説明

成形材料用バインダー及び成形体

【課題】経時変化が極めて小さく、水系で安全性の高いリグニン誘導体を含む成形材料用バインダーと、それを用いることによって、高強度で耐久性に優れた成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】第3級アミンを有する有機媒体と、リグニン誘導体と、必要によりさらにアルカリ金属水酸化物を含有する成形材料用バインダー。好ましくは、さらにフェノールとアルデヒドを含有する成形材料用バインダーであって、フェノールとアルデヒドは反応してフェノール・アルデヒド樹脂を形成し、前記フェノール・アルデヒド樹脂中にリグニン誘導体が共有結合、または分散して存在する。このような成形材料用バインダーを成形材料に塗布・含浸させた後、加熱、乾燥し、次いで硬化させると、成形体が得られる。前記成形材料がセルロース系材料、特にセルロース繊維の場合、植物資源のセルロースやリグニンを有効活用するものであり、植物資源の活用策や、炭酸ガス排出量の削減などに対しても、大いに貢献する技術である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形材料用バインダー及び成形体に関する。さらに詳しくは、植物資源から得られたリグニン誘導体を含む成形材料用バインダー及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、将来、枯渇が予想されている石油、石炭などの化石燃料に代わり、永続的使用が可能な植物資源の利用が叫ばれている。ここに、植物資源、すなわちリグノセルロース系資源は、セルロースやヘミセルロースなどの親水性炭化水素と疎水性のリグニンとから構成され、両者が複雑に絡み合った複合体をなしている。
これらの植物資源は、そのままの形で建築材料や家具用材として加工して使用されたり、セルロースを抽出してパルプ化されて紙などに使用されているが、植物資源中にバインダーとして含まれるリグニンについては、古くからその利用法が研究されているが、いまだに有効な活用方法が見出せないのが実情である。
近年、このようなリグニンをフェノール誘導体で誘導体化したリグニン誘導体に、アセトンやエタノール、メタノール、ジオキサンなどを含む親和性溶媒を添加してリグニン誘導体を抽出し、該グニリン誘導体をファイバー状、チップ状、粉状などの成形材料に含ませて、成形体を製造する方法が開示されている(特許文献1参照。)。この方法によると、リグニンがフェノール誘導体化され、成形体材料用バインダーとして利用されるので、リグニンの活用策が大きく前進することが期待される。
しかしながら、前記の発明により得られた前記親和性溶媒を含むリグニン誘導体から成るバインダーは、経時安定性に問題があり、前記バインダーを製造すると、ただちに使用する必要があり、取り扱い性に課題を残していた。また、揮発性の高い有機溶媒から成ることから安全性に課題があり、使用制限や対応する設備投資が求められている。
一方、近年、各製造業においては、環境への取り組みが精力的に行われ、例えば、自動車業界では、環境負荷低減のために廃棄物を減らす方策として、塗料廃棄物を自動車用材料、建築材料用などに再利用する試みがなされてきている。それ以外にも自動車製造には多量の合成樹脂類を使用するため、使用する合成樹脂の一部を前記天然由来の材料で補完することで、合成樹脂使用量の低減に繋がれば、その分、炭酸ガス排出量を低減することができ、環境保全に寄与することが出来る。
【0003】
【特許文献1】特開平9−278904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであって、経時変化が極めて小さく、水系で安全性の高いリグニン誘導体を含む成形材料用バインダーと、それを用いることによって、高強度で耐久性に優れた成形体を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の有機媒体と、必要によりアルカリ金属水酸化物を含有することにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、係る知見に基づいて完成されたものであり、以下を要旨とする。
1.少なくとも1つのN−置換カルバモイルを有する有機媒体と、リグニン誘導体とを含有することを特徴とする成形材料用バインダー。
2.前記N−置換カルバモイルを有する有機媒体が、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルホルムアミド、及びジメチルアセトアミドからなる群から選ばれる1種以上である上記1記載の成形材料用バインダー。
3.前記成形材料用バインダー中のリグニン誘導体の含有量が1〜50質量%程度である上記1又は2に記載の成形材料用バインダー。
4.前記成形材料用バインダーにおいて、さらにアルカリ金属水酸化物を含有する上記1〜3のいずれかに記載の成形材料用バインダー。
5.前記成形材料用バインダーにおいて、さらにフェノール類とアルデヒド類を含有する上記4記載の成形材料用バインダー。
6.前記成形材料用バインダーにおいて、フェノール類とアルデヒド類は反応してフェノール・アルデヒド縮合物を形成し、前記フェノール・アルデヒド縮合物中に前記リグニン誘導体が共有結合、または分散して存在する上記5記載の成形材料用バインダー。
7.成形材料に、上記1〜6のいずれかに記載の成形材料用バインダーを塗布、又は含浸させた後、加熱、乾燥し、次いで硬化させてなることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、経時変化が極めて小さく、水系で安全性の高いリグニン誘導体を含む成形材料用バインダーと、それを用いることによって、高強度で耐久性に優れた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、リグニン誘導体を使用するものであり、先ずリグニン誘導体の製法から説明する。その製法は、例えば特開2006−225325号公報に詳しいが、概括すると、酸反応工程、固液分離工程、中和工程、乾燥工程を順次実施して行うことでリグノセルロース系物質からリグニン誘導体を得ることができる。
本発明で用いるリグノセルロース系材料としては、木粉、チップ、廃材、端材などを挙げることができ、原材料も、針葉樹、広葉樹、草木質材料など、任意の種類のものを使用するこができる。具体的には、コウゾ、マニラ、ケナフ、麻、ワラ、及びバガスなどを例示することができる。本発明では、これらに限定されず、それに関連する原料、例えば、農産廃棄物や製紙工場廃棄物など、リグノセルロースを豊富に含む廃棄物も使用できる。
前記製法中、酸反応工程では、フェノール、クレゾールなどのフェノール誘導体を硫酸などの酸溶液に混合した溶液にリグノセルロース系材料を加え、前記材料を加水分解する。この反応中にリグノセルロース成分はリグニン誘導体として、固相として析出する。前記固相を遠心分離機などで分離した後、中和し、次いで乾燥させてリグニン誘導体が得られる。
【0008】
本発明においては、上記の方法で得られたリグニン誘導体を、少なくとも1つのN−置換カルバモイル(以下、第3級アミンと言う。)を有する有機媒体に混合する。このような第3級アミンを有する有機溶媒としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(以下DMEUと言う。)、ジメチルホルムアミド(以下DMFと言う。)、及びジメチルアセトアミド(以下DMAcと言う。)などが挙げられる。
リグニン誘導体と、前記第3級アミンを有する有機媒体とを混合することにより、リグニン誘導体の一部が前記第3級アミンを有する有機媒体中に溶解、膨潤、分散する。
前記第3級アミンを有する有機媒体の添加量は、成形材料用バインダー中で1〜20質量%程度、好ましくは2〜10質量%とする。この添加量が1質量%未満では、成形材料用バインダーの安定性が劣り、また、成形時の流れ性を制御できず、加熱硬化時にバインダーとしての機能を果たせなくなる。また、添加量が20質量%を超えると、最終製品である成形体中に残存し続けるため、硬化後の成形品の性能を著しく低下させる。
リグニン誘導体自身は、フェノール核やアルコキシのような親水性に乏しい基より構成されており、リグニン誘導体をバインダーとして有効に活用する為には、この極性をバインダー自身の性質と成形対象となる材料間の強度を保つ為の機能とにマッチングさせなければならない。そのためには、固有の範囲の極性に制御、溶解・分散させることが重要となる。
前記第3級アミンを有する有機媒体を使用することで、リグニン誘導体の一部の溶解・分散性が向上するとともに、前記第3級アミンを有する有機媒体は高沸点化合物なので、成形材料にバインダーが塗布された後の成形時の流動性を向上させると言う効果が得られて好ましい。
ここで、さらにアルカリ金属水酸化物を併用すると、リグニン誘導体の溶解効果がさらに向上するので、好ましい。後述のように、特にフェノール類とアルデヒド類を併用する場合には、アルカリ金属水酸化物は、これらの反応縮合物と、リグニン誘導体との相溶性を向上させると共に、フェノール・アルデヒド縮合物は、成形時の加熱により硬化することが好ましいので、アルカリ金属水酸化物を添加することにより、レゾール型のフェノール・アルデヒド縮合物が生成するので、さらに好都合である。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが上げられる。これらは水溶液にして添加することが出来る。添加量は、リグニン誘導体を含む成形材料用バインダーのpHが8〜11程度になるように添加することが望ましい。
【0009】
本発明においては、リグニン誘導体を溶解・分散させた第3級アミンを有する有機媒体と、好ましくは、さらにアルカリ金属水酸化物を添加した有機媒体液の形でも、成形材料用バインダーとして使用に供することが可能であるが、さらにフェノール類とアルデヒド類を存在させて反応させ、バインダーを樹脂組成物とすることが望ましい。
本発明に使用されるフェノール類としては、一般的なフェノール樹脂の製造に使用されるものであれば良く、例えばフェノール、クレゾール、エチルフェノール、キシレノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、トリメチルフェノール、ビスフェノールA、カテコール、レゾシノール、ハイドロキノン、ナフトール、ピロガロール、バニリン、キシレノールなどを、単独又は2種以上混合して使用することができる。これらのうち、フェノールやクレゾール類が実用上好ましい。
【0010】
一方、フェノール類と反応させるアルデヒド類としては、フェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、パラホルムアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、グリオキザール、クロトンアルデヒド、グルタルアルデヒドなどを、単独もしくは2種以上混合して使用することができる。これらのうち、ホルムアルデヒドが実用上好ましい。
上記アルデヒド類の使用量は、フェノール類の合計量1モルに対して、0.6〜1.5モル、好ましくは0.7〜1.2モルの割合で用いるのが望ましい。このアルデヒド類の使用量が0.6モルより少ないと、低分子量の樹脂しか得られず、一方アルデヒド類が1.5モルより多いと、ゲル化の危険性が発生する可能性があるため好ましくない。
なお、フェノール類とアルデヒド類を配合したときには、前記の第3級アミンを有する有機媒体に加えて、その他の有機溶剤を添加しても良い。このような有機溶剤としては、例えばプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、1,4−ジオキサン等のエーテル類等が単独で、若しくは二種以上を併用して使用することができる。
成形材料用バインダー中に、これらのフェノール類とアルデヒド類を共存させることにより、フェノール類とアルデヒド類の反応生成物が出来、従って、フェノール類とアルデヒド類の反応生成物を含む樹脂組成物となる。このとき、リグニン誘導体は、前記フェノール類とアルデヒド類の反応生成物中に共有結合、または分散して存在するようになり、バインダーとしての効果が向上するので好ましい。なお、このとき、前述の通り、アルカリ剤が存在すると、レゾール型のフェノール・アルデヒド縮合物が生成するので、バインダーとしては特に好ましい。
成形材料用バインダー中における、リグニン誘導体の含有量は、バインダー全体100質量部に対して、1〜50質量部程度、好ましくは25〜40質量部とする。
【0011】
本発明においては、上記のリグニン誘導体、第3級アミンを有する有機媒体、及びアルカリ金属を混合し、50〜60℃程度に加温して緩速で攪拌を行い、リグニン誘導体の第3級アミンを有する有機媒体中への溶解を起こさせる。そこにフェノール類、アルデヒド類さらにアルカリ金属水酸化物を所定量添加して、50〜70℃程度に加温し、フェノール類とアルデヒド類の反応を起こさせる。時間にして5時間程度反応させる。反応終了後、冷却することにより、本発明の成形材料用バインダー液が得られる。
このバインダー液は、従来のアセトンなどの溶媒を使用した場合と異なり、1月以上たっても安定しており、沈殿物の生成やゲル化物などの生成は認められないと言う、優れた経時安定性を発揮する。従って、従来と異なり、一度にリグニン誘導体を含む成形材料用バインダーを製造しておき、製造計画に従って、複数回に分けて使用することが可能となり、成形体の生産性や、バインダーの取り扱い性が大幅に向上する。また、水系であり、従来に比べて安全性が改善される。
【0012】
こうして得られたリグニン誘導体を含む成形材料用バインダー(樹脂組成物を含む)は、成形したい各種の成形材料に塗布、又は含浸させて使用される。
本発明の対象となる成形材料は特に限定されず、無機性材料や有機性材料が挙げられる。このうち、無機性材料としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカなどの無機粒子、及び粘土などが挙げられる。有機性材料としては、セルロース繊維、蛋白質繊維、各種合成ポリマー繊維、及び木粉などが挙げられる。
このうち、本発明では、前記理由で、特に自然由来のセルロース繊維が好ましい。前記セルロース繊維としては、とりわけセルロース長繊維が好ましい。セルロース長繊維とは、ファイバーやチップと呼ばれる繊維長5mm以下の短繊維ではなく、繊維長数十センチ以上の長い繊維束を意味する。このようなセルロース長繊維を成形材料に使用することにより、強度と耐熱性に優れた成形体を提供することが出来る。
セルロース長繊維としては、例えばケナフなどの解繊物が好適例として挙げられる。
【0013】
本発明における成形材料への塗布・含浸方法としては、バーコーティング、ロールコーティングなどの方法を採用することが出来る。又、容器に本発明のバインダー溶液を入れておき、そこに成形材料を浸漬して含浸させても良い。
こうして、本発明に係るバインダーが塗布・含浸させられた成形材料は、次いで加温加圧により硬化させることで、任意の形態に加工することが出来る。成形方法としては、例えば、圧縮成形、射出成形、押出成形、ブロー成形、キャスティング成形などを挙げることができる。
なお、成形材料によっては、通常、その用途によって、熱安定化剤、抗酸化剤、可塑剤、紫外線吸収剤、及び着色剤などの添加剤が添加されるが、本発明においても、勿論、これらの添加剤を、必要に応じて添加することが出来る。
本発明で得られる成形体は強度が高く、又耐熱性にも優れているので、自動車用部品(特に耐熱性が要求される部材)、建材用素材の他、金属吸着剤などの環境保全用資材、マルチングシートなどの農業用資材などとして使用することが出来る。特に、成形材料がセルロース繊維である場合には、従来、合成樹脂などの化石燃料由来材料を使用していたところでは、本発明の成形体を合成樹脂の少なくとも一部に置き換えることによって、合成樹脂使用量を軽減することができる。加えて、バインダーの方にも天然由来の素材が使われているので、植物資源の有効活用策としても、極めて有効である。
【実施例】
【0014】
以下に本発明の成形材料用バインダー、及び成形体を、実施例と比較例で、さらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例と比較例では、部および%は、質量基準である。
なお、本実施例に使用したリグニン誘導体の製法、ボードの作製方法、及び前記ボードの曲げ強度の試験法は、それぞれ以下の通りである。
1.リグニン誘導体の製法
リグノセルロース資源としてはケナフの芯材粉砕品(粒径2mm以下)を用いた。
上記ケナフの芯材粉砕品10kgを、80%フェノール水1.5kgを78%硫酸40.4kgに溶解させた酸反応溶液中に投入し、35℃にて60分間攪拌した(酸反応工程)。
酸反応工程後、反応容器内の反応液を水で希釈、固液分離を繰り返し、最終的にpH2.0、含水率を85%程度の固層を得た(固液分離工程)。
次に得られたリグニン誘導体層を12%水酸化ナトリウムで中和し(中和工程)、105℃で乾燥(乾燥工程)させ、リグニン誘導体を得た。
2.ボードの作製方法
ケナフ繊維(繊維長:70mm)に樹脂含有量が40%になるように含浸させ、含浸した前記繊維を90℃にて揮発分が約7%になるまで乾燥し、次いで180℃で5分間、30kgf/cm2の圧力でボード状に硬化させた。
3.ボードの曲げ強度の試験法
JIS−K7055に準じて、常態曲げ強度試験を行なった。
【0015】
実施例1
フェノール100g、製造直後のリグニン誘導体100g、37%ホルマリン180g、及びDMEU20gを1Lフラスコに仕込み、50℃に加温し、攪拌により混合した。次に、10%水酸化ナトリウム水溶液40gを加え、50℃で1時間反応させた後、さらに内温を60℃に上げ、2時間反応を継続した。反応終了後、冷却し、目的の樹脂組成物430gを得た。
この樹脂組成物を1ヶ月以上の長期間、静置して、沈殿物(リグニン誘導体)が樹脂組成物から分離したもの)の発生や、ゲル化物の発生等の外観を観察した。また、製造直後の樹脂組成物を用いて、上記方法でボードを作製し、強度を測定した。結果を表−1に示す。
【0016】
実施例2
フェノール100g、製造直後のリグニン誘導体100g、37%ホルマリン180g、DMF20gを1Lフラスコに仕込み、50℃に加温し、攪拌混合した。次に、10%水酸化ナトリウム水溶液40gを加え、50℃で1時間反応させた後、さらに内温を60℃に上げ、2時間反応を継続した。反応終了後、冷却し、目的の樹脂組成物430gを得た。
この樹脂組成物を1ヶ月以上の長期間静置して、沈殿物の発生やゲル化物の発生等の外観を観察した。また、実施例1と同様に、上記方法でボードを作製し、強度を測定した。結果を表−1に示す。
【0017】
実施例3
フェノール100g、製造直後のリグニン誘導体100g、37%ホルマリン180g、DMEU30gを1Lフラスコに仕込み、50℃に加温し、攪拌混合した。次に10%水酸化ナトリウム水溶液40gを加え、50℃で1時間反応させた後、さらに内温を60℃に上げ、2時間反応を継続した。反応終了後、冷却し、目的の樹脂組成物440gを得た。
この樹脂組成物を1ヶ月以上の長期間静置して、沈殿物の発生やゲル化物の発生等の外観を観察した。また、実施例1と同様に上記方法でボードを作製し、強度を測定した。結果を表−1に示す。
【0018】
比較例1
実施例1において、DMEUの代わりにエタノールを使用した以外は同様に試験を行った。
この樹脂組成物を1日間静置して、沈殿物の発生やゲル化物の発生等の外観を観察した。また、製造直後の樹脂組成物を用いて、上記方法でボードを作製し、強度を測定した。結果を表−1に示す。
【0019】
比較例2
実施例1において、DMEUの代わりにアセトンを使用した以外は、同様に試験を行った。
この樹脂組成物を1日間静置して、沈殿物の発生やゲル化物の発生等の外観を観察した。また、比較例1と同様に、上記方法でボードを作製し、強度を測定した。結果を表−1に示す。
【0020】
【表1】

なお、表1では、沈殿物も、ゲル化物も観察されないときに「安定」とした。
【0021】
表1から、本発明の樹脂組成物においては、30日以上にわたって成分の分離による沈殿物やゲル化物の生成は観察されず、経時安定性に優れることが分かる。
一方、従来の溶媒を使用した比較例から、樹脂組成物は、1日で沈殿物が観察され、経時安定性に欠けることが分かる。
【0022】
実施例4
上記実施例1において、使用する樹脂組成物として、製造後5日、10日及び30日たってから成形材料の成形用バインダーとして使用し、得られたボードの曲げ強度を測定した。
結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2から、本発明で得られる成形材料用バインダーは、経時安定性が優れているので、製造後5日、10日、及び30日たってから使用しても、得られたボードの強度は、ほとんど変わらないことが分かる。
以上のように、本発明に係るリグニン誘導体に特定の有機媒体、および必要により、アルカリ金属水酸化物やフェノール類とアルデヒド類とを配合することにより、経時安定性に優れた成形材料用バインダーが得られ、かつ、このバインダーを用いて製作された成形物は、特に耐熱性を含む諸物性に優れ、各種材料として極めて有用であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により提供される成形材料用バインダーは、30日以上の経時安定性を発揮するので、取り扱い性に優れたバインダーであり、水系で安全性も高く、各種成形体を製作する場合に有用となる。また、それを用いて製造された成形体は、耐熱性に優れた高強度の成形物となり、各種用途に使用され、産業上、極めて利用可能性が高い。しかも、成形材料としてセルロース繊維を使用した場合には、前記バインダー中にも森林資源から抽出した材料が含まれており、炭酸ガスの削減や、植物資源の有効活用策として、諸産業に対し、高い利用可能性を有するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのN−置換カルバモイルを有する有機媒体と、リグニン誘導体とを含有することを特徴とする成形材料用バインダー。
【請求項2】
前記N−置換カルバモイルを有する有機媒体が、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルホルムアミド、及びジメチルアセトアミドからなる群から選ばれる1種以上である請求項1記載の成形材料用バインダー。
【請求項3】
前記成形材料用バインダー中のリグニン誘導体の含有量が1〜50質量%程度である請求項1又は2記載の成形材料用バインダー。
【請求項4】
前記成形材料用バインダーにおいて、さらにアルカリ金属水酸化物を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の成形材料用バインダー。
【請求項5】
前記成形材料用バインダーにおいて、さらにフェノール類とアルデヒド類を含有する請求項4記載の成形材料用バインダー。
【請求項6】
前記成形材料用バインダーにおいて、フェノール類とアルデヒド類は反応してフェノール・アルデヒド縮合物を形成し、前記フェノール・アルデヒド縮合物中に前記リグニン誘導体が共有結合、または分散して存在する請求項5記載の成形材料用バインダー。
【請求項7】
成形材料に、前記請求項1〜6のいずれかに記載の成形材料用バインダーを塗布、又は含浸させた後、加熱、乾燥し、次いで硬化させてなることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2009−292952(P2009−292952A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148394(P2008−148394)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】