説明

微多孔性ポリマーを充填剤として取り込んでいる混合マトリックス膜

本発明は、ポリマー/ポリマー混合マトリックス膜、および、かかる膜の、ガス分離用途における使用に関する。より詳細には、本発明は、固有の微多孔度を有する可溶性ポリマーを微多孔性充填剤として取り込んでいるポリマー/ポリマー混合マトリックス膜の調製に関する。固有の微多孔度を有するこれらポリマー充填剤は、広い接触可能な表面積、2nm未満の大きさの相互に連結した微細孔、ならびに、高い化学的および熱的安定性などの、従来の微多孔性材料の挙動に類似した挙動を示すが、加えて、良好な溶解度および加工容易性などの、従来のポリマーの性質を有する。これら混合マトリックス膜に対するガス分離実験は、天然ガスからのCO2除去について、劇的に向上したガス分離性能を示す。本発明に従って調製した混合マトリックス膜は、次の組み合わせのガスの分離においても使用することができる:水素/メタン、二酸化炭素/窒素、メタン/窒素、および、例えばプロピレン/プロパンなどのオレフィン/パラフィン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスの分離における性能が大きく改善された混合マトリックス膜に関する。より具体的には、本発明は、高表面積の微多孔性ポリマーを含有する、改良混合マトリックス膜に関する。
【背景技術】
【0002】
過去30〜35年の間に、高分子膜によるガス分離方法は急速に発展してきた。膜によるガス分離は、石油製造業者および石油精製業者、化学会社、ならびに産業用ガス供給業者にとって、特別興味深いものである。天然ガスからのCO除去、およびバイオガスからのCO除去、ならびに原油の増進回収(enhanced oil recovery)を含む、いくつかの用途が商業的成功を成し遂げている。例えば、UOP社のSeparex(登録商標)膜は、現在、天然ガスからのCO除去に関して、国際市場を主導するものとなっている。
【0003】
商業的なガス分離用途において最も一般的に用いられている膜は、高分子膜および非多孔膜である。分離は溶解−拡散機構に基づくものである。この機構は、膜ポリマーと透過ガスとの分子スケールの相互作用を含むものである。当該機構では、各成分が膜によって一方の界面で吸着され、拡散によってポリマー鎖間の空隙(自由体積)を介してその膜を通って輸送されて、反対の界面で脱着される、ということが想定されている。この溶解−拡散モデルによれば、所定のガスの組み合わせ(例えば、CO/CH、O/N、H/CH)の分離における膜の性能は、2つのパラメータ、すなわち透過係数(P)および選択性(αA/B)、によって決定される。Pは、ガスの流量と膜の厚さとの積を膜の圧力差で割ったものである。αA/Bは2種類のガスの透過係数の比(αA/B=P/P)であり、ここで、Pは透過性の高い方のガスの透過度であり、Pは、透過性の低い方のガスの透過度である。ガスは、溶解度係数が高いこと、拡散係数が高いこと、または両方の係数が高いことによって、高い透過係数を有し得る。通常、拡散係数が減少すると、その一方で溶解度係数が増加し、ガスの分子サイズが増加する。高性能の高分子膜には、高い透過性と高い選択性の両方が望ましい。これは、より高い透過性によって、所定の体積のガスの処理に必要な膜の面積の大きさが減少し、これにより、膜ユニットの主要なコストが減少するためであり、また、より高い選択性によって、より高純度の生成ガスが生じるためである。
【0004】
ポリマーは、ガス分離に重要な、低コスト、高透過性、良好な機械的安定性、および加工容易性を含む、一連の特性を提供する。高いガラス転移温度(Tg)、高い融点、および高い結晶化度を有するポリマー材料が好ましい。ガラス状ポリマー(すなわち、Tgより低い温度のポリマー)は、より硬いポリマー骨格(polymer backbone)を有し、それゆえに、硬さがより少ない骨格を有するポリマーに比べ、例えば水素およびヘリウムなどのより小さな分子はより速く通過し、例えば炭化水素などのより大きな分子はより遅く通過することとなる。しかしながら、通常、透過性がより高いポリマーは、透過性がより低いポリマーよりも選択性が低い。一般的なトレードオフは、透過性と選択性との間にいつも存在してきた(いわゆる、ポリマーの上界極限(polymer upper bound limit))。この上界によって課せられた極限を克服することに対し、過去30年にわたり、相当な研究努力が向けられてきた。種々のポリマーおよび種々の技術が使用されてきたが、あまり成功していない。
【0005】
酢酸セルロース(CA)ガラス状高分子膜は、ガス分離において広く使用されている。現在、このようなCA膜は、二酸化炭素の除去を含む、天然ガスのアップグレーディングに使用されている。CA膜には多くの利点があるが、CA膜は、選択性、透過性、化学的安定性、熱的安定性、および機械的安定性を含む多くの性質が制限される。CA高分子膜において取り組まれる必要がある差し迫った課題のうちの1つは、透過性が同等かまたはそれよりも大きい状態で、より高い選択性を達成することである。
【0006】
膜の選択性および透過性を向上させるために、最近、新しいタイプの膜である、混合マトリックス膜(mixed matrix membrane:MMM)が開発された。現在までに文献で報告されているMMMは、ほぼすべて、ポリマーマトリックス中に埋め込まれた例えば分子ふるいまたは炭素分子ふるい(carbon molecular sieve)などの不溶性の固体領域を含む、ハイブリッドブレンド膜である。これらは、分子ふるい相による優れたガス分離特性とともに、ポリマー相による低コストおよび加工容易性を併せ持つ。これらの膜は、既存の高分子膜の利点を維持したままで、既存の高分子膜に比べて、透過性が同等かまたはそれよりも大きい状態で、より高い選択性を達成する可能性を有している。膜についての従来型ポリマーに関する多くの研究とは対照的に、ゼオライトとゴム状ポリマーまたはガラス状ポリマーとの混合マトリックス膜を用いてガス分離膜の性能を向上させる試みはほんのわずかしか報告されていない。
【0007】
最も最近では、McKeown et al.が、微多孔性材料とポリマー材料との間の空隙を架橋する、固有の微多孔度(intrinsic microporosity)を有するとして記載されている新規ポリマーの合成について報告した。これらのポリマーは、従来の微多孔性材料の挙動に類似した挙動を示し得るが、加えて、膜としての使用に都合のよい形態へと容易に加工することが可能である。固有の微多孔度を有するこれらポリマーのうちのいくつかから純粋な高分子膜が直接調製され、Nに対するOのガス分離性能が評価されている。国際公開第2005/012397号A2を参照のこと。しかしながら、固有の微多孔度を有するこれらポリマーは、混合マトリックス膜の調製のための可溶性の微多孔性充填剤としては、これまで全く研究されていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明では、新規のポリマー/ポリマー混合マトリックス膜、および、かかる膜の、ガス分離用途における使用について記載する。より詳細には、本発明は、固有の微多孔度を有する可溶性ポリマーを微多孔性充填剤として取り込んでいるポリマー/ポリマーMMMの調製に関する。本発明では、固有の微多孔度を有するポリマーを充填剤として含有する、新しいタイプのポリマー/ポリマーMMMを調製している。これらポリマー/ポリマーMMMでは、固有の微多孔度を有する可溶性のポリマー充填剤が、連続ポリマーマトリックス中に取り込まれている。これらポリマー充填剤は、強固な棒状の、ランダムにねじ曲がった構造を示し、これにより、これらは固有の微多孔度を示すことが可能となる。固有の微多孔度を有するこれらポリマー充填剤は、広い接触可能な表面積、2nm未満の大きさの相互に連結した微細孔、ならびに、高い化学的および熱的安定性などの、従来の微多孔性材料の挙動に類似した挙動を示すが、加えて、良好な溶解度および加工容易性などの、従来のポリマーの性質を有する。さらに、ポリエーテルポリマー鎖を有するこれらポリマー充填剤は、当該鎖中のエーテルと二酸化炭素との間に、好ましい相互作用を有する。これらのポリマー充填剤によって、ポリイミド膜の炭化水素汚損(fouling)問題が軽減されるということが分かった。これら微多孔性ポリマー充填剤の溶解度により、MMMの調製において、従来の不溶性の微多孔性材料に対して著しく有利となる。当該ポリマーマトリックスは、あらゆる種類のガラス状ポリマー、例えばポリイミド(例えば、Matrimid(登録商標))ポリエーテルイミド(例えば、Ultem(登録商標))、酢酸セルロース、ポリスルホン、およびポリエーテルスルホンなど、から選択されてもよい。これらのポリマー/ポリマーMMMは、連続ポリマーマトリックスの性質と分散ポリマー充填剤の性質の両方を併せ持つ。これらMMMに対するガス分離実験は、天然ガスからのCO除去について、劇的に向上したガス分離性能を示す。本発明に従って調製した混合マトリックス膜は、次の組み合わせのガスの分離においても使用することができる:水素/メタン、二酸化炭素/窒素、メタン/窒素、および、例えばプロピレン/プロパンなどのオレフィン/パラフィン。
【発明を実施するための形態】
【0009】
微多孔性固体材料を充填剤として含有する混合マトリックス膜(MMM)は、ポリマーの加工性を保持し得、また、微多孔性材料の優れた分子ふるい特性および吸着特性に起因して、ガス分離の選択性を改善し得る。過去20年の間、これらのMMMは世界的に注目を受けてきた。しかしながら、ほとんどの場合、ガス分離特性を大幅に向上させるには、高い固体充填量が必要である。しかしながら、高い固体充填量によって、機械的特性および加工特性が乏しくなる。これは、主に、ポリマーマトリックス中の固体粒子の凝集のため、および、無機固体粒子と有機ポリマーマトリックスとの間の付着が乏しいためである。本発明の膜は、液相または気相中の特定の化学種の精製、分離または吸着に特に有用である。組み合わせのガスの分離に加え、これらの膜は、例えば医薬産業およびバイオテクノロジー産業において、例えば、タンパク質または他の熱的に不安定な化合物の分離に使用することができる。当該膜を発酵槽およびバイオリアクター中で使用して、ガスを反応容器内へと輸送し、細胞培養培地を当該容器の外に移動させることもできる。また、当該膜は、空気流または水流からの微生物の除去、浄水、連続的発酵/膜透過気化システム(continuous fermentation/membrane pervaporation system)におけるエタノールの製造、および、空気流または水流中の微量な化合物または金属塩の検出または除去、に使用することができる。
【0010】
当該膜は、化学工業、石油化学工業、医薬産業および関連産業における、例えば大気汚染防止規制(clean air regulations)を遵守するために揮発性有機化合物を回収するためのオフガス処理においてなどの、ガス流から有機蒸気を除去するためのガス/蒸気分離プロセスに、または、有用な化合物(例えば、塩化ビニルモノマー、プロピレン)を回収できるようにするための、製造プラント中のプロセス流内におけるガス/蒸気分離プロセスに、特に有用である。これらの膜を使用することのできるガス/蒸気分離プロセスのさらなる例は、天然ガスの炭化水素の低露点化(dew pointing)(すなわち、炭化水素の露点を、最低可能輸出パイプライン温度よりも低くして、当該パイプライン内で液体炭化水素が分離しないようにすること)のための、また、ガスエンジンおよびガスタービン用の燃料ガス中のメタン価(methane number)のコントロールのための、ならびに、ガソリンの回収のための、石油精製所およびガス精製所における水素からの炭化水素蒸気の分離である。当該膜は、特定のガスに強力に吸着する化学種(例えば、Oに対してはコバルトポルフィリンもしくはフタロシアニン、または、エタンに対しては銀(I))を取り込み、当該膜を通るそれらの輸送を促進し得る。
【0011】
これらの膜は、例えば有機化合物(例えば、アルコール、フェノール、塩素化炭化水素、ピリジン、ケトン)の、水、例えば水性排出液またはプロセス流体など、からの除去など、透過気化法(pervaporation)による液体混合物の分離にも使用することができる。エタノール選択性の膜は、発酵プロセスによって得た比較的薄いエタノール溶液(5〜10%エタノール)のエタノール濃度を増加させるために使用されるであろう。さらなる液相の例としては、ある有機成分を別の有機成分から分離すること、例えば、有機化合物の異性体を分離すること、が挙げられる。本発明の膜を用いて分離することのできる有機化合物の混合物としては、次のものが挙げられる:酢酸エチル−エタノール、ジエチルエーテル−エタノール、酢酸−エタノール、ベンゼン−エタノール、クロロホルム−エタノール、クロロホルム−メタノール、アセトン−イソプロピルエーテル、アリルアルコール−アリルエーテル、アリルアルコール−シクロヘキサン、ブタノール−酢酸ブチル、ブタノール−1−ブチルエーテル、エタノール−エチルブチルエーテル、酢酸プロピル−プロパノール、イソプロピルエーテル−イソプロパノール、メタノール−エタノール−イソプロパノール、および、酢酸エチル−エタノール−酢酸。
【0012】
当該膜はガス分離に使用することができる。このような分離の例として、例えば窒素または酸素などの大気ガスからの有機ガスの分離が挙げられる。このような分離のさらなる例は、有機ガス同士の分離である。
【0013】
当該膜は、水からの有機分子の分離(例えば、透過気化法による水からのエタノールおよび/またはフェノールの分離)、ならびに、水からの金属および他の有機化合物の除去、に使用することができる。
【0014】
当該膜のさらなる用途は化学反応器中にあり、その結果、特定の生成物の選択的除去により、平衡制限(equilibrium-limited)反応の収率が向上する。これは、親水性膜の使用の結果、水の除去によりエステル化の収率が向上するのに類似している。
【0015】
本発明は、固有の微多孔度を有する可溶性ポリマーを充填剤として含有するポリマー/ポリマー混合マトリックス膜(MMM)(またはポリマー/ポリマー混合マトリックスフィルム)に関する。これら微多孔性ポリマー充填剤の溶解度により、MMMの調製において、従来の不溶性の微多孔性材料の使用に対して著しく有利となる。これらの新規MMMには、天然ガスからの二酸化炭素の除去を含む、気体混合物の分離のための直接の用途がある。当該混合マトリックス膜は、二酸化炭素が、天然ガス中でメタンよりも速い速度で拡散することを可能にする。二酸化炭素は、溶解度がより高いか、拡散率がより高いか、またはその両方であるために、メタンよりも高い透過速度を有する。よって、二酸化炭素は当該膜の透過側に豊富となり、メタンは当該膜の供給側(または排除側)に豊富となる。
【0016】
大きさの異なる所定のガスの組み合わせ、例えば、窒素と酸素、二酸化炭素とメタン、水素とメタンまたは一酸化炭素、ヘリウムとメタン、などは、本明細書に記載の混合マトリックス膜を用いて分離することができる。2種類以上のガスを第三のガスから除去することができる。例えば、本明細書に記載の膜を用いて未加工の天然ガスから選択的に除去することのできるいくつかの成分には、二酸化炭素、酸素、窒素、水蒸気、硫化水素、ヘリウム、および他の微量なガス、が含まれる。選択的に保持することのできるいくつかの成分には、炭化水素ガスが含まれる。
【0017】
本発明において開発されたポリマー/ポリマー混合マトリックス膜は、連続ポリマー相全体に均一に分布した有機微多孔性ポリマー充填剤を含む均一な有機−有機膜である。好ましくは、ポリマーマトリックス中に取り込まれている有機微多孔性ポリマー充填剤は、固有の微多孔度を有する。より好ましくは、ポリマーマトリックス中に取り込まれている有機微多孔性ポリマー充填剤は、凝集問題および付着が乏しいという問題を予防すべく、ポリマーマトリックスを溶解させるために使用するのと同じ溶媒に可溶である。結果として生じるポリマー/ポリマー混合マトリックス膜は、純粋なポリマーの透過性とは異なる、定常状態の透過性を有する。これは、微多孔性ポリマー充填剤相による分子ふるいガス分離機構と、ポリマーマトリックス相および微多孔性ポリマー充填剤相の両相による溶解−拡散ガス分離機構とが合わさったことに起因するものである。
【0018】
本明細書に記載の微多孔性有機ポリマー充填剤を含有するポリマー/ポリマー混合マトリックス膜の設計が、微多孔性有機ポリマー充填剤および連続ポリマーマトリックスの両方の適切な選択に基づいたものであるとのことは重大なことである。微多孔性有機ポリマー充填剤および連続ポリマーマトリックスの両方についての材料選択は、これらポリマー/ポリマー混合マトリックス膜の調製に重要な局面である。ポリマーは分離に重要な広範囲の性質を提供するものであり、ポリマーを改変することによって、膜の選択性を改善することができる。たいていのガス分離には、高いガラス転移温度(Tg)、高い融点、および高い結晶化度を有する材料が好ましい。ガラス状ポリマー(すなわち、Tgより低い温度のポリマー)は、より硬いポリマー骨格を有し、それゆえに、例えば水素およびヘリウムなどのより小さな分子はより速く膜を透過し、例えば炭化水素などのより大きな分子はより遅く膜を透過することとなる。
【0019】
ポリマー/ポリマー混合マトリックス膜の適用のためには、混合マトリックス膜中で連続ポリマー相として使用することができる、純粋なポリマーから製造される当該膜は、少なくとも15の、より好ましくは少なくとも30の、メタンに対する二酸化炭素または水素の選択性を示すことが好ましい。好ましくは、ポリマー/ポリマー混合マトリックス膜中で連続ポリマー相として使用するポリマーは、強固なガラス状ポリマーである。
【0020】
連続ポリマー相としてポリマー/ポリマー混合マトリックス膜の調製に適した典型的なポリマーは、ポリスルホン;例えばアクリロニトリルスチレンコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマーおよびスチレン−ビニルベンジルハライドコポリマーなどの、スチレン含有コポリマーを含む、ポリ(スチレン);ポリカーボネート;例えば酢酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース等の、セルロース系ポリマー;アリールポリアミド、例えばMatrimid(登録商標)5218などのアリールポリイミド、および、例えばUltem(登録商標)1000などのアリールポリエーテルイミドを含む、ポリイミド、ポリエーテルイミド、およびポリアミド;ポリエーテル;例えばポリ(フェニレンオキシド)およびポリ(キシレンオキシド)などの、ポリ(アリーレンオキシド);ポリ(エステルアミド−ジイソシアネート);ポリウレタン;例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(メタクリル酸アルキル)、ポリ(アクリレート)、ポリ(フェニレンテレフタレート)等の、(ポリアリレート(polyarylate)を含む、)ポリエステル;ポリスルフィド;例えば、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ブテン−1)、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリビニル、例えばポリ(塩化ビニル)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルアルコール)、例えばポリ(酢酸ビニル)およびポリ(プロピオン酸ビニル)などのポリ(ビニルエステル)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(ビニルケトン)、例えばポリ(ビニルホルマール)およびポリ(ビニルブチラール)などのポリ(ビニルアルデヒド)、ポリ(ビニルアミド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルウレタン)、ポリ(ビニル尿素)、ポリ(リン酸ビニル)、ならびに、ポリ(硫酸ビニル)などの、上述したもの以外のアルファ−オレフィン不飽和(alpha-olefinic unsaturation)を有するモノマーによるポリマー;ポリアリル(polyallyl);ポリ(ベンゾベンズイミダゾール);ポリヒドラジド;ポリオキサジアゾール;ポリトリアゾール;ポリ(ベンズイミダゾール);ポリカルボジイミド;ポリホスファジン;等、および、例えば、アクリロニトリル−臭化ビニル−パラ−スルホフェニルメタリルエーテルのナトリウム塩というターポリマーなどの、上述したものによる繰り返し単位を含有するブロック共重合体を含む、共重合体(interpolymer);ならびに、上記のいずれかを含有するグラフトおよびブレンド、から選択することができる。置換ポリマーを提供する典型的な置換基としては、例えばフッ素、塩素および臭素などのハロゲン;ヒドロキシル基;低級アルキル基;低級アルコキシ基;単環式アリール;ならびに、低級アシル基、等が挙げられる。
【0021】
微多孔性ポリマー充填剤は、膜の性質が向上するように選択する。微多孔性材料は、2nm未満の大きさの相互に連結した細孔を含有する固体と定義され、よって、これらは、ガス吸着によって測定される通常300〜1500m−1の広い接触可能な表面積を有する。不連続の(discrete)多孔度は、触媒および吸着媒体として幅広い用途が見出されているこれら材料に対して、分子ふるい特性を提供する。
【0022】
本明細書に記載の微多孔性ポリマー材料(すなわち、いわゆる「固有の微多孔度を有するポリマー」としての材料)は、それらの分子構造に固有である微多孔度を有するポリマー材料である。McKeown, et al, CHEM. COMMUN., 2780 (2002);McKeown, et al., CHEM. COMMUN., 2782 (2002); Budd, et al., J. MATER. CHEM., 13:2721 (2003); Budd, et al., CHEM. COMMUN., 230 (2004); Budd, et al., ADV. MATER., 16:456 (2004); McKeown, et al., CHEM. EUR. J., 11:2610 (2005);およびBudd et al., MATERIALS TODAY, April 2004, pp. 40-46を参照のこと。当該ポリマー充填剤は、固有の微多孔度を生じるための、強固な棒状の、ランダムにねじ曲がった構造を有する。固有の微多孔度を有するこれらポリマー充填剤は、例えば、広い接触可能な表面積、2nm未満の大きさの相互に連結した固有の微細孔、ならびに、高い化学的および熱的安定性などの、従来の微多孔性材料の挙動に類似した挙動を示すが、加えて、例えば良好な溶解度および加工容易性などの、従来のポリマーの性質を有する。さらに、これらのポリマー充填剤は、二酸化炭素とエーテルとの間に好ましい相互作用を有するポリエーテルポリマー鎖を有する。これらのポリマー充填剤によって、ポリイミド膜の炭化水素汚損問題を軽減することもできる。これら微多孔性ポリマー充填剤の溶解度により、MMMの調製において、従来の不溶性の微多孔性材料より著しく有利となる。これらの微多孔性ポリマー材料は、ポリマー/ポリマー混合マトリックス膜の調製において、充填剤として選択される。充填剤としての本明細書に記載の微多孔性ポリマー材料の代表的な例を以下(PIM)に示し、その後(ネットワーク−PIM)を示す。
【0023】
【化1】

【0024】
図1に示されているような、適切なヒドロキシル化芳香族モノマー(例えばA1〜A7)およびフッ素化(または塩素化)芳香族モノマー(例えばB1〜B7)からPIMを調製するための一般反応は、ジオキサン形成(すなわち、二重芳香族求核置換)によってもたらされる。本発明で充填剤として使用する最も好ましい微多孔性ポリマー材料は、文献に記載の手順に従って調製してもよい。微多孔性ポリマー材料の合成は、文献において十分に確立されている。
【0025】
例えば、モノマーA1およびB4からのPIM1の合成では、この芳香族テトラールモノマーA1と、この適切なフッ素含有化合物B4との間の効率的なジベンゾジオキサン形成反応(すなわち芳香族求核置換)によって、可溶性のPIM1(図1)を高収率で得た。PIM1は、例えば塩化メチレン、THF、DMAcなどの有機溶媒に溶けやすい。THF溶液からメタノールへの沈殿を繰り返すことによってPIM1を精製し、濾過によって回収したときに、蛍光性の黄色のさらさらした粉末を得た。
【0026】
PIM1の熱的安定性は、熱分析によって決定した。この熱分析は、PIM1が370℃まで熱的に安定であるということを示している。当該微多孔性ポリマー充填剤の表面積および細孔径分布(pore size distribution)は、窒素吸着−脱着測定によって特徴決定した。この測定は、PIM1が微多孔性であり、785m−1の高表面積を有しているということを示した。BJH法を用いての微細孔の分析は、微細孔のかなりの部分が、1.5nm未満の範囲の寸法を有していたことを示している。いくらかのメソ多孔度(mesoporosity)の証拠もある。PIM1の微多孔度は、ランダムにねじ曲がった形状と合わさった、その高剛性から生じるため、ランダムにねじ曲がった形状を有する高剛性の他のポリマーは、本発明において有用である。
【0027】
微多孔性ポリマー充填剤を含有するポリマー/ポリマー混合マトリックス膜は、特定の量の微多孔性ポリマー充填剤を連続ポリマーマトリックス中で混合することによって製造した。本発明で使用する、最も好ましいポリマー/ポリマー混合マトリックス膜は、以下のようにして製造した。ポリマー/ポリマー混合マトリックス高密度(dense)フィルムは、微多孔性ポリマー充填剤と連続ポリマーマトリックスとの均一な溶液の溶液流延(solution casting)によって調製した。微多孔性ポリマー充填剤と連続ポリマーマトリックスとの両方を溶解させるために使用することのできる溶媒として、塩化メチレン、THF、アセトン、DMF、NMP、DMSO、および当業者に公知のその他のもの、が挙げられる。混合マトリックス高密度フィルム中の微多孔性ポリマー充填剤の充填量は、特定の連続ポリマー中における特定の微多孔性ポリマー充填剤の分散性にのみならず、求められる性質にも応じて、1重量%から50重量%まで、様々であってよい。
【0028】
選択された量の、充填剤としての微多孔性ポリマーと、選択された量の、マトリックスとしてのポリマーとを、有機溶媒に加えた。2時間の撹拌後、両ポリマーは当該溶媒中に完全に溶解し、透明で均一な溶液が形成された。(ポリマーマトリックスの重量を基準に、)1、10、20、30、40、および50重量%の微多孔性ポリマー充填剤充填量を有する当該ポリマー溶液を、清浄なガラス板の上のガラスリングの中に注ぎ、室温で、プラスチックカバー内で、少なくとも12時間乾燥させて、最終ポリマー/ポリマー混合マトリックス高密度フィルムを得た。当該高密度フィルムをこのガラス板から剥がし、室温で24時間乾燥させ、次いで、110℃で少なくとも48時間、真空下で乾燥させた。当該高密度フィルムはすべて透明である。また、当該高密度フィルムの厚さは約1〜3ミルであった。
【0029】
微多孔性ポリマー充填剤を含有する当該ポリマー/ポリマー混合マトリックス膜(すなわち混合マトリックス高密度フィルム)の透過性(P)および選択性(αCO2/CH4)は、純ガス測定により、50℃、690kPa(100psig)の圧力下で測定した。試験したすべてのガス(N、H、He、COおよびCH)では、微多孔性ポリマー充填剤を含有する当該ポリマー/ポリマー混合マトリックス高密度フィルムは、純粋なポリマーマトリックスのPに比べ、劇的に向上したP(数桁の改善)を生じる。これらの結果は、微多孔性ポリマー充填剤およびポリマーマトリックス相による固有のガス輸送特性によって、ポリマー/ポリマー混合マトリックス高密度フィルムの、効率的な非常に高いPが決まる、ということを示している。例えば、以下の表に示されているように、30重量%の微多孔性ポリマーPIM1を含有する30%−PIM1−Matrimid混合マトリックス高密度フィルムのPCO2(35.9barrer)(barrer=10−10(cm(STP)・cm)/(cm・秒・cmHg))は、純粋なMatrimidの高密度フィルムのPCO2(10.0barrer)よりも259%増加し、一方、αCO2/CH4(24.8)は、Matrimid高密度フィルムのαCO2/CH4(28.2)に比べてわずかに減少(<13%減少)したのみであった。これらのガス分離結果は、CHに対するCOの選択性が等しいままか、またはわずかに低い状態で、透過性について、純粋な連続Matrimidポリマーの透過性よりも、2〜3桁の増加を示し、;酢酸セルロースポリマーの透過性よりも3桁高い透過性を示しており、これは、例えば天然ガスからのCO除去などの、直接のガス分離用途を示唆するものである。
【0030】
加えて、30重量%の微多孔性ポリマー充填剤充填量を有する当該ポリマー/ポリマー混合マトリックス高密度フィルムの機械的強度は、純粋なポリマーマトリックスの機械的強度とほぼ等しい。連続ポリマーマトリックス中への微多孔性ポリマー充填剤の取り込みが30重量%以下では、相分離は観察されない。
【0031】
固有の微多孔度を有する可溶性ポリマーの連続ポリマーへの添加の利点を示す、混合マトリックス膜を調製した。10〜30重量パーセントの当該微多孔性充填剤を、UltemポリエーテルイミドおよびMatrimidポリイミドへ添加した。これら混合物および使用した純粋なポリマーの透過性および選択性を以下の表に示す:
【0032】
【表1】

【0033】
PIM充填剤を含有する当該ポリマー−ポリマーMMMの透過性(P)および理想的な選択性(αCO2/CH4)は、純ガス測定により、50℃、約690kPa(100psig)の圧力下で測定した。表1に示されているように、PIM1を充填剤として含有するPIM1−UltemのMMMは、純粋なUltemのポリマーマトリックスのPCO2に比べて、αCO2/CH4の減少を伴うことなく、劇的に向上したPCO2(数桁の改善)を生じる(図1)。PIM1を充填剤として含有するPIM1−MatrimidのMMMでは、純ガス透過試験は、純粋なMatrimidポリマーマトリックスの固有のPCO2およびαCO2/CH4に比べて、2倍または3倍のPCO2およびわずかに減少したαCO2/CH4(<13%の減少)を示す。
【0034】
これらの結果は、PIM充填剤およびポリマーマトリックス相による固有のガス輸送特性によって、ポリマー−ポリマーMMMの、効率的な非常に高いPCO2が決まる、ということを示している。例えば、表1に示されているように、20重量%の微多孔性ポリマーPIM1を含有する20%−PIM1−UltemのMMMのPCO2は、純粋なUltemの高密度フィルムのPCO2よりも190%増加し、一方、αCO2/CH4は、純粋なUltemの高密度フィルムのαCO2/CH4と同程度の高さのままであった。
【0035】
Ultemベースの、またはMatrimidベースのポリマー−ポリマーMMMに対する純ガス透過実験は、その対応する純粋な連続ポリマーマトリックスのPCO2に比べて、αCO2/CH4が等しいままか、またはわずかに減少した状態で、2倍以上のPCO2を示しており、これは、天然ガスからのCO除去に有望な用途を示唆するものである。
【0036】
本発明に従って調製した混合マトリックス膜は、次の組み合わせのガスの分離においても使用することができる:水素/メタン、二酸化炭素/窒素、メタン/窒素、および、例えばプロピレン/プロパンなどのオレフィン/パラフィン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続相有機ポリマーと、前記連続相有機ポリマー中に分散した微多孔性ポリマー材料とを含む、混合マトリックス膜。
【請求項2】
前記微多孔性ポリマー材料が、通常は平面状の第一化学種を含む有機巨大分子から本質的に成り、強固なリンカーによって最大で2つの他の前記第一化学種に優勢に結合され、前記強固なリンカーは、前記リンカーによって結合した隣接する2つの第一平面状化学種が非共面の配向(non-coplanar orientation)に保持されるように、ねじれ点(point of contortion)を有する、請求項1に記載の混合マトリックス膜。
【請求項3】
前記微多孔性ポリマー材料の前記ねじれ点が、置換または非置換のスピロ−インダン、ビシクロ−オクタン、ビフェニルまたはビナフチル部分によって提供される、請求項2に記載の混合マトリックス膜。
【請求項4】
前記第一平面状化学種のそれぞれが、式:
【化1】

の置換または非置換部分を含み、式中、XがO、SまたはNHである、請求項2に記載の混合マトリックス膜。
【請求項5】
前記微多孔性ポリマー材料が、
置換されていても置換されていなくてもよい、
【化2】

置換されていても置換されていなくてもよい、
【化3】

および
【化4】

からなる群より選択される式の繰り返し単位を含む、請求項2に記載の混合マトリックス膜。
【請求項6】
前記連続相が、ポリスルホン;ポリ(スチレン)、スチレン含有コポリマー、ポリカーボネート;セルロース系ポリマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、およびポリアミド、アリールポリアミド、アリールポリイミド、アリールポリエーテルイミド;ポリエーテル;ポリ(アリーレンオキシド);ポリ(エステルアミド−ジイソシアネート);ポリウレタン;ポリエステル、ポリスルフィド;ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ブテン−1)、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリビニル、ポリアリル;ポリ(ベンゾベンズイミダゾール);ポリヒドラジド;ポリオキサジアゾール;ポリトリアゾール;ポリ(ベンズイミダゾール);ポリカルボジイミド;ポリホスファジン;等、ならびに、上記ポリマーによる繰り返し単位を含有するブロック共重合体を含む共重合体、からなる群より選択される1種類以上のポリマーを含む、請求項1に記載の混合マトリックス膜。
【請求項7】
ガスの混合物から少なくとも1種類のガスを分離するための方法であって、
a)前記少なくとも1種類のガスに透過性であるポリマーから本質的に成る連続相中に分散した微多孔性ポリマー材料を含む混合マトリックスガス分離膜を提供すること;
b)前記混合物を前記混合マトリックス膜の片側に接触させて、前記少なくとも1種類のガスを前記混合マトリックス膜に透過させること;および
c)前記膜を透過する前記少なくとも1種類のガスの一部を含む透過ガス組成物を、前記膜の反対側から除去すること、
を含む方法。
【請求項8】
前記ガスの混合物が、水素/メタン、二酸化炭素/窒素、メタン/窒素、および、オレフィン/パラフィンからなる群より選択されるガスの組み合わせを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
連続相有機ポリマーを提供すること;
小細孔微多孔性ポリマー分子ふるいを提供すること;
前記連続相有機ポリマーを含有する溶液中に、前記微多孔性ポリマー分子ふるいを分散させること;および
前記分子ふるいの周りに前記連続相有機ポリマーを固化させて、混合マトリックス膜を得ること、
を含む、混合マトリックス膜を製造する方法。
【請求項10】
前記微多孔性ポリマー分子ふるいが、
置換されていても置換されていなくてもよい、式:
【化5】

置換されていても置換されていなくてもよい、
【化6】

または
【化7】

の繰り返し単位を含む、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2011−526828(P2011−526828A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516259(P2011−516259)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/068981
【国際公開番号】WO2010/002404
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】