説明

成膜方法、パネル製造装置、アニール装置

【課題】MgO保護膜の結晶配向強度分布を改善する。
【解決手段】基板10の一辺を先頭して搬送しながらMgO膜を成膜すると、基板10の先頭と直角な二辺(両側辺)が、両側辺の間の中央よりも(111)結晶配向強度が低くなる。アニール用のヒーター38を複数本の細長ヒーター38aに分割し、基板10の両側辺が中央よりも高温になるよう加熱すると、両側辺の(111)結晶配向強度が高くなり、(111)結晶配向強度の面内分布が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマディスプレイパネルの保護膜を成膜する技術にかかり、特に保護膜として適したMgO膜を成膜する成膜方法とその成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラズマディスプレイパネル(PDP)に用いられるガラス基板には、保護膜としてMgO等の金属酸化膜が形成されている。
保護膜の成膜方法には蒸着法が一般に用いられており、実際の製造ラインでは、真空槽内部で基板を搬送し、金属酸化物の蒸気を放出する蒸着源上を通過させる通過成膜法が広く用いられている。
通過成膜法は、基板を蒸着源に対して静止させる成膜法に比べ、多数枚の基板を連続して成膜処理可能なので、生産効率が高い。
効率良く成膜するのに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−050688号公報
【特許文献2】特開2000−021302号公報
【特許文献3】特開平11−339665号公報
【特許文献4】特開2002−117757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MgO膜は(111)結晶配向強度が高く、膜密度の高いものがPDPの保護膜に適しているが、基板上にMgO膜を通過成膜法で形成すると、基板の搬送方向と平行である両側辺は、中央部よりも(111)結晶配向強度が低くなり、また、膜密度にもばらつきが生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、矩形の成膜対象物を、一辺を先頭にして、真空雰囲気中で移動させ、前記成膜対象物をプラズマディスプレイ用保護膜材料の蒸気を放出する蒸発源と対面させて、前記成膜対象物の表面に前記保護膜材料の蒸気を到達させて保護膜を形成した後、前記成膜対象物を加熱してアニール処理を行なう成膜方法であって、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺を、当該二辺の中央よりも高温に加熱して前記アニール処理を行なう成膜方法である。
本発明は、前記真空雰囲気に反応ガスを導入しながら、前記保護膜材料の蒸気を放出させ、前記保護膜を成膜する成膜方法であって、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺の縁部分に、それら二辺間の中央部より多く前記反応ガスを吹き付けながら前記保護膜を形成する成膜方法である。
本発明は成膜方法であって、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺よりも、前記二辺の中央を高温に加熱しながら前記保護膜を形成する成膜方法である。
本発明は成膜方法であって、前記成膜対象物に前記保護膜材料の蒸気が到達する前に、予め、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺よりも、前記二辺の中央を高温に加熱する成膜方法である。
本発明は成膜方法であって、前記成膜対象物を1気圧以上の加熱雰囲気に配置した状態で前記アニール処理を行なう成膜方法である。
本発明は、パネル製造装置であって、成膜室と、開口を介して内部空間が前記成膜室の内部空間に接続された成膜材料室と、前記成膜材料室内に配置されたプラズマディスプレイ用保護膜材料の蒸発源と、アニール用ヒーターが設けられたアニール室とを有し、矩形の成膜対象物を、当該成膜対象物の一辺を先頭として、前記開口と対面させながら移動させ、前記成膜対象物表面に前記保護膜材料の蒸着膜を形成した後、前記成膜対象物を前記アニール室内に搬入し、前記アニール用ヒーターで加熱するよう構成されたパネル製造装置であって、前記アニール用ヒーターは、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺を、当該二辺の中央よりも高温に加熱するように構成されたパネル製造装置である。
本発明はパネル製造装置であって、前記成膜室内に反応ガスを導入する反応ガス導入系を有し、前記反応ガス導入系は、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺の縁部分に、それら二辺間の中央部より多く前記反応ガスを吹き付けるように構成されたパネル製造装置である。
本発明はパネル製造装置であって、前記成膜室内で前記成膜対象物を加熱する成膜用ヒーターを有し、前記成膜用ヒーターは、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺よりも、前記二辺の中央を高温に加熱するように構成されたパネル製造装置である。
本発明はアニール装置であって、矩形の成膜対象物を、一辺を先頭にして、真空雰囲気中で移動させ、前記成膜対象物をプラズマディスプレイ用保護膜の蒸気を放出する蒸発源と対面させて、前記成膜対象物の表面に前記保護膜材料の蒸気を到達させて保護膜を形成した後、前記成膜対象物を加熱してアニール処理を行なうアニール装置であって、アニール室と、前記アニール室に接続され、酸素を含む圧力調整ガスを導入してアニール室を一気圧以上の雰囲気とするガス導入系と、前記アニール室内に収納された前記成膜対象物を加熱する加熱手段とを有し、前記加熱手段が、前記成膜対象物の前記先頭の一辺と直角な二辺を、当該二辺の中央よりも高温に加熱するように構成されたヒーターを、互いに平行に一定間隔を空けて複数配置し、ヒーター間の隙間に前記成膜対象物を配置可能に構成されたアニール装置である。
【0006】
本発明は上記のように構成されており、形成された保護膜であるMgO膜の(111)結晶配向強度の分布を測定し、その強度が高くなる部分と、低くなる部分を調べると、成膜対象物を搬送しながら成膜する通過成膜法の場合、(111)結晶配向強度が低くなる部分は、成膜対象物の搬送方向と平行な側辺である。
アニール処理の基板温度が高い程(111)結晶配向強度が高くなるから、分布の測定結果に基づき、(111)結晶配向強度が低くなると予想される部分を高温に、(111)結晶配向強度が高くなると予想される部分を低温にしてアニール処理を行なえば、(111)結晶配向強度の分布が均一になる。
また、成膜中は、逆に基板温度が低い程(111)結晶配向強度が高く、成膜中の基板周囲の圧力が高い程(111)結晶配向強度が高くなる。
従って、アニール処理時の温度差だけで(111)結晶配向強度分布が十分に改善されない場合は、(111)結晶配向強度が低くなると予想される部分を低温に、(111)結晶配向強度が高くなると予想される部分を高温にして成膜するか、(111)結晶配向強度が低くなると予想される部分を高圧雰囲気に、(111)結晶配向強度が高くなると予想される部分を低圧雰囲気に曝す。
【発明の効果】
【0007】
通過成膜法で成膜対象物にMgO膜を成膜した後、成膜対象物の先頭の一辺と直角な二辺の縁部分を、前記二辺の中央より高温にアニール処理を行うことで、縁部分の(111)結晶配向強度が強くなるから、(111)結晶配向強度の分布が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のパネル製造装置を説明するための模式的な側面図
【図2】本発明のパネル製造装置の一部を説明する模式的な断面図
【図3】加熱室とプロセス室を説明するための模式的な断面図
【図4】アニール室の一例を説明するための模式的な断面図
【図5】アニール室の一例を説明するための模式的な断面図
【図6】プロセス室の他の例を説明するための模式的な断面図
【図7】MgO膜の膜厚分布を示すグラフ
【図8】アニール処理前の(111)ピーク強度の分布を示すグラフ
【図9】熱処理温度と(111)ピーク強度の関係を示すグラフ
【図10】アニール処理時の基板の温度分布を示すグラフ
【図11】アニール処理後の(111)ピーク強度の分布を示すグラフ
【図12】加熱温度と(111)強度の半値巾の関係を示すグラフ
【図13】アニール時の加熱温度と放電遅れの関係を示すグラフ
【図14】CL強度と経過時間の関係を示すグラフ
【図15】(111)ピーク強度と圧力の関係を示すグラフ
【図16】(111)ピーク強度半値巾と圧力の関係を示すグラフ
【図17】(111)ピーク強度及び密度と、成膜中の基板温度との関係を示すグラフ
【図18】(111)ピーク強度及び密度と、成膜室の圧力との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1の符号1は、本発明のパネル製造装置の一例を示す。このパネル製造装置1は、搬入室11と、加熱室12と、プロセス室13と、アニール室14と、冷却室15と、搬出室16とを有している。
搬入室11と、加熱室12と、プロセス室13と、アニール室14と、冷却室15と、搬出室16とは、仕切りバルブ18を介して、この順序で連結されており、内部には搬送機構が設けられている。
図2は加熱室12とプロセス室13とアニール室14を説明するための断面図である。加熱室12と、プロセス室13と、アニール室14は、それぞれ真空槽41〜43で構成されている。プロセス室13の真空槽42は、成膜室22と成膜材料室23に区分けされている。
成膜室22は、細長い形状をしており、一端と他端には仕切りバルブ18による入口と出口がある。成膜材料室23は成膜室22の下方に位置し、成膜室22に接続されている。
成膜材料室23内部の、成膜材料室23と成膜室22とが接続された部分の真下位置には、MgO蒸発源31が配置されている。MgO蒸発源31は坩堝を有しており、この坩堝の内部には粒状のMgOが配置されている。また、成膜材料室23には電子銃32が設けられている。電子銃32を動作させると、坩堝内のMgOに電子線が照射され、MgOの蒸気が放出されるように構成されている。
成膜室22と成膜材料室23との接続部分には制限板27が配置されている。制限板27の、MgO蒸発源31上部には開口28が形成され、MgO蒸発源31から放出されたMgOの蒸気は、開口28を通って成膜室22内に侵入する。
【0010】
図2の符号29は搬送機構を示しており、搬送機構29は、加熱室12の真空槽41と、プロセス室13の成膜室22と、アニール室14の真空槽43(アニール室)にそれぞれ設けられている。
搬送機構29には保持手段30が取り付けられている。成膜対象物である基板(例えばガラス基板)10は保持手段30に保持され、入口を通って加熱室12の真空槽41から成膜室22に搬入され、成膜室22内を入口から出口に向かって搬送された後、出口を通ってアニール室14の真空槽43内に搬入される。
制限板27の開口28は、基板10が搬送される搬送経路の下部にある。基板10は、開口28上を通過する時に開口28と対面し、MgOの蒸気が到達する。
プロセス室13は、一又は複数本のガス噴出管33a、33bを有しており、各ガス噴出管33a、33bは、成膜室22内部であって、基板10が移動する平面と、成膜材料室23との間に配置されている。
ここではガス噴出管33a、33bの数は二本である。成膜室22の入口側を上流、出口側を下流とすると、ガス噴出管33a、33bは、開口28の上流側端部よりも上流側と、下流側端部よりも下流側にそれぞれ位置されており、開口28から放出されるMgOの蒸気が成膜室22内部に侵入するのを妨げないようになっている。
【0011】
各ガス噴出管33a、33bは直線状であって、基板10が搬送機構29によって移動される方向(搬送方向)と垂直な方向に向けられている。
各ガス噴出管33a、33bは反応ガス導入系35に接続されており、また、各ガス噴出管33a、33bには、ここでは、搬送方向と垂直な方向に複数のガス噴出孔34が列設されている。反応ガス導入系35の反応ガスは、ガス噴出管33a、33bに導入された後、各ガス噴出孔34より噴出される。
各ガス噴出孔34は基板10の搬送経路に向けられ、基板10は、少なくとも開口28上を移動する時に噴出孔34と対面し、反応ガスが噴きつけられる。
【0012】
基板10は正方形、長方形等の四角形状であり、その四辺のうち、二辺は搬送方向と平行に、他の二辺は搬送方向と垂直にされ、搬送方向と垂直な二辺のうち、一辺を先頭として搬送される。
基板10の搬送方向Fと平行な二辺(先頭と垂直な二辺)を側辺としたとき、噴出孔34の位置、間隔、直径等の設置条件は、基板10の中央部よりも両側辺の縁部分に多くの反応ガスが吹き付けられるように設定されている。
従って、基板10にMgO蒸気が到達する時には、基板10の両側辺の縁部は、反応ガスが多量に吹き付けられることで、中央部よりも高圧の雰囲気に曝される。
加熱室12とプロセス室13とアニール室14の内部にはヒーター36〜38が配置されている。ヒーター36〜38は、各室12〜14内部の天井側にそれぞれ位置し、搬送機構29によって移動される基板10は、裏面がヒーター36〜38と対面する。
【0013】
図3は加熱室12とプロセス室13のヒーター36、37を、図4はアニール室14のヒーター38を説明するための模式的な平面図である。
ヒーター36〜38は細長ヒーター36a〜38aを複数本ずつ有している。各細長ヒーター36a〜38aは、基板10の搬送方向Fと平行にされた状態で、搬送方向Fと直交する方向に並べられている。
搬送方向Fと直交する方向の長さを巾とすると、ヒーター36〜38の巾は、基板10の巾と同じかそれよりも広く、両端の細長ヒーター36a〜38aは、基板10の両側辺と対面するか、基板10の両側辺よりも外側に位置する。従って、基板10は巾方向の一端から他端まで加熱される。
【0014】
また、少なくともプロセス室13のヒーター37は、搬送方向Fに沿った長さが、開口28と同じかそれよりも長く、開口28の搬送方向F一端から他端まで渡って配置されている。従って、基板10に蒸気が到達する間、基板10はヒーター37で加熱され、所定温度に維持される。
各細長ヒーター36a〜38aは長手方向の一端から他端まで均一な温度に昇温するが、その温度は細長ヒーター36a〜38a毎に変更可能である。
【0015】
加熱室12とプロセス室13のヒーター36、37は、両端部にある細長ヒーター36a、37bが、中央部の細長ヒーター36a、37aに比べて低温になるよう設定されている。
他方、アニール室14のヒーター38は、両端部にある細長ヒーター38aが、中央部の細長ヒーターに比べ、高温になるよう設定されている。
従って、加熱室12とプロセス室13では、基板10の搬送方向Fと平行な両側辺が中央部よりも低温に加熱され、アニール室14では、基板10の搬送方向Fと平行な両側辺が中央部より高温に加熱される。
【0016】
次に、上記パネル製造装置1を用いたMgO膜の成膜工程の一例を説明する。
各室11〜16に接続された真空排気系19a〜19fを作動させ、搬入室11を除いた各室12〜16の排気を行い、内部に所定圧力の真空雰囲気を形成しておく。また、各室12〜14内のヒーター36〜38を、上述したように、ヒーター36〜38内で温度差が生じるように昇温させておく。
搬入室11を他の室12〜16から遮断した状態で、保持手段30に取り付けた基板10を搬入室11に搬入する。搬入室11内を真空排気して所定圧力にした後、仕切りバルブ18を開き、基板10を加熱室12内に搬入する。
基板10を加熱室12内で静止又は搬送しながら、上述したように、両側辺が中央部よりも低温になるよう予備加熱する。予備加熱は、搬入室11で行なってもよいし、成膜室22内で行なってもよい。両側辺と中央部が予め決めた温度にそれぞれ達したら、基板10をプロセス室13内に搬入する。
反応ガス導入系35からガス噴出管33a、33bに、酸素(O2)と水(H2O)のいずれか一方又は両方を反応ガスとして導入し、成膜室22及び成膜材料室23内部を真空排気しながら、ガス噴出孔34から反応ガスを噴出させ、所定圧力の反応ガス雰囲気を形成しておく。
ヒーター37による加熱と、反応ガスの噴出と、MgO蒸気の放出を続けながら、基板10を搬送して、開口28上を通過させ、MgO膜を成膜する。基板10の搬送速度は、基板10が開口28上を通過し、成膜室22の出口に到達する前に、MgO膜が所定膜厚に達するように設定されている。
出口に到達し、所定膜厚のMgO膜が形成された基板10を、アニール室14に搬入し、基板10を、アニール室14内で静止又は搬送させながら、ヒーター38により所定時間加熱し、アニール処理を行なう。
アニール処理時に、基板10の温度分布が均一であると、移動方向Fの両側辺が中央部よりも(111)結晶配向強度が低下する傾向がある。
【0017】
本発明では、基板10の両側辺が中央部より高温に加熱されるから、アニール処理後、両側辺に形成されたMgO膜の(111)結晶配向強度が上昇し、中央部との差が小さくなる。その結果、MgO膜の(111)結晶配向強度の面内分布が均一になる。アニール処理後は、基板10をアニール室14から冷却室15に搬入し、冷却後、搬出室16を介して外部に取り出す。
【0018】
尚、加熱室12及びプロセス室13のヒーター36、37の温度分布を均一にしてもよいが、アニール処理だけで(111)結晶配向強度の面内分布が十分に均一にならない虞がある場合、基板10の両側辺が中央部よりも低温にしてMgO膜を成膜する温度差成膜と、両側辺が中央部よりも高圧雰囲気に曝される圧力差成膜のいずれか一方又は両方を行なう。
【0019】
また、図2に示すように、各室12〜14で異なる基板10の処理を同時に行ない、処理終了後は基板10を次の各室12〜16に搬送すると共に、搬入室11に新たな基板10を搬入し、搬出室16から処理終了後の基板10を搬出すれば、複数枚の基板10を連続処理可能であり、生産効率が高い。
尚、アニール室14はプロセス室13に接続された場合に限定されず、パネル製造装置1から分離してもよい。図5の符号5はパネル製造装置1から分離したアニール装置の一例を示しており、アニール装置5はアニール室51と、アニール室51内部に配置された加熱手段50とを有している。
【0020】
加熱手段50は複数のヒーター38を有している。各ヒーター38は、図4のアニール室14のヒーター38と同様に、互いに平行に並べられた複数本の細長ヒーター38aで構成され、両端部の細長ヒーター38aが、中央部の細長ヒーター38aに比べ、高温になるよう設定されている。
ヒーター38は、細長ヒーター38aが並べられた平面が互いに平行にされ、一定間隔を空けてアニール室51内に配置されている。ヒーター38間の間隔は基板10の厚みよりも大きくされ、ヒーター38間の隙間に基板10を配置可能になっている。
各ヒーター38は略同一形状であって、各ヒーター38の細長ヒーター38aは同じ方向に並べられ、高温になる両端部の細長ヒーター38a同士が対面する。
細長ヒーター38aの本数と配置間隔は、基板10を配置した時に、両端部の細長ヒーター38aが基板10の両側辺と対面するか、基板10の両側辺よりもわずかに外側に位置するよう設定されている。従って、ヒーター38間に配置された基板10は、上下の細長ヒーター38aによって両縁部分が中央部よりも高温に加熱される。
【0021】
このアニール装置5を用いたアニール処理について説明すると、図1に示すパネル製造装置1のプロセス室13で、通過成膜法により基板10にMgO膜を成膜した後、アニール処理をせず、冷却室15で冷却してから搬出室16に搬入する。大気、CDA(Clean Dry Air)、又はN2を搬出室16に導入して大気圧まで復圧した後、基板10を搬出室16からパネル製造装置1外部に取り出し、図5のアニール装置5のアニール室51内に搬入する。
【0022】
MgO成膜時の搬送方向Fと平行な二辺(先頭と直角な二辺)を、細長ヒーター38aの長手方向と平行にし、その二辺が高温の細長ヒーター38aと対面するよう、基板10を位置合わせをして、ヒーター38間に配置する。
このアニール装置5でも、基板10の搬送方向Fと平行な両側辺が中央部よりも高温に加熱されるから、MgO膜の(111)結晶配向強度の分布が均一になる。また、このアニール装置5は多数枚の基板10を一度にアニール処理できる。
アニール装置5に真空排気系を接続し、アニール装置5内部に真空雰囲気を形成した状態でアニール処理を行なってもよい。しかし、アニール装置5の内部圧力を大気圧にするか、アニール室51に接続されたガス導入系39から、大気等酸素を含む圧力調整ガスを導入して一気圧以上の高圧雰囲気を形成してアニール処理をする方が、(111)結晶配向強度の平均値が高くなる。圧力調整ガスに、酸素を含むものを用いると、MgO膜の酸素が補填され、膜質が良くなる。
【0023】
図1のアニール室14においても、真空槽43にガス導入系39を接続し、ガス導入系39から圧力調整ガスを導入して高圧雰囲気を形成し、アニール処理を行なってもよい。
【0024】
本発明に用いる反応ガスは特に限定されないが、O2、H2O等、化学構造中に酸素原子を含有する酸化ガスを一種以上用いる。MgOを蒸発させる際に電子線を照射すると、材料の一部からMgが解離するが、解離したMgは酸化ガスにより還元され、MgOに戻る。
また、反応ガスとして、酸素と水(H2O)の両方を各ガス噴出管33a、33bに導入しガス噴出孔34から噴出させてもよいが、ガス噴出管を制限板27の下部にも設けて、制限板27の上部のガス噴出管と制限板27の下部のガス噴出管とで、一方からは酸素を導入し、他方からは水を導入するようにしてもよい。
ガス噴出管33a、33bの設置も特に限定されず、図6に示すように、ガス噴出管33a、33bを、搬送方向Fと平行に設け、基板10の両側辺の縁部分に反応ガスを吹き付けるようにしてもよいし、ガス噴出管を4つ用いて、搬送方向と直交する方向と搬送方向と平行な方向の両方に配置してもよい。
また、各ガス噴出管33a、33bに複数のガス噴出孔34を形成したが、基板10の両側辺部に反応ガスが吹き付けられればよく、上記実施の形態に限定されるものではない。
加熱室12及びアニール室14において、ヒーター36及びヒーター38を基板10の裏面側にのみ設けたが、基板10の表面側にも併せて設けてもよい。また、プロセス室13において、ヒーター37を基板10の裏面側にのみ設けたが、開口28にかからない範囲で、基板10の表面側にも併せて設けてもよい。
【0025】
電子銃32の設置台数は1台でも複数台でもよい。一例を述べると、搬送巾方向が1500mmの基板10で2台又は4台であり、搬送巾方向で2400mm以上の基板10で3台以上である。また、電子銃32を用いて蒸着を行ったが、イオンプレーティング等他の方法を用いてもよい。
【0026】
アニール処理時の加熱温度は特に限定されないが、一例を述べると、基板10の中央部を400℃以上にし、両側辺は中央部よりも50℃以上(例えば80℃)高くする。
基板10は四角形に限定されず、円形、多角形等種々の形状のものを用いることができる。その場合、予め(111)結晶配向強度が低くなる部分を求めておき、その部分が他の部分よりも高温になるようアニール処理する。
【実施例】
【0027】
図2のプロセス室13で、有効膜厚範囲1500mm×1100mmのPDP用基板(PD200)に、MgO膜を約750nm(7500Å)成膜した。その成膜条件を下記表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
MgO膜の膜厚分布は7597ű4.2%であった(図7のグラフ参照)。また、XRD(X線回折)で測定した(111)結晶配向強度の分布は2844cps±21.4%であった(図8のグラフ参照)。
尚、図7、8と、後述する図10、11の横軸は、基板10の中央をゼロとした場合の、中央から搬送方向Fと平行な両側辺までの距離を示し、図3の図面左方を−、図面右方を+として表記した。
MgO膜が形成された基板10を、真空中と大気中で60分間アニール処理を行なった後、MgO膜の(111)結晶配向強度を測定した。(111)結晶配向強度(面内平均)と加熱温度の関係を図9に示す。
【0030】
図9の符号g1は大気中でアニール処理を行なった場合であり、同図の符号g2は真空中でアニール処理を行なった場合である。真空中よりも大気中の方が、(111)結晶配向強度が高い傾向があるが、いずれの場合も400℃以上で(111)結晶配向強度が急激に上昇することが分かる。
このように、アニール処理により(111)結晶配向強度は向上するが、図8に示したように、成膜時に(111)結晶配向強度にむらがあるため、基板10の温度分布を均一にしてアニール処理をすると、アニール処理後も強度むらが残ってしまう。
【0031】
図8に示す(111)結晶配向強度の分布に基づき、強度が低いところが高温に、強度が高いところが低温になるようアニール処理を行なった。アニール処理時の基板10の温度分布を図10に示し、アニール処理後の(111)結晶配向強度の測定結果を図11に示す。
【0032】
図11から明らかなように、温度差を付けたアニール処理により、(111)結晶配向強度の分布は3545cps±8.9%に改善された。
【0033】
次に、加熱温度を変えて大気中でアニール処理をし、(111)結晶配向強度の半値巾と、放電遅れ(相対値)を測定した。半値巾と加熱温度の関係を図12に示し、放電遅れと加熱温度の関係を図13に示す。尚、半値巾が小さい程、結晶性が良いことを示す。図12、13から、大気中で400℃以上に加熱することにより、半値巾と放電遅れが大幅に改善されることが分かる。
更に、アニール処理後とアニール処理前のMgO膜について、CL(Cathode Luminescence)ピーク強度を測定した。尚、CLピーク強度とは、物質に電子を照射した時に、荷電子帯の励起によって生じた正孔が、伝導帯からの電子遷移によって補填されるときに生じる光の強度である。CLピーク強度と、真空保持後の経過時間との関係を図14に示す。
図14の符号h1はアニール処理後の測定結果であり、同図の符号h2はアニール処理前の測定結果である。図14から、アニール処理前に比べ、アニール処理後はMgO膜の経時変化が少なく、MgOの膜質が安定していることが分かる。
【0034】
次に、大気圧雰囲気と、大気圧より高圧の加圧雰囲気(1.7気圧)とで、500℃60分間アニール処理を行ない、(111)結晶配向強度と、その半値巾を測定した。
図15は(111)結晶配向強度を、図16は半値巾を示す。加圧雰囲気の方が、(111)結晶配向強度が18%向上し、また半値巾も28%向上した。このように、(111)結晶配向強度と半値巾は、大気圧であっても実用上十分な値であるが、大気圧よりも高くすれば、より効果が高い。従って、本願発明では、大気圧でも良いが、大気圧(1気圧、101.3×103Pa)より高圧雰囲気でアニール処理を行なうことがより望ましい。
【0035】
次に、MgO成膜中の基板温度と成膜室22内部の圧力をそれぞれ変えてMgO膜(膜厚800nm)を成膜し、成膜されたMgO膜の(111)結晶配向強度と密度(膜密度)を調べた。
図17は成膜室22内部の圧力を0.04Paにし、成膜中の基板10温度を変えた時のグラフであり、図18は基板10温度を250℃にして、成膜中の成膜室22内部の圧力を変えた時のグラフである。
図17、18から、MgO膜の成膜中の基板温度が低い程(111)結晶配向強度が高く、また、成膜中の圧力(反応ガスの分圧)が高い程(111)結晶配向強度が高い。従って、アニール処理時の温度差だけで(111)結晶配向強度分布が十分に改善されない場合は、成膜中に、基板10に温度差又は圧力差を設ければ、結晶配向強度分布がより改善されることが分かる。
【符号の説明】
【0036】
5……アニール装置
10……基板
12……加熱室
13……プロセス室
14……アニール室
22……成膜室
23……成膜材料室
31……MgO蒸発源
33a、33b……ガス噴出管
34……ガス噴出孔
35……反応ガス導入系
36〜38……ヒーター
36a〜38a……細長ヒーター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形の成膜対象物を、一辺を先頭にして、真空雰囲気中で移動させ、前記成膜対象物をプラズマディスプレイ用保護膜材料の蒸気を放出する蒸発源と対面させて、前記成膜対象物の表面に前記保護膜材料の蒸気を到達させて保護膜を形成した後、
前記成膜対象物を加熱してアニール処理を行なう成膜方法であって、
前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺を、当該二辺の中央よりも高温に加熱して前記アニール処理を行なう成膜方法。
【請求項2】
前記真空雰囲気に反応ガスを導入しながら、前記保護膜材料の蒸気を放出させ、前記保護膜を成膜する請求項1記載の成膜方法であって、
前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺の縁部分に、それら二辺間の中央部より多く前記反応ガスを吹き付けながら前記保護膜を形成する成膜方法。
【請求項3】
前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺よりも、前記二辺の中央を高温に加熱しながら前記保護膜を形成する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項4】
前記成膜対象物に前記保護膜材料の蒸気が到達する前に、予め、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺よりも、前記二辺の中央を高温に加熱する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜対象物を1気圧以上の加熱雰囲気に配置した状態で前記アニール処理を行なう請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項6】
成膜室と、
開口を介して内部空間が前記成膜室の内部空間に接続された成膜材料室と、
前記成膜材料室内に配置されたプラズマディスプレイ用保護膜材料の蒸発源と、
アニール用ヒーターが設けられたアニール室とを有し、
矩形の成膜対象物を、当該成膜対象物の一辺を先頭として、前記開口と対面させながら移動させ、前記成膜対象物表面に前記保護膜材料の蒸着膜を形成した後、前記成膜対象物を前記アニール室内に搬入し、前記アニール用ヒーターで加熱するよう構成されたパネル製造装置であって、
前記アニール用ヒーターは、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺を、当該二辺の中央よりも高温に加熱するように構成されたパネル製造装置。
【請求項7】
前記成膜室内に反応ガスを導入する反応ガス導入系を有し、
前記反応ガス導入系は、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺の縁部分に、それら二辺間の中央部より多く前記反応ガスを吹き付けるように構成された請求項6記載のパネル製造装置。
【請求項8】
前記成膜室内で前記成膜対象物を加熱する成膜用ヒーターを有し、
前記成膜用ヒーターは、前記成膜対象物の四辺のうち、前記先頭の一辺と直角な二辺よりも、前記二辺の中央を高温に加熱するように構成された請求項6又は請求項7のいずれか1項記載のパネル製造装置。
【請求項9】
矩形の成膜対象物を、一辺を先頭にして、真空雰囲気中で移動させ、前記成膜対象物をプラズマディスプレイ用保護膜の蒸気を放出する蒸発源と対面させて、前記成膜対象物の表面に前記保護膜材料の蒸気を到達させて保護膜を形成した後、
前記成膜対象物を加熱してアニール処理を行なうアニール装置であって、
アニール室と、
前記アニール室に接続され、酸素を含む圧力調整ガスを導入してアニール室を一気圧以上の雰囲気とするガス導入系と、
前記アニール室内に収納された前記成膜対象物を加熱する加熱手段とを有し、
前記加熱手段が、前記成膜対象物の前記先頭の一辺と直角な二辺を、当該二辺の中央よりも高温に加熱するように構成されたヒーターを、互いに平行に一定間隔を空けて複数配置し、ヒーター間の隙間に前記成膜対象物を配置可能に構成されたアニール装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2010−185100(P2010−185100A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28837(P2009−28837)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】