説明

心筋層の損傷の可視化方法

【課題】CT画像データに基づく心筋層の損傷の可視化を可能にし、かつ可視化において時間のかかる手動解析なしに心筋層の損傷範囲を直接に認識可能にする。
【解決手段】造影剤注入下で、注入された造影剤の最初の速い循環に基づいて心筋層内に造影剤の高まりが生じる時点で記録された心臓のCT画像データが準備され、CT画像データから心筋層がセグメンテーションによって分離され、分離された心筋層(20)の1つ又は複数の眺め(25,26)が画像表示装置に表示され、眺めにおいて、造影剤にて強調された損傷を直接に明確に認識できるように眺めの基礎をなすCT密度値がカラーコード化される心筋層の損傷の可視化方法において、セグメンテーションが心筋のモデル、とりわけ表面モデルのマッチングによって行なわれ、モデルのマッチングから得られた、心筋層と隣接範囲との間の境界面が、個々のボクセルの検査に基づくセグメンテーション技術によって正確にマッチングされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋層の損傷の可視化方法に関し、例えば損傷した細胞膜を有する細胞範囲に基づいている心筋層内の梗塞領域を可視化することを可能にする心筋層の損傷の可視化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞領域の表示にはこれまでとりわけ磁気共鳴断層撮影(MR)が使用されてきた。いわゆる心臓MRは今日においてまだ心臓壁疾病の可視化のための確立された標準である。なぜならば、この技術においては心筋(心筋層)の機能的検査を可能にするMRパフュージョンまたは壁運動解析法のような数多くの方法が使用可能であるからである。MRパフュージョンの場合、造影剤注入下でMR撮影が行なわれる。これは、注入された造影剤の最初の速い循環の際に発生する心筋層内のコントラスト強調(いわゆるファーストパスエンハンスメント(First Pass Enhancement))の可視化を可能にする。梗塞領域は病態生理学的に、例えば冠動脈狭窄による酸素供給不足によって細胞膜が完全にまたは部分的に損傷している細胞範囲に基づいていることが利用される。これらの損傷した範囲には造影剤が集積するので、これらの範囲は撮影画像において認識可能である。
【0003】
損傷した梗塞領域は、原理的には、ファーストパスエンハンスメントの時間インターバルにてコンピュータ断層撮影(CT)によっても、心筋内への造影剤の浸透が可視化されることにより検出可能である。心筋層の損傷した範囲における造影剤の高まりは狭い不規則に記述される領域の形でCT画像に現れる。この場合に、CT画像は一般にMPR表示法(MPR:Multi Planar Reformatting、多断面変換表示法)で可視化される。もちろん、心筋層内のこの領域の一部は、造影剤を満たされた心臓窩洞いわゆる血液プールに近いために、視覚的に検出することが非常に困難である。なぜならば、血液プールは同じように造影剤によって生じさせられる高いコントラストをもたらすからである。
【0004】
従来において、心筋層における梗塞領域の検出のためのこの種の心臓CTデータの唯一の利用可能性は、画像データにおける心筋範囲のコストの掛かる手動解析および目立つ領域の表への手動での登録にある。この場合に標準化された心臓長軸および心臓短軸を手動で構成することも必要であった。しかしながら、この種の評価は定期的な使用のためには時間がかかりすぎる。
【0005】
造影剤注入後の異なる時点で記録された心臓のCT画像データが準備される心臓データの検出および解析方法は公知である(例えば、特許文献1参照)。この方法においては、造影剤注入後の異なる時点で心筋層内の造影剤の高まりを解析するために、閾値法、エッジ検出法または領域拡張法の如き通常のセグメンテーションアルゴリズムに基づいて心筋層のセグメンテーション(セグメント化)が行なわれる。従って、この場合には異なる時点で記録されたCT画像が互いに比較される。この場合に、強調されたピクセルをカラー表示することもできる。
【0006】
個別の画像によるデフォーマット可能な3D対象、例えば心臓における壁変位の表示が研究されている(例えば、特許文献2参照)。この文献の例では、心臓の左心室の3D超音波画像データが左心室の相応の壁運動を表示するために準備される。左心室の壁は、いわゆる「シンプレックスメッシュモデル(Simplex mesh Modell)」を壁形状にマッチングさせるセグメンテーション技術により画像データからセグメント化される。このモデルは、網の形状で表わされた表面であって、超音波画像データにおける左心室の形状にマッチングする表面である。このためには、画像データにおける壁の形状がもちろん既にある程度明らかでなければならない。
【特許文献1】米国特許第6628743号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/003851号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、CT画像データに基づいた心筋層の損傷の可視化方法において、画像データの時間のかかる手動解析なしに、損傷を認識できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明によれば造影剤注入下で、注入された造影剤の最初の速い循環に基づいて心筋層内に造影剤の高まりが生じる時点で記録された心臓のCT画像データが準備され、CT画像データから心筋層がセグメンテーションによって分離され、分離された心筋層の1つ又は複数の眺めが画像表示装置に表示され、眺めにおいて、造影剤で強調された損傷を直接に明確に認識できるように眺めの基礎をなすCT密度値がカラーコード化される心筋層の損傷の可視化方法において、セグメンテーションが心筋のモデル、とりわけ表面モデルのマッチングによって行なわれ、モデルのマッチングから得られた、心筋層と隣接範囲との間の境界面が、個々のボクセルの検査に基づくセグメンテーション技術によって正確にマッチングされることによって解決される。
本発明の有利な実施態様は次の通りである。
モデルから自動的に、標準化された心臓長軸および心臓短軸が算出され、画像データに関連付けられる(請求項2)。
分離された心筋層のスライス画像であって、心臓短軸に対して垂直に向けられたスライス画像において、画像データの接線平滑が行なわれる(請求項3)。
画像データに、中隔の境界点の対話式マーキング後に、心臓のセグメントモデルが割り付けられ、複数の表示された眺めの内の1つの眺めの1つの画像範囲をマーキングする際に画像表示装置に付属のセグメントが自動的に指定される(請求項4)。
【0009】
本方において、造影剤注入下で記録された心臓のCT画像データが準備される。画像記録のために、注入された造影剤の最初の速い循環に基づいて心筋層内の造影剤の高まり(ファーストパスエンハンスメント)が生じる時点が選ばれる。引続いて、CT画像データ、すなわち3D画像データセットにおいて、心筋層がセグメンテーションによって分離される。セグメンテーションはまず心筋の適切なモデルのマッチングによって行なわれる。CT画像データにおいて心筋層を分離した後、心筋層が1つ又は複数の予め定められた眺めに分離されて画像表示装置に表示される。表示はカラーで行なわれ、異なる密度範囲のCT密度値に由来するボクセルもしくはピクセルは異なるカラーにコード化されて表示される。有利な実施態様では、これらのカラーコード化された眺めのほかに、分離された心筋層の相応のグレー値の眺めも表示される。
【0010】
モデルに基づいたセグメンテーション技術を使用する場合、標準化された心臓短軸および心臓長軸を決定し、心筋層の分離された画像データに割り付けるとよい。これは心臓長軸に対して垂直な断面および心臓短軸に対して垂直な断面における心筋層の表示を可能にする。表示自体は例えば断面図として行なわれるか又はMPR表示で行なわれる。
【0011】
カラーコード化に結び付けて心筋層を分離して表示することによって、特に閉塞に基づく細胞膜の損傷が造影剤で強調されて直接に明確に認識できる。隣接範囲、特に近接する同様に造影剤を満たされた血液プールの除去が画像データの高コストの解析を回避する。カラーコード化によって、グレー値表示において可能であるよりも大きな値範囲が表示可能である。このようにして、場合によっては、造影剤により強調された狭い不規則な範囲を、例えば赤色にて非常に明確に細部表示に分解することができる。従って、この方法により、CT画像データから心筋層内のコントラスト強調を定期的に検出することが高い時間的費用なしに可能になる。
【0012】
CT画像データのセグメンテーションは心臓モデルに基づいて行なわれる。現代の画像処理は解剖学的構造のモデル化を可能にする種々の方法を使用可能である。例えば、「T.F.Cootes et al.,“Statistical Models of Appearance for Computer Vision”,University of Manchester,5.December 2000」から、いわゆるASM(=Active shape Models、アクティブシェイプモデル)およびPDM(=Point Distribution Models、ポイント分布モデル)が公知である。この方法は、例えば心筋構造の標準記述をトレーニングデータのセットから生じさせ、この標準記述を基礎にしてモデルの相応の偏差もしくは予め与えられたデータへの個別的なマッチングを生じさせることを可能にする。
【0013】
これらのモデルは、マッチングの簡単化のために、付加的に簡単な対話動作手段、例えば3D点移動手段で直観的に処理することもできる。本方法においてこの種のモデルが使用される場合、左心室の造影剤により強調された血液体積と心筋層との間の境界面がモデル化される。モデルはトレーニングデータに基づいて探索された構造の形状に関する情報を学習しているので、造影剤を満たされた左心室と強調された心筋層との間の今問題にしている分離の場合のように、類似したHU値を有する2つの構造の間に境界を設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、特許請求の範囲によって予め与えられる保護範囲の制限なしに、図面を参照しながら実施例に基づいて本方法をもう一度さらに詳細に説明する。
図1は本方法の方法経過例を示し、
図2は本方法による分離された心筋層の表示例を示し、
図3は本方法の一実施形態による前中隔および後中隔の対話式マーキングの例を示し、
図4は心筋を有する左心室のポーラーマップ表示の例を示し、
図5はAHAの17セグメントモデルを示す。
【0015】
図1は、以下の部分において他の図にも関連して説明するように、本方法における方法経過の例を示す。まず、造影剤注入下でCT画像撮影により、心筋層内のいわゆるファーストパスエンハンスメントを示す心臓のCT画像データが準備される。引続いて、このCT画像データは、心筋層もしくは心筋層に割り付けられたCT画像データをデータセットから分離するために、セグメンテーション(セグメント化)を受ける。この場合に、例えばT.F.Cootesらによる上記文献から公知のようなASM表面モデルが使用される。このモデルは表面のみ、すなわち心外膜および心内膜を記述するので、これらの表面の間にある全てのボクセル値が最初のステップにおいて分離されなければならない。画像データセットの他の全てのボクセルはマスクされ、もはや表示されない。
【0016】
モデルは、基準形状を考慮するので、分離された領域もしくは縁を基礎としているセグメンテーション技術のように左心室と心筋層との間の縁を明確に記述することができない。この理由から、血液体積に対する心筋層の周辺部は本実施例では付加的に適応的に分離される。このために、血液体積のマスクを段階的にそれぞれ1つのボクセル層の周りに拡張する形態学的な拡張が実行される。新たに付加されるべきボクセル層ごとに、新たに付加されるべき領域がなおも血液体積に属するか否かが検査される。この検査は、グレー値基準または組織尺度に基づいて行なうことができる。検査はボクセルごとに行なわれる。それぞれのボクセルの周辺において50%以上のボクセルが心筋層に属するとき、アルゴリズムが中断される。このようにして、心筋層と血液を満たされた左心室との間の境界面は、この境界面のモデルによって得られた形状に比べて、再度、より正確にモデル化され、もしくは改善される。
【0017】
従来技術によるこれまでの画像データ解析において、放射線医は自分が望む注視方向(心臓の長軸および短軸に沿っている)をMPR自身で設定しなければならなかった。本例においては、このために必要な情報が左心室のモデル内に既に内在しているので、心臓の長軸および短軸を自動的に決定し、画像データに割り付けることができる。この画像データのリフォーマットのために、心臓の短軸はモデルの長手主軸に対して垂直に向けられる。水平な長軸は心臓の短軸に対して垂直である。引続いて、両軸は、場合によっては、放射線医にとって慣れた画像印象を伝えるために、なおもDICOM座標システムからの空間的情報に基づいて簡単に回転可能でなければならない。
【0018】
画像データは一般に、特に太りすぎの患者の場合に、非常にノイズを含んでいるので、画像データは画像表示の前に平滑化されなければならない。本例においては画像データの接線平滑が行なわれる。このために、心臓短軸に対して垂直なスライスにおける心筋層の形状は円形として仮定され、種々の半径のリングに分解される。引続いて、平滑が常にリングに沿ってのみ、すなわちそれぞれのリングでの接線に沿ってのみ行なわれる。このようにして1つのリングの平滑が他のリングに作用することが防止される。従って、貫壁性梗塞領域を確実に平滑化することができる。この接線平滑は、梗塞領域が心筋層の幅全体に亘って広がっている場合の誤診断を回避する。半径方向への平滑は、梗塞領域が心筋層の幅全体に亘って広がっている場合に、梗塞の縁領域をあまりにも強く消してしまう。
【0019】
リフォーマットされかつ平滑された画像データは引続いて更にコントラスト拡張を受ける。このステップでは、画像データの基礎をなしているCT密度値の小さなHU範囲(HU:Hounsfield Unit、ハンスフィールドユニット)がカラーチャート上に投影され、画像データが所望の眺めで相応にカラーコード化されて表示される。これは、HU値範囲における最小の変化の可視化も可能にする。
【0020】
図2は、模範的に一画面における異なる眺めでのカラーコード化された画像の表示を示す。これでは、分離された心筋層20のMPR表示が長軸断面(画像25)ならびに短軸断面(画像26)にて並べられて可視化される。更に、心臓の短軸および長軸におけるカラーコード化されていないMPR28が表示されている。ここで使用者は表示を任意に回転、拡大および移動させることができる。図2に両方向矢印で示されているように、全ての表示は常に同期して変化させられる。目下の位置は、心臓モデルの3D表示27およびその活性面において監視することができる。
【0021】
更に、機能診断にとっては通常に用いられる「ブルズアイプロット(Bull Eye´s PPlot)」(ポーラーマップ)表示で心筋の強調を表示させることが可能である。この場合に心筋層の頂点から底部までの個々のリングもしくは殻が一平面内に投影され、このようにして2D画像で一目で見れる心筋全体の表示を可能にする。この表示においてコントラスト拡張法が同じように適用可能である。図4は、このために左側に心外膜21および心内膜22のみを含む心筋層のマッチングしたモデルの表示を示す。上記ポーラーマップ表示が図4の右側に示され、これは一平面への心筋層の個々の殻もしくはリングの投影を明確に示す。
【0022】
本方法の他の構成において、使用者は、画像表示において頂点部の短軸方位において、中央心室部の短軸方位において、そして底部の短軸方位において前中隔23および後中隔24をマーキングすることを要求される。これが図3に示されている。図3は上記断面のMPR画像における相応のマーキング点29を示す。この対話式マーキングに基づいて、分離された心筋層は、いわゆる17セグメントモデル(米国心臓病学会(American Heart Association)によるAHA)のセグメントに分割される。この17セグメントモデルが図5に示されている。この自動分割後に今や観察者は、表示された画像において疑いのある任意の個所をグラフィック入力装置、例えばマウスでクリックし、任意の範囲をマーキングすることができる。各クリックに対して、窓30(図2参照)に、AHAセグメントモデルにおける相応の位置が表示される。この場合に、使用者は付加的に、マーキングされた位置に関連して報告書として記憶される所見または注釈を入力することができる。同じようにして、相応に着色されるかまたは着色されていない画像を共に受け取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本方法の方法経過の例を示すフローチャート
【図2】本方法による分離された心筋層の表示例を示す図
【図3】本方法の一実施形態による前中隔および後中隔の対話式マーキングの例を示す図
【図4】心筋を有する左心室のポーラーマップ表示の例を示す図
【図5】AHAの17セグメントモデルを示す図
【符号の説明】
【0024】
20 分離された心筋層
21 心外膜
22 心内膜
23 前中隔
24 後中隔
25 画像
26 画像
27 3D表示
28 カラーコード化されたMPR
30 窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤注入下で、注入された造影剤の最初の速い循環に基づいて心筋層内に造影剤の高まりが生じる時点で記録された心臓のCT画像データが準備され、CT画像データから心筋層がセグメンテーションによって分離され、分離された心筋層(20)の1つ又は複数の眺め(25,26)が画像表示装置に表示され、眺めにおいて、造影剤で強調された損傷を直接に明確に認識できるように眺めの基礎をなすCT密度値がカラーコード化される心筋層の損傷の可視化方法において、
セグメンテーションが心筋のモデル、とりわけ表面モデルのマッチングによって行なわれ、モデルのマッチングから得られた、心筋層と隣接範囲との間の境界面が、個々のボクセルの検査に基づくセグメンテーション技術によって正確にマッチングされる
ことを特徴とする心筋層の損傷の可視化方法。
【請求項2】
モデルから自動的に、標準化された心臓長軸および心臓短軸が算出され、画像データに関連付けられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
分離された心筋層(20)のスライス画像であって、心臓短軸に対して垂直に向けられたスライス画像において、画像データの接線平滑が行なわれることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
画像データに、中隔(23,24)の境界点の対話式マーキング後に、心臓のセグメントモデルが割り付けられ、複数の表示された眺めの内の1つの眺めの1つの画像範囲をマーキングする際に画像表示装置に付属のセグメントが自動的に指定されることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−198411(P2006−198411A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10831(P2006−10831)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】