説明

抗菌剤及びそれを含有する皮膚外用剤

【課題】 安全性が高く、配合特性に優れ、かつ強い抗菌活性を有する新規の抗菌剤を提供すること。
【解決手段】 リシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とすることを特徴とする。本発明の抗菌剤は、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗菌対象物の配合成分として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗菌剤に関し、さらには、前記抗菌剤を含有する皮膚外用剤および前記抗菌剤を用いた抗菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中鎖脂肪酸のモノグリセリドや長鎖不飽和脂肪酸のモノグリセリド(以下、これらをまとめて「中・長鎖脂肪酸モノグリセリド」という)のうちには、抗菌活性を有するものが知られており、耐熱性芽胞菌や酵母に対する抗菌目的で使用されている。また、上記中・長鎖脂肪酸モノグリセリドに対して有機酸、ヒノキチオール、安息香酸、サリチル酸、チモール、オイゲノール、ビサボロール等の香料、シグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アミノ酸第4級アンモニウム塩、ポリリジン、エタノール、グリシン、リゾチーム等を併用し、抗菌効果を増強させることが試みられている(特許文献1〜5参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−179211号公報
【特許文献2】特開2003−183105号公報
【特許文献3】特開2003−12411号公報
【特許文献4】特開2002−212021号公報
【特許文献5】特開2001−17137号公報
【特許文献6】特開2000−270821号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した中・長鎖脂肪酸モノグリセリドはある程度の抗菌活性を有しているが、脂溶性のため水やアルコールに対する溶解度が低く、結晶が析出する。このため、好適な添加量で種々の食品、化粧品等に適用するには不適当である。
【0005】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは比較的水に対する溶解度が向上するが、抗菌活性は相対的に低下する。
【0006】
さらに、上記以外の抗菌剤としては、例えば、フェノール系、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ベンズイミダゾール系などの殺菌剤や銀、銅、亜鉛などの金属イオンが知られているが、これらの多くは安全性の面で問題がある。
【0007】
一方、天然系抗菌剤としては、例えば、エタノール、ポリリジン、リゾチーム、プロタミン、ラクトフェリン、グリシン、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、アシタバ抽出エキス、竹抽出エキス、香辛料抽出物が挙げられる。しかしながら、これらの天然系抗菌剤は安全性は高いが、いずれも抗菌活性の強さの点で満足いくものではない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安全性が高く、配合特性に優れ、かつ強い抗菌活性を有する新規の抗菌剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、リシノール酸モノグリセリドとジグリセリンリシノール酸モノエステルが強力な抗菌活性を示し、かつ配合特性にも優れることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 リシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗菌剤、
〔2〕 前記〔1〕記載の抗菌剤を含有する皮膚外用剤、
〔3〕 リシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗菌対象物に配合して、該抗菌対象物の抗菌力を高める方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安全性が高く、配合特性に優れ、かつ強い抗菌活性を有する新規の抗菌剤が提供される。特に、抗菌活性については、ストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)やポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)などの口腔細菌、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、枯草菌(B. subtilis)、セレウス菌(B. cereus)、リステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対して高い抗菌活性を示す。このため、該抗菌剤を例えば、皮膚や粘膜で使用される食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材等の抗菌対象物に配合することで、細菌感染や食中毒を予防し、種々の場面での有効な応用が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の抗菌剤は、リシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする点に特徴がある。リシノール酸モノグリセリドとは、リシノール酸1分子とグリセリン1分子とがエステル結合した化合物であり、ジグリセリンリシノール酸モノエステルとは、リシノール酸1分子とジグリセリン1分子とがエステル結合した化合物である。
【0013】
リシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする場合、抗菌活性を損なわない範囲で、該有効成分以外に炭素数が8〜24の脂肪酸1分子以上とグリセリン、ジグリセリンまたはトリグリセリンなどのグリセリン成分1分子とがエステル結合した他の脂肪酸グリセリンエステルが含有されていてもよい。
【0014】
他の脂肪酸グリセリンエステルを構成する脂肪酸としては、例えば、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ミリストレイン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リシノール酸などが挙げられる。上記の脂肪酸グリセリンエステルが抗菌剤の構成成分として含まれる場合、抗菌剤中のリシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルの含量は、1重量%以上とすることが好ましく、10重量%以上とすることがより好ましい。
【0015】
リシノール酸モノグリセリドは公知の方法で製造することができ、例えば、化学触媒または酵素(リパーゼ)を用いてリシノール酸とグリセリンとをエステル化する方法を挙げることができる。また、ジグリセリンリシノール酸モノエステルは、グリセリンに代えてジグリセリンを用いることにより、リシノール酸モノグリセリドと同様の方法で製造することができる。本発明では、上記の方法のうち、温和な条件で製造できる点で、リパーゼを用いる方法が好適である。
【0016】
触媒として使用されるリパーゼは、グリセリド類を基質として認識するものであれば特に限定されない。例えば、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ、トリグリセリドリパーゼ、クチナーゼ、エステラーゼなどが挙げられる。これらの中でもリパーゼが好ましく、特に脂肪酸トリグリセリドを基質としてほとんど認識せず、脂肪酸モノグリセリドおよび/または脂肪酸ジグリセリドを基質として認識するリパーゼが好ましい。このようなリパーゼとして、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼなどが挙げられる。
【0017】
このようなリパーゼとしては、例えば、ペニシリウム(Penicillium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、バシラス(Bacillus)属、キャンディダ(Candida)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、シュードチマ(Pseudozyme)属などの微生物由来のリパーゼが用いられる。より好ましくはペニシリウム(Penicillium)属、バシラス(Bacillus)属由来のリパーゼである。これらのリパーゼは一般に市販されており、容易に入手可能である。
【0018】
リパーゼは精製(粗精製および部分精製を含む)されたものを用いてもよい。さらに、遊離型のまま使用してもよく、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウムなどの担体に固定化して使用してもよい。
【0019】
エステル化反応に使用されるリパーゼの量は、反応温度、反応時間、圧力(減圧度)などにより適宜決定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは反応混合液1g当たり1単位(U)〜10000Uである。酵素活性の1Uとは、リパーゼの場合、オリーブ油の加水分解において1分間に1μモルの脂肪酸を遊離する酵素量をいう。モノグリセリドリパーゼ、あるいはモノおよびジグリセリドリパーゼの場合は、オレイン酸モノグリセリドの加水分解において、1分間に1μモルのオレイン酸を遊離する酵素量である。
【0020】
エステル化反応に使用されるリシノール酸は、遊離型、金属塩型、およびエステル型のいずれの形態でもよい。本発明においては、エステル化反応が進行しやすい点で、遊離型が好ましい。
【0021】
エステル化反応に使用されるグリセリンまたはジグリセリンの量は特に限定されない。通常、遊離型のリシノール酸1モル量に対して、好ましくは1〜10倍モル量、より好ましくは1.5〜5倍モル量である。
【0022】
本発明では、エステル化反応において反応温度、反応時間、圧力(減圧度)などを適宜調整することにより、リシノール酸とグリセリンを反応原料とする場合は、リシノール酸モノグリセリドを純度よく製造することができ、リシノール酸とジグリセリンを反応原料とする場合は、ジグリセリンリシノール酸モノエステルを純度よく製造することができる。反応温度は好ましくは30〜60℃であり、反応時間は好ましくは30〜60時間であり、圧力は好ましくは2〜30mmHgである。また、リパーゼの活性を維持するため、リシノール酸とグリセリン(またはジグリセリン)の合計量に対して0.3〜3重量%の水を添加することが好ましい。
【0023】
エステル化反応は静置反応でもよいし、各種の撹拌法、振盪法、超音波法、窒素などの吹き込み法、ポンプなどによる循環混合法、弁またはピストンを用いる混合法などにより、あるいはこれらの組み合わせにより、反応液を混合しながら行ってもよい。
【0024】
反応混合液から、リシノール酸モノグリセリド(またはジグリセリンリシノール酸モノエステル)を単離・精製する方法としては、任意の単離・精製法を採用し得る。単離・精製方法としては、例えば、脱酸、水洗、蒸留、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、膜分離など、およびこれらの方法の組み合わせが挙げられる。
【0025】
本発明の抗菌剤は、ストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)やポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)などの口腔細菌、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、枯草菌(B. subtilis)、セレウス菌(B. cereus)、リステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対して高い抗菌活性を示す。
【0026】
本発明の抗菌剤は、上記種々の細菌類に対して高い抗菌活性を示す。このため、例えば、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材などを抗菌対象物として本発明の抗菌剤を配合すれば、該抗菌対象物の抗菌力を高めることができる。抗菌対象物中の抗菌剤の含量は、通常0.0001〜50重量%であり、好ましくは0.001〜10重量%である。
【0027】
上記の抗菌対象物中に本発明の抗菌剤を配合する場合、他の抗菌剤の1種または2種以上を併用してもよい。併用できる他の抗菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、クロロヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、オフロキサシン、ヨウ素、フッ化ナトリウム、安息香酸系、ソルビン酸系、有機ハロゲン系、ベンズイミダゾール系の殺菌剤、銀、銅などの金属イオン、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、エタノール、プロピレングリコール、ポリリジン、リゾチーム、キトサン、チモール、オイゲノール、油性甘草エキス、桑白皮エキス、アシタバ抽出エキス、香辛料抽出物、ポリフェノールなどの植物抽出物エキスなどが挙げられる。
【0028】
本発明の抗菌剤の形態は、上述した抗菌対象物に応じて適宜変更可能であり、例えば、粒状、ペースト状、固形状、液体状などが採用できる。
【0029】
上述した抗菌対象物に本発明の抗菌剤を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗菌剤は配合特性に優れるので、製造された種々の抗菌対象物から該抗菌剤が結晶として析出することはない。
【0030】
本発明の抗菌剤は、皮膚外用剤の抗菌成分としても配合することができ、このようにすることで、該皮膚外用剤の抗菌力を高めることができる。皮膚外用剤中の抗菌剤の含量は、通常0.0001〜50重量%であり、好ましくは0.001〜10重量%である。
【0031】
本発明に係る皮膚外用剤には、本発明の抗菌剤の他、通常の皮膚外用剤に用いられる各種任意成分、例えば、精製水、アルコール類、油性成分、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、保湿剤、粉体、香料、色素、乳化剤、pH調整剤、セラミド類、ステロール類、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗炎症剤、他の抗菌剤などが挙げられる。
【0032】
具体的には、油性成分としては、流動パラフィン、ワセリン、固形パラフィン、ラノリン、ラノリン脂肪酸誘導体、ジメチルポリシロキサン、高級アルコール高級脂肪酸エステル類、脂肪酸、長鎖アミドアミン類、動植物油脂などが挙げられ、界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、イソステアリルグリセリンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸塩、N−ステアリロイル−N−メチルタウリン塩、ラウリルリン酸、リン酸モノミリスチル、リン酸モノセチル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどが挙げられ、増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン、ゼラチンなどの水溶性高分子化合物が挙げられ、保湿剤としては、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどが挙げられ、粉体としては、タルク、セリサイト、マイカ、カオリン、シリカ、ベントナイト、亜鉛華、雲母などが挙げられる。
【0033】
皮膚外用剤の形態は特に限定されず、使用用途に応じて、クリーム状、ジェル状、乳液状、ローション状、軟膏状、パウダー状、ハップ剤、粉末剤、滴下剤、貼付剤、エアゾール剤などが採用できる。
【0034】
皮膚外用剤に本発明の抗菌剤を配合する際は、上述した形態を製造し得る公知の装置(パドルミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザーなど)が好適に使用できる。本発明の抗菌剤は配合特性に優れるので、製造された皮膚外用剤から該抗菌剤が結晶として析出することはない。
【実施例】
【0035】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0036】
1.リシノール酸モノグリセリドの合成例
1-1. リパーゼの固定化
担体(住化ケムテックス社製、弱塩基性陰イオン交換樹脂、商品名「Duolite A-568K」)を1/10N NaOH中で30分間撹拌し、担体をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、次いで200mMリン酸緩衝液(pH7)を加えてpHを平衡化した。pHが平衡化された担体を含むリン酸緩衝液に対してエタノール置換を10分間行い、次いで酵素活性を維持するため、リシノール酸/エタノール=1/10(重量比)の溶液を用いて20分間リシノール酸を担体に吸着させた。続いて、リシノール酸を吸着させた担体をろ過した後、該担体に200mMリン酸緩衝液(pH7)を加えて洗浄した。そして、洗浄後の担体をろ過して回収し、担体1gに対して5000U/mlのリパーゼ溶液(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)2mlを2時間接触させ、リパーゼを担体に固定化させた。最後に、リパーゼを固定化した担体をろ過して担体を回収し、イオン交換水で洗浄したものを固定化酵素として以後の反応に供した。
【0037】
1-2. 合成反応
約30mlのバイアル瓶中に、10gのリシノール酸/グリセリン(1/3(モル比))の混液、0.1gの水、および「1.1リパーゼの固定化」で調製した0.5gの固定化酵素を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、50℃、15mmHgで48時間反応させた。反応終了後、油層のリシノール酸モノグリセリドの含量が80重量%の組成物を得た。得られた反応品を薄層クロマトグラフにて繰り返し抽出し、リシノール酸モノグリセリドの含量が96%の精製物を得た。
【0038】
2.ジグリセリンリシノール酸モノエステルの合成例
約30mlのバイアル瓶中に、10gのリシノール酸/ジグリセリン(1/3(モル比))の混液、0.1gの水、および200Uのリパーゼ(天野エンザイム社製、ペニシリウム・カマンベルティ(P. camembertii)由来、商品名「リパーゼG」)を添加し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、40℃、5mmHgで48時間反応させた。反応終了後、油層のジグリセリンリシノール酸モノエステルの含量が71重量%の組成物を得た。得られた反応品を薄層クロマトグラフにて繰り返し抽出し、ジグリセリンリシノール酸モノエステルの含量が96%の精製物を得た。
【0039】
3.抗菌試験
3-1. 結膜乾燥症菌(C. xerosis)または黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日本製薬社製、商品名「ブレインハートインフュージョン液体培地」)0.5mlを添加し、本発明品(リシノール酸モノグリセリド、リシノール酸ジグリセリド(それぞれ、「1.リシノール酸モノグリセリドの合成例」、「2.ジグリセリンリシノール酸モノエステルの合成例」で合成したものを使用))を0.5ml添加し、各発明品を培地中最終濃度で3ppm、6ppm、12ppm、25ppm、50ppm、100ppm、200ppm、400ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×10CFU/mlの結膜乾燥症菌(C. xerosis(JCM 1971))または黄色ブドウ球菌(S. aureus(JCM 2151))の各培養菌液を0.1ml添加し、撹拌後好気条件下で37℃、24時間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、上記微生物の無添加試験区と比較し、微生物増殖による濁りの見られない試験区を抗菌効果有りとして発育を阻止するために必要な最低濃度(以下、「最小発育阻止濃度」という)を測定した。また、比較例として、広範囲の抗菌スペクトルを有する抗菌剤として知られている4−イソプロピル−3−メチルフェノールも上記と同様の方法を用いて最小発育阻止濃度を測定した。表1に結果を示す。
【0040】
3-2. プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対する抗菌効果
96穴深型マイクロプレートにあらかじめ滅菌処理済の培地(日本製薬社製、商品名「ブレインハートインフュージョン液体培地」)0.5mlを添加し、本発明品(リシノール酸モノグリセリド、リシノール酸ジグリセリド(それぞれ、「1.リシノール酸モノグリセリドの合成例」、「2.ジグリセリンリシノール酸モノエステルの合成例」で合成したものを使用))を0.5ml添加し、各発明品を培地中最終濃度で3ppm、6ppm、12ppm、25ppm、50ppm、100ppm、200ppm、400ppmになるよう段階的に調製した。これらの試料溶液に対し、約1×10CFU/mlのプロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes(JCM 6425))の培養菌液を0.1ml添加し、脱酸素剤を用いて嫌気条件下で37℃、48時間培養を行った。抗菌効果の判定は目視で行い、最小発育阻止濃度を測定した。また、比較例として、広範囲の抗菌スペクトルを有する抗菌剤として知られている4−イソプロピル−3−メチルフェノールを用いて、上記と同様の方法で最小発育濃度を測定した。表1に結果を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1より、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)のいずれの菌種に対しても、リシノール酸モノグリセリドとジグリセリンリシノール酸モノエステルは、4−イソプロピル−3−メチルフェノールに比べて1/2〜1/8の最小発育濃度を示した。したがって、リシノール酸モノグリセリドとジグリセリンリシノール酸モノエステルは、4−イソプロピル−3−メチルフェノールに比べて強い抗菌活性を示すことが分かった。また、リシノール酸モノグリセリドとジグリセリンリシノール酸モノエステルの抗菌効果を比べると、リシノール酸モノグリセリドの方が、強い抗菌効果を有することが分かった。
【0043】
3-3. 他の菌種に対する抗菌効果
表2に示す9種類の指標菌に対する本発明品(リシノール酸モノグリセリド、ジグリセリンリシノール酸モノエステル(それぞれ、「1.リシノール酸モノグリセリドの合成例」、「2.ジグリセリンリシノール酸モノエステルの合成例」で合成したものを使用))の最小発育阻止濃度を上記「3.抗菌試験」と同様の方法を用いて測定した。また、比較例として、抗菌作用を示す6種類の脂肪酸グリセリド及び4−イソプロピル−3−メチルフェノールを用いて、上記と同様の方法で最小発育濃度を測定した。表2に結果を示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、ストレプトコッカス・ミュータンス(S. mutans)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、結膜乾燥症菌(C. xerosis)、枯草菌(B. subtilis)、セレウス菌(B. cereus)及びリステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)に対して、リシノール酸モノグリセリドとリシノール酸ジグリセリドは、6種類の脂肪酸グリセリド及び4−イソプロピル−3−メチルフェノールに比べて同等以下の最小発育濃度を示した。特に、リシノール酸モノグリセリドは、上記すべての比較例に対して低い最小発育濃度を示した。なお、リシノール酸モノグリセリドとジグリセリンリシノール酸モノエステルは、表2に示す9種類の指標菌のうち、大腸菌に(E. coli)に対しては抗菌活性を示さなかった。
【0046】
4.殺菌試験
4-1. 黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対する殺菌試験
「1.リシノール酸モノグリセリドの合成例」で合成したリシノール酸モノグリセリ
ドを0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に添加して、200ppmの試料を調製した。試料5mlに対し、約1×10CFU/mlの黄色ブドウ球菌(S. aureus(JCM 2151))を0.1ml添加し、好気条件下で保持しつつ、添加後0、5、10、30、60、120分後にサンプリングし、各保持時間における試料中の残存菌数をカウントした。具体的には、ブレインハートインフュージョン寒天培地を用いてサンプリングした試料を段階希釈し、平板塗抹法により、37℃で48時間培養した後にカウントした。比較対照として4−イソプロピル−3−メチルフェノールも上記と同様の方法により同時に評価した。図1に結果を示す。
【0047】
図1より、リシノール酸モノグリセリドは10分後に菌数を1/1000以下に減少させる効果を有し、即効性の殺菌剤として有用であることが分かった。一方、比較例の4−イソプロピル−3−メチルフェノールは10分後では殺菌作用が弱く、菌数を1/1000以下に減少させるには30分の保持時間を必要とした。
【0048】
4-2. プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対する殺菌試験
「1.リシノール酸モノグリセリドの合成例」で合成したリシノール酸モノグリセリ
ドを0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)に添加して、200ppmの試料を調製した。試料5mlに対し、約1×10CFU/mlのプロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes(JCM 6425))を0.1ml添加し、嫌気条件下で保持しつつ、添加後0、5、10、30、60、120分後にサンプリングし、各保持時間における試料中の残存菌数をカウントした。具体的には、GAM寒天培地を用いてサンプリングした試料を段階希釈し、平板塗抹法により、嫌気条件下、37℃で4日間培養した後にカウントした。比較対照として4−イソプロピル−3−メチルフェノールも上記と同様の方法により同時に評価した。図2に結果を示す。
【0049】
図2より、リシノール酸モノグリセリドは僅か5分の保持時間で菌数を1/100以下に減少させた。一方、比較例の4−イソプロピル−3−メチルフェノールは5分後では殺菌作用が弱く、菌数を1/100以下に減少させるには10分の保持時間を必要とした。
【0050】
5.配合特性
<化粧水>
ヒアルロン酸(0.1重量%水溶液) 2.0重量%
グリセリン 5.0
エタノール 5.0
リシノール酸モノグリセリド 0.5
精製水 残部
(製法)
ヒアルロン酸、エタノール、グリセリン、リシノール酸モノグリセリドをそれぞれ混合し、次いで精製水を添加して化粧水を得た。
(配合特性)
リシノール酸モノグリセリドは他の成分と容易に混合した。得られた化粧水には濁りや析出などは見られなかった。
【0051】
<乳液>
スクワラン 8.0重量%
ホホバ油 2.0
ミツロウ 0.5
ソルビタンセスキオレエート 0.8
キサンタンガム 0.2
1,3−ブチレングリコール 6.0
エタノール 4.0
リシノール酸モノグリセリド 1.0
N−椰子油脂肪酸アシルL−アルギ
ニンエチル−DL−ピロリドンカ
ルボン酸塩 0.2
精製水 残部
(製法)
スクワラン、ホホバ油、ミツロウ、ソルビタンセスキオレエートをそれぞれ混合し70℃に加温溶解した(これを混合物Aとする)。一方、キサンタンガム、1,3−ブチレングリコール、エタノール、リシノール酸モノグリセリドをそれぞれ室温下で混合した(これを混合物Bとする)。続いて、混合物Aと混合物Bを合わせて60℃に加温し、N-椰子油脂肪酸アシルL-アルギニンエチル-DL-ピロリドンカルボン酸を添加した精製水中に少量ずつ添加しながら激しく攪拌し乳化して乳液を得た。
(配合特性)
リシノール酸モノグリセリドは他の成分と直ちに混和した。得られた乳液には分離や析出は見られなかった。
【0052】
<クリーム>
スクワラン 10.0重量%
ステアリン酸 8.0
ミツロウ 2.0
ステアリルアルコール 5.0
リシノール酸モノグリセリド 2.0
N−椰子油脂肪酸アシルL−アルギ
ニンエチル−DL−ピロリドンカ
ルボン酸塩 10.0
精製水 残部
(製法)
スクワラン、ステアリン酸、ミツロウ、ステアリルアルコール、リシノール酸モノグリセリドをそれぞれ混合し、70℃に加温溶解した。加温溶解した前記油性成分に少量ずつ精製水を添加し良く攪拌してクリームを得た。
(配合特性)
リシノール酸モノグリセリドは他の成分と非常に良く混和した。得られたクリームには分離や析出は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るリシノール酸モノグリセリドおよびジグリセリンリシノール酸モノエステルは抗菌活性が高く、配合特性にも優れるので、食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗菌対象物の配合成分として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対する殺菌試験の結果を示す図である。
【図2】プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)に対する殺菌試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを有効成分とする抗菌剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗菌剤を含有する皮膚外用剤。
【請求項3】
リシノール酸モノグリセリドまたはジグリセリンリシノール酸モノエステルを食品、食品包装材、食器類、香粧品、化粧品、皮膚外用剤、皮膚洗浄剤、消毒剤、外用ローション、毛髪用剤、拭き取り除菌剤、医薬品、医薬部外品、口腔用衛生素材から選ばれる抗菌対象物に配合して、該抗菌対象物の抗菌力を高める方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−126845(P2009−126845A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305710(P2007−305710)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】