説明

微小構造体、ドナー基板、及び微小構造体の製造方法

【課題】研削加工によるだれの発生及び耐久性の低下を抑制することができる微小構造体、ドナー基板、及び微小構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】微小構造体10は、第1の硬度を有する第1の導電膜からなるNi膜パターン2A〜2Eと、第1の硬度よりも低い第2の硬度を有する第2の導電膜からなるAu薄膜パターン6aとを交互に積層してなるとともに、第2の硬度よりも低くない第3の導電膜からなるNi薄膜パターン4aをAu薄膜パターン6aの外側に配置してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小構造体、ドナー基板、及び微小構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層造形方法は、コンピュータで設計された複雑な形状の3次元物体を短期間で形成する方法として急速に普及してきている。積層造形方法で形成された3次元物体は、種々の装置の部品モデル(プロトタイプ)として、部品の動作や形状の良否を調べるために利用される。この方法が適用される部品としては、そのサイズが数cm以上の比較的大きな部品が多いが、精密に加工して形成される微小光学部品や微小機械部品などの微小構造体の製造にも、この積層造形方法を適用したいという要求がある。
【0003】
従来、この種の積層造形方法を用いて微小構造体を製造する方法には、導電性を有する第1の基板を準備する工程と、第1の基板上に各硬度が互いに異なる2種の導電膜を電鋳によって形成する工程と、2種の導電膜にパターンニング処理を施して複数のパターンを形成する工程と、第1の基板と第2の基板との圧接,離間を繰り返すことにより第1の基板上の複数のパターンを第2の基板上に順次転写する工程とを含む方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−341500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、研削加工によるだれの発生及び耐久性の低下を抑制することができる微小構造体、ドナー基板、及び微小構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、以下の微小構造体、ドナー基板、及び微小構造体の製造方法を提供する。
【0007】
[1]第1の硬度を有する第1の導電膜と、前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有する第2の導電膜とを交互に積層してなるとともに、前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有する第3の導電膜を前記第2の導電膜の外側に配置してなる微小構造体。
【0008】
[2]前記第3の導電膜は、前記第2の導電膜の外側に配置されている前記[1]に記載の微小構造体。
【0009】
[3]前記第3の導電膜は、前記第3の硬度が前記第1の硬度と同一の硬度に設定されている前記[1]に記載の微小構造体。
【0010】
[4]前記第2の導電膜は、その厚さが前記第1の導電膜の厚さよりも大きい前記[1]に記載の微小構造体。
【0011】
[5]基板と、前記基板上に形成され、第1の硬度を有する複数の第1の導電膜と、前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有し、前記複数の第1の導電膜上に形成された第2の導電膜と、前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有し、前記複数の第2の導電膜の外側に形成された複数の第3の導電膜とを備えたドナー基板。
【0012】
[6]前記基板は、その材料が金属からなるもの、又は絶縁材料からなるものの表面に導電性の膜を有するものである前記[5]に記載のドナー基板。
【0013】
[7]第1の硬度を有する第1の導電膜と、前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有する第2の導電膜とを交互に積層してなるとともに、前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有する第3の導電膜を前記第2の導電膜の外側に配置してなる微小構造体を製造する方法であって、前記第1の導電膜からなる複数の第1の導電膜パターンを第1の基板上に形成した後、前記第2の導電膜からなる複数の第2の導電膜パターン及び前記第3の導電膜からなる複数の第3の導電膜パターンを前記複数の第1の導電膜パターン上に形成することにより、前記第1の基板上に複数の導電膜パターン層を形成する第1の工程と、前記複数の導電膜パターン層を前記第1の基板から第2の基板上に順次転写する第2の工程とを備えた微小構造体の製造方法。
【0014】
[8]前記第2の基板上に転写された前記複数の導電膜パターン層における前記複数の第1の導電膜パターン及び前記複数の第3の導電膜パターンの各一部を研削する第3の工程を含む前記[7]に記載の微小構造体の製造方法。
【0015】
[9]第1の硬度を有する第1の導電膜と、前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有する第2の導電膜とを交互に積層してなるとともに、前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有する第3の導電膜を前記第2の導電膜の外側に配置してなる微小構造体を製造する方法であって、前記第1の導電膜からなる複数の第1の導電膜パターンを第1の基板上に形成した後、前記第2の導電膜からなる複数の第2の導電膜パターンを前記複数の第1の導電膜パターン上に形成することにより、前記第1の基板上に複数の導電膜パターン層を形成する第1の工程と、前記複数の導電膜パターン層を前記第1の基板から第2の基板上に順次転写する第2の工程と、前記第3の導電膜で前記複数の導電膜パターン層を被覆する第3の工程とを備えた微小構造体の製造方法。
【0016】
[10]前記第3の導電膜で被覆された前記複数の導電膜パターン層における前記複数の第1の導電膜パターン、及び前記第3の導電膜の各一部を研削する第4の工程を含む前記[9]に記載の微小構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
請求項1乃至3,請求項5,請求項7乃至10に記載の発明によれば、研削加工によるだれの発生及び耐久性の低下を抑制することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、第2の導電膜の第2の硬度よりも高い第1の硬度を有する第1の硬度を有する第1の導電膜を主体とした微小構造体となり、微小構造体が変形し難くなる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、第1の導電膜を電鋳によって第1の基板上に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1A】図1A(a)乃至(d)は、本発明の第1の実施の形態に係る微小構造体の製造方法におけるドナー基板の作製手順(1)を説明するために示す断面図である。
【図1B】図1B(e)乃至(g)は、本発明の第1の実施の形態に係る微小構造体の製造方法におけるドナー基板の作製手順(2)を説明するために示す断面図である。
【図2】図2(a)乃至(c)は、本発明の第1の実施の形態に係る微小構造体の製造方法における導電膜パターン層の転写を説明するために示す断面図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る微小構造体の製造方法における研削工程を説明するために示す断面図である。
【図4】図4(a)乃至(c)は、本発明の第2の実施の形態に係る微小構造体の製造方法を説明するために示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る微小構造体の製造方法を(1)ドナー基板の作製と(2)導電膜パターン層の転写と(3)導電膜パターン層の研削とに分けて説明する。
【0022】
(1)ドナー基板の作製
図1A(a)〜(d)及び図1B(e)〜(g)はドナー基板の作製手順を示す。ドナー基板の作製では、Ni膜パターンの形成、第1のレジストパターンの形成、Ni薄膜の形成、Ni薄膜パターンの形成、第2のレジストパターンの形成、Au薄膜の形成、及びAu薄膜パターンの形成の各工程が順次実施されるため、これら各工程を順次説明する。
【0023】
なお、ドナー基板には第1〜5の導電膜パターンが形成されるが、図1A(a)〜(d)及び図1B(e)〜(g)においては第3の導電膜パターン及び第4の導電膜パターンについてのみ図示し、第1,2の導電膜パターン及び第5の導電膜パターンについての図示は省略する。
【0024】
本実施の形態に示すドナー基板の作製には、予め次に示す工程が実施される。まず、ステンレス等の鉄系の金属又は銅等の非鉄系の金属からなる第1の基板としての金属基板1(図1A(a)に示す)を用意する。金属基板1としては、その板厚が0.1〜5mm、望ましくは0.5〜1mmに設定された基板を用いる。次いで、金属基板1の表面1aを鏡面研磨する。しかる後、鏡面研磨された金属基板1の表面1aに例えば30μmの厚さの厚膜レジストを塗布してレジスト膜(図示せず)を形成する。そして、このレジスト膜上に所定のパターンを有するフォトマスク(図示せず)を設置した後、露光手段(図示せず)によりフォトマスクの開口部を通してレジスト膜を露光する。これにより、図1A(a)に2点鎖線で示すように、本微小構造体の断面パターンに対応してポジネガ反転によるレジストパターン2Fを形成することが可能となる。
【0025】
(a)Ni膜パターンの形成
図1A(a)に2点鎖線で示すレジストパターン2Fが形成された金属基板1をめっき浴に浸し、電解めっき(電鋳)によってニッケル(Ni)による第1の導電膜を例えば25μmの厚さに金属基板1上で成長させる。次に、図1A(a)に実線で示すように、レジストパターン2F(2点鎖線で示す)を剥離液で除去することにより、金属基板1の表面1a上にその面方向に沿って並列する第1の導電膜からなる第1の導電膜パターンとしてのNi膜パターン2A〜2E(図1ではNi膜パターン2C,2Dのみ示す。)を形成する。なお、第1の導電膜の材料してNiを用いる代わりに、Ni合金,銅,又は銅合金などを用いることができる。
【0026】
(b)第1のレジストパターンの形成
まず、Ni膜パターン2A〜2Eを覆うように金属基板1の表面1a全体をレジストを塗布してレジスト膜(図示せず)を形成する。次いで、このレジスト膜上に所定のパターンを有するフォトマスク(図示せず)を設置した後、露光手段(図示せず)によりフォトマスクの開口部を通してレジスト膜を露光する。しかる後、図1A(b)に示すように、レジスト膜を剥離液で除去することにより、金属基板1の表面1aの露出面及びNi膜パターン2A〜2Eの表面の一部に第1のレジストパターン3を形成する。この場合、Ni膜パターン2A〜2Eの表面の一部(第1のレジストパターン3で被覆された部位以外の部位)が露出する。
【0027】
(c)Ni薄膜の形成
次に、図1A(c)に示すように、第1のレジストパターン3及びNi膜パターン2A〜2Eが形成された金属基板1を上記(a)Ni膜パターンの形成工程で用いためっき浴に浸し、電解めっきによってNiによる第3の導電膜としてのNi薄膜4を例えば2μmの厚さにNi膜パターン2A〜2E上の表面の露出面に成長させる。
【0028】
(d)Ni薄膜パターンの形成
次に、図1A(d)に示すように、図1A(c)に示す第1のレジストパターン3を剥離液で除去することにより、Ni膜パターン2A〜2Eの表面の外縁側にNi薄膜パターン4aを形成(積層)する。
【0029】
なお、Ni薄膜パターン4aの形成は、Ni膜パターン2A〜2Eの形成と同様に電鋳技術を用いて行われる場合について説明したが、例えばNiのスパッタリング及びレジストのリフトオフの各処理を施して行うことも可能である。
【0030】
(e)第2のレジストパターンの形成
次に、Ni膜パターン2A〜2E及びNi薄膜パターン4aを覆うように金属基板1の表面1a全体にレジストを塗布してレジスト膜(図示せず)を形成する。次いで、このレジスト膜上に所定のパターンを有するフォトマスク(図示せず)を設置した後、露光手段(図示せず)によりフォトマスクの開口部を通してレジスト膜を露光する。しかる後、図1B(e)に示すように、レジスト膜を剥離液で除去することにより、第2のレジストパターン5を金属基板1の表面1a一部及びNi薄膜パターン4aの表面に形成し、Ni薄膜パターン4a以外のNi膜パターン2A〜2Eの表面を露出させる。
【0031】
(f)Au薄膜の形成
次に、図1B(f)に示すように、第2のレジストパターン5,Ni薄膜パターン4a及びNi膜パターン2A〜2Eが形成された金属基板1を電解めっきによって金(Au)による第2の導電膜としてのAu薄膜6を例えば2μmの厚さにNi膜パターン2A〜2E上に成長させる。
【0032】
(g)Au薄膜パターンの形成
図1B(g)に示すように、図1B(f)に示す第2のレジストパターン5を剥離液で除去することにより、Ni膜パターン2A〜2Eの表面の一部にAu薄膜パターン6aを形成(積層)する。この場合、Ni膜パターン2A〜2Eの表面一部にAu薄膜パターン6aが形成されると、Ni薄膜パターン4aにその内側に隣接してAu薄膜パターン6aが配置される。この場合、Au薄膜パターン6aがNi薄膜パターン4a上に重ならないように配置されることが望ましく、このため予めNi薄膜(第3の導電膜)の厚さよりも若干大きい厚さに設定されたAu薄膜(第2の導電膜)からなるAu薄膜パターン6aがNi薄膜パターン4aとの間に空隙(数μm程度)をもって形成される。そして、後工程で圧接によってAu薄膜パターン6aを変形させて延伸し、Au薄膜パターン6aとNi薄膜パターン4aとの間の空隙(少なくとも一部)を埋める。
【0033】
なお、Au薄膜パターン6aの形成は、Ni膜パターン2A〜2Eの形成と同様に電鋳技術を用いて行われる場合について説明したが、例えばAuのスパッタリング及びレジストのリフトオフの各処理を施して行うことが可能である。
【0034】
また、本実施の形態では、Ni薄膜パターン4aの形成後にAu薄膜パターン6aを形成する場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、Au薄膜パターンの形成後にNi薄膜パターンを形成してもよい。
【0035】
このようにして、金属基板1の表面1aにその面方向に並列する第1〜5の導電膜パターン層7A〜7E(図1B(g)では第3の導電膜パターン層7C及び第4の導電膜パターン層7Dのみ示す。)が形成されたドナー基板8を作製することができる。
【0036】
(2)導電膜パターン層の転写
図2(a)〜(c)は導電膜パターン層の転写手順を示す。導電膜パターン層の転写は、第1〜第5の導電膜パターン層7A〜7Eをドナー基板8から転写対象に順次転写することにより実施されるが、各導電膜パターン層の転写が略同様の手順を経て実施されるため、ここでは第3の導電膜パターン層の転写についてのみ詳細に説明し、他の導電膜パターン層(第1,2,4,5の導電膜パターン層)の転写についての説明は一部省略する。
【0037】
また、本実施の形態に示す導電膜パターン層の転写は、転写対象としてターゲット基板(第2の基板)9を用い、上部ステージ及び下部ステージ(図示せず)を内蔵する真空槽(図示せず)内において実施される。
【0038】
まず、図示しない上部ステージ上にターゲット基板9を、また図示しない下部ステージ上にドナー基板8をそれぞれ取り付ける。次いで、真空槽内を排気して高真空状態あるいは超真空状態にする。この状態を維持したまま上部ステージと下部ステージとを相対的に移動させ、ターゲット基板9をドナー基板8における第1の導電膜パターン層7Aの上方に配置する。しかる後、ドナー基板8(導電膜パターン層7A〜7E)及びターゲット基板9の各表面にFAB(Fast Atom Beam)等を照射し、両者の表面を清浄化する。そして、上部ステージを下降させ、ターゲット基板9の下面が第1の導電膜パターン層7A(Ni薄膜パターン4a及びAu薄膜パターン6a)の上面に押圧接触させる。この後、上部ステージを上昇させ、金属基板1から第1の導電膜パターン層7Aを剥離させてターゲット基板9に転写する。同様にして、金属基板1から第2の導電膜パターン層7Bを剥離させてターゲット基板9(第1の導電膜パターン層7A)に転写する。
【0039】
<第3の導電膜パターン層の転写>
まず、図2(a)に示すように、上部ステージを側方に移動させ、ターゲット基板9における第2の導電膜パターン層7Bをドナー基板8における第3の導電膜パターン層7Cの上方に配置する。
【0040】
次いで、FABを照射して表面を清浄化した後、図2(b)に示すように、上部ステージを下降させ、ターゲット基板9における第2の導電膜パターン層7B(第2のNi膜パターン2B)の下面が第3の導電膜パターン層7C(Ni薄膜パターン4a及びAu薄膜パターン6a)の上面に押圧接触させる。この場合、上部ステージが所定の荷重を所定の時間にわたって下部ステージ側に付与する。
【0041】
ここで、上部ステージによる荷重は、Au薄膜パターン6aの降伏応力以上にする。これにより、Ni薄膜パターン4aの上面が平坦でない場合でも、Ni薄膜パターン4aよりも軟らかいAu薄膜パターン6aが押圧され、その表面が金属基板1の表面1aと平行になるとともに、ターゲット基板9における第2の導電膜パターン層7B(Ni膜パターン2B)の下面に第3の導電膜パターン層7CのAu薄膜パターン6aが常温接合される。
【0042】
しかる後、図2(c)に示すように、上部ステージを上昇させ、第3の導電膜パターン層7Cを金属基板1から剥離させてターゲット基板9(第2の導電膜パターン層7B)に転写する。
【0043】
そして、上部ステージを側方に移動させ、ターゲット基板9における第3の導電膜パターン層7Cをドナー基板8における第4の導電膜パターン層7Dの上方に配置し、上記<第3の導電膜パターン層の転写>工程と同様に第4の導電膜パターン層7Dを金属基板1から剥離させてターゲット基板9(第3の導電膜パターン層7C)に転写する。
【0044】
この後、上記<第3の導電膜パターン層の転写>工程と同様にして、第5の導電膜パターン層7E(図示せず)を金属基板1から剥離させてターゲット基板9(第4の導電膜パターン層7D)に転写する。
【0045】
このようにして、ターゲット基板9に第1〜5の導電膜パターン層7A〜7Eを順次転写することができる。
【0046】
(3)導電膜パターン層の研削
図3(a)及び(b)は導電膜パターン層の研削手順を示す。図3(a)に示すようにドナー基板8(図2に示す)から導電膜パターン層7A〜7Eが順次転写されたターゲット基板9を上部ステージから取り外し、導電膜パターン層7A〜7Eにおける複数のNi膜パターン2A〜2E及び複数のNi薄膜パターン4aの各一部を例えば精密旋盤機(図示せず)によって図3(b)に示すように研削する。この場合、導電膜パターン層の研削は、導電膜パターン層7A〜7Eのうち互いに隣り合う2つの導電膜パターン層間に形成された段差(図3(a)に示す)を消失させるようにして行われる。これにより、図3(b)に示すように、外側面が段差に代わって傾斜面10aで形成されたターゲット基板9付きの微小構造体10が形成される。
【0047】
この後、ターゲット基板9を除去すると、研削加工によるだれの発生及び耐久性の低下が抑制された微小流路部品としての微小構造体10が得られる。だれの発生が抑制される理由は,研削される部分が硬度の低いAuではなく,硬度の高いNiであるためである.また、Auの周囲に硬度の高いNiがあるため,Auだけの場合に比べて耐久性の低下が抑制される。図3(a)及び(b)において、符号10bは、微小構造体10内に形成された流路である。微小構造体10は、Ni膜パターン2A〜2Eの厚さがAu薄膜パターン6aの厚さよりも大きく、Ni膜パターン2A〜2Eを主体とする積層構造体であることから、変形し難くなる。
【0048】
なお、第1の実施の形態では、Ni膜パターン(第1の導電膜)2A〜2Eの厚さ(5μm)が、Au薄膜パターン(第2の導電膜)6a及びNi薄膜パターン(第3の導電膜)の厚さ(2μm)よりも大きい場合について説明したが、第2及び第3の導電膜の厚さを第1の導電膜の厚さよりも大きい厚さ(例えば10μm)にしてしてもよい。これにより、相手接合面の平坦度が悪い場合でも接触面積を増やすことができる。
【0049】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る微小構造体の製造方法につき、図4(a)〜(c)を用いて説明する。図4(a)〜(c)は微小構造体の製造手順を示す。
【0050】
図4(b)及び(c)に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る微小構造体16は、第1の導電膜からなるNi膜パターン12A〜12Eと第2の導電膜からなるAu薄膜パターン13とが交互に積層され、かつ第3の導電膜としてのNi薄膜11がNi膜パターン12A〜12E及びAu薄膜パターン13の外側に配置されている点に特徴がある。
【0051】
このため、微小構造体の製造は、次に示すようにして実施される。まず、金属基板1の表面1a(図1Aに示す)にNi膜パターン12A〜12E(図4に示す)とAu薄膜パターン13(図4に示す)とを積層してなる複数の導電膜パターン層14A〜14E(図4に示す)を有するドナー基板(図示せず)を作製する。次いで、図4(a)に示すように、ドナー基板から導電膜パターン層14A〜14Eをターゲット基板15に順次転写して積層する。しかる後、図4(b)に示すように、ターゲット基板15の表面上において導電膜パターン層14A〜14E及びAu薄膜パターン13をNi薄膜11でスパッタリング等によって被覆する。そして、図4(c)に示すように、導電膜パターン層14A〜14EのNi膜パターン12A〜12E及びNi薄膜11の各一部を例えば精密旋盤機(図示せず)によって研削する。
【0052】
これにより、研削加工によるだれの発生及び耐久性の低下が抑制された微小構造体16が得られる。また、微小構造体16は、Ni膜パターン12A〜12Eの厚さがAu薄膜パターン13の厚さよりも大きく、Ni膜パターン12A〜12Eを主体とする積層構造体であることから、変形し難くなる。
【0053】
なお、本実施の形態に示す微小構造体16にも、微小構造体10(第1の実施の形態)と同様に内部に流路を形成してもよい。
【0054】
また、第2の実施の形態では、Ni膜パターン(第1の導電膜)12A〜12Eの厚さ(5μm)が、Au薄膜パターン(第2の導電膜)13の厚さ(2μm)よりも大きい場合について説明したが、第2の導電膜の厚さを第1の導電膜の厚さよりも大きい厚さ(例えば10μm)にしてしてもよい。これにより、相手接合面の平坦度が悪い場合でも接触面積を増やすことができる。
【0055】
以上、本発明の微小構造体及び微小構造体の製造方法を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0056】
(1)上記の実施の形態では、微小構造体が微小流路部品である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、微小光学部品や微小機械部品、あるいはこれら部品を形成する金型など他の微小構造体であってもよい。
【0057】
(2)上記の実施の形態では、第3の硬度が第1の硬度と同一の硬度(第1の導電膜及び第3の導電膜の材料がNi)である場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、第2の導電膜(材料がAu)の第2の硬度よりも低くない硬度であればよく、これにより研削加工によるだれの発生及び耐久性の低下を抑制するという所期の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0058】
1…金属基板、1a…表面、2A〜2E…Ni膜パターン、2F…レジストパターン、3…第1のレジストパターン、4…Ni薄膜、4a…Ni薄膜パターン、5…第2のレジストパターン、6…Au薄膜、6a…Au薄膜パターン、7A〜7E…導電膜パターン層、8…ドナー基板、9…ターゲット基板、10…微小構造体、10a…傾斜面、10b…流路、11…Ni薄膜、12A〜12E…Ni膜パターン、13…Au薄膜パターン、14A〜14E…導電膜パターン層、15…ターゲット基板、16…微小構造体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の硬度を有する第1の導電膜と、前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有する第2の導電膜とを交互に積層してなるとともに、
前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有する第3の導電膜を前記第2の導電膜の外側に配置してなる微小構造体。
【請求項2】
前記第3の導電膜は、前記第2の導電膜の外側に配置されている請求項1に記載の微小構造体。
【請求項3】
前記第3の導電膜は、前記第3の硬度が前記第1の硬度と同一の硬度に設定されている請求項1に記載の微小構造体。
【請求項4】
前記第2の導電膜は、その厚さが前記第1の導電膜の厚さよりも大きい請求項1に記載の微小構造体。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に形成され、第1の硬度を有する複数の第1の導電膜と、
前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有し、前記複数の第1の導電膜上に形成された複数の第2の導電膜と、
前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有し、前記複数の第2の導電膜の外側に形成された複数の第3の導電膜とを備えたドナー基板。
【請求項6】
前記基板は、その材料が金属からなるもの、又は絶縁材料からなるものの表面に導電性の膜を有するものである請求項5に記載のドナー基板。
【請求項7】
第1の硬度を有する第1の導電膜と、前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有する第2の導電膜とを交互に積層してなるとともに、
前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有する第3の導電膜を前記第2の導電膜の外側に配置してなる微小構造体を製造する方法であって、
前記第1の導電膜からなる複数の第1の導電膜パターンを第1の基板上に形成した後、前記第2の導電膜からなる複数の第2の導電膜パターン及び前記第3の導電膜からなる複数の第3の導電膜パターンを前記複数の第1の導電膜パターン上に形成することにより、前記第1の基板上に複数の導電膜パターン層を形成する第1の工程と、
前記複数の導電膜パターン層を前記第1の基板から第2の基板上に順次転写する第2の工程とを備えた微小構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第2の基板上に転写された前記複数の導電膜パターン層における前記複数の第1の導電膜パターン及び前記複数の第3の導電膜パターンの各一部を研削する第3の工程を含む請求項7に記載の微小構造体の製造方法。
【請求項9】
第1の硬度を有する第1の導電膜と、前記第1の硬度よりも低い第2の硬度を有する第2の導電膜とを交互に積層してなるとともに、
前記第2の硬度よりも低くない第3の硬度を有する第3の導電膜を前記第2の導電膜の外側に配置してなる微小構造体を製造する方法であって、
前記第1の導電膜からなる複数の第1の導電膜パターンを第1の基板上に形成した後、前記第2の導電膜からなる複数の第2の導電膜パターンを前記複数の第1の導電膜パターン上に形成することにより、前記第1の基板上に複数の導電膜パターン層を形成する第1の工程と、
前記複数の導電膜パターン層を前記第1の基板から第2の基板上に順次転写する第2の工程と、
前記第3の導電膜で前記複数の導電膜パターン層を被覆する第3の工程とを備えた微小構造体の製造方法。
【請求項10】
前記第3の導電膜で被覆された前記複数の導電膜パターン層における前記複数の第1の導電膜パターン、及び前記第3の導電膜の各一部を研削する第4の工程を含む請求項9に記載の微小構造体の製造方法。


【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−5605(P2011−5605A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152884(P2009−152884)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】