説明

成形部品の製造方法及び携帯電子機器

【課題】第1の成形部分と第2の成形部分の剥がれが生じにくい成形部品を製造するための成形部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の成形部品の製造方法は、第1の金型101と第2の金型102とからなる第1の金型対110に第1の熱可塑性部材を射出して、内側本体部91aと、内側本体部91aの第1面側から突出した腕部91bと、内側本体部91aの第1面側と反対側の第2面側において腕部91bと対応する位置に設けられた凸部91dとを備えた内側キャップ部材91を成形する第1の成形工程と、内側キャップ部材91を設置した第1の金型101と、第3の金型とからなる第2の金型対に第2の熱可塑性部材を射出して、内側キャップ部材91の凸部91dを含む第2面側に第2の熱可塑性部材からなる外側キャップ部材92を成形する第2の成形工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突出部を有する成形部品の製造方法、及びこの成形部品を備えた携帯電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金型に第1の熱可塑性部材を射出して第1の成形部分を成形する第1の成形工程と、その後、金型に第2の熱可塑性部材を射出して第2の成形部分を成形する第2の成形工程と、を有する成形部品の製造方法が知られている。また、この製造方法により製造された、本体部の第1面側から突出する突出部を有する第1の成形部分と第2の成形部分とから成る成形部品が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図12は、従来の成形部品の製造方法により製造された成形部品としてのキャップ900の断面図である。図12に示すように、成形部品としてのキャップ900は、本体部910aの第1面側から突出する突出部としての腕部910bが形成された第1の成形部分910と、第2の成形部分920と、から成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−203414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の成形部品の製造方法においては、第1の成形工程において第1の成形部分を成形する際、第1面と反対側の第2面において、突出部に対応する部分は周囲と比較して金型の表面からの距離が遠く、熱が逃げにくくなる。このため、この部分は周囲と比較して柔らかいままとなり、第2の成形工程において第2の熱可塑性部材が侵入してしまう。その結果、例えば図12に示すように、キャップ900の腕部910b付近の領域Cにおいて、第1の成形部分910の厚みが図中の点線で示す設計値よりも薄くなり、第1の成形部分910と第2の成形部分920とが剥がれやすくなってしまうという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、第2の成形工程において第2の熱可塑性部材が第1の成形部分へ侵入することを低減し、第1の成形部分と第2の成形部分との剥がれが生じにくい成形部品を製造するための成形部品の製造方法、及びこの成形部品を備えた携帯電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わる成形部品の製造方法は、第1の金型と第2の金型とからなる金型対に第1の熱可塑性部材を射出して、本体部と、当該本体部の第1面側から突出した突出部と、前記本体部の前記第1面側と反対側の第2面側において前記突出部と対応する位置に設けられた凸部と、を備えた第1の成形部分を成形する第1の成形工程と、前記第1の成形部分を設置した前記第1の金型と、第3の金型とからなる金型対に第2の熱可塑性部材を射出して、前記第1の成形部分の前記凸部を含む第2面側に前記第2の熱可塑性部材からなる第2の成形部分を成形する第2の成形工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記凸部は、当該凸部の底面部における中心位置が、前記突出部が前記本体部の第1面側から突出する領域の中心位置と略一致する位置に設けられるとともに、前記凸部の頂部から前記第2面側に向かって傾斜する傾斜部を有することが好ましい。
【0009】
また、前記凸部は、表面に凹凸を有することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係わる携帯電子機器は、第1の金型と第2の金型とからなる金型対に第1の熱可塑性部材を射出して、本体部と、当該本体部の第1面側から突出した突出部と、前記本体部の第2面側における前記突出部と対応する位置に設けられた凸部と、を備えた第1の成形部分を成形する第1の成形工程と、前記第1の成形部分を設置した前記第1の金型と、第3の金型とからなる金型対に第2の熱可塑性部材を射出して、前記第1の成形部分の前記凸部を含む第2面側に前記第2の熱可塑性部材からなる第2の成形部分を成形する第2の成形工程と、を有する成形部品の製造方法により製造された成形部品と、開口部と前記成形部品の前記突出部が係合する被係合部とが形成された筐体と、を備え、前記成形部品は、前記突出部が前記筐体の前記被係合部に係合して前記筐体に取り付けられると共に、前記開口部を閉塞することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係わる携帯電子機器は、第1の熱可塑性部材からなり、本体部と、当該本体部の第1面側から突出した突出部と、前記本体部の第2面側において前記突出部と対応する位置に設けられた凸部とを備えた第1の成形部分、及び第2の熱可塑性部材からなり、前記第1の成形部分の前記凸部を含む第2面側に形成された第2の成形部分、を有する成形部品と、開口部と前記成形部品の前記突出部が係合する被係合部とが形成された筐体と、を備え、前記成形部品は、前記突出部が前記筐体の前記被係合部に係合して前記筐体に取り付けられると共に、前記開口部を閉塞することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第2の成形工程において第2の熱可塑性部材が第1の成形部分へ侵入することを低減し、第1の成形部分と第2の成形部分との剥がれが生じにくい成形部品を製造するための成形部品の製造方法、及びこの成形部品を備えた携帯電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の成形部品を備えた携帯電話機1について操作部側筐体2と表示部側筐体3とを開いた状態を示す斜視図である。
【図2】携帯電話機1を折り畳んだ状態で表示部側筐体3をリアケース30b側から見たときの斜視図である。
【図3】操作部側筐体2の分解斜視図である。
【図4】キャップ90を外側キャップ部材92側からの見たときの斜視図である。
【図5】キャップ90を内側キャップ部材91側から見たときの斜視図である。
【図6】キャップ90を製造するための第1の成形工程を説明するための概略断面図である。(A)は第1の金型対110をセットした状態を示す概略断面図である。(B)は第1の金型対110にエラストマ樹脂を射出したときの状態を示す概略断面図である。
【図7】成形された内側キャップ部材91を第2面側から見たときの斜視図である。
【図8】内側キャップ部材91における腕部91bと凸部91dとの位置関係を模式的に示す説明図である。
【図9】凸部91dの他の構成例を示す説明図である。
【図10】キャップ90を製造するための第2の成形工程を説明するための概略断面図である。(A)は、第2の金型対120をセットした状態を示す概略断面図である。(B)は、第2の金型対120にエラストマ樹脂を射出したときの状態を示す概略断面図である。
【図11】内側キャップ部材91と外側キャップ部材92とが一体成形されたキャップ90の腕部91b付近の断面図である。
【図12】従来の製造方法により製造されたキャップ900の腕部910b付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。まず、本発明に係わる成形部品の製造方法により製造された成形部品を備えた携帯電子機器としての携帯電話機1の基本構造について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の携帯電話機1において、操作部側筐体2と表示部側筐体3とを開いた状態を示す斜視図である。図2は、図1に示す携帯電話機1を折り畳んだ状態で、表示部側筐体3をリアケース30b側から見たときの斜視図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の携帯電話機1は、折り畳み型の携帯電話機である。携帯電話機1は、略直方体形状の操作部側筐体2と、略直方体形状の表示部側筐体3と、操作部側筐体2と表示部側筐体3とを連結する連結部4と、を備える。
【0017】
操作部側筐体2の上端部と表示部側筐体3の下端部とは、連結部4を介して開閉可能に連結されている。すなわち、連結部4は、表示部側筐体3と操作部側筐体2とを開閉軸Pを中心に開閉可能に連結している。
【0018】
携帯電話機1は、連結部4を介して連結された操作部側筐体2と表示部側筐体3とを相対的に回転(回動)することができる。これにより、操作部側筐体2と表示部側筐体3とを互いに開いた状態(開放状態)にすることや、操作部側筐体2と表示部側筐体3とを折り畳んだ状態(折畳み状態)にすることができる。
【0019】
表示部側筐体3は、図1及び図2に示すように、外面を構成する部品として、フロントケース30a及びリアケース30bを備える。
【0020】
表示部側筐体3の前面3aは、フロントケース30a及びフロントパネル33を主体として構成されている。前面3aは、携帯電話機1を折り畳んだ状態で操作部側筐体2と向かい合う面である。表示部側筐体3の背面3bは、リアケース30bを主体とする。背面3bは、前面3aとは反対側の面である。
【0021】
表示部側筐体3内には、各種情報を表示するメイン液晶モジュール34が配置されている。メイン液晶モジュール34は、その一方の面にメイン表示部34aが設けられている。メイン表示部34aは、透明部分を主体とするフロントパネル33を介して、フロントケース30aに形成された開口部から表示部側筐体3の前面3aに露出するように配置されている。
【0022】
また、フロントケース30aは、通話の相手側における音声を出力する音声出力部31を備える。音声出力部31は、表示部側筐体3の長手方向における連結部4とは反対の端部側に配置されている。すなわち、音声出力部31は、携帯電話機1の開状態における表示部側筐体3側の端部近傍に配置されている。
【0023】
表示部側筐体3のリアケース30b側には、図2に示すように、各種情報を表示させるサブ液晶モジュール36が配置されている。サブ液晶モジュール36は、その一方の面に設けられたサブ表示部36aが、リアケース30bの透明部分を介して表示部側筐体3の背面3bに露出するように配置されている。
【0024】
メイン液晶モジュール34及びサブ液晶モジュール36は、それぞれ、メイン表示部34a及びサブ表示部36aを構成する液晶パネル、この液晶パネルを駆動する駆動回路、この液晶パネルの背面側から光を照射するバックライト等の光源部等を備える。
【0025】
次に、操作部側筐体2について説明する。図3は、操作部側筐体2の分解斜視図である。
【0026】
操作部側筐体2は、図1及び図3に示すように、外面を構成する部品として、フロントケース21、リアケース22及び蓋部24を備える。フロントケース21は、操作部側筐体2の前面2a側を構成する。操作部側筐体2の前面2aは、携帯電話機1を折り畳んだ状態で表示部側筐体3と向かい合う面である。リアケース22及び蓋部24は、前面2aと反対側の面である背面2b側を構成する。
【0027】
操作部側筐体2の側面2cには、開口部25が形成されている(図3参照)。開口部25の内側には、電子部品26が配置されている。電子部品26は、図示しないヘッドフォンの平型ジャックが挿入されるコネクタである。電子部品26は、ヘッドフォン用の平型端子26aを備える。この平型端子26aは、開口部25に露出している。開口部25は、成形部品としてのキャップ90により閉塞される。キャップ90の構造及び製造方法については、後に詳述する。
【0028】
図1に示すように、フロントケース21は、操作キー群11を備える。操作キー群11は、前面2aに露出するように配置されている。操作キー群11は、各種設定や電話帳機能やメール機能等の各種機能を作動させるための機能設定操作キー13と、電話番号の数字やメール等の文字等を入力するためのテンキー等の入力操作キー14と、各種操作における決定や上下左右方向のスクロール等を行う決定操作キー15と、を備える。
【0029】
操作キー群11を構成する各キーには、所定の機能が割り当てられている。各キーの機能は、操作部側筐体2と表示部側筐体3との開閉状態や、起動されているアプリケーションの種類に応じて割り当てられている(キー・アサイン)。携帯電話機1は、操作キー群11を構成する各キーが使用者により押圧されると、各キーに割り当てられた機能に応じた動作を実行する。
【0030】
操作部側筐体2は、前面2aに、携帯電話機1の使用者が通話時に発した音声が入力される音声入力部12を備える。音声入力部12は、操作部側筐体2の長手方向における連結部4とは反対側の端部近傍に配置される。すなわち、音声入力部12は、携帯電話機1の開状態において長手方向の一方の端部側に配置される。
【0031】
フロントケース21とリアケース22とは、図3に示すように、互いの凹状の内側面が向き合うように配置される。そして、互いの外周縁が重なり合うように結合される。また、フロントケース21とリアケース22との間には、フロントケース21側から順に、キーシート50と、フレキシブル配線基板60と、縦長のシールドケース70と、回路基板80と、バッテリQと、が配置されている。
【0032】
次に、キャップ90の構造について説明する。図4は、キャップ90を外側キャップ部材92側から見たときの斜視図である。また、図5は、キャップ90を内側キャップ部材91側から見たときの斜視図である。
【0033】
キャップ90は、第1の成形部分としての内側キャップ部材91と、第2の成形部分としての外側キャップ部材92と、を備える。内側キャップ部材91は、操作部側筐体2の内表面側に配置される部品である。外側キャップ部材92は、操作部側筐体2の外表面側に配置される部品である。内側キャップ部材91は、第1の熱可塑性部材としてのエラストマ樹脂で成形される。外側キャップ部材92は、第2の熱可塑性部材としてのポリカーボネート樹脂で成形される。内側キャップ部材91と外側キャップ部材92は、後述するように、第1及び第2の成形工程を経て一体に成形されたものである。
【0034】
内側キャップ部材91は、本体部としての内側本体部91aと、腕部91bと、爪部分91cと、を備える。内側本体部91aは、操作部側筐体2の開口部25を閉塞する部分である。内側本体部91aは、図5において手前側となる第1面側の端部に、突出部としての腕部91bを備える。腕部91bは、内側本体部91aから延出した腕状部分である。なお、図5において、内側本体部91aの第1面側と反対側が第2面側となる。
【0035】
腕部91bは、開口部25の内部に挿入される部分であり、断面略U字形状に形成されている。すなわち、図3に示す開口部25の内部には、腕部91bを挿入するための被係合部としての挿入孔(不図示)が形成されている。腕部91bを開口部25の挿入孔に挿入すると、腕部91bの端部に形成された肉厚部91iが一時的に縮み変形する。この肉厚部91iの形状は、挿入孔を通過した後に元の形状に戻る。これにより、腕部91bの肉厚部91iは挿入孔から外側への移動が規制される。一方、内側本体部91aは、長手方向において、腕部91bの根元部分から肉厚部91iまでの範囲で移動が可能となる。すなわち、キャップ90は、操作部側筐体2に対してスライド可能に保持される。また、ユーザがキャップ90を開口部25から外しても、腕部91bの肉厚部91iは、挿入孔から外側への移動が規制されるため、キャップ90は操作部側筐体2から脱落することなく、保持される。
【0036】
内側本体部91aは、長手方向の両側縁部に爪部分91cを備える。爪部分91cは、操作部側筐体2の開口部25の周縁に形成された不図示の係合孔に係合される部分である。各爪部分91cは、内側本体部91aから延出した爪状の部分である。キャップ90を操作部側筐体2の開口部25に装着すると、各爪部分91cと不図示の係合孔とが係合し、キャップ90は、操作部側筐体2と係合した状態となる。
【0037】
外側キャップ部材92は、外側本体部92aを備える。外側本体部92aは、内側キャップ部材91の内側本体部91aとともに、操作部側筐体2の開口部25を閉塞する部分である。外側本体部92aは、キャップ90を操作部側筐体2の開口部25に装着したときに、開口部25を閉塞可能な形状及び大きさを有する。外側本体部92aは、窪み部92bを備える。窪み部92bは、ユーザが、操作部側筐体2の開口部25に装着されたキャップ90を開口部25から外すときに、指の爪などを引っ掛ける部分である。
【0038】
次に、キャップ90の製造方法について説明する。最初に、第1の成形工程について説明する。
【0039】
図6は、キャップ90を製造するための第1の成形工程を説明するための概略断面図である。図6(A)は、第1の金型対110をセットした状態を示す概略断面図である。また、図6(B)は、第1の金型対110にエラストマ樹脂を射出したときの状態を示す概略断面図である。
【0040】
図6(A)に示す第1の金型対110は、第1の金型101と、第2の金型102と、を備える。第1の金型101は、内側キャップ部材91の第1面側を形成するための金型である。第1の金型101の成形面には、内側キャップ部材91の第1面側を形成するための成形パターン101aが形成されている。
【0041】
第2の金型102は、内側キャップ部材91の第2面側を形成するための金型である。第2の金型102の成形面には、内側キャップ部材91の第2面側を形成するための成形パターン102aが形成されている。なお、第2の金型102の成形パターン102aには、後述する内側キャップ部材91の凸部91dを成形するためのドーム形状の成形パターン102cが形成されている。
【0042】
また、第2の金型102は、第1の熱可塑性部材としてのエラストマ樹脂を射出するためのゲート102bを備える。ゲート102bは、第2の金型102を貫通して、第1の金型対110の内部に形成された成形空間まで達している。
【0043】
図6(A)に示すように、第1の金型101と第2の金型102とを、それぞれの成形パターン101a、102aが対向するように配置し、図示しない冶具で固定することにより、第1の金型対110が準備される。次に、図6(B)に示すように、第2の金型102のゲート102bから、高温のエラストマ樹脂を第1の金型対110に射出する。これにより、第1の金型対110の内部に内側キャップ部材91が成形される。
【0044】
図7は、成形された内側キャップ部材91を第2面側から見たときの斜視図である。図7に示すように、内側キャップ部材91は、内側本体部91aの第2面側において、腕部91bと対応する位置に凸部91dを有する。凸部91dは、第1面側に形成された腕部91bの根元部分と反対側の位置に形成された部分である。
【0045】
ここで、腕部91bと凸部91dとの位置関係について説明する。図8は、内側キャップ部材91における腕部91bと凸部91dとの位置関係を模式的に示す説明図である。図8に示すように、凸部91dは、凸部91dの底面部における中心位置91eが、腕部91bが内側本体部91aの第1面側から突出する領域の中心位置91fと略一致する位置に設けられている。すなわち、凸部91dの底面部における中心位置91eと、腕部91bが突出する領域の中心位置91fは、中心線Aにおいて略一致している。
【0046】
また、凸部91dは、凸部91dの頂部から内側本体部91aの第2面側に向かって傾斜する傾斜部91gを有する。すなわち、凸部91dは、頂部が最も高く盛り上がったドーム形状となっている。
【0047】
先に説明したように、内側キャップ部材91の腕部91b付近は、エラストマ樹脂の層が他の部分よりも厚く、とくに腕部91bの中心部分は、第1の金型101の界面からの距離が遠い。このため、第1の成形工程において熱が逃げにくく、エラストマ樹脂の温度が最も高くなる。したがって、この部分のエラストマ樹脂は柔らかく、後述する第2の成形工程においてポリカーボネート樹脂が侵入しやすい状態となる。しかしながら、内側キャップ部材91の内側本体部91aの第2面側において、腕部91bと対応する位置に凸部91dを設けるとともに、その凸部91dを、頂部が最も高く盛り上がったドーム形状とすることにより、腕部91bの中心位置91e付近において、エラストマ樹脂の肉厚を最も厚くすることができる。したがって、後述する第2の成形工程において、この部分へのポリカーボネート樹脂の侵入を低減させて、腕部91b付近のエラストマ樹脂の厚みが薄くなるのを防ぐことができる。
【0048】
図9は、凸部91dの他の構成例を示す説明図である。図9では、図8と同等部分に同一符号を付している。図9に示す凸部91dは、表面に凹凸91hを有する。凸部91dに凹凸91hを設けることにより、後述する第2の成形工程において、エラストマ樹脂とポリカーボネート樹脂との接触面積を増やすことができる。これにより、内側キャップ部材91と外側キャップ部材92との界面における密着強度を高めることができる。なお、凹凸91hは、凸部91dの全面に設けられていてもよいし、凸部91dの一部、例えば傾斜部91gにのみ設けられていてもよい。
【0049】
次に、第2の成形工程について説明する。図10は、キャップ90を製造するための第2の成形工程を説明するための概略断面図である。図10(A)は、第2の金型対120をセットした状態を示す概略断面図である。また、図10(B)は、第2の金型対120にポリカーボネート樹脂を射出したときの状態を示す概略断面図である。
【0050】
図10(A)に示す第2の金型対120は、第1の金型101と、第3の金型103と、を備える。第1の金型101は、第1の成形工程で使用した金型である。第1の金型101には、第1の成形工程で成形した内側キャップ部材91がセットされている。
【0051】
第3の金型103は、内側キャップ部材91の第2面側に外側キャップ部材92を形成するための金型である。第3の金型103の成形面には、外側キャップ部材92を形成するための成形パターン103aが形成されている。
【0052】
また、第3の金型103は、第2の熱可塑性部材としてのポリカーボネート樹脂を射出するためのゲート103bを備える。ゲート103bは、第3の金型103を貫通して、第2の金型対120の内部に形成された成形空間まで達している。
【0053】
図10(A)に示すように、第1の金型101と第3の金型103とを、内側キャップ部材91の第2面と、成形パターン103aとが対向するように配置し、図示しない冶具で固定することにより、第2の金型対120が準備される。次に、図10(B)に示すように、第3の金型103のゲート103bから、高温のポリカーボネート樹脂を第2の金型対120に高圧で射出する。これにより、第2の金型対120の内部において、内側キャップ部材91の凸部91dを含む第2面側に外側キャップ部材92が一体成形される。
【0054】
上記第1及び第2の成形工程からなる製造プロセス、いわゆる2色成形により、図4及び図5に示すように、内側キャップ部材91と外側キャップ部材92とが一体成形されたキャップ90が完成する。
【0055】
次に、内側キャップ部材91の第2面側に形成された凸部91dの作用について説明する。図11は、内側キャップ部材91と外側キャップ部材92とが一体成形されたキャップ90の腕部91b付近の断面図である。
【0056】
先に説明したように、第1の成形工程において、腕部91b付近のエラストマ樹脂は、その周囲のエラストマ樹脂よりも温度が高くなるため、第2の成形工程において、ポリカーボネート樹脂が侵入しやすくなる。しかしながら、本実施形態の内側キャップ部材91は、第2面側において、腕部91bと対応する位置に凸部91dを備えている。このため、第2の成形工程において、ポリカーボネート樹脂の侵入は、凸部91dの部分に止められ、ポリカーボネート樹脂の第1面側への更なる侵入を低減させることができる。
【0057】
したがって、図11に示すように、内側キャップ部材91と外側キャップ部材92との界面は、ほぼフラットな状態となる。この結果、図11の領域Bに示すように、腕部91b付近のエラストマ樹脂の厚みを設計値通りの厚みとすることができる。なお、図11に示す細かい斜線を引いた部分は、第2の成形工程前において凸部91dがあった場所を示している。
【0058】
上記実施形態に係わるキャップの製造方法によれば、以下のような効果を奏する。
【0059】
内側キャップ部材91は、第2面側において腕部91bと対応する位置に凸部91dを備えているため、第2の成形工程において、ポリカーボネート樹脂の侵入は、凸部91dの部分に止められる。これによれば、ポリカーボネート樹脂の第1面側への更なる侵入が低減されるので、腕部91b付近のエラストマ樹脂の厚みを設計値通りの厚みとすることができる。したがって、一体成形された内側キャップ部材91と外側キャップ部材92との密着強度を確保することができ、腕部91b付近において内側キャップ部材91と外側キャップ部材92との剥がれが生じにくくなる。
【0060】
また、ポリカーボネート樹脂の影響を低減するため、腕部91bの外側部分の厚みを厚くした場合は、腕部91bの形状が大きくなる。このため、操作部側筐体2の内部において、大きな腕部91bを収納するためのスペースが必要となり、また操作部側筐体2への挿入性が悪くなるおそれがある。しかしながら、本実施形態のキャップ90によれば、成形されたキャップ90の形状は従来と変わらないため、操作部側筐体2の内部スペースに制約を受けることがなく、また操作部側筐体2への挿入性にも影響を与えることがない。
【0061】
また、内側キャップ部材91の第2面側において、腕部91bと対応する位置に凸部91dを設けるとともに、その凸部91dを、頂部が最も高く盛り上がったドーム形状としたので、腕部91bの中心位置91e付近において、エラストマ樹脂の肉厚を最も厚くすることができる。したがって、第2の成形工程において、この部分へのポリカーボネート樹脂の侵入を更に低減させて、腕部91b付近のエラストマ樹脂の厚みが薄くなるのを防ぐことができる。すなわち、上記構成とした場合は、内側キャップ部材91の第2面側において、凸部91dを腕部91bと対応しない位置に設けたり、頂部が最も高く盛り上がったドーム形状としない場合に比べて、ポリカーボネート樹脂の侵入をより効果的に低減させることができる。
【0062】
また、凸部91dの表面に凹凸91hを設けた場合は、エラストマ樹脂とポリカーボネート樹脂との接触面積を増やすことができるため、内側キャップ部材91と外側キャップ部材92との界面における密着強度を高めることができる。
【0063】
また、本実施形態に係わるキャップの製造方法により製造されたキャップ90を操作部側筐体2に備えた携帯電話機1によれば、キャップ90を構成する部材の剥がれが生じにくいため、携帯電話機としての品質や耐久性を向上させることができる。
【0064】
なお、本発明は上述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、内側キャップ部材91の長手方向の端部に腕部91bを設けた例について示したが、腕部91bの位置はこの例に限らず、例えば長手方向の中央付近に設けられていてもよい。また、腕部91bは、一つに限らず、複数設けられていてもよい。その場合、腕部91bは隣接していてもよいし、離れた位置にあってもよい。
【0065】
また、本実施形態においては、成形部品としてキャップ90を挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されず、突出部を有する第1の成形部分と第2の成形部分とから成る成形部品であればよい。
【0066】
また、本実施形態においては、キャップ90の内側キャップ部材91と外側キャップ部材92との界面はほぼフラットになっているが、本発明はこれに限定されず、内側キャップ部材91の第2面において、腕部91bに対応する位置に凸部が設けられていてもよい。すなわち、第2の成形工程において、凸部91dが残ってもよい。
【0067】
また、本実施形態に係わる携帯電話機1においては、キャップ90は操作部側筐体2に対する着脱により開口部25を開閉するが、本発明はこれに限定されず、開口部を閉塞するだけのものであってもよい。
【0068】
また、本実施形態では、第1の熱可塑性部材としてエラストマ樹脂を使用し、第2の熱可塑性部材としてポリカーボネート樹脂を使用した例について示したが、第1の熱可塑性部材及び第2の熱可塑性部材は、この例に限定されるものではない。第1の熱可塑性部材及び第2の熱可塑性部材は、それぞれの用途に適した材質の中から適宜に選択される。
【0069】
また、本実施形態に示すキャップ90は、本実施形態の製造方法以外の製造方法によっても製造可能である。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、携帯電話機以外にも、突出部を有する成形部品を備えた携帯電子機器に適用することができる。更には、携帯電子機器以外にも、突出部を有する成形部品を備えた電子機器に適用することができる。携帯電話機以外の携帯電子機器としては、例えば、PHS(登録商標:Personal Handy phone System)、ポータブルゲーム機、ポータブルナビゲーション装置、PDA(Personal Digital Assistant)、ノートパソコン、操作部を備えるELディスプレイ又は液晶ディスプレイが挙げられる。
【0071】
更に、携帯電子機器以外の電子機器としては、例えば、電子辞書、電卓、電子手帳、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ラジオ等が挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0072】
1 携帯電話機(携帯電子機器)
2 操作部側筐体(筐体)
3 表示部側筐体
90 キャップ(成形部品)
91 内側キャップ部材(第1の成形部分)
91a 内側本体部(本体部)
91b 腕部(突出部)
91c 爪部分
91d 凸部
91g 傾斜部
91h 凹凸
91i 肉厚部
92 外側キャップ部材(第2の成形部分)
101 第1の金型
102 第2の金型
103 第3の金型
110 第1の金型対
120 第2の金型対
900 キャップ(成形部品)
910 内側キャップ部材(第1の成形部分)
910a 内側本体部(本体部)
910b 腕部(突出部)
920 外側キャップ部材(第2の成形部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金型と第2の金型とからなる金型対に第1の熱可塑性部材を射出して、本体部と、当該本体部の第1面側から突出した突出部と、前記本体部の前記第1面側と反対側の第2面側において前記突出部と対応する位置に設けられた凸部と、を備えた第1の成形部分を成形する第1の成形工程と、
前記第1の成形部分を設置した前記第1の金型と、第3の金型とからなる金型対に第2の熱可塑性部材を射出して、前記第1の成形部分の前記凸部を含む第2面側に前記第2の熱可塑性部材からなる第2の成形部分を成形する第2の成形工程と、
を有することを特徴とする成形部品の製造方法。
【請求項2】
前記凸部は、当該凸部の底面部における中心位置が、前記突出部が前記本体部の第1面側から突出する領域の中心位置と略一致する位置に設けられるとともに、前記凸部の頂部から前記第2面側に向かって傾斜する傾斜部を有することを特徴とする請求項1に記載の成形部品の製造方法。
【請求項3】
前記凸部は、表面に凹凸を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の成形部品の製造方法。
【請求項4】
第1の金型と第2の金型とからなる金型対に第1の熱可塑性部材を射出して、本体部と、当該本体部の第1面側から突出した突出部と、前記本体部の第2面側における前記突出部と対応する位置に設けられた凸部と、を備えた第1の成形部分を成形する第1の成形工程と、前記第1の成形部分を設置した前記第1の金型と、第3の金型とからなる金型対に第2の熱可塑性部材を射出して、前記第1の成形部分の前記凸部を含む第2面側に前記第2の熱可塑性部材からなる第2の成形部分を成形する第2の成形工程と、を有する成形部品の製造方法により製造された成形部品と、
開口部と前記成形部品の前記突出部が係合する被係合部とが形成された筐体と、を備え、
前記成形部品は、前記突出部が前記筐体の前記被係合部に係合して前記筐体に取り付けられると共に、前記開口部を閉塞することを特徴とする携帯電子機器。
【請求項5】
第1の熱可塑性部材からなり、本体部と、当該本体部の第1面側から突出した突出部と、前記本体部の第2面側において前記突出部と対応する位置に設けられた凸部とを備えた第1の成形部分、及び第2の熱可塑性部材からなり、前記第1の成形部分の前記凸部を含む第2面側に形成された第2の成形部分、を有する成形部品と、
開口部と前記成形部品の前記突出部が係合する被係合部とが形成された筐体と、を備え、
前記成形部品は、前記突出部が前記筐体の前記被係合部に係合して前記筐体に取り付けられると共に、前記開口部を閉塞することを特徴とする携帯電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−194902(P2010−194902A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43221(P2009−43221)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】