説明

急速成長速度における単結晶CVDダイヤモンドの製造

水素、炭素源及び酸素源を含む雰囲気中で、基板上でのダイヤモンドの堆積を起こすために十分な圧力及び温度において基板を提供し、マイクロ波プラズマ球を設定することを含む、マイクロ波プラズマ支援化学気相堆積によりダイヤモンドを製造する方法であって、ダイヤモンドを400torr超の圧力下で少なくとも200μm/時間の成長速度において実質的に窒素を含まない、又は少量の窒素を含む雰囲気から堆積させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる2008年11月25日に出願された米国仮特許出願第61/117,793号の優先権を主張する。
【0002】
政府権益の記述
本発明は、NSF−EAR、NSF−DMR、DOE−NNSA(CDAC)及びバルザン財団の支援を受けた。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、マイクロ波プラズマ化学気相堆積(MPCVD)を使用して高成長速度において単結晶ダイヤモンドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
合成ダイヤモンドの大規模製造は、長きにわたり研究と産業の両方の目的とされてきた。ダイヤモンドは、その宝石特性に加え、最も硬い公知の材料であり、最も高い公知の熱伝導率を有し、種々の電磁放射に対して透明である。従って、これらの特性及び他の特性により、ダイヤモンドは宝石としての定着したその価値に加え、産業的に極めて貴重であり、多数の産業における広範な用途が開かれる。
【0005】
少なくとも最近20年間、少量のダイヤモンドを化学気相堆積(CVD)により製造する方法が利用可能となっている。B.V.Spitsynら、「Vapor Growth of Diamond on Diamond and Other Surfaces」, Journal of Crystal Growth, Vol. 52, pp. 219-226を参照のこと。この方法は、メタン、又は別の単純な炭化水素ガスと、水素ガスとの組合せを減圧及び800〜1200℃の温度において使用することによる基板上でのダイヤモンドのCVDを含む。水素ガスは、ダイヤモンドが核形成及び成長したときのグラファイトの形成を防止するために含まれる。この技術により最大1μm/時間の成長速度が報告された。
【0006】
後続の研究、例えば、「Diamond Synthesis from Gas Phase in Microwave Plasma」, Journal of Crystal Growth, vol. 62, pp. 642-644に報告されているKamoらの研究は、1〜8kPaの圧力及び800〜1000℃の温度において300〜700Wのマイクロ波出力を用いて2.45GHzの周波数においてダイヤモンドを製造するためのMPCVDの使用を実証した。Kamoらの方法においては1〜3%の濃度のメタンガスが使用された。3μm/時間の最大成長速度がこのMPCVD法を使用して報告された。上記方法、及び多数の他の報告された方法においては、成長速度が1時間当たりわずか数マイクロメートルに制限される。
【0007】
最近まで、公知の高成長速度法は多結晶形態のダイヤモンドのみを製造している。しかしながら、単結晶ダイヤモンドは多結晶性ダイヤモンドと比べて種々の利点を提供する。従って、MPCVDにより単結晶CVDダイヤモンドの高速成長を可能とする手順の開発にかなりの関心が近年示されている1〜4。例えば、MPCVD反応化学物質(メタン/水素プラズマ)への窒素添加が、{100}ファセットの成長を顕著に向上させ、平滑及び連続ダイヤモンド表面を製造することができることが報告されている1、5。Yanらは、CVDダイヤモンドを作製する当時の標準的な方法よりも2桁高い、最大100μm/時間の高い成長速度を最初に報告した。それ以降、単結晶CVDダイヤモンドについて成長速度を増加させ、又は成長領域を拡張する努力がなされている。
【0008】
マイクロ波出力及び運転圧力に直接関連するプラズマ出力密度は、CVDダイヤモンド合成に肝要なパラメーターと認識されている。しかしながら、マイクロ波出力は通常、マイクロ波出力供給の容量により調節されるので、圧力を増加させることが成長速度を増加させる最も可能性のある手法であると考えられる。Grotjohnらは、出力密度と80torrまでの圧力との関係を研究し、ほぼ線形の傾向を示している。Chinらは、約300torrの成長圧力における成長速度の改善を報告した。しかしながら、一般に、ほとんどの研究グループは、約150torrの圧力における成長法に着目した4、8。窒素をガス化学物質へ添加することは、成長を向上させることができる。しかしながら、このことは、ブロードのUV−可視吸収に起因して黄色味又は明褐色を有するダイヤモンドを導く1、9。Mengら10、11は、窒素−空孔−水素(NVH−)複合体中心がこの呈色に関連していることを報告した。複合体中心濃度は、高圧高温(HPHT)アニーリングと低圧高温(LPHT)アニーリングのいずれかにより低減させることができる。
【0009】
MPCVDを使用して単結晶ダイヤモンドを作製する改善された手順は、例えば米国特許第6,858,078号及び同第7,235,130号に記載され、特許請求されている。さらなる改善は、米国特許出願第11/438,260号に記載され、特許請求されている。これらの早期出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,858,078号
【特許文献2】米国特許第7,235,130号
【特許文献3】米国特許出願第11/438,260号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「Vapor Growth of Diamond on Diamond and Other Surfaces」, Journal of Crystal Growth, Vol. 52, pp. 219-226
【非特許文献2】「Diamond Synthesis from Gas Phase in Microwave Plasma」, Journal of Crystal Growth, vol. 62, pp. 642-644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
有用な形態の単結晶CVDダイヤモンドを提供することができる方法の開発に向けられる種々の努力にかかわらず、CVDダイヤモンドを商業的に注目される成長速度において調製する方法を提供する必要性が残されている。
【0013】
本発明の重要な目的は、そのような方法を提供することである。他の目的も、以下の記載から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
広範に記述すると、本発明は、少なくとも200μm/時間の速度における単結晶CVDダイヤモンドの成長を可能とする、従来のMPCVD手順の改善を提供する。本発明は、単結晶DVDの高度に有用な成長速度を、400torr超又はそれ以上、例えば410torrで、760torr(1気圧と等価)までの圧力及び1000°〜1500℃の範囲内の温度においてMPCVDプロセスを運転する一方、200μm/時間超という掲示の成長速度を可能とするのに十分な適切な強度及び出力密度においてプラズマの安定性を維持することにより実現することができるという知見に顕著な程度で基づく。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明を、添付の図面を参照することにより、より詳細に説明する。
【図1】種々の圧力におけるCN、C、CH、HαのOES強度及びダイヤモンド成長速度を示す図である。
【図2】褐色、ほぼ無色及び無色のCVDダイヤモンド(それぞれSCD−1、SCD−2及びSCD−3)、並びに天然IIa型ダイヤモンドについての室温(25℃)におけるUV−可視吸収係数を、3種のCVDダイヤモンド結晶の写真挿入図とともに示す図である。
【図3】天然IIa型ダイヤモンド、明褐色(SCD−1)、ほぼ無色(SCD−2)及び無色(SCD−3)の単CVDダイヤモンドについての光ルミネセンス(PL)スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面をより具体的に参照すると、図1に挙げられるOES強度は、80torrにおける計測値に正規化されていることが留意される。ダイヤモンド成長速度をマイクロメーターにより現場外で計測し、次いでプロットに挿入した。
【0017】
図2において、褐色、ほぼ無色及び無色のCVDダイヤモンドはそれぞれ、以下参照される試料SCD−1、SCD−2及びSCD−3である。挿入図は、バックグラウンドにおいて強力な緑色のプラズマを用いた3種の単結晶CVDダイヤモンド結晶SCD−1、SCD−2及びSCD−3の写真である。上右部から時計回りに:1)SCD−1:窒素を含有する明褐色のブリリアントカット及び研磨された単結晶(−0.5カラット);2)SCD−2:−1カラットブロックから製造されたほぼ無色の0.2カラットのブリリアントカット及び研磨された単結晶;3)SCD−3:−2.2カラットブロックから製造された無色の1.4カラットのバレット形単結晶。
【0018】
図3において、強度スケールをダイヤモンド1次ラマンピークに正規化した。挿入図は、PLスペクトル(励起514.5nm、300K)についての570〜610nm範囲の詳細を提供する。
【0019】
本発明は、水素、炭素源、例えばメタン又はエタン、及び好ましくは酸素を含む雰囲気中でのマイクロ波プラズマの使用を要求することが理解される。これらは、上記の米国特許出願第11/438,260号に記載の比で使用される。少量の窒素を雰囲気中に含めることも可能であるが、無色ダイヤモンドが所望される場合、MPCVD法は、窒素を含まない雰囲気中で実施すべきである。他の材料を本開示に別掲の通り堆積雰囲気中に含めてもよい。
【0020】
ダイヤモンド速度を最大化させるため、プラズマ密度は約10ワット/cmから約10,000ワット/cmの範囲内にあることが好ましい一方、出力源は好ましくは3000から5000Wにおいて運転される。一実施形態において、出力源は5kW超又はそれ以上において運転される。別の実施形態において、出力源は15kW以上において運転される。さらに別の実施形態において、出力源は75kW以上において運転される。プラズマ密度は、400torr超において運転する場合、掲示範囲の高い方の端において維持されるべきである。400torr超の圧力において運転する場合、プラズマ安定性の維持及びアーキングを回避するための予防措置を取ることも肝要である。400torr超の圧力においてアーキングを回避するために取ることができる措置は、例えば、パルスマイクロ波の使用、発散/多極磁場における運転、ガス流中の追加の成分、例えばアルゴンを用いる運転、及び異なる波長モードを有する導波/貯蔵/キャビティ設計の使用(次いで、モードの妨害)を含むことができる。この後者の措置は、均一な温度勾配を伴う均質で安定なプラズマを持続させることができる。
【0021】
より高い出力及び圧力において運転することにより、堆積領域の拡張が可能となる。例えば、領域は、3kWにおいて運転する場合の直径約1インチから、より高い出力において運転する場合の直径約3インチに拡張することができる。このことにより、1実行当たり二以上の種の使用が可能となり、こうして単結晶ダイヤモンドの大量製造が促進される。
【0022】
より高い圧力において、プラズマ球はより小さくなり、プラズマのサイズを持続させるためにより高い出力が必要であることに留意しなければならない。さらに、上記参照の米国特許第6,858,078号及び同第7,234,130号に記載され、特許請求されている冷却能を有するホルダー設計を使用することが有利である。
【0023】
上記の通り、本方法は、有利には少量の窒素(例えば100部の炭素前駆体当たり0.2から3部の窒素)の存在下で所望の圧力において実施することができる。窒素を堆積雰囲気中に含めることにより、成長速度を、完全に窒素不存在下で他の点で同様の条件下で得られる速度の3倍も増加させることができることが見出された。得られたCVDダイヤモンドは、窒素の存在に起因して褐色を有する。この色は、ダイヤモンドのHTHP(高温高圧)アニーリングにより除去することができる。褐色を回避し、添加窒素の不存在下で、即ち、実質的に炭素源、水素及び酸素源からなる雰囲気中でCVD法を実施することによりいくぶん低い成長速度において無色の高品質ダイヤモンドを生じさせることができる。
【0024】
典型的には、本発明は、変動する寸法の単結晶ダイヤモンドを調製するために使用される。例えば、製造物はサイズが1〜2.5カラットであり得る。典型的には、ダイヤモンドは、10〜25mm厚の厚さ、例えば18mmの厚さに堆積させることができる。堆積圧力は、比較的広範囲にわたり変動させることができ、300〜350torrは代表的な結果を提供するが、好ましくは、本発明によれば、最速の成長速度を可能とするための圧力は400torr超である。本明細書に挙げられる実施例は、説明として200〜300torrで変動する圧力を利用し、成長速度は圧力増加により増加させることができると解される。例えば、165μm/時間の成長速度を高出力密度において300torrにおいて得ることができる一方、さらにより高い速度を400torr超の圧力において実現することができる。
【0025】
単結晶ダイヤモンドを調製するため、種々の基板を本発明の方法において使用することができる。例えば、基板は、天然ダイヤモンド又は合成ダイヤモンドであり得、さらに単結晶又は多結晶質であり得る。ある実施形態において、基板は、例えば天然ダイヤモンド(単結晶又は多結晶質)、HPHTダイヤモンド(単結晶又は多結晶質)又はCVDダイヤモンド(単結晶又は多結晶質)であり得る。好ましい実施形態において、基板は、単結晶天然ダイヤモンド、単結晶HPHTダイヤモンド又は単結晶CVDダイヤモンドであり得る。
【0026】
本発明のある実施形態において、基板の結晶配向は0〜15度オフ{100}である。この配向は、核形成速度を増加させ、不純物のレベルを低減させると考えられる。
【0027】
ガス状雰囲気は、酸素に代え、又は酸素に加え、他のガス、例えば、限定されるものではないが、アルゴン、CO、CO、水素化ホウ素(B)、窒化ホウ素又は窒素不含堆積用の他のホウ素関連材料を含んでよい。ガス状雰囲気中の酸素源は、酸素原子を含有するが、窒素原子を含有しない任意の化合物、例えば、限定されるものではないが、O、CO、CO、水及びエタノールであり得ることに留意しなければならない。
【0028】
上記の通り、実質的に窒素を含まない雰囲気を維持することが重要である。その目的のため、本発明の方法は、堆積チャンバの空気漏洩速度が0.003mtorr/分未満になるように制御する措置を含む。このような1つの措置は、空気漏洩に対して易損性の系の箇所(例えば、真空連結部品、例えばvitonガスケット)を包囲する雰囲気が窒素不含ガス(例えば、アルゴン又はCO)からなることを確保することである。これを達成する1つの手段は、真空部品のシーリング領域を、窒素不含ガスが充填されたバルーン型遮蔽材料(例えば、プラスチック)により包囲することである。このことは、大部分が窒素からなる空気がシーリング中へ漏洩するのを防止する。
【0029】
堆積チャンバ内で安定した対称性の中心に配置されたプラズマを生成させるため、ガス(例えば、H、CH、O)投入量を均等に分布させ、ラインをチャンバ周囲で排気させることが重要である。ガスラインがチャンバ周囲に均等に分布されている場合、プラズマはチャンバの中心から外れて(即ち、周囲により近接して)位置するのではなく、中心に位置する。
【0030】
以下の実施例は、高品質の褐色、ほぼ無色、及び無色の単結晶CVDダイヤモンドが、最適化条件において成長し、光学発光分光器(OES)により評価され、光ルミネセンス及びUV−可視吸収分光法により特性決定されたことを示す。得られた計測値は、残存吸収とガス化学物質における窒素含有量との直接的関係を明らかにする。こうして得られた、天然IIa型ダイヤモンドの光学特性と比較可能な光学特性を有する高い成長速度及び無色単結晶CVDダイヤモンドは、本方法及び得られる製造物の潜在性を保証する。さらにより高い成長速度、例えば200μm/時間又はそれ以上における高品質単結晶ダイヤモンドの加工が、400torr超、例えば425torrのより高いガス合成圧力の使用を可能とする改変された反応器設計により企図される。このような改変された反応器設計は、アーキングを回避する手段及び安定なプラズマ密度の維持手段を含む。
【実施例】
【0031】
5kW、2.45GHzのASTEX MPCVD系を単結晶ダイヤモンド合成に使用した。{100}面及び最小表面欠陥を有するHPHT合成Ib型及び単結晶CVDダイヤモンドを、ダイヤモンド成長用基板として使用した。パラジウム精製器を有する水素発生器を、7Nの純度を有する清浄な水素を生成させるために使用した。高純度メタン(99.9995%)も使用した。
【0032】
褐色、ほぼ無色及び無色の単結晶CVDダイヤモンドを、500sccm H、20〜80sccm CH、及び250〜300torrの全圧において1000℃から1500℃の範囲の温度において、3000Wから5000Wの範囲のマイクロ波出力を用いて合成した。ダイヤモンド結晶が大きくなるにつれ、ダイヤモンド基板及びホルダーを効率的に昇温させ、安定な球形プラズマを維持するためにより高い出力/圧力の組合せが必要とされた。これら3種の試料についての詳細は表1に見出すことができる。
【表1】

【0033】
これら3種の試料をさらなる分析のためにレーザーカットし、宝石形状に研磨した。
【0034】
1つの研磨高グレード天然IIa型ダイヤモンドも比較のために使用した。これらの4種の試料についてのUV−可視吸収スペクトルを、本実施例において使用された3種の単結晶CVDダイヤモンドの写真とともに図3に提示する。窒素ドープされた単結晶CVDダイヤモンドは、褐色CVDダイヤモンドの典型的な特性、例えば270nm(置換窒素)、並びに370nm及び550nm(窒素空孔中心)におけるブロードバンドを示す11。成長化学物質におけるより高い窒素含有量がUV−可視スペクトルにおいてより高いバックグラウンドを導くことは明白であり、このことは窒素添加により誘発された欠陥中心及び転位がダイヤモンドの色に劇的に影響を与えることを意味する。ガス化学物質におけるより低い窒素含有量を用いると、UV−可視線形状はより均等になり、窒素関連バンドの強度は低下する。SCD−3及びIIa型天然ダイヤモンドのラマン線形の有意差は存在しない。SCD−3の吸収係数はわずかにより高く、これは成長に使用されるメタンガス中の窒素不純物に起因する可能性が高い。しかしながら、窒素の存在下での成長により誘発された点欠陥及び拡張欠陥に起因する残存色及びブロードスペクトル特性に対する相対寄与は測定されなかった10
【0035】
光学発光スペクトル(OES)は、直径3mmの光ファイバーを有するOcean Optics分光計により記録した。PLスペクトルは、514.5nmにおいてアルゴンイオンレーザーにより励起させた。これらの材料の光学特性を、マイクロUV−可視吸収分光法によりさらに調査した。Q−スイッチYAGレーザー系をダイヤモンド基板から成長層を取り出すために使用した。
【0036】
OESは、CVDダイヤモンド成長の特性決定に有用なツールである12〜15。H/CH/Nプラズマの発光スペクトルは、C(dΠ→aΠ)スワンバンド系が優勢であり、656.3nmにおける原子水素発光(バルマー−α遷移、Hα)、約388nmにおけるCN(BΣ+→XΣ)系、及び−431.5nmの波長における比較的弱いが検出可能なCH(AΔ→XΠ)の発光を一緒に伴うことが報告されている12、13。図1は、10torr増分での80torrから350torrの範囲の圧力を用いて計測されたCN、C、CH、及びHαの変動を示す。H、CH、及びNの流量をそれぞれ500、50、及び10sccmに固定した。マイクロ波出力を3000Wに固定し、ダイヤモンド基板温度を1100℃から1300℃の範囲とした。データの進展をより良好に理解するため、全てのバンドについての発光強度を80torrにおける計測値により正規化した。単結晶CVDダイヤモンドは、選択圧力において合成された。
【0037】
可視的に、プラズマ球は顕著に収縮し、圧力増加に伴ってより強度が増す。プラズマ球の色も、圧力増分の間に淡紫色(原子水素の発光が優勢)から強い緑色(Cが優勢の発光)に変色した。CN、C、及びCH発光からの強度の成長は、ガス圧増加に伴うプラズマ密度の増加を意味する。成長速度も圧力が高くなるにつれて徐々に増加したが、成長速度と検出可能な発光バンドとの相関は明白ではなかった。165μm/時間の最大成長速度が310torrにおいて得られ、この圧力を超えると成長速度は安定化し、長時間継続するプラズマ球はマイクロ波アンテナと基板ステージの間の直接放電(即ちアーキング)を導入せずに維持することが困難であった。Hα発光が計測にわたってごくわずかな変動を示したことに留意することは興味深い。原子水素の存在とダイヤモンド成長速度との相関を説明するための幾つかのモデルが構築されている6、14。原子水素は、望ましくないsp相をエッチング除去(etch away)し、炭化水素種をダイヤモンド基板にC−H及びH−H結合を介して付着させるのを促進することができる。しかしながら、本試験におけるOES観察は、150torrよりも高い圧力において、ほぼ一定のままの原子水素の濃度を用いると、圧力が上昇するにつれて成長速度が増加し続けたことを明らかにする。他方、つい最近まで、ダイヤモンド成長のほとんどの理論研究は低いCH/H供給ガス比(<2%)を用いる低圧法(<150torr)に着目したことに留意することが重要である。150torrよりも高い圧力における成長機序のモデリングを説明する研究が欠落している。考えられる1つの説明は、CH、ダイヤモンド成長における別の主要種が本試験において用いられるOESにより検出可能でないことである15、16。取られる計測値における炭素関連種の一般的傾向から、CH分子密度もプラズマ密度の顕著な増加に基づきかなり増加したことが示唆される。このことは、より高度に増加した成長速度を説明し得る。この観点は理論計算により支持され、この計算は200torrまでの成長速度の連続的増加を示す16。発光強度の変化は個々の種の密度を直接表さないことがあることに留意する価値があり、さらにより高い圧力における成長プロセスを解釈するために、より詳細な実験及びモデリング研究が要求される。
【0038】
窒素ドープされた単結晶CVDダイヤモンドについて計測された光ルミネセンススペクトルは、575(NV)及び637(NV−)nmにおける明らかな窒素−空孔中心の徴候を、ブロードなルミネセンスバックグラウンドとともに示す。UV−可視吸収スペクトルにおいて観察したものと同様、ガス化学物質における窒素含有量の低下は、検出可能なNV中心の強度の低下を導き、試料SCD−3について最終的に縮小する。試料SCD−2については、735nmにおけるケイ素関連欠陥も検出され、CVDチャンバ内部で高熱に曝露された石英窓が原因であり得る17。天然IIa型ダイヤモンドはごくわずかなバックグラウンドを有し、目立った特徴は1次ダイヤモンドラマンピークであった。IIa型ダイヤモンドについては、575から600nmの間の2次ラマン特性も観察された。窒素を添加せずに成長させたSCD−3は、IIaダイヤモンドと同様のPLスペクトルを示した。これらのスペクトルに基づきSCD−3と高品質IIa型ダイヤモンドとを区別することは困難である。
【0039】
天然褐色IIaダイヤモンドについて、色は通常、広い塑性変形の結果とみなされ18、19、高窒素含有量(>100ppm)を有するIa型ダイヤモンドは褐色と無色のいずれかで見出すことができる。このことは、窒素がダイヤモンドの色の決定における直接的な要因でない可能性を示す。しかしながら、成長化学物質における窒素含有量が窒素誘発欠陥及び不純物の数、そして結果的にダイヤモンド可視吸収を直接決定することは明白である。高成長速度CVDダイヤモンド中の窒素含有量は一般に、極めて低い(<10ppm)(即ち、天然IIa型ダイヤモンドの範囲内)20。Mengら10は、ダイヤモンドにおける可視吸収の進展を低圧高温アニーリングにより窒素−空孔−水素(NVH−)複合体欠陥と相関付けた。本試験は、窒素流量の低下がNVH−欠陥中心濃度を低減させ、この型のダイヤモンドの可視吸収を改善することを示す。
【0040】
上記に基づくと、成長圧力を400torr超、例えば410torrに増加させることは、極めて大型の高品質ダイヤモンドを依然としてより高い成長速度(例えば、200μm/時間)において合成するために有効であると考えられる。MPCVD反応器設計は、この場合に肝要である。それというのも、より高い圧力(例えば400torr)においては、マイクロ波アンテナと基板の間の直接アーキングが起こる傾向にあるからである。このようなアーキングは、マイクロ波の通路内に位置する石英成分に有害である。従って、上記の通り、本発明は比較的高い圧力(400torr超)を使用する場合、アーキングを防止し、及び/又は他の点でプラズマを安定化させる手段の使用を企図する。この重要性は、プラズマとマイクロ波アンテナの間のアーキングを回避するように設計されていない反応器を使用して1気圧において単結晶CVDダイヤモンドを成長させる試みにより実証されている。しかしながら、堆積はプラズマ球の不安定性に起因して短く遮断しなければならなかった。従って、反応器が1〜2気圧範囲のチャンバ圧において安定なプラズマを生成することができることが不可欠である。
【0041】
本発明の方法を、300torrの圧力を使用して上記したが、得られた結果に基づくと、圧力を400torr超、例えば410〜425torr、大気圧まで増加させると、CVDダイヤモンドの成長速度を実質的に線形ベースで増加させることができるとみなされる。これを行うため、アーキングを回避し、安定なプラズマを提供する炉及び付随手段を提供することが重要である。
【0042】
上記の通り、制限された量の窒素を酸素と組み合せて使用することは、成長速度を増加させるにあたり有利とみなされるが、このことは、後続のアニーリングにより排除することができる褐色味のダイヤモンドをもたらす。無色ダイヤモンドは、上記の通り窒素の存在が回避され、又は最少に保持された場合に得られる。
【0043】
高品質の単結晶CVDダイヤモンドを165μm/時間の速度において成長させるために300torrの圧力を使用する上記説明は、堆積圧力を増加させることにより成長速度を劇的に増加させることができることを実証するために挙げられるにすぎない。OES計測は、プラズマ密度と成長速度との関係、即ち、増加した圧力から得られる増加したプラズマ密度が成長速度を増加させることを保証する。成長速度を向上させるために肝要とみなされている原子水素は、高い合成圧力において成長速度を向上させるにあたり主要な要因ではないと考えられる。
【0044】
光ルミネセンス及びUV−可視吸収スペクトルは、ダイヤモンドの褐色とガス化学物質における窒素添加との一般的関係を明らかにする。高CVD圧力において製造された無色単結晶ダイヤモンドの光学品質は、PL及びUV−可視分光法により証明された通りIIa型天然ダイヤモンドの光学品質と比較可能であると見出された。
【0045】
追加の試験を、2.54GHzにおいて15kW、及び915MHzにおいて75kWのマイクロ波出力を使用して単結晶ダイヤモンド合成のために首尾良く実施した。高い出力は、より高い圧力において安定した広域プラズマを生成させるために必要である。
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18. L.S. Hounsome, R. Jones, P.M. Martineau, D. Fischer, M.J. Shaw, P.R. Briddon and S. Oberg, Phys. Rev. B 73, 125203 (2006).
19. H.K. Mao and R.J. Hemley, Nature, 351, 721 (1991).
20. Q. Liang, Y.F. Meng, C.S. Yan, J. Lai, S. Krasnicki, H.K. Mao, R.J. Hemley, Diamond Relat. Mater 18, 698 (2009).
【0046】
種々の改変を本明細書に記載の本発明において行うことができると認識される。従って、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲に定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素、炭素源及び酸素源を含む雰囲気中で、基板上でのダイヤモンドの堆積を起こすために十分な圧力及び温度において基板を提供し、マイクロ波プラズマ球を設定することを含む、マイクロ波プラズマ支援化学気相堆積によりダイヤモンドを製造する方法であって、前記ダイヤモンドを400torr超の圧力下で少なくとも200μm/時間の成長速度において実質的に窒素を含まない雰囲気から堆積させる方法。
【請求項2】
水素、炭素源及び酸素源を含む雰囲気中で、基板上でのダイヤモンドの堆積を起こすために十分な圧力及び温度において基板を提供し、マイクロ波プラズマ球を設定することを含む、マイクロ波プラズマ支援化学気相堆積によりダイヤモンドを製造する方法であって、前記ダイヤモンドを400torr超の圧力下で少なくとも200μm/時間の成長速度において少量の窒素を含む雰囲気から堆積させる方法。
【請求項3】
製造されたダイヤモンドが褐色を有し、前記ダイヤモンドをアニーリング工程に供して褐色を除去する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
温度が約1000℃から約1500℃の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
プラズマ密度が約10ワット/cmから約10,000ワット/cmの範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ダイヤモンドを、3000から5000Wの出力源を使用して堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ダイヤモンドを、5000W超の出力源を使用して堆積させる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ダイヤモンドを、15kW超の出力源を使用して堆積させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ダイヤモンドを、75kW超の出力源を使用して堆積させる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基板の結晶配向が0〜15度オフ{100}である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
雰囲気を堆積チャンバ内に含有させ、前記堆積チャンバの空気漏洩速度を0.003mtorr/分未満に制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プラズマを前記堆積チャンバ内の中心に配置させる、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−509831(P2012−509831A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537701(P2011−537701)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/065657
【国際公開番号】WO2010/068419
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(500026234)カーネギー インスチチューション オブ ワシントン (25)
【Fターム(参考)】