説明

成膜用治具の洗浄装置

【課題】成膜用治具に擦過痕などの疵をつけず、除去効率が悪くならず、大掛かりな装置を必要としないで洗浄する。
【解決手段】成膜用治具1を洗浄する装置である。成膜用治具1を設置する洗浄台3と、この洗浄台3に設置された成膜用治具1の洗浄面1aに電解液7を噴射すべく、洗浄面1aに対向配置されたノズル体5と、このノズル体5を一方の電極、洗浄台3を他方の電極とすべく、これらノズル体5と洗浄台3の間に電圧を印加する電源8と、ノズル体5に電解液7を供給する電解液供給手段6と、洗浄面1aを洗浄した後の廃液を回収し、再び電解液7として電解液供給手段6に供給する循環経路10を備える。
【効果】成膜用治具に擦過痕などの疵をつけず、また成膜用治具の形状に関係なく、簡易な装置で成膜用治具に付着した金属系付着物を洗浄して除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスパッタリング法によって、基板上に金属または金属化合物の薄膜(以下、付着膜という。)を形成する際に用いられる、マスクなどの成膜用治具を洗浄する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記薄膜の形成を繰り返し行うことにより、前記成膜用治具に付着する付着膜の厚さが厚くなり、終には成膜用治具から剥離する。この剥離した付着膜は基板欠陥の原因になるので、成膜用治具に堆積した不要な付着膜は、洗浄して除去される。
【0003】
この成膜用治具の洗浄方法として、サンドと呼ばれる直径100μm単位のアルミナや炭化シリコンの粒子を成膜用治具に衝突させて付着膜を除去する方法(サンドブラスト法)が知られている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−198344号公報
【0004】
その他の方法として、予め成膜用治具に水溶性膜を形成しておき、成膜後に基体に付着した付着物を浸水処理して水溶性膜ごと付着膜を除去する方法がある(例えば特許文献2)。
【特許文献2】特開平7−14816号公報
【0005】
また、超音波振動水洗処理の後、液体ホーニング処理と超音波による洗浄処理を行って付着膜を除去する方法(例えば特許文献3)や、成膜用治具にウォータージェットを噴射して付着物を除去する方法(例えば特許文献4)等も知られている。
【特許文献3】特開2000−246198号公報
【特許文献4】特開2002−292346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、成膜用治具を洗浄して付着物を除去するに際し、ただ単にサンドを衝突させるだけのサンドブラスト法では付着物の除去効率が悪く、また、アルミナや炭化シリコンの粒子が成膜用治具に擦過痕を生じさせるなどの問題があった。さらに、サンドブラスト法では、除去した付着物から希少金属を回収することが困難であり、希少金属の再利用ができないという問題もあった。
【0007】
また、成膜後に基体に付着した付着物を浸水処理し、予め形成しておいた水溶性膜ごと付着膜を除去する方法や、ホーニングと超音波処理による方法は、作業項目が多くなるので、作業が煩雑で除去効率が悪い。また、ウォータージェットによる方法は、装置が大掛かりになるという問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の方法では、成膜用治具に擦過痕などの疵をつけたり、除去効率が悪かったり、大掛かりな装置を必要とするという点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の成膜用治具の洗浄装置は、
成膜用治具に擦過痕などの疵をつけず、除去効率が悪くならず、大掛かりな装置を必要としないようにするために、
例えば成膜用治具を設置する洗浄台と、
この洗浄台に設置された前記成膜用治具の洗浄面に電解液を噴射すべく、前記洗浄面に対向配置されたノズル体と、
このノズル体を一方の電極、前記洗浄台を他方の電極とすべく、これらノズル体と洗浄台の間に電圧を印加する電源と、
前記ノズル体に電解液を供給する電解液供給手段と、
前記洗浄面を洗浄した後の廃液を回収し、再び電解液として電解液供給手段に供給する循環経路を備えたことを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、成膜用治具に擦過痕などの疵をつけず、また成膜用治具の形状に関係なく、成膜用治具に付着した金属系付着物を効率良く除去することができる。また、大掛かりな装置を必要とすることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明装置の原理を、図1を用いて説明した後、本発明を実施するための最良の形態例を、図2及び図3を用いて詳細に説明する。
【0012】
図1において、1は例えばスパッタリング法に使用するマスクなどの成膜用治具であり、金属または金属化合物の薄膜形成を行った際に、その表面1aに前記金属あるいは金属化合物の付着物2が付着する。
【0013】
本発明の成膜用治具の洗浄装置は、前記付着物2が付着した成膜用治具1の表面(以下、洗浄面と言う。)1aを洗浄し、前記付着物2を除去するもので、以下の構成要素を有している。
【0014】
3は、前記成膜用治具1の洗浄に際し、成膜用治具1を設置する洗浄台であり、捕集パン4の内部に設置されている。5は前記成膜用治具1の洗浄面1aに噴射口5aを向けて配置されたノズル体であり、例えばポンプなどの電解液供給手段6によって送られてくる電解液7を前記付着物2に向けて噴射するものである。これらノズル体5と洗浄台3は電源8に接続され、例えば100ボルトの直流電圧を印加される。
【0015】
本発明では、例えば一般に用いられる中性塩溶液、または水道水や河川水などに中性塩溶液を混合した電解液7を使用する。この電解液7は、例えば抵抗率が6Ω・cmの市水のように、洗浄対象の成膜用治具1よりも高い抵抗率を有することが望ましい。抵抗率が成膜用治具1よりも低くなると、成膜用治具1に電気が流れにくくなり、付着物2を効率良く除去することができなくなる。
【0016】
このような構成要素からなる本発明の洗浄装置では、電解液7を噴射するノズル体5を一方の極、洗浄対象である成膜用治具1を設置する洗浄台3を他方の極として、電解液7を介して成膜用治具1の洗浄面1aに電解を与えるのである。
【0017】
すなわち、電源8(+)−ノズル体5−電解液7−付着物2−電解液7−洗浄台3−電源8(−)の閉回路が形成されることで、ノズル体5の表面にOH-、付着物2の表面にH+が発生し、発生したH+によって、付着物2を還元させるのである。
【0018】
還元された付着物2は金属元素だけとなって、成膜用治具1の洗浄面1aに結合力が弱まった状態で存在するようになり、ノズル体5から噴射される電解液7が衝突する際の衝撃だけで容易に除去できるようになる。
【0019】
洗浄面1aを洗浄した後の廃液は、捕集パン4を介して回収し、再び電解液7として使用すべく、例えばフィルター9を通して前記除去した付着物2などを分離し、循環経路10を介して前記電解液供給手段6に供給する。
【0020】
本発明の成膜用治具の洗浄装置における洗浄原理は以上説明した通りであり、以下、本発明を実施するための最良の形態例を示す図2及び図3について説明する。
【0021】
図2は第1の例を示したもので、前記ノズル体5を固定配置せず、例えばフレキシブルホースを介在させるなどにより自由に移動できるようにすると共に、前記ノズル体5を絶縁体11で覆ったものである。
【0022】
この第1の例では、自由に移動できるノズル体5により、成膜用治具1の種々の形状に対応できると共に、洗浄作業時にショートや感電を起こさず、安全性が高くなる。
【0023】
図3は第2の例を示したもので、開閉が可能な蓋4aを設けた捕集パン4の内部に、絶縁体11で覆ったノズル体5を2個、固定配置すると共に、絶縁体製の脚部3aの上に金網或いは金具3bを設置した洗浄台3を使用したものである。
【0024】
この第2の例では、第1の例のようにノズル体5を自由に移動できるようにするのに代えて、ノズル体5を2個、固定配置することで、洗浄面1aの全域を洗浄できるようにしている。この第2の例では、第1の例が有する作用効果に加えて、電解液7が飛散することもなくなる。
【0025】
これらの例では、使用する電解液7に、球体や中空体の粉体を混合すれば、電解作用で洗浄面1aから剥離しかかっている付着物2を、電解液7流と混合粉体によって除去することになり、より洗浄効果が良くなって、洗浄時間を短縮できる。
【0026】
この粉体は、前記のように電解作用で洗浄面1aから剥離しかかっている付着物2を除去するためのものであるため、多用する必要がない。また、比較的直径の小さいもので対応できるので、従来のサンドブラスト法などのように洗浄面1aに擦過痕などの疵を付けることなく、付着物2を除去することができる。粉体の材質は特に限定されないが、プラスチックやセラミックス製など、洗浄面1aに疵を付け難い材質とすることが望ましい。
【0027】
この混合する球体や中空体の粉体の直径は、洗浄対象である成膜用治具1の材質が比較的に柔らかく、疵付き易いものの場合は20〜900nm、比較的に硬くまたは付着物2の付着力が強い場合は、20〜300μmとすることが望ましい。
【0028】
本発明は、前述の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良い。
【0029】
例えば本発明の洗浄装置で洗浄する成膜用治具1は、スパッタリング法に使用するものに限らず、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法に使用する成膜用治具でも良い。
【0030】
また、図4に示したように、前記図3に示した第2の例における捕集パン4に代えて、外周を絶縁体(図示省略)で覆った容器12を使用し、この容器12内の電解液7に成膜用治具1を浸漬してノズル体5を使用しないようにしたものでも良い。この場合、容器12を一方の極とする。
【0031】
この図4の例は、比較的に単純な形状の成膜用治具1の洗浄に限られるが、成膜用治具1を一定時間浸漬しておくだけの、最も簡単で、かつ安価に、容器12の壁面と対向する洗浄面1aの洗浄が行える。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の成膜用治具の洗浄装置の原理を説明する図である。
【図2】本発明の成膜用治具の洗浄装置の第1の例の要部を示した図である。
【図3】本発明の成膜用治具の洗浄装置の第2の例の要部を示した図である。
【図4】本発明の成膜用治具の洗浄装置の他の例の要部を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
1 成膜用治具
1a 洗浄面
2 付着物
3 洗浄台
4 捕集パン
5 ノズル体
6 電解液供給手段
7 電解液
8 電源
10 循環経路
12 容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用治具を洗浄する装置であって、
前記成膜用治具を設置する洗浄台と、
この洗浄台に設置された前記成膜用治具の洗浄面に電解液を噴射すべく、前記洗浄面に対向配置されたノズル体と、
このノズル体を一方の電極、前記洗浄台を他方の電極とすべく、これらノズル体と洗浄台の間に電圧を印加する電源と、
前記ノズル体に電解液を供給する電解液供給手段と、
前記洗浄面を洗浄した後の廃液を回収し、再び電解液として電解液供給手段に供給する循環経路を備えたことを特徴とする成膜用治具の洗浄装置。
【請求項2】
前記電解液には、球体又は中空体の粉体が混合されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜用治具の洗浄装置。
【請求項3】
前記粉体は、プラスチック又はセラミックス製であることを特徴とする請求項2に記載の成膜用治具の洗浄装置。
【請求項4】
前記電解液の抵抗が前記成膜治具の抵抗よりも高いことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の成膜用治具の洗浄装置。
【請求項5】
成膜用治具を洗浄する装置であって、
前記成膜用治具を設置する洗浄台と、
この洗浄台ごと前記成膜用治具を浸漬する、内部に電解液を満たした容器と、
この容器を一方の電極、前記洗浄台を他方の電極とすべく、これら容器と洗浄台の間に電圧を印加する電源を備えたことを特徴とする成膜用治具の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275265(P2009−275265A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128493(P2008−128493)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】