説明

手術用マニピュレータ

【課題】指掛かり部が軸心に対して片側に偏った位置に形成された既存の鉗子を位置決めし、且つ、鉗子を開閉させる機構を有し、鉗子開閉時に生じる回転モーメントを吸収することのできる手術用マニピュレータを提供する。
【解決手段】指掛かり部122,124が軸心に対して片側に偏った位置に形成された鉗子120を装着可能な保持手段61を具える支持台60と、前記鉗子の指掛かり部を開閉させる開閉機構70と、該支持台を複数の軸回りに回転可能に保持する回転台50と、該回転台を平面方向及び/又は垂直方向に直線及び/又は回転作動可能に支持するアーム部30と、を有する手術用マニピュレータであって、回転台は、アーム部に対する支持台の各軸回りの回転を固定するロック機構51,55,57を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下手術に用いられ、鉗子を多自由度で操作することのできる手術用マニピュレータに関するものであり、より具体的には、指掛かり部が軸心に対して片側に偏った位置に形成された既存の鉗子を位置決めし、開閉操作することのできる手術用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下手術は、開腹や開胸を伴わない低侵襲手術として広く行なわれている。
この手術では、患者の腹部にあけた小さな孔に筒状のトロカールを装着し、該トロカールから内視鏡と鉗子等の処置具を体腔内に挿入して、内視鏡にて撮影される体腔内の状態を観察しながら、処置具によって患部への処置作業が行なわれる。
【0003】
内視鏡下手術では、執刀医、内視鏡助手、執刀助手、看護師がチームを組んで処置作業が行なわれるが、執刀医と助手との協調が必要であり、また、挿入される処置具の自由度が不足するなど、難易度の高いものであるため、内視鏡下手術を支援する手術ロボットの研究開発が盛んに行なわれている。
【0004】
日本では、医師の絶対数不足と診療科の偏在により、外科系の医師数が減少している一方で、少子高齢化社会の到来で低侵襲手術を必要とする患者が増加しているため、複数の医師が関わる手術治療が特に地方で難しくなってきている。そこで、手術ロボットを用いて執刀医(以下「施術者」という)が一人で手術するソロサージェリの適用が考えられる。
【0005】
手術ロボットとして、内視鏡操作ロボット(AESOP(商標)、Naviot(商標))がある。これらにより、内視鏡助手との意志疎通が不要になる。しかしながら、これら内視鏡操作ロボットは、内視鏡の操作のみを対象とするものであり、鉗子等の処置具を扱うものではない。
【0006】
施術者が内視鏡と処置具を多自由度で操作する内視鏡下手術ロボットとして、ZEUS(商標)、da Vinci(商標)がある。これらにより、血管縫合など細かな手技が可能となる。
しかしながら、これら内視鏡下手術ロボットは、開閉機能を有する鉗子などの既存の処置具を扱うことは困難である。
【0007】
その他、例えば、特許文献1の内視鏡下手術ロボットでは、既存の鉗子を装着することはできるが、鉗子等の開閉機能は具えていない。
また、特許文献2の内視鏡下手術ロボットは、専用の鉗子をジンバル機構で保持するアームを有している。専用鉗子の開閉は、鉗子の軸心に対して左右対称に構成されたモータ駆動部により行なわれるが、既存の鉗子等の場合、開閉を行なうための指掛かり部は、人の手で操作するために、軸心に対して片側に偏った構成とならざるを得ないことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−17752公報
【特許文献2】特開平7−328015公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、指掛かり部が軸心に対して片側に偏った既存の鉗子等は、特許文献2の内視鏡下手術ロボットに装着した場合、指掛かり部を操作すると、ジンバル機構の中心回りに回転モーメントが生じ、鉗子や鉗子を挿入したトロカールに反作用としての回転モーメントが作用し、臓器や腹壁に負荷がかかってしまうことがあった。
【0010】
本発明の目的は、指掛かり部が軸心に対して片側に偏った位置に形成された既存の鉗子を位置決めし、且つ、鉗子を開閉させる機構を有し、鉗子開閉時に生じる回転モーメントを吸収することのできる手術用マニピュレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の手術用マニピュレータは、
指掛かり部が軸心に対して片側に偏った位置に形成された鉗子を装着可能な保持手段を具える支持台と、
前記鉗子の指掛かり部を開閉させる開閉機構と、
該支持台を複数の軸回りに回転可能に保持する回転台と、
該回転台を平面方向及び/又は垂直方向に直線及び/又は回転作動可能に支持するアーム部と、
を有する手術用マニピュレータであって、
回転台は、アーム部に対する支持台の各軸回りの回転を固定するロック機構を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の手術用マニピュレータによれば、支持台を回転可能に保持する回転台は、ロック機構により回転不能に固定される。従って、軸心に対して偏った位置に指掛かり部を有する既存の鉗子を開閉機構によって操作したときに、支持台が回転したり、動いてしまうことがない。つまり、鉗子の反力や操作により生ずる回転モーメントは回転台により吸収されるから、臓器や腹壁への負荷も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の手術用マニピュレータの基本構成を示す説明図である。
【図2】図2は、本発明の手術用マニピュレータの斜視図である。
【図3】本発明の手術用マニピュレータの保持手段近傍を右斜め前方から見た斜視図である。
【図4】本発明の手術用マニピュレータの保持手段近傍を左斜め前方から見た斜視図である。
【図5】本発明の手術用マニピュレータの制御ブロック図である。
【図6】操作部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、図面に沿って説明を行なう。
図1は、本発明の手術用マニピュレータ(10)の基本構成を示す説明図である。また、図2は、本発明の手術用マニピュレータ(10)の斜視図である。なお、図2では、後述する開閉機構(70)、鉗子(120)及びベース(12)上の載置物等を省略している。
【0015】
図1及び図2に示すように、手術用マニピュレータ(10)は、ベース(12)から上向き伸びる縦アーム部(20)と、該縦アーム部(20)の先端から横方向に伸びる横アーム部(30)からなるアーム部を有する。横アーム部(30)の先端には、回転台(50)を介して、鉗子(120)の保持手段(61)が配備されている。
【0016】
ベース(12)は、ローラ(14)によって床面上を移動可能となっている。ベース(12)には、図1に示すように後述する縦アーム部(20)及びその伸縮機構(23)、制御部(100)等が配備されている(図2には示さず)。
また、ベース(12)に配備された制御部(100)には、施術者が手及び/又は足で操作することのできる操作部(16)(図1、図5及び図6を参照)が接続されている。
【0017】
ベース(12)には、上下方向に伸縮可能な縦アーム部(20)が立設されている。
縦アーム部(20)は、図1及び図2に示すように、ベース(12)に垂直に立設された第1縦アーム部(21)と、該第1縦アーム部(21)に対して上下動可能に配備された第2縦アーム部(22)から構成することができる。
第2縦アーム部(22)は、伸縮機構(23)によって、第1縦アーム部(21)に対して上下動可能となっている。伸縮機構(23)は、図1に示すように、ベース(12)に配備された伸縮用モータ(24)を動力源とし、減速機構(25)を介して回転するネジ軸(27)と、第2縦アーム部(22)の下端にに設けられ、ネジ軸(27)と螺合するナット部(28)を例示できる。伸縮用モータ(24)を作動させると、ネジ軸(27)が回転し、ネジ推力によってナット部(28)がネジ軸(27)に沿って上下に移動することで、第2縦アーム部(22)が上下動する。これにより、縦アーム部(20)は、図1及び図2中、矢印Z方向に伸縮する。
【0018】
伸縮用モータ(24)の回転は、エンコーダ(26)により検出可能とすることで、縦アーム部(20)の伸縮状態を検知することができる。なお、必要に応じて、リミットスイッチ(26a)(図2参照)やポテンショメータ等をエンコーダと共に又はエンコーダに代えて配備することもできる。以下で説明する他のエンコーダについても同様である。
【0019】
縦アーム部(20)の先端、本実施例では、第2縦アーム部(22)の先端には、横アーム部(30)が、水平面内で回転可能に配備されている。横アーム部(30)の先端には、後述する回転台(50)が配備されている。
横アーム部(30)は、縦アーム部(20)の軸心に垂直な面内で回転可能な第1横アーム部(32)と、該第1横アーム部(32)の回転面と平行な面内にて、第1横アーム部(32)に対して回転可能な第2横アーム部(42)から構成することで、横アーム部(30)の回転自由度を高めることができる。
【0020】
第1横アーム部(32)は、第2縦アーム部(22)の上端に配備された第1回転機構(33)により、水平面内にて回転可能に支持されている。第1回転機構(33)は、第1回転用モータ(34)と第1減速機構(35)から構成することができ、第1回転用モータ(34)を作動させることで、第1縦アーム部(32)の軸心に対して、図1及び図2中矢印Aにて示すように、水平面内で回転可能となっている。
なお、第1横アーム部(32)の回転は、エンコーダ(36)により検出することが望ましい。
【0021】
第1横アーム部(32)の先端側には、第2横アーム部(42)が支持されている。第2横アーム部(42)は、第1横アーム部(32)の先端に配備された第2回転機構(43)により、水平面内にて回転可能となっている。第2回転機構(43)は、第2回転用モータ(44)と第2減速機構(45)から構成することができ、第2回転用モータ(44)を作動させることで、第1横アーム部(32)の先端にて、第1横アーム部(32)と平行な面内(図1及び図2中、矢印B)で回転可能となっている。
なお、第2横アーム部(42)の回転は、エンコーダ(46)により検出することが望ましい。
【0022】
横アーム部(30)、本実施例では、第2横アーム部(42)の先端には、回転台(50)を介して鉗子(120)の保持手段(61)を有する支持台(60)が配備される。支持台(60)は、回転台(50)により、横アーム部(30)に対して、複数の軸回りに回転可能且つ固定可能となっている。
【0023】
回転台(50)を横アーム部(30)に対して回転可能且つ固定可能に支持するために、第2横アーム部(42)には、電磁クラッチ(51)が配備される。電磁クラッチ(51)は、図3及び図4に示すように、第2横アーム部(42)の長手方向に回転軸(52)が突出するよう配備されている。
回転台(50)は、コ字状の板状部材から構成することができ、中央杆(53)に電磁クラッチ(51)の回転軸(52)が接続される。
電磁クラッチ(51)は、励磁作動形のものを用いることができ、これにより、通電状態では、電磁クラッチ(51)が回転台(50)のロック機構となり、非通電状態では、回転台(50)を横アーム部(30)に対して、図2中、矢印C方向に回転可能に支持する。
【0024】
また、回転台(50)の中央杆(53)の両端から延びる側杆(54)(54)には、電磁クラッチ(55)(57)が配備されている。各電磁クラッチ(55)(57)は、回転軸(56)(58)が同心となるように向かい合って配備される。
支持台(60)は、図示の実施例では略矩形の板材であり、対向する側面を電磁クラッチ(55)(57)の回転軸(56)(58)にて支持されている。
電磁クラッチ(55)(57)は、励磁作動形のものを用いることができ、これにより、通電状態では、電磁クラッチ(55)(57)が支持台(60)を回転台(50)に対して回転不能に固定するロック機構となり、非通電状態では、支持台(60)を回転台(50)に対して、図2中、矢印D方向に回転可能に支持する。
【0025】
上記により、支持台(60)は、横アーム部(30)に対して、2軸の回転自由度を具備するよう支持される。なお、支持台(60)は、上記したジンバル機構以外に、横アーム部(30)に対して、ジンバル機構、ユニバーサルジョイント、球面軸受等により多軸方向に揺動可能に支持することができる。何れの場合も、支持台(60)は、ロック機構により、横アーム部(30)に対して固定できるようにする。なお、ロック機構は、電磁クラッチ(51)(55)(57)に限定されるものではなく、例えば、電磁ブレーキであってもよい。
【0026】
支持台(60)の略中央には、鉗子(120)を装着する保持手段(61)を具える。保持手段(61)は、鉗子(120)を挿入する孔が開設された支持筒(62)と、該支持筒(62)を回転可能に支持する支持筒回転機構(65)を具える。
支持筒(62)は、中央に開設された孔にネジ(63)等を用いて、鉗子(120)が固定可能となっている。支持筒(62)は、外径の異なる鉗子(120)を取り付け可能とするために、孔径の異なるアタッチメント(64)を着脱できる構成とすることもできる。
【0027】
支持筒回転機構(65)は、支持台(60)に配備された処置具回転用モータ(66)と減速機構(67)から構成することができ、処置具回転用モータ(66)を作動させることで、支持筒(62)が保持している鉗子(120)を所望の向きに回転させることができる。
支持筒(62)の回転は、エンコーダ(68)により検出するようにすることが望ましい。
【0028】
なお、処置具回転用モータ(66)及びエンコーダ(68)は、重量のあるコイル部が支持台(60)の裏面に位置するように配置することで、後述する開閉機構(70)との重量バランスを補正するバランサの役目をなす。なお、これらにより重量バランスを維持できない場合には、支持台(60)に別途重り等のバランサを配備することが望ましい。
【0029】
支持台(60)には、開閉機能を有する把持鉗子や剥離鉗子、切断機能や縫合機能を有する術具等の鉗子(120)を操作する開閉機構(70)を有する。
鉗子(120)は、軸心に対して片側に偏った位置に指掛かり部(122)(124)を有する既存の鉗子を適用できる。この種鉗子(120)は、施術者が通常、手で操作することにより開閉操作をする処置具である。
【0030】
開閉機構(70)は、鉗子(120)の指掛かり部(122)(124)を開閉方向にスライド可能に支持する固定支持部(73)と可動支持部(75)を有する。
固定支持部(73)は、図3及び図4に示すように、支持台(60)から上向きに立設されたプレート(71)を貫通するロッド状部材を例示できる。
また、可動支持部(75)は、上記プレート(71)の固定支持部(73)よりも上側に貫通開設された円弧状孔(72)にスライド可能に嵌まるロッド状部材を例示できる。
【0031】
固定支持部(73)及び可動支持部(75)は、支持筒(62)に挿入された鉗子(120)の指掛かり部(122)(124)に嵌まる。なお、図示では、固定支持部(73)及び可動支持部(75)としてロッド状の部材を例示しているが、形状はこれに限定されるものではなく、また、必要に応じて、鉗子(120)の指掛かり部(122)(124)の形状に応じたアタッチメント(図示せず)を取り付けるようにしてもよい。
【0032】
固定支持部(73)及び可動支持部(75)は、プレート(71)を貫通し、図3及び図4に示すように、可動支持部(75)を円弧状孔(72)に沿って円弧スライドさせるパンダグラフ機構(80)に接続されている。パンダグラフ機構(80)は、4本のリンク片(81)(81)(81)(81)を連繋して構成され、対向する交点を、夫々固定支持部(73)と可動支持部(75)に軸支している。
【0033】
パンダグラフ機構(80)には、可動支持部(75)を固定支持部(73)に対して離間させる方向に付勢する付勢手段(82)が配備されている。付勢手段(82)として、図4に示すように、リンク片(81)(81)間に、圧縮バネ(83)(83)を張設した構成を例示できる。
【0034】
パンダグラフ機構(80)は、図4に示すように、可動支持部(75)との接続部にワイヤ(84)の一端が取り付けられており、該ワイヤ(84)は、固定支持部(73)に軸支されたローラ(85)から、電磁クラッチ(55)(51)の内部を通り、第1横アーム部(32)の上部まで、複数のローラ(86)(86)によって誘導されている。
第1横アーム部(32)の上部には、ワイヤ(84)を巻き上げるドラム(93)が配備されており、該ドラム(93)は、減速機構(91)を介して処置具開閉用モータ(90)に連繋されている。処置具開閉用モータ(90)は、ワイヤ(84)の弛みを防止するために、電磁クラッチ(94)等のブレーキ手段を有するものを用いることが望ましい。
また、ドラム(93)の回転は、エンコーダ(92)により検出可能となっている。
【0035】
上記手術用マニピュレータ(10)の制御ブロック図を図5に示す。
図5に示すように、手術用マニピュレータ(10)の制御は、制御部(100)を中心に行なわれる。制御部(100)には、CPU、メモリ等を有し、上記した伸縮用モータ(24)、第1回転用モータ(34)、第2回転用モータ(44)、処置具回転用モータ(66)、処置具開閉用モータ(90)が夫々駆動回路(102)(104)(106)(108)(110)を介して接続されており、エンコーダ(26)(36)(46)(68)(92)、電磁クラッチ(51)(55)(57)(94)も制御部(100)に接続されている。
手術用マニピュレータ(10)を操作する操作部(16)は、図6に示すように、上記各モータ(24)(34)(44)(66)や電磁クラッチ(51)(55)(57)(94)を操作する複数の操作ボタンやスイッチ等(手入力又は足操作)を具え、操作部(16)からの入力に基づいて、制御部(100)は、モータや電磁クラッチを作動させる。
【0036】
上記構成の手術用マニピュレータ(10)は、図1に示すように、患者を載せたベッド(130)まで運び、操作部(16)の操作により、伸縮用モータ(24)、第1回転用モータ(34)及び第2回転用モータ(44)を夫々作動させることで、所望の位置まで横アーム部(30)の先端の支持台(60)を移動させることができる。
鉗子(120)は、先端が閉じた状態で支持筒(62)を通すため、開閉機構(70)は、予め、パンダグラフ機構(80)が畳まれた状態となるようにワイヤ(84)を牽引しておき、ブレーキ手段(電磁クラッチ(94))により保持しておく。なお、電磁クラッチ(94)は、パンダグラフ機構(80)の誤作動を防止するため、無励磁作動形のものを用いることが望ましい。
【0037】
この状態で、ネジ(63)止め等により、鉗子(120)を支持筒(62)に固定すると共にし、開閉機構(70)である固定支持部(73)と可動支持部(75)に鉗子(120)の指掛かり部(122)(124)を夫々嵌める。
鉗子(120)は、予め先端が閉じた状態で、支持筒(62)に通し、患者(132)の腹部に予め挿入されたトロカール(140)から患者(132)の体内に差し込む。
このとき、鉗子(120)の操作自由度を高めるために、電磁クラッチ(51)(55)(57)は非通電状態として、ロックを解除しておくことが望ましい。
【0038】
鉗子(120)の位置を内視鏡(図示せず)により観察し、位置姿勢決めされると、電磁クラッチ(51)(55)(57)に通電を行なって、保持手段(61)を回転台(50)に対して固定すると共に、回転台(50)を第2横アーム部(42)に対して固定する。
【0039】
鉗子(120)を開くには、電磁クラッチ(94)に通電を行なってブレーキ解除すると、処置具開閉用モータ(90)をワイヤ(84)を緩める方向に回転させる。これによって、ワイヤ(84)が緩み、付勢手段(82)の付勢力によって、パンダグラフ機構(80)が開き方向に復帰して(図4中矢印E)、可動支持部(75)が円弧状孔(72)に沿って、固定支持部(73)から離れる方向に移動する。
その結果、固定支持部(73)及び可動支持部(75)に配備されている鉗子(120)の指掛かり部(122)(124)が離間し、鉗子等が開く(図1中矢印F)。
【0040】
鉗子(120)を閉じるには、ワイヤ巻上げ方向にドラム(93)が回転するように処置具開閉用モータ(90)を作動させる。これにより、開いた状態にあるパンダグラフ機構(80)が付勢手段(82)の付勢力に抗して畳まれ(図4中矢印G)、可動支持部(75)が円弧状孔(72)に沿って、固定支持部(73)側に引き寄せられる。
その結果、固定支持部(73)及び可動支持部(75)に配備されている鉗子(120)の指掛かり部(122)(124)が接近し(図1中矢印H)、鉗子(120)の先端が閉じられる。
【0041】
鉗子(120)は、所望の開き具合いで、処置具開閉用モータ(90)を停止させると共に、ブレーキ手段である電磁クラッチ(94)への通電を絶つことにより、その状態を保持することができる。
【0042】
鉗子(120)を回転させる必要がある場合には、処置具回転用モータ(90)を作動させればよい。
【0043】
上記何れのモータ(24)(34)(44)(66)(90)も、エンコーダ(26)(36)(46)(68)(92)により、回転が検知され、制御部(100)にフィードバックすることができるる。
【0044】
上記のように、鉗子(120)の開閉を行なう指掛かり部(122)(124)が、鉗子(120)の軸心から離れた位置にあっても、ロック機構である電磁クラッチ(51)(55)(57)により、保持手段(61)を横アーム部(30)に対して固定することができるから、鉗子(120)を開閉する際に生じる回転モーメントを吸収することができ、臓器や腹壁に負荷がかかることはない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、指掛かり部が軸心に対して片側に偏った位置に形成された既存の鉗子を位置決めし、且つ、鉗子を開閉させる機構を有し、鉗子開閉時に生じる回転モーメントを吸収することのできる手術用マニピュレータとして有用である。
【符号の説明】
【0046】
(10) 手術用マニピュレータ
(20) 縦アーム部
(21) 第1縦アーム部
(22) 第2縦アーム部
(30) 横アーム部
(32) 第1横アーム部
(42) 第2横アーム部
(50) 回転台
(60) 支持台
(61) 保持手段
(70) 開閉機構
(120) 鉗子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指掛かり部が軸心に対して片側に偏った位置に形成された鉗子を装着可能な保持手段を具える支持台と、
前記鉗子の指掛かり部を開閉させる開閉機構と、
該支持台を複数の軸回りに回転可能に保持する回転台と、
該回転台を平面方向及び/又は垂直方向に直線及び/又は回転作動可能に支持するアーム部と、
を有する手術用マニピュレータであって、
回転台は、アーム部に対する支持台の各軸回りの回転を固定するロック機構を有することを特徴とする手術用マニピュレータ。
【請求項2】
ロック機構は、電磁ブレーキ又は電磁クラッチである請求項1に記載の手術用マニピュレータ。
【請求項3】
開閉機構は、鉗子の一方の指掛かり部を固定する固定支持部と、鉗子の他方の指掛かり部を支持し、指掛かり部を開閉方向にスライド可能な可動支持部と、を有する請求項1又は請求項2に記載の手術用マニピュレータ。
【請求項4】
可動支持部は、パンダグラフ機構により指掛かり部を開閉方向にスライドさせる請求項3に記載の手術用マニピュレータ。
【請求項5】
支持台には、無負荷の状態で、回転台に対する保持手段の姿勢を一定に保持するバランサを具える請求項1乃至請求項4の何れかに記載の手術用マニピュレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−252837(P2010−252837A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102702(P2009−102702)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(503420833)学校法人常翔学園 (62)
【Fターム(参考)】