説明

感光性平版印刷版

【課題】経時保存性に優れ、かつ画質および細線再現性に優れる平版印刷版を提供する。
【解決手段】支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型平版印刷版において、下記一般式(I)または(II)で表される構造を有する重合開始剤を感光層に含むことを特徴とする感光性平版印刷版。
【化1】


(一般式(I)中、R1、R2、R3はアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよく、連結して環を形成していてもよい。)
【化2】


(一般式(II)中、Xはボランと錯体を形成可能な化合物を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版に関する。より詳しくは、デジタル信号に基づいてレーザー等の走査露光装置を用いて、画像形成可能な平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性組成物は、光反応によって分子構造が化学変化を起こし、その結果、物理現象(物性)に変化が生じる。この光の作用による化学変化としては、架橋・重合・分解・解重合・官能基変換などがあり、溶解度・接着性・屈折率・物質浸透性および相変化など多様である。このような感光性組成物は、印刷版、レジスト、塗料、コーティング剤、カラーフィルターなどの広い分野で実用化されている。さらに、写真製版技術(フォトリソグラフィ)を用いるフォトレジスト分野で活用され、発展してきた。フォトレジストは、光反応による溶解度の変化を利用したもので、高解像度の要求などからいっそうの精緻な材料設計が必要となっている。
【0003】
広く用いられているタイプの平板印刷版は、アルミニウムベース支持体に塗布された感光性塗膜を有する。この塗膜は、露光された塗膜部分は硬化し、露光されなかった塗膜部分は現像処理で溶出される。このような版をネガ型印刷版という。平版印刷は印刷版表面に形成されたパターンと背景部のそれぞれの親油性、親水性の表面物性を利用し、平版印刷においてインクと湿し水を同時に印刷機上で版面に供給する際に、インクが親油性表面を有するパターン上に選択的に転移することを利用するものである。パターン上に転移したインクはその後ブランケットと呼ばれる中間体に転写され、これから更に印刷用紙に転写することで印刷が行われる。
【0004】
上記した光反応による溶解度の変化を利用してレリーフ像を形成する感光性組成物は、従来から多くの研究が成されており、また実用化されている。その中でも、重合開始剤の使用によりラジカルを発生させて架橋反応を行いレリーフ像を形成する系では、反応が速やかに進行し露光部が不溶化することから、印刷版として利用する際には有利となる。
【0005】
上記重合開始剤の使用によりラジカルを発生させる系としては例えば、光熱変換物質、熱重合性樹脂及び熱重合開始剤を含有する熱重合性記録層を支持体上に有する記録媒体が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)しかしながら、重合開始剤として使用されるアゾビスニトリル系化合物、有機過酸化物では、感度等の安定性、長期保存性を確保するのが難しいという問題があった。また、耐刷性も満足のいくものではなかった。
【0006】
重合開始剤として、陽イオン染料とボレート陰イオンの錯体を含む感光組成物が開示されている。(例えば、特許文献2参照。)機構は明らかではないが、この錯体がエネルギーを吸収してラジカルを発生することにより、重合開始剤として機能する。この錯体を使用すると感度が高くなるが、経時保存性に問題があった。
【0007】
有機ホウ素塩とこれを増感する色素、および側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する重合体を感光層に含む平版印刷版が開示されている。(例えば、特許文献3参照。)これにより、感度が高く、耐刷性の改善した印刷版が得られるものの、経時保存性および画質には、なお課題を有していた。
【0008】
上記問題に対して、特定の構造を有する重合開始剤と、光熱変換剤と、重合性化合物を含有する重合性組成物が開示されている。(例えば、特許文献4参照。)しかしながら、得られる印刷版の画質に問題を有するものであった。
【特許文献1】特開平8−108621号公報
【特許文献2】特開昭62−143044号公報
【特許文献3】特開2001−290271号公報
【特許文献4】特開2004−102112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、経時保存性に優れ、かつ画質および細線再現性に優れる平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型平版印刷版において、下記一般式(I)または(II)で表される構造を有する重合開始剤を感光層に含む平版印刷版によって達成された。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(I)中、R1、R2、R3はアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよく、連結して環を形成していてもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式(II)中、Xはボランと錯体を形成することが可能な化合物を表す。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、経時保存性に優れ、かつ画質および微小画像の印刷再現性に優れる平版印刷版が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では下記一般式(I)または(II)で表される構造を有する重合開始剤を用いることが特徴である。これらの化合物を利用することにより、平版印刷版において保存性に優れ、かつ画質および微小画像の印刷再現性に優れたものを得ることができる。
【0017】
【化3】

【0018】
一般式(I)中、R1、R2、R3はアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよく、連結して環を形成していてもよい。
【0019】
一般式(I)で表される重合開始剤の例としては、トリエチルボラン、トリイソプロピルボラン、トリブチルボラン、トリ−sec−ブチルボラン、トリイソブチルボラン、トリペンチルボラン、トリヘキシルボラン、トリオクチルボラン、トリデシルボラン、トリドデシルボラン、トリシクロペンチルボラン、トリシクロヘキシルボラン、ブトキシジブチルボラン、ジエチルメトキシボラン、ブチルジシクロヘキシルボラン、トリイソアミルボラン、S−アルピンボラン、R−アルピンボランなどをあげることができる。
【0020】
【化4】

【0021】
一般式(II)中、Xはボランと錯体を形成することが可能な化合物を表す。
【0022】
一般式(II)中、Xで表される化合物の例としては、ジエチルアミン、ジブチルアミン、イソブチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、エタノールアミン、メチルスルフィド、ジエチルスルフィドなどをあげることができる。
【0023】
一般式(I)の中では、S−アルピンボラン、ジエチルメトキシボラン、R−アルピンボラン、一般式(II)の中では、ボラン−ジメチルスルフィド錯体、ボラン−N,N−ジエチルアニリン錯体、ボラン−ピリジン錯体、からなる群より選択される1つ以上の化合物を使用することが好ましい。これらを以下に示す。
【0024】
【化5】

【0025】
上述した重合開始剤の中でも、S−アルピンボラン、ジエチルメトキシボラン、R−アルピンボランが特に経時保存性が優れることから、より好ましいものとして挙げられる。
【0026】
上述した重合開始剤の含有量は、感光層の乾燥固形分の量に対して1質量%から50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0027】
本発明に係わる感光層には重合体を含有することが好ましい。重合体としては、特に側鎖に重合性二重結合を有する重合体が好ましく用いることが出来る。側鎖に重合性二重結合を有する重合体としては、特開昭51−37193号、特公平2−32293号、特公平2−16765号、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号、特開2001−290271号および特開2006−111860号の各公報中に記載のもの等があげられる。
【0028】
特に好ましい重合体として、ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有する重合体があげられる。ビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有する重合体を使用した場合、発生するラジカルにより生成するスチリルラジカル同士の再結合により効果的に架橋を行うため、高感度で加熱処理を必要とせずに高い耐刷性を有するネガ型感光材料を作製することができる。重合性二重結合としてビニル基が置換したフェニル基を側鎖に有する重合体とは、更に詳細には、下記で表される基を側鎖に有するものである。
【0029】
【化6】

【0030】
式中、Z1は連結基を表し、R11、R12、及びR13は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R14は置換可能な基または原子を表す。nは0〜1を表し、m1は0〜4の整数を表し、k1は1〜4の整数を表す。
【0031】
化6について更に詳細に説明する。連結基Z1は、複素環を含むものが好ましく、他の基や原子、例えば酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R15)−、−C(O)−O−、−C(R16)=N−、−C(O)−、スルホニル基、及び下記構造等が単独もしくは2以上が複合した状態で含まれていても良い。ここでR15及びR16は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0032】
【化7】

【0033】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。化6で表される基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
上記で表される基の中には好ましいものが存在する。即ち、R11及びR12が水素原子でR13が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。k1は1または2であるものが好ましい。
【0037】
重合体は、アルカリ性水溶液に可溶性を有することが好ましく、そのためにカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含む重合体であることが特に好ましい。この場合、共重合体中に於けるカルボキシル基含有モノマーの割合は5質量%以上99質量%以下であることが好ましく、これ以下の割合では共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合があり、これ以上であると重合体中の重合性二重結合の割合が低くなり、重合体導入の効果が認められない場合がある。
【0038】
上記のカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−カルボキシエチルエステル、メタクリル酸−2−カルボキシエチルエステル、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン等のような例が挙げられる。
【0039】
カルボキシル基を有するモノマー以外にも共重合体中に他のモノマー成分を導入して多元共重合体として合成、使用することも好ましく行うことが出来る。こうした場合に共重合体中に組み込むことが出来るモノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル或いはアルキルアリールエステル類、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有するメタクリル酸エステル類、メタクリル酸−2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有メタクリル酸エステル類、或いはアクリル酸エステルとしてこれら対応するメタクリル酸エステルと同様の例、或いは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、或いは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、或いは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、或いは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、或いはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することが出来る。これらのモノマーの共重合体中に占める割合としては、先に述べた共重合体組成中におけるカルボキシル基含有モノマーの好ましい割合が保たれている限りに於いて任意の割合で導入することが出来る。
【0040】
上記のような重合体の分子量については好ましい範囲が存在し、重量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、さらに1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0041】
本発明に係わる重合体の例を下記に示す。式中、数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0042】
【化10】

【0043】
本発明の平版印刷版は、380〜1100nmの波長領域のレーザー光を用いた走査露光に対して極めて好適に用いられる。このような波長域のレーザーに増感するために用いられる増感色素としてはシアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号、米国特許第4,508,811号、同5,227,227号の各明細書に記載の化合物も用いることができる。増感色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0044】
【化11】

【0045】
【化12】

【0046】
【化13】

【0047】
【化14】

【0048】
上記で例示した増感色素の含有量は、感光層1m2当たり3〜300mg程度が適当である。好ましくは10〜200mg/m2である。
【0049】
本発明の平版印刷版は、分子内に2個以上の重合性二重結合を有する多官能重合性モノマーもしくはオリゴマーの重合性化合物を含有するのが好ましい。かかる重合性化合物の分子量は1万以下で、好ましくは5000以下である。該化合物としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基が置換したフェニル基等の重合性二重結合を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0050】
重合性二重結合としてアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ピロガロールトリアクリレート等が挙げられる。
【0051】
特に好ましい重合性化合物として、分子内にビニル基が置換したフェニル基を2個以上有する重合性化合物が挙げられる。分子内にビニル基が置換したフェニル基を2個以上有する重合性化合物を使用した場合、発生するラジカルにより生成するスチリルラジカル同士の再結合により効果的に架橋を行うため、高感度で加熱処理を必要せずに高い耐刷性を有するネガ型感光材料を作製することができる。重合性二重結合としてビニル基が置換したフェニル基を有する化合物は、代表的には下記一般式で表される。
【0052】
【化15】

【0053】
式中、Zは連結基を表し、R21、R22は水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等を表す。R23は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R24は置換可能な基または原子を表す。m2は0〜4の整数を表し、k2は2以上の整数を表す。m2が2以上の場合、R24はそれぞれ同じでも異なっていても良い。
【0054】
上記一般式について更に詳細に説明する。Zの連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R25)−、−C(O)−O−、−C(R26)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR25及びR26は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0055】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0056】
以下に具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0057】
【化16】

【0058】
上記した重合性化合物の添加量は、側鎖に重合性二重結合を有する重合体1質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で含まれることが好ましく、さらに0.05質量部から1質量部の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0059】
本発明の平版印刷版には、重合促進剤として、アミンやチオール、ジスルフィド等に代表される重合促進剤や連鎖移動触媒等を加えることができる。具体例としては、例えば、N−フェニルグリシン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルアニリン等のアミン類、米国特許第4,414,312号明細書や特開昭64−13144号公報記載のチオール類、特開平2−29161号公報記載のジスルフィド類、米国特許第3,558,322号明細書や特開昭64−17048号公報記載のチオン類、特開平2−291560号公報記載のo−アシルチオヒドロキサメートやN−アルコキシピリジンチオン類が挙げられる。重合促進剤の添加量は、好ましくは重合層全固形分の0.1〜5質量%である。この範囲より少なすぎると効果が期待できない。また多すぎると重合層の膜質を劣化させやすくなる。
【0060】
本発明の平版印刷版は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加することも好ましく行われる。特に、スチリル基の熱重合あるいは熱架橋を防止し長期にわたる保存性を向上させる目的で種々の重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。この場合の重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物等が好ましく使用され、特にハイドロキノンが好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、側鎖に重合性二重結合を有する重合体100質量部に対して0.1質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0061】
平版印刷版を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0062】
平版印刷版材料として使用する場合の感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.5μmから10μmの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、さらに1μmから5μmの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は上述の3つの要素を混合した溶液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。支持体については、例えばフィルムやポリエチレン被覆紙を使用しても良いが、より好ましい支持体は、研磨され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板である。
【0063】
上記のようにして支持体上に形成された感光層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することでアルカリ性現像液に対する溶解性が低下することから、後述するアルカリ性現像液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0064】
アルカリ性現像液としては、本発明に係わる感光層を溶解する液で有れば特に制限は無いが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアンモニウムハイドロキサイド等のようなアルカリ性化合物を溶解した水性現像液が良好に未露光部を選択的に溶解し、下方の支持体表面を露出出来るため極めて好ましい。さらには、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類をアルカリ性現像液中に添加することも好ましく行われる。こうしたアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアゴム等を使用して通常のガム引きを行うことが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、効果はもとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例)
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板を使用して、この上に下記の処方で示される感光性塗工液を乾燥厚みが2.0μmになるよう塗布を行い、75℃の乾燥器内にて6分間乾燥を行った。
<感光性塗工液>
重合体 (P−3) 12質量部
重合開始剤(表1) 1質量部
重合性化合物(C−5) 3質量部
増感色素(S−1) 0.5質量部
ジオキサン 70質量部
シクロヘキサン 20質量部
【0067】
上記感光性塗工液の重合開始剤の種類を表1のように変化して、各種印刷版を作製した。評価には、作製直後および、35℃80%RH環境下で1ヶ月保存したものを使用した。
【0068】
830nm半導体レーザーを搭載した外面ドラム方式プレートセッター、大日本スクリーン製造株式会社製PT−R4000を使用して、ドラム回転速度1000rpm解像度2400dpi、レーザー照射エネルギー100mJ/cm2の条件で、作製したサンプルに50%平網露光を行った。露光後に自動現像機として大日本スクリーン製造株式会社製PS版用自動現像機PD−1310を使用し、現像液で現像を行った。現像液は、下記組成のものを使用した。
<現像液>
水酸化カリウム 20g
珪酸カリウム 20g
ペレックスNBL (芳香族アニオン界面活性剤、花王社製)
60g
水 1L
【0069】
上記のようにして作製した平版印刷版について画質および細線再現性を評価した。再現性画質は、50%の網点画像を200枚印刷した後にその印刷物の網点面積を測定し評価した。細線再現性は、200枚目の印刷物の細線チャート(10、12、14、16、18、20、25、30、35、40、60、80、100および200μmの細線を露光したチャート)を25倍のルーペで観察し、途切れることなくインキで再現された細線幅により、細線再現性を評価した。数値が低いほど細線再現性に優れることを表す。印刷機はハイデルベルグTOK(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)、インキはFINE INKニューチャンピオン紫S(大日本インキ化学工業(株)社製)、湿し水はEu−3(富士写真フィルム(株)社製のPS版用湿し水)の0.5%水溶液を使用した。評価した結果を表1に示した。
【0070】
(比較例)
重合開始剤を表2のように変化した以外は実施例と同様に各種印刷版を作製し、実施例と同様に評価した。結果を表2に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【化17】

【0074】
表1および2の結果から明らかなように、本発明により、経時保存性に優れ、かつ画質および細線再現性に優れた平版印刷版が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の活用例として、平版印刷の刷版として利用することが挙げられる。経時保存性に優れ、かつ画質および細線再現性に優れることから、取り扱いやすく、多くの印刷物に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型平版印刷版において、下記一般式(I)または(II)で表される構造を有する重合開始剤を感光層に含むことを特徴とする感光性平版印刷版。
【化1】

(一般式(I)中、R1、R2、R3はアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基を表し、それぞれ同じでも異なっていてもよく、連結して環を形成していてもよい。)
【化2】

(一般式(II)中、Xはボランと錯体を形成可能な化合物を表す。)
【請求項2】
感光層に側鎖に重合性二重結合を有する重合体及び、380〜1100nmの波長領域に吸収を有する増感剤を含む請求項1に記載の感光性平版印刷版。
【請求項3】
一般式(I)または(II)で表される化合物がS−アルピンボラン、ジエチルメトキシボラン、R−アルピンボラン、ボラン−メチルスルフィド錯体、ボラン−N,N−ジエチルアニリン錯体およびボラン−ピリジン錯体である化合物からなる群より選択される1つ以上の化合物を感光層に含むことを特徴とする請求項1または2に記載の感光性平版印刷版。

【公開番号】特開2008−26358(P2008−26358A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195356(P2006−195356)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】