説明

成膜装置および成膜方法

【課題】ターゲットを有効使用できるとともに、成膜領域の温度の変動を抑え、均一な膜質及び特性の薄膜を安定して成膜することのできる成膜装置および成膜方法の提供。
【解決手段】本発明の成膜装置20は、レーザ光Lによってターゲット31から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を基材25上に堆積させ、基材25上に薄膜を形成する成膜装置20であって、基材25に対向するように配されたターゲット31と、ターゲット31の外周面を取り囲んで設けられたターゲット保持部材32と、ターゲット31にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段28とを少なくとも備え、ターゲット保持部材32が、熱伝導率40W/(m・K)以下、融点2000℃以上の材料より形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関し、より詳しくは、レーザ光によってターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を帯状の基材上に堆積させ、薄膜を形成する成膜装置(レーザ蒸着装置)および成膜方法(レーザ蒸着方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−x:REはY、Gdなどの希土類元素)は、液体窒素温度(77K)よりも高い臨界温度を有しており、超電導デバイス、超電導変圧器、超伝導限流器、超電導モータ又はマグネット等の超電導機器への応用が期待されている。
RE−123系酸化物超電導体を導電体として使用するためには、テープ状基材などの長尺基材上に、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成する必要がある。これは、この種の希土類酸化物系超電導体の結晶が、その結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流しやすいが、c軸方向には電気を流し難いという電気的異方性を有しており、長尺基材上に酸化物超電導層を形成する場合、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要があるためである。
ところが、一般には、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、金属テープ上に直接、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成することは難しい。そこで、金属テープからなる基材の上に、結晶配向性の優れた多結晶中間薄膜を形成し、この多結晶中間薄膜上に酸化物超電導体の薄膜を形成する手法が検討されている。
【0003】
金属テープ上に多結晶中間薄膜が形成された基材上に、RE123系酸化物超電導体を成膜して酸化物超電導層を形成する方法の一つにパルスレーザ蒸着法(PLD法)がある。PLD法とは、成膜したい物質やそれに近似の組成を有する物質を焼結させたターゲットに、レーザ光を照射することでターゲットの構成成分を気相化させてプルームと呼ばれる柱状のプラズマを発生させて、基板上に蒸着させる手法である。このPLD法は、高臨界電流特性を有する酸化物超電導層を形成することができることから製造プロセスとして将来有望な手法と考えられている。PLD法による酸化物超電導層の形成では、成膜条件によって形成される酸化物超電導層の特性が大きく変化することから、良好な特性が得られる条件で長時間安定成膜ができることが酸化物超電導線材の量産化への鍵となっている。
【0004】
PLD法により酸化物超電導層を成膜する場合、レーザ光の長時間照射により、ターゲット表面が荒れてしまい、プルームが安定的に発生しなくなってしまい、酸化物超電導層を長時間安定成膜できなくなってしまう問題がある。この問題を改善する手法として、レーザ光を走査し、ターゲットの異なる位置にレーザ光を照射して、ターゲットの磨耗を均一にする試みがなされている(特許文献1参照)。磨耗が均一になることで、長時間安定使用しても安定的にプルームを発生させることができる。
【0005】
ところで、RE−123系酸化物超電導層をPLD法により成膜する場合、高特性の超電導層を成膜するためには、800℃程度の高温で成膜する必要がある。しかしながら、RE−123系酸化物超電導体を焼結させたターゲットは、高温雰囲気下での使用による歪や、レーザ光を照射した際の衝撃により、割れてしまう場合がある。ターゲットに割れが発生し、割れた部分にレーザ光が照射されると、発生するプルームが傾いてしまい、所定の位置に構成成分が蒸着されず、安定した成膜ができなくなってしまう。
このような問題を改善する方法として、ターゲットの化学組成を厳密に制御することにより、割れにくいターゲットを作製する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−316802号公報
【特許文献2】特開2007−63631号公報
【特許文献3】特開平9−53174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術のように、レーザ光の照射位置を走査したり、或いはターゲットを駆動させて、ターゲット表面上のレーザ光照射位置を移動させることにより、ターゲットの磨耗を均一にすることができる。しかしながら、ターゲットを有効利用するために、ターゲットを駆動させて(設置位置を移動させて)ターゲットの端の部分にまでレーザ光を照射すると、ターゲット端部周辺に位置するターゲットを保持する部材なども、成膜領域に入り込んでしまう。RE−123系酸化物超電導体のターゲットは熱容量が大きいため高温であるが、ターゲット端部周辺に位置する部材はターゲットよりも温度が低い。そのため、このように温度の低い部材が成膜領域に入り込んでくると、成膜領域の温度が一気に冷やされてしまう。その結果、成膜領域の熱変動が起こり、成膜温度が安定しないため、成膜される超電導層の膜質および超電導特性にバラつきが生じてしまう。成膜領域の温度の変動を小さくするためには、ターゲットを十分に大きくしてターゲット端部周辺の部材が成膜領域に入り込まないようにする方法も考えられるが、RE−123系酸化物超電導体のターゲットはコストが高く、且つ使用時に割れてしまう場合もあるため、何度も繰り返し利用することもできない問題がある。また、ターゲットの端の部分にまでレーザ光を照射することができないため、ターゲットを有効利用することができない問題がある。
【0008】
また、特許文献2には、化学組成を厳密に制御して作製したターゲットは、レーザ光を照射しても割れないことが記載されている。しかしながら、高特性の超電導層を成膜するためには800℃程度の高温でレーザ光を照射しなければならず、また、長時間のレーザ光照射や高温環境下において、ターゲットの割れを完全に防止することは、特許文献2に記載の技術であっても、達成することが難しいと考えられる。そのため、万が一、ターゲットが割れてしまった場合であっても、割れた部分の散らばりを抑制し、プルームの安定性を確保する技術の開発が重要となる。
【0009】
ターゲットが割れた場合であっても、割れた部分が散らばることを抑制して、プルームの安定性を保つ手法として、ターゲットをバッキングプレートと呼ばれる固定部材にボンディング部材により固定する方法が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載の技術では、ターゲットがバッキングプレートに接着されて固定されているため、ターゲットの片面しか利用できないという問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、ターゲットを有効使用できるとともに、成膜領域の温度の変動を抑え、均一な膜質及び特性の薄膜を安定して成膜することのできる成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の成膜装置は、レーザ光によってターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を基材上に堆積させ、該基材上に薄膜を形成する成膜装置であって、前記基材に対向するように配されたターゲットと、前記ターゲットの外周面を取り囲んで設けられたターゲット保持部材と、前記ターゲットにレーザ光を照射するレーザ光発光手段とを少なくとも備え、前記ターゲット保持部材が、熱伝導率40W/(m・K)以下、融点2000℃以上の材料より形成されてなることを特徴とする。
本発明の成膜装置において、前記ターゲット保持部材の高さは、前記ターゲットの高さよりも低いことが好ましい。
本発明の成膜装置において、前記ターゲットが酸化物超電導体用材料であり、前記薄膜が酸化物超電導薄膜であることが好ましい。
【0012】
本発明の成膜装置において、前記ターゲット保持部材が、AlまたはZrOより形成されてなることも好ましい。
本発明の成膜装置において、ターゲット支持台を備え、該ターゲット支持台上に前記ターゲットと前記ターゲット保持部材とが載置されてなることも好ましい。
本発明の成膜方法は、上記成膜装置を用い、レーザ光をターゲット表面に照射し、このレーザ光によって前記ターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を基材上に堆積させ、該基材上に薄膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の成膜装置は、ターゲットの外周面を取り囲むように、熱伝導率40W/(m・K)以下、融点2000℃以上の材料よりなるターゲット保持部材を設ける構成とした。本発明に適用されるターゲット保持部材は温度変動が少ないため、ターゲットとターゲット保持部材の温度をほぼ同一とすることができる。従って、レーザ光やターゲットを移動させて、レーザ光をターゲットの端部近傍に照射する場合にも、成膜領域の温度を変動させることがない。従って、本発明の成膜装置によれば、ターゲットの端部近傍まで有効に使用することができるとともに、成膜領域の温度の変動を抑え、均一な膜質や特性の薄膜を安定して成膜することができる。
また、本発明の成膜装置は、ターゲットの外周面を取り囲むようにターゲット保持部材が設けられる構成としたことにより、成膜時に万が一ターゲットに割れが生じてしまった場合にも、割れた部分が散らばることを抑制することができるため、ターゲットにレーザ光を照射して発生させた粒子の噴流であるプルームのバラつきを抑え、プルームを安定して発生させることができる。
【0014】
本発明の成膜装置において、ターゲット保持部材の高さhを、ターゲットの高さHよりも低く設定するならば、長時間のレーザ光照射により、ターゲットが消費されてその高さが減少してきた場合であってレーザ光を斜めに照射する場合にも、レーザ光をターゲット保持部材に邪魔されずに照射することが可能であり、ターゲットを有効に使用することができる。
また、本発明の成膜装置において、ターゲットとターゲット保持部材とが、ターゲット支持台に非固定の状態で載置されている構成とするならば、ターゲットを裏返して使用することができ、ターゲットの裏面側も有効利用することが可能となる。
本発明の成膜方法は、本発明の成膜装置を用いるため、ターゲットの端部近傍まで有効に使用することができるとともに、成膜領域の温度の変動を抑え、均一な膜質や特性の薄膜を安定して成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の成膜装置の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2(a)は本発明の成膜装置が備えるターゲット及びターゲット保持部材の一例を示す上面図であり、図2(b)は本発明の成膜装置のターゲット近傍の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の成膜装置が備えるターゲット及びターゲット保持部材の他例を示す概略斜視図である。
【図4】本発明の成膜方法により製造される酸化物超電導導体の一例を示す概略斜視図である。
【図5】実施例1および比較例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る成膜装置および成膜方法の一実施形態について、図面に基づき説明する。
図1は本発明の成膜装置の一実施形態を示す概略斜視図であり、図2(a)は図1に示す成膜装置のターゲット及びターゲット保持部材を示す上面図であり、図2(b)は図1に示す成膜装置のターゲット近傍を示す概略構成図である。
【0017】
図1に示す本実施形態の成膜装置20は、レーザ光Lによってターゲット31から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流(プルーム29)を長尺基材25上に堆積させ、この構成粒子による薄膜を長尺基材25上に形成する、レーザ蒸着法による成膜装置である。なお、以下の説明において、ターゲット31の構成粒子の堆積領域(成膜領域)27とは、ターゲット31の上面に対し斜め方向からレーザ光Lの照射によりターゲット31から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子(蒸着粒子)の噴流であるプルーム29が形成された領域を意味する。
【0018】
図1に示す成膜装置20は、テープ状の長尺基材25を巻回するリールなどの巻回部材を複数個同軸的に配列してなり、離間して対向配置されて長尺基材25の移動方向を転向する一対の転向部材群23、24と、転向部材群23の外側に配置された長尺基材25を送り出すための送出リール21と、転向部材群24の外側に配置された長尺基材25を巻き取るための巻取リール22と、転向部材群23、24の巻回により複数列とされた長尺基材25を支持する基板ホルダ26と、基板ホルダ26に内蔵された長尺基材25を加熱するための加熱手段(図示略)と、転向部材郡23、24間を走行する長尺基材25と対向配置されたターゲット31と、ターゲット31の外周面を取り囲んで設けられたターゲット保持部材32と、ターゲット31とターゲット保持部材32を支持するターゲット支持台33と、ターゲット31にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段28とを備えて構成されている。転向部材群23、24、送出リール21及び巻取リール22を駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより、送出リール21から送り出された長尺基材25が転向部材群23、24を周回し、巻取リール22に巻き取られるようになっている。
【0019】
長尺基材25は、成膜面が外側となるように一対の転向部材群23、24に巻回されており、これらの転向部材群23、24を周回することにより、ターゲット31の構成粒子の堆積領域(成膜領域)27にて複数列レーンを構成するように配置されている。そのため、成膜装置20は、レーザ光Lをターゲット31の表面に照射し、ターゲット31から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流(プルーム29)を、ターゲット31に対向する領域である成膜領域27を走行する長尺基材25の表面に向けて、長尺基材25上に蒸着粒子を堆積させることができる。また、長尺基材25が成膜領域27にて複数列レーンを構成するように配置されていることにより、ターゲット31からの蒸着粒子を良好な収率で長尺基材25上に堆積させることができ、ターゲット31を有効利用することができる。
【0020】
長尺基材25、長尺基材25の移動方向を転向させる転向部材群23、24、送出リール21、巻取リール22、ターゲット31、ターゲット保持部材32、ターゲット支持台33および基板ホルダ26は、処理容器(図示略)内に収容されている。この処理容器には、真空排気装置(図示略)が接続され、この真空排気装置により処理容器内を所定の圧力に減圧するようになっている。処理容器内の圧力が所定の圧力に減圧されている間は、長尺基材25の長手方向の全体が処理容器内の減圧下に置かれるようになっている。
【0021】
ターゲット31の構成粒子の堆積領域27を走行する複数の長尺基材25を支持する基板ホルダ26内には、加熱手段(図示略)が配されている。そのため、堆積領域27を通過中の長尺基材25は、その成膜面とは反対側の面から、加熱手段からの放熱により所定の温度に加熱された状態でターゲット31の構成粒子が堆積し、成膜される。
加熱手段としては、熱を放散して堆積領域27内の長尺基材25を加熱することができるものであれば特に限定されず、通電式の加熱ヒーター等が挙げられる。なお、本実施形態においては、基板ホルダ26内に加熱手段を設けているが、本発明はこれに限定されず、堆積領域27を通過中の長尺基材25を所定の温度に加熱することができれば、その設置位置は適宜変更可能である。
【0022】
ターゲット31にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段28は、ターゲット31からその構成粒子を叩き出し若しくは蒸発させることができるレーザ光Lを発生するものであれば良い。レーザの波長、出力、照射エネルギー等は、ターゲット31の材質や成膜速度等に応じて、適宜設定することが可能である。ターゲット31にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段28としては、Ar−F(193nm)、Kr−F(248nm)、Xe−Cl(308nm)などのエキシマレーザ、YAGレーザ、CO2レーザなどが挙げられる。
【0023】
また、レーザ光Lは、その照射位置を移動させる手段(図示略)により、レーザ光Lの照射位置をターゲット31の表面上で移動可能とされていることが好ましい。このようにレーザ光Lの照射位置をターゲット31の表面上で移動可能とすることにより、ターゲット31が局所的に削られて、ターゲット31の寿命が短くなることを防止することがきできる。また、ターゲット31の表面上でレーザ光Lの照射位置を移動可能とすることにより、ターゲット31からのプルーム29を複数発生させて、ターゲット31の構成粒子の堆積領域27を広くすることができる。
【0024】
ターゲット31とターゲット保持部材32はターゲット支持台33に載置されており、ターゲット移動機構(図示略)によって、平行な面に沿って移動可能に設けられている(図2(b)の矢印A1)。さらに、ターゲット31およびターゲット保持部材32は、ターゲット31の中心を軸として回転可能に設けられていることが好ましい(図2(b)の矢印A2)。このように、ターゲット31を移動可能及び回転可能に設けるならば、長時間の成膜を継続して実施しても、ターゲット31の表面がほぼ均一に削られるので、ターゲット31表面の形状乱れによってプルーム29の大きさが変わる不具合を防止することができ、長尺基材25の長手方向に均一な膜厚や特性の薄膜を形成することが可能となる。
【0025】
ターゲット31は、形成しようとする薄膜と同等または近似した組成の材料の焼結体からなっている。ターゲット31は、平板状であり、図1に示すような円盤形や方形、矩形等の形状のものを使用できる。
薄膜として、酸化物超電導薄膜を形成する場合、ターゲット31は酸化物超電導体用材料より構成されている。具体的には、形成しようとする酸化物超電導薄膜と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体あるいは酸化物超電導体などの板材からなっている。従って、酸化物超電導体のターゲットは、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−x:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)またはそれらに類似した組成の材料を用いることができる。RE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBaCu7−x)又はGd123(GdBaCu7−x)等であるが、その他の酸化物超電導体、例えば、(Bi,Pb)CaSrCuなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電導層と同一の組成か、近似した組成のものを用いることが好ましい。
【0026】
この形態のターゲット保持部材32は、ターゲット31の外周面を取り囲むように設けられている。ターゲット保持部材32は、ターゲット31の外周形状に合わせた形状の開口部32Kを有したドーナツ板状であり、ターゲット31の外周面とターゲット保持部材32とは、その開口部32Kで接している。
ターゲット保持部材32は、ターゲット31を開口部32Kに容易に収容できることから、複数の部分に分離可能であることが好ましい。例えば、図2(a)に示すようにターゲット保持部材32が分離部32P、32Qにより2つに分離可能とすることにより、2つに分離されたターゲット保持部材によりターゲット31をその水平方向より挟み込むなどして容易に取り囲むことができる。
【0027】
ターゲット保持部材32が複数の部分に分離可能である場合、ターゲット保持部材32はバンド部材34によりその外周面を取り囲んで固定されていることが好ましい。バンド部材34の材質は特に限定されないが、耐熱性の高い材料より形成されていることが好ましく、例えば、ハステロイ(商品名、ヘインズ社製)等の高耐熱性のテープ状の金属や合金より形成されている。ターゲット保持部材32の外周面を取り囲むバンド部材34の端部同士は、溶接等による接合部34により接合されている。なお、図1および図2においては、バンド部材34の幅が、ターゲット保持部材32の高さよりも大きい場合を例示しているが、本発明はこれに限定されず、ターゲット保持部材32を固定可能であれば、バンド部材34の幅は適宜変更可能である。
【0028】
本実施形態の成膜装置20は、ターゲット31の外周面を取り囲むようにターゲット保持部材32が設けられる構成としたことにより、成膜時に万が一ターゲット31に割れが生じてしまった場合にも、割れた部分が散らばることを抑制することができるため、プルームのバラつきを抑え、プルームを安定して発生させることができる。
【0029】
ターゲット保持部材32は、熱伝導率40W/(m・K)以下、融点2000℃以上の材料より形成されている。ターゲット保持部材32が、融点2000℃以上の材料より形成されていることにより、RE123系酸化物超電導薄膜等、800℃程度の高温条件下で成膜する必要がある薄膜を成膜する場合に、何らかの理由により突発的に1000℃以上の温度条件下に曝される状況になったとしても、ターゲット保持部材32が熱により溶融して変形することが無く、ターゲット31を保持することができる。
また、ターゲット保持部材32が熱伝導率40W/(m・K)以下の材料より構成されていることにより、成膜時にターゲット保持部材32が輻射熱などにより加熱された場合、ターゲット保持部材32自体の温度変動が小さくなる。そのため、ターゲット31とターゲット保持部材32とがほぼ同じ温度となり、また、ターゲット31は温度変動が小さいターゲット保持部材32により取り囲まれていることにより、その温度の変動が外周部近傍でも小さくなる。
【0030】
ターゲット保持部材32を構成する材料としては、熱伝導率と融点が前記範囲を満たすものであれば特に限定されないが、ターゲット31が酸化物超電導用材料より形成されている場合、熱伝導率と融点が前記範囲を満たす酸化物が好ましく、具体的には、Al(熱伝導率:約30W/(m・K)、融点:2030℃)、BaZrO(熱伝導率:約10W/(m・K)、融点:2600℃)、ZrO(熱伝導率:約3W/(m・K)、融点:2710℃)、MgO(熱伝導率:約40W/(m・K)、融点:2800℃)、CaO(熱伝導率:約10W/(m・K)、融点:2600℃)が挙げられ、中でも、加工が容易、製造コストを低減することができる等の理由により、AlまたはBaZrOが好ましい。なお、本発明の明細書および特許請求の範囲において、ターゲット保持部材を構成する材料の熱伝導率の値は、室温(25℃)における熱伝導率である。
【0031】
なお、ターゲット保持部材32の形状は、図2に示す形状に限定されるものではなく、使用するターゲットの形状に合わせて、ターゲットの外周面を取り囲むことができる形状となるように適宜変更可能である。例えば、図3に示すように、方形平板状のターゲット31Bを使用する場合、方形の開口部32Kを有する方形平板状のターゲット保持部材32Bを使用することができる。図3に示すターゲット保持部材32Bは、分離部32P、32Qにより2つに分離可能とされており、その外周部はバンド部材34Bで固定されている。図3に示す例では、方形のターゲット保持部材32Bの一辺と対向する他辺とを結ぶように分離部32P、32Qが形成されているが、ターゲット31を開口部32K内に容易に収容可能にターゲット保持部材32を分離することができれば、分離部32P、32Qの位置は特に限定されない。また、図3に示す例では、ターゲット保持部材32Bの形状が方形であるが、ターゲット31Kの外周面を取り囲めるように開口部32Kがターゲット31Kと同一形状とされているならば、ターゲット保持部材32Kの全体形状は円盤状、矩形状、不定形状など、適宜変更することができる。
【0032】
ターゲット31を有効に使用するためには、レーザ光Lの走査や、ターゲット31の水平方向移動(駆動)を行うことにより、ターゲット31の端部近傍までレーザ光を照射してプルーム29を発生させることが望まれる。レーザ光をターゲットの端部近傍まで照射しようとすると、ターゲットを保持する部材など、ターゲット外周部近傍に位置する部材もターゲットの移動に連動して成膜領域に入り込んでしまうが、従来の成膜装置では、ターゲットの外周部近傍に位置する部材は、一般的にターゲット31よりも温度が低くなっている。そのため、温度の低い部材が成膜領域に入り込んでしまうと、成膜領域の温度が変動してしまい、適正な成膜温度を安定に保つことができなくなる。その結果、成膜される薄膜の膜質や特性にバラつきがでてしまうという問題があった。
【0033】
本実施形態の成膜装置20では、ターゲット31の外周面を取り囲むようにターゲット保持部材32を設ける構成とした。このようにターゲット保持部材32を設けることにより、熱伝導率40W/(m・K)以下の材料より構成されているターゲット保持部材32は温度変動が少ないため、ターゲット31とターゲット保持部材32の温度がほぼ同一とすることができる。従って、レーザ光Lやターゲット31を移動させて、レーザ光Lをターゲット31の端部近傍に照射する場合、ターゲット保持部材32もターゲット31に連動して成膜領域27に入り込むが、ターゲット保持部材32はターゲット31とほぼ同一の温度であるため、成膜領域27の温度を変動させることがない。そのため、成膜装置20により成膜される薄膜の膜質や特性が成膜温度の変動により不安定になることを抑制することができ、安定した膜質や特性の薄膜を成膜することができる。従って、本実施形態の成膜装置20によれば、ターゲット31の端部近傍まで有効に使用することができるとともに、成膜領域の温度の変動を抑え、均一な膜質や特性の薄膜を安定して成膜することができる。
【0034】
また、図2(b)に示す如く、ターゲット保持部材32の高さhは、ターゲット31の高さHよりも低く設定されていることが好ましい。このようにターゲット保持部材32の高さhを設定することにより、長時間のレーザ光L照射により、ターゲット31が消費されてその高さが減少してきた場合にも、レーザ光Lをターゲット保持部材32に邪魔されずに照射することが可能であり、ターゲット31を有効に使用することができる。なお、ターゲット保持部材32の高さhの下限値は、ターゲット31を保持し、成膜領域の温度変化を抑える効果を奏することができるため、ターゲット31の高さHの1/3とすることが好ましい。
【0035】
また、ターゲット31とターゲット保持部材32は、ターゲット支持台33に非固定の状態で載置されていることが好ましい。このようにターゲット31とターゲット保持部材32とがターゲット支持台33上に非固定とされていることにより、ターゲット31を裏返して使用することができ、ターゲット31の裏面側も有効利用することが可能となる。ターゲット31を裏返して使用する場合、ターゲット31をターゲット保持部材32より分離してターゲット31を裏返してもよいが、ターゲット31とターゲット32とは固着されずに接した状態であるため、ターゲット31とターゲット32とを一体化させた状態のまま裏返し、ターゲット保持部材32をターゲット支持台33側へと移動させることにより、図2(b)に示すような状態に再配置する方が簡便である。
【0036】
次に、本発明の成膜方法について説明する。
本発明の成膜方法は、前記した本発明の成膜装置を用い、レーザ光をターゲット表面に照射し、このレーザ光によって前記ターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を基材上に堆積させ、該基材上に薄膜を形成することを特徴とする。
なお、本実施形態では、図4に示すように、長尺のテープ基材11上に中間層12が形成されてなる長尺基材25に対し、本発明に係る成膜装置20により酸化物超電導薄膜である酸化物超電導層13を成膜して、酸化物超電導導体10を製造する場合を例にして説明する。本実施形態では、基材上に形成される薄膜として、酸化物超電導体薄膜を例に挙げて説明するが、この酸化物超電導体薄膜は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0037】
図4は、本実施形態の成膜方法により得られる酸化物超電導導体10の一例を示す概略斜視図である。図4に示す酸化物超電導導体10は、長尺のテープ基材11上に、中間層12及び超電導層13がこの順に積層されて構成されている。
【0038】
長尺のテープ基材11は、耐熱性の金属や合金からなるものが好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金からなるものがより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。
テープ基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることでオーバーオールの臨界電流密度を一層向上させることができる。
【0039】
中間層12は、酸化物超電導層13の結晶配向性を制御し、テープ基材11中の金属元素の酸化物超電導層13への拡散を防止するものであり、また、テープ基材11と酸化物超電導層13との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能する。中間層12の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物が例示できる。中間層12は、単層でも良いし、複数層でも良い。複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層13に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0040】
中間層12とテープ基材11との間には、ベッド層が介在されていてもよい。ベッド層は、耐熱性が高い材料からなり、界面反応性を低減し、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層の厚さは例えば10〜200nmである。
【0041】
さらに、テープ基材11とベッド層との間に、テープ基材11の構成元素拡散を防止する目的で拡散防止層が介在された構造としても良い。拡散防止層は、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
【0042】
また中間層12は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、酸化物超電導層13の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層13を構成する元素の中間層12への拡散や、酸化物超電導層13積層時に使用するガスと中間層12との反応を抑制する機能等を有するものである。キャップ層は、前記金属酸化物層により配向性が制御される。
【0043】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0044】
中間層12の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層12が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0045】
中間層12は、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層でき、特に、IBAD(イオンビームアシスト蒸着)法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層13やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。
【0046】
このように、良好な配向性を有する中間層12上に酸化物超電導層13を形成すると、酸化物超電導層13も中間層12の配向性に整合するように結晶化する。よって良好な配向性を有する中間層12上に形成された酸化物超電導層13は、結晶配向性に乱れが殆どなく、酸化物超電導層13を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、テープ基材11の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、テープ基材11の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層13は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、テープ基材11の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0047】
酸化物超電導層13を構成する超電導体としては、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−x:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)が挙げられ、Y123(YBaCu7−x)又はGd123(GdBaCu7−x)等が好ましいものとして挙げられるが、その他の酸化物超電導体、例えば、(Bi,Pb)CaSrCuなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電導体からなるものも適用できる。酸化物超電導層の厚みは0.5〜5μm程度で、かつ均一な厚みとなっている。また、酸化物超電導層の膜質は均一となっており、酸化物超電導層の結晶のc軸とa軸とb軸も中間層12またはキャップ層の結晶に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化しており、結晶配向性が優れたものとなっている。
【0048】
図1に示す構成の成膜装置20を用いて長尺基材25の上(テープ基材11上の中間層12の上面)に酸化物超電導層(酸化物超電導薄膜)15を成膜するには、まず、酸化物超電導用材料より形成されたターゲット31を準備し、図2(a)及び図2(b)に示すように、ターゲット31の外周面を取り囲むようにターゲット保持部材32を配置させて、このターゲット31とターゲット保持部材32とをターゲット支持台33上に載置する。
次いで、送出リール21に巻回されている長尺基材25を引き出しながら、転向部材群23、24に成膜面(中間層12側)が外側となるように順次巻回し、その後、長尺基材25の先端側を巻取リール22に巻き取り可能に取り付ける。
これによって、一対の転向部材群23、24に巻回された長尺基材25が、これらの転向部材群23、24を周回し、ターゲット31に対向する位置に複数列並んで移動するようになる。その後、真空排気装置3(図示略)を駆動し、少なくとも転向部材群23、24間を走行する長尺基材25を覆うように設置された処理容器(図示略)内を減圧する。この際、必要に応じて処理容器内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良くい。
【0049】
次に、ターゲット31にレーザ光Lを照射して成膜を開始するよりも前の適当な時に、加熱手段(図示略)に通電してターゲット31の構成粒子の堆積領域(成膜領域)27を走行する長尺基材25を加熱し、一定温度に保温する。成膜時の長尺基材25の表面温度は、適宜調整可能であり、例えば、780〜850℃とすることができる。
【0050】
続いて、送出リール21から長尺基材25を送り出しつつ、レーザ光発光手段28からレーザ光Lを発生させ、レーザ光Lをターゲット31に照射する。この時、レーザ光Lの照射位置をターゲット31の表面上で移動させる走査を行いながらレーザ光Lをターゲット31に照射することが好ましい。また、ターゲット31は、ターゲット移動機構(図示略)によって、平行な面に沿って移動させることも好ましい。このように、ターゲット31におけるレーザ光Lの照射位置を移動させることにより、ターゲット31の表面全域から順次プルーム29を発生させてターゲット31の粒子を叩き出し若しくは蒸発させることができ、レーン状に複数配列した長尺基材25の個々に可能な限り均一な酸化物超電導層13を成膜することができる。
【0051】
ターゲット31から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子は、その放射方向の断面積が拡大したプルーム29となり、複数列並んで移動している長尺基材25の表面に蒸着粒子を堆積させることができ、長尺基材25がこれらの転向部材群22、23を周回する間に、堆積領域(成膜領域)27を複数回通過することにより酸化物超電導層(酸化物超電導薄膜)15が繰り返し成膜され、必要な厚さに積層される。本実施形態では、長尺基材25が堆積領域(成膜領域)27にて複数列レーンを構成するように配置されていることにより、ターゲット31からの蒸着粒子を良好な収率で長尺基材25上に堆積させることができ、ターゲット31を有効利用することができる。
酸化物超電導層15の成膜後、得られた酸化物超電導導体10は巻取リール21に巻き取られる。
以上の工程により、長尺基材25(テープ基材11上の中間層12の上面)に、酸化物超電導薄膜である酸化物超電導層13を成膜し、酸化物超電導導体10を製造することができる。
【0052】
本実施形態の成膜方法では、本発明に係る成膜装置20を用いるため、ターゲット保持部材32に外周面が取り囲まれたターゲット31にレーザ光Lを照射してプルーム29を発生させて、成膜領域27の長尺基材25上に薄膜を成膜することができる。そのため、本実施形態の成膜方法では、レーザ光をターゲット31の端部近傍まで照射してターゲットを有効利用しつつ、均一な膜質や特性の薄膜(酸化物超電導薄膜)を安定して成膜することができる。これは、成膜装置20において、ターゲット31が熱伝導率40W/(m・K)以下の材料より形成されているターゲット保持部材32により取り囲まれていることにより、ターゲット保持部材32は温度変動が少ないため、ターゲット31とターゲット保持部材32の温度がほぼ同一に保持されているためである。そのため、レーザ光Lやターゲット31を移動させて、レーザ光Lをターゲット31の端部近傍に照射した場合にも、ターゲット保持部材32はターゲット31とほぼ同一の温度であるため、成膜領域27の温度を変動させることなく、長尺基材25上に酸化物超電導薄膜(酸化物超電導層)13を成膜することができる。従って、本実施形態の成膜方法によれば、ターゲット31の端部近傍まで有効に使用することができるとともに、成膜領域の温度の変動を抑え、均一な膜質や特性の薄膜を安定して成膜することができる。
【0053】
以上、本発明の成膜装置および成膜方法の一実施形態について説明したが、上記実施形態において、成膜装置を構成する各部、成膜方法、および成膜方法により成膜される薄膜などは一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施形態では、長尺基材をターゲットの構成粒子の堆積領域(成膜領域)を複数回通過させて、長尺基材上に酸化物超電導層を成膜する例を示したが、本発明はこれに限定されない。長尺基材を成膜領域を1回のみ通過させる構成としても良く、長尺基材を成膜領域内を1回又は複数回させた後、長尺基材の搬送走行を逆にして(送出リールおよび巻取リールの回転方向を逆にして)、長尺基板を成膜領域内に再度通過させて成膜しても良い。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、幅5mm、厚さ0.1mmのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製のテープ基材上に、スパッタ法によりAl(拡散防止層;膜厚150nm)とY(ベッド層;膜厚20nm)を順次成膜した上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、PLD法によりCeO(キャップ層:膜厚500nm)を成膜したものを長尺基材として用いた。
【0055】
(実施例1)
図2に示す成膜装置20と図2に示す形状のターゲット及びターゲット保持部材を用いて、パルスレーザ蒸着法(PLD法)により長尺基材上に酸化物超電導層としてGdBaCu7−x(膜厚1.0μm)を成膜して酸化物超電導導体を作製した。ターゲット及びターゲット保持部材としては、以下のものを使用した。
ターゲット:GdBaCu7−xの粉末の焼結体、円盤型(直径7インチ、高さ10mm)
ターゲット保持部材:円形の開口部(開口径7インチ)を有する円盤型(外径10インチ、高さ8mm)、Al製(熱伝導率28W/(m・K)、融点2030℃)、図2(a)に示すように2つに分離可能に形成、開口部にターゲットを収納した後、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)テープで外周部をバンド状に巻いて、このテープの端部同士をスポット溶接して固定した。
なお、成膜は、温度800℃、圧力80Pa、レーザ出力180W、酸素80%雰囲気下にて行った。
【0056】
(比較例1)
ターゲット保持部材を備えない以外は図2に示す成膜装置と同じ構成の成膜装置を用い、実施例1と同様にして長尺基材上に酸化物超電導層を成膜して酸化物超電導導体を作製した。
【0057】
実施例1及び比較例1で作製した各酸化物超電導導体について、液体窒素温度下(77K)の臨界電流値Ic(A)を、酸化物超電導導体の長手方向の複数位置に対して測定した。結果を図5にプロットした。図5において、「Position(m)」は、酸化物超電導導体の成膜初期部を0とし、この成膜初期部からの長手方向の距離を示す。
図5に示す結果より、本発明に係る実施例1では、酸化物超電導導体の長手方向において、臨界電流値Icのバラつきが小さく、長時間に亘って均一な膜質および特性の酸化物超電導層(酸化物超電導薄膜)が安定に成膜されている。実施例1の成膜中に、ターゲットとターゲット保持部材の温度をモニタリングしたところ、ターゲットとターゲット保持部材の温度はほぼ同一に保たれていた。また、ターゲットを移動させても成膜領域の温度の変動は抑制されており、ターゲットの端部近傍までレーザ光を照射してターゲットを有効使用することができた。
これに対し、比較例1の酸化物超電導導体はその長手方向において臨界電流値Icが実施例1よりもバラついていた。
臨界電流値Icの導体長手方向のバラつきは、比較例1では5%以上だったのに対し、実施例1では2%以下にまで均一になっていた。
【0058】
(実施例2〜5、比較例2および3)
ターゲット保持部材として表1記載の材料より形成したものを用いた以外は、実施例1と同様にして長尺基材上に酸化物超電導層を成膜して酸化物超電導導体(長さ10m)を作製した。作製した各酸化物超電導導体について、液体窒素温度下(77K)の臨界電流値Ic(A)を、導体長手方向の複数位置に対して測定し、長手方向の臨界電流値のバラつきを算出した。結果を、前記実施例1および比較例1の結果と合わせて、表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果より、本発明に係る実施例1〜5の酸化物超電導導体は、長手方向における臨界電流値のバラつきが小さくなっていた。従って、本発明の成膜装置及び成膜方法は、長時間に亘って均一な膜質や特性の薄膜を安定して成膜することができることが明らかである。これに対し、比較例1〜3の酸化物超電導導体は、長手方向における臨界電流値のバラつきが大きくなっていた。
【符号の説明】
【0061】
10…酸化物超電導導体、11…テープ基材、12…中間層、13…酸化物超電導層(酸化物超電導薄膜)、20…成膜装置、21…送出リール、22…巻取リール、23、24…巻回部材群、25…長尺基材(基材)、26…基板ホルダ、27…成膜領域、28…レーザ光発光手段、29…プルーム、31…ターゲット、32…ターゲット保持部材、33…ターゲット支持台、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光によってターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を基材上に堆積させ、該基材上に薄膜を形成する成膜装置であって、
前記基材に対向するように配されたターゲットと、
前記ターゲットの外周面を取り囲んで設けられたターゲット保持部材と、
前記ターゲットにレーザ光を照射するレーザ光発光手段とを少なくとも備え、
前記ターゲット保持部材が、熱伝導率40W/(m・K)以下、融点2000℃以上の材料より形成されてなることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記ターゲット保持部材の高さが、前記ターゲットの高さよりも低いことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記ターゲットが酸化物超電導体用材料であり、前記薄膜が酸化物超電導薄膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記ターゲット保持部材が、AlまたはZrOより形成されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
ターゲット支持台を備え、該ターゲット支持台上に前記ターゲットと前記ターゲット保持部材とが載置されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の成膜装置を用い、レーザ光をターゲット表面に照射し、このレーザ光によって前記ターゲットから叩き出され若しくは蒸発した構成粒子を基材上に堆積させ、該基材上に薄膜を形成することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−21210(P2012−21210A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161745(P2010−161745)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】