説明

成形品製造方法、鍛造用金型、成形品、および鍛造生産システム

【課題】 外観検査での不良品を低減し、生産上の歩留まりを向上させることができるようにする。
【解決手段】 この発明は、筒状または柱状の中央部92と、その中央部92から連続し平面視で中央部より径が大きい拡径部とを少なくとも備える成形品を素形材90から製造する成形品製造方法において、素形材90を、上金型2と下金型3とで囲まれる成形孔4内にセットしたときに、素形材90のうち、成形後に中央部となる中央部位920が下金型3に当接し、成形後に拡径部となる拡径部位910と下金型3との間には押し出し方向で所定の隙間L1が形成されるようにし、そのセット状態から上金型で素形材90を押し出して成形品を製造する工程が含まれる、ことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状または柱状の中央部と、その中央部から連続し平面視で中央部より径が大きい拡径部とを少なくとも備える成形品を素形材から製造する成形品製造方法、成形品を鍛造する際に用いる鍛造用金型、成形品、および鍛造生産システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鍛造は機械部品等を製造する塑性加工方法の一つである。鍛造とは、鍛造装置内に上下対となる金型を配設し、該金型内に素形材を配置し上金型を移動させ素形材に荷重を加えることにより素形材を成形し成形品を製造するものである。
【0003】
鍛造による生産は、鍛造装置への素形材の投入から、鍛造装置からの成形品の排出までを自動化した連続生産が一般的である。この連続生産は、例えば、図に示すように、成形に用いる金型内に素形材105を投入し(図17(a))、加圧成形し(図17(b))、成形後上金型102を上昇させ、ダイス133内に残された、成形された成形品をノックアウトピンによりダイス133の上方に持上げ(図17(c))、搬出装置によって鍛造装置外に持ち出す工程となる。
【0004】
成形品105が複雑な形状を有する場合は、1回の成形では最終形状を得ることが困難であるため、上記工程を複数回繰り返して最終形状に成形する方法が用いられている。
【0005】
そして、この鍛造による成形は、例えば図18に示すような、筒状または柱状の中央部201と、その中央部201から連続し平面視で中央部より径が大きい拡径部202とを備える成形品200を製造する場合にも、一般的に適用されている。
【0006】
しかし、上記形状の成形品200を製造する場合、従来工法では、拡径部(フランジ部)202に「寄りシワ」が発生していた。寄りシワとは、図18に示すように、素材が流動した結果、表面層に凸凹が発生したものであり、例えば、成形過程でフランジ輪郭形状の側面とカドの稜線部位が重なってしまい、凸凹となってしまう。この寄りシワは、裸眼による外観検査で確認される。
【0007】
寄りシワの発生メカニズムは以下のように推定される。従来の工法では、素形材105を成型孔にセットしたとき、素形材105の拡径部位と下金型とが接しており、成形を開始し素形材105がパンチで押し込まれると、図19(a)に示すように、拡径部位の下部G1側が速く流動し、拡径部位が下金型の側壁に到達する頃には、図19(b)に示すように、拡径部位に「まくれM」部分が発生してしまう。その状態で成形が進行すると「寄りシワ」が発生することになる。
【0008】
寄りシワは、成形表面が鍛造品内部に折れ込み状となっているので、フランジ部において発生すると、密閉性悪化や締め付けの強度不足、亀裂発生の起因となる。このため、不良品として扱われ、生産上の歩留まりを悪化させていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は上記に鑑み提案されたもので、外観検査での不良品を低減し、生産上の歩留まりを向上させることができる成形品製造方法、その成形品を鍛造する際に用いる鍛造用金型、成形品、および鍛造生産システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1)上記目的を達成するために、第1の発明は、筒状または柱状の中央部と、その中央部から連続し平面視で中央部より径が大きい拡径部とを少なくとも備える成形品を素形材から製造する成形品製造方法において、上記素形材を、上金型と下金型とで囲まれる成形孔内にセットしたときに、素形材のうち、成形後に中央部となる中央部位が下金型に当接し、成形後に拡径部となる拡径部位と下金型との間には押し出し方向で所定の隙間が形成されるようにし、そのセット状態から上金型で素形材を押し出して成形品を製造する工程が含まれる、ことを特徴としている。
【0011】
2)第2の発明は、上記した1)項に記載の発明の構成に加えて、上記所定の隙間は2mm以上で6mm以下である、ことを特徴としている。
【0012】
3)第3の発明は、上記した1)項または2)項に記載の発明の構成に加えて、上記素形材は、拡径部位と中央部位とのコーナ部に曲面を有し、その曲面の半径が、上記所定の隙間と略同一である、ことを特徴としている。
【0013】
4)第4の発明は、上記した1)項から3)項の何れかに記載の発明の構成に加えて、上記素形材は、鋳物成形、鍛造成形、機械加工成形、押出し成形の何れか、またはそれらの組み合わせからなる前工程で予め成形される、ことを特徴としている。
【0014】
5)第5の発明は、上記した1)項から4)項の何れかに記載の発明の構成に加えて、上記成形孔の周壁に予め、黒鉛と鉱物油の混合物である油性潤滑剤を塗布する、ことを特徴としている。
【0015】
6)第6の発明は、上記した1)項から5)項の何れかに記載の発明の構成に加えて、上記下金型の温度は100〜350℃に、成形孔にセットする時の素形材の温度は300〜550℃にそれぞれ保持される、ことを特徴としている。
【0016】
7)第7の発明は、上記した1)項から6)項の何れかに記載の発明の構成に加えて、上記素形材の材質は、Siが10.0〜11.5質量%、Feが0.5以下質量%、Cuが2.0〜3.0質量%、Mnが0.10以下質量%、Mgが0.2〜0.5質量%、Crが0.10以下質量%、Znが0.10以下質量%、Tiが0.10以下質量%、残部がAlであるアルミニウム合金である、ことを特徴としている。
【0017】
8)第8の発明は、上記した1)項から7)項の何れかに記載の発明の構成に加えて、上記素形材はボンデ処理(リン酸塩皮膜処理)がされた後、成形孔にセットされる、ことを特徴としている。
【0018】
9)第9の発明は、上記した1)項から8)項の何れかに記載の発明の構成に加えて、上記成形品の中央部は複数段に形成され、上記下金型は、中央部の押し出し方向先端の段である前方先端部位を成形する成形孔の深さ方向に、上下移動可能な背圧付与用金型を備え、上記背圧付与用金型は、前方先端部位を成形する成形孔の深さ方向であってその前方先端部位の形成が開始される開始位置より所定距離だけ下方で、押し出されてくる前方先端部位の前方先端面を待機し、その前方先端面が到達した後は前方先端面を下方から押圧し、所定初期値を持つ背圧を付与しつつその面を形成する、ことを特徴としている。
【0019】
10)第10の発明は、上記した9)項に記載の発明の構成に加えて、上記背圧付与用金型はガスクッション、油圧クッション、水圧クッション、バネクッションの何れか、またはその組み合わせからなる背圧付与手段によって前方先端面を下方から押圧し背圧を付与する、ことを特徴としている。
【0020】
11)第11の発明は、上記した10)項に記載の発明の構成に加えて、上記背圧付与手段は、前方先端面が背圧付与用金型に接触した時点で初期値として35〜55N/mm2の背圧を前方先端面に付与し、その後押し出しとともに背圧を漸増させ、押し出し完了時点で最終値として45〜65N/mm2の背圧を前方先端面に付与する、ことを特徴としている。
【0021】
12)第12の発明は、上記した11)項に記載の発明の構成に加えて、上記上金型による素形材の押し出し完了時点での荷重を、2400〜3500kNとする、ことを特徴としている。
【0022】
13)第13の発明は、成形品を製造する前工程として原素形材から鍛造により素形材を製造する前工程鍛造用金型と、上記素形材から、筒状または柱状の中央部と、その中央部から連続し平面視で中央部より径が大きい拡径部とを少なくとも備える成形品を鍛造製造する後工程鍛造用金型と、のセットからなる鍛造用金型において、上記前工程鍛造用金型および後工程鍛造用金型は、成形後に成形品の中央部となる中央部位を押し出し方向前方で受け止めるカウンターピンと、成形後に成形品の拡径部となる拡径部位を押し出し方向前方で受け止める拡径部対応下金型とをそれぞれ有し、前工程鍛造用金型のカウンターピンの上面は、後工程鍛造用金型のカウンターピンの上面より所定の隙間分だけ拡径部対応下金型の上面に対して下方に位置するように設定されている、ことを特徴としている。
【0023】
14)第14の発明は、上記した13)項に記載の発明の構成に加えて、上記前工程鍛造用金型は、拡径部位と中央部位とのコーナ部に対応する部位に上記所定の隙間分と略同一の半径の曲面を設けてある、ことを特徴としている。
【0024】
15)第15の発明は、上記した1)項から12)項の何れかに記載の成形品製造方法で製造された成形品である、ことを特徴としている。
【0025】
16)第16の発明は、上記した15)項に発明の構成に加えて、拡径部での断面の鍛流線が外郭輪郭線に沿っている、ことを特徴としている。
【0026】
17)第17の発明は、上記した13)項に記載された鍛造用金型を有する鍛造機械を含めて構成した鍛造生産システムである、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
この発明では、素形材を、上金型と下金型とで囲まれる成形孔内にセットしたときに、素形材のうち、中央部位を下金型に当接させるとともに、拡径部位と下金型との間に押し出し方向で所定の隙間を形成し、そのセット状態から上金型で素形材を押し出して成形品を製造するようにしたので、素形材は横に張り出す前にまず前方に押出されることになり、その前方押出し部位が先に成形される(開始する)。その結果、成形の初期において素形材を前方に押して成形し、その後拡径部位の横方向と前方に分流して素材が流動する。このため、横方向に張り出した拡径部位において下部側が速く流動するのを抑えることができ、拡径部位の下部側と上部側における各横方向の流れがほぼ同速度となる。したがって、寄りシワの発生を抑えることができ、不良品を低減し、生産上の歩留まりを向上させることができる。
【0028】
また、拡径部位と下金型との間に押し出し方向に形成する所定の隙間を2mm以上で6mm以下としたので、隙間が狭すぎて、拡径部位下部側の横方向への素材流動が速くなりすぎたり、逆に隙間が大きすぎて拡径部位上部側の横方向への素材流動が速くなり、その隙間から素材が横に広がり打込み(折り込み)が発生してしまうようなことを適切に防止することができる。
【0029】
また、素形材の拡径部位と中央部位とのコーナ部に設けた曲面の半径Rを、押し出し方向に形成する所定の隙間と略同一となるようにしたので、コーナ部から前方向と横方向に分流する素材が、円滑にかつバランス良く流れるようになり、それによって、拡径部位の下部側と上部側における各横方向の流れもほぼ同速度で流れるようになり、より一層寄りシワの発生を抑えることができ、不良品を低減し、生産上の歩留まりを向上させることができる。
【0030】
また、成形孔の周壁に予め、黒鉛と鉱物油の混合物である油性潤滑剤を塗布するので、潤滑効果を高めることができ、また、金型温度の低下も防止することができる。
【0031】
さらに、下金型の温度を100〜350℃に、成形孔にセットする時の素形材の温度を300〜550℃にそれぞれ保持するので、十分な塑性流動と、安定した潤滑剤塗布状態を維持することができる。
【0032】
また、この発明では背圧付与用金型が、中央部の押し出し方向先端の段である前方先端部位を成形する成形孔の深さ方向であってその前方先端部位の形成が開始される開始位置より所定距離だけ下方で、押し出されてくる素形材を待機し、上金型による素形材の押し出しにより押し出されてくる前方先端部位の前方先端面が背圧付与用金型に接触した時点から、背圧付与用金型は前方先端面を下方から押圧し所定初期値以上の背圧を付与しつつその面を形成するようにしたので、前方先端部位における素形材のフローが、前方先端部位のツノ状部分(鋭角部位)と中央の部位とで差がなくなり、均一化し、その部位間に発生する引っ張り力が小さくなる。
【0033】
また形状が複雑で、例えば、成形時に3段状態に素材がフローするような場合、肉厚が薄くなり一番成形の困難な形状を有する部位が最後に成形されることになり、その結果、最後に成形される時点では素形材の温度が低下してしまうが、背圧付与用金型で前方先端面を下方から押圧し所定初期値以上の背圧を付与するようにしたので、前方先端部位に適度な蓄熱が行われて素形材の温度を適正に維持することができ、したがって、素形材の塑性流動性を維持することができる。
【0034】
また、この発明では、背圧付与用金型が、前方先端部位を成形する成形孔の深さ方向であってその前方先端部位の形成が開始される開始位置より所定距離だけ下方で、押し出されてくる素形材を待機するようにしたので、前方先端部位の成形孔周壁に潤滑剤を予め塗布しておいて、その状態で素形材の押し出しを待機でき、したがって、潤滑剤を十分に供給でき、成形孔と前方先端部位の素形材との間の摩擦が緩和されて素形材の流れが改善され、その結果前方先端部位における素形材のフローが鋭角部位と中央の部位とで差がなくなり、均一化し、その部位間に発生する引っ張り力が小さくなる。
【0035】
そして、上記のように、前方先端部位において、素形材のフローを均一化でき、また素形材の塑性流動性を維持できるので、1回の鍛造工程で製造することができ、それによって生産性を向上することができ、また割れ、亀裂、ダレ等の成形不良も確実に防止することができ、外観検査不良品を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下にこの発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0037】
図1および図2はこの発明方法で製造する成形品の一例を示す図である。図1、図2に示すように、この発明方法で製造する成形品9は、筒状または柱状の中央部92と、その中央部92から連続し平面視で中央部92より径が大きい拡径部(フランジ部)91とを少なくとも備えている。なお、中央部92は、図示の例では、さらに上段92aと下段92bの2段から構成されている。
【0038】
図3、図4および図5はこの発明の成形品製造方法の説明図である。図3は図1の成形品を製造する場合を模式的に示している。図4は図2の成形品を製造する場合を模式的に示している。また、図5は図4の改良形で、素形材の中央部位の横方向張り出しを吸収する隙間L5を設けたものの例で、ここではさらに素材ずれが発生しないように底部に段Hを設けている。
【0039】
これらの図において、素形材90は、成形後に成形品9となる素材であり、成形後に中央部となる中央部位920と、成形後に拡径部となる拡径部位910とを備えている。そして、この発明の成形品製造方法は、この素形材90を、上金型(図示省略)と下金型3とで囲まれる成形孔4内にセットしたときに、素形材90のうち、中央部位920が下金型3に当接し、拡径部位910と下金型3との間には押し出し方向で所定の隙間L1が形成されるようにし、そのセット状態から上金型で素形材を押し出して成形品9を製造するようにしている。次に、図3のセット状態から本発明の成形品製造方法で製造したときの素材の流動を図6を用いて説明する。
【0040】
図6は本発明方法で成形品を製造したときの素材の流動を模式的に順に示す図である。図6(a)は成形孔4内にセットされた素形材90の位置までパンチ(上金型)2が下降して成形が開始するタイミングを示している。図6(b)は、先ず前方に素形材90がパンチ2で押し込まれたタイミングを示している。図6(c)(d)は、素形材90が前方と横方向にパンチ2で押し込まれて分流している状態を示している。
【0041】
このように、成形の初期において素形材90を、所定の隙間分だけ前方に押し出し、その後横方向(拡径部方向)と前方とに分流して素材流動させることになる。分流させたときに、前方へのフローの量が多く、またフローの速度を速くするようなバランスをとることが好ましい。本発明では、素形材90と下金型3との間に所定の隙間L1を設けたので、横方向に張り出した拡径部位910の下部910a側が速く流動することを抑えることができ、成形後の拡径部91に寄りシワが発生するのを防止ことができる。
【0042】
素形材90と下金型3との間に所定の隙間L1を設けない従来手法では、図19に示したように、素形材がパンチで押し込まれると、拡径部位の下部G1側が速く流動し、拡径部位が下金型の側壁に到達する頃には、拡径部位にまくれ部分Mが発生してしまう。
【0043】
本発明方法では、素形材90と下金型3との間に所定の隙間L1を設けるため、成形の初期において素形材90を前方に押して成形し、その後拡径部位910の横方向と前方に分流して素材が流動する。このため、上記したように、横方向に張り出した拡径部位910において下部910a側が速く流動するのを抑えることができ、拡径部位910の下部910a側と上部910b側における各横方向の流れがほぼ同速度となる。したがって、寄りシワの発生を抑えることができ、不良品を低減し、生産上の歩留まりを向上させることができる。
【0044】
次に、図7〜図15を用いてより具体的に説明する。
【0045】
図7は本発明の実施に使用する鍛造用金型の一構成例を示す全体図、図8はこの鍛造用金型で製造する成形品の外観図、図9、図10はこの発明の鍛造用金型を用いて、図8に示す形状を有する成形品を製造する際の製造工程を順に示す図であり、図9(a)(b)(c)はその前半を、図10(d)(e)(f)はその後半を示している。
【0046】
これらの図において、この発明の鍛造用金型1は、素形材90を上金型下降方向に押し出しながら、フランジ状部位を主成形方向(押し出し方向前方)に対してほぼ垂直な方向に鍛造により成形する工程によって、図8に示すような成形品9を製造するための金型である。成形品9は、3段構成のもので、フランジ部(拡径部)91と、筒状の中央部92とからなり、中央部92はツノ状に前方先端部93を備えている。
【0047】
鍛造用金型1は、対となる上金型2と下金型3とで囲まれる成形孔4内に素形材90をセットし、上金型2を下降させて素形材90に荷重を加え、素形材90を下降方向前方に押し出して成形することにより、成形品9を製造する。なお、上金型2の下降方向への移動により、素形材90は、その前方に押し出されて成形された前方先端部93を含む中央部92と、横方向に広げられて成形されたフランジ部91となる。また、鍛造用金型1は、鍛造装置の主要部として構成され、上金型2の上下動や、後述するノックアウトピン37の上下動は、鍛造装置の駆動機構で行われるようになっている。
【0048】
上金型2は製品形状の主に上部を成形し、下金型3は製品形状の主に下部を成形する。
【0049】
下金型3は、製品形状の主に側面を成形する入れ子型31と、主に内周面を形成する凸型(カウンターピン)32と、入れ子型31を囲むダイス33とを備えている。入れ子型31は、中央が中空状に形成され、凸型32はその中空部分に立設されている。そして、入れ子型31の内周壁面と、凸型32の外周壁面とで上記の成形孔4を構成し、上金型2の下降が下死点に達して鍛造が完了し図7の状態なった時点で、成形品9(素形材90)にはフランジ部91と筒状の中央部92と前方先端部93とが形成される。
【0050】
入れ子型31と凸型32との間の成形孔4のうち、前方先端部93を成形する成形孔4aの下方(前方)には、背圧ピン(背圧付与用金型)34が配設され、背圧ピン34のさらに下方にはガスクッション35と、ストッパー36と、ノックアウトピン37とが設けられている。この背圧ピン34とガスクッション35とストッパー36とは背圧付与手段を構成している。
【0051】
また、ここでは図示されていない潤滑剤噴霧装置からは、成形孔4の周壁面に潤滑剤が噴霧され塗布されるようになっている。この潤滑剤には、鉱物油等の油性潤滑剤が用いられ、黒鉛と鉱物油との混合物であれば、潤滑効果が高まるので好ましい。また、水性潤滑油では金型温度を下げるので、この点からも油性潤滑剤が好ましい。
【0052】
ダイス33の外周上縁には、下金型3を加熱して温度を制御するヒーター8を配置してある。ヒーター8の加熱能力は、250〜400℃であるのが好ましい。簡易で小型のヒーターを用いることができる。例えば、供給電力200V、出力2kw、MAX450℃仕様のものを挙げることができる。
【0053】
また、十分な塑性流動を得るために、下金型3の温度は、上記のヒーター8によって100〜350℃(好ましくは120〜250℃)に保持されるのが好ましい。これ未満では、成形が不安定になり、これを超えると潤滑剤塗布状態が不安定になるからである。成形孔4にセットする際の素形材90の温度は300〜550℃に保持されているのが好ましい。
【0054】
入れ子型31の素形材90と接する内周壁面の材質は合金工具鋼か超硬を用いるのが好ましく、摩擦抵抗の摩耗対策の点からは特に超硬が好ましい。また、前方先端部93に相当する入れ子型31と凸型32の各表面のコーティング処理としてTiCなどのCVD処理を施すのが好ましい。耐焼き付き性が向上するからである。また、その部分の表面粗さは、Ry=0.5μm以下、好ましくは0.1〜0.4μmであるのが好ましい。耐焼き付き性が向上し、塑性流動がより充分に制御されるからである。
【0055】
素形材90の材料としては、鍛造で塑性加工可能な金属材料を用いることができる。例えば、アルミニウム、鉄、マグネシウム、およびこれらを主成分とする合金を挙げることができる。
【0056】
アルミニウム合金であれば、Al−Mg−Si系合金を用いることができ、JIS6061合金、A390合金等を用いることができる。例えばSiが10.0〜11.5質量%、Feが0.5以下質量%、Cuが2.0〜3.0質量%、Mnが0.10以下質量%、Mgが0.2〜0.5質量%、Crが0.10以下質量%、Znが0.10以下質量%、Tiが0.10以下質量%、残部がAlであるアルミニウム合金とすることができる。
【0057】
本発明に用いる素形材90の製法は、連続鋳造、押出、圧延等いずれであっても良い。アルミニウムやアルミニウム合金の場合、連続鋳造された丸棒材が安価で好ましい。アルミニウム合金においては、気体加圧式ホットトップ鋳造法で連続鋳造された丸棒材(例えば、昭和電工株式会社製SHOTIC材(登録商標))が、優れた内部健全性を持ち、結晶粒が微細であり、かつ、塑性加工による結晶粒の異方性がないため、摩擦抵抗部の抵抗効果を安定的に得ることができるので好ましい。
【0058】
本発明の、素形材90を上金型下降方向に押し出しながら、フランジ部を主成形方向と垂直な方向に鍛造により成形する工程について説明する。
【0059】
(a)成形時に素形材90側に潤滑材を塗布しないで、金型2,3のみに油潤滑材を塗布するのが好ましい。成形で形状・寸法が所望の範囲で、安定して生産できる場合は、金型の潤滑材処理に水溶性の潤滑材を用いることができる。表層部の素材流動を抑え、横方向への流動速度差を小さくする効果を得やすいからである。
【0060】
(b)所定の隙間L1(ここでは4mm)が確保されるように、素形材90の形状と入れ子型(下金型)31とが設計されているものを用いる(図9(a))。
【0061】
(c)フランジ部91を形成する下金型31の上面31aと、凸型32の上面32aとが同じ位置になっている(図9(a))。投入した素形材90のうち、凸型32の上方に位置する素形材90の厚みは、フランジ部位910の厚みより4mm厚くなっている。すなわち、素形材90を投入し、中央部位920の孔底面920hが凸型32の上面32aに当接したとき、フランジ部位910の下面910mと下金型31の上面31aとの間に主成形方向に4mmの隙間L1が確保できる(図9(a))。なお、このような素形材90を鍛造で成形する場合の詳細は後述する。
【0062】
(d)その結果、成形の初期において素形材90を、前方に4mm分押して成形し、その後は、図11に示すように、横方向(フランジ部)と前方に分流して素材流動させることになる。すなわち、素形材90は横に張り出す前にまず前方に押出されることになり、その後フランジ部位910の横方向と前方に分流して素材が流動する。このため、フランジ部位910において下部910a側が速く流動するのを抑えることができ、フランジ部位910の下部910a側と上部910b側における各横方向の流れがほぼ同速度となる。したがって、寄りシワの発生を抑えることができ、不良品を低減し、生産上の歩留まりを向上させることができる。
【0063】
(e)上記の所定の隙間L1が大きすぎ、例えば6mmを超えるとその隙間からメタルが横に広がり、フランジ部位910に打込み(折れ込み)が発生する場合がある。
【0064】
図12は所定の隙間L1を6mmとした場合の打ち込み発生の説明図であり、(a)は上金型で4mm素形材を押し込んだ状態を示し、(b)(c)はさらに順に上金型で押し込んだ状態を示している。図12に示すように、隙間を6mmにしていると、上金型2で素形材90を4mm押した時点で、なお2mmの隙間が残っており(図12(a))、このため横方向に流れる素材の速度のうち、下部910a側の素材の速度が速くなって横方向に部分Jが張り出してアンバランスが生じ(図12(b))、打ち込みWが発生してしまう(図12(c))。
【0065】
(f)素形材90の外径と、成形孔4の孔径との差は、0.3mm〜0.7mmであるのが好ましい。
【0066】
以上のようにして得られた成形品は、必要に応じて熱処理工程、機械加工工程を経て、成形品となる。
【0067】
次に、図9、図10を用いて、好ましい形態として前方先端部成形時の背圧付与手段の動作について説明する。
【0068】
背圧をかけることにより、前方にフローするメタルを押えられ、横方向のフローが水平にフローし易くなり、よりシワが発生しにくくなるので好ましい。
【0069】
さらに、ツノ状に前方先端部93を有する形状を成形する場合には、前方先端部93の側面で割れの発生を抑えることが出き、外観の不具合を低減出来るので好ましい。
【0070】
先ず図9(a)では、所定の寸法に切断された素形材90を成形孔4に挿入する。このとき、背圧ピン34の上端面は、前方先端部93を成形する成形孔4aの深さ方向であってその前方先端部93の形成が開始される開始位置Mより所定距離Dだけ下方の位置で、押し出されてくる素形材90を待機している。この所定距離Dは、前方先端部93の深さ方向全長の25〜70%に設定され、例えば深さ方向全長が10.5mmのとき2.6〜7.3mmとすることができる。
【0071】
次に、上金型2が下降し素形材90を押圧するので塑性流動が開始する。さらに塑性流動が進むと、素形材90は、図9(b)に示すように、成形孔4aに流入し、続いて図9(c)に示すように背圧ピン34の上端面に到達する。
【0072】
背圧ピン34にはガスクッション35からの背圧力が初期値として予め付与されているので、上金型2がさらに下降してその初期値を超えるまで背圧ピン34は停止したままで待機位置から変化しない。
【0073】
ガスクッション35はガスクッションピストン35aおよび背圧ピン34を介して前方先端部93の前方先端面93bに背圧を付与しており、一方、上金型2の下降が進み、上金型2からの荷重がその背圧力を上回ると、ガスクッション35は縮退し、その縮退に応じて背圧ピン34が押し下げられ、図10(d)に示すように、素形材90は成形孔4a内に充満してゆく。その後、背圧ピン34は、図10(e)に示すように、その下端面がストッパー36に当接して停止し、成形が完了する。その後、上金型2が上昇し、図10(f)に示すように、成形孔4内にとどまった成形品9はノックアウトピン37で押し上げられ、成形孔4から取り出される。
【0074】
図13はガスクッションによる背圧力を示す図である。なお、横軸の(a)〜(e)は、図9(a)〜図10(e)の各時点に相当し、縦軸は背圧力を示している。
【0075】
ガスクッション35による背圧は、背圧ピン34を介して前方先端面93bに作用し、素形材90に付与される。この背圧力Pは、図13に示すように、素形材90が背圧ピン34の上端面に到達するまでの(a)(b)の時点では「0」で、到達した(c)の時点でガスクッション35の初期値P1となる。この背圧力Pは、背圧ピン34の下端面がストッパー36に当接する(e)の時点まで漸増し、(e)の時点で最終値P2となる。すなわち、(c)から(e)までは、前方先端面93bを介して素形材90に背圧力Pが付与された状態で成形が行われる。その後、上金型2が上昇するので、背圧力Pは「0」に下がる。
【0076】
ここで、背圧力Pの初期値P1は、例えば上金型2が下死点に達し押し出しが完了した時点で荷重(メイン加重)が2400〜3500KNである場合、35〜55N/mm2とするのが好ましく、その後ガスクッション35のストロークが変化して最終値P2となるが、この最終値P2は45〜65N/mm2とするのが好ましい。ストロークの変化に対して圧力がこの範囲を超えると、素形材90の塑性流動がうまくいかなくなり、割れ、焼き付きや充満不良が発生するおそれがある。背圧力Pの最終値P2が初期値P1の100〜130%以内であれば成形を安定して行うことができ、好ましい。上記の背圧力Pは、1組のガスクッション35と背圧ピン34で得るようにしてもよいし、複数組で得るようにしてもよい。
【0077】
上記のように、この実施形態では、背圧ピン34が、成形孔4aの深さ方向であって前方先端部93の形成が開始される開始位置Mより所定距離Dだけ下方で、押し出されてくる素形材90を待機するように組み込まれているとともに、上金型2による素形材90の押し出しにより前方先端面93bが背圧ピン34に接触した時点から、前方先端面93bを下方から押圧し所定初期値P1以上の背圧を付与しつつその面93bを形成するようにしたので、前方先端部93における素形材90のフローが隅部(鋭角部位)93aと中央の部位とで差がなくなり、均一化し、その部位間に発生する引っ張り力が小さくなる。
【0078】
また成形品9のように、形状が複雑で、成形時に3段状態に素材がフローするような場合、肉厚が薄くなり一番成形の困難な形状を有する部位93が最後に成形されることになり、その結果、最後に成形される時点では素形材90の温度が低下してしまうが、この発明の鍛造用金型1では、背圧ピン34で前方先端面93bを下方から押圧し所定初期値P1以上の背圧を付与するとともに、上からの荷重がその所定初期値P1を越えるまでは背圧ピン34は停止し、素形材90が前方先端部93に留まることになるため、前方先端部93に適度な蓄熱が行われて素形材90の温度を適正に維持することができ、したがって、素形材90の塑性流動性を維持することができると考えることができる。
【0079】
また、背圧ピン34が、成形孔4aの深さ方向であって前方先端部93の形成が開始される開始位置Mより所定距離Dだけ下方で、押し出されてくる素形材90を待機するようにしたので、成形孔4の周壁の上方側だけでなく下方側の成形孔4aの周壁にも潤滑剤を予め塗布しておくことができ、その状態で素形材90の押し出しを待機するようになる。したがって、その開始位置Mから所定距離Dまでの領域Sは、素形材90が押し出されるとともに周壁を伝わって流下してきた潤滑剤で満たされて潤滑剤溜まりとなり、その領域Sには潤滑剤が十分に供給される。したがって、成形孔4aと前方先端部93の素形材90との間の摩擦が大幅に緩和されて素形材90の流れが改善され、その結果前方先端部93における素形材90のフローが、この点からも隅部(鋭角部位)93aと中央の部位とで差がなくなり、均一化し、その部位間に発生する引っ張り力が小さくなると考えることができる。
【0080】
そして、上記のように、前方先端部93において、素形材90のフローを均一化でき、また素形材90の塑性流動性を維持できるので、成形品9のような複雑な形状であっても1回の鍛造工程で製造することができ、それによって生産性を向上することができる。また割れ、亀裂、ダレ等の成形不良も確実に防止することができる。
【0081】
また、上記の鍛造用金型1を用いて製造した成形品9は、メタルフローが中央部92から前方先端部93にかけて連続したものになっているので、前方先端部93の機械的強度が良好なものとなる。また、前方先端部93の成形不良の発生を抑えることができ、特に充分な鋭角形状を有しているので、機械加工などの後処理工程を省略することができる。
【0082】
なお、上記の背圧付与手段にはガスクッション35を用いるようにしたが、ストローク変位がゼロの状態で所定の圧力(初期値)を有しているものであればその種類に特に制限はなく、ガスクッション以外に、油圧クッション、水圧クッション、バネクッションを用いることができる。
【0083】
次に、投入する素形材90を原素形材から得るための前工程として、鍛造(1F工程)を用いる場合の例を図14を用いて説明する。鍛造装置は、上記図8に示す装置と同じ装置を用いることができる。なお、上記した、素形材90から成形品9を得る鍛造工程を、ここでは2F工程と称し、1F工程と区別することとする。
【0084】
図14は原素形材から素形材を鍛造で成形する場合の説明図である。この図に示すように、原素形材900から素形材90を成形する場合は、下金型31の上面31aに対して、凸型(カウンターピン)32の上面32aを水平位置でなく所定の隙間L1である4mm分だけ下げた状態とし、その凸型32に原素形材900を載せてセッティングする。
【0085】
なお、この1F工程において、形状・寸法が所望の範囲で安定して生産できる場合は、金型の潤滑材処理に水溶性の潤滑材を用いることができる。原素形材にボンデ潤滑処理するのが好ましい。金型には油性潤滑を塗布する方が安定した成形を得られるので好ましい。
【0086】
(a)1F工程における下金型の成形孔がφ42.4mmの場合、投入する素材(原素形材)の径をφ41.8mmに準備する。従来はφ48mmの素材径(フランジ形状内接円径)のものを用いているので素材は成形孔に入り込ませることができないが、本実施例では、図14に示すように、素材が成形孔にすっぽり入った状態で成形が開始される。
【0087】
(b)成形開始位置(素材が金型に当たり、塑性流動が開始する位置)を金型の成形孔において直径寸法φ42.4mm、深さ4mmの位置に想定してある(図14)。
【0088】
(c)それを実現する為に、例えば、1F工程における金型において、成形孔の中央部底を外側のフランジ部より4mm下げている。すなわち、上記したように、下金型31の上面31aに対して、凸型(カウンターピン)32の上面32aを所定の隙間L1である4mm分だけ下げた状態としている。
(d)前記(a)、(b)の結果、1F工程における鍛造成形による素材の塑性流動(メタルフロー)が、初めに前方押しだけなり(優先的にφ42.4mmの成形孔にメタルが充満される)、その後、横方向に素材(メタル)が押し出されることになり、横方向のメタル張り出し(フランジ部への広がり)が主成形方向(縦軸)に対してほぼ水平にフローし、張り出し状態が上面下面でほぼ平行になる。
【0089】
以上より、横方向のメタルの張り出しが略均一状態となった1F成形品を得ることができるので、これを素形材90として用いることにより、「寄りシワ」の発生をより抑えることができる。
【0090】
(e)このようにして得られた素形材90は、中央部位920の厚みが4mm厚くなっているので、これを素形材90として投入すると、所定の隙間L1を得ることができる。
【0091】
(f)また、1F工程において原素形材(素材)900を投入する際に、素材直径を小さくし、かつ金型の中央部に落とし込んでいるので、素材の底の角部が直接横方向に張り出さない位置まで角部を成形孔内に落とし込んでいることになる。その結果、角部が側面に現れて「シワ」の発生を引き起こすこともない。
【0092】
このとき、結果的に原素形材の長手方向側面の途中から横方向に張り出すことになるので、好ましくは、下金型のその部分Sに曲面(半径R)を付与することで、メタルフローが安定する。図15にその様子を示す。
【0093】
また、ここの曲面Sが素形材90のコーナー部に相当するので、付与する半径Rは、下金型と投入された素形材90との間に設けられる所定の隙間L1の距離に合わせることが、上記した図12を用いて説明したように、打ち込みWの発生を抑えることも可能となるので好ましい。この曲面Sの半径Rは2mmを超えるのが好ましい。さらにR=3mm〜6mmであるのがより好ましい。
【0094】
(g)このようにして1F工程で製造した素形材90は、従来工法では直径48mm×長さ26.6mm(据え込み率50%)であるものが、本発明では直径41.8mm×長さ35.1mm(据え込み60%)になるので、原素形材900に対する素形材90の据え込み率が高くなる。その結果、素材粒径が細かくなり、機械的強度が高くなるという効果も得られる。なお、ここで据え込み率は、(素材全長−1F成形品厚さ)/素材全長×100である。
【0095】
また、従来の1F工程では、初めからフランジ形状のサイズの素材を使用しているので、次ぎのような不具合の発生が起きやすくなっていた。成形過程はほとんど前方成形となることになり、成形品において成形方向の反対側であるパンチ(上金型)側の面に引き込みが発生するので外観不良となる。また、フランジ形状のサイズの素材を用いて成形すると、初期より加圧面積が大きくなる、また、前方方向だけにメタルをフローさせる為フランジ外周部のメタルはフローし難く、成形荷重が高くなり、型寿命が短くなる。
【0096】
これに対し、この実施形態では、図14に示すように、前工程で用いる金型の成形孔の内側に原素形材900が投入されるとすることにより、これらの不具合の発生を抑えることが出来るので好ましい。
【0097】
(h)断面形状が多段で前方・横方向同時にフローさせる形状を有する原素形材の成形時は加工硬化が激しく起こり、冷間鍛造では割れが発生してしまうので、温・熱間鍛造(素材温度300〜550℃、金型温度110℃〜350℃)が好ましい。
【0098】
(i)一方、φ41.8mmの素材を用いた場合、中央部の深さが3mm未満では、その深さ距離が浅い為に素材ズレが発生し、フローが前方と横方向の別々にならなくシワが発生するので十分な効果が得られない。
【0099】
素形材90を成形する前工程として鍛造成形を用いる場合を説明したが、その他の成形方法として次のような成形工程を挙げることができる。
【0100】
(a)鋳物成形:隙間に所定の距離L1が得られるような素形材を鋳物として成形したものを素形材90とする。
【0101】
(b)鋳物成形して鍛造成形:複雑な形状の場合、大まかな形状を有した鋳物を1F工程の素材として投入して隙間が所定の距離L1となるような素形材を鍛造で成形し、それを素形材90とする。
【0102】
(c)鋳物成形して機械加工成形:複雑な形状の場合、大まかな形状を有した鋳物を、機械加工で隙間が所定の距離となるように成形したものを、素形材90とする。
【0103】
(d)機械加工:機械加工で隙間が所定の距離L1となるように成形したものを素形材90とする。
【0104】
(e)機械加工成形して鍛造成形:大まかな形状に機械加工で成形した物を1F工程の素材として投入して隙間が所定の距離L1となるような素形材を鍛造で成形し、それを素形材90とする。
【0105】
(f)鍛造成形して機械加工成形:複雑な形状の場合、大まかな形状を鍛造した後に、機械加工で隙間が所定の距離L1となるように成形したものを、素形材90とする。
【0106】
(g)押出し成形:隙間に所定の距離L1が得られるような素形材を押出し工法で成形したものを素形材90とする。
【0107】
(h)押出し成形して機械加工成形:複雑な形状の場合、大まかな形状を有した押出し品を、機械加工で隙間が所定の距離L1となるように成形したものを、素形材90とする。
【0108】
次に、本発明の鍛造生産システムについて説明する。
【0109】
図16は本発明の鍛造生産システムの一例を概略的に示す図である。この鍛造生産システムは、連続鋳造装置601、均質処理装置602、矯正装置603、ピーリング装置604、素材切断装置605、ボンデ処理装置607、素材加熱処理装置608、および鍛造装置(鍛造機械)609から構成される。鍛造装置609は、上記の鍛造用金型を含めて構成されている。
【0110】
鍛造装置が1台の場合は1F工程/2F工程の金型を段取り換えする。または、1F工程、2F工程それぞれ専用の鍛造装置を設けておく。
【0111】
また、必要に応じて、鍛造装置609の後段に、溶体化加熱装置610、焼き入れ装置611、時効処理装置612を設けてもよい。また、連続鋳造装置601の前段に、溶湯の純度を良くするための溶湯処理装置(図示省略)を設けるようにしてもよい。
【0112】
また、必要に応じて、2Fの鍛造装置の前に素材の予備加熱、さらに潤滑処理をする装置を設けることができる。
【0113】
そして、各装置間の搬送に自動搬送装置を設けることで一貫生産ラインを構成することができる。さらに、素材供給装置(図示せず)と、素材搬送装置(図示せず)と、成形品搬出装置(図示せず)とを含ませた一貫自動生産システムがより好ましいシステムである。
【0114】
上記の各装置のうち、素材切断装置605は、素材を所定の長さに切断するためのものである。素材供給装置は一定量の鍛造用素材をホッパー内に保留し、次工程へ素材を供給するためのものである。素材搬送装置は鍛造用素材を金型へ搬送するためのものである。鍛造装置609は鍛造用素材を鍛造するためのものである。成形品搬出装置はノックアウトピン機構により成形品を金型内から排出し次工程に搬送するためのものである。素材加熱装置608は素材を再結晶温度以上に加熱して鍛造加工性を高めるためのものでる。時効処理装置612は取り出した成形品を連続的に溶体化・時効処理を実施する熱処理のためのものである。
【0115】
なお、素材の前成形を1Fとした場合を例に説明したが、前工程として前述した他の成形方法を用いる場合は、2Fの前の工程が、鋳造装置、機械加工装置、それらの組み合わせに置き換えたものとなる。
【実施例】
【0116】
以下、具体例を示して本発明の作用効果を明確にするが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0117】
図1、図2の形状を有した成形品9を、この発明に係る鍛造用金型を用いて製造した。メイン荷重は、下死点で3000kNとした。隙間距離L1、金型の潤滑剤、金型温度、鍛造用素材の温度、背圧の有無等の各条件を表1に示した。鍛造用素材の潤滑剤は塗布しなかった。素形材は次ぎのように準備した。
【0118】
材質がSi:10.30、Fe:0.20、Cu:2.40、Ti:0.01、Mn:0.01、Mg:0.35、Cr:0.01、Zn:0.01(単位:質量%)を含有するアルミニウム合金である、連続鋳造した鋳造棒を切断したものを1F用鍛造用素材とし、図7に示した金型を用いて製造した。
【0119】
成形状態を成形後の外観観察の結果で評価した結果を表1に併記した。
【0120】
【表1】

【0121】
この表1から分かるように、実施例1〜10の場合は、何れの場合もフランジ部に寄りシワは発生しなかった。さらに素材形のフランジ部位とその下方の下金型上面との間に、4mmの隙間L1を設けて成形品を製造した実施例1〜4、6,7,8の場合は、何れの場合もフランジ部に寄りシワは発生しなかったしまたフランジ部の底面に打ち込み(折れ込み)も発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】この発明方法で製造する成形品の一例を示す図である。
【図2】この発明方法で製造する成形品の一例を示す図である。
【図3】この発明の成形品製造方法の説明図である。
【図4】この発明の成形品製造方法の説明図である。
【図5】この発明の成形品製造方法の説明図である。
【図6】本発明方法で成形品を製造したときの素材の流動を模式的に順に示す図である。
【図7】本発明の実施に使用する鍛造用金型の一構成例を示す全体図である。
【図8】図7の鍛造用金型で製造する成形品の外観図である。
【図9】この発明の鍛造用金型を用いて、図8に示す形状を有する成形品を製造する際の製造工程の前半を順に示す図である。
【図10】この発明の鍛造用金型を用いて、図8に示す形状を有する成形品を製造する際の製造工程の後半を順に示す図である。
【図11】この発明方法における素材流動の説明図である。
【図12】所定の隙間L1が6mmのとき発生する打ち込みの説明図である。
【図13】ガスクッションによる背圧力を示す図である。
【図14】原素形材から素形材を鍛造で成形する場合の説明図である。
【図15】曲面Sを付与した下金型でのメタルフローの説明図である。
【図16】本発明の鍛造生産システムの一例の概略的を示す図である。
【図17】従来の鍛造工程の説明図である。
【図18】従来の鍛造工程で製造した鍛造品の一例を示す図である。
【図19】従来手法で製造した場合に成形品の拡径部に「まくれ」発生する場合の説明図である。
【符号の説明】
【0123】
1 鍛造用金型
2 上金型(パンチ)
3 下金型
4,4a 成形孔
8 ヒーター
9 成形品
31 入れ子型(下金型)
31a 下金型の上面
32 凸型
32a 凸型の上面
33 ダイス
34 背圧ピン
35 ガスクッション
35a ガスクッションピストン
36 ストッパー
37 ノックアウトピン
90 素形材
91 拡径部(フランジ部)
92 中央部
92a 中央部の上段
92b 中央部の下段
93 前方先端部
93b 前方先端面
601 連続鋳造装置
602 均質処理装置
603 矯正装置
604 ピーリング装置
605 素材切断装置
607 ボンデ処理装置
608 素材加熱処理装置
608 素材加熱装置
609 鍛造装置
610 溶体化加熱装置
611 焼き入れ装置
612 時効処理装置
900 原素形材
910 フランジ部位
910 拡径部位
910a 拡径部位の下部
910b 拡径部位の上部
920 中央部位
920h 中央部の孔底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状または柱状の中央部と、その中央部から連続し平面視で中央部より径が大きい拡径部とを少なくとも備える成形品を素形材から製造する成形品製造方法において、
上記素形材を、上金型と下金型とで囲まれる成形孔内にセットしたときに、素形材のうち、成形後に中央部となる中央部位が下金型に当接し、成形後に拡径部となる拡径部位と下金型との間には押し出し方向で所定の隙間が形成されるようにし、
そのセット状態から上金型で素形材を押し出して成形品を製造する工程が含まれる、
ことを特徴とする成形品製造方法。
【請求項2】
上記所定の隙間は2mm以上で6mm以下である、請求項1に記載の成形品製造方法。
【請求項3】
上記素形材は、拡径部位と中央部位とのコーナ部に曲面を有し、その曲面の半径が、上記所定の隙間と略同一である、請求項1または2に記載の成形品製造方法。
【請求項4】
上記素形材は、鋳物成形、鍛造成形、機械加工成形、押出し成形の何れか、またはそれらの組み合わせからなる前工程で予め成形される、請求項1から3の何れか1項に記載の成形品製造方法。
【請求項5】
上記成形孔の周壁に予め、黒鉛と鉱物油の混合物である油性潤滑剤を塗布する、請求項1から4の何れか1項に記載の成形品製造方法。
【請求項6】
上記下金型の温度は100〜350℃に、成形孔にセットする時の素形材の温度は300〜550℃にそれぞれ保持される、請求項1から5の何れか1項に記載の成形品製造方法。
【請求項7】
上記素形材の材質は、Siが10.0〜11.5質量%、Feが0.5以下質量%、Cuが2.0〜3.0質量%、Mnが0.10以下質量%、Mgが0.2〜0.5質量%、Crが0.10以下質量%、Znが0.10以下質量%、Tiが0.10以下質量%、残部がAlであるアルミニウム合金である、請求項1から6の何れか1項に記載の成形品製造方法。
【請求項8】
上記素形材はボンデ処理(リン酸塩皮膜処理)がされた後、成形孔にセットされる、請求項1から7の何れか1項に記載の成形品製造方法。
【請求項9】
上記成形品の中央部は複数段に形成され、
上記下金型は、中央部の押し出し方向先端の段である前方先端部位を成形する成形孔の深さ方向に、上下移動可能な背圧付与用金型を備え、
上記背圧付与用金型は、前方先端部位を成形する成形孔の深さ方向であってその前方先端部位の形成が開始される開始位置より所定距離だけ下方で、押し出されてくる前方先端部位の前方先端面を待機し、その前方先端面が到達した後は前方先端面を下方から押圧し、所定初期値を持つ背圧を付与しつつその面を形成する、
請求項1から8の何れか1項に記載の成形品製造方法。
【請求項10】
上記背圧付与用金型はガスクッション、油圧クッション、水圧クッション、バネクッションの何れか、またはその組み合わせからなる背圧付与手段によって前方先端面を下方から押圧し背圧を付与する、請求項9に記載の成形品製造方法。
【請求項11】
上記背圧付与手段は、前方先端面が背圧付与用金型に接触した時点で初期値として35〜55N/mm2の背圧を前方先端面に付与し、その後押し出しとともに背圧を漸増させ、押し出し完了時点で最終値として45〜65N/mm2の背圧を前方先端面に付与する、請求項10に記載の成形品製造方法。
【請求項12】
上記上金型による素形材の押し出し完了時点での荷重を、2400〜3500kNとする、請求項11に記載の成形品製造方法。
【請求項13】
成形品を製造する前工程として原素形材から鍛造により素形材を製造する前工程鍛造用金型と、
上記素形材から、筒状または柱状の中央部と、その中央部から連続し平面視で中央部より径が大きい拡径部とを少なくとも備える成形品を鍛造製造する後工程鍛造用金型と、のセットからなる鍛造用金型において、
上記前工程鍛造用金型および後工程鍛造用金型は、成形後に成形品の中央部となる中央部位を押し出し方向前方で受け止めるカウンターピンと、成形後に成形品の拡径部となる拡径部位を押し出し方向前方で受け止める拡径部対応下金型とをそれぞれ有し、
前工程鍛造用金型のカウンターピンの上面は、後工程鍛造用金型のカウンターピンの上面より所定の隙間分だけ拡径部対応下金型の上面に対して下方に位置するように設定されている、
ことを特徴とする鍛造用金型。
【請求項14】
上記前工程鍛造用金型は、拡径部位と中央部位とのコーナ部に対応する部位に上記所定の隙間分と略同一の半径の曲面を設けてある、請求項13に記載の鍛造用金型。
【請求項15】
請求項1から12の何れか1項に記載の成形品製造方法で製造された、ことを特徴とする成形品。
【請求項16】
拡径部での断面の鍛流線が外郭輪郭線に沿っている、請求項15に記載の成形品。
【請求項17】
請求項13に記載された鍛造用金型を有する鍛造機械を含めて構成した、ことを特徴とする鍛造生産システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−43770(P2006−43770A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198283(P2005−198283)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】