説明

抗菌防カビシート

【課題】アリルイソチオシアネートを長期間に亘って放出でき、電子レンジにより加熱しても熱溶融せず、冷蔵、冷凍保存時にはアリルイソチオシアネートの放出量を抑制して、加熱後に十分な量のアリルイソチオシアネートを放出して抗菌防カビ効果を発揮できる抗菌防カビシートを、安価に高い生産効率で製造する。
【解決手段】アリルイソチオシアネートと、分子量が500〜10000であるイソシアネート系ウレタンプレポリマーを用いたウレタン樹脂とを混合し、40℃から60℃のいずれかの温度において、粘度が600mPa・s以上、2500mPa・s以下の値を取りうるものとした抗菌防カビ剤層を他の層の間に挟み、他の少なくとも1層をアリルイソチオシアネート吸着性フィルムとした積層シートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アリルイソチオシアネートを使用した抗菌防カビシートに関する。
【背景技術】
【0002】
山葵や辛子の主成分であるアリルイソチオシアネートは、抗菌防カビ効果を有することが知られている。このアリルイソチオシアネートを含有し、それを徐々に放出することで、抗菌効果、防カビ効果を発揮させることができるフィルムやシートなど各種の抗菌防カビ材料が検討されている。
【0003】
例えば、アリルイソチオシアネートを、多官能性イソシアネートとポリオールとからなるポリウレタン樹脂に含有させたポリウレタン樹脂シートが特許文献1に記載されている。
【0004】
また、アリルイソチオシアネートをロジンやロジンエステルに含ませた混練物層の両面にガス透過層を積層した揮散性薬剤放出シート状物が特許文献2に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−151317号公報
【特許文献2】特開2003−171208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的な特許文献1に記載のようにアリルイソチオシアネートをポリウレタン樹脂に含有させる際に、低分子量のイソシアネートを用いたポリウレタン樹脂を用いると、アリルイソチオシアネートと混合することで粘度が大きく低下してしまった。そのような粘度が低い状態で混合物をフィルムにコーティングしようとする場合には、例えば、グラビアコーティングのような方法を採ることができるが、粘度が低すぎるため、必要な塗工量を確保できなかったり、フィルム間に積層して巻き取る際に、巻きずれが生じたり、混合物の粘度が上昇するまでに積層断面から混合物が漏れ出したりするといった問題が生じた。
【0007】
また、混合物中のアリルイソチオシアネート含有率を低下させて、高粘度の状態でコーティングしようとする場合に、効果を十分に発揮させるために必要なアリルイソチオシアネートを保持するためには、多量のウレタン樹脂が必要となるため、高コストになってしまった。
【0008】
さらに、単にアリルイソチオシアネートをポリウレタン樹脂に含有させた樹脂シート一層のみのシートを用いた場合には、低温状態でもアリルイソチオシアネートを放出し続けるため、冷蔵、冷凍保存している抗菌防カビ効果をアリルイソチオシアネートによって実現しなくてもよい状況でも放出してしまう。このため、冷蔵、冷凍保存後に食品と一緒に電子レンジなどで加熱して、その加熱後の状況で抗菌防カビ効果を発揮させようとしても、既にアリルイソチオシアネートを放出し尽くしてしまい、抗菌防カビ効果を発揮させなければならない時に、必要な効果を発揮させることができなくなってしまう場合があった。
【0009】
一方、特許文献2に記載のようにロジンを用いたものは、ロジンが熱溶融しやすいために、食器のカバーシートとして用いる場合に、食品と一緒に電子レンジなどで加熱すると、ロジンが溶けてシート断面から樹脂が漏れ出し、食品に付着するといった問題があった。
【0010】
そこでこの発明は、アリルイソチオシアネートを長時間に亘って放出する抗菌防カビシートであって、食品に用いて電子レンジなどにより加熱しても熱溶融することなく、冷蔵、冷凍保存時にはアリルイソチオシアネートの放出量を抑制して、加熱後に十分な量のアリルイソチオシアネートを放出して抗菌防カビ効果を発揮できる抗菌防カビシートを、安価に高い生産効率で得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、アリルイソチオシアネートと、数平均分子量が500以上、10000以下であるイソシアネート系ウレタンプレポリマーを用いたウレタン樹脂とを混合して、40℃から60℃のいずれかの温度において、粘度が600mPa・s以上、2500mPa・s以下の値を取りうるものとした抗菌防カビ性混合物による抗菌防カビ剤層を、他の層の間に挟み、他の少なくとも1層をポリエチレンテレフタレート製フィルムであるアリルイソチオシアネート吸着性フィルムとした抗菌防カビシートにより、上記の課題を解決したのである。
【0012】
分子量が500未満であるイソシアネート系ウレタンプレポリマーでは、アリルイソチオシアネートと混合することで粘度が下がりすぎてしまうが、上記の範囲の分子量であるイソシアネート系ウレタンプレポリマーとアリルイソチオシアネートとを混合することで、上記の粘度範囲に抑えることができ、アリルイソチオシアネートが揮発しにくい温度範囲で、シート上に塗工しやすい粘度とすることができ、この混合物をフィルム上に塗工することで、安価に効率よく抗菌防カビ層を形成させることができる。
【0013】
また、この抗菌防カビ層を含む積層シートの他の少なくとも1層をアリルイソチオシアネート吸着性フィルムとし、常温以下での保存時では、抗菌防カビ剤層から放出されるアリルイソチオシアネートをアリルイソチオシアネート吸着性フィルムに吸着させて放出を抑制し、加熱時にはその吸着したアリルイソチオシアネートを放出させることができるようにした。これにより、アリルイソチオシアネートが不要なときには無駄な放出を抑え、抗菌防カビ効果が必要なタイミングで、アリルイソチオシアネートを放出することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかる抗菌防カビシートは、アリルイソチオシアネートとウレタンプレポリマーとを混合する際の粘度が好適であるのでアリルイソチオシアネートを含む抗菌層をシートに塗工しやすく、製造しやすい。また、混合する樹脂が反応により硬化させたウレタン樹脂であるので、通常の食品加工を行う加熱条件では熱溶融を起こさず、抗菌防カビシートとしての機能を保持することができる。このため、この発明にかかる抗菌防カビシートを、普段は冷蔵、冷凍保存しておき、食べる前に電子レンジなどで加熱する冷蔵、冷凍食品の、包装材や内包剤に用いると、保存時にはアリルイソチオシアネートの放出を抑制し、加熱後の抗菌防カビ効果を必要とする時点でアリルイソチオシアネートによる抗菌防カビ効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、3層以上の層からなる積層シートの、表面層以外の少なくとも1層が抗菌防カビ剤層であり、他の少なくとも1層がアリルイソチオシアネート吸着性フィルムである、抗菌防カビシートである。ここで表面層とは、積層シートの表面を構成する2つの層を示す。すなわち、上記抗菌防カビ剤層は表面に露出せず、他の層に挟まれている。
【0016】
上記抗菌防カビ剤層は、アリルイソチオシアネートとウレタン樹脂との抗菌防カビ性混合物からなる。前記ウレタン樹脂と混合することによりアリルイソチオシアネートが固定され、時間経過とともに抗菌防カビ効果を有するアリルイソチオシアネートが放出されるものである。
【0017】
上記ウレタン樹脂は、イソシアネート系ウレタンプレポリマーからなり、空気中の水分と接触することにより硬化する一液型ウレタンポリマーか、イソシアネート系ウレタンプレポリマーとポリオールとを混合して得られる二液型ウレタンポリマーかのいずれかである。
【0018】
上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーとは、2つ以上のイソシアネート基を有するジイソシアネート又はポリイソシアネートを用いてウレタン重合させた高分子であって、芳香族ジイソシアネートと脂肪族ジイソシアネートとがある。
【0019】
このような芳香族ジイソシアネートとしては、具体的には4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、又は2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、もしくはそれらの混合物(MDI)、m−フェニレンジイソシアネート、又はp−フェニレンジイソシアネート、もしくはそれらの混合物、4,4’−ジフェニルジイソシアネート(NDI)、2,4−トリレンジイソシアネート又は2,6−トリレンジイソシアネート、もしくはそれらの混合物(TDI)などが挙げられる。また、脂肪族ジイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−、2,3−、または1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−または2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0020】
この中でも特に芳香環を有する芳香族ウレタンプレポリマーであると、アリルイソチオシアネートの混合比率が高くても混合物が硬化し易いためより好ましい。一方、脂肪族イソシアネート系ウレタンプレポリマーであると、アリルイソチオシアネートの混合比率が高い場合に混合物が硬化しない場合がある。
【0021】
上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーの数平均分子量は、500以上であることが必要であり、10000以下であると好ましい。500未満であると、アリルイソチオシアネートと混合した際、塗工に必要な粘度を得ることができず、塗工できなくなってしまう。また、空気中の水分やポリオール成分の水酸基と反応させて、塗工に必要な粘度になるまで待つことは可能であるが、反応が進んでいるために粘度を一定に保つことは困難であり、塗工厚の変動や機械の設定変更などが必要となり、均一なシートが得られないおそれがある。一方で、数平均分子量は10000以下である必要があり、5000以下であると好ましい。10000を超えると、粘度が高すぎてアリルイソチオシアネートとの混合が困難になるおそれがある。
【0022】
上記ポリオールとしては、ポリエーテル系ポリオールと、ポリエステル系ポリオールとが挙げられ、これらを単独で用いてもよいし、これらを併用しても良い。
【0023】
上記ポリエーテル系ポリオールとは、分子内に複数の水酸基を有し、エーテル結合により連なった高分子である。このポリエーテル系ポリオールとしては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフランなどの単独重合体、又は共重合体などが挙げられる。
【0024】
上記ポリエステル系ポリオールは、多塩基酸と多価アルコールとの縮合反応や、多塩基酸のアルキルエステルと多価アルコールとのエステル交換反応により得ることができる。前記の多塩基酸、若しくはそのアルキルエステルとしては、ダイマー酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのフタル酸、若しくはそれらのジアルキルエステル、又はそれらの混合物などが挙げられる。また、前記の多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオールなどが挙げられる。
【0025】
なお、上記のイソシアネート系ウレタンプレポリマーについては脂肪族より芳香族の方が、また、上記のポリオールについてはポリエーテル系よりポリエステル系の方が、反応が早い傾向にある。したがって、硬化を遅らせずに塗工中の粘度上昇を抑えるため、上記芳香族イソシアネート系ウレタンプレポリマーは上記ポリエーテル系ポリオールと、また上記脂肪族イソシアネート系ウレタンプレポリマーは上記ポリエステル系ポリオールと組み合わせると好ましい。
【0026】
上記ポリオールの数平均分子量は、500以上であると好ましく、1000以上であるとより好ましい。500未満であると、上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーとアリルイソチオシアネートとを混合した際、塗工に必要な粘度を得ることができず、塗工できない場合がある。また、上記ポリオールが含有する水酸基と反応させて、塗工に必要な粘度になるまで待つことは可能であるが、反応が進んでいるために粘度を一定に保つことは困難であり、塗工厚の変動や機械の設定変更などが必要となり、均一なシートが得られないおそれがある。一方で、数平均分子量は10000以下であると好ましく、5000以下であるとより好ましい。10000を超えると、上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーとアリルイソチオシアネートとの混合物と均一に混合して反応させることが困難になる場合がある。
【0027】
上記二液型ウレタンポリマーを得るには、例えば、上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーと、上記ポリオールとを別々に保存しておき、どちらか粘度の高い一方とアリルイソチオシアネートとを均一に混合した後、他方を混合する方法が挙げられる。また、このときにこの発明にかかる抗菌防カビシートの抗菌防カビ効果を阻害しない範囲で、かつ、粘度を必要範囲に留めておく範囲で、一般的なウレタン樹脂に用いられる任意の添加剤を添加してもよい。さらに、粘度調整以外の用途で用いる添加剤として、アリルイソチオシアネートを安定化させる安定剤を添加してもよく、酸化防止剤、光安定化剤や、アリルイソチオシアネートを包接して安定化させるシクロデキストリンなどが挙げられる。
【0028】
このアリルイソチオシアネートと、上記イソシアネート系ウレタンプレポリマー、及び上記ポリエーテル系ポリオール又は上記ポリエステル系ポリオールとを混合して抗菌防カビ性混合物を得る際には、アリルイソチオシアネートが揮発しないように密閉空間で行うことが好ましい。また、均一な混合物を得るために、上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーや、上記ポリエーテル系ポリオール又は上記ポリエステル系ポリオールを加温して、粘度が低い状態でアリルイソチオシアネートと混合し、塗工に最適な温度に冷却してもよい。
【0029】
また、上記一液型ウレタンポリマーを得るには、例えば、上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーとアリルイソチオシアネートとを別々の密閉容器に保存しておき、ラインミキサーを用いてライン中で混合した後、コーティングしてフィルムをラミネートする前に水分を与えて反応させる方法や、あらかじめ上記イソシアネート系ウレタンプレポリマーとアリルイソチオシアネートとを密閉容器で均一に混合した後、同様に水分を与えて反応させる方法が挙げられる。またこのときに、この発明にかかる抗菌防カビシートの抗菌防カビ効果を阻害しない範囲で、かつ、粘度を必要範囲に留めておく範囲で、一般的なウレタン樹脂に用いられる任意の添加剤を添加してもよい。
【0030】
上記の一液型ウレタンポリマーと二液型ウレタンポリマーとのいずれの場合でも、得られる抗菌防カビ性混合物の粘度は、温度が低ければ低いほど高くなるが、夏場は温度管理が困難となり、低温条件での塗工は、塗工厚の変動や機械の設定変更などが必要となるため、均一なシートが得られないおそれがある。そのため、塗工温度は40℃以上が好ましい。一方で、塗工温度が60℃を超えると、アリルイソチオシアネートの蒸発量が無視できなくなるため、塗工温度は60℃以下である必要がある。上記抗菌防カビ性混合物は、この40℃以上60℃以下である温度範囲のいずれかの温度において、塗工可能な粘度になりうるものである必要がある。
【0031】
この塗工可能な粘度とは、600mPa・s以上であることが必要である。600mPa・s未満の場合、粘度が低すぎて流れやすくなり、塗工できなくなってしまうためである。従って、粘度が低すぎて塗工できない場合は、上記の温度範囲内で低温にすることで、少なくとも600mPa・s以上にしてから塗工する。40℃まで冷却しても粘度が600mPa・s未満であると、この発明に用いることができない。一方で、2500mPa・s以下であることが必要である。2500mPa・sを超えると、逆に粘度が高すぎて薄塗りが出来なかったり、塗工むらが生じたり、塗工できない場合があるためである。従って粘度が高すぎて塗工出来ない場合は、上記の範囲内で高温にすることで、最大でも2500mPa・s以下にしてから塗工する。60℃まで加熱しても粘度が2500mPa・sを超えていると、この発明に用いることができない。
【0032】
なお、これらのアリルイソチオシアネートとウレタン樹脂との重量混合比は、上記の一液型ウレタンポリマーと二液型ウレタンポリマーとのいずれの場合でも、5:95〜35:65であると好ましく、10:90〜30:70であるとより好ましい。5:95よりもアリルイソチオシアネートが少ないと、得られる抗菌防カビシートが発揮できる抗菌防カビ効果の持続時間や放出量が少なすぎて効果が不十分なものとなってしまう。一方で、35:65よりもウレタン樹脂が少ないと、極端に抗菌防カビ性混合物の粘度が低下し、上記の塗工可能な範囲に留めておくことができなくなったり、アリルイソチオシアネートを固定することができず、上記抗菌防カビ剤層を形成できなくなったりするおそれがある。さらに、脂肪族イソシアネート系ウレタンプレポリマーを用いた場合の重量混合比は、5:95〜15:85であると好ましい。
【0033】
次に、積層シートの他の少なくとも1層となる上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムについて説明する。上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムは、アリルイソチオシアネートを吸着でき、加熱時に吸着したアリルイソチオシアネートを放出可能であるアリルイソチオシアネート吸着性フィルムである。すなわち、上記積層シートが三層からなる場合、上記抗菌防カビ剤層を挟むシートのうちの少なくとも一方が、アリルイソチオシアネート吸着性フィルムとなる。また、上記積層シートが四層以上からなる場合、上記抗菌防カビ剤層は、アリルイソチオシアネート吸着性フィルムと直接に接する場合と、アリルイソチオシアネート吸着性フィルムとの間に別の層を有する場合とがあるが、直接に接する方が、上記抗菌防カビ剤層から放出されたアリルイソチオシアネートを吸着しやすいので好ましい。
【0034】
上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムを積層シートの少なくとも1層として設けると、その抗菌防カビシートは、冷蔵保存を行う10℃以下の環境や、冷凍保存を行う−18℃以下の環境で、アリルイソチオシアネートの放出を抑制することが出来る。そのため、温度が低いために菌がほとんど活動せず抗菌防カビ効果が不要である冷蔵、冷凍保存時には、この発明にかかる抗菌防カビシートからアリルイソチオシアネートが無駄に放出されることを防ぐ。一方で、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムは、加熱時には吸着したアリルイソチオシアネートを放出可能である。
【0035】
抗菌防カビ効果が必要なときには、抗菌防カビシートを加熱することにより、それまでに上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムが吸着したアリルイソチオシアネートを放出する。なお、放出されるアリルイソチオシアネートは、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルム側からそのまま放出されるのではなく、一旦抗菌防カビ剤層を経由して、反対側の表面層から放出されるものが多い。これは、アリルイソチオシアネートを吸着した濃度が、フィルム全体で均一なのではなく、上記抗菌防カビ剤層に近い箇所の方が、濃度が高いことに加えて、加熱されたとしても上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムはアリルイソチオシアネートを透過しにくいためである。すなわち、上記抗菌防カビ剤層に近い側に集中したアリルイソチオシアネートは、フィルム全体を透過するよりも、上記抗菌防カビ剤層に戻る方が起こりやすく、反対側の面からの放出量の方が、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムの側の面からの放出量よりも大きくなる。
【0036】
また、放出されるアリルイソチオシアネートは、加熱した時点で一挙にシート外へ放出されるのではなく、加熱時にある程度が放出されるものの、加熱後に常温環境で冷却している間もゆっくりと放出を続ける。これは、上記の通り、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムから直接放出されるのではなく、一旦上記抗菌防カビ剤層を経由して反対側の面から放出されるので、放出までの間にタイムラグが生じるためである。
【0037】
このようなアリルイソチオシアネート吸着性フィルムが表面にあることで、この発明にかかる抗菌防カビシートを食品に添付すると、冷蔵冷凍保存時にはアリルイソチオシアネートをほとんど放出せず、加熱後の、抗菌防カビ効果を必要とするときに、アリルイソチオシアネートを放出することができる。
【0038】
具体的には、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムは、30℃の環境における、アリルイソチオシアネートの最大吸着量が30mg/m以上、3000mg/m以下であって、アリルイソチオシアネートの一日の透過量が、30℃で5g/m以下であるフィルムであると好ましい。これらの値は、上記抗菌防カビシートを冷蔵、冷凍保存する食品に用いた場合、通常の保存環境においてアリルイソチオシアネートを無駄に放出させる量を十分に抑えることができる値である。この温度では、ほとんどの菌やカビの活動が抑えられるため、アリルイソチオシアネートを放出しなくても、菌の繁殖やカビの拡大を抑えることができる。このような保存期間は長期に亘るため、アリルイソチオシアネートを無駄に放出してしまうと、抗菌防カビ効果が必要な際に放出できなくなってしまうが、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムによって、上記抗菌防カビ剤層から放出されるアリルイソチオシアネートを吸着することで、アリルイソチオシアネートの無駄な消費を抑えることができる。
【0039】
なお、ここで規定する上記の最大吸着量の測定方法は、下記の方法による。
ガラス製デシケータ内に、その容積に対してアリルイソチオシアネートが飽和蒸気圧となるために必要なアリルイソチオシアネートを加え、各フィルム100cmをアリルイソチオシアネートと接触することのないようにデシケータ内に設置する。このガラス製デシケータを30℃にて7日間放置した後、各フィルムを取り出し、フィルム表面に結露したアリルイソチオシアネートをティッシュペーパーでふき取る。その後、さらに各フィルムを30℃で1時間放置して、過剰に付着しているアリルイソチオシアネートを揮発させてから各フィルムを回収し、ジクロロメタンを抽出溶媒としてフィルム中に残存した量を、ガスクロマトグラフを用いて測定し、その値を測定すべきフィルムへの最大吸着量とみなして求める。
【0040】
また、ここで規定する上記の透過量の測定方法は、下記の方法による。
ステンレス製透湿カップ(円筒状)に、アリルイソチオシアネート1gを加えて、その開口部に測定するフィルムを載せて、開口部と同面積、同形状の開口部を持つリングを載せて固定し、密封する。経時的に透湿カップの重量を測定し、その減少重量を、上記開口部面積あたりのアリルイソチオシアネート透過量とした。
【0041】
一方で、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムは、加熱することで、吸着したアリルイソチオシアネートを放出可能である必要があり、具体的には60℃以上の加熱環境において、吸着したアリルイソチオシアネートの40%以上を放出することができるものであると好ましい。この温度は、冷蔵、冷凍保存する食品を電子レンジ等で温めた際の温度である。それにより、アリルイソチオシアネートを放出、透過することで、食品の周囲にアリルイソチオシアネートのガスを供給して、抗菌防カビ効果を発揮させて食品を保護することができる。
【0042】
上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムであるポリエチレンテレフタレート製フィルムとしては、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、アモルファス・ポリエチレンテレフタレート、グリコール変性共重合ポリエチレンテレフタレートなどを用いることができる。ポリエチレンテレフタレート製フィルムは、常温ではアリルイソチオシアネートを吸着する性質があるが、加熱するとフィルムの構造が弛み、それまで吸着していたアリルイソチオシアネートを放出することができる。
【0043】
上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムとしてポリエチレンテレフタレート製フィルムを用いる場合、フィルムの厚みは7μm以上であると好ましい。7μm未満では加工時にシワが入りやすくなるだけではなく、吸着量が不十分になるために、必要なときに十分な抗菌防カビ効果が得られない場合がある。一方で、50μm以下であると好ましい。50μmを超えると、非常に高価となるためコスト的に使用できなくなる場合がある。具体的には、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムでは最大吸着量が約400mg/m程度となる。また、両面にポリエチレンテレフタレート製フィルムを用いる場合、片面はアリルイソチオシアネートを透過させるためにより薄い方が好ましく、7μm以上12μm以下であると好ましい。
【0044】
また、上記抗菌防カビ剤層を挟む両側の二つの層となるシートは、少なくとも片方がアリルイソチオシアネートを十分に透過し得るアリルイソチオシアネート透過性フィルムであり、アリルイソチオシアネートの透過量を確保し、この発明にかかる抗菌防カビシートの用途に合わせた調整ができるものが好ましい。
【0045】
特に、上記抗菌防カビ剤層は、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムと、上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムとに挟まれているとより好ましい。上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムが上記抗菌防カビ剤層に直接積層されていると、徐々にアリルイソチオシアネートが吸着され、また、吸着したアリルイソチオシアネートは放出されにくくなる。これに対して、アリルイソチオシアネート透過性フィルムは、吸着と放出とを繰り返しているため、結果として上記抗菌防カビ剤層から放出されたアリルイソチオシアネートの大半が、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムに吸着されて、吸着量がアリルイソチオシアネート透過性フィルムよりも多くなる。このため、上記抗菌防カビ剤層が有するアリルイソチオシアネートの半分以上を吸着することができ、アリルイソチオシアネートの無駄な減少を抑えることができる。
【0046】
なお、上記抗菌防カビ剤層を挟む両側の層がアリルイソチオシアネート透過性フィルムであってもよいが、その場合は、少なくともいずれか一方の層の外側に、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムが積層されることとなる。この場合、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムは、上記抗菌防カビ剤層の両面からほぼ均等に放出されたアリルイソチオシアネートを、一方の上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムを透過したもののみ吸着するため、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムが吸着する量が少なくなる。
【0047】
具体的には、上記のアリルイソチオシアネート透過性フィルムのアリルイソチオシアネートの1日あたりの透過量が30℃で10g/m以上、200g/m以下であると好ましい。10g/m未満であると、透過量が少なすぎて抗菌防カビ効果が十分に発揮されない場合がある。一方で、200g/mを超えると、透過量が多すぎて持続時間が短くなりすぎてしまう。
【0048】
上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムとしては、ポリオレフィン系フィルムや、セロハンフィルムを用いることができる。ポリオレフィン系フィルムとしては例えば、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルムなどのポリプロピレン製フィルム、ポリエチレン製フィルムなどが挙げられる。中でもポリプロピレン製フィルムが好ましく、二軸延伸ポリプロピレン製フィルムがより好ましい。また、上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムの厚みは特に限定されないが、9μm以上、80μm以下であると好ましく、12μm以上、60μm以下であるとより好ましい。9μm未満であると薄すぎて強度上問題となるおそれがある。一方で、80μmを超えると、抗菌防カビシートがカーリングしやすくなったり、透過性が十分でなくなるおそれがある。また、これらのアリルイソチオシアネート透過性フィルムは、アリルイソチオシアネートを透過させるために設けるので、アリルイソチオシアネートの最大吸着量が小さいほど好ましく、具体的には、アリルイソチオシアネートの最大吸着量が、30℃の条件において、200mg/m以下となるものである。このようなシートとしては、例えば厚さ24μmのセロハンは50mg/m程度である。
【0049】
上記抗菌防カビ剤層を上記のアリルイソチオシアネート吸着性フィルム又は上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムにより挟む方法としては、これらのフィルムのうちの一枚に上記抗菌防カビ性混合物を塗工して、形成した上記抗菌防カビ剤層の上にもう一枚のフィルムを接着させる方法が挙げられる。また、上記抗菌防カビ性混合物を上記のフィルム上に塗工する方法としては、上記抗菌防カビ性混合物をロール間の隙間やその回転数に応じて塗工量を調整し、転写を繰り返しながら塗工する方法や、一定の隙間を設けて塗工量を調整し、転写塗工する方法などが挙げられる。この塗工させる装置としては、例えば、ノンソルベントラミネータやリバースコーター、リップコーターなどが挙げられる。
【0050】
上記抗菌防カビ性混合物を上記のフィルム上に塗工して上記抗菌防カビ剤層を形成させる際には、ウレタン樹脂を硬化させるために、室温又は加温状態で数日間エージングを行うと好ましい。上記抗菌防カビ剤層を直接に、又はアリルイソチオシアネート透過性フィルムを介してアリルイソチオシアネート吸着性フィルム上に塗工すると、そのエージングの期間にアリルイソチオシアネートが上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムに吸着される。
【0051】
上記のウレタン樹脂を含む上記抗菌防カビ剤層の塗布量は、0.5g/m以上であると好ましく、1g/m以上であるとより好ましい。0.5g/m未満であると、抗菌防カビ剤の量が少なすぎて、得られる抗菌防カビシートの効果が不十分となる場合がある。一方で、3g/m以下であると好ましく、2g/m以下であるとより好ましい。3g/mを超えると、上記抗菌防カビ剤層と接する両側の層が巻きズレを起こすおそれが高く、また、しわの発生原因となりうる可能性がある。
【0052】
また、上記抗菌防カビ剤層を上記のアリルイソチオシアネート吸着性フィルム上に塗工した後、上記抗菌防カビ剤層の反対側の面に上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムを積層させることで、上記抗菌防カビ剤層を上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムと上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムとによって挟むことができる。逆に、上記抗菌防カビ剤層を上記アリルイソチオシアネート透過性フィルム上に塗工した後で、反対側の面に上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムを積層させてもよい。
【0053】
なお、上記抗菌防カビ剤層の一方の面に上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムを積層し、さらに両方の表面層を上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムとすることも可能であるが、両方の表面層が上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムであると、加熱してもほとんどアリルイソチオシアネートを放出させることが出来なくなる。従って、表面層の少なくとも一方は、上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムであり、そのフィルムが直接に上記抗菌防カビ剤層に積層されていると好ましい。
【0054】
また、この発明にかかる抗菌防カビシートがアリルイソチオシアネートの放出により抗菌防カビ効果を発揮し続けるのに必要な、抗菌防カビシート単位面積当たりかつ時間あたりのアリルイソチオシアネートの放出量は、3mg/m・hour以上であると好ましい。3mg/m・hour未満であると、発揮される抗菌性が不十分となってしまうおそれがあるからである。一方で、放出量は1000mg/m・hour以下であると好ましい。1000mg/m・hourを超えると、食品に臭いが付着したり、食味に影響を与えるおそれがあるためである。これらの持続時間及び放出量は、上記抗菌防カビ剤層の塗工量や上記アリルイソチオシアネートの配合比率、また上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムの透過性などにより調整することができるものである。
【0055】
この発明にかかる抗菌防カビシートの具体的な使用方法としては、例えば、食品の上面又は全体を覆う包装に用いて、食品に対して抗菌防カビ効果や鮮度保持効果などを発揮させる方法が挙げられる。この発明にかかる抗菌防カビシートは、上記ウレタン樹脂を使用しているため、一般的に電子レンジなどで食品の加熱を行う条件においては熱溶融することなく、抗菌防カビ剤層を維持でき、片面または両面の必要な方向にアリルイソチオシアネートを継続して一定期間に亘って放出し続けることで、包装する食品に対して抗菌防カビ効果を持続させることができる。
【0056】
また、少なくとも一方の面を上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムとしているので、常温、冷蔵、冷凍時には、アリルイソチオシアネートをほとんど放出しないで保存し続けることができる。すなわち、食品の包装に上記抗菌防カビシートを用いたり、食品の包装内に仕込んでおくと、食品の温度が低下するまではアリルイソチオシアネート透過性フィルムに吸着されたアリルイソチオシアネートが放出されて抗菌防カビ効果を発揮し、冷蔵、冷凍時のように菌が繁殖しにくい状況では、無駄にアリルイソチオシアネートを放出することなく、蓄えておくことができる。そして、食品を電子レンジ等で加熱した後、食するまでの時間が空く場合には、それまでの間に菌が繁殖しうる温度となるが、その段階で上記抗菌防カビシートから十分な量のアリルイソチオシアネートを放出することで、菌の繁殖を抑えて衛生的な環境を保持することが出来る。
【0057】
なお、このような包装に用いる場合、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムの層が、上記抗菌防カビ剤層よりも外側に位置するように用いると好ましい。加熱後の放出にあたっても、上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムを透過するアリルイソチオシアネートは少なく、反対側の面から放出されるものがほとんどだからである。
【0058】
さらに、この発明にかかる抗菌防カビシートの形状としては、抗菌防カビシートを一旦加熱して変形容易な温度としてから凹状の金型に真空吸引して成型する真空成型や、一旦加熱して変形可能な温度としてから、加温した凹状金型及び凸状金型で加熱しつつ成型する熱成型などすることにより、食品容器に整形したものが挙げられる。これは、例えば図1(a)のように円形に切り抜いた上記抗菌防カビシートを、図1(b)に記載のようなカップ型にしたものや、図2(a)のように矩形に切り抜いた上記抗菌防カビシートを、図2(b)のようにトレー型に成型したものが挙げられる。特に、図2のように矩形に切り抜いて成型すると、積層により得られたシートを無駄なく利用することが出来る。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によりこの発明をより具体的に説明する。まず、用いるフィルム、ウレタン樹脂及びアリルイソチオシアネートについて説明する。
・PET#25……東洋紡績(株)製:ポリエチレンテレフタレート製フィルム(アリルイソチオシアネート吸着性フィルム)、厚さ25μm
・OPP#20……東洋紡績(株)製:二軸延伸ポリプロピレン製フィルム(アリルイソチオシアネート透過性フィルム)、厚さ20μm
【0060】
・第一芳香族イソシアネート系ウレタンプレポリマー……三井武田ケミカル(株)製:タケネート A−242A 数平均分子量(Mn):1268(2液型ウレタンプレポリマー)
・高分子量ポリエーテル系ポリオール……三井武田ケミカル(株)製:タケラック XA−244B 数平均分子量(Mn):3254
・第二芳香族イソシアネート系ウレタンプレポリマー……三井武田ケミカル(株)製:タケネート A−260 数平均分子量(Mn):2129(1液型ウレタンプレポリマー)
・アリルイソチオシアネート……日本テルペン(株)製
【0061】
なお、上記の数平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用いて、下記の条件にて測定した。
・装置:東ソー(株)社製 HLC−8120GPC
・カラム:東ソー(株)社製 TSK−GEL α−M
・移動相:0.5mol/l NaNO in DMSO
・検出器:示差屈折率計(RI)
・流速:1ml/min
・カラム温度:40℃
・数平均分子量(Mn):ポリエチレングリコール(PEG)換算
【0062】
[抗菌防カビシートの製造と放出量試験]
(実施例1)
第一芳香族イソシアネート系ウレタンプレポリマーと高分子量ポリエーテル系ポリオール、およびアリルイソチオシアネートを75:10:15の重量混合比で混合し、40℃における粘度が1040mPa・sの抗菌防カビ性混合物を作製した。その際、粘度測定には(株)トキメック製B型粘度計を使用した。この抗菌防カビ性混合物を、富士機械工業(株)製:ノンソルベントラミネータによって、PET#25上に塗布量1.8g/mとなるように塗工して抗菌防カビ剤層を形成させた。この抗菌防カビ剤層の、PET#25とは反対の面にOPP#20を貼り合わせて、3層からなり表面層がアリルイソチオシアネート透過性フィルムである抗菌防カビシートを得た。
【0063】
<常温保存試験>
得られた抗菌防カビシート100枚をアルミ袋に入れて密封し、40℃恒温器内にて1ヶ月保管した試験体を、10cm×16cm角に切断し、30℃、25%RH、無風条件下に設置し、1時間後、3時間後、6時間後、24時間後のアリルイソチオシアネートのシート内における含有量をHEWLETT PACKARD社製 ガスクロマトグラフ HP 6890により測定し、揮散開始時点での含有量を残存率100%として、それぞれの含有量を残存率に換算した。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
<冷凍保存試験>
上記の試験体を、−18℃の冷凍庫中に放置して、7日後、14日後、30日後、60日後における、アリルイソチオシアネートの残存量を測定し、同様に残存率に換算した。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
<耐熱試験>
得られた抗菌防カビシートを定格出力500Wの電子レンジ(シャープ(株)製:RE−M20)にて1分間加熱して、外観変化を観察すると共に、表層のフィルムを180°方向に引っ張って剥離試験を行った。その結果、外観変化は認められず、また、剥離試験ではウレタン樹脂が溶解することなく表層面のフィルムが破断するのみで済んだ。
【0068】
<加熱後の放出試験>
上記試験体を、50ccの水が入ったコップとともに、上記電子レンジに入れて2分間加熱した後、30℃、25%RHの無風条件下に試験体を放置して、経時的にアリルイソチオシアネートの含有量を測定し、加熱前のアリルイソチオシアネートを100%とした残存率に換算した。その結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
<加熱後の抗菌性試験>
滅菌処理した炊飯米80gを同じく滅菌処理した容器(250ml)に入れ、炊飯米表面に大腸菌の菌液を20μlずつ20箇所に滴下した。その後すぐに、上記の抗菌防カビシートを60mm×100mm角に切り出して炊飯米の上に置き、蓋をして、30℃にて6時間保管した。6時間後、炊飯米80g全量を回収し、炊飯米中の大腸菌数を測定した。また、比較対照として抗菌防カビシートを置かない場合についても測定した。その結果を表4に示す。なお、表中の単位は(CFU/80g炊飯米)である。
【0071】
【表4】

【0072】
(比較例1)
実施例1のPET#25の代わりにOPP#20を用いて同様の測定を行った。その結果を表1〜4に示す。また、実施例1と同様に加熱試験を実施したところ、外観変化は認められず、剥離試験ではウレタン樹脂が溶解することなく表面層のフィルムが破断するのみで済んだ。
【0073】
(実施例2)
第二芳香族イソシアネート系ウレタンプレポリマーとアリルイソチオシアネートを、80:20の重量混合比で混合し、40℃における粘度が1290mPa・sの抗菌防カビ性混合物を作製した。この抗菌防カビ性混合物を、PET#25上に塗布量1.8g/mとなるように40℃で塗工して抗菌防カビ剤層を形成させた。この抗菌防カビ剤層のPET#25とは反対側の面にOPP#20を貼り合わせて、40℃にて2日間放置し、抗菌防カビ剤層を硬化させ、3層からなり、表面層がアリルイソチオシアネート透過性フィルムと、アリルイソチオシアネート吸着性フィルムであるポリエチレンテレフタレート製フィルムとからなる抗菌防カビシートを得た。このシートについて実施例1と同様の測定を行った。その結果を表1〜4に示す。
【0074】
(実施例3)
縦70mm×横100mmの矩形型である実施例1の抗菌防カビシートを用いて、(有)テラダキカイ製、連続真空成型機:HVFにより、深さ10mmの、図2(b)の形状の容器を作成し、実施例1で行った試験のうち、加熱後の放出試験と抗菌性試験とを行った。その結果を表3,4に示す。
【0075】
(結果)
常温保存試験では、実施例1及び2のシートは、ウレタンプレポリマーの種類に関わりなく、30℃で24時間経過後も80%前後保持していたが、両面をPPとした比較例1のシートは、24時間で全てのアリルイソチオシアネートが放出されてしまった(表1)。
【0076】
冷凍保存試験では、30℃の環境よりも放出速度が大きく低下するが、比較例1のシートでは30日で全てのアリルイソチオシアネートが放出されてしまうのに対して、実施例1及び2のシートでは、30日の時点で7割以上のアリルイソチオシアネートを保持し、その後さらに30日経過しても、ほぼ同じ量のアリルイソチオシアネートを保持している(表2)。これは、抗菌防カビ剤層から放出されたアリルイソチオシアネートの大半がPET#25に吸着されて固定されていると考えられる。
【0077】
加熱後の放出試験では、比較例1のシートは、加熱直後に大半のアリルイソチオシアネートが放出されたが、実施例1及び2のシートでは加熱直後よりも、その後24時間に亘って放出される量の方が多く、加熱後にPET#25から緩やかにアリルイソチオシアネートが放出されることがわかった。また、実施例1のシートを真空成型した実施例3でも、実施例1とほぼ同様に、アリルイソチオシアネートを徐放することができた。
【0078】
抗菌性試験では、比較例1では抗菌効果がまったく見られず菌が繁殖したが、実施例1乃至3では6時間後も菌の生息数はほとんど変わらず、繁殖を抑制できた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(a)円形に切り出したシートの概念図、(b)(a)を成型した抗菌防カビ食品用カップの斜視図
【図2】(a)矩形に切り出したシートの概念図、(b)(a)を成型した抗菌防カビ食品用カップの斜視図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の層からなる積層シートの、表面層以外の1層が、数平均分子量が500以上、10000以下であるイソシアネート系ウレタンプレポリマーからなるウレタン樹脂と、アリルイソチオシアネートとを混合して、40℃から60℃のいずれかの温度において、粘度が600mPa・s以上、2500mPa・s以下の値を取りうるものとした抗菌防カビ性混合物からなる抗菌防カビ剤層であり、
他の少なくとも1層が、アリルイソチオシアネートを吸着可能であり、かつ加熱時にアリルイソチオシアネートを放出可能なアリルイソチオシアネート吸着性フィルムであるポリエチレンテレフタレート製フィルムからなる、抗菌防カビシート。
【請求項2】
3層以上の層からなる積層シートの、表面層以外の1層が、数平均分子量が500以上、10000以下であるイソシアネート系ウレタンプレポリマー、及び数平均分子量が500以上10000以下である、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール又はその両方であるポリオールからなるウレタン樹脂と、アリルイソチオシアネートとを混合して、40℃から60℃のいずれかの温度において、粘度が600mPa・s以上、2500mPa・s以下の値を取りうるものとした抗菌防カビ性混合物からなる抗菌防カビ剤層であり、
他の少なくとも1層が、アリルイソチオシアネートを吸着可能であり、かつ加熱時にアリルイソチオシアネートを放出可能なアリルイソチオシアネート吸着性フィルムであるポリエチレンテレフタレート製フィルムからなる、抗菌防カビシート。
【請求項3】
上記抗菌防カビ剤層と接する少なくとも一方の層が、アリルイソチオシアネート透過性フィルムからなる、請求項1又は2に記載の抗菌防カビシート。
【請求項4】
上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムの1日あたりのアリルイソチオシアネート透過量が30℃で1g/m以上、200g/m以下である、請求項3に記載の抗菌防カビシート。
【請求項5】
上記アリルイソチオシアネート透過性フィルムが、ポリオレフィン系フィルムである請求項3又は4に記載の抗菌防カビシート。
【請求項6】
上記ポリオレフィン系フィルムが、ポリプロピレン製フィルム、又はポリエチレン製フィルムからなる、請求項5に記載の抗菌防カビシート。
【請求項7】
上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムが、30℃の環境における、アリルイソチオシアネートの最大吸着量が30mg/m以上、3000mg/m以下であるフィルムであり、
60℃以上の加熱環境においては、吸着したアリルイソチオシアネートの40%以上を放出可能である、請求項1乃至6のいずれかに記載の抗菌防カビシート。
【請求項8】
上記ポリエチレンテレフタレート製フィルムの厚さが、7μm以上50μm以下である、請求項1乃至7のいずれかに記載の抗菌防カビシート。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の抗菌防カビシートを用いて成型した抗菌防カビ食品用カップ。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の抗菌防カビシート、又は、請求項9に記載の抗菌防カビ食品用カップを用い、保存時には、上記抗菌防カビ剤層から放出されるアリルイソチオシアネートを上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムに吸着させ、
加熱時、又は食品の予熱により上記アリルイソチオシアネート吸着性フィルムから吸着されたアリルイソチオシアネートを放出させることで、上記抗菌防カビシート又は抗菌防カビ食品用カップとともに加熱された食品、周囲の食品、又はその両方に対して抗菌防カビ効果を発揮させる、食品の抗菌防カビ方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−273120(P2008−273120A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121783(P2007−121783)
【出願日】平成19年5月2日(2007.5.2)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】