説明】
【0028】
11 引抜きピン
12 ピン本体部
13 ナット部材
14 円柱部
14a一端
14b他端
15 テーパー部
16 雄ネジ部
17 一端
18 雌ネジ部
19 段部
20 空隙部
21 他端
22 段部
23 空隙部
24 段部
25 空隙部
26 段部
27 縮径部
28 貫通孔
29 係止ピン
30 鋼材
31 ボルト孔
32 ボルト
33 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材接合部に設けられたボルト孔に圧入して、該ボルト孔の位置ズレを修正する引抜きピンであって、
該引抜きピンは、ピン本体部と、該ピン本体部に対して着脱自在に螺合されるナット部材とから構成され、
前記ピン本体部は、円柱部と、該円柱部の一端に連設され先端側に行くに連れて次第に細くなるテーパー部と、該テーパー部に連設される雄ネジ部とを少なくとも備え、
前記ナット部材は、所要長さに形成され、一端側の内周面に前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部を備えること
を特徴とする引抜きピン。
【請求項2】
前記円柱部の他端は、段部を介して縮径部が連設され、
該縮径部は、貫通孔が形成され、
該貫通孔には、係止ピンが取外し自在に係止されること
を特徴とする請求項1に記載の引抜きピン。
【請求項3】
請求項1に記載の引抜きピンを用いた、部材接合部に設けられたボルト孔の位置ズレ修正方法であって、
前記ボルト孔に前記ピン本体部の前記雄ネジ部を挿通し、
該雄ネジ部に対して、前記ナット部材の一端側を挿入し前記雌ネジ部を強制的に螺入することによって、前記ピン本体部が前記ボルト孔に圧入して、該ボルト孔の位置ズレを修正し、
更に、前記ナット部材を前記雄ネジ部から取り外して、該取り外したナット部材を反転させ、
前記雄ネジ部に対して、前記ナット部材の他端側を挿入し前記雌ネジ部を強制的に螺入することによって、前記ピン本体部を前記ボルト孔から取外し方向へ移動させること
を特徴とするボルト孔の位置ズレ修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−12776(P2012−12776A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147426(P2010−147426)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(599115376)
【Fターム(参考)】