説明

成膜装置

【課題】蒸着材料の利用効率の高い成膜装置を提供する。
【解決手段】
真空槽11と、真空槽11内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器16aと、真空槽11内に配置され、基板5を保持する基板保持部14と、先端の開口17が基板5表面に向けられて放出容器16aに設けられ、内部が放出容器16aの内部空間と連通する複数の中空の筒15とを有し、各筒15の開口17の法線18は基板5表面と交差され、放出容器16a内の蒸気は各筒15の開口17から放出され、基板5表面に到達して薄膜が形成される成膜装置10であって、筒15には、先端が基板5表面と対面する範囲の外側に配置された筒が含まれる。先端が基板5表面と対面する範囲の外側に配置された筒15の開口17の法線も基板5表面と交差され、開口17から放出された蒸気のうち基板5表面に到達する蒸気の割合が従来より高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図18は従来の成膜装置100の内部構成図である。
従来の成膜装置100は、真空槽111と、真空槽111内に配置された中空の放出容器116aとを有している。放出容器116aには複数の開口134が設けられている。
【0003】
この成膜装置100を用いて成膜を行うには、まず真空排気装置112により真空排気された真空槽111内に基板105を搬入し、基板105表面を放出容器116aの開口134が設けられた面と対面させる。
加熱装置116bを発熱させて、放出容器116a内の蒸着材料125を加熱し、蒸気を生成させる。
生成された蒸気は、各開口134を通って真空槽111内に放出される。
【0004】
基板105の中央部では、多くの開口134からの蒸気が到達して、成膜される薄膜の膜厚が厚くなるが、基板105の外周部では、そこに蒸気を到達させることができる開口134の数が少なく、成膜される薄膜の膜厚が薄くなる傾向があった。
【0005】
そこで、基板105上の膜厚の均一性を得るために、開口134を基板105と対面する範囲より外側にはみ出して設ける構成が従来より採用されていた。しかし、はみ出して設けられた開口134から放出された蒸気の多くは、基板105の外側に飛んで基板105表面に到達せず、材料の利用効率が低いという問題があった。また、基板105の外側に飛んだ蒸気は、真空槽111の壁面などに付着し、ダストの原因になっていた。
【0006】
特許文献1では、複数の開口のうち中央部から離れた位置の開口ほど開口の面積を大きくし、又は単位面積当たりの開口の数を増やすことにより、外周部から放出される蒸気の量を増やす技術が開示されている。
しかし、外周部から放出される蒸気の量を増やすと、基板の外側に飛ぶ蒸気の量も増加してしまい、材料の利用効率が低いという問題を解決することはできなかった。
【0007】
特許文献2では、放出容器の開口が形成された面を中央側に傾斜させる技術が開示されている。
しかし、開口から放出された蒸気の放出角度分布はn値の小さいcosnθ分布に従うため、指向性が低く、外周部の開口から放出された蒸気の多くは基板の外側に飛び、材料の利用効率は低かった。
【0008】
また、放出容器の開口が設けられた面が傾斜しているため、放出容器の体積が大きくなり、放出容器の温度制御が難しかった。さらに、放出容器の外周部分は中央部分に比べて基板や基板表面のマスク板に接近するため、放出容器の熱により基板やマスク板の温度分布に偏りが生じ、成膜に影響を与えるという問題があった。
【0009】
そして、基板と放出容器との間の距離や成膜レート等の成膜条件を変更したときに、特許文献1、2の成膜装置とも開口の形状や傾斜角度を成膜条件に合わせて変更することはできないため、膜厚の均一性が得られなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−297570号公報
【特許文献2】特開2004−269948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、蒸着材料の利用効率の高い成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器と、前記真空槽内に配置され、基板を保持する基板保持部と、先端の開口が前記基板表面に向けられて、前記放出容器に設けられ、内部が前記放出容器の内部空間と連通する複数の中空の筒と、を有し、各前記筒の前記開口の法線は前記基板表面と交差され、前記放出容器内の前記蒸気は各前記筒の前記開口から放出され、前記基板表面に到達して薄膜が形成される成膜装置であって、前記筒には、前記先端が、前記基板表面と対面する範囲の外側に配置された、前記筒が含まれる成膜装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器と、基板を一の平面内で移動させ、前記放出容器と対面する成膜位置を通過させる基板移動部と、前記基板が前記成膜位置を通過するときに先端の開口が前記基板表面に向く向きで前記放出容器に設けられ、内部が前記放出容器の内部空間と連通する複数の中空の筒と、を有し、各前記筒の前記開口の法線は、前記基板が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面と交差する向きに向けられ、前記放出容器内の前記蒸気は各前記筒の前記開口から放出され、前記基板が前記成膜位置を通過するときに、前記基板表面に到達して薄膜が形成される成膜装置であって、前記筒には、前記先端が、前記基板が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面が対面する範囲の、前記基板の移動方向に対して直角な方向の、一方の外側に配置された前記筒と、他方の外側に配置された前記筒と、が含まれる成膜装置である。
本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器と、前記真空槽内に配置され、基板を保持する基板保持部と、前記放出容器を、前記基板表面と平行に移動させ、前記基板表面と対面する成膜位置を通過させる放出容器移動部と、前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに先端の開口が前記基板表面に向く向きで前記放出容器に設けられ、内部が前記放出容器の内部空間と連通する複数の中空の筒と、を有し、各前記筒の前記開口の法線は、前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面と交差する向きに向けられ、前記放出容器内の前記蒸気は各前記筒の前記開口から放出され、前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに、前記基板表面に到達して薄膜が形成される成膜装置であって、前記筒には、前記先端が、前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面が対面する範囲の、前記放出容器の移動方向に対して直角な方向の、一方の外側に配置された前記筒と、他方の外側に配置された前記筒と、が含まれる成膜装置である。
本発明は成膜装置であって、各前記筒と前記放出容器とは互いに脱着可能に構成された成膜装置である。
【0013】
一般に、筒の先端の開口から放出される蒸気の放出角度分布は、開口の法線方向を0°とする余弦則(cosnθ分布)に従う。図15を参照し、開口の直径(D)に対する筒の長手方向の長さ(H)の比(H/D)が大きい筒ほど、その開口から放出される蒸気の放出角度分布は、n値が大きいcosnθの分布に近づく傾向がある。
図16はcosnθの角度分布である。n値が大きいほど、分布の半値幅が狭いことが分かる。
つまり、開口の直径に対する筒の長手方向の長さの比が小さい筒を用いるほど、開口の法線方向に蒸気を集中させることができ、放出蒸気の指向性を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
先端が基板表面と対面する範囲より外側に配置された筒の開口の法線も基板表面と交差されているため、筒の開口からの蒸気が基板表面に到達する割合が従来より大きい。そのため、蒸着材料の利用効率が従来より高く、また、ダストの発生を防ぐことができる。
【0015】
筒と放出容器とを脱着可能にした構成では、基板表面の大きさや、放出容器と基板表面との間の間隔等の成膜条件を変更した場合でも、成膜条件に応じて筒を交換することにより、膜厚の均一性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一例の成膜装置の内部側面図
【図2】本発明の第一例の成膜装置の内部平面図
【図3】(a)、(b):筒の拡大断面図
【図4】放出容器の平面形状の別例を説明するための図
【図5】真空槽内に基板を配置した状態を説明するための図
【図6】放出部の別例を説明するための図
【図7】第二例の筒を有する成膜装置の内部側面図
【図8】第二例の筒の拡大断面図
【図9】第三例の筒を有する成膜装置の内部側面図
【図10】第三例の筒の拡大断面図
【図11】本発明の第二例の成膜装置の内部側面図
【図12】本発明の第二例の成膜装置の内部平面図
【図13】本発明の第三例の成膜装置の内部側面図
【図14】本発明の第三例の成膜装置の内部平面図
【図15】筒の先端から放出される蒸気の放出角度を説明するための図
【図16】cosnθの角度分布を示す図
【図17】実施例1、2と比較例で測定された膜厚分布を示す図
【図18】従来の成膜装置の内部側面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一例の成膜装置の構造>
本発明の第一例の成膜装置10aの構造を説明する。
図1は第一例の成膜装置10aの内部側面図、図2は同平面図である。
第一例の成膜装置10aは、真空槽11と、真空槽11内に蒸着材料の蒸気を放出する放出部13と、真空槽11内に配置され、基板を保持する基板保持部14とを有している。符号5は基板保持部14に保持された基板を示している。
【0018】
放出部13は、真空槽11内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器16aと、先端の開口17が基板保持部14に保持された基板5表面に向けられて、放出容器16aに設けられ、内部が放出容器16aの内部空間と連通する複数の中空の筒15と、真空槽11の外側に配置された蒸発源23と、キャリアガス供給装置24とを有している。
蒸発源23は、内部に液体又は固体の蒸着材料25が配置される中空の材料容器23aと、材料容器23a内の蒸着材料25を加熱する主加熱装置23bとを有している。
【0019】
主加熱装置23bはここでは線状のヒーターであり、材料容器23aの周囲に巻き回されて取り付けられている。主加熱装置23bを動作させて蒸着材料25の蒸発温度以上に発熱させると、材料容器23aは蒸着材料25の蒸発温度以上に加熱され、材料容器23aからの熱伝導により材料容器23a内の蒸着材料25は加熱されて蒸気が生成されるようになっている。
【0020】
キャリアガス供給装置24は材料容器23aに接続され、材料容器23a内にキャリアガスを導入できるようになっている。
材料容器23aには開閉可能なバルブ22を介して接続管21が接続されている。接続管21の端部は真空槽11に設けられた穴を通って真空槽11内に挿入され、放出容器16aに接続されている。真空槽11の穴と接続管21の側面との隙間は不図示の真空シールで気密に塞がれている。
【0021】
バルブ22を開状態にすると、材料容器23a内の蒸気はキャリアガスと一緒に接続管21を通って放出容器16a内に導入され、バルブ22を閉状態にすると、放出容器16a内への蒸気の導入は停止される。
【0022】
放出容器16aに設けられた筒15の内部空間は放出容器16aの内部空間と連通され、放出容器16a内に導入された蒸気は筒15の内部を通って、先端の開口17から放出される。
【0023】
筒15の先端の開口17は基板保持部14に保持された基板5表面に向けられ、開口17の法線18は基板5表面と交差されている。開口17から放出された蒸気は、法線方向を0°とするcosnθ分布に従って放出され、基板5表面に到達するようになっている。
【0024】
放出容器16aと筒15には補助加熱装置16bが取り付けられている。ここでは補助加熱装置16bは線状のヒーターであり、放出容器16aの周囲に巻き回されて取り付けられている。補助加熱装置16bを動作させて蒸気の凝縮温度以上に発熱させると、放出容器16aと筒15は蒸気の凝縮温度以上に加熱され、蒸気は放出容器16aの壁面や筒15の壁面に凝縮しないようになっている。そのため、凝縮した蒸着材料により筒15が詰まることを防ぐことができる。
【0025】
本発明の第一例の成膜装置10aでは、筒15には、先端が基板保持部14に保持された基板5表面と対面する範囲(放出容器16a表面のうち基板5表面と対面する領域と基板5表面との間に挟まれた空間)の外側に配置された筒が含まれる。
【0026】
図2を参照し、放出容器16aの平面形状は基板5表面よりも一回り大きく、基板保持部14に保持された基板5の外周全体は放出容器16aと対面する範囲の内側に入るようになっている。
基板5表面と対面する範囲の外周は、先端が基板5表面と対面する範囲の外側に配置された筒15の先端で取り囲まれている。
【0027】
図1を参照し、先端が基板保持部14に保持された基板5表面と対面する範囲の外側に配置された筒15の開口17も、基板5表面に向けられ、開口17の法線18は基板5表面と交差されている。開口17から放出された蒸気の放出角度分布は法線方向を0°とするcosnθ分布に従うから、先端が基板5表面と対面する範囲の外側に配置された筒15の開口17からの蒸気の、基板5表面に到達する割合は、従来より大きく、蒸着材料の利用効率は従来より高くなっている。
【0028】
開口17の直径に対する筒15の長手方向の長さが長いほど、蒸気の放出角度分布はn値が大きいcosnθ分布に従い、指向性が大きく、蒸着材料の利用効率はより高くなる。
本実施例では、各筒15の開口17の法線18と基板保持部14に保持された基板5表面とのなす角度は、開口17が基板5表面の中心から離れた位置に配置された筒15ほど小さくされており、基板5表面のうち中心から離れた位置ほど、単位面積あたりに交わる開口17の法線18の数が多くなっている。
【0029】
そのため、基板5表面の中心から離れた位置ほど、中心に近い位置に比べて蒸気が到達する開口17の数は少ないものの、一つの開口17あたりの蒸気の到達する割合が大きく、中心から離れた位置と中心に近い位置とで単位面積当たりの蒸気の合計到達量を等しくでき、基板5表面に均一な膜厚の薄膜を形成できる。
【0030】
基板5表面と対面する範囲の外周は、先端がその範囲の外側に配置された筒15の先端で取り囲まれており、基板5表面の外周部分には、外周一周にわたって、均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
各筒15の先端は、基板保持部14に保持された基板5表面に平行な一の平面内に配置されており、すなわち、各筒15の先端と基板5表面が位置する平面との間の距離は互いに等しく揃えられている。
【0031】
そのため、各筒15が蒸着材料の蒸気の凝縮温度以上の同一温度に加熱されると、基板5表面内は各筒15からの熱を受けて均一に昇温され、基板5表面内に温度の偏りが生じることを防ぐことができる。
本実施例では、各筒15と放出容器16aとは互いに脱着可能に構成されている。
【0032】
図3(a)は、筒15と放出容器16aとの接続部分の第一例を説明するための筒15の拡大断面図である。
筒15は、開口17側の開口部15bと開口17とは逆側の取付部15aとを有している。開口17の法線18は開口部15bの中心軸線と一致されており、取付部15aと開口部15bとは互いの中心軸線が所定角度をなす向きに曲げられている。
【0033】
ここでは、放出容器16aには貫通孔34が設けられ、貫通孔34の内周面にはらせん状のネジ溝が設けられ、前記取付部15aの側面にはネジ溝と噛み合い可能なネジ山32が設けられている。
筒15は取付部15aの中心軸線を中心とする一の回転方向に回転しながら放出容器16aの貫通孔34に挿し込まれ、貫通孔34に螺嵌された後、放出容器16aの外側からナット31で締められて固定されている。
そして、ナット31を緩めた後、筒15を取付部15aの中心軸線を中心に固定方向とは逆方向に回転させると、筒15は放出容器16aから分離されるようになっている。
【0034】
取付部15aの中心軸線と開口部15bの中心軸線とのなす角度が異なる複数種類の筒15を予め用意しておくと、基板5表面の大きさや、放出容器16aと基板5表面との間の間隔等の成膜条件が異なる場合でも、成膜条件に応じた角度の筒15を放出容器16aに取り付けることで、筒15の開口17の法線方向を基板5表面と交差する向きに向けることができる。
【0035】
図3(b)は、筒15と放出容器16aとの接続部分の第二例を説明するための筒15の拡大断面図である。接続部分の第一例と同じ構造の部分には同じ符号を付して説明を省略する。
接続部分の第二例では、放出容器16aのうち貫通孔34の周囲の厚みは他の部分の厚みより厚くされている。そのため、接続部分の第一例と比べて、取付部15aの側面と貫通孔34の内周面との接触面積が広くなっており、放出容器16a内のガスが取付部15aの側面と貫通孔34の内周面との隙間を通って漏れ出すことを防ぐことができる。
【0036】
なお、筒15と放出容器16aとの接続部分の構造は上述したようなネジ構造に限定されない。例えばオーリング、ガスケット等の気密シールを用いて取付部15aと貫通孔34との隙間を封止してもよいが、筒15と放出容器16aとは蒸気の凝縮温度以上に加熱されるため、オーリング、ガスケットは耐熱性の高いものが好ましい。
【0037】
また、筒15と放出容器16aとは脱着可能な構成に限定されず、分離する必要がなければ、溶接して固定されてもよいし、一体成形されてもよい。
なお、放出容器16aの平面形状は、図2に示すように四角形状に限定されず、図4に示すように円形状でもよい。ウエハー等の円形基板に成膜する場合には、平面形状が円形状の放出容器16aを用いた方が、蒸着材料の利用効率がよい。
【0038】
<第一例の成膜装置の使用方法>
第一例の成膜装置10aの使用方法を、有機薄膜の成膜方法を例に説明する。
図1を参照し、バルブ22を閉状態にしておく。蒸発源23の材料容器23a内に蒸着材料25として有機材料を配置する。
真空槽11に真空排気装置12を接続して、真空槽11内を真空排気し、真空雰囲気を形成する。以後、真空排気装置12による真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
【0039】
図5を参照し、真空槽11内に予めマスク板6を配置しておき、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に基板5を搬入し、表面にマスク板6が配置された状態で、基板保持部14に保持させる。
補助加熱装置16bにより放出容器16aと筒15とを有機材料の蒸気の凝縮温度以上に加熱しておく。以後、補助加熱装置16bによる加熱を継続し、放出容器16aと筒15の温度を蒸気の凝縮温度以上に維持する。
【0040】
蒸発源23の主加熱装置23bにより材料容器23a内の有機材料を加熱して蒸気を発生させる。
キャリアガス供給装置24から材料容器23a内にキャリアガスを導入し、バルブ22を開状態にする。
材料容器23a内の有機材料の蒸気は、キャリアガスと一緒に接続管21を通って放出容器16a内に導入され、各筒15の内部を通って、筒15の先端の開口17から放出される。
【0041】
筒15の開口17は基板5表面に向けられ、開口17の法線18は基板5表面と交差され、開口17から放出された蒸気は基板5表面のうちマスク板6の開口から露出する部分に到達して、有機薄膜が形成される。
【0042】
筒15には、先端が基板5表面と対面する範囲より外側に配置された筒15も含まれるが、外側に配置された筒15の開口17の法線18も基板5表面と交差されており、外側に配置された筒15の開口17からの蒸気が基板5表面に到達する割合が従来より大きい。そのため、蒸着材料の利用効率が従来より高く、成膜時間を短縮でき、かつ、コストを低減できる。また、真空槽11の壁面などに付着する蒸気を減少でき、ダストの発生を防ぐことができる。
【0043】
各筒15の開口17の法線18と基板5表面とのなす角度は、開口17が基板5表面の中心から離れた位置に配置された筒15ほど小さくされ、基板5表面内では単位面積当たりの蒸気の合計到達量は均一にされており、基板5表面には均一な膜厚の有機薄膜が形成される。
基板5表面に所定の膜厚の有機薄膜を形成した後、バルブ22を閉状態にして放出容器16aへの蒸気の供給を停止する。キャリアガス供給装置24から材料容器23aへのキャリアガスの導入を停止する。
【0044】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、基板5を真空槽11の外側に搬出し、後工程に回す。次いで、未成膜の基板5を真空槽11内に搬入し、表面にマスク板6が配置された状態で、基板保持部14に保持させ、上述の成膜工程を繰り返す。
【0045】
なお、本発明では、放出部13の構成は、図1を参照し、上述の構成に限定されず、蒸発源23が真空槽11内に配置されていてもよいし、図6を参照し、接続管21とバルブ22と蒸発源23とキャリアガス供給装置24とが省略され、放出容器16a内に液体又は固体の蒸着材料25が配置されるように構成され、補助加熱装置16bにより放出容器16a内の蒸着材料25を加熱して蒸気を生成してもよい。
【0046】
また、本発明では、筒15の形状は、図1を参照し、上述の形状に限定されず、図7、8を参照し、開口部15bと取付部15aの中心軸線は一致され、開口17はその法線が開口部15bの中心軸線と所定角度をなす向きに設けられた形状も本発明に含まれる。この形状の筒15は、製作が容易であるという利点がある。
【0047】
また図9、10を参照し、筒15の形状は、開口部15bと取付部15aの中心軸線は一致され、開口17の法線18は開口部15bの法線と一致された形状であり、放出容器16aの貫通孔34はその法線が基板保持部14に保持された基板5表面と交差する向きに向けられて形成され、貫通孔34に挿し込まれた筒15の開口17の法線18も基板5表面と交差するようになっていてもよい。この形状の筒15は、製作が容易であり、また、開口17から放出される蒸気の放出角度分布はn値の大きいcosnθ分布に従って指向性がよいという利点がある。
【0048】
<第二例の成膜装置の構造>
本発明の第二例の成膜装置10bの構造を説明する。
図11は第二例の成膜装置10bの内部側面図、図12は同内部平面図である。第二例の成膜装置10bのうち、第一例の成膜装置10aの構成と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。
【0049】
第二例の成膜装置10bは、第一例の成膜装置10aの放出部13の変わりに放出部13h1、13d1、13h2、13d2、13h3、13d3(以下符号を13h1〜13d3と略す)を有しており、また基板5を一の平面内で移動させ、各放出部13h1〜13d3の放出容器16aと対面する位置を通過させる基板移動部41を有している。図12では後述する放出部13h1〜13d3のうち放出容器16aと筒15以外の部分の図示を省略している。
【0050】
以下では基板移動部41による基板5の移動方向を移動方向、基板5表面に平行で移動方向に対して直角な方向を幅方向と呼ぶ。符号51、52は移動方向、幅方向をそれぞれ示している。
基板移動部41はここでは、複数の筒状の回転ローラ42と、駆動部43とを有している。
【0051】
回転ローラ42は移動方向51に沿って互いに平行な二列に並んで配置されており、各回転ローラ42の中心軸線はそれぞれ幅方向52と平行に向けられている。
駆動部43はここではモーターであり、各回転ローラ42に動力を伝達して、各回転ローラ42をそれぞれ中心軸線を中心に回転できるようになっている。
【0052】
一方の列の回転ローラ42と他方の列の回転ローラ42に基板5の幅方向52の一端と他端をそれぞれ接触させて、基板5を回転ローラ42に載せた状態で、駆動部43を動作させて回転ローラ42を回転させると、基板5は回転ローラ42に載せられた状態で、移動方向51に移動されるようになっている。
【0053】
なお、基板移動部41は、基板5を移動方向51に移動できるならば、回転ローラ42に用いた構成に限定されず、例えばベルトコンベアやリニアモータを用いて構成してもよい。
各放出部13h1〜13d3の構造は互いに同様であり、符号13h1の放出部で代表して説明する。
【0054】
図11を参照し、放出部13h1のうち、放出容器16aの形状と筒15の配置以外は、第一例の成膜装置10aの放出部13と同様であり、説明を省略する。
放出容器16aの形状は、長手方向の長さが基板5の幅方向52の長さより長い細長形状である。
【0055】
筒15は放出容器16aの長手方向に沿って並んで設けられており、放出容器16aの長手方向に沿った並びの一端の筒15の開口17と他端の筒15の開口17の中心間距離は、基板5の幅方向52の長さより長くされている。
【0056】
図12を参照し、各放出部13h1〜13d3の放出容器16aは、基板移動部41によって移動される基板5と対面する位置に、それぞれ長手方向が幅方向52と平行に向けられた状態で、移動方向51に沿って、符号13h1、13d1、13h2、13d2、13h3、13d3の順に並んで配置されている。
【0057】
基板移動部41により基板5を移動方向51に移動させると、基板5は各放出部13h1〜13d3の放出容器16aと対面する成膜位置を、順に通過するようになっている。
各放出部13h1〜13d3では、筒15は、基板5が成膜位置を通過するときに、先端の開口17が基板5表面に向く向きで放出容器16aに設けられており、開口17の法線18は、基板5が成膜位置を通過するときに基板5表面と交差する向きに向けられている。
開口17から放出された蒸気は、法線方向を0°とするcosnθ分布に従って放出され、基板5が成膜位置を通過するときに、基板5表面に到達するようになっている。
【0058】
本発明の第二例の成膜装置10bでは、筒15には、先端が、基板5が成膜位置を通過するときに基板5表面が対面する範囲(放出容器16a表面のうち基板5表面と対面する領域と基板5表面のうち放出容器16a表面と対面する領域との間に挟まれた空間)の、幅方向52の一方の外側に配置された筒と、他方の外側に配置された筒と、が含まれる。
【0059】
図11を参照し、基板5が成膜位置を通過するときに基板5表面が対面する範囲の、幅方向52の一方又は他方の外側に配置された筒15の先端の開口17も、基板5表面に向けられ、開口17の法線18は基板5表面と交差されている。開口17から放出された蒸気の放出角度分布は法線方向を0°とするcosnθ分布に従うから、先端が基板5表面と対面する範囲の幅方向52の外側に配置された筒15の開口17からの蒸気の、基板5表面に到達する割合は、従来より大きく、蒸着材料の利用効率は従来より高くなっている。
【0060】
本実施例では、基板5が成膜位置を通過するときに各筒15の開口17の法線18と基板5表面とのなす角度は、開口17が基板5表面の幅方向52の中心から離れた位置に配置された筒15ほど小さくされており、基板5表面のうち幅方向52の中心から離れた位置ほど、単位面積あたりに交わる開口17の法線18の数が多くなっている。
【0061】
そのため、基板5表面の幅方向52の中心から離れた位置ほど、中心に近い位置に比べて蒸気が到達する開口17の数は少ないものの、一つの開口17あたりの蒸気の到達する割合が大きく、中心から離れた位置と中心に近い位置とで単位面積当たりの蒸気の合計到達量を等しくでき、基板5表面に幅方向52に均一な膜厚の薄膜を形成できる。
【0062】
ここでは、符号13h1と13d1、符号13h2と13d2、符号13h3と13d3の放出部はそれぞれ組にされている。
符号13h1と13d1の放出部からなる組で説明すると、一方の放出部13h1の筒15の開口17と他方の放出部13d1の筒15の開口17は、移動方向51に沿った互いに向き合う方向に傾けられ、基板5が当該組の成膜位置を通過するときに、一方の放出部13h1の筒15の開口17から放出された蒸気と、他方の放出部13d1の筒15の開口17から放出された蒸気は、基板5表面に一緒に到達するようになっている。
【0063】
<第二例の成膜装置の使用方法>
第二例の成膜装置10bの使用方法を、有機薄膜の成膜方法を例に説明する。
図11を参照し、各放出部13h1〜13d3のバルブ22を閉状態にしておく。各放出部13h1〜13d3の蒸発源23の材料容器23a内にそれぞれ異なる種類の有機材料を配置する。ここでは符号13h1、13h2、13h3の材料容器23aにはそれぞれR(赤)、G(緑)、B(青)の発光層のホスト材料を配置し、符号13d1、13d2、13d3の材料容器23aにはそれぞれR、G、Bの発光層のドーパント材料を配置する。
真空槽11に真空排気装置12を接続して、真空槽11内を真空排気し、真空雰囲気を形成する。以後、真空排気装置12による真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
【0064】
図12を参照し、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、表面にマスク板(不図示)が配置された基板5を真空槽11内に搬入し、基板5の幅方向52の一端と他端をそれぞれ回転ローラ42に接触させて、基板5を回転ローラ42に載せる。回転ローラ42を回転させて基板5を移動させ、符号13h1の放出部の放出容器16aよりも移動方向51の始点側に静止させる。
【0065】
各放出部13h1〜13d3の補助加熱装置16bにより放出容器16aと筒15とを有機材料の蒸気の凝縮温度以上に加熱しておく。以後、補助加熱装置16bによる加熱を継続し、放出容器16aと筒15の温度を維持する。
各放出部13h1〜13d3の蒸発源23の主加熱装置23bにより材料容器23a内の有機材料を加熱して蒸気を発生させる。
各放出部13h1〜13d3のキャリアガス供給装置24から材料容器23a内にキャリアガスを導入し、バルブ22を開状態にする。
【0066】
各放出部13h1〜13d3の材料容器23a内の有機材料の蒸気は、キャリアガスと一緒に接続管21を通って放出容器16a内に導入され、各筒15の内部を通って、筒15の先端の開口17から放出される。
各回転ローラ42を回転させて、基板5を移動方向51に沿って移動させ、各放出部13h1〜13d3の成膜位置を順に通過させる。
【0067】
各放出部13h1〜13d3では、筒15は、基板5が成膜位置を通過するときに、先端の開口17が基板5表面に向く向きで放出容器16aに設けられ、開口17の法線18は、基板5が成膜位置を通過するときに基板5表面と交差する向きに向けられており、開口17から放出された蒸気は、基板5が成膜位置を通過するときに、基板5表面のうちマスク板の開口から露出する部分に到達する。
【0068】
基板が符号13h1、13d1の放出部の成膜位置を通過するときに、基板5表面にはRの発光層のホスト材料の蒸気とドーパント材料の蒸気が共蒸着してRの発光層の有機薄膜が形成され、符号13h2、13d2の放出部の成膜位置を通過するときに、Rの発光層の表面にGの発光層のホスト材料の蒸気とドーパント材料の蒸気が共蒸着してGの発光層の有機薄膜が形成され、符号13h3、13d3の放出部の成膜位置を通過するときに、Gの発光層の表面にBの発光層のホスト材料の蒸気とドーパント材料の蒸気が共蒸着してBの発光層の有機薄膜が形成される。すなわち、基板5表面にR、G、Bの発光層がこの順に積層される。
【0069】
筒15には、先端が、基板5が成膜位置を通過するときに基板5表面が対面する範囲の、幅方向52の一方の外側に配置された筒と、他方の外側に配置された筒と、が含まれるが、基板5が成膜位置を通過するときに、当該筒15の開口17の法線18も、基板5表面と交差されており、当該筒15の開口17からの蒸気の、基板5表面に到達する割合は、従来より大きい。そのため、蒸着材料の利用効率が従来より高く、成膜時間を短縮でき、かつ、コストを低減できる。また、真空槽11の壁面などに付着する蒸気を減少でき、ダストの発生を防ぐことができる。
【0070】
基板5が成膜位置を通過するときに、各筒15の開口17の法線18と基板5表面とのなす角度は、開口17が基板5表面の幅方向52の中心から離れた位置に配置された筒15ほど小さくされ、単位面積当たりの蒸気の合計到達量は幅方向52に均一にされており、基板5表面には幅方向52に均一な膜厚の有機薄膜が形成される。
【0071】
また、基板5を移動方向51に沿って所定速度で移動させると、基板5表面に形成される有機薄膜の移動方向51の膜厚分布も均一になる。
なお、上述の第二例の成膜装置10bは六個の放出部13h1〜13d3を有していたが、放出部の数は六個に限定されず、一個でもよいし、二個以上でもよい。
【0072】
<第三例の成膜装置の構造>
本発明の第三例の成膜装置10cの構造を説明する。
図13は第三例の成膜装置10cの内部側面図、図14は同内部平面図である。第三例の成膜装置10cのうち、第一例の成膜装置10aの構成と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略する。
【0073】
第三例の成膜装置10cは、第一例の成膜装置10aの放出部13の代わりに、放出部13h、13dを有しており、また放出部13h、13dの放出容器16aを、基板保持部14に保持された基板5表面と平行な移動方向51に移動させ、基板5表面と対面する成膜位置を通過させる放出容器移動部44を有している。
【0074】
以下では基板保持部14に保持された基板5表面に平行で移動方向51に対して直角な方向を幅方向と呼び、符号52を付して示す。
放出容器移動部44はここでは互いに平行な二本の直線状のレール451、452と、断面が「コ」字形状のスライダ461、462と、駆動部47とを有している。
【0075】
二本のレール451、452は基板保持部14に保持された基板5表面と対面する位置に、移動方向51と平行に向けられ、互いに幅方向52に離間して配置されている。
各スライダ461、462は、それぞれ異なるレール451、452の側面に嵌め合わされ、レール451、452の長手方向に沿って滑動できるようになっている。
【0076】
駆動部47はここではモーターであり、スライダ461、462に動力を伝達できるように構成されている。駆動部47からスライダ461、462に動力を伝達させると、二つのスライダ461、462は一緒に、レール451、452の長手方向、すなわち移動方向51に沿って往復移動できるようになっている。
【0077】
放出部13h、13dの構造は、第二例の成膜装置10bの放出部13h1〜13d3の構造と同様であり、説明を省略する。図13、14では、放出部13h、13dのうち放出容器16aと筒15以外の部分の図示を省略している。
【0078】
各放出部13h、13dの放出容器16aは、長手方向が幅方向52と平行に向けられた状態で、移動方向51に沿って並んで配置され、それぞれ二つのスライダ461、462に取り付けられている。二つのスライダ461、462は一緒に移動方向51に沿って移動させると、各放出部13h、13dの放出容器16aも一緒に移動方向51に沿って移動して、基板保持部14に保持された基板5と対面する成膜位置を通過するようになっている。
【0079】
各放出部13h、13dでは、筒15は、放出容器16aが成膜位置を通過するときに、先端の開口17が基板5表面に向く向きで放出容器16aに設けられており、開口17の法線18は、基板5が成膜位置を通過するときに基板5表面と交差する向きに向けられている。
開口17から放出された蒸気は、法線方向を0°とするcosnθ分布に従って放出され、放出容器16aが成膜位置を通過するときに、基板5表面に到達するようになっている。
【0080】
本発明の第三例の成膜装置10cでは、筒15には、先端が、放出容器16aが成膜位置を通過するときに基板5表面が対面する範囲(放出容器16a表面のうち基板5表面と対面する領域と基板5表面のうち放出容器16a表面と対面する領域との間に挟まれた空間)の、幅方向52の一方の外側に配置された筒と、他方の外側に配置された筒と、が含まれる。
【0081】
図13を参照し、放出容器16aが成膜位置を通過するときに基板5表面が対面する範囲の、幅方向52の一方又は他方の外側に配置された筒15の先端の開口17も、基板5表面に向けられ、開口17の法線18は基板5表面と交差されている。開口17から放出された蒸気の放出角度分布は法線方向を0°とするcosnθ分布に従うから、先端が基板5表面と対面する範囲の幅方向52の外側に配置された筒15の開口17からの蒸気の、基板5表面に到達する割合は、従来より大きく、蒸着材料の利用効率は従来より高くなっている。
【0082】
本実施例では、放出容器16aが成膜位置を通過するときに各筒15の開口17の法線18と基板5表面とのなす角度は、開口17が基板5表面の幅方向52の中心から離れた位置に配置された筒15ほど小さくされており、基板5表面のうち幅方向52の中心から離れた位置ほど、単位面積あたりに交わる開口17の法線18の数が多くなっている。
【0083】
そのため、基板5表面の幅方向52の中心から離れた位置ほど、中心に近い位置に比べて蒸気が到達する開口17の数は少ないものの、一つの開口17あたりの蒸気の到達する割合が大きく、中心から離れた位置と中心に近い位置とで単位面積当たりの蒸気の合計到達量を等しくでき、基板5表面に幅方向52に均一な膜厚の薄膜を形成できる。
【0084】
ここでは、一方の放出部13hの筒15の開口17と他方の放出部13dの筒15の開口17は、移動方向51に沿った互いに向き合う方向に傾けられ、各放出部13h、13dの放出容器16aが成膜位置を通過するときに、一方の放出部13hの筒15の開口17から放出された蒸気と、他方の放出部13dの筒15の開口17から放出された蒸気は、基板5表面に一緒に到達するようになっている。
【0085】
<第三例の成膜装置の使用方法>
第三例の成膜装置10cの使用方法を、有機薄膜の成膜方法を例に説明する。
図13を参照し、各放出部13h、13dのバルブを閉状態にしておく。各放出部13h、13dの蒸発源の材料容器内にそれぞれ異なる種類の有機材料を配置する。ここでは符号13hの材料容器内にはホスト材料を配置し、符号13dの材料容器内にはドーパント材料を配置する。
真空槽11に真空排気装置12を接続して、真空槽11内を真空排気し、真空雰囲気を形成する。以後、真空排気装置12による真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
【0086】
図14を参照し、真空槽11内に予めマスク板(不図示)を配置しておき、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に基板5を搬入し、表面にマスク板が配置された状態で、基板保持部14に保持させる。
放出容器移動部44により各放出部13h、13dの放出容器16aを一緒に移動方向51に沿って移動させ、成膜位置よりも移動方向51の始点側に静止させておく。
【0087】
各放出部13h、13dの補助加熱装置16bにより放出容器16aと筒15とを有機材料の蒸気の凝縮温度以上に加熱しておく。以後、補助加熱装置16bによる加熱を継続し、放出容器16aと筒15の温度を維持する。
各放出部13h、13dの蒸発源の主加熱装置により材料容器内の有機材料を加熱して蒸気を発生させる。
【0088】
各放出部13h、13dのキャリアガス供給装置から材料容器内にキャリアガスを導入し、バルブを開状態にする。
各放出部13h、13dの材料容器内の有機材料の蒸気は、キャリアガスと一緒に接続管を通って放出容器16a内に導入され、各筒15の内部を通って、筒15の先端の開口17から放出される。
放出容器移動部44により、各放出部13h、13dの放出容器16aを一緒に、移動方向51に移動させ、成膜位置を通過させる。
【0089】
各放出部13h、13dでは、筒15は、放出容器16aが成膜位置を通過するときに、先端の開口17が基板5表面に向く向きで放出容器16aに設けられ、開口17の法線18は、放出容器16aが成膜位置を通過するときに基板5表面と交差する向きに向けられており、開口17から放出されたホスト材料とドーパント材料の蒸気は、放出容器16aが成膜位置を通過するときに、基板5表面のうちマスク板の開口から露出する部分に一緒に到達して、有機薄膜が形成される。
【0090】
筒15には、先端が、放出容器16aが成膜位置を通過するときに基板5表面が対面する範囲の、幅方向52の一方の外側に配置された筒と、他方の外側に配置された筒と、が含まれるが、放出容器16aが成膜位置を通過するときに、当該筒15の開口17の法線18も、基板5表面と交差されており、当該筒15の開口17からの蒸気の、基板5表面に到達する割合は、従来より大きい。そのため、蒸着材料の利用効率が従来より高く、成膜時間を短縮でき、かつ、コストを低減できる。また、真空槽11の壁面などに付着する蒸気を減少でき、ダストの発生を防ぐことができる。
【0091】
放出容器16aが成膜位置を通過するときに、各筒15の開口17の法線18と基板5表面とのなす角度は、開口17が基板5表面の幅方向52の中心から離れた位置に配置された筒15ほど小さくされ、単位面積当たりの蒸気の合計到達量は幅方向52に均一にされており、基板5表面には幅方向52に均一な膜厚の有機薄膜が形成される。
また、放出容器16aを移動方向51に沿って所定速度で移動させると、基板5表面に形成される有機薄膜の移動方向51の膜厚分布も均一になる。
【0092】
各放出部13h、13dの放出容器16aを移動方向51に移動させ、成膜位置を通過させた後、成膜位置よりも移動方向51の終点側で静止させる。各放出部13h、13dのバルブ22を閉状態にして放出容器16aへの蒸気の供給を停止する。各放出部13h、13dのキャリアガス供給装置から材料容器へのキャリアガスの導入を停止する。
【0093】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、基板5をマスク板と一緒に真空槽11の外側に搬出し、後工程に回す。次いで、未成膜の基板5をマスク板と一緒に真空槽11内に搬入し、基板保持部14に保持させて、上述の成膜工程を繰り返す。
なお、上述の第三例の成膜装置10cは二個の放出部13h、13dを有していたが、放出部の数は二個に限定されず、一個でもよいし、三個以上でもよい。
【実施例】
【0094】
<実施例1>
図1を参照し、第一例の成膜装置10aを用いて、基板保持部14に保持された基板5が位置する平面内の互いに異なる測定位置に膜厚センサを配置して、各筒15の開口17からそれぞれ蒸気を放出させ、各測定位置の膜厚センサに形成される薄膜の膜厚を測定した。
図17の符号L1は、各測定位置の膜厚センサで測定された膜厚分布を示す。
【0095】
<実施例2>
図1を参照し、実施例1で用いた第一例の成膜装置10aにおいて、筒15を、開口17の直径に対する長手方向の長さの比が実施例1のときより大きい筒15に交換して、実施例1と同様にして、各測定位置の膜厚センサに形成される薄膜の膜厚を測定した。
図17の符号L2は、各測定位置の膜厚センサで測定された膜厚分布を示す。
【0096】
<比較例>
図18を参照し、従来の成膜装置100を用いて、実施例1、2と同様にして、各測定位置の膜厚センサに形成される薄膜の膜厚を測定した。
図17の符号L0は、各測定位置の膜厚センサで測定された膜厚分布を示す。
図17を参照し、本発明の成膜装置10aを用いた実施例1、2(L1、L2)では、基板5表面内には均一な膜厚の薄膜が形成されていることが分かる。
【0097】
また、本発明の成膜装置10aを用いた実施例1、2(L1、L2)では、従来の成膜装置100を用いた比較例(L0)に比べて、基板5表面の外側に到達する蒸気に対する基板5表面内に到達する蒸気の割合が大きく、すなわち蒸着材料の利用効率が大きいことが分かる。
実施例1(L1)と実施例2(L2)とを比べると、筒15の開口17の直径に対する筒15の長手方向の長さの比がより大きい実施例2(L2)の方が、より蒸着材料の利用効率が高いことが分かる。
【符号の説明】
【0098】
5……基板
10a、10b、10c……成膜装置
11……真空槽
14……基板保持部
15……筒
16a……放出容器
17……開口
18……法線
41……基板移動部
44……放出容器移動部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器と、
前記真空槽内に配置され、基板を保持する基板保持部と、
先端の開口が前記基板表面に向けられて、前記放出容器に設けられ、内部が前記放出容器の内部空間と連通する複数の中空の筒と、
を有し、
各前記筒の前記開口の法線は前記基板表面と交差され、
前記放出容器内の前記蒸気は各前記筒の前記開口から放出され、前記基板表面に到達して薄膜が形成される成膜装置であって、
前記筒には、前記先端が、前記基板表面と対面する範囲の外側に配置された、前記筒が含まれる成膜装置。
【請求項2】
真空槽と、
前記真空槽内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器と、
基板を一の平面内で移動させ、前記放出容器と対面する成膜位置を通過させる基板移動部と、
前記基板が前記成膜位置を通過するときに先端の開口が前記基板表面に向く向きで前記放出容器に設けられ、内部が前記放出容器の内部空間と連通する複数の中空の筒と、
を有し、
各前記筒の前記開口の法線は、前記基板が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面と交差する向きに向けられ、
前記放出容器内の前記蒸気は各前記筒の前記開口から放出され、前記基板が前記成膜位置を通過するときに、前記基板表面に到達して薄膜が形成される成膜装置であって、
前記筒には、前記先端が、前記基板が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面が対面する範囲の、前記基板の移動方向に対して直角な方向の、一方の外側に配置された前記筒と、他方の外側に配置された前記筒と、が含まれる成膜装置。
【請求項3】
真空槽と、
前記真空槽内に配置され、内部に蒸着材料の蒸気が配置される中空の放出容器と、
前記真空槽内に配置され、基板を保持する基板保持部と、
前記放出容器を、前記基板表面と平行に移動させ、前記基板表面と対面する成膜位置を通過させる放出容器移動部と、
前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに先端の開口が前記基板表面に向く向きで前記放出容器に設けられ、内部が前記放出容器の内部空間と連通する複数の中空の筒と、
を有し、
各前記筒の前記開口の法線は、前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面と交差する向きに向けられ、
前記放出容器内の前記蒸気は各前記筒の前記開口から放出され、前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに、前記基板表面に到達して薄膜が形成される成膜装置であって、
前記筒には、前記先端が、前記放出容器が前記成膜位置を通過するときに前記基板表面が対面する範囲の、前記放出容器の移動方向に対して直角な方向の、一方の外側に配置された前記筒と、他方の外側に配置された前記筒と、が含まれる成膜装置。
【請求項4】
各前記筒と前記放出容器とは互いに脱着可能に構成された請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−251213(P2012−251213A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124793(P2011−124793)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】