説明

抗アクネ剤としての多価不飽和脂肪酸およびジオールエステル

本発明は、下記式(I)(式中、nは1〜15の整数であり、mは0、1、2、または3であり、Rは、オメガ3およびオメガ6の中から選択される多価不飽和脂肪酸の炭化水素鎖である)で表される化合物、ならびにそれを含有する医薬組成物または化粧料組成物、それを製造し、使用するため、特にアクネおよび脂漏性皮膚炎の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、アルカンジオールと、多価不飽和脂肪酸、より詳細にはオメガ−3およびオメガ−6脂肪酸とのエステル、ならびにそれを含有する医薬組成物および化粧料組成物、それを製造するための方法および、特にアクネまたは脂漏性皮膚炎を治療するためのその使用に関する。
【0002】
背景技術
アルカンジオールは化粧料または農業食品などの多くの分野において使用されている化合物である。アルカンジオールの静菌性から、防腐剤としての使用を特に挙げることができる。それ故に、アルカンジオールは、真菌および細菌の定着を抑制し、多くの化粧料または農業食品の保護を促すための手段となる(Faergemann J, Fredriksson T. Sabouraudia 1980; 18, 287-293)。これらのジオールは広範囲の活性を有し、真菌およびグラム陽性菌の種に対して特に効果がある(Harb NA, Toama MA. Drug Cosmet Ind: 1976, 118, 40)。さらに、微生物には獲得耐性がほとんどないことから、アルカンジオールは、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する、抗耐性戦略の開発において重要な手段となり得る(Faergemann J, Hedner T, Larsson P: 2005, 85, 203-205; WO2004/112765号公報)。最後に、アルカンジオールの耐性が非常に優れていることから、アルカンジオールは頻繁に数パーセントを超える用量で使用することができる。
【0003】
特に、1,2−アルカンジオールは静菌活性を有し、防腐剤として(日本国特許第51091327号公報)または、微生物成分が病因において重要な役割を果たしているアクネなどの病状の治療において(米国特許第6123953号公報)広く使用されている。1,2−アルカンジオールの他の用途も記載されており、例えば、1,2−アルカンジオールの殺菌効果(米国特許第5516510号公報、WO2003/000220号公報)または抗真菌効果(WO2003/069994号公報)から体臭に対する保護特性などが記載されている。同様に、相乗的な抗微生物効果をもたらす1,2−アルカンジオールと他の化合物との組合せも記載されている。例えば、これに関連して、体臭の原因である微生物(米国特許第2005/228032号公報)またはアクネ病変の発生に関与する微生物(米国特許第2007/265352号公報、EP1598064号公報)を抑制するための組合せが主張されている。
【0004】
多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、2種類に分けられる(オメガ−3(ω−3)およびオメガ6(ω−6))。PUFAは代謝効果に加えて、細胞内タンパク質をコードする遺伝子の発現を改変することができる。PUFAのかかる遺伝子効果は、PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)と呼ばれる核内受容体を介して行われるように思われる。PPARは核内ステロイドホルモン受容体のファミリーに属する。PPARは、レチノイン酸のレチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成し、遺伝子発現を変調する。このように、ω−3 PUFAは、NF−κB経路の主要な阻害剤であるIκBαの発現誘導を介してNF−κB活性化経路を阻害することにより炎症応答の負の調節因子であろう(Ren J and Chung SH. J Agric Food Chem. 2007 55: 5073-80)。さらに、ω−3 PUFAは、ドコサヘキサエン酸およびエイコサペンタエン酸の合成のためにアラキドン酸の合成に対する阻害作用を有する(Calder PC. Lipids 2001; 36, 1007-1024)。
【0005】
アクネ中、毛漏斗内の過剰の皮脂は、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(P.アクネス)の定着に有利な環境である。そのため、毛包脂腺管のP.アクネス定着の程度と、微小面皰の出現との間に相関関係を確立することができる。さらに、アクネを有する対象では健康な対象と比べてこの定着がより顕著であることが示されている(Brown S, Shalita A. Acne vulgaris. Lancet 1998; 351: 1871-6)。
【0006】
P.アクネスは、自然免疫系の受容体を介して、IL−8などのNF−κB依存性炎症誘発性サイトカインの産生を誘導する。これらのメディエーターは次に、特に多核好中球の炎症部位への遊走に影響を及ぼし、そこでの多核好中球の目的は細菌を死滅させることである。この炎症応答は通常であり、感染した組織における病原体の排除に必要である。しかしながら、過剰の制御されない活性化によって炎症性アクネ病変がもたらされる。例えば、IL−8レベルが、炎症性アクネ病変中に遊走した好中球の数と相関することが示されている(Abd El AII HS et al. Diagn. Pathol. 2007; 2: 4)。
【0007】
アクネ患者における細菌定着は、ほとんどの場合、炎症性アクネ病変の出現に関連し、例えば、高度に定着した毛包管内ではアクネのない対象の低度に定着した毛包管と比べて多数の多核好中球およびより高いレベルのIL−8が見られる。これらの炎症性マーカーのレベルは細菌量と相関するように思われる。しかし、定着の原因や病変発生に至る一連の工程などの多くの問題が未解決のままである。いずれにしても、前記疾患の進行における因子としての細菌定着の役割は立証されている。
【0008】
軽症〜中等度のアクネまたは炎症性アクネに対する現在の治療は、特にP.アクネスの定着に対して作用する抗菌活性剤を抗炎症薬と組み合わせた局所適用である(Shalita A., J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol. 2001, 15: 43)。
【0009】
治療は、一般に、ある特定数の炎症性アクネ病変の出現後に開始される。
【発明の概要】
【0010】
抗アクネ療法の主要な課題の一つは、炎症性アクネ病変の発生に対して可能な限り早く(すなわち、初期定着の時点で)始められる、適合した治療(すなわち、アクネの重篤度に釣り合った治療)を見出すことである。
【0011】
そのため、本発明者らは驚くべきことに、アルカンジオールと、多価不飽和脂肪酸、より詳細にはオメガ−3またはオメガ−6多価不飽和脂肪酸とのエステルが、毛包管内でのP.アクネスの初期定着の時点で抗菌作用と抗炎症作用を有し、この作用がさらにその定着に比例することを見いだした。
【0012】
実際には、アルカンジオールおよびPUFAエステルは細菌(P.アクネス)のリパーゼにより特異的に認識され切断されるため、エステル結合の切断によって、相補的な活性を有する二つの活性剤、すなわち、P.アクネスの定着を抑制する能力のある抗菌性ジオールと、好中球の動員を阻止しその結果アクネに特徴的な炎症性カスケードを遮断する抗炎症性PUFAとの放出が可能になることが見いだされた。従って、これらの二つの活性剤の放出によって初期定着の時点で適した応答(すなわち、P.アクネスの定着に比例する応答)が誘導され、その結果炎症性アクネ病変の出現に関与するこの病状の発生が阻止される。さらに、P.アクネス菌はアクネ病変のない対象に存在するため、これらのエステルは、面皰(comedo)発生の時点で作用することにより、そしてアクネに特徴的な炎症性カスケードを阻害することによりアクネ病変の悪化を防ぐことも可能にする。
【0013】
かかるエステルは文献においてすでに記載されている(WO98/18751号公報、 Sugiura et al., J. Biol. Chem. 1999, 274 (5), 2794-2801)が、それらの生物学的特性については記載されていない。
【0014】
よって、本発明は、下記一般式(I)で表される化合物に関する:
【化1】

(式中:
nは1〜15、好ましくは1〜10の整数であり、
mは0、1、2、または3であり、および
Rは、オメガ−3多価不飽和脂肪酸およびオメガ−6多価不飽和脂肪酸から選択される多価不飽和脂肪酸の炭化水素鎖である)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】炎症性アクネ病変におけるP.アクネスリパーゼ(33kDa)の検出(Mはサイズマーカーに対応し、Aは炎症性アクネ病変に対応し、Bは炎症のない面皰に対応する)。
【図2】2時間のインキュベーション後の組換えP.アクネスリパーゼによる本発明のエステルの加水分解の研究。薄灰色の縦棒は、α−リノレン酸3−ヒドロキシブチルを用いて得られた結果を表し、濃灰色の縦棒は、α−リノレン酸2−ヒドロキシペンチルを用いて得られた結果を表し、黒色の縦棒は、α−リノレン酸2−ヒドロキシオクチルを用いて得られた結果を表し、白色縦棒は、α−リノレン酸3−ヒドロキシノニルを用いて得られた結果を表し、斜線入りの縦棒は、トリリノレン酸グリセリルを用いて得られた結果を表す。
【図3】PMA/A23187(炎症誘発剤)により刺激を受けたヒトHaCaTケラチノサイトによるインターロイキン8の放出に対するPUFAの活性。
【図4A】PMA/A23187により誘導された炎症応答中のエイコサノイド(CYCLO:シクロオキシゲナーゼ代謝産物、LPIOX:リポキシゲナーゼ代謝産物、AA:アラキドン酸)の産生に対するPUFAの効果。白色の縦棒は対照を表し(PUFAを含まない反応培地)、薄灰色の縦棒は2.3μg/ml PUFAの活性に対応し、濃灰色の縦棒は11.5μg/ml PUFAの活性に対応し、黒色の縦棒は23μg/ml PUFAの活性に対応する。図4Aはα−リノレン酸に対応する。
【図4B】PMA/A23187により誘導された炎症応答中のエイコサノイド(CYCLO:シクロオキシゲナーゼ代謝産物、LPIOX:リポキシゲナーゼ代謝産物、AA:アラキドン酸)の産生に対するPUFAの効果。白色の縦棒は対照を表し(PUFAを含まない反応培地)、薄灰色の縦棒は2.3μg/ml PUFAの活性に対応し、濃灰色の縦棒は11.5μg/ml PUFAの活性に対応し、黒色の縦棒は23μg/ml PUFAの活性に対応する。図4Bはステアリドン酸に対応する。
【図4C】PMA/A23187により誘導された炎症応答中のエイコサノイド(CYCLO:シクロオキシゲナーゼ代謝産物、LPIOX:リポキシゲナーゼ代謝産物、AA:アラキドン酸)の産生に対するPUFAの効果。白色の縦棒は対照を表し(PUFAを含まない反応培地)、薄灰色の縦棒は2.3μg/ml PUFAの活性に対応し、濃灰色の縦棒は11.5μg/ml PUFAの活性に対応し、黒色の縦棒は23μg/ml PUFAの活性に対応する。図4Cはリノール酸に対応する。
【発明の具体的説明】
【0016】
本発明に関して「多価不飽和脂肪酸」とは、10〜28個、好ましくは16〜24個、より好ましくは18〜22個の炭素原子(カルボン酸官能基の炭素原子を含む)を含み、少なくとも2つ、好ましくは2〜6つのC=C二重結合を含み、ここで、前記二重結合がシス型配置を好ましくは有する直鎖カルボン酸(R1COH)を意味する。
【0017】
本発明に関して「多価不飽和脂肪酸の炭化水素鎖」とは、多価不飽和脂肪酸(R1COH)の酸官能基と連結された炭化水素鎖(R1)を意味する。よって、R1は、9〜27個、好ましくは15〜23個、より好ましくは17〜21個の炭素原子を含み、少なくとも二つ、好ましくは2〜6つのC=C二重結合を含み、ここで、前記二重結合がシス型配置を好ましくは有する直鎖炭化水素鎖を表す。従って、下記式:
【化2】

で表されるリノール酸の場合、考えられる炭化水素鎖は下記鎖である:
【化3】

【0018】
本発明に関して「オメガ−3脂肪酸」とは、鎖の最初の二重結合が、カルボン酸官能基と反対の末端から数えて3番目の炭素−炭素結合に相当する多価不飽和脂肪酸、例えば、上記のものなどを意味し、α−リノレン酸の場合には以下に例示する通りである。
【化4】

【0019】
前記オメガ−3脂肪酸は、特にα−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、テトラコサペンタエン酸、およびテトラコサヘキサエン酸であってよく、好ましくは抗炎症性を有する、α−リノレン酸またはステアリドン酸である。
【0020】
本発明に関して「オメガ−6脂肪酸」とは、鎖の最初の二重結合が、カルボン酸官能基と反対の末端から数えて6番目の炭素−炭素結合に相当する多価不飽和脂肪酸、例えば、上記のものなどを意味し、リノール酸の場合には以下に例示する通りである。
【化5】

【0021】
前記オメガ−6脂肪酸は、特にリノール酸、γ−リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、アドレン酸およびカレンド酸であってよく、好ましくは皮脂抑制性を有するリノール酸である。
【0022】
特に、nは1、2、3、4、または5、好ましくは5であってよい。有利には、n≧3、好ましくはn≧5である。
有利には、mは0または1である。
有利には、n+m≧3、好ましくはn+m≧5である。
【0023】
有利には、前記炭化水素鎖は、α−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、テトラコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、アドレン酸、およびカレンド酸から選択される多価不飽和脂肪酸由来である。好ましくは、前記多価不飽和脂肪酸は、α−リノレン酸、ステアリドン酸、およびリノール酸から、より好ましくはα−リノレン酸およびリノール酸から選択される。
【0024】
特に、本発明の化合物は、下記分子から選択してよい:
【化6】

【0025】
本発明はさらに、特にアクネまたは脂漏性皮膚炎の治療のための、薬物として用いるための上記の式(I)で表される化合物にも関する。
【0026】
本発明はさらに、特にアクネまたは脂漏性皮膚炎の治療のための、薬物の製造のための上記の式(I)で表される化合物の使用にも関する。
【0027】
本発明はさらに、アクネまたは脂漏性皮膚炎の治療方法であって、それを必要とするヒトに上記の式(I)で表される化合物の有効量を投与することを含む方法にも関する。
【0028】
本発明はさらに、特に経皮投与に適した、少なくとも一種の上記式(I)で表される化合物と、少なくとも一種の薬学上または化粧料上許容される賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物または化粧料組成物にも関する。
【0029】
本発明において、「薬学上または化粧料上許容される」とは、医薬組成物または化粧料組成物の製造において有用であり、一般に安全で毒性がなく、生物学的にもその他の場合においても望ましくないということはなく、特に局所適用による、治療または化粧用途に許容されるということを意味する。
【0030】
本発明による医薬組成物または化粧料組成物は、局所適用に一般的に使用される形態、すなわち、特にローション、フォーム、ゲル、分散液、エマルジョン、シャンプー、スプレー、美容液、マスク、ボディミルク、またはクリーム(特に有効成分の特性および接近性を向上させるために皮膚浸透を可能にする賦形剤を含む)により提供することができる。有利には、前記組成物はクリームの形態である。
【0031】
前記組成物は、一般に、本発明による一種以上の化合物に加えて、一般には水ベースまたは溶媒ベースの(例えば、アルコール、エーテル、またはグリコールをベースとする)生理学上許容される媒質を含有する。前記組成物はまた、界面活性剤、金属イオン封鎖剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、微量元素、精油、香料、着色剤、マティファイアー、ケミカルフィルターまたはミネラルフィルター、保湿剤または温泉水なども含有することができる。
【0032】
前記組成物は、相補的な効果あるいは相乗効果をもたらす他の有効成分もさらに含有することができる。
【0033】
有利には、本発明による組成物は、組成物の総重量に対して0.01重量%〜10重量%、好ましくは0.1重量%〜1重量%の、一種以上の式(I)で表される化合物を含む。
【0034】
前記組成物は、より詳細には、アクネまたは脂漏性皮膚炎の治療のためのものである。
【0035】
本発明はさらに、アクネまたは脂漏性皮膚炎の化粧処置のための方法であって、上記のような化粧料組成物を皮膚上へ塗布することを含む方法に関する。
【0036】
本発明はさらに、上記の式(I)で表される化合物の製造方法であって、カルボン酸官能基が遊離型または活性化型である、オメガ−3脂肪酸およびオメガ−6脂肪酸から選択される多価不飽和脂肪酸と、下記式(II)で表されるのジオールとをカップリングすることによる方法に関する:
【化7】

(式中、nは1〜15、好ましくは1〜10の整数であり、mは0、1、2、または3である)。
【0037】
特に、nは1、2、3、4、または5、好ましくは5であってよい。有利には、n≧3、好ましくはn≧5である。
有利には、mは0または1である。
有利には、n+m≧3、好ましくはn+m≧5である。
【0038】
本発明に関して「遊離型」とは、PUFAのカルボン酸官能基が保護されていないためにその官能基がCOH基であることを意味する。よって、PUFAは上記定義された形態R1COHのものである。
【0039】
本発明に関して「活性化型」とは、求核試薬に対してより高い活性を示すように修飾されたカルボン酸官能基を意味する。前記活性化型は当業者には周知であり、特に酸塩化物(COCl)であり得る。よって、酸塩化物の形の活性化PUFAは、式R1COClを有する。
【0040】
本発明の第1の特定の実施形態によれば、前記多価不飽和脂肪酸はその遊離酸形で用いられる。この場合、前記カップリング反応は、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアゾール(HOOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、またはN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo−NHS)などのカップリング助剤と場合により組み合わせてよい、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、2−H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート(TBTU)またはO−(7−アゾベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3、3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)などのカップリング剤の存在下で行われる。有利には、前記カップリングは、カルボジイミド(特にDIC、DCC、またはEDC)およびジメチルアミノピリジンの存在下で行われる。好ましくは、前記カップリングは、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩またはジイソプロピルカルボジイミドおよびジメチルアミノピリジンの存在下で行われる。
【0041】
本発明の第2の特定の実施形態によれば、前記多価不飽和脂肪酸はその活性化された形で、より詳細には酸塩化物の形で用いられる。この場合、前記カップリング反応は、有利には、ピリジンおよびジメチルアミノピリジンの存在下で行われる。
【0042】
本発明は、次の限定されない実施例に照らしてよりよく理解されるであろう。
【実施例】
【0043】
用いられる略語:
APCI 大気圧化学イオン化法
MIC 最小発育阻止濃度
DPM 壊変毎分
ESI エレクトロスプレーイオン化法
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
NMR 核磁気共鳴
Rf 溶媒フロントに対する比率
MS 質量スペクトル
CFU コロニー形成単位
【0044】
実施例1:本発明の化合物の合成
1.1.一般的方法A:不飽和脂肪酸から
前記不飽和脂肪酸をN循環下で20ml無水CHClに溶解する。次いで、カルボジイミド(カップリング剤)(1.1当量)およびジメチルアミノピリジン(0.5当量)を直接加える。その媒質を室温で5〜10分間攪拌した後、前記ジオール(5当量)を加える。その媒質を、光を避けてN下で18時間激しく攪拌する。その後、その有機相をCHClで抽出して、飽和NaCl溶液で洗浄し、MgSOで乾燥させ、濾過し、濃縮する。
【0045】
その粗生成物は黄色の油であり、この油を、シリカゲル(φ:22×3.5cm)と溶媒としてCHClを使用するオープンカラムクロマトグラフィーにより精製する。
【0046】
方法Aに従ってカップリング剤としてジイソプロピルカルボジイミドを用い、以下の三つの生成物を調製した。
【0047】
(9Z,12Z,15Z)−オクタデカ−9,12,15−トリエン酸3−ヒドロキシブチル
(C2238)(α−リノレン酸3−ヒドロキシブチル)
【化8】

精製条件:溶出勾配:CHCl/AcOEt:95/5、その後CHCl/AcOEt:9/1
半透明の油(収率:69%)
Rf (CHCl3/AcOEt: 9/1) =0.5
NMR (1H, CDCl3)δ(ppm) : 0.98 (t, 3H, CH3 (a)); 1.22 (d,3H, CH3 (v)); 1.31 (m, 8H, CH2 (o, n, m, i)) ; 1.6 (m, 2H, CH2 (p)); 1.8 (m, 2H, CH2 (t)) ; 2.1 (m, 4H, CH2 (2K, b)) ; 2.3 (t,2H, CH2 (q)); 2.8 (m, 4H, CH2 (h, e)) ; 3.85 (m, 1H, CH (u)) ;4.1-4.3 (m, 2H, CH2 (s)) ; 5.4 (m, 6H, CH (c, d, f, g, i, j)).
NMR (13C, CDCl3)δ(ppm): 14.24 (CH3 (a)); 20.46 (CH2 (b)); 23.42 (CH3 (v)); 25.01 (CH2 (p)) ; 25.5 (CH2 (e)) ; 25.59 (CH2 (h)); 27.16 (CH2 (k)); 29.06 (CH2 (o, n)) ; 29.07(CH2 (m)); 29.53 (CH2 (D) ; 34.3 (CH2 (q)) ; 38.1 (CH2 (t)) ;61.51 (CH2 (s)); 64.89 (CH (u)) ; 127.08 (CH (c)) ; 127.6 (CH (j)); 128.22 (CH (f)) ; 128.26 (CH (g)) ; 130.22 (CH (i); 131.93 (CH (d)); 174.2 (C=0 (r)).
MS: ESI+ [M+H]+=351.2 (100%); [M+Na]+=373.3 (48%)
APCI+ [M+H]+=351.2 (測定値M=350.2)
【0048】
(9Z,12Z,15Z)−オクタデカ−9,12,15−トリエン酸2−ヒドロキシペンチル
(C2340)(α−リノレン酸2−ヒドロキシペンチル)
【化9】

精製条件:CHCl/AcOEt:98/2
半透明の油(収率:45%)
Rf (CHCl3/AcOEt: 97/3)=0.58
NMR (1H, CDCl3)δ(ppm) : 1(m, 6H, CH3 (w, a)); 1.25(m,10H, CH2 (o, n, m, i, v)); 1.5 (m, 4H, CH2 (p, u)); 1.65 (m,4H, CH2 (b,k)); 2.1 (m, 2H, CH2 (e)) ; 2.4 (t, 2H, CH2 (q)) ;2.8 (m, 2H, CH2 (h)) ; 3.9 (m, 1H, CH (t)) ; 4.1-4.3 (m, 2H, CH2 (s)); 5.4 (m, 6H, CH (d, d, f, g, i, j)).
NMR (13C, CDCl3)δ(ppm): 14.2 (CH3 (a, w)) ; 18.6 (CH2 (v,b)); 25.5 (CH2 (p)); 25.5 (CH2 (p)) ; 27.16 (CH2 (e)) ; 28.95(CH2 (h)); 29.1 (CH2 (k)); 29.4 (CH2 (o, n)) ; 29.5 (CH2 (m)) ;34.17 (CH2 (q)); 35.41 (CH2 (u)) ; 68.53 (CH (t) ; 69.76 (CH2 (s)); 128.22 (CH (c)) ; 129.58 (CH (j)); 130.22 (CH (f)CH (g)); 130.81 (CH (i); 131.93 (CH (d)) ; 174.05 (C=0 (r)).
MS: APCI+ [M+H]+=365.1 (測定値M=364.3)
【0049】
(9Z,12Z,15Z)−オクタデカ−9,12,15−トリエン酸3−ヒドロキシノニル
(C2748)(α−リノレン酸3−ヒドロキシノニル)
【化10】

精製条件:CHCl/AcOEt:96/4
半透明の油(収率 73%)
Rf (CHCl3/AcOEt: 97/3)=0.64
NMR (1H, CDCl3)δ(ppm): 0.95 (m, 3H, CH3 (aa)) ; 1 (m, 3H, CH3 (a)); 1.4 (m, 16H, CH2 (o, n, m, i, w, x, y, z)) ; 1.5 (m, 2H, CH2 (v)); 1.6-1.8 (m, 4H, CH2 (p, t)) ; 2 (m, 4H, CH2 (k, b)) ;2.3 (t, 2H, CH2 (q)) ; 2.8 (m, 4H, CH2 (h, e)) ; 3.7 (m, 1H,CH (u)); 4.1-4.3 (m, 2H, CH2 (s)); 5.4 (m, 6H, CH (d, d, f, g, i, j)).
NMR (13C, CDCl3)δ(ppm): 14 (CH3 (a, aa)) ; 20.4 (CH2 (b)) ;22.5 (CH2 (z)); 25.09 (CH2 (p)) ; 25.26 (CH2 (w)) ; 25.58 (CH2 (e,h)); 27.17 (CH2 (k)) ; 29.06-29.3 (CH2 (x, o, n, m, i)) ;31.7 (CH2 (y)); 34.5 (CH2 (q)) ; 37.45 (CH2 (t)) ; 37.58 (CH2 (v); 61.59 (CH2 (s)); 68.72 (CH (u)) ; 127.08 (CH (c)) ;127.71 (CH (j)); 128.21 (CH (f)); 128.26 (CH (g)) ; 130.22(CH (i)); 131.94 (CH (d)); 174.9 (C=0 (r)) .
MS: ESI+ [M+H]+=421.1 (100%); [M+Na]+ =443.1 (92%)
【0050】
方法Aに従ってカップリング剤として、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩を用い、以下の生成物を調製した。
【0051】
(9Z.12Z.15Z)−オクタデカ−9,12,15−トリエン酸2−ヒドロキシオクチル
(C2646)(α−リノレン酸2−ヒドロキシオクチル)
【化11】

精製条件:CHCl/AcOEt:98/2
半透明の油(収率 37%)
Rf (CHCl3/AcOEt: 98/2)=0.72
NMR (1H, CDCl3)δ(ppm): 0.88 (m, 3H, CH3 (z)); 0.97 (t,3H, CH3 (a)); 1.31 (m, 16H, CH2 (o, n, m, i, v, w, x, y)); 1.47(m, 2H, CH2 (u)); 1.65 (m, 2H, CH2 (p)) ; 2.02 (m, 4H, CH2 (b, k)); 2.4 (t, 2H, CH2 (q)); 2.8 (m, 4H, CH2 (e, h)) ; 3.9 (m, 1H, CH (t)); 4.1-4.3 (m, 2H, CH2 (s)) ; 5.4 (m, 6H, CH (c, d, f, g, i, j) ).
NMR (13C, CDCl3)δ(ppm): 14.2 (CH3 (a, w)) ; 18.6 (CH2 (v,b)); 22.7 (CH2 (y)); 25.5 (CH2 (p)) ; 25.5 (CH2 (p)) ; 27.16 (CH2 (e)); 28.9 (CH2 (h)); 29.1 (CH2 (k)) ; 29.4 (CH2(o,n)); 29.5 (CH2 (m)); 29.9 (CH2 (w)) ; 31.7 (CH2 (x)); 34.17 (CH2 (q)); 35.41 (CH2 (u)); 68.53 (CH (t) ; 69.76 (CH2 (s)) ; 128.22 (CH (c)); 129.58 (CH (j)); 130.22 (CH (f) CH (g)) ; 130.81 (CH (i); 131.93 (CH (d) ) ; 174.05 (C=0 (r)).
MS: APCI+ [M+H]+=407.3 (測定値M=406.34)
【0052】
1.2.一般的方法B:多価不飽和脂肪酸塩化物から
塩化リノレオイル(6.7×.10−3mol)およびジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.1当量)を窒素循環下でピリジン(20ml)中のジオール(5当量)の溶液に加える。室温で光を避けてN下で18時間激しく攪拌した後、その反応媒質を乾式還元する。
【0053】
次いで、その有機相をAcOEtで抽出して、HOおよびNH4Clで洗浄し、MgSOで乾燥させ、濾過し、濃縮する。
【0054】
その粗生成物は褐色の油であり、この油を、シリカゲル(φ:22×3.5cm)と溶媒としてCHClを使用するオープンカラムクロマトグラフィーにより精製する。
【0055】
方法Bに従ってジオールとしてペンチレングリコールを用い、以下の生成物を調製した。
【0056】
(9Z,12Z)−オクタデカ−9,12−ジエン酸2−ヒドロキシペンチル
(C2342)(リノール酸2−ヒドロキシペンチル)
【化12】

精製条件:CHCl/AcOEt:98/2
半透明の油
Rf (CHCl3/AcOEt: 98/2)=0.54
NMR (1H, CDCl3)δ(ppm): 0.9 (m, 6H, CH3 (a, w)) 1.3 (m, 16H, CH2 (o, n, m, i, b, c, d, v)) ; 1.45 (m, 2H, CH2 (u)); 1.65 (m, 2H, CH2 (p)) ; 2 (m, 4H, CH2 (k, e)) ; 2.3 (t, 2H, CH2 (q)); 2.8 (m, 2H, CH2 (h)) ; 3.8 (m, 1H, CH (t) ; 4.1-4.3 (m, 2H, CH2 (s)); 5.4 (m, 4H, CH (f,g,i,j)).
NMR (13C, CDCl3)δ(ppm): 14.2 (CH3 (a, w) ; 18.6 (CH2 (v)); 22.6 (CH2 (b)); 25 (CH2 (p)) ; 25.6 (CH2 (h)) ; 27.2 (CH2 (e, h)); 29 (CH2 (o)); 29.1 (CH2 (n)) ; 29.3 (CH2 (d)) ; 29.4 (CH2 (m)); 29.6 (CH2 (l) ; 31.4 (CH2 (c)) ; 34.1 (CH2 (q)); 36.2 (CH2 (u)); 69 (CH2 (s)) ; 70 (CH (t)) ; 127.78 (CH (g)); 127.91 (CH (i); 129.94 (CH (f)) ; 130.22 (CH (j)); 174.05 (C=0 (r)).
MS: ESI+ [M+H]+=367.3 (100%); [M+Na]+=389.3 (80%)
【0057】
実施例2:本発明の組成物
以下の組成物を有する、クリームの形態の、本発明による処方物(量は、組成物の総重量に対する重量パーセントで示す):
【表1】

【0058】
実施例3:生物学的試験の結果
3.1.本発明の化合物に対するP.アクネスリパーゼの作用の研究
【0059】
第1に、ウエスタンブロットにより、アクネを有する対象の炎症性病変では健康な対象から採取したサンプルと比べてP.アクネスリパーゼが強く誘導されることが示された(図1参照)。
【0060】
第2に、本発明の化合物に対する組換えP.アクネスリパーゼの作用を以下に記載するように研究した。
【0061】
酵素反応は、基質をTRISバッファー(試験開始前に室温で1時間放置したもの)中で所望の濃度(500μM)でインキュベートすることにより行い、酵素を加え37℃でインキュベートすることにより反応を開始した。試験は2mlアンバーガラスバイアル中で行う。対照は、バッファー中での基質の起こり得る自然加水分解を評価するために酵素を加えずに行う。反応中の望ましい各時点において10μlのサンプルを採取して、反応物を急冷凍結する。放出されたリノレン酸はさらにアントリルジアゾメタン(ADAM)を用いて誘導体化する。このADAMは前記脂肪酸と蛍光複合体を形成する。生じた生成物をHPLCにより分離して、同じ条件下で誘導体化した市販のリノレン酸の標準範囲を用いて定量する。
【0062】
図2に示されるように、α−リノレン酸の生成が観察されることから本発明の化合物はP.アクネスの存在下で加水分解反応を引き起こす。
【0063】
このように、P.アクネスによる本発明の化合物の加水分解によりジオールとPUFAの両方が放出される。よって、リパーゼの発現は、本発明の化合物の切断を観察するため、そしてその結果として治療効果を得るための必須条件である。さらに、P.アクネスリパーゼはアクネを有する対象において本質的に存在するため、図1に示されるように、本発明の化合物は、各人に適した応答を可能にするはずである。
【0064】
3.2.本発明の化合物の加水分解後に得られるジオールの抗菌活性の研究
前記ジオールは、以下の一般式(II)で表されるものである:
【化13】

(式中、nは0〜15の整数であり、mは0、1、2、または3である)。
【0065】
試験は、8種の微生物菌株を用い、以下に記載する希釈法を用いで行った。
最小発育阻止濃度(MIC)は、液体培地において測微法を用いて決定する。培養培地(Trypcase Soy Broth)での試験生成物の連続1/2希釈は96ウェルマイクロプレート中で行い最終量0.1mlにする。それらのウェルに、およそ1×10CFU/mlに力価測定された細菌懸濁液0.01mlを接種する。それらのマイクロプレートを最適増殖条件でインキュベートし、MICを視覚的に読み取る。
【0066】
以下の表1は、様々なジオールを用いて得られた結果を示している。「BS」と表示した縦列は静菌活性を表し、「BC」と表示した縦列はジオールの殺菌活性を表している(1%は濃度10mg/mlに相当する)。
【表2】

【0067】
観察された抗菌効果は文献と一致し、すなわち、その活性はジオール鎖の長さと関連している(Frankenfeld JW, Mohan RR, Squibb RL. J Agric Food Chem. 1975, 23: 418-425)。従って、1,3−ノナンジオールと1,2−オクタンジオールは、6.25mg/ml〜0.78mg/mlの範囲の濃度で静菌性であり殺菌性である(グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌)。注目すべきは、ノナン誘導体がP.アクネス株に対して最も著しい活性を有すると思われることである。特に静菌効果および殺菌効果がそれぞれ1.56mg/mlおよび3.12mg/mlにおいて認められた。
【0068】
3.3.1,2−オクタンジオールの抗菌活性の速度論の研究
試験溶液と細菌懸濁液との接触後に残存するコロニー形成単位(CFU)を計数することにより、細菌の致死率を経時的に評価することによって1,2−オクタンジオールの抗菌活性の速度論を研究した。
【0069】
使用した細菌株は、黄色ブドウ球菌 ATCC6538およびプロピオニバクテリウム・アクネス ATCC6919である。黄色ブドウ球菌 ATCC6538に使用した培養培地はTrypcase Soy Agarであるのに対し、プロピオニバクテリウム・アクネス ATCC6919に使用した培養培地はシェドラー寒天培地である。1%および0.5%1,2−オクタンジオールを含有する保存溶液を、1%ポリソルベート20(qsp WFI)で即時調製して、0.1N NaOH溶液を用いてpH7に調整する。
【0070】
各保存溶液の5ml量に、およそ1×10CFU/mlに力価測定された細菌懸濁液50μlを接種する。
【0071】
各接触時間(検証した接触時間:5分、15分、30分、および60分)の経過後、9ml Trypcase Soy Brothおよび10%ポリソルベート80により中和した1mlアリコートを調べることにより残存する細菌を計数する。
【0072】
計数は、1mlの中和混合物と4つの1/10連続希釈物を対応する寒天プレートに加えることにより行う。
【0073】
寒天プレートは、黄色ブドウ球菌の場合には好気性雰囲気中でP.アクネスの場合には嫌気性雰囲気中で(Generbag anaer、Biomerieux)36℃±1℃で72時間インキュベートした後、CFUを計数する。
【0074】
以下の表2は得られた結果を示す。
【表3】

【0075】
この場合Rは「減少量」を意味する。表は試験溶液と細菌懸濁液との接触後の接種細菌数と残存細菌数との比率を示している。
【0076】
オクタンジオールの殺菌作用を二つの細菌種(P.アクネス、黄色ブドウ球菌)について次の2種類の濃度0.5%および1%で検討した。生理的pHで最低濃度(0.5%)において、特にP.アクネス集団で99.9%より大きな減少が1時間の接触後に観察される。
【0077】
3.4.本発明の化合物の加水分解後に得られるPUFAの抗炎症活性の研究
PUFAの抗炎症作用を、PMA/A23187により刺激を受けたヒトケラチノサイト(HaCaT)において試験した。得られた結果を図3、図4A、図4B、および図4Cに示す。
【0078】
PMA/A23187によって引き起こされる炎症過程中にこれらのPUFAによってもたらされる変化を、エイコサノイドおよび炎症性サイトカインであるインターロイキン8の産生において評価する。
【0079】
IL−8分泌の研究(図3):
HaCaT細胞を96ウェルプレートにおいてPUFAの存在下で24時間インキュベートし、洗い流した後、PMA/A23187により刺激する。6時間の刺激後に上清を回収し、OptEIA(商標)ELISA kit (BD Pharmingen)を使用してIL8を定量する。
【0080】
アラキドン酸(AA)代謝の研究(図4A、図4B、図4C):
HaCaTケラチノサイトを24ウェルプレートにおいて5%CO雰囲気下、1μCi[H]AAの存在下で18時間インキュベートした。ケラチノサイトの炎症応答を変調するPUFAの能力を検証するために、[H]標識したHaCaT細胞をPUFAで24時間前処理し、洗い流した後、500nM PMAおよび1μM A23187で5時間刺激する。培養培地中のHaCaT細胞により放出された[H]AAおよび代謝産物をカラムクロマトグラフィーにより抽出する。その溶出液をN下で蒸発させる。乾燥残留物をメタノールに溶解し、事前に100℃で1時間活性化した薄層シリカプレート上に置く。その際、展開溶媒は酢酸エチル/水/イソオクタン/酢酸(110:100:50:20、v/v)混合物の有機相である。[H]AAおよび代謝産物(6−ケト−プロスタグランジン F1α、6k−PGF1α、プロスタグランジン(PG) FαE2D、トロンボキサン(TX)B、ロイコトリエン(LT)B、C、D)をBerthold社TLCスキャナーにより確認する。
【0081】
上記のようにして、図3では、PMA/A23187により刺激を受けたHaCaTヒトケラチノサイトによるインターロイキン8(IL−8)の放出に対するある特定のPUFAの活性を示している。刺激を受けたケラチノサイトのIL−8分泌に対する阻害効果は、γ−リノレン酸で、特にα−リノレン酸で明確に示されている。
【0082】
同様に、α−リノレン酸、ステアリドン酸、またはリノール酸などのPUFAとのケラチノサイトのプレインキュベーションによって、アラキドン酸の放出だけでなく炎症性カスケードのシクロオキシゲネーティッド(cyclooxygenated)代謝産物およびリポキシゲネーティッド(lipoxygenated)代謝産物の放出も著しく阻害される(図4A、図4B、および図4C)。
【0083】
このように、得られた結果総てによりω−3またはω−6多価不飽和脂肪酸、特にα−リノレン酸の抗炎症活性が確認される。
【0084】
従って、本発明による化合物は、アクネを治療するために使用することができる。脂漏性皮膚炎の病因パターンはアクネの病因パターンと類似点があるため、本発明の化合物は、脂漏性皮膚炎を治療するためにも使用することができる可能性がある。実際に、この病状に関連した炎症応答の原因である微生物マラセチア属の菌(Malassezia)は頭皮上でリパーゼを分泌する(DeAngelis YM et al. J Invest Dermatol. 2007; 127: 2138-46)が、このリパーゼは二つの活性剤、抗真菌性を有するアルカンジオールと抗炎症性を有するα−リノレン酸などのPUFAを放出するために利用することもできる。さらに、リノール酸などの特定の脂肪酸は、核内PPARα受容体のアクチベーターであり、著しい皮脂抑制効果を発揮する(Downie MM et al. Br J Dermatol. 2004; 151: 766-75)。よって、ジオール−リノール酸複合体(conjugate)は、特にアクネおよび脂漏性皮膚炎などの様々な徴候において脂漏を抑えるために使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物:
【化1】

(式中:
nは1〜15の整数であり、
mは0、1、2、または3であり、および
Rは、オメガ−3多価不飽和脂肪酸およびオメガ−6多価不飽和脂肪酸から選択される多価不飽和脂肪酸の炭化水素鎖である)。
【請求項2】
nが1〜10である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
nが1、2、3、4、または5である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
mが0または1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
多価不飽和脂肪酸が、α−リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、テトラコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、リノール酸、γ−リノレン酸、エイコサジエン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、アドレン酸、およびカレンド酸から選択され、好ましくはα−リノレン酸、ステアリドン酸、またはリノール酸である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
下記分子から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物:
【化2】

【請求項7】
薬物として用いるための、請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)で表される化合物。
【請求項8】
前記薬物がアクネまたは脂漏性皮膚炎の治療のための、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の少なくとも一種の式(I)で表される化合物と、少なくとも一種の薬学上または化粧料上許容される賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物または化粧料組成物。
【請求項10】
組成物が、組成物の総重量に対して0.01重量%〜10重量%、好ましくは0.1重量%〜1重量%の、前一種以上の式(I)で表される化合物を含む、請求項9に記載の医薬組成物または化粧料組成物。
【請求項11】
請求項9または10に記載の化粧料組成物を皮膚上へ塗布することを含む、アクネまたは脂漏性皮膚炎の化粧処置のための方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の式(I)で表される化合物の製造方法であって、カルボン酸官能基が遊離型または活性化型である、オメガ−3脂肪酸およびオメガ−6脂肪酸から選択される多価不飽和脂肪酸と、下記式(II)で表されるのジオールとをカップリングすることによる、方法:
【化3】

(式中、nは1〜15、好ましくは1〜10の整数であり、mは0、1、2、または3、好ましくは0または1である)。
【請求項13】
カップリング反応が、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール、3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール、ジメチルアミノピリジン、またはN−ヒドロキシスルホスクシンイミドからなる群から選択されるカップリング助剤と場合により組み合わせてよい、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩、カルボニルジイミダゾール、2−H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート、またはO−(7−アゾベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファートからなる群から選択されるカップリング剤の存在下で、カルボン酸官能基が遊離型である多価不飽和脂肪酸から行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
カップリング剤が1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩であり、カップリング助剤がジメチルアミノピリジンである、請求項12および13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
カップリング反応が、特にピリジンおよびジメチルアミノピリジンの存在下で、カルボン酸官能基が酸塩化物の形で活性化される多価不飽和脂肪酸から行われる、請求項12に記載の方法。

【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−513380(P2012−513380A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541506(P2011−541506)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067701
【国際公開番号】WO2010/072738
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(500166231)ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク (30)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【Fターム(参考)】