説明

慣性駆動アクチュエータ

【課題】移動ストロークを最大限活用しながら、位置検出の精度の良い、小型の慣性駆動アクチュエータを提供する。
【解決手段】固定部材1と、振動基板3と、移動手段2と、導電体からなる移動体4と、移動体4と対向する振動基板3の面に設けられた電極31、32と、移動体4と電極との間に介在する絶縁膜310と、移動手段2を往復運動させるための電圧を印加するとともに、移動体4と電極との間に静電気力を作用させることにより振動基板3と移動体4との間に生じる摩擦力を制御するための電圧を印加する駆動手段と、移動体4と電極31、32の対向部分の静電容量に基づいて振動基板3に対する移動体4の位置を検出する位置検出手段7と、移動体4側面の移動方向に対して設置され、移動体4側面と電極31、32との静電容量の影響を遮断する静電遮断手段6とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の慣性駆動アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の慣性駆動アクチュエータの構成を説明する図である。電気機械変換素子、例えば圧電素子2に、緩やかな立ち上り部とこれに続く急速な立ち下り部からなる波形の駆動パルスを印加する。駆動パルスの緩やかな立ち上り部では、圧電素子2が緩やかに厚み方向に伸び変位を生じ、急速な立ち下り部では、急速な縮み変位を生じる。そこで、この特性を利用し、圧電素子2に上記したような波形の駆動パルスを印加して異なる速度で充放電を繰り返す。圧電素子2の厚み方向に速度の異なる振動を発生させ、圧電素子2に固着された駆動部材13を異なる速度で往復移動させ、駆動部材13に摩擦結合した移動部材14を所定の方向に移動させる慣性駆動アクチエータが知られている。
【0003】
図5に示す慣性駆動アクチュエータは、固定部材1に駆動部材13と並行して検出電極15が設置されたものである。検出電極15および移動部材14は導電体で構成される。検出電極15および移動部材14が、それぞれ接触しないように距離を置いて配置されることによって、移動部材14と検出電極15との対向する部分に静電容量が生じる。この静電容量を検出し、移動部材14の位置を検出する。
【0004】
検出電極15には、凹凸が形成され、凸部と移動部材14とが対向する場合、凹部と移動部材14とが対向する場合とで検出される静電容量値が変化する。従来の慣性駆動アクチュエータでは、検出電極15の凸凹の何個目であるか、何個目のどこにいるのかなど、この変化する静電容量値によって移動部材14の位置判定をしている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−185406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクチュエータ装置の小型化に伴い、限られたスペースの中で最大限の移動ストロークを得る必要がある。そのためにはアクチュエータの移動ストロークを駆動部材13および検出電極15の一方の端から他方の端まで使用することになる。
移動部材14の位置検出をする際には、移動部材14と検出電極15との対向する部分のみの静電容量Aを検出することが望ましい。しかしながら、従来の慣性駆動アクチュエータの構成では、フリンジング現象により、移動部材14の側面と検出電極15との間にも静電容量B、Cが発生する。
【0007】
この静電容量B、Cは、移動部材14が検出電極15の端に移動すると生じない。例えば、移動部材14が図中右端にある場合には、静電容量Cは生じない。このように、従来の慣性駆動アクチュエータでは、位置検出の静電容量値に与えるフリンジング現象の影響が場所によって異なり、移動部材14の精度の良い位置検出が出来なくなる問題が出てくる。
この問題に対しては、検出電極15を延ばす構成により解決するこができる。しかし、それでは装置が大型化し、小型の精度の良い慣性駆動アクチュエータができないという問題が起きている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、移動ストロークを最大限活用しながら、位置検出の精度の良い、小型の慣性駆動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、固定部材と、固定部材上に配置された振動基板と、固定部材に対して振動基板を往復移動させる移動手段と、振動基板上に配置され、振動基板の往復移動に対して慣性により振動基板に対して移動する導電体からなる移動体と、移動体と対向する振動基板の面に設けられた電極と、移動体と電極との間に介在する絶縁膜と、移動手段を往復運動させるための電圧を印加するとともに、移動体と電極との間に静電気力を作用させることにより振動基板と移動体との間に生じる摩擦力を制御するための電圧を印加する駆動手段と、移動体と電極の対向部分の静電容量に基づいて振動基板に対する移動体の位置を検出する位置検出手段と、移動体側面の移動方向に対して設置され、前記移動体側面と前記電極との静電容量の影響を遮断する静電遮断手段とを備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の好ましい態様にあっては、静電遮断手段は金属膜であり、移動体側面に絶縁膜を介して設置されるとともに金属膜はGNDに設置されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる慣性駆動アクチュエータは、移動体側面と電極との静電容量の影響を遮断することができる。移動ストロークにおける移動体の位置に関わらず、同じ精度の位置検出情報が得られるので、移動ストロークを最大限活用することができる。したがって、位置検出の精度の良い、小型の慣性駆動アクチュエータを提供するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる慣性駆動アクチュエータの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明にかかる慣性駆動アクチュエータの実施例の平面図および側面図を示す図である。
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。圧電素子2の一方端は固定部材1に固定され、他方端は振動基板3の一方端に固定されている。振動基板3上には圧電素子2の振動方向に移動可能な移動体4が配置されている。
【0014】
振動基板3、移動体4は、振動基板3上の電極31、32と、電極31、32上に形成された絶縁膜310とを介して互いに対向して接触している。電極31、32は、移動体4の移動範囲において常に移動体4の底面と対向する部分を有している。なお、移動体4には位置検出手段7の信号発生回路72が接続される。また、電極31、32には位置検出手段7の信号検出回路71が接続される。
【0015】
移動体4と電極31、32との間には、摩擦力制御手段60によって電位差を与え、その間に静電気力が作用するよう構成される。振動基板3の移動体4が配置されている反対側には、永久磁石5が振動基板3の振動方向に延在して配置されている。移動体4には磁性を有する材料を用いており、永久磁石5と移動体4との間には磁気吸着力が働くようになっている。このため、移動体4と電極31、32との間の印加電圧を止めた場合には、移動体4は永久磁石5によってその位置に保持される構成である。
【0016】
図2に本アクチュエータの駆動波形を示す。同図は移動体4を左に移動させる波形である。図を用いて駆動原理を説明する。図中S1〜S7は、第1図のS1〜S7の信号に対応する。
【0017】
図2の信号S1に示されたPからQまでの間で圧電素子2への印加波形は急峻に立ち上がっており、圧電素子2が急激に左へ変位する。これに伴い振動基板3も急激に左へ移動する。このとき移動体4への印加電圧S2と電極31、32への印加電圧S3には電位差が生じている。このため静電吸着力が振動基板3と移動体4との間に作用し摩擦力が増大する。従って、振動基板3の変位とともに移動体4も左へ移動する。
【0018】
次に図中のRからSの間では逆に圧電素子2への印加波形は急激に立ち下がる。これに応じて圧電素子2が急激に縮み右へ変位するとともに、振動基板3も急激に右へと移動する。このとき移動体4への印加電圧S2と電極31、32への印加電圧S3は同電圧であるため、電極間には静電吸着力が発生しない。従って、移動体4の慣性の力が、振動基板3との間の摩擦力に打ち勝ち、移動体4はその位置にとどまろうとする。これを繰り返すことにより移動体4が振動基板3に対して左へ移動する。
移動体4を右方向へ移動させる場合には、圧電素子2を急激に縮める際に電極間へ電位差を与えればよい。以上が本アクチュエータの基本的な駆動原理である。
【0019】
移動体4の位置検出も移動体4と電極31、32とを用いて行う。電極31、32は位置検出機能を備えており、移動体4と電極31、32とのそれぞれが対向する部分をコンデンサとする静電容量を検出することによって行う。
移動体4が移動したとき、移動体4の位置によって移動体4と電極31との対向する部分の面積および移動体4と電極32との対向する部分の面積が変化する。このため静電容量もその面積に応じて変化する。これを検出することによって移動体4の位置を検出することができる。
【0020】
図5に示すようなフリンジング現象を生じさせないために、シールド部材6を移動体4の移動方向に設けている。ここで、シールド部材6は、静電遮断手段に相当する。シールド部材6を設けることにより、移動体4の側面と電極31、32に生じるフリンジング現象の発生を防ぎ、移動体4の底面と電極31、32とが対向する部分のみの静電容量を検出することができる。したがって、振動基板3の端まで移動体4を移動させても移動体4の正確な位置検出が可能になるため、限られたスペースにおいてもアクチュエータの移動ストロークを最大限利用できる。
【0021】
図3は、移動体4を拡大して示したものである。シールド部材6は、移動体4との間に絶縁膜410を介して取り付けられている。シールド部材6の電位は、GNDに設置されることにより、移動体4の側面と電極31、32との間の静電容量を遮断している。従って、移動体4の位置がどの位置であっても移動体4の底面とそれに対応する電極31、32部分の面積に対応する容量のみを検出できるため、移動体4の検出される位置精度が向上する。シールド部材6の絶縁膜410および金属膜はスパッタ等により生成させることにより移動体4を小型化できる。
【0022】
本実施例では、図4に示すようにアクチュエータの電源投入時に、線形性を得るために移動体4が端に行った時の非線形な特性(点線)に対して多項式近似などをするソフト的な処理を施すことによって線形性(実線)を確保する。この場合、位置検出手段7で得た位置情報とこれに対応する静電容量値の情報とをあらかじめ数点測定しておき、そのデータをメモリに格納し、非線形の補正に用いる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上のように、本発明にかかる慣性駆動アクチュエータは、移動体と検出電極とが導電体で構成され、静電容量で移動体の位置検出を行う小型の慣性駆動アクチュエータに有用であり、特に、限られたスペースの中で精度の高い位置制御が望まれる慣性駆動アクチュエータに適している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明実施例の平面図および側面図を示す図である。
【図2】本発明の駆動検出波形を説明する図である。
【図3】移動体を拡大した図である。
【図4】補正の一例を示した図である。
【図5】従来の慣性駆動アクチュエータの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1 固定部材
2 圧電素子
3 振動基盤
4 移動体
5 永久磁石
6 シールド部材
7 位置検出手段
13 駆動部材
14 移動部材
15 検出電極
31、32 電極
60 摩擦力制御回路
71 位置検出回路
72 信号検出回路
310、410 絶縁膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、
前記固定部材上に配置された振動基板と、
前記固定部材に対して前記振動基板を往復移動させる移動手段と、
前記振動基板上に配置され、前記振動基板の往復移動に対して慣性により前記振動基
板に対して移動する導電体からなる移動体と、
前記移動体と対向する前記振動基板の面に設けられた電極と、
前記移動体と前記電極との間に介在する絶縁膜と、
前記移動手段を往復運動させるための電圧を印加するとともに、前記移動体と前記電極との間に静電気力を作用させることにより前記振動基板と前記移動体との間に生じる摩擦力を制御するための電圧を印加する駆動手段と、
前記移動体と前記電極の対向部分の静電容量に基づいて前記振動基板に対する前記移動体の位置を検出する位置検出手段と、
前記移動体側面の移動方向に対して設置され、前記移動体側面と前記電極との静電容量の影響を遮断する静電遮断手段とを備えていることを特徴とする慣性駆動アクチュエータ。
【請求項2】
前記静電遮断手段は金属膜であり、前記移動体側面に絶縁膜を介して設置されるとともに前記金属膜はGNDに設置されていることを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−189132(P2009−189132A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25462(P2008−25462)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】