説明

抗酸化剤

【課題】 松樹皮抽出物とセサミンとを含有する、優れた抗酸化剤を提供すること。
【解決手段】 本発明者らは、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有する場合に、特に優れた抗酸化作用が認められることを見出し、本発明に記載の抗酸化剤を完成させた。本発明に記載の抗酸化剤は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類、化粧品類として経口または経皮で用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、松樹皮抽出物とセサミンとを含有し、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有することを特徴とする、抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内に余分な活性酸素が存在すると細胞が損傷することが知られている。これに対する防御機構として、生物には様々な活性酸素の生成抑制機構や消去機構が生体内に存在する。しかしながら、活性酸素の生成抑制機構や消去機構が十分に機能しない場合、あるいは老化や外因ストレスといった要因により活性酸素の生成が増加した場合には、活性酸素が過剰に存在することとなり、脂質の過酸化などが引き起こされる。その結果、種々の障害や疾患を生じることが知られている。
【0003】
上記のような活性酸素による生体内での酸化を防止するため、様々な抗酸化剤が開発されている。例えば、ニンニクから得られる発酵物(特許文献1)、ゴーヤから得られる発酵物(特許文献2)、タマネギの乳酸発酵物(特許文献3)、柑橘類外皮を含む発酵物(特許文献4)、プロアントシアニジンおよび、アスタキサンチン、ユビキノン、リグナン類、クルクミン、およびクルクミン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する組成物(特許文献5)などが知られている。しかしながら、松樹皮抽出物とセサミンとを含有する抗酸化剤について、松樹皮抽出物とセサミンをどのような配合比で配合した場合に、特に優れた抗酸化作用が期待できるかについては不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−94853号公報
【特許文献2】特開2006−75083号公報
【特許文献3】特開2005−97222号公報
【特許文献4】特開2004−189718号公報
【特許文献5】特開2005−21098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、松樹皮抽出物とセサミンとを含有し、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有することを特徴とする、抗酸化剤を提供することを目的とする。さらに好ましくは、セサミンがゴマ油由来であることを特徴とする、前記抗酸化剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、松樹皮抽出物とセサミンとを含有する組成物の抗酸化作用について鋭意検討した結果、松樹皮抽出物とセサミンとを含有し、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有させた場合に、特に優れた抗酸化作用が認められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、松樹皮抽出物とセサミンとを含有し、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有することを特徴とする、抗酸化剤に関する。さらに好ましくは、セサミンがゴマ油由来であることを特徴とする、前記抗酸化剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、松樹皮抽出物とセサミンとを含有し、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有することを特徴とする、抗酸化剤を用いることにより、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類、化粧品類として経口または経皮で用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、下記実施形態の記載により限定して解釈するべきでなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0010】
本発明に用いられる松樹皮抽出物は、主な有効成分の一つとして、プロアントシアニジンを含有する。プロアントシアニジンは、フラバン−3−オールおよび/またはフラバン−3,4−ジオールを構成単位とする重合度が2以上の縮重合体からなる化合物群をいう。植物が作り出す強力な抗酸化物質であり、植物の葉、樹皮、果実の皮および種に集中的に含まれている。このプロアントシアニジンは、ヒトの体内では生成することができない物質である。
【0011】
松樹皮抽出物には、プロアントシアニジンとして重合度が2以上の縮重合体が含有され、さらにカテキンなどが含有される。特に、重合度が低い縮重合体が多く含まれるプロアントシアニジンが好ましく用いられる。重合度の低い縮重合体としては、重合度が2〜30の縮重合体(2〜30量体)が好ましく、重合度が2〜10の縮重合体(2〜10量体)がより好ましく、重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体)がさらに好ましい。重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体)のプロアントシアニジンは、特に体内に吸収されやすい。本明細書では、上記の重合度が2〜4の重合体を、オリゴメリック・プロアントシアニジン(oligomeric proanthocyanidin、以下「OPC」という)という。
【0012】
また、松樹皮抽出物としては、重合度が2〜4の縮重合体(2〜4量体;すなわち、OPC)を15質量%、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%の割合で含有し、5量体以上のプロアントシアニジンを10質量%以上、好ましくは15質量%以上の割合で含有する抽出物が好ましい。
【0013】
上記松樹皮抽出物には、さらにカテキン(catechin)類が含有され得る。このカテキン類は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上の割合で含有される。カテキン類は、上記抽出方法によって、プロアントシアニジン(OPC)とともに抽出され得る。カテキン類とは、ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称である。カテキン類としては、(+)−カテキン(狭義のカテキンといわれる)、(−)−エピカテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、およびアフゼレキンなどが知られている。上記松樹皮抽出物からは、上記の(+)−カテキンの他、ガロカテキン、アフゼレキン、ならびに(+)−カテキンまたはガロカテキンの3−ガロイル誘導体が単離されている。カテキン類には、発癌抑制作用、活性酸素やフリーラジカルの消去作用、および抗酸化作用などがあることが知られている。カテキン類は、単独では水溶性が乏しく、その生理活性が低いが、OPCの存在下では、水溶性が増すと同時に活性化する性質がある。従って、カテキン類はOPCとともに摂取することで効果的に作用する。
【0014】
カテキン類は、上記松樹皮抽出物に、5質量%以上含有されていることが好ましい。より好ましくは、OPCを20質量%以上、かつ5量体以上のプロアントシアニジンを10質量%以上含有する松樹皮抽出物に、カテキン類が5質量%以上含有されるのが好ましい。例えば、松樹皮抽出物のカテキン類含有量が5質量%未満の場合、含有量が5質量%以上となるようにカテキン類を添加してもよい。カテキン類を5質量%以上含有し、OPCを20質量%以上、かつ5量体以上のプロアントシアニジンを10質量%以上含有する松樹皮抽出物を用いることが最も好ましい。
【0015】
本発明に用いられる松樹皮抽出物としては、フランス海岸松(Pinus Martima)、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどの樹皮抽出物が好ましく用いられる。中でも、フランス海岸松の樹皮抽出物が好ましく用いられる。
【0016】
フランス海岸松は、南仏の大西洋沿岸の一部に生育している海洋性松をいう。このフランス海岸松の樹皮は、フラボノイド類であるプロアントシアニジン(proanthocyanidin)を主要成分として含有する他に、有機酸並びにその他の生理活性成分などを含有している。この主要成分であるプロアントシアニジンには、活性酸素を除去する強い抗酸化作用があることが知られている。
【0017】
松樹皮抽出物は、上記松の樹皮を水または有機溶媒で抽出して得られる。水を用いる場合には温水、または熱水が用いられる。抽出に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどの食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒が好ましく用いられる。これらの水、有機溶媒は単独で用いてもよいし、組合わせて用いてもよい。特に、熱水、含水エタノール、含水プロピレングリコールなどが好ましく用いられる。
【0018】
松樹皮からの抽出方法は特に制限はないが、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法などが用いられる。
【0019】
超臨界流体抽出法とは、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて抽出を行う方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)などが用いられるが、二酸化炭素が好ましく用いられる。
【0020】
超臨界流体抽出法では、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程と、目的成分と超臨界流体を分離する分離工程とを行う。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
【0021】
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、抽出流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類を2〜20W/V%程度添加し、この流体を用いて超臨界流体抽出を行うことによって、OPC、カテキン類などの目的とする抽出物の抽出溶媒に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、効率的な松樹皮抽出物を得る方法である。
【0022】
超臨界流体抽出法は、比較的低い温度で操作できるため、高温で変質・分解する物質にも適用できるという利点、抽出流体が残留しないという利点、溶媒の循環利用が可能であるため、脱溶媒工程などが省略でき、工程がシンプルになるという利点がある。
【0023】
また、松樹皮からの抽出は、上記の抽出法以外に、液体二酸化炭素回分法、液体二酸化炭素還流法、超臨界二酸化炭素還流法などの方法によって行ってもよい。
【0024】
松樹皮からの抽出は、複数の抽出方法を組み合わせてもよい。複数の抽出方法を組み合わせることにより、種々の組成の松樹皮抽出物を得ることが可能となる。
【0025】
上記抽出により得られた松樹皮抽出物は、限外濾過、あるいは吸着性担体(ダイヤイオンHP−20、Sephadex−LH20、キチンなど)を用いたカラム法またはバッチ法により精製を行うことが安全性の面から好ましい。
【0026】
本発明に用いられるセサミンとしては特に制限されるものではなく、通常入手可能なセサミンやセサミンを含有する物質などが用いられる。好ましくは、セサミンを含有するゴマ油が用いられる。
【0027】
本発明に用いられるセサミンの配合比としては、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有し、さらに好ましくは、セサミンを1〜10重量部、最も好ましくは、セサミンを1〜5重量部の割合で含有する。
【0028】
本発明に記載の抗酸化剤は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類、化粧品類として経口または経皮で用いることができる。
【0029】
飲食品類としては、本発明に記載の抗酸化剤をそのまま、または種々の栄養成分を加えて、食用に適した形態、例えば、粉末状・粒状・顆粒状・液状・ペースト状・クリーム状・タブレット状・カプセル状・カプレット状・ソフトカプセル状・錠剤状・棒状・板状・ブロック状・丸薬状・固形状・ゲル状・ゼリー状・グミ状・ウエハース状・ビスケット状・飴状・チュアブル状・シロップ状・スティック状などに成形して食品素材として提供することができる。また、水、牛乳、豆乳、果汁飲料、乳清飲料、清涼飲料、青汁、ヨーグルトなどに添加して使用してもよい。
【0030】
化粧品類としては、例えば、化粧水、化粧クリーム、乳液、クリーム、パック、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディシャンプー、洗顔剤、石鹸、ファンデーション、整髪料などの形態で化粧品素材として使用できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定して解釈すべきではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0032】
(被験物質の調製)
松樹皮抽出物(株式会社東洋新薬製)およびセサミン(セサミンを1.6重量%含有するゴマ油)を表1に記載した割合にて、トウモロコシ油に溶解または懸濁させて、被験物質の調製を行った。
【0033】
【表1】

【0034】
(生体内脂質過酸化抑制作用の測定)
1群5〜8匹の9週齢のSD系雄性ラットに、各被験物質を単回強制経口投与した。投与量は、5mL/kgとした。被験物質投与の1時間後に、鉄ニトリロ三酢酸(Fe−NTA)を9mg
Fe/kgの投与量にて腹腔内投与した。Fe−NTAの投与前および投与4時間後に眼窩静脈叢から採血し、血清を採取した。血清中過酸化脂質(TBARS)量を測定し、各被験物質の抗酸化作用を評価した。
【0035】
測定した血清中TBARS量を用いて、以下の式から、血清中TBARS量の変化量(ΔTBARS)を算出した。結果を表2に示す。なお、ΔTBARSが小さいほど、血清中の過酸化脂質が抑制されていることを意味しており、抗酸化作用が高いことを示す。
【0036】
【数1】

【0037】
【表2】

【0038】
表2の結果から、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有した被験物質を投与した群(実施例1)においては、コントロール群(比較例1)に比べてΔTBARSの値が著しく小さかった。松樹皮抽出物を単独で投与した群(実施例2)においても、比較例1に比べてΔTBARSの値が小さかったが、その抑制の程度は実施例1には及ばなかった。一方、セサミン(ゴマ油)を単独で投与した群(実施例3)においては、比較例1に比べて大きな差異は認められなかった。
【0039】
このことから、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有した被験物質を投与した場合には、それぞれを単独で投与した場合の結果からは予想できない程顕著な相乗効果が認められ、著しく血清中の過酸化脂質が抑制されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に記載の抗酸化剤は、松樹皮抽出物とセサミンとを含有し、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有することを特徴としており、優れた抗酸化作用を示す。本発明に記載の抗酸化剤は、そのまま、または種々の成分を加えて、飲食品類、化粧品類として経口または経皮で用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
松樹皮抽出物とセサミンとを含有し、松樹皮抽出物100重量部に対してセサミンを1〜100重量部含有することを特徴とする、抗酸化剤。
【請求項2】
セサミンがゴマ油由来であることを特徴とする、請求項1に記載の抗酸化剤。

【公開番号】特開2011−32334(P2011−32334A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178380(P2009−178380)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】