説明

成膜制御方法及び成膜制御装置並びに成膜装置

【課題】 被覆材料の状態をより正確に検出して制御することで、安定した成膜を行うことができる成膜制御方法、成膜制御装置、この制御装置を具える成膜装置を提供する。
【解決手段】 本発明成膜制御装置は、窓部105を有する成膜装置100内で被覆材料を蒸発させて成膜対象200に薄膜を形成する際、窓部105を透過してきた被覆材料からの光を検出し、この検出光に基づいて蒸発量を調整する。窓部105に付着した被覆材料により窓部105の透過率が低下し、検出光が減衰した分を補償するべく、本発明制御装置は、成膜装置100の外部に配される光源20から出射されて窓部105を透過していない基準光の強度と、窓部105を透過した透過光の強度とを第一・第二測定部21,22によりそれぞれ測定し、これら強度を比較して窓部105の透過率を求め、この透過率に基づいて補正部により検出光を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆材料を蒸発させて成膜対象に薄膜を形成するにあたり、成膜状態を制御する成膜制御方法、この制御方法に適した成膜制御装置、及びこの成膜制御装置を具える成膜装置に関する。特に、被覆材料の状態の検知をより精度よく行って、高品質な成膜物を得ることができる成膜制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、蒸発させた被覆材料を成膜対象の表面に堆積させて成膜を行う成膜装置が知られており、例えば、真空雰囲気下で成膜を行う真空蒸着装置などがある。また、成膜装置として、成膜対象が長尺な板材などの場合、成膜装置内に連続的に板材を供給し、装置内で板材を走行させて、その表面に蒸発させた被覆材料を堆積させる構成のものが開発されている。成膜対象が長尺材である場合、成膜装置は、成膜対象の幅方向及び長手方向に均一的な厚さの薄膜が連続的に形成できることが望まれる。そこで、従来、成膜の際に被覆材料を蒸発させる蒸発源の温度や蒸発している被覆材料の分布状態などを測定し、この結果に基づいて蒸発量の調整を行う成膜制御装置を成膜装置に併設させ、蒸発量の安定化を図っている。このような成膜制御装置として、水晶振動式、原子吸光式、電子衝撃式のものが代表的である(特許文献1段落0003参照)。
【0003】
水晶振動式の制御装置は、水晶振動子からなるプローブを成膜装置のチャンバ内に配置し、蒸発した被覆材料をプローブに直接付着させ、被覆材料の付着による周波数の変化から蒸発量を計測する。原子吸光式の制御装置は、特定の光を蒸発ビーム(成膜対象に向かう被覆材料の蒸気群)に照射し、蒸発ビームを透過してきた光の光量を測定し、この光量から蒸気物質が吸収した量を求め、この吸収量により蒸発量を計測する。電子衝撃式の制御装置は、チャンバ内に配置した熱電子発生部から熱電子を付勢した電子ビームを蒸発ビームに衝撃させ、蒸気物質から励起された励起線の光強度を測定し、この強度から蒸発量を計測する。
【0004】
また、特許文献1には、蒸発ビームにレーザ光を照射して蒸気物質を蛍光発光させ、この蛍光をCCDカメラで撮像して可視画像化し、この画像により蛍光強度を求め、得られた蛍光強度から蒸発ビームの空間数密度分布を取得し、取得した分布と基準分布とを比較し、その結果に基づいて蒸発源の温度を調整することで、板材の幅方向における膜厚の分布を制御する技術が開示されている。特許文献2には、放射温度計や赤外線温度計などといった非接触式の温度計を具え、蒸発源が発した光から蒸発源の温度を測定し、測定された温度に基づいて蒸発温度の調整を行う真空蒸着装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平7-216545号公報
【特許文献2】特開平7-331421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記水晶振動式の制御装置は、蒸発した被覆材料をプローブに直接付着させる構成であるため、付着量に限界があり、成膜速度が大きい場合、短時間しか成膜状態を検知できない。例えば、15μm程度の厚さの成膜を行う場合、成膜速度を50nm/secとすると、上記水晶振動式の制御装置は、5分程度しか蒸発量の計測を行えない。成膜対象が長尺材である場合、長時間に亘り成膜状態を検知できることが望まれるため、水晶振動式の制御装置は、実用的でない。
【0007】
一方、原子吸光式や電子衝撃式の制御装置、特許文献1に記載される制御装置、特許文献2に記載される制御装置は、成膜装置に予め設けられた窓部を透過する光を、成膜装置の外部に配置した受光部により感知し、この光に基づいて、温度や光強度などといった蒸発量の調整に必要なパラメータを測定する構成である。この構成により受光部は、窓部に遮られて被覆材料が付着することがないため、長時間に亘り光を感知することができる。しかし、窓部は、成膜装置において蒸発源を臨む位置に設けられることから蒸発された被覆材料が付着し、成膜時間が長くなると、被覆材料の付着により窓部が曇って、透過率が低下し、受光する光が減衰して、光に基づくパラメータを正しく測定できないという問題がある。そのため、蒸発量の制御を精度よく行うことができず、成膜物の品質の低下を招く。
【0008】
窓部に被覆材料が付着することを防止するべく、成膜装置において蒸発源からの仰角θが小さくなるような位置に窓部を設けることが考えられる。蒸発分子は、理論的にはcosθ則による分布を形成することが一般に知られている。そのため、仰角θが大きい位置では、蒸発した被覆材料の密度が高く、仰角θが小さい位置では、蒸発した被覆材料の密度が低いことから、仰角θが小さい位置に窓部を設けると、蒸発した被覆材料が窓部に付着しにくくなる。しかし、成膜速度が速くなると、θが小さい場合にも蒸発分子同士の相互作用が大きくなり、蒸発した被覆材料が窓部に付着し易くなる。そのため、成膜装置における窓部の位置によらず、窓部を透過してきた被覆材料からの光をより正確に検出できることが望まれる。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、その主目的は、成膜装置に具える窓部を透過してきた被覆材料からの光を検出して蒸発量の制御を行うにあたり、より精度よく検出光を検出することができる成膜制御方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、この制御方法に適した成膜制御装置を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、この成膜制御装置を具える成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、窓部の透過率を求め、この透過率に基づいて窓部を透過してきた検出光を補正することで、上記目的を達成する。本発明成膜制御方法は、窓部を有する成膜装置内で被覆材料を蒸発させて成膜対象に薄膜を形成する際に上記窓部を透過してきた被覆材料からの光を検出し、この検出光に基づいて蒸発量の調整を行うものであり、特に、以下の構成を具えることを特徴とする。本発明成膜制御方法は、上記成膜装置の外部に配される光源から出射されて窓部を透過していない基準光の強度と、上記光源から出射されて窓部を透過した透過光の強度とを測定し、これら基準光の強度と透過光の強度とを比較して窓部の光の透過率を求め、この透過率に基づいて上記検出光を補正する。
【0011】
上記本発明制御方法は、以下のような成膜制御装置にて実現することができる。本発明成膜制御装置は、窓部を有する成膜装置内で被覆材料を蒸発させて成膜対象に薄膜を形成する際に上記窓部を透過してきた被覆材料からの光を検出する検出部と、この検出光に基づいて蒸発量の調整を行う制御部とを具えるものであり、特に、以下の構成を具えることを特徴とする。本発明成膜制御装置は、上記成膜装置の外部に配される光源と、この光源から出射された光の強度を測定する二つの測定部と、測定した二つの強度に基づき、窓部の透過率を演算する演算部と、得られた演算結果に基づき、上記検出光の補正を行う補正部とを具える。二つの測定部のうち、一方の測定部(第一測定部)は、上記光源から出射されて窓部を透過していない基準光の強度を測定する。他方の測定部(第二測定部)は、上記光源から出射されて窓部に入射され、成膜装置内で反射されて窓部を透過してきた透過光の強度を測定する。また、演算部は、得られた基準光の強度と透過光の強度とを比較して、窓部の透過率を演算する。
【0012】
本発明成膜制御方法、及びこの制御方法を利用する本発明成膜制御装置は、被覆材料を蒸発させて成膜対象に薄膜を形成する成膜装置により成膜を行う際、成膜状態の制御、具体的には、例えば、蒸発量の調整を行うものである。まず、成膜装置及び成膜対象について説明する。成膜装置としては、被覆材料を蒸発させて成膜対象を成膜するPVD法による装置が挙げられ、例えば、真空雰囲気下で成膜を行う真空蒸着装置が挙げられる。このような成膜装置は、基本構成として、成膜対象を保持する保持部と、成膜対象に被覆する被覆材料を蒸発させる蒸発源と、これら保持部及び蒸発源が収納されるチャンバを具える。保持部は、成膜対象の形状などにより、種々の構成のものを利用することができる。例えば、成膜対象が長尺材の場合、保持部は、チャンバ内に連続的に成膜対象を供給し、薄膜が形成された成膜対象がチャンバの外に排出されるように、成膜対象を保持すると共に、供給側から排出側に成膜対象を搬送可能に構成することが好ましい。蒸発源は、被覆材料を保持し、加熱手段により被覆材料を加熱させて溶解気化させる部材であり、坩堝やクヌーセンセルなどが利用できる。加熱方法は、例えば、電子線照射、抵抗加熱、誘導加熱などが挙げられ、被覆材料の材質や成膜方法などに応じて適宜選択するとよい。チャンバは、上記保持部や蒸発源を収納し、成膜時、所定の雰囲気を維持する部材であり、例えば、真空蒸着装置では、真空チャンバとし、真空状態を維持可能な構成としている。本発明成膜制御方法、及び成膜制御装置では、窓部を有する成膜装置に対して、窓部を透過してきた被覆材料からの光を検出して、蒸発量の制御を行う。従って、成膜装置は、特に、蒸発源を臨む位置に窓部を具えておく。窓部は、蒸発源の熱や被覆材料から発せられる特性X線などに対して耐性を有する材料にて構成するとよく、例えば、異なる材料からなる複数のガラスを組み合わせて構成してもよい。具体的には、例えば、耐熱特性に優れる耐熱ガラスと、特性X線に対する耐性に優れる鉛ガラスとを組み合わせて構成したものが挙げられる。このような成膜装置を利用して薄膜の形成が行われる成膜対象は、短尺材、長尺材のいずれでもよく、材質としては、銅、鋼、超硬合金、アルミニウムなどの金属材料からなるもの、その他、樹脂材料からなるものなどが挙げられる。また、被覆材料としては、アルミニウムや種々の合金などの金属材料、シリコンなどの非金属材料が挙げられる。
【0013】
上記成膜装置に対して、本発明制御方法及び制御装置は、上記窓部を透過してきた被覆材料からの光を検出し、この検出光に基づいて蒸発量の調整を行う。そこで、本発明制御装置は、上記窓部を透過してきた検出光の検出を行う検出部と、この検出光に基づいて蒸発量の調整を行う制御部とを具える。このような本発明制御装置は、主たる構成部材を成膜装置の外部に配置させ、成膜装置内で飛散する蒸発した被覆材料が付着しないようにする。検出部は、検出光に応じた構成を適宜選択するとよく、検出光を受光する受光部、受光された光に基づき温度などのパラメータを求める計算部とを具える構成を基本構成とするとよい。検出光としては、例えば、1.成膜制御装置が働きかけを行わず、被覆材料自体が発する光、2.成膜制御装置が出射した特定の光に起因して被覆材料自体が発する光、3.成膜制御装置から出射されて蒸発した被覆材料を透過してきた光などが挙げられる。
【0014】
上記1.の検出光の場合、検出部は、例えば、放射温度計や赤外線温度計、色温度計などのように被覆材料自体が放出する光を受光し、非接触で蒸発源の温度を計測できる構成とすることが挙げられる。蒸発量は、通常、蒸発源の温度に伴って多くなるため、制御部は、温度が所定値以上の場合、蒸発源の温度を低くして蒸発量を少なくするように加熱手段を調整し、温度が所定値よりも低い場合、蒸発源の温度を高くして蒸発量を増加するように加熱手段を調整するとよい。また、成膜対象の幅方向、長手方向に温度分布を取得し、制御部は、温度分布にばらつきがある場合、このばらつきを是正するように蒸発量の調整を行うとよい。
【0015】
上記2.の検出光の場合、検出部は、例えば、電子衝撃式の構成や特許文献1に記載されるような蛍光強度を利用した構成とすることが挙げられる。電子衝撃式の構成とする場合、成膜装置に熱電子発生部を配置させておき、この熱電子発生部から放出された熱電子を加速して付勢した電子ビームを蒸気ビームに衝撃させた際、蒸発物質から励起された励起線を検出し、この励起線の強度を計測できる構成とすることが挙げられる。蒸発量は、通常、上記強度の大きさに伴って多くなるため、制御部は、上記強度が所定値以上の場合、蒸発量を少なくするように加熱手段を調整し、上記強度が所定値よりも低い場合、蒸発量を多くするように加熱手段を調整するとよい。また、成膜対象の幅方向、長手方向に上記強度の分布を取得し、制御部は、強度分布にばらつきがある場合、このばらつきを是正するように蒸発量の調整を行うとよい。一方、蛍光強度を利用した構成とする場合、検出部は、成膜装置の外部にレーザ光の出射部を配置させておき、窓部からレーザ光を入射して蒸発ビームに照射し、蒸発物質を蛍光発光させた際、この蛍光を受光可能な受光部を成膜装置の外部に配置させ、受光した蛍光から蛍光強度を測定し、この蛍光強度から蒸発ビームの空間数密度分布を計測できる構成とすることが挙げられる。そして、制御部は、計測した分布と基本の分布とを比較し、基本の分布に近付くように加熱手段を調整するとよい。
【0016】
上記3.の検出光の場合、検出部は、例えば、原子吸光式の構成とすることが挙げられる。具体的には、成膜装置の外部に被覆材料の固有吸光線の波長と一致する光の出射部を配置させておき、この光を入射側窓部に入射して蒸発ビームに照射し、蒸発ビームに吸光されず透過されて出射側窓部を透過してきた光を受光可能な受光部を成膜装置の外部に配置させ、受光した透過光の光量から蒸発物質の光の吸収量(吸光量)を測定し、この吸光量から蒸気ビームの蒸発量を計測できる構成とすることが挙げられる。そして、制御部は、蒸発量が所定値以上の場合、蒸発量を少なくするように加熱手段を調整し、蒸発量が所定値よりも少ない場合、蒸発量を多くするように加熱手段を調整するとよい。また、成膜対象の幅方向、長手方向に上記蒸発量の分布を取得し、制御部は、蒸発量にばらつきがある場合、このばらつきを是正するように蒸発量の調整を行うとよい。なお、この検出部の場合、成膜装置には、入射側窓部と出射側窓部との二つの窓部を具えておく。このとき、後述する窓部の透過率は、少なくとも出射側窓部について求め、入射側窓部は、出射側窓部の透過率と同様であるとして扱ってもよいし、入射側窓部及び出射側窓部の双方の透過率を求めるようにしてもよい。そして、二つの透過率に基づいて検出光の補正を行うようにしてもよい。
【0017】
制御部は、上述のように検出部にて得られた蒸発源の温度や蒸発量などに基づいて、蒸発量の調整を行う。蒸発量の調整は、例えば、加熱手段が電子線照射の場合、照射量を増減したり、抵抗加熱や誘導加熱の場合、通電量を増減することが挙げられる。このような制御部は、例えば、コンピュータなどを利用することが挙げられる。また、制御部には、検出部にて得られた結果などに基づいて判定を行う判定部、判定結果に基づき命令を出す命令部、演算値などを記憶する記憶部などを具えるものを用いてもよい。検出部のうち、計算部を制御部に具える構成としてもよい。更に、制御部は、加熱手段の制御だけでなく、成膜対象の導入速度、後述する光源、第一測定手段、第二測定手段の制御などを行うように構成してもよい。なお、制御部には、モニタを接続させて、制御条件を入力するなどの動作を任意に行えるようにしてもよい。入力操作は、例えば、タッチパネル式としてもよいし、キーボードによる入力形式としてもよい。このモニタの制御も、制御部にて行うように構成してもよい。
【0018】
本発明成膜制御装置は、上述のように従来の制御装置の構成を基本構成として利用することができる。特に、本発明制御方法及び制御装置において特徴とする点は、成膜装置に具える窓部を透過してきた被覆材料からの光(検出光)を受光して所定のパラメータを測定するにあたり、上記窓部の透過率に応じて、上記検出光を補正することにある。窓部の透過率を求めるために、本発明制御方法及び制御装置では、蒸発された被覆材料が付着しないように成膜装置の外部に光源を具えておき、この光源の光を利用する。このような光源として、例えば、レーザ光を発するものが挙げられる。このような光源は、少なくとも一つ具えるとよく、後述する基準光と透過光とを得るべく、一つの光源を共通して用いてもよいし、同様の仕様の光源を二つ具えて、一方の光源を基準光用とし、他方の光源を透過光用にしてもよい。
【0019】
そして、本発明制御方法及び制御装置では、上記光源から出射されて窓部を透過していない光を基準光とし、上記光源から出射されて窓部を透過した光を透過光とし、これら基準光の強度と透過光の強度とを測定し、これら二つの強度を比較して、透過率を求める。基準光は、窓部を透過していないことから、窓部に付着された被覆材料の影響を受けず、光源から出射された際の強度がほぼ維持される。一方、透過光は、窓部を透過していることから、窓部に被覆材料が付着されている場合、光源出射時の光よりも減衰して強度が低下したものとなる。これら強度の差が透過率として表わされる。透過率は、例えば、基準光の強度に対する透過光の強度の割合、つまり、透過光の強度/基準光の強度により求めることが挙げられる。このような透過率を求めるべく、本発明制御装置は、上記光源に加えて、基準光の強度を測定する第一測定部と、透過光の強度を測定する第二測定部と、二つの強度を比較して透過率を演算する演算部とを具える。
【0020】
なお、透過光は、上述した入射側窓部と出射側窓部とを具える場合を除いて、基本的には、光源からの光が入射された窓部と同じ窓部を透過してきた光とする。窓部に入射された光を同一の窓部から出射されるようにするには、例えば、成膜装置内に反射部を具えておくことが挙げられる。反射部は、ミラーなどを利用するとよい。
【0021】
第一測定部及び第二測定部はそれぞれ、基準光、透過光を受光する受光部(フォトディテクタ)と、受光された光に基づき強度を求める計算部とを具える構成が挙げられる。一つの光源から出射された光から基準光及び透過光の受光を行う場合、光源と第一測定部との間にハーフミラーといった半透過部を配置させ、第一測定部は、光源から半透過部を透過した光を検出し、第二測定部は、半透過部を反射して窓部に入射され、成膜装置内で反射されて窓部を透過した光を検出する構成とすることが挙げられる。このような構成とすることで、一つの光源から出射された光を二つに分岐し、これら二つの光の強度を各測定部でそれぞれ測定することができる。
【0022】
上記得られた透過率に基づいて、本発明制御方法及び制御装置は、成膜装置に設けられた窓部を透過してきた被覆材料からの光(検出光)を補正する。補正を行うにあたり、本発明制御装置は、検出光の補正を行う補正部を具える。上述のように窓部に被覆材料が付着した場合、窓部の透過率が変化する、具体的には透過率が低下することで、検出光が減衰し、この検出光に基づいて求められる温度などの所定のパラメータが実際の値と異なる恐れがある。例えば、温度などのパラメータが小さく測定された場合、蒸発量の低下ではなく検出光の減衰によるものであるにもかかわらず、蒸発量が低下していると誤認する恐れがある。従って、窓部の透過率を適宜求めて、透過率に基づいて減衰した分を補正する必要がある。そこで、本発明では、窓部の透過率を求め、透過率に応じて検出光を補正する。この構成により本発明は、温度などの所定のパラメータをより正確に測定し、測定結果に基づいて蒸発量をより正確に調整することができ、蒸発量の安定化をより確実に図ることができる。補正は、例えば、透過率に基づいて減衰した分を電気信号として補償することが挙げられる。上記演算部、補正部は、コンピュータを利用することが挙げられる。上記制御部として用いるコンピュータと共通に用いてもよい。
【0023】
上記構成を具える本発明制御装置により成膜状態の制御を行う場合、例えば、以下のステップを有するプログラムをコンピュータに行わせるとよい。
1. 第一測定部により、基準光の強度を測定し、第二測定部により、透過光の強度を測定するステップ
2. 演算部により、測定された基準光の強度と透過光の強度とを比較して、窓部の透過率を演算するステップ
3. 検出部により、被覆材料からの光を検出するステップ
4. 判定部により、透過率と設定値との大小関係を比較し、透過率が設定値よりも小さい場合、補正部により、前記検出光の補正を行うステップ
5. 検出された検出光、又は補正された検出光に基づき、検出部により、蒸発量の調整に必要なパラメータを演算するステップ
6. 判定部により、得られたパラメータが所定の範囲を満たすか否かを判定し、所定の範囲を満たさない場合、制御部は、調整値に応じて蒸発量を増減するステップ
【0024】
上述した成膜制御装置は、既存の成膜装置に併設させてもよいし、上記成膜制御装置を具えた成膜装置を構築してもよい。成膜装置としては、例えば、成膜対象を保持する保持部と、成膜対象に被覆する被覆材料を蒸発させる蒸発源と、これら保持部と蒸発源とが配置され、上記窓部を有するチャンバと、そして上記本発明制御装置を具える構成が挙げられる。特に、成膜対象を長尺材とする場合、成膜装置は、チャンバ内に連続的に成膜対象を供給可能な構成とすることが好ましく、例えば、保持部を、成膜対象を保持すると共に、チャンバ内で成膜対象を搬送可能な構成とすることが挙げられる。また、成膜装置は、真空雰囲気下で成膜を行う真空蒸着装置とする場合、チャンバとして、真空状態を維持可能な真空チャンバを用いるとよい。このような本発明成膜装置は、上記成膜制御装置を具えることで、窓部を透過してきた検出光に基づき蒸発量の調整を行うことができる。特に、本発明成膜制御装置により窓部の透過率を求めて、検出光の補正を行うため、温度などといった所定のパラメータの測定をより正確に行うことができ、その結果、蒸発量の調整をより正確に行うことができる。
【0025】
上記本発明制御装置では、透過率を求めるにあたり、光源から出射されて窓部に入射され、成膜装置内で反射されて窓部を透過してきた透過光を検出する。そこで、本発明成膜装置は、上記光源からの入射光を反射できるようにミラーなどの反射部を具えておく。
【0026】
本発明では、上述のように透過率を求めて、この透過率により検出光の補正を行うため、成膜装置に具える窓部に被覆材料が付着していても、精度よく所定のパラメータの測定を行うことができる。しかし、窓部には、できるだけ被覆材料が付着しないことが望まれる。従って、成膜装置は、検出光の検出や透過率の演算を行うときのみ、窓部から蒸発源などを臨むことができ、上記検出などを行わないときには、被覆材料が窓部に付着しないような構成とすることが好ましい。例えば、窓部と蒸発源との間に開閉可能なシャッタ部を具え、上記検出などを行うときは、シャッタ部を開いて、窓部に対し、光源からの光を入射可能で、更に入射されて反射部で反射された光が透過可能であり、かつ被覆材料からの光が透過可能な状態とし、上記検出などを行わないときは、シャッタ部を閉じることで、窓部と蒸発源との間を遮り、窓部への被覆材料の付着を防止する構成とすることが挙げられる。特に、このシャッタ部は、反射部にも被覆材料が付着しないように配置することが好ましい。具体的には、反射部が窓部と蒸発源との間に配置されることから、反射部と蒸発源との間にシャッタ部を配置させることで、シャッタ部を閉じた際、窓部及び反射部の双方に被覆材料が付着することを防止することができる。このようなシャッタ部を具えることで、本発明成膜装置は、蒸発量の調整をより長期に亘り行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
成膜状態の観測に用いられる窓部の透過率を求め、窓部を透過してくる検出光をこの透過率により補正する構成を具える本発明によれば、蒸発した被覆材料が付着して窓部が曇っていても、検出光に基づいて求められる蒸発量の調整に必要なパラメータをより正確に測定することができる。従って、成膜にあたり、本発明を適用することで、蒸発量の安定化をより確実に図ることができる。また、本発明では、成膜制御に利用する主たる構成部材を成膜装置の外部に具える構成とするため、長時間に亘り、蒸発量の調整を行うことができる。従って、成膜対象が板材などの長尺なものである場合であっても、本発明を利用することで、長期に亘って成膜状態が安定しており、従来と比較して成膜対象の幅方向、長さ方向における厚さのばらつきを小さくすることができるため、同幅方向、長さ方向に均一的な薄膜を成膜することができ、高品質な成膜物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明成膜制御装置を具える成膜装置の概略構成図、図2は、本発明成膜制御装置の機能ブロック図である。
【0029】
本発明成膜制御装置は、成膜装置100に併設されて、成膜対象200の成膜状態を制御するものである。まず、成膜装置100を説明する。この成膜装置100は、真空雰囲気下で成膜対象200に被覆材料の蒸着を行う真空蒸着装置であり、真空引きが可能で、真空状態を維持可能な真空チャンバ101と、チャンバ101内に配置されて被覆材料を加熱して溶融・蒸発させる坩堝(蒸発源)102と、坩堝102内の被覆材料を加熱する加熱手段103とを具える。本例において成膜対象200は、長尺な板材であり、成膜時、チャンバ101内を真空に保持できるように構成された供給口からチャンバ101内に連続的に導入され、蒸発された被覆材料がその表面に堆積され、薄膜が形成される。薄膜が被覆された成膜対象200は、供給口と同様にチャンバ101内を真空に保持可能に構成された排出口から排出される。このような成膜対象200をチャンバ101内に導入・排出するべく、成膜装置100の外部には、成膜対象200を供給口に送り出す送出機構(図示せず)、及び薄膜が形成されて排出口から排出された成膜対象200を巻き取る巻取機構(図示せず)を具え、成膜装置100内には、導入された成膜対象200を保持すると共に、供給口から排出口への搬送を行う搬送部104を具える。搬送部104は、薄膜が形成されない成膜対象の裏面側に配置され、回転可能な円筒状のローラ部104aと、薄膜が形成される成膜対象の表面側を保持する一対の湾曲片104bとを具える。加熱手段103には、電子銃(電子ビーム装置)を用い、電源103aにより出力が調整される構成とした。電源103aは、制御部50により制御される。制御部50には、判定部、命令部、記憶部、演算部などを具えるコンピュータを用いた。また、制御部50には、モニタ60を接続させており、制御条件を入力するなどの動作を任意に行えるようにしている。
【0030】
成膜装置100には、坩堝102を覆うように配置され、所定の大きさの開口部を具える防着板(図示せず)と、開口部を開閉する開閉部(図示せず)とを具え、蒸発された被覆材料は、開閉部が開かれた際、開口部を通過して成膜対象200に付着する。上記開口部の大きさ、成膜対象200の供給速度、成膜速度などを調整することで、成膜対象200の幅方向、長手方向に均一的で所望の厚さの薄膜を形成することができる。開閉部の開閉動作の制御は、制御部50にて行う構成としてもよい。
【0031】
更に、成膜装置100のチャンバ101には、坩堝102を臨める位置に窓部105を設けており、この窓部105により被覆材料の溶融状態(温度)を観測して、後述する成膜制御装置により、成膜状態の制御を行う。本例では、チャンバ101の外側に両端が開口した筒状部106を突設し、一端を坩堝側に向けて開口させ、他端の開口部を塞ぐように窓部105を設けた。窓部105は、耐熱性と、特性X線の影響とを考慮して、耐熱ガラスと、鉛ガラスとを組み合わせて構成した。また、筒状部106内には、所定の位置にミラーからなる反射部107を配置させている。
【0032】
本例では、成膜物としてリチウム二次電池の電極材料(集電体の上に活物質層を具える構成)を想定し、成膜対象を集電体、被覆材料を活物質層の形成材料とした。具体的には、集電体として銅箔、活物質層の形成材料として、シリコンを用いた。
【0033】
次に、成膜制御装置を説明する。成膜制御装置は、坩堝102内の被覆材料から放射される光を検出する検出部10と、検出された検出光に基づいて蒸発量の調整を行う制御部50とを具える。本例では、被覆材料の付着防止、高温環境となるチャンバ101との断熱、高圧環境となるチャンバ101との圧力差による破損の防止のために、成膜装置100の外部に成膜制御装置を配置させている。検出部10は、図2に示すように坩堝102内の被覆材料から放射される光を受光する受光部11と、受光された光に基づき、坩堝102内の温度を計測する主計算部12とを具える。受光部11は、三つのフォトディテクタA〜Cから構成され、各フォトディテクタA〜Cは、検出方向前方にそれぞれフィルタ13を具える。フィルタ13は、色の異なる色ガラスであり、これらフィルタ13により、フォトディテクタA〜Cは、被覆材料からの光のうち、それぞれ異なる色の光、即ち、波長の異なる光を受光する。これらの光は、真空チャンバ101に具える筒状部106を通過し、窓部105及びフィルタ13を透過して、フォトディテクタA〜Cにそれぞれ受光される。主計算部12は、各フォトディテクタA〜Cから得られた光の出力比により、坩堝102内の温度を計測する。制御部50は、第一判定部51を具えており、第一判定部51により、求められた温度が所定の範囲内であるかを判定し、判定の結果、計測された温度が所定範囲外の場合、坩堝102の温度調整を行うべく、成膜装置100に具える電子銃103の電源103aの出力を調整する。具体的には、例えば、温度が所定範囲の下限値よりも低い場合、坩堝102は、温度が低く、蒸発量が少ないことになる。そこで、蒸発量を増加させるべく、坩堝102の温度を高くするために、制御部50は、電子銃103の出力を大きくする。一方、温度が所定範囲の上限値よりも高い場合、坩堝102の温度が高く、蒸発量が多いことになる。そこで、蒸発量を低減させるべく、坩堝102の温度を低くするために、制御部50は、電子銃103の出力を小さくする。このように成膜装置100は、成膜制御装置を具えて蒸発量を調整することで、成膜対象の幅方向、長手方向に均一的な薄膜を安定して形成することができる。
【0034】
本例に示す成膜制御装置は、成膜状態(具体的には、坩堝102の温度)を制御するにあたり、上述のように成膜装置100に具える窓部105を透過してきた被覆材料からの光を用いて行う。この窓部105は、坩堝102を臨むように配置されているため、チャンバ101内に飛散する蒸発した被覆材料が筒状部を通過して窓部105の表面に付着する。被覆材料が窓部105に付着すると、窓部105を透過してきた被覆材料からの光は減衰するため、フォトディテクタA〜Cに受光される光が低下し、坩堝102の温度を低く測定する恐れがある。そこで、本例に示す成膜制御装置は、窓部105に付着した被覆材料に影響されずに坩堝102の温度をより正確に測定するべく、窓部105の透過率を測定する手段を具え、測定した透過率により、フォトディテクタが受光した光(検出光)を補正する。具体的には、成膜装置100の外部に配される光源20から出射されて窓部105を透過していない基準光の強度と、光源20から出射されて窓部105を透過した透過光の強度とを測定し、これら二つの強度から窓部105の透過率を求め、得られた透過率に応じて検出光を補正する。そこで、本例に示す成膜制御装置は、上記基準光の強度を測定する第一測定部21と、上記透過光の強度を測定する第二測定部22と、両強度を比較して透過率を演算する演算部52と、得られた演算結果に基づき、検出光の補正を行う補正部53とを具える。
【0035】
光源20は、レーザ光を出射可能なレーザ装置を用い、電源23に接続され、電源23により出力が調整される。この電源23は、制御部50に接続され、制御部50にて制御される。第一測定部21は、光源20から出射されて、窓部105を透過させていない光(基準光)を受光する第一フォトディテクタ24と、受光した光の強度を計測する第一計算部25とを具える。第二測定部22は、同じ光源20から出射されて、窓部105を透過させた光(透過光)を受光する第二フォトディテクタ26と、受光した光の強度を計測する第二計算部27とを具える。本例に示す成膜制御装置では、同一の光源20から出射された光により、基準光と透過光とを効率よく受光するため、光源20の光軸と同軸となるように第一測定部21の第一フォトディテクタ24を配置し、光源20と第一測定部21との間にハーフミラー28を配置した。そして、ハーフミラー28を透過した光が第一フォトディテクタ24に受光され、ハーフミラー28を反射した光(第一反射光)が窓部105を透過して第二フォトディテクタ26に受光される構成とした。より具体的には、ハーフミラー28と光源20との間にミラー29を配置させ、ミラー29にて第一反射光を反射させ、この反射された光(第二反射光)を窓部105に透過させ、窓部105を透過した第二反射光は、成膜装置100内に具える反射部107で反射され、この反射された光が窓部105を透過して透過光として第二測定部22の第二フォトディテクタ26に受光される。演算部52及び補正部53は、制御部50に具える構成とした。
【0036】
なお、本例では、ハーフミラー28やミラー29を具える構成としたが、同一のレーザ光を出射できる光源を二つ用意し、一方の光源からのレーザ光を第一フォトディテクタで受光し、他方の光源から出射した上記と同じレーザ光を窓部に透過させて、窓部からの透過光を第二フォトディテクタで受光する構成としてもよい。
【0037】
演算部52は、第一測定部21及び第二測定部22から得られた基準光の強度、及び透過光の強度を比較して、窓部105の透過率を演算する。演算の結果に基づき、制御部50に具える第二判定部54は、演算値と設定値との大小関係を比較する。演算値が設定値よりも小さい場合は、窓部105に被覆材料が付着しているため、検出光が減衰し、検出部10において光の強度が適切に測定できていないと考えられる。そこで、この場合、補正部53は、演算値に基づいて検出光の補正を行う。そして、この補正が行われた検出光に基づいて、検出部10は、坩堝102の温度を測定し、この結果に基づき、制御部50は、成膜状態の制御を行う。
【0038】
このような成膜制御装置により、成膜状態を制御する手順をより具体的に説明する。図3は、本発明成膜制御装置を用いて成膜状態の制御を行う際の手順を示すフローチャートである。まず、制御部は、光源に出力命令を出し、第一測定部に基準光の強度S1の測定、第二測定部に透過光の強度S2の測定を行わせる(ステップS1)。この命令により、第一測定部は、光源から出射され、成膜装置に具える窓部を透過していない基準光を第一フォトディテクタで受光し、受光した基準光の強度を第一計算部で計測する。同様に第二測定部は、光源から出射され、成膜装置に具える窓部を透過して反射部で反射され、再度窓部を透過した透過光を第二フォトディテクタで受光し、受光した透過光の強度を第二計算部で計測する。得られた両強度S1,S2を比較して、演算部は、窓部の透過率μを演算する(ステップS2)。透過率μは、両強度S1,S2の比S2/S1とした。演算された透過率μは、記憶部に一時記憶させておく。
【0039】
一方、制御部は、検出部に命令を出し、坩堝内の被覆材料から放出された光を検出させる(ステップS3)。この命令により、検出部は、坩堝内の被覆材料から放出されて窓部を透過してきた光を三つのフォトディテクタで受光し、三つの検出光を出力する。得られた三つの検出光はそれぞれ、記憶部に一時的に記憶させておく。
【0040】
検出光が得られたら、制御部は、記憶部から透過率μを呼び出し、第二判定部に透過率μと設定値xとの大小関係を判定させる(ステップS4)。この命令により、第二判定部は、予め設定されて記憶部に入力された設定値xを呼び出し、透過率μがμ≧xを満たすか否かを判定する。透過率μがμ≧xを満たさない場合、即ち、透過率μが設定値xよりも小さい場合、窓部の透過率が被覆材料の付着などにより変化していると考えられる。従って、ステップS3で得られた検出光をそのまま用いると、正確な温度を測定することができない。そこで、制御部は、補正部に命令して、透過率μに応じて三つの検出光をそれぞれ補正させる(ステップS5)。この命令により、補正部は、透過率に基づいて、被覆材料が付着した窓部の透過によって減衰した分の光量を求め、この減衰分を電気信号として補償する。更に、制御部は、検出部の主計算部に命令し、補正された検出光から温度Tを計測させる(ステップS6)。この命令により主計算部は、補正された三つの検出光を比較して、蒸発量の調整に用いるパラメータとなる温度Tを求める。一方、透過率μがμ≧xを満たす場合、窓部は、被覆材料の付着などがなく、或いはほとんどなく、検出部にて検出した検出光をそのまま用いて温度を求める。そこで、制御部は、検出部の主計算部に命令し、検出部にて得られた三つの検出光から温度Tを計測させる(ステップS6)。
【0041】
次に、得られた温度Tに基づいて、成膜状態の制御を行う。まず、制御部は、第一判定部に命令し、温度Tが所定の範囲に含まれるか否かを判定させる(ステップS7)。本例では、この命令により、第一判定部は、予め設定されて記憶部に入力されていた設定温度TS,温度範囲(0,t1,0<t1)を呼び出し、0≦T-TS≦t1を満たすか否かを判定する構成とした。温度Tは、設定温度TSとの偏差が無いこと、即ち、T-TS=0であることが好ましい。そこで、偏差をOに近づけるように、即ち、両温度の差が0以上t1以下となるように被覆材料の加熱手段の調整(本例では電子銃の出力の調整)を行い、蒸発量を調整する。
【0042】
温度Tが0≦T-TS≦t1を満たさない場合、温度Tが高過ぎる、或いは低過ぎると考えられる。そして、温度Tが高すぎる場合は、蒸発量が多く、温度Tが低過ぎる場合は、蒸発量が少ないと考えられる。そこで、制御部は、第一判定部に命令し、温度Tが高過ぎるのか、低過ぎるのかを判定させる(ステップS8)。本例では、この命令により、第一判定部は、温度TがT-TS>t1を満たすか否かを判定する構成とした。温度TがT-TS>t1を満たす場合、温度Tが設定温度TSよりも大きいことになる。即ち、坩堝の温度が高過ぎる。そこで、制御部は、蒸発量を下げるように、電子銃の電源に命令して、温度Tに応じて出力を小さくさせる(ステップS9)。温度TがT-TS>t1を満たさない場合、即ち、T-TS<t1となる場合、温度Tが設定温度TSよりも小さい、即ち、坩堝の温度が低過ぎることになる。そこで、制御部は、蒸発量を上げるように、電子銃の電源に命令して、温度Tに応じて出力を大きくさせる(ステップS10)。
【0043】
温度Tが0≦T-TS≦t1を満たす場合、温度Tは、適正な温度にあり、蒸発量を変更する必要がないと考えられる。そこで、第一判定部は、変更なしと判定する(ステップS11)。この判定後、及び上記蒸発量の調整操作が終了したら、ステップS1からの手順を繰り返し行うように制御部を構成することで、長時間に亘り、成膜状態を制御することができる。また、この制御手順は、連続的に行うようにしてもよいし、制御部にタイマ部を設け、所定時間ごとに行う、即ち、間欠的に行うように構成してもよい。
【0044】
上記成膜制御装置を利用することで、成膜装置の窓部に被覆材料が付着していても、窓部の透過率に応じて適宜検出光の補正を行うため、坩堝の温度をより正確に測定することができる。従って、本発明成膜制御装置を具える成膜装置では、より精度よく成膜状態を制御して、高品質な成膜物を得ることができる。特に、成膜対象が長尺な板材であり、成膜対象の幅方向、長手方向に均一的な厚さの薄膜が形成されることが望まれる場合であっても、本発明制御装置を具えることで、優れた品質の成膜物を提供することができる。
【0045】
上述した例では、窓部と坩堝との間を遮るものがないため、窓部は、蒸発された被覆材料が飛散してきて、被覆材料が付着する可能性が高い。そこで、窓部に被覆材料が付着することを防止するべく、図1に示すように窓部105と坩堝102との間に開閉自在なシャッタ部108を設けてもよい。そして、不用なとき(例えば、蒸着量の調整操作中などといった、窓部からの透過光や検出光を取得しないとき)には、シャッタ部108を閉めることで、窓部105に被覆材料が付着することを効果的に防止することができる。特に、図1に示すように筒状部106において坩堝側に具える開口部を開閉できるようにシャッタ部108を設けると、反射部107と坩堝102との間にシャッタ部108が配されるため、窓部105だけでなく反射部107にも被覆材料が付着することを防止することができる。
【0046】
(試験例)
図1に示すような上記成膜制御装置と、反射部と坩堝との間にシャッタ部とを具える成膜装置を構成し、間欠的にシャッタ部の開閉を行い、シャッタ部を開けた際、坩堝の温度を測定すると共に、成膜制御装置により、透過率の測定を行って成膜状態を制御した。本試験では、10分ごとにシャッタ部を開放した。また、本試験では、幅130mmの長尺な成膜対象に対し、厚さ5.0μmの成膜を行った。その結果、1.5時間以上といった長時間に亘り、成膜状態の観察、及び制御を行うことができた。また、得られた成膜物は、その幅方向、長手方向に亘って厚さが均一的であり、高品質であった。具体的には、その幅方向、長さ方向において膜厚さのばらつきを±8.0%以内に抑えることができた。この試験結果から、本発明成膜制御装置により成膜状態を制御することで、長時間に亘り、高品質な成膜物を得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明成膜制御方法及び成膜制御装置は、成膜装置により、成膜対象に薄膜を形成する際、成膜状態(蒸発量など)の制御を行うのに好適に利用することができる。また、本発明成膜制御装置を具える成膜装置は、特に、成膜対象が長尺材である場合であっても、長期に亘り、高品質に成膜を行うことができ、種々の成膜分野で好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明成膜制御装置を具える成膜装置の概略構成図である。
【図2】本発明成膜制御装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明成膜制御装置を用いて、蒸発量の制御を行う手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
10 検出部 11 受光部 12 主計算部 13 フィルタ
20 光源 21 第一測定部 22 第二測定部 23 電源
24 第一フォトディテクタ 25 第一計算部 26 第二フォトディテクタ
27 第二計算部 28 ハーフミラー 29 ミラー
50 制御部 51 第一判定部 52 演算部 53 補正部 54 第二判定部
60 モニタ
100 成膜装置 101 真空チャンバ 102 坩堝 103 加熱手段 103a 電源
104 搬送部 104a ローラ部 104b 湾曲片 105 窓部 106 筒状部
107 反射部 108 シャッタ部
200 成膜対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓部を有する成膜装置内で被覆材料を蒸発させて成膜対象に薄膜を形成する際、前記窓部を透過してきた被覆材料からの光を検出し、この検出光に基づいて蒸発量の調整を行う成膜制御方法において、
前記成膜装置の外部に配される光源から出射されて窓部を透過していない基準光の強度と、前記光源から出射されて窓部を透過した透過光の強度とを測定し、
得られた基準光の強度と透過光の強度とを比較して窓部の透過率を求め、この透過率に基づいて前記検出光を補正することを特徴とする成膜制御方法。
【請求項2】
窓部を有する成膜装置内で被覆材料を蒸発させて成膜対象に薄膜を形成する際、前記窓部を透過してきた被覆材料からの光を検出する検出部と、この検出光に基づいて蒸発量の調整を行う制御部とを具える成膜制御装置において、
前記成膜装置の外部に配される光源と、
前記光源から出射されて窓部を透過していない基準光の強度を測定する第一測定部と、
前記光源から出射されて窓部に入射され、成膜装置内で反射されて窓部を透過してきた透過光の強度を測定する第二測定部と、
得られた基準光の強度と透過光の強度とを比較して、窓部の透過率を演算する演算部と、
得られた演算結果に基づき、前記検出光の補正を行う補正部とを具えることを特徴とする成膜制御装置。
【請求項3】
長尺な成膜対象の搬送を行う搬送部と、
前記成膜対象に被覆する被覆材料を蒸発させる蒸発源と、
前記搬送部及び蒸発源が配置されると共に、被覆材料からの光が透過される窓部を有する真空チャンバと、
請求項2に記載の成膜制御装置とを具えることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
更に、窓部と蒸発源との間に配置され、閉じた際に蒸発された被覆材料が窓部に付着することを防止する開閉可能なシャッタ部を具えることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
更に、窓部と蒸発源との間に配置され、窓部に入射された光源からの光を反射させる反射部を具え、
シャッタ部は、閉じた際に蒸発された被覆材料が窓部及び前記反射部に付着することを防止するように反射部と蒸発源との間に配置されることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−77413(P2007−77413A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263083(P2005−263083)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】