説明

後輪トー角制御装置

【課題】直動式の電動アクチュエータにストロークセンサを設けることなく実後輪トー角の検出を可能にする。
【解決手段】後輪トー角制御装置10は、電動アクチュエータ11と、実後輪トー角δractに基づいて電動アクチュエータ11を駆動制御するECU12とを備え、ECU12は、電動アクチュエータ11に設定されたレゾルバ17の検出結果に基づいて電動アクチュエータ11のストローク量を算出したうえで実後輪トー角δractを算出する。ECU12は、所定の条件のもと、電動アクチュエータ11のハウジングと出力ロッドとの相対移動がストッパにより規制されるまで左右の電動モータをトーイン側へ同時に駆動する較正駆動制御を行い、較正駆動が行われた場合、ストローク量算出部は、相対移動が規制された位置でストローク量を較正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動式の電動アクチュエータを用いて後輪トー角を可変制御する後輪トー角制御装置に係り、電動アクチュエータにストロークセンサを設けることなく実後輪トー角の検出を可能にする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の回頭性や操縦安定性を向上させるために、後輪のトー角を可変制御する後輪トー角制御装置を備えた4輪操舵車両が開発されている。後輪トー角制御装置としては、左右の後輪サスペンションのリンク(ラテラルリンクあるいはトレーリングリンクなど)と車体との間に直動式の電動アクチュエータをそれぞれ設け、これら電動アクチュエータを伸縮させることによって左右の後輪のトー角を個別に可変制御するように構成したものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
電動アクチュエータとしては、電動モータと送りねじ機構とを用いた直動式のものが一般に用いられる(例えば、本出願人による特許文献2を参照)。直動式の電動アクチュエータを用いて後輪トー角を制御する場合、電動アクチュエータのストローク量を非接触型のストロークセンサを用いて検出し、その検出結果に基づくフィードバック制御を行うことが多い。非接触型のストロークセンサとしては、軟磁性磁芯と、軟磁性磁芯に巻装された1次コイルと、軟磁性磁芯に同一巻き数で巻装された差動的な2次コイルと、軟磁性磁芯の長手方向に磁気回路を形成するように近接配置されて磁界を発生する被検出移動体とを備え、2つの2次コイル間の差動電圧で被検出移動体の軟磁性磁芯の長手方向における変位を検出するものが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−30438号公報
【特許文献2】特開2008−164017号公報
【特許文献3】特開平7−332912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電動アクチュエータに上記のようなストロークセンサを付設する場合、飛び石などによる破損を防止するためにストロークセンサを頑丈なケースに収容する必要があり、装置の大型化および重量増加を招いてしまう。また、電動アクチュエータのストローク量が大きな場合、ストロークセンサが大型化してしまう。
【0006】
この問題を解決する方法として、電動モータの回転角をレゾルバなどの回転角センサによって検出し、その検出値にギヤ比を乗ずる演算をECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)で行うことでストローク量を求めることが考えられる。
【0007】
ところが、レゾルバは電動モータの回転角を検出するものであるため、電動モータがECUによって連続的に制御されていればECUによる電動モータの回転数の判別が可能であるが、電動モータの制御が中断されると作動再開時のストローク量がわからなくなり、電動アクチュエータのストローク量を判別することができない。すなわち、運転者がイグニッションスイッチをオンにして運転を開始した時に、ECUが電動アクチュエータの現状のストローク量を判別できず、実後輪トー角を正確に把握することができない。
【0008】
この問題に対しても、ECUが、イグニッションスイッチをオフにした時に電動アクチュエータのストローク量をEEPROMなどに記憶しておき、次回の運転開始時にEEPROMに記憶された値を読み込むことで、この値をストローク初期値として後輪トー角制御を開始することが可能である。
【0009】
しかしながら、後輪トー角制御用の電動アクチュエータの場合、運転終了時から次回の運転開始時までの間に外部からの振動などが後輪に加わることがあり、この間ECUおよび回転角センサの電源がオフになっていると、アクチュエータのストローク量が変化してしまった場合にEEPROMに記憶された値と実際の値とが異なることとなり、ECUが誤った実後輪トー角に基づく制御を行ってしまう。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、後輪トー角の制御に供される直動式の電動アクチュエータにストロークセンサを付設することなく実後輪トー角の検出を可能にし、もって後輪トー角制御装置の小型化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、第1の発明は、車体側部材(1)に連結された第1部材(ハウジング32)と車輪側部材(ナックル7a)に連結された第2部材(出力ロッド35)とを電動モータ(36)によって相対移動させることにより、後輪トー角を変化させる電動アクチュエータ(11)と、電動アクチュエータ(11)に設けられ、第1部材(32)と第2部材(35)とが所定範囲を超えて相対移動することを規制するストッパ(45)と、電動モータ(36)の回転角を検出する回転角検出手段(17)と、回転角検出手段(17)の検出結果に基づいて第1部材(32)と第2部材(35)との相対移動量(ストローク量)を算出する相対移動量算出手段(22)と、相対移動量算出手段(22)の算出結果に基づいて実後輪トー角を算出する実後輪トー角算出手段(24)と、目標後輪トー角を設定する目標後輪トー角設定手段(21)と、実後輪トー角と目標後輪トー角との差に基づいて電動モータ(36)を駆動制御する駆動制御手段(26)とを備えた車両(V)の後輪トー角制御装置(10)であって、駆動制御手段(26)は、所定の条件のもと、第1部材(32)と第2部材(35)との相対移動がストッパ(45)により規制されるまで電動モータ(36)を駆動する較正駆動を行い、相対移動量算出手段(22)は、較正駆動が行われた場合、相対移動が規制された位置で相対移動量を較正する(ステップS14,S17)ことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、駆動制御手段が較正駆動を行うことにより、相対移動量から算出された実後輪トー角と実際の後輪トー角とがずれていたとしても、相対移動が規制された位置で相対移動量が較正されるため、正しい実後輪トー角を把握することができる。そして、回転角センサで実後輪トー角を検出できるため、ストロークセンサによる装置の大型化および重量増加を回避することができる。
【0013】
また、第2の発明は、第1の発明に係る後輪トー角制御装置(10)において、前記所定の条件が、車両(V)が運転を開始したこと(ステップS2)を含むことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、車両が運転を停止している間に後輪トー角が振動などによって変化してしまっても、運転を開始したことを条件にして較正駆動を行うため、後輪トー角のずれによる車両挙動の悪化を防止することができる。
【0015】
また、第3の発明は、第1または第2の発明に係る後輪トー角制御装置(10)において、前記所定の条件が、車両(V)が走行中であること(ステップS3)を含むことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、走行中に較正駆動を行うため、電動アクチュエータの負荷が小さくなる。したがって、出力の小さな小型の電動アクチュエータを用いても較正駆動を行うことができる。
【0017】
また、第4の発明は、第1〜第3のいずれかの発明に係る後輪トー角制御装置(10)において、電動アクチュエータ(11)が左右の後輪(5)にそれぞれ設けられ、前記較正駆動が、左右の後輪(5)をともにトーインにする向きに電動モータ(36)を同時に駆動すること(ステップS11)により行われることを特徴とする。
【0018】
車両が走行している時に左右の電動アクチュエータを別々に較正駆動すると、直進走行時であっても車両挙動を悪化させるが、この発明によれば、左右の電動アクチュエータを同時に較正駆動するため、直進走行時の車両挙動の悪化を招かずに済む。また、較正駆動が後輪をトーイン側へ変化させるため、較正駆動時に車両が旋回した場合であっても、アンダーステア傾向になるのでより安全である。
【0019】
また、第5の発明は、第4の発明に係る後輪トー角制御装置(10)において、前記較正駆動は、左右一方の電動アクチュエータ(11)における相対移動が規制された場合(ステップS12:Yes)、左右他方の電動アクチュエータ(11)における相対移動が規制されるまで一方側の電動モータ(36)の駆動を停止した(ステップS13)後、左右の後輪(5)をともにトーアウトにする向きに電動モータ(36)を同時に駆動する(ステップS18)ことを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、トーイン側へ後輪トー角を変化させる際だけでなく、トーアウト側へ後輪トー角を変化させるとき、すなわち両後輪を初期位置へ戻す際にも左右の後輪が対称的に駆動されるため、車両挙動の悪化が抑制されるとともに、左右のトー角を別々に戻す場合に比べて旋回時の安全も確保される。また、先に規制された一方の電動アクチュエータを他方の電動アクチュエータが規制されるまで駆動停止するため、左右の後輪がより早く対称になって正常な車両挙動の早期回復が実現される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ストロークセンサを設けることなく実後輪トー角を把握することができるため、後輪トー角制御装置を小型化および軽量化することができる。また、一旦電源がオフにされても、較正駆動によって回転角検出手段の検出結果に基づく実後輪トー角の把握を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係る自動車の概略構成を示す平面図である。
【図2】実施形態係る電動アクチュエータの従断面図である。
【図3】実施形態に係る後輪トー角制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態に係る較正駆動判定のフロー図である。
【図5】実施形態に係る較正駆動制御のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる後輪トー角制御装置10を適用した自動車Vの一実施形態について図面を参照して説明する。説明にあたり、車輪やそれらに対して配置された部材、すなわち、タイヤや電動アクチュエータ等については、それぞれ数字の符号に左右を示す添字LまたはRを付して、例えば、後輪5L(左)、後輪5R(右)と記すとともに、総称する場合には、例えば、後輪5と記す。
【0024】
図1に示すように、自動車Vは、タイヤ2L,2Rが装着された前輪3L,3Rと、タイヤ4L,4Rが装着された後輪5L,5Rとを備えており、これら前輪3L,3Rおよび後輪5L,5Rが、左右のフロントサスペンション6L,6Rおよびリヤサスペンション7L,7Rによってそれぞれ車体1に懸架されている。
【0025】
また、自動車Vには、運転者によるステアリングホイール8の操舵により、ラックアンドピニオン機構を介して左右の前輪3L,3Rを直接転舵する前輪操舵装置9が装備されるとともに、リヤサスペンション7のナックル7aL,7aRと車体1との間に設けられた直動型の電動アクチュエータ11L,11Rを駆動制御することにより、左右の後輪トー角δrを別々に変化させる後輪トー角制御装置10L,10Rが左右の後輪5に対してそれぞれ設けられている。
【0026】
図2に示すように、電動アクチュエータ11は、車体1に連結されるラバーブッシュ31が圧入された第1ハウジング32aおよび、複数のボルト33で第1ハウジング32aに締結された第2ハウジング32bからなるハウジング32(第1部材)と、第2ハウジング32bに伸縮自在に支持され、ナックル7aに連結されるラバーブッシュ34が圧入された出力ロッド35(第2部材)とを備えている。第1ハウジング32aは、その内部にレゾルバ17を内蔵した電動モータ36を収容している。一方、第2ハウジング32bの内部には、遊星歯車式の減速機38と、弾性を有するカップリング39と、台形ねじを用いた送りねじ機構40とが収容されている。
【0027】
電動モータ36は、PM(Permanent Magnet)シンクロナスモータ、いわゆるブラシレスDCモータであり、永久磁石を備えたロータ36aと、電機子巻線を備えたステータ36bとを備えた回転界磁形の構造をなし、半導体のスイッチング作用によって駆動される。レゾルバ17は、電動モータ36の回転軸に取り付けられ、回転角に応じてギャップを周期的に変化させる回転子17aと、回転子17aの外周に設けられて励磁コイルと検出コイルとを有する固定子17bとを備えたVR(Variable Reluctance)型であり、励磁コイルで発生させた磁路中のギャップ変動によるトランス効率の変化を検出コイルで検出することにより、回転子17aの回転角を検出する。
【0028】
出力ロッド35は、略円筒状を呈し、第2ハウジング32bの内周面に固定された2つのスライドベアリング41によって摺動可能に支持されている。出力ロッド35の中空内周面に嵌挿された雌ねじ部材42が入力フランジ44の中央から延出する雄ねじ部材43に螺合することで送りねじ機構40を構成している。電動モータ36から減速して伝達された入力フランジ44の回転運動が送りねじ機構40によって出力ロッド35のスラスト運動に変換されることによって電動アクチュエータ11が伸縮動し、ハウジング32と出力ロッド35とを相対移動させる
【0029】
また、第2ハウジング32b内にはハウジング32と出力ロッド35との相対移動を規制するストッパ45が形成されている。ストッパ45は、第2ハウジング32bの下半内周面に形成された溝46と、出力ロッド35の下半外周面に取り付けられた突起状の係止部材47とから構成され、係止部材47が、溝46におけるアクチュエータ伸長方向の一端面46aおよび、アクチュエータ収縮方向の他端面46bに当接することで、ハウジング32と出力ロッド35との相対移動を規制する。
【0030】
図1に戻り、自動車Vには、各種システムを統括制御するECU(Electronic Control Unit)12の他、車速vを検出する車速センサ13や、前輪舵角センサ14、ヨーレイトセンサ15の他、図示しない種々のセンサが設置されている。なお、前輪舵角センサ14はステアリングホイール8の操舵量を検出しており、その検出値から前輪舵角δfが算出される。ヨーレイトセンサ15は車体1の平面視における回転角速度(ヨーレイト)を検出し、検出された実ヨーレイトγactは後輪トー角制御に供される。また、自動車Vには、各電動アクチュエータ11L,11Rに流れる電流を検出する電流センサ16L,67Rがそれぞれ設置されており、電流センサ16L,16Rの検出信号およびレゾルバ17の検出信号がともにECU12に入力する。なお、レゾルバ17の検出信号は、ECU12において実後輪トー角δractの算出基礎として利用される。
【0031】
ECU12は一種のコンピュータであり、演算を実行するプロセッサ(CPU)、各種データを一時記憶する記憶領域およびプロセッサによる演算の作業領域を提供するランダム・アクセス・メモリ(RAM)、プロセッサが実行するプログラムおよび演算に使用する各種のデータが予め格納されている読み出し専用メモリ(ROM)、およびプロセッサによる演算の結果およびエンジン系統の各部から得られたデータのうち保存しておくものを格納する書き換え可能な不揮発性メモリ(EEPROM)の他、各種ドライバや周辺回路、入出力インタフェース等を備えている。そして、ECU12は、通信回線(本実施形態では、CAN(Controller Area Network))を介して各センサ13〜17や電動アクチュエータ11等と接続されており、各センサ13〜17の検出結果に基づいて電動アクチュエータ11L,11Rを駆動制御し、左右の後輪5L,5Rをトー変化させる。すなわち、ECU12は左右の後輪トー角制御装置10の制御部を構成している。
【0032】
このように構成された自動車Vによれば、左右の電動アクチュエータ11L,11Rを同時に対称的に変位させることにより、両後輪5L,5Rのトーイン/トーアウトを適宜な条件の下に自由に制御することができる他、左右の電動アクチュエータ11L,11Rの一方を伸ばして他方を縮めれば、両後輪5L,5Rを左右に転舵することも可能である。具体的には、ECU12は、自動車Vの操縦安定性を高めるべく、各種センサによって把握される車両の運動状態に基づき、加速時には後輪5をトーアウトに、減速時には後輪5をトーインに変化させ、高速旋回走行時には後輪5を前輪3と同相に、中低速旋回走行時には後輪5を前輪3と逆相にトー変化(転舵)させる。
【0033】
次に、図3を参照してECU12の機能について説明する。ECU12は、目標後輪トー角設定部21と、ストローク量算出部22と、初期ストローク量記憶部23と、実後輪トー角算出部24と、較正駆動判定部25と、駆動制御部26とを備えている。
【0034】
目標後輪トー角設定部21は、入力インタフェースを介して入力された車速vや前輪舵角δfなどに基づいて目標後輪トー角δrtgtを設定する。なお、目標後輪トー角δrtgtを設定するに際し、目標後輪トー角設定部21は、車速vや前輪舵角δfなどに基づいてヨーレイト規範値γtを設定し、ヨーレイトセンサ15で検出した実ヨーレイトγactとヨーレイト規範値γtとの差に基づくフィードバック制御を行う。
【0035】
初期ストローク量記憶部23は、自動車Vが運転を停止した(イグニッションスイッチを切った)際に、左右の電動アクチュエータ11のストローク量(ハウジング32と出力ロッド35とを相対移動量)を記憶し、次回運転を開始(エンジンを始動)した際に、記憶したストローク量を電動アクチュエータ11の初期ストローク量として提供する。
【0036】
ストローク量算出部22は、自動車Vが運転を開始した際に、初期ストローク量記憶部23に記憶された初期ストローク量を読み込んで電動アクチュエータ11のストローク量を把握するとともに、レゾルバ17の検出結果に基づいて電動アクチュエータ11のストローク量を算出する。実後輪トー角算出部24は、ストローク量算出部22により算出されたストローク量に基づいて実後輪トー角δractを算出する。較正駆動判定部25は、後記する較正駆動判定処理を行い、所定の条件を満たした場合に較正駆動信号を生成して駆動制御部26へ出力する。
【0037】
駆動制御部26は、目標後輪トー角設定部21により設定された目標後輪トー角δrtgtと実後輪トー角算出部24により算出された実後輪トー角δractとの差に基づいて電動アクチュエータ11(電動モータ36)のPID制御を行う通常の後輪トー角制御を行うとともに、較正駆動信号が入力した場合、後記する較正駆動制御を行う。
【0038】
次に、図4を参照して較正駆動判定部25による較正駆動判定処理について説明する。自動車Vがエンジンを始動すると、ECU12は所定の周期で以下の較正駆動判定処理を繰り返す。較正駆動判定部25は先ず、較正駆動が既に行われていることを示す較正フラグが0であるか否か、すなわち較正駆動がまだ行われていないか否かを判定する(ステップS1)。なお、較正フラグは自動車Vが運転を停止すると0にリセットされ、自動車Vがエンジンを始動した時には常に0に設定されている。
【0039】
ステップS1で較正駆動がまだ行われていないとの判定された場合(Yes)、較正駆動判定部25は、自動車Vが走行を開始したか否かを車速vに基づいて判定する(ステップS2)。ステップS2で自動車Vが走行を開始したと判定された場合(Yes)、較正駆動判定部25は、自動車Vが直進走行中であるか否かを前輪舵角δfに基づいて判定し(ステップS3)、自動車Vが直進走行中であると判定された場合(Yes)、較正駆動判定部25は次に、車速vが所定の閾値vthよりも小さいか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4で車速vが所定の閾値vthよりも小さいと判定された場合(Yes)、較正駆動判定部25は、較正フラグを1に設定するとともに、較正駆動信号を駆動制御部26へ出力する(ステップS5)。
【0040】
一方、ステップS1〜ステップS4でそれぞれNoと判定された場合、較正駆動判定部25は何ら処理を行わずに本判定処理を終了する。
【0041】
較正駆動判定部25から出力されると、ECU12は以下の較正駆動制御を行う。
【0042】
較正駆動制御では、図5に示すように、駆動制御部26が先ず、左右の後輪5がともにトーイン側へ操舵されるように左右の電動アクチュエータ11を同時に駆動する(ステップS11)。そして、レゾルバ17と電流センサ16の検出結果に基づいて、左右一方の電動アクチュエータ11がストッパ45によってその伸縮(ハウジング32と出力ロッド35とを相対移動)を規制されたか否かを判定する(ステップS12)。この処理では、電流センサ16で検出された電流値が所定の閾値よりも大きくなり且つレゾルバ17で検出された回転角の変化が止まったことで、ストッパ45による規制がなされた(係止部材47が溝46の端面に当接した)ものと判定される。
【0043】
駆動制御部26は、ステップS12の判定がYesとなるまで左右の電動アクチュエータ11を駆動し、ステップS12でYesと判定された場合、規制された電動アクチュエータ11の駆動を停止する(ステップS13)。そして、ストローク量算出部22が、駆動停止した電動アクチュエータ11のストローク量を、最大トーイン時のストローク量として予め記憶された値に較正する(ステップS14)。次に、駆動制御部26は、駆動を継続している他方の電動アクチュエータ11がストッパ45によってその伸縮を規制されたか否かを判定し(ステップS15)、判定がYesとなるまで他方の電動アクチュエータ11を駆動する。ステップS15の判定がYesとなった場合、駆動制御部26は、他方の電動アクチュエータ11の駆動を停止し(ステップS16)、ストローク量算出部22が、駆動停止した電動アクチュエータ11のストローク量を、最大トーイン時のストローク量として予め記憶された値に較正する(ステップS17)。
【0044】
その後、駆動制御部26は、左右両方の電動アクチュエータ11を後輪トー角δrが0になるまで同時に駆動し(ステップS18)、本処理を終了する。
【0045】
このように、駆動制御部26が所定の条件のもとに較正駆動制御を行うことにより、レゾルバ17から算出された実後輪トー角δractと実際の後輪トー角δrとがずれていたとしても、伸縮動が規制された位置でストローク量が較正されるため、ECU12は正しい実後輪トー角δractを把握することができる。そして、レゾルバ17による検出によってもECU12が正しい実後輪トー角δractを把握できるため、電動アクチュエータ11にストロークセンサを付設することによる装置の大型化および重量増加することを回避できる。
【0046】
また、較正駆動制御を行う較正駆動判定に、自動車Vが運転を開始したことを含ませることにより、運転停止中に外部からの振動などが後輪5に加わって電動アクチュエータ11のストローク量が変化してしまった場合であっても、早期にストローク量の較正が行われ、不安定な車両挙動状態を早期に回避することができる。さらに、較正駆動制御を行う較正駆動判定に、自動車Vが走行中であることを含ませることにより、較正駆動制御時の電動アクチュエータ11の負荷を小さくし、出力の小さな小型の電動アクチュエータ11による較正駆動をも実現可能にすることができる。
【0047】
そして、較正駆動制御において、左右の電動アクチュエータ11を同時に駆動することにより、直進走行時の車両挙動の悪化を招かずに済み、また、較正駆動時に左右の電動アクチュエータ11をトーイン側へ駆動することにより、自動車Vの旋回特性がアンダーステア傾向になるため、自動車Vが旋回した場合にも安全が確保される。
【0048】
また、一方の電動アクチュエータ11の伸縮動が先に規制された場合に、他方の電動アクチュエータ11の伸縮動が規制させるまで当該一方の電動アクチュエータ11の駆動を停止することにより、左右の後輪5がより早く対称になって車両挙動が早期に正常に回復し、その後、左右の電動アクチュエータ11を同時にトーアウト側へ駆動することにより、左右の後輪5をトー角0へ戻す際の後輪トー角δrが左右で対称的になるため、車両挙動の悪化が抑制されるとともに、左右の後輪トー角δrを別々に戻す場合に比べて旋回時の安全も確保される。
【0049】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、直動型の電動アクチュエータ11を左右の後輪5にそれぞれ設けているが、1つの電動アクチュエータで後輪トー角δrを可変制御する形態や、回転型の電動アクチュエータを用いるような形態であってもよい。また、上記実施形態では、電動モータにブラシレスDCモータを採用し、回転角センサにVR型のレゾルバ17を採用しているが、ブラシ付DCモータや誘導モータ、ステッピングモータなど、他の形式の電動モータを用いたり、回転子側に巻き線がある形式のレゾルバや、ロータリエンコーダ、アブソリュートエンコーダなどを回転角センサとして用いたりしてもよい。これら変更の他、各装置の具体的構成や配置など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 車体
5 後輪
7a ナックル(車輪側部材)
10 後輪トー角制御装置
11 電動アクチュエータ
12 ECU
17 レゾルバ(回転角検出手段)
21 目標後輪トー角設定部
22 ストローク量算出部
23 初期ストローク量記憶部
24 実後輪トー角算出部
25 較正駆動判定部
26 駆動制御部
32 ハウジング(第1部材)
35 出力ロッド(第2部材)
36 電動モータ
45 ストッパ
V 自動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材に連結された第1部材と車輪側部材に連結された第2部材とを電動モータによって相対移動させることにより、後輪トー角を変化させる電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータに設けられ、前記第1部材と前記第2部材とが所定範囲を超えて相対移動することを規制するストッパと、
前記電動モータの回転角を検出する回転角検出手段と、
前記回転角検出手段の検出結果に基づいて前記第1部材と前記第2部材との相対移動量を算出する相対移動量算出手段と、
前記相対移動量算出手段の算出結果に基づいて実後輪トー角を算出する実後輪トー角算出手段と、
目標後輪トー角を設定する目標後輪トー角設定手段と、
前記実後輪トー角と前記目標後輪トー角との差に基づいて前記電動モータを駆動制御する駆動制御手段と
を備えた車両の後輪トー角制御装置であって、
前記駆動制御手段は、所定の条件のもと、前記第1部材と前記第2部材との相対移動が前記ストッパにより規制されるまで前記電動モータを駆動する較正駆動を行い、
前記相対移動量算出手段は、前記較正駆動が行われた場合、前記相対移動が規制された位置で前記相対移動量を較正することを特徴とする後輪トー角制御装置。
【請求項2】
前記所定の条件が、前記車両が運転を開始したことを含むことを特徴とする、請求項1に記載の後輪トー角制御装置。
【請求項3】
前記所定の条件が、前記車両が走行中であることを含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の後輪トー角制御装置。
【請求項4】
前記電動アクチュエータが左右の後輪にそれぞれ設けられ、
前記較正駆動が、左右の後輪をともにトーインにする向きに前記電動モータを同時に駆動することにより行われることを特徴とする、請求項1〜請求項3に記載の後輪トー角制御装置。
【請求項5】
前記較正駆動は、左右一方の電動アクチュエータにおける相対移動が規制された場合、左右他方の電動アクチュエータにおける相対移動が規制されるまで前記一方側の電動モータの駆動を停止した後、左右の後輪をともにトーアウトにする向きに前記電動モータを同時に駆動することを特徴とする、請求項4に記載の後輪トー角制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−254063(P2010−254063A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104810(P2009−104810)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】