説明

弾性表面波装置および弾性表面波装置の製造方法

【課題】 弾性表面波チップとその周辺との電気的接続を効率よく、確実に行うことができる弾性表面波装置と、その製造方法をすること。
【解決手段】 圧電基板の一面にすだれ状電極33が形成された弾性表面波チップ31と、この弾性表面波チップを気密に収容するパッケージ40とを備えた弾性表面波装置30であって、前記弾性表面波チップが、前記すだれ状電極と一体の引出し電極35と、前記引出し電極と接続される電極パッド36とを有しており、前記電極パッド36が、電極面となる第1の金属層51と、第1の金属層51の密着性を向上させるための第2の金属層52とを備え、前記引出し電極が、前記電極パッドの前記第1の金属層の表面側に回り込むように配置されている構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号と弾性表面波との間の変換を行うすだれ状電極を有する弾性表面波装置とその製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やテレビ受像機等の電子部品や通信部品において、共振子や帯域フィルタ等として弾性表面波装置(以下、「SAW(Surface Acoustic Wave)デバイスという」)が使用されている。このようなSAWデバイスでは、パッケージに収容される弾性表面波チップと回路基板などとの間をワイヤボンディングやバンプで接続するようにしている。
【0003】
図17は、弾性表面波チップにおいて、そのすだれ状電極もしくは櫛型電極(IDT(Inter Digital Transducer))と、中継用の回路基板やパッケージ側との電極とを接続するために、電極パッドを形成した例を示す部分断面図である(特許文献1参照)。
【0004】
図において、符号2で示すのは、IDTであって、圧電基板1の表面に形成されている。
IDT2の端部には、電極パッド9が形成されている。すなわち、電気的接続を行う場合、アルミニウムでなるIDTの上にバンプを打ったりすると、信頼性に劣るので、このような電極パッド9が必要とされる。
この電極パッド9は、IDT2の表面に下地層5を形成し、その上に金などの電極層6を形成している。ここで、下地層5は、ニッケル3の上にクロム4を被覆して形成されており、水晶などの圧電基板1の表面に形成しにくい金層などでなる電極層6を密着させる役割を果たす。符号7は保護膜である。
【0005】
このような構造にあっては、IDT2は、下地層5を介して、電極層6と電気的に接続されており、電極層6はその表面を平滑にするなどして、バンプ8を搭載もしくは接合することができ、これにより、ワイヤボンディングやフリップチップボンディングにより、図示しないパッケージ側電極などと接続されるようになっている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−180177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した従来の構造では、IDT2は、下地層5を介して電極層6と接続する構成である。
しかしながら、下地層5を構成する金属は、比較的導通抵抗が高く、IDT2と一体の引出し電極に直接バンプ形成する場合と比べると、抵抗値が大きくなり効率が低下する。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解消して、弾性表面波チップとその周辺との電気的接続を効率よく、確実に行うことができる弾性表面波装置と、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的は、第1の発明にあっては、圧電基板の一面にすだれ状電極が形成された弾性表面波チップと、この弾性表面波チップを気密に収容するパッケージとを備えた弾性表面波装置であって、前記弾性表面波チップが、前記圧電基板の前記一面に設けられる前記すだれ状電極と一体に形成された引出し電極と、前記引出し電極と接続される電極パッドとを有しており、前記電極パッドが、自然酸化されにくい第1の金属層と、この第1の金属層と前記圧電基板の表面との間に設けられ、第1の金属層の密着性を向上させるための第2の金属層とを備え、前記引出し電極が、前記電極パッドの前記第1の金属層の表面側に回り込むように配置されて、前記引出し電極と、前記電極パッドとが接続される構造とした弾性表面波装置により、達成される。
【0010】
第1の発明の構成によれば、すだれ状電極と一体に形成された引出し電極が、第1の金属層と第2の金属層とを備える電極パッドの第2の金属層の表面側に回り込むように配置されていることにより、前記引出し電極は第1の金属層と直接接触している。このため、引出し電極と電極パッドとの接続に関して、導通抵抗が低く抑えられることで、弾性表面波チップとその周辺の構造との間について、効率良く確実な電気的接続を実現できる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記引出し電極の少なくとも一部が、前記第1の金属層と前記第2の金属層との間に介在するように配置されていることを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、前記引出し電極の少なくとも一部が第1の金属層と前記第2の金属層との間に介在することにより、第1の金属層と直接接触している。このため、引出し電極と電極パッドとの接続に関して、導通抵抗が低く抑えられることで、弾性表面波チップとその周辺の構造との間について、効率良く確実な電気的接続を実現できる。また、これに加えて、電極パッドの形成時に、第1の金属層と第2の金属層が積層された積層端面において、下側の層である第2の金属層にサイドエッチングが進行することがなく、この第1の金属層と第2の金属層との積層境界端面でオーバーハング状態とならないことから、引出し電極をきわめて膜厚の薄いすだれ状電極とともに同じ厚みに形成した場合においても、引出し電極が断線しにくく、確実な接続構造とすることができる。
【0012】
第3の発明は、第2の発明の構成において、前記第2の金属層の表面側に配置された前記引出し電極が、前記第1の金属層により覆われていることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、前記引出し電極が、前記第1の金属層に覆われていることから、この第1の金属層に直接接触している。このため、引出し電極と電極パッドとの接続に関して、導通抵抗が低く抑えられることで、弾性表面波チップとその周辺の構造との間について、効率良く確実な電気的接続を実現できる。また、これに加えて、電極パッドの形成時に、この第1の金属層と第2の金属層との積層境界端面でオーバーハング状態とならないことから、引出し電極をきわめて膜厚の薄いすだれ状電極とともに同じ厚みに形成した場合においても、引出し電極が断線しにくく、確実な接続構造とすることができる。
【0013】
第4の発明は、第1の発明の構成において、前記第2の金属層の外縁が、前記第1の金属層の外縁よりの外側に位置することで段状の領域が形成されており、前記引出し電極が前記段状の領域の上に配置されていることを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、弾性表面波チップとその周辺の構造との間について、効率良く確実な電気的接続を実現できるという作用に加えて、前記第2の金属層の外縁が、前記第1の金属層の外縁よりの外側に位置することによりできる段状の領域が電極パッド端面に形成されているので、下側の層である第2の金属層にサイドエッチングが進行しても、オーバーハング状態とならない。このことにより、引出し電極をきわめて膜厚の薄いすだれ状電極とともに同じ厚みに形成した場合においても、引出し電極が断線しにくく、確実な接続構造とすることができる。
【0014】
また、上述の目的は、第5の発明にあっては、パッケージの内面に形成した電極部に対して、このパッケージに収容される弾性表面波チップを接合するようにした弾性表面波装置の製造方法であって、前記弾性表面波チップが、圧電基板の一面に、自然酸化されにくい第1の金属層と、この第1の金属層と前記圧電基板の表面との間に設けられ、第1の金属層の密着性を向上させるための第2の金属層とを備えた電極パッドをフォトリソグラフィの手法を用いて形成する電極パッド形成工程と、さらに、前記圧電基板の一面に、複数の前記弾性表面波チップに対応したすだれ状電極および引出し電極が、AlもしくはAlを含む金属により形成される電極形成工程と、前記圧電基板を個々の前記弾性表面波チップに対応する大きさに切断することにより側面を露出させる切断工程とを含む製造工程により形成され、その後、前記弾性表面波チップを、前記パッケージの電極部に対して、ワイヤボンディングまたはフリップチップボンディングにより接続する接続工程を有し、前記電極形成工程においては、前記引出し電極が、前記電極パッドの前記第1の金属層の表面側に回り込むように配置されて、前記引出し電極と、前記電極パッドとが接続されるようにした弾性表面波装置の製造方法により、達成される。
【0015】
第5の発明の構成によれば、弾性表面波チップの電極パッドの第1の金属層の表面側に前記引出し電極が回り込むように形成する。これにより、前記引出し電極と第1の金属層とが直接接触するように形成することができるので、引出し電極と電極パッドとの電気的接続が確実でしかも電気抵抗を低く抑えることができる。
【0016】
第6の発明は、第5の発明の構成において、前記電極パッド形成工程において、第2の金属層を成膜後に、前記電極形成工程を実行して、前記引出し電極を形成し、この引出し電極の少なくとも一部領域の上に前記第1の金属層を成膜するようにしたことを特徴とする。
第6の発明の構成によれば、前記引出し電極の少なくとも一部が、前記第1の金属層と前記第2の金属層との間に介在するように配置するために好適な工程である。
【0017】
第7の発明は、第5または6のいずれかの発明の構成において、前記電極パッド形成工程において、第1の金属層の外縁より外側に第2の金属層の外縁が位置するようにし、かつ前記引出し電極を前記第1の金属層の端部付近に配置することを特徴とする。
第7の発明の構成によれば、電極パッドの端面付近に段状の領域が形成され、さらに前記引出し電極が前記段状の領域の上に配置されるようにするための好適な工程となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明のSAWデバイス(弾性表面波装置)の第1の実施形態に使用できる弾性表面波チップを示す概略平面図、図2は図1の弾性表面波チップをパッケージに固定した状態の弾性表面波装置であり(蓋体の図示は省略)、図3は図2のA−A線概略断面図である。
これらの図を参照しながら、第1の実施形態に係るSAWデバイス30の詳しい構成について説明する。
【0019】
図2および図3に示すように、SAWデバイス30は、パッケージ40内に収容された弾性表面波チップ31を備えている。弾性表面波チップ31は、図1に示されているように、圧電基板32と、すだれ状電極であるIDT(櫛形電極)33及び反射器34,34を備えている。
圧電基板32は、圧電材料として、例えば、水晶,リチウムタンタレート(LiTaO3 ),リチウムナイオベート(LiNbO3 )等の単結晶基板やSi基板へZnO成膜した基板等の多層膜基板等を使用することができる。この実施形態では、例えば、水晶基板を用いている。
【0020】
IDT33及び反射器34は、圧電基板32の一面である能動面に、アルミニウムやチタン等の導体金属を蒸着あるいはスパッタリング等により薄膜状に形成した上で、後述するように、例えば、フォトリソグラフィの手法を用いて、すだれ状となるように形成されている。後述する製造工程では、アルミニウムの導電層を形成するようにしている。
具体的には、IDT33,33は、それぞれ複数の電極指33aが所定のピッチで並設されて長手方向の各端部が短絡するように形成されている。即ち、2つの櫛形状のIDT33,33の各櫛歯部分が、所定距離隔てて互い違いに入り込むように形成されている。このIDT33は、電気的に接続されている外部端子(後述)を介して電気信号と弾性表面波(SAW)との間の変換を行う機能を有する。
【0021】
IDT33の両側には、それぞれ所定のギャップを隔てて、反射器34,34が設けられている。反射器34は、複数の導体ストリップ34aが、IDT33と同じように、所定のピッチで並設されて長手方向の各両端部が短絡されるように形成されている。
そして、例えば、同一構成の2つの反射器34,34は、その導体ストリップ34aがIDT33の電極指33aと平行になるように、かつIDT33を弾性表面波の伝搬方向、即ち矢印Tで示すIDT33の電極指33aの長手方向に直交する方向に所定距離隔てて挟み込むように形成されている。この反射器34,34は、IDT33から伝搬してくる弾性表面波を反射して、弾性表面波のエネルギーを内部に閉じこめる機能を有する。
【0022】
このような構成において、電気信号が、上記外部端子を介してIDT33に入力されると、圧電効果により弾性表面波に変換される。この弾性表面波は、矢印T方向、すなわち、IDT33の電極指33aの長手方向に対して直交方向に伝搬され、IDT33の両側から反射器34,34に放射される。このとき、圧電基板32の材質、電極の厚みや電極の幅等で決定される伝搬速度とIDT33の電極指33aの電極周期d0 に等しい波長を持つ弾性表面波が、最も強く励振される。この弾性表面波は、反射器34,34により多段反射されてIDT33に戻され、共振周波数付近の周波数(動作周波数)の電気信号に変換されてIDT33から外部端子を介して出力される。
【0023】
このように、外部端子を介して、IDT33に外部から電気信号を入力するために、パッケージ40および弾性表面波チップ31は、以下のように構成されている。
図2に示すように、弾性表面波チップ31の表面には、各IDT33,33と一体に形成されて、図示の方向Tと直交する方向に延長された引出し電極35,35と、各引出し電極35,35と接続された電極パッド36,36が設けられている。
この電極パッド36,36は、後述するようにパッケージ40側の電極とバンプを用いてワイヤボンディング、あるいはフリップチップボンディングにより電気的接続を行うためのものである。引出し電極35,35と電極パッド36,36の詳しい構成は後述する。
【0024】
次に、パッケージ40側の構造を説明する。
図2および図3において、パッケージ40は、例えば、絶縁材料として、酸化アルミニウム質のセラミックグリーンシートを成形して形成される箱状の容器であり、グリーンシートから得られる基板を積層した後、焼結して形成されている。
パッケージ40は、所定の内部空間Sを有しており、パッケージ40の上端には、ロウ材44を介して、蓋体45が接合されて気密に封止されている。
パッケージ40の内周に形成した段部41、41には、電極部42,42が形成されており、この電極部42,42は、例えば、導電スルーホールなどにより、パッケージ40の底面に露出させて形成した図示しない実装電極と接続されている。ここで、パッケージ40は、強度や気密性の向上をはかるために、金属により形成してもよく、この場合には、パッケージ40の内側底面を絶縁する。
【0025】
また、図3に示されているように、パッケージ40の内部空間Sの内側底面には、例えば、接着剤を用いて、弾性表面波チップ31が接合されている。そして、弾性表面波チップ31の各電極パッド36,36は、パッケージ40の電極部42,42と図示するようにワイヤボンディングされて電気的に接続されている。
以上のような構造により、SAW共振子やSAWフィルタが構成され、さらには、パッケージ40内に弾性表面波チップと接続される発振回路素子である集積回路が収容されることにより、SAW発振器を構成することができる。SAWデバイスとはこれらを含み、名称のいかんを問わず、弾性表面波チップをパッケージ内に収容するデバイスを全て含むものである。
【0026】
図4ないし図9は、図1のB−B線切断端面図である。
これらを参照して、引出し電極と電極パッドの詳しい構成を説明する。
図4は引出し電極と電極パッドとの接続構造における第1の実施形態を示しており、電極パッド36は、圧電基板32の表面に形成された第2の金属層52と、この第2の金属層52の上に形成された第1の金属層51とを有している。
第1の金属層51は、電極層であり、後述するように、その表面にバンプなどを形成して、既に説明したように、パッケージ側と電気的接続を行うための部分である。この第1の金属層51は、表面に自然酸化膜が形成されて導通性が低下する心配がほとんど無い、あるいは少なくとも、IDT33を形成する金属よりも自然酸化膜が形成されにくい金属により形成され、好適に使用できるのはAuもしくはその合金である。
第2の金属層52は、圧電基板32の表面に第1の金属層51を直接密着させることが困難なために設けられるもので、第1の金属層51の下地層である。この場合の下地層としては、たとえば、クロム(Cr)またはニッケル(Ni)もしくはこれらの合金が使用できる。
【0027】
後述するように、製造工程においては、図4に示す圧電基板32の一面に先に電極パッド36を形成し、その後でIDTの延長としての引出し電極35がIDTとともに形成される。
この引出し電極35は、電極パッド36と接続される必要がある。そこで、引出し電極35を電極パッド36と接続させるように形成する上では、図4の点線で示すように引出し電極35の端面と電極パッド36の端面とが接続されるようにしても、一応は電気的接続をすることができる。
【0028】
しかしながら、このような構造では、電極パッド36の電極膜である第1の金属層51との間に、第2の金属層52が介在する状態で、引出し電極35が接触することから、電気抵抗が大きくなり効率が悪い。
そこで、この実施形態では、引出し電極35の先端部35aを電極パッド36の表面側に回り込ませて、オーバーラップ部OBを形成する。電極パッド36の表面のオーバーラップ部OBを除く領域は電極面CAとして露出されている。
これにより、オーバーラップ部OBにあっては、引出し電極35が直接第1の金属層51と接触しており、導通抵抗を低減することができ、確実な電気的接続を行うことができる。また、電極パッド36の電極面CAは、後述するようにバンプなどを接続することで、弾性表面波チップの周辺の構造との電気的接続を行うことができる。特に、この構造では、電極面CAは、オーバーラップ部OBとの境界が段差となることで、全体として凹部となるので、バンプなどを形成する上で位置決めなどがしやすい。
【0029】
ここで、図4の構造には、弾性表面波装置(弾性表面波チップ)の周波数が高くなると、図5に示すような問題が生じる。
すなわち、周波数を高くする程、IDT、すなわち引出し電極35を構成するアルミニウムの膜厚を薄くしなければならない。
一般に、IDTの(アルミ)膜厚T=850000(Å)/周波数(MHz)・・・式1
の関係が成立する(Å=オングストローム)。
すなわち、周波数500(MHz)メガヘルツでは、膜厚Tは1700Å、周波数1ギガヘルツで、膜厚Tが850Å、周波数1.5(GHz)ギガヘルツで、膜厚Tは570Åとなる。
【0030】
一方、既に説明したように、図4の構造を製造する際には、圧電基板32の一面に先に電極パッド36を形成した後で、引出し電極35を形成する。
この場合、電極パッド36を形成するためには、圧電基板32の一面に例えば、クロムにより第2の金属層52を、その上に金により第1の金属層51を、順次スパッタリングや蒸着などで、必要な膜厚に形成し、例えば、フォトリソグラフィの手法により必要な電極形状となるように加工する。
【0031】
ここで、電極パッド36の形成工程にみられるように、電解溶液中に互いに接触した卑な金属と、貴な金属を露出させると、金属間に電位差が生じ、電池(局部電池、ガルバニ電池)が形成される。つまり、各金属はエッチング液を電解溶液として、対となる電極を形成する。このように、異なる金属を電極として、局部電池が形成され、電気化学反応が生じることで腐食が進行することを異種金属接触腐食またはガルバニ腐食と呼ばれている。
このため、図4に示すように、クロム層である第2の金属層52と、金層である第1の金属層51との間においては、電流が金層からクロム層へ流れ、エッチング液中では電流は卑な金属であるクロム層からエッチング液を通り、貴な金属である金層へ流れる。このため、卑な金属であるクロム層からは、電子が貴な金属である金層へ移動し、かつエッチング液との接触面から金属イオンとして液体中へ溶け出すことで、サイドエッチングが進行する。サイドエッチングの進行は、エッチング条件にもよるが、例えば、クロム層の厚みを500Å(0.05μm)程度とすると、その厚みの方向を全て除去する間に、サイドエッチングはその20倍も進む。
【0032】
図5は、このようなサイドエッチングにより、電極パッド36の端面にオーバーハング部54が生じた状態を示している。
図4において、引出し電極35の厚み(IDTの厚みと同じ)t1が、薄く、しかも、図5のように、電極パッド36にサイドエッチングによるオーバーハング部54が形成されると、図示のように、引出し電極35が、電極パッド36の端面の箇所で、切断しやすくなってしまう。そうすると、電気的接続が絶たれるので、きわめて好ましくない。
このような観点から、図4の構成において、引出し電極35の厚みt1は、電極パッド36の第2の金属層52の厚みt2より厚くすることが好ましい。
【0033】
図6ないし図9は、それぞれ第2ないし第5の実施形態の要部を示す図であり、上述のような引出し電極35の断線もしくは、その断面積が極端に小さくなることを防止する構成に関するものである。
図6では、電極パッド36−1の第2の金属層52の外縁が、第1の金属層51の外縁よりも外側に位置するように形成したものである。これにより、電極パッド36−1には、上向き段部52aが形成される。この段部もしくは段状の領域の上に、引出し電極35の先端部35aが配置される。これにより、先端部35aは、必ず第1の金属層51に接触するので、導通抵抗を低く抑え、電気的接続を確実にすることができる。
【0034】
図7ないし図8の各実施形態は、各電極パッドの構造において、引出し電極35の先端部35aを第2の金属層52と第1の金属層51とで挟むようにした構成を示している。
図7の電極パッド36−2では、引出し電極35の先端部35aが、第2の金属層52の端部に乗り上げており、その乗り上げ部分に、第1の金属層51の端部が重ねられている。
このように、引出し電極35の先端部35aを第2の金属層52と第1の金属層51とで挟むことで、先端部35aは、必ず第1の金属層51に接触するので、導通抵抗を低く抑え、電気的接続を確実にすることができる。
【0035】
図8の電極パッド36−3では、引出し電極35の先端部35aが、第2の金属層52の端部に乗り上げており、その乗り上げ部分に、第1の金属層51の端部が重ねられている点は、図7と同じであるが、引出し電極35の先端部35aの長さがより長く、その上に重ねられる第1の金属層53の部分も長くされることで、オーバーラップ部が長く(広く)されている。これにより基本的な作用効果は図7の場合と同じであるが、より接続面積が大きくなり、導通抵抗を低くすることができる。また、金が露出した電極面53の面積が大きくなる。
さらに、引出し電極35に形成される自然酸化膜がバリアとして作用し、引出し電極35の先端部35a(アルミ)から、第2の金属層51(金)へのアルミ、金の相互の拡散が抑制される。
【0036】
図9の電極パッド36−4では、引出し電極35の先端部35aが、第2の金属層52の表面側を完全に覆い、その上に第1の金属層51が配置される構成である。
この場合にも図8の構成とほぼ同じ作用効果が発揮され、特に電極面53の広さがより広くなる。
なお、図4の構成と、上記図6ないし図9の構成では、各部を形成する金属膜の成膜順序が異なり、図4の構成では、先に電極パッド36を完成させた後で、引出し電極35を含むIDTのアルミ膜を形成するが、図6ないし図9の構成では、電極パッド36の形成工程の一部だけ先行させ、つまり、第2の金属膜52だけ先に成膜し、続いてIDTのアルミ膜を成膜し、その後第1の金属層51を成膜することになる。
【0037】
図10ないし図13は、図6および図7の各電極パッドにバンプなどを接合する様子を示す説明図である。
図示されているように、電極パッド36−1と36−2は、ともに引出し電極35の先端部35aが電極面53よりも突出するので、電極面53の周辺が凹部もしくは凹状の形態となることから、フリップチップボンディング用のバンプ61を予め位置決めして形成したり、ワイヤボンディングの際のボールバンプ62を打つのに適している。
【0038】
図14ないし図16は、図1ないし図3で説明したSAWデバイス30の変形例を示しており、SAWデバイス30の説明に使用した符号と同じ符号を付した箇所は共通する構成であるから、重複した説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
図14ないし図16において、SAWデバイス30−1は、そのパッケージ40の内側底面に電極部42−1,42−1を有している。
図16に詳細に示すように、電極パッド36−1には、予めバンプ61が形成されており、弾性表面波チップ31は、図3の場合に対して、上下を逆さにして、バンプ61を用いてフリップチップボンディングにより接合されている。バンプ61は、例えば金バンプが使用できる。
これにより、変形例のSAWデバイス30−1は、SAWデバイス30と比べると、ワイヤに引き回しが不要な分だけ、パッケージ40を小型化することができる。
尚、図14では、理解の便宜のためにバンプ61を上面に示しているが、図15から理解されるように、パッケージ40の蓋側にバンプ61は表れない。
【0039】
(弾性表面波装置の製造方法)
次に、SAWデバイス30の製造方法に関する実施形態について図1ないし図9を適宜参照して説明する。
先ず、圧電基板(製品単位の圧電基板32が切断される前の材料)として、例えば水晶ウエハを用意する。
次いで、所定箇所に先ず電極パッドを形成する。
【0040】
(電極パッド形成工程)
すなわち、水晶ウエハの一面に、第2の金属層52として、例えばクロム(Cr)をスパッタリングまたは蒸着により成膜する。この場合の膜厚が大きいと、図5で説明した弊害が起こりやすいので、後の工程におけるIDTの膜厚との関係でできるだけ薄く形成することが好ましい。
次に、第2の金属層52の上に、第1の金属層51として、例えば金(Au)を成膜する。
【0041】
続いて、フォトレジストなどによりマスクを形成して、既に説明した電極パッド36に対応した形状、および必要な導電パターンをフォトリソグラフィの手法を用いて形成する。この場合、図5で説明したように、オーバーハング部ができるだけ形成されないようにすることが好ましい。
図5のオーバーハング部54が形成されてしまうようであれば、再度、第1の金属層51についてエッチングを行い、オーバーハング部54を無くすか、あるいは、よりエッチングを進めて、図6の段部52aを形成するようにしてもよい。後者の場合には、以後の工程が少し異なる。
【0042】
(電極形成工程)
次に、図1で説明したIDT33,33、反射器34,34、引出し電極35,35を形成する。この実施形態では、先ず、スパッタリングまたは蒸着により、アルミニウム(Al)またはアルミニウム合金を圧電基板32の全面に成膜する。
次いで、IDT33,33、反射器34,34、引出し電極35,35を形成する箇所に対応したレジストパターンを形成し、露光・現像することによって、フォトリソグラフィの手法を用いて、マスキングされていない箇所をエッチングプロセスにより除去し、IDT33,33、反射器34,34、引出し電極35,35を形成するアルミパターンを形成する。
この場合、引出し電極35の先端部35aは、図4で説明したように、既に形成されている電極パッド36の表面側に回り込むように、アルミ膜の一部が電極パッド36の一部に重なるように成膜することが重要である。その後、パターニングして、必要なパターンを形成する。
(別の実施形態)
以上の構成において、図6ないし図9の各電極パッドを形成するためには、既に説明したように、上述の工程を少し変更して、電極パッド形成工程では、第2の金属層52の成膜と、パターニングを先に行い、次いで電極形成工程に入り、アルミ膜を成膜して、IDTなどを先に形成する。その後、電極パッド形成工程の残りの工程である第1の金属層51を成膜し、パターニングする。
【0043】
(切断工程)
次に、上記圧電基板を切断して個々の圧電基板32の大きさに切断すると弾性表面波チップ31が完成する。
(接合工程)
以上の工程とは別工程により、酸化アルミニウム質のセラミックグリーンシートを成形して、電極部等の必要な導電パターンを形成した上で、図2ないし図3で説明したパッケージ40を形成する。すなわち、例えばセラミックグリーンシートを用いて、所定の大きさの基板を複数枚作り、積層した後、焼結してパッケージ40を形成しておく。
このパッケージ40の内側底面に接着剤などを利用して図3のように弾性表面波チップ30を接合する。次いで、ワイヤボンディングにより図2ないし図3に示すように電気的接続を行う。
【0044】
別の方法としては、図10および図11に示すように、弾性表面波チップの電極パッドにバンプ61を予め接合しておき、図16で示すように、パッケージ40の電極部42−1にフリップチップボンディングすることにより接合を行う。
【0045】
次に、弾性表面波チップ31を接合したパッケージ40を図示しないチャンバー内に収容し、所定の真空度でエッチングガスを供給して、エッチングプラズマを生成して、圧電基板32の能動面もしくはIDT33をドライエッチングすることにより必要な周波数調整を行う。
最後に、例えば窒素雰囲気内で、ロウ材44を介して、蓋体45を接合して蓋封止することにより図2または図14に示すようにSAWデバイス30を完成することができる。
【0046】
本発明は上述の実施形態や変形例に限定されない。実施形態や変形例の各構成はこれらを適宜省略したり、図示しない他の構成と組み合わせることができる。
また、上述の実施形態では、反射器を伴う構成としたが、反射器はなくてもよい。引出し電極と電極パッド以外にも必要な導通パターンを形成してもよく、これらを用いて、弾性表面波チップと発振回路を接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のSAWデバイスの第1の実施形態の弾性表面波チップを示す概略平面図。
【図2】図1の弾性表面波チップを用いたSAWデバイスの実施形態を示す概略平面図。
【図3】図2のA−A線概略断面図。
【図4】図1のSAWデバイスの要部を示す概略断面図。
【図5】図4の構造において、引出し電極の断線の様子を示す説明図。
【図6】本発明のSAWデバイスの第2の実施形態の要部を示す図。
【図7】本発明のSAWデバイスの第3の実施形態の要部を示す図。
【図8】本発明のSAWデバイスの第4の実施形態の要部を示す図。
【図9】本発明のSAWデバイスの第5の実施形態の要部を示す図。
【図10】本発明のSAWデバイスの第2の実施形態の電極パッドにバンプを形成した図。
【図11】本発明のSAWデバイスの第3の実施形態の電極パッドにバンプを形成した図。
【図12】本発明のSAWデバイスの第2の実施形態の電極パッドにワイヤボンディングする様子を示す図。
【図13】本発明のSAWデバイスの第3の実施形態の電極パッドにワイヤボンディングする様子を示す図。
【図14】本発明のSAWデバイスの変形例を示す概略平面図。
【図15】本発明のSAWデバイスの変形例を示す概略断面図。
【図16】本発明のSAWデバイスの変形例の要部を拡大して示す図。
【図17】従来の電極パッドの構造を示す要部断面図。
【符号の説明】
【0048】
30・・・SAWデバイス、31・・・弾性表面波チップ、32・・・圧電基板、33・・・IDT、34・・・反射器、35・・・引出し電極、36・・・電極パッド、40・・・パッケージ、51・・・第1の金属層、52・・・第2の金属層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一面にすだれ状電極が形成された弾性表面波チップと、この弾性表面波チップを気密に収容するパッケージとを備えた弾性表面波装置であって、
前記弾性表面波チップが、
前記圧電基板の前記一面に設けられる前記すだれ状電極と一体に形成された引出し電極と、
前記引出し電極と接続される電極パッドと
を有しており、
前記電極パッドが、
自然酸化されにくい第1の金属層と、この第1の金属層と前記圧電基板の表面との間に設けられ、第1の金属層の密着性を向上させるための第2の金属層とを備え、
前記引出し電極が、前記電極パッドの前記第1の金属層の表面側に回り込むように配置されて、前記引出し電極と、前記電極パッドとが接続される構造とした
ことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記引出し電極の少なくとも一部が、前記第1の金属層と前記第2の金属層との間に介在するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記第2の金属層の表面側に配置された前記引出し電極が、前記第1の金属層により覆われていることを特徴とする請求項2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記第2の金属層の外縁が、前記第1の金属層の外縁よりの外側に位置することで段状の領域が形成されており、前記引出し電極が前記段状の領域の上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
パッケージの内面に形成した電極部に対して、このパッケージに収容される弾性表面波チップを接合するようにした弾性表面波装置の製造方法であって、
前記弾性表面波チップが、
圧電基板の一面に、自然酸化されにくい第1の金属層と、この第1の金属層と前記圧電基板の表面との間に設けられ、第1の金属層の密着性を向上させるための第2の金属層とを備えた電極パッドをフォトリソグラフィの手法を用いて形成する電極パッド形成工程と、
さらに、前記圧電基板の一面に、複数の前記弾性表面波チップに対応したすだれ状電極および引出し電極が、AlもしくはAlを含む金属により形成される電極形成工程と、
前記圧電基板を個々の前記弾性表面波チップに対応する大きさに切断することにより側面を露出させる切断工程と
を含む製造工程により形成され、
その後、前記弾性表面波チップを、前記パッケージの電極部に対して、ワイヤボンディングまたはフリップチップボンディングにより接続する接続工程を有し、
前記電極形成工程においては、前記引出し電極が、前記電極パッドの前記第1の金属層の表面側に回り込むように配置されて、前記引出し電極と、前記電極パッドとが接続されるようにした
ことを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項6】
前記電極パッド形成工程において、第2の金属層を成膜後に、前記電極形成工程を実行して、前記引出し電極を形成し、この引出し電極の少なくとも一部領域の上に前記第1の金属層を成膜するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項7】
前記電極パッド形成工程において、第1の金属層の外縁より外側に第2の金属層の外縁が位置するようにし、かつ前記引出し電極を前記第1の金属層の端部付近に配置することを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載の弾性表面波装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2006−67211(P2006−67211A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246903(P2004−246903)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】