説明

成膜装置

【課題】成膜装置に設けられ基板と成膜用マスクとの位置合わせをするアライメント機構に伝達する可能性がある振動及び変形を低減し、位置ずれを抑制することができる成膜装置を提供する。
【解決手段】基板支持体と、マスク支持体と、を室内に備える成膜室と、前記成膜室の室外に設けられている支持体と、前記支持体上に設けられ、前記基板支持体の位置調整手段及び前記マスク支持体の位置調整手段の少なくとも一方と、アライメント用のカメラと、を備えるアライメント機構と、から構成され、前記支持体が、前記アライメント機構を載置する支持板と、脚部と、を有し、前記支持板が、前記脚部により前記成膜室の天板と離間して設けられており、前記支持板の少なくとも一部が、前記支持板に伝わる振動を熱エネルギーに変換して該振動を抑制可能にする制振材料で構成されていることを特徴とする、成膜装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、特に、成膜用マスクを基板に密着するように配置して行うマスク成膜法に用いる成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置を製造する方法として、従来から、成膜用マスクを基板に密着するように配置して行うマスク成膜法が多く採用されている。このマスク成膜法の一例としてはマスク蒸着法がある。このマスク蒸着法を採用することにより、有機EL装置を構成する有機化合物層を蒸着法あるいは昇華法により形成する際に、所定の位置に高い精度でパターニングを行うことができる。
【0003】
近年、有機EL装置の高解像化に伴い、パターニングの微細化がより一層進んでいる。例えば有機EL表示装置の場合、基板上の表示面に繰り返し配置された赤色、緑色、青色の副画素のサイズが微細化しており、特定の画素、例えば、赤色画素に含まれる赤色発光層をパターニング形成するためにはより高い位置精度が要求されるようになっている。仮に、赤色発光層の成膜位置が所定の位置から面方向にずれてしまうと、隣接して配置されている緑色画素あるいは青色画素を設ける領域に赤色発光層の一部が形成されてしまうため、混色欠陥等の表示欠陥を生じてしまう。つまり、基板上に配置された画素パターンと成膜用マスクの開口パターンとの間でわずかでも位置ずれが生じると有機EL装置の品質が低下することがある。
【0004】
図5は、従来の成膜装置を示す断面模式図である。図5に示される成膜装置100に搭載されている基板111と成膜用マスク113との位置合わせを行なうためのカメラ132や駆動機構(駆動ステージ132)等を備えたアライメント機構130は、成膜装置100の天板110a上に設置されている。このため、成膜装置100の内外の圧力差によって成膜室の天井を含む壁面が変形すると、アライメント機構130のゆがみが発生し、基板111とマスク113との位置ずれを引き起こし易くなることが知られている。尚、ここで説明するアライメント機構130のゆがみとは、例えば、アライメント用のカメラ132の光軸がずれる、あるいは基板支持体112の動作位置の繰り返し再現性が悪化する等を意味している。このようなアライメント機構130のゆがみが生じると、基板111と成膜用マスク113の位置合わせ精度が低下してしまい、上述の如く有機EL装置の品質低下に直結する不具合を生じるリスクが高くなってくる。
【0005】
このような成膜装置内外の圧力差に伴う位置ずれの問題を解決するために、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、基板とマスクの位置合わせをおこなうアライメント機構を成膜装置(真空チャンバ)の天板上に近接して直接固定された支持プレート上に配置する装置構成が提案されている。この構成により成膜装置内外の圧力差による天板部の変形は支持板を介して間接的にアライメント機構に伝わるようになり、天板部の変形によるアライメント機構の動作への影響を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−248249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながらアライメント機構に伝わる振動によっても、基板とマスクとの位置ずれが生じることがある。特に、成膜装置の外に設置されている周辺装置等が発する振動や、成膜室内の搬送ロボット動作や各部品の接触や衝突動作に伴う振動が、アライメント機構に伝わることで基板とマスクとのアライメント精度に影響が及ぼすことが懸念される。
【0008】
例えば、マスク、基板、あるいはこれらを支持する構造物に対して0.1mm〜1.0mm/s2の加速度を持った振動が加わった場合、マスクと基板の相対位置は約0.1μm〜10μmのずれが生じてしまうことがある。高精細、高解像度な有機EL装置に許容される位置合わせ精度は1μm〜20μmの範囲(好ましくは、1μm〜10μmの範囲)であることから、上記振動によるずれの大きさは無視できないものになる。例えば、3インチの表示エリアを有する有機EL表示装置において、VGAの解像度を有する場合の画素サイズは約96μmである。このような表示装置において、例えば、発光領域の面積率(画素開口率)を25%の場合、異色画素間に設けられる非発光部の幅はおよそ10〜25μmの範囲で設定されることが多い。非発光部の幅の1/2倍がマスクと基板の位置合わせ精度に相当する。
【0009】
尚、上記のような加速度をもった振動は、我々の所有する有機EL蒸着装置に設置されたマスク支持機構の通常の昇降動作において発生する程度の加速度であり、特別大きな振動ではない。ただし、装置の形態や材料、又は装置構成物の移動速度や加速度等の運用条件によって違いが生じる可能性はある。
【0010】
ここで特許文献1に記載の構成では、成膜装置の天板部と支持板とが直接固定され、一体化した構成であるため、成膜装置の内外で発生した振動が成膜室の天板部及びこの天板部に固定された支持板を介して、アライメント機構に伝達するおそれがある。また成膜装置の天板部と支持板との固定位置によっては、振動だけでなく成膜室で発生する僅かな変形も支持板を介してアライメント機構に伝達するおそれがある。その結果、アライメント機構に伝わる振動や変形によって基板と成膜用マスクの位置合わせ精度が低下してしまい、有機EL装置の品質低下に直結する不具合を生じるリスクが高くなってくる。また振動による影響によりアライメントカメラで認識するアライメントマークの精度が低下してしまいリトライ回数が増えることから、所定の精度に追い込むまでに要するアライメント時間が長くなる問題も抱えていた。
【0011】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、成膜装置に設けられ基板と成膜用マスクとの位置合わせをするアライメント機構に伝達する可能性がある振動及び変形を低減し、位置ずれをより一層抑制することができる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の成膜装置は、基板支持体と、マスク支持体と、を室内に備える成膜室と、
前記成膜室の室外に設けられている支持体と、
前記支持体上に設けられ、前記基板支持体の位置調整手段及び前記マスク支持体の位置調整手段の少なくとも一方と、アライメント用のカメラと、を備えるアライメント機構と、から構成され、
前記支持体が、前記アライメント機構を載置する支持板と、脚部と、を有し、
前記支持板が、前記脚部により前記成膜室の天板と離間して設けられており、
前記支持板の少なくとも一部が、前記支持板に伝わる振動を熱エネルギーに変換して該振動を抑制可能にする制振材料で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成膜装置に設けられ基板と成膜用マスクとの位置合わせをするアライメント機構に伝達する可能性がある振動及び変形を低減し、位置ずれをより一層抑制することができる成膜装置を提供することができる。即ち、本発明の成膜装置は、支持板の少なくとも一部を、支持板に伝わる振動を熱エネルギーに変換することにより制振可能な制振材料で構成されている。こうすることで、成膜装置に供えられたアライメント機構に伝達する可能性がある振動及び変形を低減し、基板と成膜用マスクとの位置ずれを抑制することができる。
【0014】
従って、本発明の成膜装置は、基板上に配置された画素パターンとの面方向のずれが少なく、かつ寸法精度のよい有機化合物層のパターンが形成された有機EL素子や有機EL装置の製造を可能にする。具体的には、アライメント工程で追い込める位置精度が向上すると共に、アライメント工程段階の位置精度と蒸着工程後に形成されたパターンの位置精度とをほぼ一致させることができる。またアライメントカメラのマーク認識率が改善されることで、リトライ数を低減できるためアライメント時間を短縮化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の成膜装置における第1の実施形態を示す断面模式図である。
【図2】本発明の成膜装置における第2の実施形態を示す断面模式図である。
【図3】図1の成膜装置の構成部材である天板を示す模式図であり、(a)は、平面側の模式図であり、(b)は、底面側の模式図である。
【図4】本発明の成膜装置における第3の実施形態を示す断面模式図である。
【図5】従来の成膜装置を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の成膜装置は、成膜室と、支持体と、アライメント機構と、から構成される。ここで成膜室は、室内に、基板支持体と、マスク支持体と、を備えている。尚、成膜室の室内には、基板支持体やマスク支持体のほかに、例えば成膜用の蒸発源が所定の位置に配置されている。また支持体は、成膜室の室外に設けられている部材である。さらに、アライメント機構は、支持体上に設けられる部材であって、基板支持体の位置調整手段及びマスク支持体の位置調整手段の少なくとも一方と、アライメント用のカメラと、を備えている。
【0017】
本発明の成膜装置において、成膜装置を構成する支持体は、アライメント機構を載置する支持板と、脚部と、を有している。ここで支持体に含まれる支持板は、上記脚部により成膜室の天板と離間して設けられている。即ち、支持体に脚部が設けられることにより、減圧雰囲気の成膜室の内外圧力差による変形や振動を生じた場合においても、支持板は成膜室の天板に対して確実に離間される状態になる。また支持体に含まれる脚部は、成膜装置の外周近傍に設けられている。これにより成膜室の天板部の変形に伴う基板と成膜マスクとの位置ずれを効果的に低減できるようになる。
【0018】
本発明の成膜装置において、上記支持板のうち少なくともその一部は、支持板に伝わる振動を熱エネルギーに変換して該振動を抑制可能にする制振材料で構成されている。
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の成膜装置について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の成膜装置における第1の実施形態を示す断面模式図である。尚、図1の成膜装置1は、例えば有機EL表示装置の製造に用いられる成膜装置として使用されるものである。
【0021】
図1の成膜装置1の構成部材である成膜室10は、室内に、基板11を支持するための基板支持体12と、マスク13を支持するためのマスク支持体14と、有機材料を蒸発させるための蒸着源15と、を備えている。ここで、成膜室10の室内に備えられている基板支持体12及びマスク支持体14は、ベローズ等の真空シール部材(不図示)を介して、成膜室10外に設けられたアライメント機構(不図示)と連結されている。
【0022】
ところで、マスク13を支持するためのマスク支持体14に連結されるアライメント機構は、例えば、図1に示されるように成膜室10の上方、言い換えると、天板10a側に設けてもよいが、本発明はこれに限定されるものではない。図2は、本発明の成膜装置における第2の実施形態を示す断面模式図である。図2の成膜装置2は、マスク支持体14とアライメント機構(不図示)との連結態様が異なることを除き、他の構成・態様が図1の成膜装置1と共通している。ここで図2の成膜装置2は、マスク12の位置を制御するアライメント機構が成膜室10の下方側に設けられている。
【0023】
またアライメントカメラ32の光軸上(図中破線方向)にはビューポート33が設けられている。このビューポート33は、成膜室10の室内を成膜室10の外部から覗くための窓であり、減圧下に耐えることが可能な材料で構成されている。
【0024】
以上より、図1の成膜装置1は、基板支持体12やマスク支持体14が可動した場合においても成膜室10内の機密性は保持され、成膜室10内の圧力は一定に保持することが可能な構成となっている。
【0025】
マスク支持体14で支持されるマスク13は、一部又は全部が開口を有する薄板形状の部材である。より精細なパターンが要求される蒸着工程においては、マスク部分の厚さは100μm以下、好ましくは50μm以下とするのがよい。
【0026】
マスク13の素材としては、銅、ニッケル、ステンレス等の金属材料を用いることができる。またこれら金属材料に換えて、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−鉄合金であるインバー材、ニッケル−鉄−コバルト合金であるスーパーインバー材等のニッケル合金を用いて電鋳製法でマスク部を作製してもよい。特に、インバー材、スーパーインバー材の熱膨張係数は0.5〜2.0×10-6/℃と他の金属に比べて小さいので、蒸着時における熱膨張によるマスクの変形を抑えることができる。
【0027】
また、大型基板向けのマスクは、大面積で開口の寸法精度を実現するのが難しいため、インバー等で剛性の高い枠部材の部分を作製し、枠部材に囲まれた領域に薄膜のマスクを形成した形態も好適に用いられる。
【0028】
基板支持体12で支持される基板11は、目的に応じてシリコン基板やガラス基板あるいはプラスチック基板等を用いることができる。大型ディスプレイ向けとしては、無アルカリガラス上に予め駆動回路や画素電極を形成した基板が好ましく用いられる。
【0029】
図1の成膜装置の構成部材である支持体20は、後述するアライメント機構を設置するための支持板21と、支持体20を接地するため脚部22と、を有している。尚、支持板21及び脚部22の設置位置については後述する。
【0030】
図1の成膜装置の構成部材であるアライメント機構は、基板11及びマスク13の平面位置を確認するためのアライメント用のカメラ32を有している。尚、図示していないが、図1に示されるアライメント機構は、基板支持体12の位置の微調整を行う位置調整手段や、図1のマスク支持体14の位置の調整を行う位置調整手段も有している。
【0031】
ところで基板11とマスク13にはそれぞれ位置合わせのためのアライメントマーク(不図示)が設けられている。カメラ32は、位置合わせを行う際に基板11及びマスク13のアライメントマークをビューポート33から観察できるようにアライメントマークの位置の上方に配置されている。基板11とマスク13の位置合わせは、図1に示すように、基板11とマスク13が離れている状態で基板11とマスク13にそれぞれ形成されたアライメントマークの相対的な位置関係を調整することで行う。
【0032】
尚、アライメントの具体的な方法として、マスク13を所定位置に静置し、基板駆動ステージ(不図示)によって基板11を移動させる方法がある。これにより、基板11とマスク13との相対的な位置関係を調整することができる。また、基板11を所定位置に静置し、マスク13をマスク駆動ステージ(不図示)によって移動させることで位置合わせを行う構成であってもよいし、基板11及びマスク13の両方を移動させるための駆動ステージを備えていてもよい。
【0033】
例えば、基板に比べてマスクの重量が大きい場合には、基板を移動させることでアライメント精度を高められる場合がある。また基板とマスクの両方を移動させて相対的な位置関係を調整することで、アライメント時間を短縮することができる場合がある。このように移動させる物体の選択は、装置の形態や目的に応じて任意に設計することが可能である。
【0034】
また基板11に有機材料を成膜する場合に、基板11と蒸着源15との位置は互いに固定していてもよいし、相対的に移動する形態であってもよい。また蒸着源の形態は、単一の蒸着源であっても、複数の蒸着源を配列していてもよい。また図示していないが、成膜室内には蒸着源からの蒸発レートを管理あるいは制御することを目的としたレート管理センサーも配置することができる。
【0035】
また図1においては、基板11の被成膜面を下向きにする目的で、マスク13を基板11の下側に配置させているが、成膜物質が基板11の被成膜面上にパターニングできれば基板とマスクとの互いの姿勢はこの限りではない。例えば、基板11とマスク13とを縦置きにした状態で配置してもよいし、あるいは基板11の被成膜面を上向きにしてもよい。
【0036】
また、本発明にかかる第2の実施形態の断面図を図2に示す。図2の成膜装置2は、成膜室10が、アライメントをするためのチャンバーと、成膜をするためのチャンバー(不図示)と、から構成されている。ここで図2の成膜装置2において、アライメントをするためのチャンバーと成膜をするためのチャンバーとは、分けて設けられている。アライメント用のチャンバーと成膜用のチャンバーとは、真空一貫で連結されていることが好ましい。尚、アライメント用のチャンバーと、成膜用のチャンバーと、は同一の空間であってもよいし、チャンバー間をバルブで区切ることができる形態であってもよい。このようにチャンバーを機能で分離することにより、アライメント機構を搭載したチャンバーのサイズを小さくすることができるため、チャンバー内外の圧力差による変形量を低減することができるようになる。また図2で示されるように、マスク支持体14を天板と対向する側に配置することで、支持板に要求される耐加重を低減できるため、構造的あるいは材料選択に対する成約を緩和することが可能になる。
【0037】
尚、真空度は1×10-3Pa以下に保たれていることが望ましい。より好ましくは1×10-4Pa以下である。
【0038】
次に、支持体20を構成する部材について説明する。上述したように、支持体20は、支持板21と脚部22とからなる部材である。
【0039】
図1の成膜装置において、支持板21は、脚部22を介して成膜室の天板10aと離間して設けられている。このため成膜室10で発生し得る僅かな変形が支持体20および支持体に設置されたアライメント機構に伝達することを低減又は遮断することができる。
【0040】
また以下の二つの理由から、支持体20に配置されているアライメント機構へ伝わる振動を軽減することができる。
【0041】
第一の理由は、支持板21の少なくとも一部が制振材料で構成されているからである。ここで説明する制振材料とは、制振性を有する材料を意味している。具体的には、外部から支持体20に伝わる振動を熱エネルギーに変換し、この熱エネルギーを発散することで振動を短時間で減衰させることが可能な減衰能の高い材料を意味している。また、支持板21の少なくとも一部が制振材料で構成されるとは、支持板21全体が制振材料から構成されている形態だけでなく、支持板21が制振材料からなる板と他の材料からなる板とを貼り合わせて構成されている形態も本発明に含まれることを意味する。他にも、アライメント機構が設置されている部分のみを制振材料で構成する形態等も本発明に含まれる。
【0042】
第二の理由は、脚部22を成膜室10の外周近傍に配置することで、構造的な耐震性を有するためである。具体的には、成膜室10の天板10aの外周部は、成膜室10の壁面(側壁)で支持されている。そのため、天板10aの垂直方向の剛性は、天板10aの外周近傍では強い。このため天板10aの外周では天板10aに伝わる振動、特に周波数の小さな振動の影響を受けにくくなる。このため成膜装置が設置されている床から発生する振動や、基板11とマスク13とのアライメント工程や蒸着工程時に成膜室内から発生する振動が、成膜室10から支持体20に直接伝わることを構造的に低減することができる。
【0043】
これにより基板、ロボットの動作、ドアバルブ開閉等に伴う装置内の振動、また排気装置等の各種機器類が発する振動の影響によって生じる装置外からの振動を抑制あるいは遮断し、アライメント機構に伝わる振動を抑制あるいは遮断できる。この結果、基板とマスクとの位置合わせ誤差を低減できるので、寸法精度のよい有機化合物層のパターンが形成された有機EL素子や有機EL装置を製造することが可能になる。
【0044】
尚、脚部22を設ける位置は、支持体20を支持すると共に強度上の問題がなければ、天板10a上の外周近傍に相当する領域のいずれかでよい。
【0045】
図1の成膜装置1の構成部材である天板及び脚部を、図3にて説明する。図3(a)のように、脚部22(破線で囲む範囲)を天板10aの角部にそれぞれ設置し、支持体20を支持する構造にしてもよい。尚、図3(a)では、マスク支持体14よりも外側(成膜装置10の壁面側)に脚部22が設置されている。
【0046】
また別の形態として、図3(b)で示すように、支持板21の辺に沿って成膜装置1の外周に脚部22を配置してもよい。図3(b)にて示される装置形態では、破線bb’に沿って成膜室10の中央から外周に向けて、アライメント用カメラ32、基板支持体12、脚部22が順に配置されている。即ち、基板支持体14よりも外側(成膜装置10の壁面側)に脚部22が設置されている。
【0047】
このように本発明では、支持体20を構成する脚部22を、少なくともマスクあるいは基板を支持する部材の一方よりも外側に配置する。これにより、成膜室10で発生し得る僅かな変形や振動が支持体20及び支持体に設置されたアライメント機構(不図示)に伝達することを低減又は遮断することができる。
【0048】
また支持体20を構成する脚部21が、少なくともマスク支持体14あるいは基板支持体12の外周よりも外側であって成膜室10の側壁よりも内側に設けられている態様であっても同様に本発明の効果は発現する。
【0049】
尚、本発明において、上述した制振材料は、制振材料に含まれる成分同士の摩擦によって生じる摩擦エネルギーを熱エネルギーに変換可能な制振合金を含んでいるのが好ましい。
【0050】
ここで、支持板21を構成する制振材料として使用される制振合金としては、公知の制振合金を使用することができる。好ましくは、大型構造物への適用しやすい鋳鉄(Fe−C−Si系合金等)や、減衰能の大きな双晶の移動を利用する部分転移型の制振合金(Mn−Cu−Ni−Fe系合金等)を用いる。例えば、鋳鉄には、ネズミ鋳鉄、ダクタイル鋳鉄、インバー鋳鉄等があり、この中から適宜選択することができる。また双晶型の合金としては、上記以外にもMn−Cu−Al−Fe−Ni系合金、Cu−Zn−Al系合金、Fe−Mn−Cr系合金等があり、この中から適宜選択することができる。尚、鋳鉄に振動が加わった場合には、鋳鉄に含まれる黒鉛と鉄の摩擦によって熱エネルギーに変換することで、振動を抑制することができると考えられている。また部分転移型合金に振動が加わった場合、合金内にいろいろな大きさの双晶が形成され、この双晶の移動によって運動エネルギーが熱エネルギーに変換することで、振動を抑制することができると考えられている。
【0051】
尚、本発明の成膜装置における基板を支持するための基板支持部、マスクを支持するためのマスク支持部、あるいはアライメント用カメラの個数や配置はこれに限られるものではない。基板の大きさや重さ、マスクの大きさや重さ、アライメントマークの数やレイアウト位置等によって任意に定めることが可能である。
【0052】
本発明の成膜装置の別の形態として、支持板21を成膜室の天板10aと完全に離間させる形態も好ましい。図4は、本発明の成膜装置における第3の実施形態を示す断面模式図である。図4の成膜装置3は、支持体20を構成する脚部22を、成膜室10から離れた位置、より具体的には、成膜室10の側壁よりも外側に設けている。この態様であっても本発明の課題を解決できる。
【0053】
また、本発明の成膜装置は、図4にて図示されるように、脚部22の下端に防振体23を設けてもよい。脚部22の下端に防振体23を設けることで、アライメント機構に伝わる振動の軽減効果をより高めることができる。具体的には、防振体を設けることによって、支持体20を設置する床からアライメント機構へ伝わる振動を防振体によって効果的に吸収することが可能になる。
【0054】
ここで防振体23は、外部から伝わる振動に対してアライメント機構が共振しない機能を有することが望ましく、振動を軽減できる周波数領域が広いものがより好ましい。また、防振体23の構成材料としては、硬質ポーラスセラミックス(硬質多孔セラミックス)、高炭素鋳物鉄、表面弾性振動波遮断の目的で側面・表面をゴム等で被覆した硬質ポーラスセラミックス(硬質多孔セラミックス)、高炭素鋳物鉄等を用いることができる。ただし本発明においては、振動を軽減できる機能を有していれば、以上に列挙した材料以外の材料も使用可能である。例えば、支持板21を構成する制振材料も防振体23の構成材料として好適に使用することができる。
【0055】
上述した防振体23は、他の実施形態として示される成膜装置においても適用することができる。例えば、図1の表示装置1では、天板10aの外周部に相当する領域に設置される脚部22の下端に防振体を設けることは可能である。そしてこの防振体により、図4の成膜装置3と同様の効果を得ることができる。
【0056】
以上の説明においては、蒸着装置を主用途とする成膜装置について説明したが、CVDによって保護膜を成膜するために使用される成膜装置についても同様に本発明を適用できる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0058】
(実施例1)
図1の成膜装置を用いてガラス基板上に有機EL素子を製造した。まず蒸着源15中に公知の発光材料を配置し、成膜室10内には基板11を成膜面が下向きになるように設置した。
【0059】
本実施例においては基板11として、無アルカリガラスの0.5mm厚でサイズが400mm×500mmのガラス基板を用いた。尚、この基板上には、薄膜トランジスタ(TFT)と電極配線とが、定法によりマトリクス状に形成されている。また副画素1個あたりの大きさを30μm×120μmとし、有機EL素子の形成領域が350mm×450mmとなるように形成した。一方、本実施例においてはマスク13として、厚さが40μm、サイズが400mm×500mmのマスク部分に張力を加え、厚みが20mmの枠部材に溶接して一体化したものを用いた。尚、マスク部分及び枠部材の材料としてインバー材を用いた。
【0060】
支持体20は成膜室10上に設置した。支持板21上にはカメラ32、基板支持体12の位置調整手段(不図示)を有するアライメント機構(不図示)を設置した。支持板21は、制振合金であるネズミ鋳鉄(FC250)で作製した。
【0061】
また支持体の脚部22は成膜装置10の天板外周の4隅に設けた。なお支持板21と天板部10aとを離間するための脚部の高さは10mmとした。
【0062】
次に、有機EL素子の作製工程を説明する。
【0063】
まず、10μm×90μm(画素開口率:約25%)になる発光領域を有するように、TFTを備えたガラス基板上にアノード電極を形成した。尚、このような発光領域を有する素子で、隣接する異色の発光画素間に設けられた非発光部の幅が20μmとした場合に要求されるアライメント精度は±10μmである。
【0064】
次に、上記成膜装置及び上記の蒸着マスクを用いて、真空状態でアライメント機構に供えられた基板支持体を下降させて基板11とマスク13の距離を0.4mmまで近接させた。次に基板11上に設けられたアライメントマークとマスク13上のアライメントマークとをCCDカメラ(カメラ32)を用いてモニターしながら、基板11を支持する基板支持体12を動作させ、基板11とマスク13との位置合わせを行った。所定のアライメント精度で位置合わせを完了した後、基板支持体12をさらに下降させることでマスク13上に基板11を接触させた。接触させた直後に、CCDカメラ(カメラ32)を用いて再度アライメント精度の確認を実施した。所定の精度を満足していることが確認された後、基板支持体12を基板11から離し、基板11はマスク13上に載置された。なおアライメント動作の期間において、基板支持部12の昇降運動、基板とマスクとの接触動作等があったが、各動作前後においてカメラ32で認識される基板11とマスク13のアライメントマークの相対位置は所定のアライメント精度を阻害することはなかった。
【0065】
次に、公知の発光材料を真空度2×10-4Paの条件下で真空蒸着法にて毎秒3Åの蒸着レートで、基板に対して蒸着源を移動しながら膜厚700Åで蒸着した。蒸着レートはレートモニタ(不図示)でモニタリングを継続し、必要に応じて蒸着源の加熱制御部にフィードバックをかけて、安定なレートでの蒸着を実施した。
【0066】
成膜後、基板上の膜の形状を調べたところ、形状は、マスク開口のサイズとほぼ同じであった。また形成された膜は、アノード電極の上に適正に配置されていることが分かった。ここで説明する適正に配置されている状態とは、成膜直前のアライメント精度と形成された膜の位置精度がほぼ同等であることを意味している。
【0067】
以上より、本実施例の成膜装置によって、寸法精度のよい有機化合物層のパターンが形成された有機EL素子を製造できることが分かった。
【0068】
(実施例2)
図4に示される成膜装置を用いてガラス基板上に有機EL素子を製造した。
【0069】
支持体20は、成膜室10をコの字型で覆い囲むように設置した。このとき、脚部22の下端に鋳鉄で構成された防振体23設けられた脚部22を床に設置させた。また支持体20にはカメラ32、マスク支持体12の位置調整手段(不図示)、基板支持体の位置調整手段(不図示)を有するアライメント機構30を設置した。
【0070】
また上記脚部22以外の部材、マスク及び基板、並びに成膜条件は、実施例1と同様とした。
【0071】
次に、実施例1と同様に公知の発光材料を真空度2×10-4Paの条件下で真空蒸着法にて毎秒3Åの蒸着レートで、膜厚700Åで蒸着した。
【0072】
成膜後、基板上の膜の形状を調べたところ、形状は、マスク開口のサイズとほぼ同じであった。また形成された膜は、アノード電極の上に適正に配置されていることが分かった。以上より、本実施例の成膜装置によって、寸法精度のよい有機EL層パターンが形成された有機EL素子を製造できることが分かった。
【0073】
(比較例1)
図5に示される成膜装置を用いてガラス基板上に有機EL素子を製造した。図4の成膜装置100は、成膜室の天板10a上に直接カメラ32、マスク支持体114の位置調整手段(不図示)、基板支持体112の位置調整手段(不図示)を有するアライメント機構30を設けており、用いたマスク、基板のその他の条件は、実施例1と同様とした。
【0074】
実施例1と同様にTFTを備えたガラス基板上にアノード電極を形成し、上記成膜装置及び公知の蒸着マスクを用いて、真空状態でアライメント機構30を動作させて基板11とマスク13の距離を0.4mmまで近接させた。次に基板上に設けられたアライメントマークとマスク上のアライメントマークをCCDカメラ32を用いてモニターしながら、マスク側をアライメント機構にて動作させて、基板11とマスク13の位置合わせを行った。その後、マスク側をアライメント機構にて動作させることでマスク13上に基板11を接触させた。
【0075】
次に、公知の発光材料を真空度2×10-4Paの条件下で真空蒸着法にて毎秒3Åの蒸着レートで、膜厚700Åで蒸着した。
【0076】
成膜後、基板上の膜の形状を調べたところ、形状はマスク開口のサイズより大きくなっており、着膜ボケが認められた。また形成された膜の配置は、アノード電極の上からずれており、適正に配置されていないことが分かった。
【符号の説明】
【0077】
1(2,3):成膜装置、10:成膜室、11:基板、12:基板支持体、13:マスク、14:マスク支持体、15:蒸着源、20:支持体、21:支持板、22:脚部、23:防振体、32:カメラ(CCDカメラ)、33:ビューポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板支持体と、マスク支持体と、を室内に備える成膜室と、
前記成膜室の室外に設けられている支持体と、
前記支持体上に設けられ、前記基板支持体の位置調整手段及び前記マスク支持体の位置調整手段の少なくとも一方と、アライメント用のカメラと、を備えるアライメント機構と、から構成され、
前記支持体が、前記アライメント機構を載置する支持板と、脚部と、を有し、
前記支持板が、前記脚部により前記成膜室の天板と離間して設けられており、
前記支持板の少なくとも一部が、前記支持板に伝わる振動を熱エネルギーに変換して該振動を抑制可能にする制振材料で構成されていることを特徴とする、成膜装置。
【請求項2】
前記制振材料が、前記制振材料に含まれる成分同士の摩擦によって生じる摩擦エネルギーを熱エネルギーに変換可能な制振合金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記制振材料が、双晶の発生及び双晶の移動に伴う運動エネルギーを熱エネルギーに変換可能な制振合金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記脚部が、少なくとも前記マスク支持体あるいは基板支持体の外周よりも外側の領域に設けられることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記脚部が、少なくとも前記マスク支持体あるいは基板支持体の外周よりも外側であって前記成膜室の側壁よりも内側に設けられることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記脚部が、前記成膜室の側壁よりも外側に設けられることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記脚部が、防振体を有することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記防振体が、制振材料からなることを特徴とする、請求項7に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−33468(P2012−33468A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126928(P2011−126928)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】