説明

成膜装置、成膜方法

【課題】高密度な有機薄膜をマスク成膜で成膜する
【解決手段】本発明に用いるマスク70は、貫通孔72の内壁面が傾斜し、貫通孔72は基板7側程狭く、放出装置50側程広くなっている。従って、マスク本体71の厚さが50μm以上200μm以下と厚い場合であっても、貫通孔72の底面74縁部分に斜めに入射する蒸気も基板7に到達可能であり、膜厚均一な有機薄膜8が形成される。マスク本体71が厚いため、マスク70は変形し難く、洗浄等によって再利用が可能であり、成膜精度も落ちない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成膜装置と成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の分野において、有機EL表示装置が注目されている。
有機EL表示装置の有機薄膜を成膜するために、従来では図6の符号101に示すような蒸着装置が用いられている。
蒸着装置101は真空槽111を有している。真空槽111内の天井付近には基板ホルダ112が水平配置されている。基板ホルダ112はモーター118に取り付けられており、モーター118を動作させると、基板ホルダ112は鉛直な回転軸線を中心として回転し、基板ホルダ112が水平面内で回転する。
【0003】
真空槽111内の底壁側には、有機材料116の配置された蒸発容器115が、基板ホルダ112の回転軸線より離間した位置に配置されている。蒸発容器115には蒸気を放出するための小さな開口(放出孔)を有している。
この蒸着装置101を用いて有機薄膜を形成するためには、先ず、真空排気系119により、真空槽111内に真空雰囲気を形成し、該真空雰囲気を維持したまま、成膜対象物である基板113を搬入し、基板ホルダ112に取り付ける。
【0004】
不図示の加熱装置により、有機材料116を加熱し、有機材料116の蒸気を発生させながら、基板ホルダ112を回転させる。
符号117は、有機材料116の蒸気が放出される方向を模式的に示すものであり、蒸気は蒸発容器115の放出孔から拡散して放出される。
【0005】
蒸発容器115の開口は、基板ホルダ112の回転軸線から離間させてあるため、基板113に到達する蒸気量は、基板ホルダ112が一回転する間に変化し、平均すると基板113表面に略同一量の蒸気が到達するようにされている。
ところで、基板113の所定領域だけに有機膜を形成する場合には、基板と放出孔の間にマスクを配置するマスク成膜が行なわれる。
【0006】
図7は、基板113表面にマスク120を装着させたものであり、マスク120には開口125が形成され、開口125を通過した蒸気によって、有機膜が開口125底面に部分的に露出する基板113の表面に形成される。
図8は、開口125部分の部分拡大図であり、図中の符号121、122はマスク120及び基板113に入射する蒸気の飛行方向を示している。
【0007】
マスク120と交差しない飛行方向121の蒸気は開口125を通過して基板113に入射するが、マスク120と交差する飛行方向122の蒸気は、マスク120と衝突し、基板113表面に到達できない。
同図の符号θpは、基板表面に垂直な垂線Hと、蒸気の飛行方向とが成す角度である入射角度を示している。
【0008】
蒸気が垂線Hに対して傾斜し、入射角度θpでマスク120に入射すると、マスク120のうち、蒸気の飛行方向122と交差する部分によって、開口125底面に影ができ、開口125底面の縁部分には蒸気が到達しない。従って、開口125の底面には、開口125よりも狭い面積にしか薄膜130が形成されない。
【0009】
マスク120の厚みを薄くすれば、蒸気の飛行方向122と交差する部分が小さくなり、開口125底面の影ができる場所が狭くなるから、開口125底面に形成される薄膜130の面積を広くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−362908号公報
【特許文献2】特開2006−152396号公報
【特許文献3】特開2005−154879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フルカラー表示の有機EL表示装置は、例えば画素ピッチ(中心間の距離)が370μm、画素数が1280×1024であるが、そのような微細な画素パターンは、厚さが18μm以上50μm未満の薄いマスク120でないと成膜できなかった。
【0012】
しかし、薄いマスク120は撓み易く、そのためマスク120を基板113に装着する際に張力を与えるが、張力により開口125に歪みが生じ、成膜精度が落ちるという問題がある。またマスク120が薄いと破損しやすいため、洗浄が困難という問題もある。
【0013】
そのため、マスク成膜の代わりに、レーザー照射により有機材料を基板に転写するレーザー転写法が提案されているが、レーザー転写法はマスク成膜に比べ成膜コストが高いという問題がある。
【0014】
また、均一に成膜する為に、基板の中心からオフセットした蒸発源から蒸気を発生させ、基板を回転させる必要があるが、基板の大型化により基板の回転が困難になっている。また、蒸発源と基板間が広くなるため、材料の無駄も多くなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明は、成膜対象である基板が配置される真空槽と、前記基板に成膜する蒸着材料の蒸気を発生させる蒸発源と、前記蒸発源で発生した蒸気が供給される放出装置とを有し、前記放出装置の少なくとも一部は前記真空槽内部に位置し、前記放出装置の前記真空槽内部に位置する面に、複数の放出孔が互いに離間して配置され、前記放出部と前記基板の間にはマスクが配置され、前記放出装置に供給された前記蒸気は、前記放出孔から前記真空槽内部に放出され、前記マスクの貫通孔を通った前記蒸気が前記基板に到達し、薄膜が形成される成膜装置であって、前記マスクは、厚さ50μm以上200μm以下の板状のマスク本体と、前記マスク本体に形成された複数の貫通孔とを有し、前記マスクは、表面を前記基板に向け、裏面を前記放出部に向けて配置され、前記各貫通孔の内壁面には、前記マスク本体の前記基板側の面と鋭角を成し、前記マスク本体の前記放出部側の面と鈍角を成す傾斜部が形成された成膜装置である。
本発明は成膜装置であって、前記貫通孔の平面形状は多角形であり、前記傾斜部は、前記貫通孔の全辺に形成された成膜装置である。
本発明は成膜装置であって、前記貫通孔の平面形状は細長であり、前記傾斜部は前記貫通孔の長辺に形成された成膜装置である。
本発明は成膜装置であって、前記傾斜部と、前記マスク本体表面に対して垂直な垂線との成す角度が、52°以上65°以下にされた成膜装置である。
本発明は、蒸発源で発生した有機材料を放出装置に供給し、前記放出装置に設けられた複数の放出孔から、前記蒸気を真空槽内部に放出し、前記真空槽内部の基板と前記放出装置との間に、板状のマスク本体に複数の貫通孔が形成されたマスクを配置しておき、前記貫通孔を通った蒸気を、前記基板に到達させて有機薄膜を形成する成膜方法であって、前記マスク本体の厚みが50μm以上200μm以下であり、前記貫通孔の内壁面に、前記マスク本体の片面である第一面と鋭角を成し、前記マスク本体の前記第一面と反対側の面である第二面と鈍角を成す傾斜部が形成された前記マスクを、前記第一面が前記基板と対面し、前記第二面が前記放出装置と対面するように配置して、前記放出孔から前記蒸気を放出させる成膜方法である。
本発明は成膜方法であって、前記傾斜部と、前記第一面に垂直な垂線との成す角度を、52°以上65°以下にする成膜方法である。
【発明の効果】
【0016】
マスクが厚いので貫通孔に歪みが生じにくく成膜精度が高い上、洗浄が可能であり、マスクの寿命が長い。貫通孔のピッチ(中心間の距離)が短く、また、貫通孔が小径な場合でも、基板の貫通孔の底面に露出する部分に均一に薄膜を形成可能であり、高密度画素のフルカラー有機EL表示装置を製造できる。有機薄膜をマスク成膜で成膜可能なため、有機EL表示装置の製造コストが下がる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の成膜装置の一例を示す断面図
【図2】本発明の成膜装置の一例を模式的に示す平面図
【図3】マスクの一例を示す平面図
【図4】マスクの他の例を示す平面図
【図5】マスクの貫通孔の部分の拡大断面図
【図6】従来技術の成膜装置の一例を示す断面図
【図7】従来技術の成膜装置にマスクを配置した状態を示す断面図
【図8】従来技術のマスクの拡大断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1、2の符号1は本発明の成膜装置の一例を示しており、図1は図2のA−A切断線断面図に相当する。成膜装置1は真空槽11と、真空槽11内部に配置された放出装置50と、真空槽11外部に配置された蒸発源20とを有している。図2では真空槽は省略している。
【0019】
蒸発源20は、タンク31と、タンク31の下方に配置された加熱室21と、加熱室21とタンク31の間に配置された供給管36とを有している。供給管36の上端はタンク31に、下端は加熱室21に気密に接続され、タンク31と加熱室21は供給管36により気密に接続されている。
【0020】
供給管36には回転軸35が挿通されている。回転軸35の側面には螺旋状のネジ溝が形成されている。図1は粉体の有機材料39をタンク31に収容した状態を示しており、不図示の回転手段により、回転軸35を供給管36内で中心軸線を中心として回転させると、有機材料39は回転軸35のネジ溝を通って供給管36内を下方へ移動し、供給管36の下端から加熱室21内部に落下する。
【0021】
加熱室21内の供給管36の真下位置には加熱台22が配置されている。真空槽11と加熱室21とタンク31には真空排気系19が接続されており、真空排気系19により、真空槽11と加熱室21とタンク31の内部に真空雰囲気を形成した後、真空槽11の真空排気を続けながら、加熱室21とタンク31の真空排気を停止する。
【0022】
所望膜厚の成膜に必要な有機材料39の量と、その有機材料39を落下させるのに必要な回転軸35の回転量とを求めておく。加熱手段25により加熱台22を、有機材料39の蒸発温度以上に加熱しておき、回転軸35を求めた回転量回転させ、必要量の有機材料39を加熱台22に落下させて加熱し、必要量の有機材料39の蒸気を加熱室21内に発生させる。
【0023】
加熱室21には配管49の一端が接続され、配管49の他端は一本の収集管47に接続されている。配管49の途中には加熱装置46が設けられており、加熱室21で発生した蒸気は、析出せずに配管49を通って収集管47に送られる。
収集管47には複数の接続管48の一端が接続され、接続管48の他端は放出装置50に接続されており、蒸気は収集管47に充満し、濃度が均一になってから、各接続管48を通って放出装置50に供給される。
【0024】
放出装置50は放出容器51を有している。放出容器51の内部は一又は複数に区分けされ、区分けされた各空間52に接続管48がそれぞれ接続され、収集管47から蒸気が供給される。
放出容器51の天井には、複数の放出孔60が行列状又は千鳥状に配置されている。従って、同一面(放出面)内に、複数の放出孔60が間隔を空けて並べられた列が、複数列配置され、放出孔60が点在している。尚、放出孔60は細長形状でもよく、その場合、放出孔60を同一面内で互いに平行に配置しておく。
【0025】
放出容器51の区分けされた各空間には、一列以上の放出孔60(又は一本以上の細長い放出孔60)が接続され、列を構成する各放出孔60から真空槽11の内部空間へ放出される。
真空槽11内の真空雰囲気を維持したまま真空槽11内に基板7を搬入しておき、放出孔60から蒸気が放出される前に、基板7を、放出孔60が配置された面上に配置し、基板7と放出装置50の間に、後述するよう位置合わせしたマスク70を、基板7と平行に配置しておく。
【0026】
マスク70は、板状のマスク本体71と、マスク本体71を表面から裏面まで貫通する複数の貫通孔72とを有している。貫通孔72の平面形状は、四角形等の多角形であって、行列状又は千鳥状に並べられている(図3)。従って、複数の貫通孔72が並べられた列が、同一面内に間隔を空けて複数列配置されている。
【0027】
図5は図3のB−B切断線断面図であり、貫通孔72の内壁面77を構成するマスク本体71が、マスク本体71の基板7に向けられた面(第一面78)と鋭角を成し、反対側の面(第二面79)と鈍角を成すように傾斜している。従って、貫通孔72は第一面78側が、第二面79側よりも狭くなっている。
【0028】
マスク70は第一面78を基板7に、第二面79を放出装置50に向けて配置されている。貫通孔72は基板7側よりも放出装置50側が広くなっており、貫通孔72の内壁面77は、第一、第二面78、79に垂直な垂線Hから傾斜する。
図5の符号θbは、垂線Hと貫通孔72内壁面77との成す角度である傾斜角度(≦90°)を示している。
【0029】
従来の装置101では、貫通孔(開口125)底面の縁部分がマスク120の影になり、その縁部分に向かって入射角度θpで飛行する蒸気は到達できなかったが(図8)、本発明では貫通孔72の内壁面77が傾斜し、貫通孔72の底面74は影にならないから、入射角度θiが傾斜角度θb以下であれば、底面74の縁部分に向かって飛行する蒸気が貫通孔72を通過して基板7に到達できる。
従って、マスク本体71の厚みが50μm以上200μm以下と厚くても、底面74の縁部分に蒸気が到達可能であり、その縁部分の膜厚が従来よりも厚くなるから、膜厚均一な有機薄膜8が形成される。
【0030】
基板7とマスク70は平行だから、垂線Hは基板7に対しても垂直であり、その垂線Hと蒸気の飛行方向Dとの成す角度を入射角度θi(≦90°)とすると、入射角度θiの平均は、従来の装置101の入射角度θpの平均に比べ小さくなる。即ち、本発明では、貫通孔72の周辺に、入射角度θiが傾斜角度θb以下の蒸気が入射できるから、有機薄膜8の成膜効率が高くなる。
【0031】
上述した必要量の有機材料39が蒸発し、その蒸気が放出孔60から放出されると、有機薄膜8が所望膜厚に達する。有機薄膜8が形成された基板7をマスク70と一緒に、真空槽11外部に搬出するか、基板7をマスク70から取り外し、マスク70を真空槽11内部に残し、基板7のみを真空槽11から搬出する。
【0032】
マスク70を真空槽11内に残す場合、未処理の基板7を真空槽11内部に搬入し、その基板7の各成膜部が貫通孔72の底面に露出するように、マスク70と基板7を位置合わせし、位置合わせされたマスク70と基板7を放出装置50上に配置した状態で、真空槽11内部に蒸気を放出させて成膜を開始する。
マスク70を基板7と一緒に搬出する場合は、真空槽11外部で、新たな基板7とマスク70との位置合わせをし、マスク70と基板7の位置関係を固定してから真空槽11内部に搬入してもよい。
【0033】
有機薄膜8の成膜を続けると、蒸気がマスク70に析出して貫通孔72の形状が狭くなり、成膜精度が落ちるため、一枚以上の所定枚数の基板7に有機薄膜8を形成後、マスク70を基板7から取り外して洗浄を行なう。
【0034】
洗浄は、エッチング等の化学洗浄、真空プラズマ洗浄、又はブラッシング等の機械洗浄と特に限定されないが、マスク本体71は厚さが50μm以上と厚いため、いずれの洗浄方法でも変形し難い。従って、マスク70を繰り返し使用することが可能であり、その結果有機EL表示装置の製造コストが下がる。
また、マスク70の厚みが50μm以上と厚いと、従来のように、張力を加えなくてもマスク70が撓まないので、マスク70用のフレームが不要である。
【0035】
赤、青、緑等2色以上の有機薄膜8を異なる場所に形成して、カラー表示の有機EL表示装置を形成する場合、図1、2の成膜装置1を複数台用意し、各色の有機薄膜8を別々の成膜装置1で成膜してもよい。
また、一つの成膜装置1で2色以上の有機薄膜8を形成してもよく、その場合は、放出装置50に複数の蒸発源20を接続し、各色の有機材料39の蒸気を、別々の蒸発源20で蒸発させる。
【0036】
いずれの場合も、第1色目の有機薄膜8を形成した後、マスク70を交換するか、マスク70と基板7との位置関係を変え、有機薄膜8が成膜された成膜部74をマスク本体71で覆い、有機薄膜8が形成されていない成膜部74を貫通孔72底面に露出させてから、第二色目の成膜を行なう。
マスク70の交換(又はマスク70と基板7の位置関係の変更)と、有機薄膜8との成膜とを繰り返せば、2色以上の有機薄膜8を異なる場所に成膜し、フルカラー表示用の有機EL表示装置も製造することができる。
【0037】
カラー表示の有機EL表示装置を製造する場合、2枚の基板7のうち、一方の基板7に複数の画素電極を、他方の基板7に共通電極を形成し、画素電極と共通電極とで有機薄膜8を挟み込むように、2枚の基板7を貼り合せ、各画素電極の上にいずれか1色の有機薄膜8を配置する。
【0038】
画素電極が行列状又は千鳥状に点在する場合、図3に示したようなマスク70を用い、千鳥状又は行列状の有機薄膜8を形成する。この有機EL表示装置では、各画素電極にTFTのようなトランジスタを接続し、選択した画素電極に電圧を印加することで、所望の色、所望の位置の有機薄膜8を発光させることができる。
そのマスク70の貫通孔72の平面形状は特に限定されず、三角形、四角形等の多角形でもよいし、真円等の円形であってもよい。
細長の画素電極を複数平行配置させる場合は、楕円、長方形等細長形状の貫通孔が形成されたマスクを用い、細長の有機薄膜を成膜する。
【0039】
図4は細長の貫通孔76が複数形成されたマスク75を示す平面図であり、貫通孔76は中心が同一直線L上に位置するように、互いに平行に並べられている。貫通孔76の平面形状は細長であるから、互いに平行な長辺を二本有しており、その長辺が他の貫通孔76と隣接する。
【0040】
貫通孔76の内壁面77のうち、基板7側の第一面78と鋭角を成し、放出装置50側の第二面79と鈍角を成す傾斜部は、少なくとも貫通孔76の長辺の部分に形成されている。
即ち、貫通孔76の内壁面77のうち、他の貫通孔76と隣接する部分に、傾斜部が形成されており、貫通孔76の中心間の距離(ピッチ)が狭い場合でも、高い精度で有機薄膜8を成膜することができる。
【0041】
画素電極及び有機薄膜8が細長の場合、対向電極も細長にし、画素電極と対向電極が交差するように2枚の基板7を貼り合せる。画素電極と対向電極を選択して電圧を印加すれば、電極が交差する部分の有機薄膜8が発光する。従って、この場合も、所望の位置で所望の色の光を放出させることができる。
【0042】
このように、マスク70、75や貫通孔72、76の形状は特に限定されないが、傾斜角度θbが大きすぎると、貫通孔72の間隔を狭くするのが困難であり、また、傾斜角度θbが小さすぎると、斜め入射する蒸気が遮られるので、マスク本体71の厚さが50μm以上200μm以下の場合は、傾斜角度θbを52°以上65°以下にする。本発明では、放出孔60が複数あるので傾斜角度θbを大きくする必要がなく、また、放出孔とマスクの距離を短くすることができる。
【0043】
マスク本体71の厚みが50μm以上200μm以下であり、傾斜角度θbが52°以上65°以下にすれば、貫通孔72、76の中心間の距離を20μm以上40μm以下、放出孔60とマスク70、75との間の距離を90mm以上120mm以下の時に、貫通孔72、76底面の膜の充填率が95%を超え、ピクセル内の膜厚分布が±2%と良好であった。
【0044】
本発明の放出孔60先端の口径dは、放射される蒸気の分布が蝋燭の炎形状となる程狭い。放出孔60の中心線からの蒸気の放射角をθとすると、放出孔60から放射された蒸気の分布はcosnθで表され、n値が大きい程、蒸気の炎形状が鋭くなり、蒸気の入射角度θiの平均を小さくできる。
【0045】
放出孔60の口径dが小さい程n値は大きくなり、また、放出孔60の長さtが長い程n値が大きくなるから、微細パターンの有機薄膜8を成膜する場合には、n値が15以上になるように、口径dと長さtを設定する。
【0046】
蒸気が放出孔60から放出される前に析出すると蒸着効率が落ちるため、加熱室21から放出孔60までの蒸気の流路(加熱室21、配管49、収集管47、接続管48、放出装置50)を、蒸気の析出温度以上であって、有機材料39が変性しない温度(例えば400℃)に加熱手段25で加熱する。
【0047】
放出装置50を加熱すると、放出装置50からの放射熱でマスク70、75や基板7が加熱され、マスク70、75の歪みや、有機薄膜8の劣化等が起こるので、放出装置50とマスク70の間に、冷却部材を配置する。
【0048】
図1の符号65は冷却部材の一例を示している。この冷却部材65は冷却板66を有しており、冷却板66には、複数の貫通孔67が、放出孔60と同じ間隔(中心間の距離)を空けて形成されている。
各貫通孔67は放出孔60よりも広くされ、冷却部材65は貫通孔67が放出孔60の真上に位置するよう配置されおり、蒸気は冷却板66に遮られずに、真空槽11内部に放出される。
【0049】
放出装置50が冷却されるのを避けるために、放出装置50と冷却部材65を離間させるか、放出装置50と冷却部材65の間に断熱材を配置する。
蒸気が冷却板66に接触するのを避けるために、放出孔60の先端を、冷却部材65のマスク70、75側の面(冷却板66表面)と面一にするか、冷却部材65よりもマスク70、75側に突き出すことが望ましい。
【0050】
具体的には、放出容器51の天井に貫通孔を形成し、その貫通孔と内部空間が気密に連通するようにされた放出筒62を放出容器51上に設け、放出筒62の内部空間と、放出容器51の貫通孔とで、放出孔60を構成する。
【0051】
冷却部材65の貫通孔67を放出筒62よりも大径にしておく。放出筒62の放出容器51とは反対側の端部(先端)を、冷却部材65に接触しないように、貫通孔67に挿通し、その先端を冷却部材65のマスク70、75側の面と面一にするか、それよりもマスク70、75側に突き出させる。
冷却部材65の構造は特に限定されないが、冷却板66内、又は、冷却板66の表面に配管を引き回し、該配管の内部に、水等の冷却媒体を流せば冷却効率が上がる。
【0052】
マスク70、75の材質は、剛性、耐熱性、加工性に優れたものであれば特に限定されないが、インバー(コバルトニッケル合金)や、SUS等がある。
マスク70、75の放出装置50側の面(第二面79)を研磨して、反射率を高くすれば放射熱が反射され、また、冷却板66のマスク70、75側の面を黒色に着色すれば、マスク70、75側に回りこんだ放射熱が吸収されるため、マスク70、75がより昇温し難くなる。
【0053】
基板7とマスク70、75の配置は特に限定されないが、成膜精度を高めるためには、基板7とマスク70、75を平行にし、基板7とマスク70、75間の距離を2μm以下にする。
放出装置50はマスク70、75と対面するのであれば、その設置場所は特に限定されない。図1に示したように、放出容器51の放出孔60が配置された面(天井)を上方に向け、放出容器51上に基板7及びマスク70、75を配置してもよいし、放出容器51の天井を下方に向け、放出容器51の下方に基板7及びマスク70を配置してもよい。更に、放出容器51を立設し、その天井を側方に向けてもよい。
【0054】
また、放出装置50は少なくとも放出孔が配置された部分が真空槽11の内部に位置すればよく、一部が真空槽の外部に位置してもよい。
放出容器51の内部空間は区分けしなくてもよいが、その内部空間が広いと蒸気の分布にむらが生じ、放出孔60から放出される蒸気量が不均一になるので、内部空間は複数に区分けすることが望ましい。
【0055】
基板7とマスク70、75の大きさは特に限定されないが、一例を述べると基板7は平面形状が縦730mm、横920mmの矩形である。また、放出装置50の放出孔60が配置された領域は、基板7の有機薄膜8を形成すべき領域よりも広くすることが望ましい。
【符号の説明】
【0056】
1……成膜装置 7……基板 8……有機薄膜 11……蒸着装置 20……蒸発源 39……有機材料 50……放出装置 60……放出孔 70、75……マスク 71……マスク本体 72、76……貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象である基板が配置される真空槽と、
前記基板に成膜する蒸着材料の蒸気を発生させる蒸発源と、
前記蒸発源で発生した蒸気が供給される放出装置とを有し、
前記放出装置の少なくとも一部は前記真空槽内部に位置し、前記放出装置の前記真空槽内部に位置する面に、複数の放出孔が互いに離間して配置され、
前記放出部と前記基板の間にはマスクが配置され、
前記放出装置に供給された前記蒸気は、前記放出孔から前記真空槽内部に放出され、前記マスクの貫通孔を通った前記蒸気が前記基板に到達し、薄膜が形成される成膜装置であって、
前記マスクは、厚さ50μm以上200μm以下の板状のマスク本体と、前記マスク本体に形成された複数の貫通孔とを有し、
前記マスクは、表面を前記基板に向け、裏面を前記放出部に向けて配置され、
前記各貫通孔の内壁面には、前記マスク本体の前記基板側の面と鋭角を成し、前記マスク本体の前記放出部側の面と鈍角を成す傾斜部が形成された成膜装置。
【請求項2】
前記貫通孔の平面形状は多角形であり、
前記傾斜部は、前記貫通孔の全辺に形成された請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記貫通孔の平面形状は細長であり、
前記傾斜部は前記貫通孔の長辺に形成された請求項1記載の成膜装置。
【請求項4】
前記傾斜部と、前記マスク本体表面に対して垂直な垂線との成す角度が、52°以上65°以下にされた請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の成膜装置。
【請求項5】
蒸発源で発生した有機材料を放出装置に供給し、
前記放出装置に設けられた複数の放出孔から、前記蒸気を真空槽内部に放出し、
前記真空槽内部の基板と前記放出装置との間に、板状のマスク本体に複数の貫通孔が形成されたマスクを配置しておき、
前記貫通孔を通った蒸気を、前記基板に到達させて有機薄膜を形成する成膜方法であって、
前記マスク本体の厚みが50μm以上200μm以下であり、前記貫通孔の内壁面に、前記マスク本体の片面である第一面と鋭角を成し、前記マスク本体の前記第一面と反対側の面である第二面と鈍角を成す傾斜部が形成された前記マスクを、
前記第一面が前記基板と対面し、前記第二面が前記放出装置と対面するように配置して、前記放出孔から前記蒸気を放出させる成膜方法。
【請求項6】
前記傾斜部と、前記第一面に垂直な垂線との成す角度を、52°以上65°以下にする請求項5記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−159454(P2010−159454A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2110(P2009−2110)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】