説明

情報用紙

【課題】 印刷手段による可視情報の印刷が必要となる表面もしくは裏面の、インキ濃度不足とインキの着肉ムラを改善し、オフセット印刷時のピッキングトラブルの発生を抑えることのできる、インレットを抄き込んだ情報用紙を提供する。
【解決手段】本発明の情報用紙は、アンテナ配線を備えた半導体チップ(インレット)をリーダーにて読取り可能なように抄き込んである原紙の少なくとも片面に、顔料層を設けたことを特徴とする。そして、顔料層が、顔料100重量部に対して接着剤を30〜100重量部含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な偽造防止手段等としての識別情報付加手段としてRFID(Radio Frequency Identification:無線自動識別)のアンテナ配線を備えた半導体チップ(以下「インレット」という)を具備した情報用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣、商品券等の金券等には、不正に変造、偽造できないように、各種の偽造防止対策が施されている。その一例として、リーダーヘッドにて読取り可能なようにインレットを抄き込んだ情報用紙がある。
【0003】
高度な偽造防止手段としてのインレットを抄き込んだ情報用紙を製造する方法としては、インレットをプラスチックフィルム製のスレッドの片面に接着したものを紙層内に埋没するように抄き込むか、あるいは上記のスレッドを少なくとも2層からなる抄き合わせ紙の紙層間に挿入する方法が挙げられ、例えば特許文献1のような方法がある。
【0004】
最近では、商品券等としてより薄いものが求められている。そのため、厚さの原因となるインレットのより薄型の製品開発が進められている。その一例として、5μmと極めて薄い半導体チップ「Ultra−Thin and Ultra−Smallチップ」が発表されており(非特許文献1参照)、この半導体チップを用いて作成したインレットの厚さは次の構成により45μmとなり、従来の60μm以上のものもよりも格段に薄くなる。このような薄型のインレットの構成は、アンテナサンドイッチ方式によるものであり、半導体チップとアンテナを接続してなるものである。厚さ方向の上下にベースメタル(厚さ15μm)、カバーメタル(厚さ15μm)及びUltra−Thin and Ultra−Smallチップに接着するための異方性導電接着フィルム層(上下各5μm)を含み、インレットの厚さが45μmとなる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−319006
【非特許文献1】ISSCC(International Solid−State Circuits Confference)2007/SESSION26/NON−VOLATILE MEMORIES/26.6 A 0.05×0.05mm2 RFID CHIP with Easily Scaled−Down ID−Memory
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、これらのインレットを抄き込んだ情報用紙の表面もしくは裏面には、当然ながら印刷手段による可視情報の印刷が必要となる。従って、当該情報用紙には良好なインク受容性等の印刷適正が要求されるものであった。
この場合、印刷適正を向上させるために該情報用紙に対してカレンダー掛けを施す手段が提案されているが、抄き込まれたインレットは、5kg/cm以下の極めて低い線圧で破壊されるので、カレンダー掛けを印刷適正の向上手段にすることは困難であった。
結局、従来技術ではインレットを破壊することなく良好な印刷適正を有する情報用紙を得ることが出来なかった。
【0007】
換言すれば、カレンダー処理をしていない紙を多色刷りのオフセット印刷に掛けた場合、インキ濃度不足とインキの着肉ムラが発生するため、印刷適性を兼ね備えた情報用紙を提供することは不可能となっている。また。オフセット印刷時の印圧を上げることにより、インキ濃度不足とインキの着肉ムラは改善できるが、印圧を上げるとカレンダー工程と同様に半導体チップが破壊される問題が発生するため、インキ濃度不足とインキの着肉ムラはほとんど改善できないのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鋭意検討した結果このような課題を解決したものであり、
本発明の請求項1に係る情報用紙は、アンテナ配線を備えた半導体チップをリーダーにて読取り可能なように抄き込んでなる原紙の少なくとも片面に、顔料層を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る情報用紙は、顔料層が、顔料100重量部に対して接着剤30〜100重量部含有することを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る情報用紙は、多層抄きにより抄紙された紙層のうちの何れか一つの層間にアンテナ配線を備えた半導体チップがリーダーにて読取り可能なように抄き込まれた原紙の少なくとも片面に、顔料層を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このようにして得られた本発明の情報用紙は、アンテナ配線を備えた半導体チップが抄き込まれた状態でありながら、多色刷りオフセット印刷においてインクの着肉性が良く、着肉ムラがなく、ピッキングトラブルが無い、十分な印刷適性を備えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の情報用紙について、以下に説明する。
【0013】
本発明の情報用紙に用いられるインレットは、リーダーヘッドにて迅速に読取り可能となるようにあらかじめスレッド上に一定の間隔で固定しておくことが望ましい。スレッドとしては、プラスチックフィルムや薄葉紙等を0.5〜5mm幅にスリットしたものがある。インレットのスレッド上への設置は、例えば、厚さ15μm、幅1mmのポリエステル製のスレッド上に、一定間隔で紫外線硬化型のエポキシ接着剤により予め接着しておく方法がある。
【0014】
以下に図1をもって、本発明の情報用紙を説明する。
すなわち、図1は原紙6の両面に顔料層を設けた情報用紙の中に、インレット8が抄き込まれた状態を示す図であり、該インレット8は、半導体チップ1、異方性導電接着フィルム2、カバーメタル3、ベースメタル4からなり、スレッド5に搭載されている。
スレッドを紙に埋没するように抄き込む方法としては、多層抄き抄紙機により、各層いずれかの層を重ね合わせる直前でスレッドを紙層間に挿入して抄造し、スレッド5およびインレット8を図1のように紙の中に埋没させる方法がある。多層抄き抄紙機としては、円網抄紙機、短網抄紙機、長網抄紙機などが挙げられる。幅方向でスレッド5およびインレット8を抄き込んだ部分は他の部分よりも厚くなるため、巻取り時にシワが発生して効率的な生産が出来なくなる恐れがある。円網抄紙機のシリンダーにおいて抄き込み部分の金網を全周に渡って凸部をつくることにより、抄き込み部分の厚さを薄くすることができ、シワの発生を防止することができることから、円網抄紙機が好ましく用いられる。また、この方法により半導体チップ1に掛かる圧力を低減させることが可能となり、半導体チップ保護の面からも一定の効果を持つが、前述したカレンダー工程における半導体チップに掛かる圧力による破損防止効果としては不十分である。凸部の厚さ(突出量)は抄造する紙の厚さとスレッド5およびインレット8の厚さに応じて適宜決定し、凸部の幅は、スレッド5の幅に位置制度を考慮した範囲とするのが好ましく、例えば、位置精度を±2mm以内とした場合、1mm幅のスレッドを用いた時は5mmとするのが好ましい
【0015】
本発明の情報用紙に用いられる原紙に配合されるパルプの種類としては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、サーモメカニカルパルプ、砕木パルプ、古紙パルプ等が使用される。印刷機上のラフニングを良好にするためには、LBKP、NBKPの化学パルプを使用することが好ましい。
【0016】
原紙に添加される填料としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、水和珪酸、ホワイトカーボン、酸化チタン、合成樹脂填料などの公知の填料を使用することができ、填料の使用量は、パルプ重量当たり10重量%以上が好ましい。
【0017】
原紙には、必要に応じて、硫酸バンド、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、着色剤、染料、消泡剤などを含有することが出来る。
【0018】
叩解後のパルプのカナダ標準濾水度(CSF)は、好ましくは100〜450mLである。100mLより低いと脱水性が悪く抄紙し難い。また、450mLより高いと紙力が低下する。
【0019】
本発明を構成する顔料層に用いる塗料に含まれる顔料としては、特に限定されないが、従来から用いられている、カオリン、クレー、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料、プラスチックピグメントなどの有機顔料等があり、単独あるいは2種以上を併用して使用することができる。
【0020】
本発明を構成する顔料層に用いる塗料に含まれる接着剤としては、特に限定されないが、従来から用いられている、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、ブタジエン・メチルメタクリレート系、酢酸ビニル・ブチルアクリレート系等の各種共重合体およびポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体、アクリル酸・メチルメタクリレート系共重合体等の合成系接着剤、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白の蛋白質類、酸化澱粉、陽性澱粉、尿素燐酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉などのエーテル化澱粉、デキストリンなどの澱粉類、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体等、通常の塗被紙用接着剤単独あるいは2種類上を組み合わせて適宜選択して使用される。
【0021】
接着剤の塗料中への含有量は、顔料100重量部あたり30〜100重量部が好ましく、より好ましくは35〜80重量部である。顔料塗工紙は、非塗工紙に比べて一般的にインクの着肉性は格段に向上するものの表面強度が弱くなる傾向にあり、カレンダー工程を通さない場合はさらに表面強度の低下が顕著となり、顔料層がオフセット印刷においてブランケットに取られ易く、ピッキングトラブルが発生しやすくなるが、顔料100重量部あたりの接着剤量が30重量部以上にすることにより、この問題を解決した。また、顔料100重量部あたりの接着剤量が100重量部を越えると、紙の表面がべたつき、結露等によりブロッキングのトラブルが発生しやすくなるが、100重量部以下にすることによりブロッキングの発生を防止した。
【0022】
顔料層形成に用いられる塗料には、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤、印刷適性向上剤など、通常の塗被紙用塗被組成物に配合される各種助剤が適宜使用出来る。
【0023】
顔料層の塗工量は、片面当たり2〜20g/mが好ましく、3〜8g/mがより好ましい。
【0024】
本発明の情報用紙を構成する顔料層は、下記に述べる塗工以外に含浸及びラミネートする積層の手段をもって形成することが出来る。
顔料層用塗料を塗工する方法としては、2ロールサイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、およびシムサイザー等のフィルム転写型ロールコーターや、フラデッドニップ/ブレードコーター、ジェットファウンテン/ブレードコーター、ショートドウェルタイムアプリケート式コーターの他、ブレードの替わりにグルーブドロッド、プレーンロッド等を用いたロッドメタリングコーターや、カーテンコーター、ダイコーター等の公知のコーターにより塗工することができる。
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部および%は、特に指定のない限り、すべて重量部および重量%を示す。
【実施例1】
【0026】
<インレットを搭載したスレッドの作製>
厚さ5μm、50μm角の半導体チップ(日立製作所製 Ultra−Thin and Ultra−Smallチップ)の上下両面に、アルミ箔のアンテナ(各厚さ15μm、下側のベースメタルの幅0.3mm、長さ4mm、上側のカバーメタルの幅0.3mm、長さ2mm)を接続して厚さ45μmのインレットを作製した。そして、厚さ15μm、幅1.0mmのポリエステルフィルム製のスレッドに上記のインレットを一定の間隔で紫外線硬化型のエポキシ接着剤により接着させてインレットを搭載したスレッドを作製した。
【0027】
<原紙の作製>
LBKP80部、NBKP20部をカナダ標準濾水度250mLに叩解し、これに軽質炭酸カルシウム10部、紙力増強剤としてカチオン化デンプン1.5部、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー型サイズ剤0.2部を添加して3層式円網抄紙機により3層抄き合わせ紙(米坪量:105g/m)を抄造した。この際、第2層目と第3層目の間にインレットを搭載したスレッドを挿入するようにして原紙を抄紙した。
【0028】
<顔料層の作製>
上記のようにして作製した原紙の両面に、下記顔料層用塗料をゲートロールコーターにより乾燥後の片面当たり塗工量4.5g/mとなるよう塗工し、乾燥させて、実施例1の情報用紙を作製した。
【0029】
<顔料層用塗料>
○顔料:
1級カオリン(商品名:ラストラ、エンゲルハード社製)・・・・・・・・・・80部
重質炭酸カルシウム(商品名:エスカロン#1500、三共精粉社製)・・・・20部
○接着剤:
SBRラテックス(商品名:JSR0696、JSR社製)・・・・・・・・・22部
尿素リン酸エステル化デンプン(商品名:MS#4600、日本食品化工社製)13部
○印刷適性向上剤(商品名:SPI−203、住友化学社製)・・・・・・・・0.8部
○ステアリン酸カルシウム(商品名:ノプコートC−104、サンノプコ社製)0.8部
○ポリアクリル酸系分散剤(商品名:シャロールAN−103、第一工業製薬社製)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.3部
上記組成物を水に分散後、アンモニアと水酸化ナトリウムによりpH9.0に調整し、固形分濃度52%の塗料を作製した。
【実施例2】
【0030】
実施例1と同様にして得た原紙の両面に、下記顔料層用塗料をサイズプレスコーターにより乾燥後の片面当たり塗工量3.0g/mとなるよう塗工し、乾燥させて、実施例2の情報用紙を作製した。
【0031】
<顔料層用塗料>
○顔料:
1級カオリン(商品名:ラストラ、エンゲルハード社製)・・・・・・・・・・80部
重質炭酸カルシウム(商品名:エスカロン#1500、三共精粉社製)・・・・20部
○接着剤:
SBRラテックス(商品名:JSR0696、JSR社製)・・・・・・・・・25部
尿素リン酸エステル化デンプン(商品名:MS#4600、日本食品化工社製)20部
○印刷適性向上剤(商品名:SPI−203、住友化学社製)・・・・・・・・0.8部
○ステアリン酸カルシウム(商品名:ノプコートC−104、サンノプコ社製)0.8部
○ポリアクリル酸系分散剤(商品名:シャロールAN−103、第一工業製薬社製)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.3部
上記組成物を水に分散し、アンモニアと水酸化ナトリウムによりpH9.0に調整し固形分濃度22%の塗料を作製した。
【0032】
[比較例]
実施例1と同様にして得た原紙の両面に、下記顔料を含まない塗料をサイズプレスコーターにより乾燥後の片面当たり塗工量1.5g/mとなるよう塗工し、乾燥させて、比較例の情報用紙を作製した。
【0033】
酸化デンプ(商品名:MS#3800、日本食品化工社製)50kgを500kgの水に混合し、95℃以上に昇温することにより溶解し、然る後400kgの水を加えて冷却した後、スチレン系表面サイズ剤(商品名:ポリマロン385、固形分濃度25%、荒川化学工業社製)を40kg加え、最後に1000Lとなるように水で希釈して塗料を作製した。
【0034】
上記により作製した実施例1,2および比較例の情報用紙に対して、RI印刷試験機(明製作所製)を使用してインキ(商品名:ハイエコーM、東洋インキ社製)の供給量0.4mLにてオフセット印刷を行い、インキ着肉、モットリング、印刷光沢を目視にて三段階評価し、その結果を表1に示した。それぞれ、優れるまたは問題ないレベルを○とし、多少問題のあるレベルを△、問題があり使用できないレベルを×とした。
【0035】
【表1】

【0036】
顔料と接着剤量が特定の範囲内にある顔料層を有する実施例1,2については、カレンダー処理を施すことなしに顔料層への良好な印刷品質を得ることができたが、比較例については良好な印刷品質が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の情報用紙の断面図
【符号の説明】
【0038】
1:半導体チップ(Ultra−Thin and Ultra−smallチップ)
2:異方性導電接着フィルム
3:カバーメタル
4:ベースメタル
5:プラスチックフィルム製のスレッド
6:原紙
7:顔料層
8:インレット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ配線を備えた半導体チップをリーダーにて読取り可能なように抄き込んでなる原紙の少なくとも片面に、顔料層を設けたことを特徴とする情報用紙。
【請求項2】
上記顔料層が、顔料100重量部に対して接着剤を30〜100重量部含有することを特徴とする請求項1記載の情報用紙。
【請求項3】
多層抄きにより抄紙された紙層のうちの何れか一つの層間にアンテナ配線を備えた半導体チップがリーダーにて読取り可能なように抄き込まれた原紙の少なくとも片面に、顔料層を設けたことを特徴とする情報用紙。

【図1】
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【公開番号】特開2008−223174(P2008−223174A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63736(P2007−63736)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】