説明

成膜装置

【課題】プラスチック容器に、アーク放電を発生させずに、障害なく成膜する。
【解決手段】容器首部1aを有するプラスチック容器1を、上部にチャンバー蓋を有する成膜チャンバー内部に倒立して収納しプラスチック容器内面にプラズマCVDで成膜する成膜装置において、前記成膜チャンバー内部を隔壁板6により上のメインチャンバーと下のサブチャンバーに二分し、前記隔壁板の一部に貫通孔を開け、該貫通孔に前記プラスチック容器の容器首部を被せ、前記メインチャンバー内に前記プラスチック容器を囲むスペーサーと、前記隔壁板上に爪10を有し、前記チャンバー蓋の閉鎖動作を前記スペーサー中に設置した爪前進カムを介して前記爪に伝達することで前記爪が前記プラスチック容器の容器首部を保持して押し下げて前記隔壁板に押し付けて密着させることにより前記貫通孔をガスシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力が100Paから0.5Paの真空領域で、プラスチック容器の内外面に成膜する装置において、成膜安定性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチック容器に酸素透過度やその他のガス透過度を低下させる目的で、酸化珪素皮膜やダイヤモンドの結晶構造に近い炭素皮膜をプラスチック容器の内外面に施すことが、盛んに行われている。この処方を施すと、単層のポリエステルあるいはポリエチレン容器の酸素透過度が1/10あるいは1/20にまで低下し、その結果内容物の酸化の進み方が緩慢になることで商品寿命が延び、品質の向上を図ることが可能となる。従って、従来はEVOHやポリアミドといったガスバリア性樹脂を用いて、多層容器を必要としていた領域にも単層成形のプラスチック容器が進出することが可能となった。
【0003】
一般に、酸化珪素被膜を形成する場合、原料ガスとしてはヘキサメチルジシロキサンのようなオルガノシロキサンと、反応ガスとして酸素を使うことが良く知られている。ガスバリア性を高める膜を生成する場合、二酸化珪素の結晶構造が最もよいガスバリア性が得られる。プラズマCVDでは、SiOの堆積物としてガスバリア膜を形成する。
【0004】
従来から、 圧力が100Paから0.5Paの真空領域で、プラスチック容器に成膜する装置として、低温プラズマを利用した装置が使われている。プラズマを発生させる装置としては、2から4ギガヘルツの電磁波を利用したマイクロ波装置と、13.56メガヘルツあるいはその近傍の電磁波を利用した高周波プラズマ装置とが利用されている。前者は波長が10センチメートル以下と短いため、成膜チャンバー内部のプラズマ電磁界強度にムラが少ないことが特徴である。一方後者は、高周波を多数のチャンバーに容易に分配できるため、装置構成を簡素化でき、小ロット品種の生産に向いている。例えば、図1に示すように、複数のメインチャンバー7を1つのサブチャンバー8に接続して、各メインチャンバー7に倒立して収納した各プラスチック容器1に対して、プラズマCVD法を用いて、一括で成膜する多数取り成膜装置がある。この多数取り成膜装置のメリットは、成膜に必要な電源、整合器、真空装置、ガス供給装置を共有できるため、狭い場所でも設置が可能であり、チャンバーの移動もないことから故障が少ないということである。また調整箇所も少ないため装置導入から立上げまでの時間も、連続回転式と比べて短時間で済む。何よりも装置構成を単純にできることが最大のメリットである。
【0005】
しかし高周波プラズマ成膜装置の欠点として、容器首部近傍で高温プラズマによるプラスチック容器1の熱変形やアーク放電によるプラスチック容器1の炭化といった現象が見られることがある。この原因としては、メインチャンバー7に印加された高周波がもたらす電磁界強度の粗密の差が大きいこと、メインチャンバー7内部のガス分子過多あるいは偏在化あるいは排気能力の低下が主な原因であることが分かって来た。容器首部位置は構造的に電磁界強度が高い部位である。
【0006】
元来倒立収納はプラスチック容器1の出し入れがしやすく、特に射出成形されたプラスチック容器1の口元部は寸法精度が良好なため、収納位置精度が高く、また容器支持部品とのシール性も良好な方法である。しかしながら、図2に示すように、容器口元支持とサブチャンバー8からのプラズマを遮蔽する役割を兼ねた隔壁板6がメインチャンバー7を上下に分けてしまう構造であるため、容器側空間の排気が難しく、その結果プラスチック容器1の熱変形やアーク放電による樹脂の炭化が発生する。これを防ぐために例えば従来は、図3(a)に示すように、隔壁板6とメインチャンバー7の間にガスベント3を設け
て排気を行なってきた。しかし、当初は良好な成膜を継続するものの、その隙間を成膜生成物が徐々に埋めていくに従い、図3(b)に示すように滞留した気体分子がプラスチック容器1と隔壁板6の隙間から排気されるようになり、この部分の電界強度が最も高い場所にあたることから、アーク放電などによるトラブルが発生していた。
【0007】
アーク放電の規模はその時々の条件によりさまざまであり、一見して不良と判る成膜品の発光強度は正常な場合と比較すると明らかに異なる波形を示すが、中には判別のしにくい小さな異常もあり、その場合の発光強度の観察条件はデジタル観測で10ナノ秒間隔以下でないと確認できない場合もある。現実的に問題となるのは、識別の難しいごく短時間のアーク放電異常であり、その発生頻度は定常的ではなく発生の仕方は非常にムラが多い。
【0008】
また特許文献1では、倒立収納のための手段としてプラスチック容器1の底部を把持固定するチャンバー蓋5を用いてこれとともに搬送を行うことで、容器首部1aの保持の必要をなくし隔壁板6を除去しアーク放電を生じにくくした。しかし、サブチャンバー8とメインチャンバー7とを仕切らなくなったことにより、サブチャンバー8で発生したプラズマがメインチャンバー7のプラスチック容器1側に侵入しやすくなり、反応エネルギーの損失による膜物性の低下という新たな問題を生んでしまった。
【0009】
また特許文献2では、適宜交換可能な容器保持部品を提案しているが、アーク放電対策としての機能までは付与していないことと、また剛性の弱いプラスチック容器1やキャップを使って正立させる設計のプラスチック容器1について、成膜装置前後の搬送方法について課題が残されており、これらを解決するための工夫が求められていた。
【0010】
更に、プラスチック容器1と容器保持部品のシール性を高めるため、プラスチック容器1の底部にチャンバー蓋5などを介して下向きの荷重をかける方法も試みられているが、容器胴部の寸法精度や偏肉の影響でシール面に隙間が生じるといった逆効果も確認されたため、代替案が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−075143号公報
【特許文献2】特開2002−371364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
アーク放電によるトラブルの主たる原因は、本来はガス排気の経路ではない場所にガスが流れることによるものであるが、そのもとを糾すとプラスチック容器1と隔壁板6とのガスシール不良であった。もともと延伸PET容器では容器首部1aの寸法安定性が高いことからガスシール性は十分であったため、シール面の密着性には特別の配慮を払う必要はなかったが、成形不良によりプラスチック容器1が僅かに変形するなどしてシールが不完全となると、ガスがプラスチック容器1の口元近傍から排出されるために成膜異常が発生するのである。
【0013】
本発明の課題は、圧力が100Paから0.5Paの真空領域で、プラスチック容器1の内面に、アーク放電を発生させずに、障害なく成膜することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、容器首部を有するプラスチック容器を、上部にチャンバー蓋を有する成膜チャンバー内部に倒立して収納しプラスチック容器内面にプラ
ズマCVDで成膜する成膜装置において、前記成膜チャンバー内部を隔壁板により上のメインチャンバーと下のサブチャンバーに二分し、前記隔壁板の一部に貫通孔を開け、該貫通孔に前記プラスチック容器の容器首部を被せ、前記メインチャンバー内に前記プラスチック容器を囲むスペーサーと、前記隔壁板上に爪を有し、前記チャンバー蓋の閉鎖動作を前記スペーサー中に設置した爪前進カムを介して前記爪に伝達することで前記爪が前記プラスチック容器の容器首部を保持して押し下げて前記隔壁板に押し付けて密着させることにより前記貫通孔をガスシールすることを特徴とする成膜装置である。
【0015】
また、本発明は上記の成膜装置であって、前記爪前進カムの下に前記隔壁板にカム逃がし穴が形成され、該爪前進カムが挿入されるように構成され、前記カム逃がし穴の一部に被る爪取り付け板を有し、前記スペーサの下面が容器側に近づくにつれ下に下がる傾斜面に形成された爪おじぎカムを有し、前記爪取り付け板が前記隔壁板に垂直に設置した爪取付け板回転軸の回りに回転し、前記爪取り付け板上に前記爪が爪支点の回りに回転し端部が上下に移動するように設置され、前記チャンバー蓋を閉じた際に前記スペーサー中に設置した前記爪前進カムが押し下げられ前記カム逃がし穴に挿入され、前期爪前進カムが前記カム逃がし穴の一部に被さった前記爪取り付け板の縁を押すことで前記爪取付け板と前記爪を前記爪取付け板回転軸の回りに回転させ、前記爪を前記プラスチック容器の容器首部のサポートリング上まで移動させ、前記爪を前記爪おじぎカムの下面につき当てて下に下げることで前記サポートリングを押し下げて前記プラスチック容器の容器首部を保持して押し下げて前記隔壁板に押し付けて密着させることを特徴とする成膜装置である。
【0016】
また、本発明は上記の成膜装置であって、前記チャンバー蓋の開放動作を前記爪前進カムを介して前記爪に伝達することで前記爪が前記プラスチック容器の容器首部の保持を解除し、前記チャンバー蓋の開放動作を前記爪に伝達させて前記爪の前記容器首部の保持を外すことを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、容器首部保持機構を有し、それが、チャンバー蓋の動作をスペーサーを介して隔壁板の上に設置した容器首部保持機構に伝達し、プラスチック容器を爪で押し下げて隔壁板に押し付けて密着させることにより、容器首部保持機構の外部に新たな動力を設置しないので成膜装置のコストを上げずにガスシール機能が付与できる効果がある。また、チャンバー蓋の開閉とプラスチック容器の保持の動作を機械的に結合することで、プラスチック容器の隔壁板への設置速度を速くでき成膜装置の能率を上げることができる効果がある。また、本発明の容器首部保持機構は、スペーサーに設置したカム機構と小型の部品から構成されるため、大型部品を用いる際に必要な高いシール性を有する軸受け機構が不要になり、容器首部保持機構の製造コストを低減することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】多数取り成膜装置の例を説明する図である。
【図2】メインチャンバーの例を説明する図である。
【図3】メインチャンバー上部の排気流れを説明する図である。
【図4】ロック解除時の容器首部保持機構を説明する図である。
【図5】ロック解除時の保持機構とプラスチック容器との位置関係を説明する図である。
【図6】ロック時の容器首部保持機構を説明する図である。
【図7】ロック時の保持機構とプラスチック容器との位置関係を説明する図である。
【図8】胴部スペーサーに内蔵された蓋開閉動力伝達ロッドを説明する図である。(a)は胴部スペーサー平面図を示し、(b)は胴部スペーサーの側面図を示す。
【図9】肩スペーサーに内蔵されたカム機構を説明する図である。(a)は肩スペーサー平面図を示し、(b)は肩スペーサーの側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(成膜装置の構成)
以下に、本発明の一実施形態を説明する。本発明は、図1に示すように、成膜チャンバー内部を隔壁板6により上のメインチャンバー7と下のサブチャンバー8に二分し、隔壁板6の一部に貫通孔を開け、その貫通孔に容器の口部を合わせてプラズマCVDで成膜する成膜装置である。すなわち、1つの筐体からなるサブチャンバー8上に複数のメインチャンバー7を整列させ、そのメインチャンバー7内部に倒立して収納されたプラスチック容器1を全数同時にプラズマCVD法で薄膜を形成する多数取り成膜装置である。図2に示すように、メインチャンバー7は、内部に薄膜を形成しようとするプラスチック容器1が収容できるだけの円筒状のスペースを持つ筒体を外側に備え、その筒体の上方の開口端に設置されるチャンバー蓋5を有し、メインチャンバー7内には薄膜を形成しようとするプラスチック容器1を所定位置に保持するための隔壁板6があり、筒体の側壁には導電性材料よりなる外部電極4が設置され、筒体とプラスチック容器1の間には絶縁体のスペーサー2が設置されている。スペーサ2はプラスチック容器1の胴部側の胴部スペーサー16とプラスチック容器1の首側の肩スペーサー19から成る。そして、内部電極を兼ねるガス放出管4が、メインチャンバー7の底から隔壁板6の開口部を貫いて、隔壁板6の貫通孔に容器首部1aを挿入して保持されているプラスチック容器1の内部にまで設置されている。
【0020】
(容器首部保持機構)
本発明の重要な特徴は、上記の成膜装置において、大気圧と10Pa前後の圧力を交互に繰り返し、しかも低圧下でプラズマを発生させる環境において、チャンバー蓋5の開閉動作に連動して隔壁板6の貫通孔にプラスチック容器1を被せて隔壁板6に密着させることでガスシールを行うことでアーク放電を防止する容器首部保持機構を有することである。この容器首部保持機構は、チャンバー蓋5の動作をスペーサー2を介して隔壁板6の上に設置した容器首部保持機構に伝達し、プラスチック容器1の首部1aのフランジ状のサポートリング1bを爪10で押し下げてプラスチック容器1の容器首部1aを隔壁板6の貫通孔に合わせて隔壁板6に押し付けて密着させることで隔壁板6の貫通孔を容器首部1aでふさぐ。これにより、容器首部保持機構の外部に新たな動力を設置しないので成膜装置のコストを上げずにガスシール機能が付与できる効果がある。また、チャンバー蓋5の開閉とプラスチック容器1の保持の動作を機械的に結合することで、プラスチック容器1の隔壁板6への設置速度を速くでき成膜装置の能率を上げることができる効果がある。また、本発明の容器首部保持機構は、スペーサー2に設置したカム機構と、図4に示す隔壁板6上の爪取り付け板11と爪10から成る小型の部品から構成されるため、大型部品をメインチャンバー7内に設置する場合に真空度を維持するために必要な高いシール性を有する軸受け機構が不要になり、容器首部保持機構の製造コストを低減することができる効果がある。
【0021】
(プラスチック容器の保持)
プラスチック容器1の樹脂構成は単層のポリエステルまたはポリエチレン乃至ポリプロピレン、ポリスチレン製であるか、または成膜面がこれらの樹脂で成形された多層容器である。
【0022】
プラスチック容器1の口元を隔壁板6あるいは隔壁板6に設置した容器支持部品に密着させる部位としては、一般的にプラスチック容器1の液止め部である容器口元天面1c(図5(a))を隔壁板6に押し付けることが望ましい。容器口元天面1cは通常二次元平面であり、形状の上で最適部位である。もしこの部位が三次元曲面であるなどの理由で不適当な場合は、他の部分たとえば、図5(a)に示すように、キャップ嵌合部上面、充填作業で使われるサポートリング(フランジ状の張り出し部分)1bの上面(図5(a)では下側の面)などを使う事が可能である。いずれもプラスチック容器1を倒立保持させるほどの荷重では通常は変形しない部位である。それらが二次元平面で構成されていない場合、隔壁板6との間にOリングないしガスケットを挟むことも可能である。その材料としては、フッ素ゴム、シリコーンゴム、耐熱エラストマーなどが使用可能であり、いずれも耐熱性の高いものが望ましい。
【0023】
また、プラスチック容器1のサポートリング1bを隔壁板6と密着させる荷重をかけるために、サポートリング1bの容器胴部側の面の全面ないし一部を隔壁板6側に押し下げる。また、プラスチック容器1の首部と胴部の間の部分である肩部に窪みがあれば、その窪みを利用してプラスチック容器1を押し下げても良い。その際に注意すべきことは、偏りのないように押すことである。プラスチック容器1は軽量であり重心位置は高く、倒立状態の接地部分はプラスチック容器1中心から近い位置であるため、プラスチック容器1は荷重バランスが不均一であれば容易に傾き、それが原因でアーク放電を発生する危険が高まることがありうる。その対処のために、プラスチック容器1を下に押し付ける荷重を加える手段をプラスチック容器1の軸を中心とする円周方向にバランス良く均等に配置し、同じ強さの荷重をそれぞれに加えることが望ましい。
【0024】
<容器首部保持機構の構成と動作>
次に、容器首部保持機構の詳細な構成と動作を、図4から図9を参照して説明する。本実施形態の容器首部保持機構は、図4の平面図に示すように、隔壁板6の3箇所に、爪取付け板11と爪10の組合せを設置する。また、肩スペーサー19の爪前進カム20が降下する位置の隔壁板6にカム逃がし穴13を設ける。爪10は爪取付け板11に設置した爪支点15で支えられている。また爪取付け板11は隔壁板6に垂直に設置した爪取付け板回転軸14の回りに回転させる。爪取付け板回転軸14にはトーションばね12を設置し、トーションばね12が、爪取り付け板11に設置した支持棒と隔壁板6に設置した支持棒とを押すことで、トーションばね12の復元力で爪取付け板11が時計回りに回転して爪取付け板11がカム逃がし穴13に一部が被さるようにし、爪取り付け板11に設置した爪10を円周方向に後退させる構成にする。
【0025】
(スペーサーの動作)
また、容器首部保持機構は、図8に示す胴部スペーサー16に設置した動力伝達ロッド17と、図9に示す肩スペーサー19に設置したリング21と爪前進カム20を有し、肩スペーサー19の下面に爪おじぎカム22を備える。図8(a)は胴部スペーサー16の平面図であり、図8(b)は胴部スペーサー16の側面図を示す。図9(a)は肩スペーサー19の平面図であり、図9(b)は肩スペーサー19の側面図を示す。この容器首部保持機構は、チャンバー蓋5が閉まると、チャンバー蓋5が胴部スペーサー16の動力伝達ロッド17を押し下げ、それが肩スペーサー19のリング21を押し下げて、リング21が肩スペーサー19の3箇所に設置した爪前進カム20を押し下げる。途中にリングを介在させた理由は、3箇所の爪前進カム20に荷重を等分させることが狙いである。
【0026】
(爪のロック動作)
図4の隔壁板6の平面図に示すように、隔壁板6にカム逃がし穴13があり、爪取付け板11がカム逃がし穴13の一部分に被さっている。そして、爪前進カム20が隔壁板6のカム逃がし穴13内に降下する際に、カム逃がし穴13の一部分に被さった爪取付け板11の縁を押すことで、爪取付け板11を反時計回りに回転させる。それにより、爪取付け板11に設置した爪10の容器側の端を隔壁板6の中心方向に前進させ、プラスチック容器1のサポートリング1bの上の位置に移動させる。チャンバー蓋5の開放時は、爪支点15の位置が容器側に近い位置にあるので、爪10の自重により爪10の容器側の端が上方に浮いている。爪10の容器側の端は、容器側に前進するに従って、肩スペーサー19の下方の爪おじぎカム22の下面に突き当てられる。爪おじぎカム22の下面は、容器側に近づくにつれ下に下がる傾斜面に形成する。この爪おじぎカム22の下面により、爪10の容器側の端が隔壁板6側に押し下げられ、爪10の容器側の端が容器首部1aのサポートリング1bに押し付けられてサポートリング1bを押し下げて隔壁板6に押し付けて密着させるロック動作を行う。これにより、サポートリング1bで隔壁板6の貫通孔をふさぎガスシールできる効果がある。
【0027】
(爪のロック解除動作)
プラスチック容器1の成膜が終わた後にチャンバー蓋5が開くと、チャンバー蓋5で押し下げられていた動力伝達ロッド17が、縮められていたコイルばね18の復元力により上昇するとともに、動力伝達ロッド17で押し下げられていたリング21と爪前進カム20が(リングを押し上げる)コイルばね18bの復元力で上昇し、爪前進カム20がカム逃がし穴から抜け出る。それにより、爪前進カム20による爪取付け板11を反時計回り方向に回転させる力が無くなるので、トーションばね12の復元力により爪取付け板11が時計回りに回転して元の位置に戻る。これにより、サポートリング1bの上を押さえていた爪10の容器側の端部が円周方向に後退してサポートリング1bの上から外れるロック解除動作を行う。これによりプラスチック容器1が容易に取り外せる。
【0028】
以上の方法は主にプラズマCVD法で酸化珪素薄膜をプラスチック容器1にコーティングする成膜装置に適用できる。この場合に使用できる原料ガスについては、主ガスとしてヘキサメチルジシロキサン(以下HMDSOと称する)の他、トリメチルシロキサンなどを用いることが可能で、これにより酸化珪素薄膜の成膜が可能になる。また、反応ガスとしては、酸素の他、オゾン、二酸化炭素などを用いることが可能である。
【0029】
以上の容器首部保持機構の動作により、メインチャンバー7へのプラスチック容器1の挿入や取り出しの際にはプラスチック容器1に対して荷重を掛けることなく、滑らかに搬送作業が行える。また、プラスチック容器1への成膜時には容器首部保持機構がプラスチック容器1の首部を確実に保持して隔壁板6に密着させて隔壁板6の貫通孔をふさぐガスシール性を高め、アーク放電の発生を抑えることができる。
【0030】
プラスチック容器1の口元部は中空成形容器にあっては胴部と比較して寸法安定性の高い部分であり、また胴部よりも肉厚であることから剛性も高い。そのため、倒立したプラスチック容器1の容器首部1aを容器首部保持機構で保持する本実施形態は、プラスチック容器1の底部を押すことと比較して、シール面に掛かる応力が安定する上にシール面に掛かる荷重も調整しやすい効果がある。更に隔壁板6に密着させてその貫通孔をガスシールするプラスチック容器1の部位は容器首部1aのサポートリング1bの面あるいは容器口元天面1cであるので、そのガスシールの際の荷重によるプラスチック容器1の樹脂の変形による応力損失も小さく、僅かな荷重で隔壁板6に密着でき高いシール性を実現することが可能である効果がある。
【0031】
また、本実施形態の容器首部保持機構は、容器首部1aの保持と解除を、チャンバー蓋5の開閉動作を利用するので、成膜工程のなかで、原料ガスを放出するためにチャンバー蓋5が閉止している間だけ、プラスチック容器1を保持しプラスチック容器1で隔壁板6の貫通孔を塞ぐガスシール性を維持し、成膜済みプラスチック容器1を取り出し新たなプラスチック容器1と交換するためにチャンバー蓋5を開けると、それと同時に、プラスチック容器1の保持(ロック)も解除される、チャンバー蓋5の開閉動作とプラスチック容器1の首部の保持の動作が連動するので、プラスチック容器1の隔壁板6への設置速度を速くでき成膜装置の能率を上げることができる効果がある。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の実施例を説明する。
<実施例1>
8本同時に成膜可能なプラズマCVD成膜装置を使って、プラスチック容器1として500mlのPET容器の内面にガスバリア性を高めるための酸化珪素皮膜を生成した。成膜装置には図4から9に示した容器首部保持機構を組み付けて、メインチャンバーに倒立状態で挿入した。プラズマ発生装置は高周波電源を使い、ヘキサ・メチル・ジ・シロキサン(HMDSO)と酸素をそれぞれ1台のマスフローコントローラで計量した後、各チャンバーに分配した。真空ポンプ9は、ロータリーポンプ、ブースターポンプ、ターボ分子ポンプ各1台ずつをリレーした。また、ガス放出管4から、HMDSOを40sccm、酸素を800sccmの流量でプラスチック容器1内に供給した。そして流量の安定したところで2000Wの高周波電力で成膜した。全部で1000回成膜したときの成膜異常の発生回数を表1に示した。
【0033】
<比較例1>
プラスチック容器1の保持方法を実施例1の容器首部保持機構を用いずに、プラスチック容器1を倒立しただけで設置し、他は実施例1と同様にして成膜を行った。全部で1000回成膜したときの成膜異常の発生回数を表1に示した。
【0034】
【表1】

表1に示すように、実施例1は比較例1ではあった熱変形が無く、比較例1ではあった炭化も無くなり、良好な成膜安定性が得られた。
【符号の説明】
【0035】
1・・・プラスチック容器
1a・・・容器首部
1b・・・サポートリング(フランジ状の張り出し部分)
1c・・・容器口元天面
2・・・スペーサー
3・・・ガスベント
4・・・ガス放出管
5・・・チャンバー蓋
6・・・隔壁板
7・・・メインチャンバー
8・・・サブチャンバー
9・・・真空ポンプ
10・・・爪
11・・・爪取付け板
12・・・トーションばね
13・・・カム逃がし穴
14・・・爪取付け板回転軸
15・・・爪支点
16・・・胴部スペーサー
17・・・動力伝達ロッド
18・・・動力伝達ロッドのコイルばね
18b・・・(リングを押し上げる)コイルばね
19・・・肩スペーサー
20・・・爪前進カム
21・・・リング
22・・・爪おじぎカム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器首部を有するプラスチック容器を、上部にチャンバー蓋を有する成膜チャンバー内部に倒立して収納しプラスチック容器内面にプラズマCVDで成膜する成膜装置において、前記成膜チャンバー内部を隔壁板により上のメインチャンバーと下のサブチャンバーに二分し、前記隔壁板の一部に貫通孔を開け、該貫通孔に前記プラスチック容器の容器首部を被せ、前記メインチャンバー内に前記プラスチック容器を囲むスペーサーと、前記隔壁板上に爪を有し、前記チャンバー蓋の閉鎖動作を前記スペーサー中に設置した爪前進カムを介して前記爪に伝達することで前記爪が前記プラスチック容器の容器首部を保持して押し下げて前記隔壁板に押し付けて密着させることにより前記貫通孔をガスシールすることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、前記爪前進カムの下に前記隔壁板にカム逃がし穴が形成され、該爪前進カムが挿入されるように構成され、前記カム逃がし穴の一部に被る爪取り付け板を有し、前記スペーサの下面が容器側に近づくにつれ下に下がる傾斜面に形成された爪おじぎカムを有し、前記爪取り付け板が前記隔壁板に垂直に設置した爪取付け板回転軸の回りに回転し、前記爪取り付け板上に前記爪が爪支点の回りに回転し端部が上下に移動するように設置され、前記チャンバー蓋を閉じた際に前記スペーサー中に設置した前記爪前進カムが押し下げられ前記カム逃がし穴に挿入され、前期爪前進カムが前記カム逃がし穴の一部に被さった前記爪取り付け板の縁を押すことで前記爪取付け板と前記爪を前記爪取付け板回転軸の回りに回転させ、前記爪を前記プラスチック容器の容器首部のサポートリング上まで移動させ、前記爪を前記爪おじぎカムの下面につき当てて下に下げることで前記サポートリングを押し下げて前記プラスチック容器の容器首部を保持して押し下げて前記隔壁板に押し付けて密着させることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の成膜装置であって、前記チャンバー蓋の開放動作を前記爪前進カムを介して前記爪に伝達することで前記爪が前記プラスチック容器の容器首部の保持を解除し、前記チャンバー蓋の開放動作を前記爪に伝達させて前記爪の前記容器首部の保持を外すことを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−242206(P2010−242206A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95661(P2009−95661)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】