説明

恒温槽

【課題】槽内に入れる液体の量を減らしてコストの削減を図り、且つ熱交換効率のよい恒温槽を提供する。
【解決手段】液体が収納されるタンク31を備え、タンク31内の液体を所定温度に維持する恒温槽30において、タンク31の下部には、循環羽根48が収納された収納部36が設けられ、タンク31の底面には、タンク31内部と収納部36を液体が流通可能となるように連通させる連通孔42が形成され、タンク31と一体に形成され、収納部36に流入した液体をタンク31の外側からタンク31上部へ流通させるための流通管38が複数設けられ、流通管38の外壁に温度を一定に維持するためのサーモモジュール52が設けられ、循環羽根48の駆動によって、タンク31内の液体が収納部36に流入し、収納部36から流通管38を通ってタンク31の上部に流入するように液体が循環する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温槽に関し、さらに詳細にはタンク内部の液体を所定の温度に保つ恒温槽に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造時において用いられる洗浄用等の液体を、所定の温度に維持する恒温槽が従来から知られている(例えば特許文献1参照)。
図6に基づいて、従来の恒温槽について説明する。
恒温槽9を構成するタンク10内には、所定の温度に保つべき液体11が貯留されている。このタンク10内には、内部を冷媒液が流通する冷却用蛇管12が配置されている。タンク10内の液体は、この冷却用蛇管12を介して冷媒液と熱交換されており、タンク10内の液体の温度が一定に保たれるように設けられている。
【0003】
また、図7に他の恒温槽の例を示す。
この恒温槽13のタンク14の上部および下部のそれぞれには、ヒータ15およびサーモモジュール16に接続される配管17a、17bが設けられている。各配管17a,17bは、タンク14内の液体11を直接ヒータ15やサーモモジュール16へ循環させるように設けられており、配管17aの途中には液体11を循環させるためのポンプ18が設けられている。
【0004】
上述の図6に示したような恒温槽では、タンク10内の液体を循環させずに、冷媒液を循環させており、冷却蛇管12に接触している部分と冷却蛇管12から離れている部分の液体に温度差がでてきしまっていた。また、このようなタンク10にタンク10内の液体を撹拌させるための撹拌手段(スターラー等)を設けた場合であっても、タンク10の隅々まで十分に撹拌することは難しく、タンク内にどうしても温度差が生じてしまっていた。
【0005】
さらに、図7に示したような恒温槽では、タンク14から液体を取り出して循環させる方式であるので、タンク14内の液体としてフッ素系不活性液体を用いた場合、フッ素性不活性液体は電気的な絶縁性が極めて高いので、配管内を液体が流通することで配管と液体との摩擦により静電気が発生してしまう。静電気の発生を防止するには、配管を金属製にする必要があるが、金属製配管では恒温槽全体が重量化・大型化してしまい、またコスト的にも不利であった。
【0006】
また、内タンクと外タンクとから構成される二重壁構造のタンクを採用し、内タンクと外タンクとの間の隙間を利用してタンク内部で液体を流通させる恒温槽も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
この特許文献2に開示されている恒温槽によれば、温度制御対象となる液体を流通させる配管を設けなくても良いので、装置全体の軽量化・小型化を図ることができる。
このような恒温槽では、内タンクの底面から流出する液体を、内タンクと外タンクとの全周にわたる間隙を流路として上昇させ、上昇時にサーモモジュールによって温度制御し、内タンク内に温度制御した液体を流入させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−213103号公報(図1、図6等)
【特許文献2】特開2005−127608号公報(図1〜図4等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示されているように、内タンクと外タンクとを有する恒温槽においては、内タンクと外タンクの二重壁構造にすることによって、タンク内に導入する液体量が大幅に増加してしまう。
したがって、特に恒温用の液体として用いられるフッ素系不活性液体は高価であるため、液体量を減らしてコストを削減したいという課題がある。
【0009】
また、内タンクと外タンクとの間の全周にわたって液体を流通させるようにすると、サーモモジュールによる熱交換効率が悪いという課題もある。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、槽内に入れる液体の量を減らしてコストの削減を図り、且つ熱交換効率のよい恒温槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる恒温槽によれば、液体が収納されるタンクを備え、タンク内の液体を所定温度に維持する恒温槽において、タンクの下部には、循環羽根が収納された収納部が設けられ、タンクの底面には、タンク内部と収納部を液体が流通可能となるように連通させる連通孔が形成され、前記タンクと一体に形成され、前記収納部に流入した液体をタンクの外側からタンク上部へ流通させるための流通管が複数設けられ、流通管の外壁に温度を一定に維持するためのサーモモジュールが設けられ、前記循環羽根の駆動によって、タンク内の液体が収納部に流入し、収納部から流通管を通ってタンクの上部に流入するように液体が循環するように設けられていることを特徴としている。
この構成を採用することによって、恒温用の液体は、タンク、収納部、流通管を経て再度タンク上部に確実に循環する。また、二重壁構造ではないので、液体の量を減らすことができる。このため、コストを抑えつつも確実な温度制御を実行することができる。また、サーモモジュールは流通管の外壁に設けられているので、熱交換の対象となる液体の流量をある程度制限できるため、熱交換効率を高めることができる。
【0012】
また、前記流通管は、タンクの壁面が外方に突出して形成された突部と、該突部の内側において、突部内とタンク内とを隔て、且つタンクの内壁面と同一表面となるように設けられた内壁板との間に形成されることを特徴としてもよい。
この構成を採用することにより、流通管をタンクの壁面を利用して構成できるので、部品点数の削減に寄与することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の恒温槽によれば、液体の量を減らしてコスト削減を図ることができ、また熱交換効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の恒温槽の全体構成を示すブロック図である。
【図2】タンクの平面図である。
【図3】タンクの側面図である。
【図4】タンクの断面図である。
【図5】サーモモジュールの分解図である。
【図6】液体を循環させない従来の恒温槽の構成について説明する説明図である。
【図7】液体を循環させる従来の恒温槽の構成について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1に、恒温槽の全体構成を示す。
本実施例における恒温槽30は、タンク31が内蔵された本体33に、温度制御用の制御装置34が接続されて設けられている。
恒温槽30は、フッ素系不活性液体を所定の温度に保つ機能を有するものであり、本体33に設けられたタンク31内にフッ素系不活性液体(以下、単に液体と称する場合がある)を貯留させている。タンク31内で所定の温度に維持された液体は、例えば半導体製造時の洗浄等に用いられる。
【0016】
タンク31は、内部に貯留される液体を循環させて一定の温度に維持するようにしている。循環の詳細については後述するが、タンク31内の液体はタンク31の下方に位置する収納部36に流入し、収納部36内の液体は収納部36からタンク31上部に向けて延びる流通管38内を流通して、タンク31の上部に流入する。流通管38は、タンク31の外壁面に一体に形成されている。このような流通管38はタンク31の周囲に複数設けるとよい。
【0017】
流通管38の外壁面には、サーモモジュール52が取り付けられており、流通管38内を流通している液体の温度を調整する。
【0018】
制御装置34は、サーモモジュール52に接続されている。サーモモジュール52は、後述するようにペルチェ素子が設けられており、制御装置34はペルチェ素子に印加する電圧を制御することによって温度制御を実行している。制御装置34にはタンク31内の液体温度を検出する温度センサ54が接続され、温度センサ54から入力される温度データに基づいてサーモモジュール52の制御を行う。
なお、サーモモジュール52は水冷式であり、ポンプ62によって配管63内を冷却水を循環させて用いている。
【0019】
図2に本体の平面図を、図3はタンクの側面図を、図4にタンクの断面図を示す。なお、図4ではサーモモジュール52は省略している。
タンク31は内部に液体が貯留される空間が形成された有底円筒状であり、平面視すると上部が開口した円形である。
タンク31の底面には、タンク31内部とタンク31の下部に形成された収納部36とを連通させるための底部連通孔42が形成されている。収納部36内には、液体をタンク→収納部→流通管→タンクの順に循環させるための循環羽根48が収納されている。
【0020】
本実施形態では、タンク31の周囲の4箇所に等間隔をあけて流通管38が設けられている。流通管38は、その管状を構成する部材とタンク31を構成する部材とが兼用となっており、このためタンク31と流通管38とは一体に設けられている。
具体的には、タンク31の壁面を構成するタンク構成部材は、1枚の金属製の板状体を全体として円形とし、流通管38が形成される箇所においてのみ円の外方に突出する突部39が形成されている。突部39は、円周上から外径方向に突出する2つの側面部50と、側面部50の先端同士を連結して円周方向に延びる平面状の外壁部53とから構成される。
【0021】
また、突部39における円の内径側には、タンク31の内壁面と同一表面となるように設けられた内壁板54が配置される。内壁板54は、平面視すると概略コの字状に形成されており、タンク31の内壁面と同一表面となる曲面部55と、曲面部55の両側においてタンク31の外径方向に突出する2つの側面部57とから構成される。2つの側面部57,57が突部39の側面部50,50の内側に配置され、突部39の側面部50と、内壁板54の側面部57とが溶接等で固定されることにより、内壁板54がタンク31に固定される。
このように突部39と内壁板54とで囲まれた空間が、液体が流通する流通管38となる。
【0022】
タンク31の上部であって、流通管38が設けられている箇所には、流通管38とタンク31内を連通させるための、複数の上部連通孔44が形成されている。本実施形態では、流通管38が設けられている箇所は内壁板54が設けられているので、上部連通孔44は内壁板54に形成されている。ここでは、上部連通孔44は縦長の長円状の形状のものを図示しているが、このような形状に限定されることはない。
【0023】
本実施形態における循環羽根48は、マグネット式の遠心ポンプを用いている。マグネット式の遠心ポンプは、収納部36の底面に配置されており、循環羽根48を回転駆動させるモータ67がタンク31の外部に設けられている。すなわち、循環羽根48とモータ67とは直接接続されていない。
循環羽根48の内部にはマグネットが配置されており、この循環羽根48は、モータ67の回転軸64に設けられたマグネット66の磁力によりモータ67の回転力が伝達されて駆動される。このようにして循環羽根48とモータ67との間には、タンク31を貫通する回転軸を設けなくともよいので、回転軸を貫通させる場合に必要となる軸受けやシール機構などを設けずにすみ、加工コストの削減に寄与できる。
【0024】
循環羽根48は、回転軸の軸線方向と直交する方向に流体を移動させるような形状に羽根51が設けられている。
モータ67が回転駆動することによって、循環羽根48が回転し、タンク31内の液体を底面の底部連通孔42から収納部36内に流入させる。そして循環羽根48は、液体を収納部36内に流入した液体を遠心方向に流す。
収納部36の外径方向に流れた液体は、流通管38を通って上昇する。このとき、液体は遠心方向への流れを維持したままであるので、流通管38の内壁面にぶつかりながら上昇し、ほどよく撹拌される。液体は、この流通管38を流通している間に、流通管38の外面に取り付けられたサーモモジュール52によって温度制御される。
そして、流通管38を上昇した液体は、タンク31の上部連通孔44からタンク31の内部へ流入する。このようにして、液体はタンク31内を撹拌されつつ上下方向に循環する。
【0025】
また、流通管38内を移動中にサーモモジュール52で所定の温度にされた液体は、タンク31の上部連通孔44からタンク31内に流入してタンク31の底面に向けて流れるので、タンク31内では常に上下方向に流動することとなり、タンク31内部における液体の温度差を無くすことができる。
【0026】
なお、サーモモジュール52は、流通管38を構成する突部39の平面状の外壁部53に取り付けられている。
サーモモジュール52は、流通管38を直接加熱または冷却しており、流通管38に接触しつつ通過する液体を加熱または冷却することができる。このような構成により、サーモモジュール52は効率よく流通管38を流通する液体を温度制御できる。
【0027】
次に、サーモモジュールの構成について説明する。
サーモモジュール52は、制御装置34に接続されたペルチェ素子56と、ペルチェ素子56の一方の面側と流通管38の外壁部53との間に配置される熱伝導板58と、ペルチェ素子56の他方の面側に設けられた熱交換器59とを有している。
【0028】
ペルチェ素子56は、2種類の金属が貼り合わされて構成されており、電圧を印加することによって一方の金属から他方の金属へ熱が移動して温度を調節することが出来る素子である。
また、熱伝導板58は、ペルチェ素子56を確実に流通管38の外壁部53に取り付けると共に、ペルチェ素子56の熱を均一に流通管38へ伝導させるために設けられており、ペルチェ素子56の表面積よりも大きい表面積の銅板等が用いられる。
【0029】
熱交換器59は、水冷式であり、内部を冷媒が通過する流路60が形成されたブロック体61から構成されている。
例えば、ペルチェ素子56において、流通管38を冷却する際には、ペルチェ素子56の他方側の面は高温になるが、この高温となった他方側の面の温度を下げることによって、さらにペルチェ素子56の性能を引き出すことができるようになる。
なお、冷媒としては、チラー水等を採用することができ、冷媒がポンプ62によって循環可能となるように配管63を設け、冷媒の熱交換を行なう熱交換器(図示せず)を設けても良い。
【0030】
また、制御装置34は、ペルチェ素子56に印加する電流を制御するための回路が内蔵されており、ユーザが指定する温度に液体が短時間で到達するように制御がなされる。
制御装置34は、ペルチェ素子56へ印加する電圧の極性切換を行なうことによって、タンク31内の液体の温度を加熱および冷却の双方を実行することができる。
【0031】
なお、上述した実施形態においては、流通管38はタンク31の周囲4箇所に設けた構成を採用した。しかし、流通管38の数としては、4つに限定されることはない。ただし、最低2つの流通管38は必要であると考えられる。
【0032】
以上本発明につき好適な実施例を挙げて種々説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
【符号の説明】
【0033】
30 恒温槽
31 タンク
33 本体
34 制御装置
36 収納部
38 流通管
39 突部
42 底部連通孔
44 上部連通孔
48 循環羽根
50 側面部
51 羽根
52 サーモモジュール
53 外壁部
54 温度センサ
54 内壁板
55 曲面部
56 ペルチェ素子
57 側面部
58 熱伝導板
59 熱交換器
60 流路
61 ブロック体
62 ポンプ
63 配管
64 回転軸
66 マグネット
67 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が収納されるタンクを備え、タンク内の液体を所定温度に維持する恒温槽において、
タンクの下部には、循環羽根が収納された収納部が設けられ、
タンクの底面には、タンク内部と収納部を液体が流通可能となるように連通させる連通孔が形成され、
前記タンクと一体に形成され、前記収納部に流入した液体をタンクの外側からタンク上部へ流通させるための流通管が複数設けられ、
流通管の外壁に温度を一定に維持するためのサーモモジュールが設けられ、
前記循環羽根の駆動によって、タンク内の液体が収納部に流入し、収納部から流通管を通ってタンクの上部に流入するように液体が循環するように設けられていることを特徴とする恒温槽。
【請求項2】
前記流通管は、
タンクの壁面が外方に突出して形成された突部と、
該突部の内側において、突部内とタンク内とを隔て、且つタンクの内壁面と同一表面となるように設けられた内壁板との間に形成されることを特徴とする請求項1記載の恒温槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−258865(P2011−258865A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133817(P2010−133817)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(391015926)千代田電機工業株式会社 (17)
【出願人】(392014933)株式会社ラスコ (16)
【Fターム(参考)】