説明

押出成形金型、押出成形装置および医療用チューブ

【課題】 一端側部分と他端側部分とが特性の異なる成形材料からなり、その移行部が外層と内層とからなる医療用チューブを成形する際に、異なる成形材料の容積比を滑らかに、かつ急激に変化させることのできる押出成形金型、押出成形装置および医療用チューブを提供すること。
【解決手段】 押出成形金型20を、外周側凹部21aが形成された角ボディー21と、外周側凹部21a内に設置され外周側凹部21aとの間に外周側流路Aを形成するとともに内周側凹部22aが形成された外側マンドレル22と、内周側凹部22a内に設置され内周側凹部22aとの間に内周側流路Bを形成する内側マンドレル23と、外周側流路Aと内周側流路Bとを合流させて医療用チューブ10を成形するチューブ形状形成部とで構成した。そして、外周側流路Aおよび内周側流路Bを、上流側から下流側にいくにしたがって順次分岐させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の傷部から排液を排出したり、患者の傷部に薬液を供給したりするために用いられる医療用チューブを成形するための押出成形金型、押出成形装置およびそれによって成形された医療用チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の傷部に溜まる排液を排出したり、患者の傷部に薬液を供給したりするために医療用チューブが用いられており、このような医療用チューブの中に、基端側と先端側とを特性の異なる成形材料で構成することにより、例えば、硬さを変えその境界の移行部に硬さが徐々に変化する部分を形成したものがある。この硬さが異なる部分を含む医療用チューブは、異なる成形材料を注入するための二つの注入孔が形成された押出成形金型を備えた押出成形装置を用いて成形される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この成形装置は、芯線送出機、引取機および巻取機等からなる製造装置の一部を構成しており、混練スクリュー装置と、この混練スクリュー装置の両側に接続された第1可塑化スクリュー装置および第2可塑化スクリュー装置とで構成されている。混練スクリュー装置は、ダイとダイの内部に配置されたスクリューとを備えている。芯線送出機からは芯線が延びておりこの芯線は混練スクリュー装置のスクリューの内部を通過したのちに引取機を介して巻取機に延びている。そして、チューブを成形する際には、引取機で芯線を引っ張りながら、まず、第1可塑化スクリュー装置から混練スクリュー装置に硬質樹脂を供給して芯線の表面にチューブを形成する。
【0004】
つぎに、硬質樹脂の供給量を徐々に減少させながら、第2可塑化スクリュー装置から混練スクリュー装置に軟質樹脂を供給量を徐々に増加させながら供給していく。ついで、硬質樹脂の供給を停止したのちに、軟質樹脂だけを供給する。これによって、先端側が硬質で後端側が軟質になり、硬質部分と軟質部分との境界の移行部が硬質から軟質に徐々に変化していくチューブが形成される。そして、成形されたチューブは巻取機に巻き取られていく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−293770号公報
【発明の概要】
【0006】
硬質部分と軟質部分とからなる医療用チューブにおいては、硬質部分と軟質部分との移行部の長さを短くするとともに、その移行部の硬さの変化を滑らかにすることが好ましい。また、移行部を硬質樹脂と軟質樹脂との特性を十分残したまま軟質の外層と硬質の内層との二重層にすることが好ましい場合もある。しかしながら、前述した成形装置では、成形材料が混練されるダイの内周面とスクリューの外周面との間の容積が大きいため、細い医療用チューブを成形する際に、異なる成形材料の容積比を滑らかに、かつ急激に変化させることは難しい。
【0007】
このため、従来の成形装置には、硬質部分と軟質部分との移行部の長さを短くし、かつ移行部の硬度変化を滑らかにすることは難しいという問題があった。また、従来の成形装置では、混練スクリュー装置内に硬質樹脂と軟質樹脂とを同時に供給したときに混練スクリュー装置内で硬質樹脂と軟質樹脂とが混練されるため、異なる成形材料からなる外層と内層とを形成することはできない。さらに、従来の成形装置では、芯線を用いるため、製造装置が複雑になるという問題もある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その目的は、一端側部分と他端側部分とが特性の異なる成形材料からなり、その境界の移行部が外層と内層とからなる医療用チューブを成形する際に、異なる成形材料の容積比を滑らかに、かつ急激に変化させることのできる押出成形金型、押出成形装置およびそれによって成形される医療用チューブを提供することである。
【0009】
前述した目的を達成するため、本発明に係る押出成形金型の構成上の特徴は、後部から前部に貫通する先細り円錐状の外周側凹部が形成された金型本体と、金型本体の外周側凹部内に設置され外周側凹部の内周面との間に外周側流路を形成するとともに後部から前部に貫通する先細り円錐状の内周側凹部が形成された先細り円筒状の外側マンドレルと、外側マンドレルの内周側凹部内に設置され内周側凹部の内周面との間に内周側流路を形成する内側マンドレルと、金型本体の外周面から外周側凹部にかけて設けられ外層成形材料を外周側流路に注入するための外層用注入孔と、外層用注入孔に対向して金型本体の外周面から外側マンドレルを貫通して内周側凹部にかけて設けられ内層成形材料を内周側流路に注入するための内層用注入孔と、金型本体の前部で外周側流路と内周側流路とを合流させて外層成形材料と内層成形材料とを医療用チューブに形成するチューブ成形流路を有するチューブ形状形成部とを備えた押出成形金型であって、外周側流路および内周側流路を、上流側から下流側にいくにしたがって順次分岐させていくことによって、外層用注入孔および内層用注入孔からチューブ形状形成部までの長さを短くするとともに、外周側流路および内周側流路の容積を小さくしたことにある。
【0010】
前述のように構成した押出成形金型では、外層用注入孔からチューブ形状形成部のチューブ成形流路に向かって延びる外周側流路および内層用注入孔からチューブ形状形成部のチューブ成形流路に向かって延びる内周側流路を、上流側から下流側にいくにしたがって順次分岐させている。この場合の分岐は、例えば、外周側流路や内周側流路を上流端から一旦周方向の互いに反対側になる方向に延びる二つの流路に分岐させたのちに、二つの流路をそれぞれ所定の部分で先端側に延ばし、さらに二つの流路をそれぞれ周方向の互いに反対側になる方向に延びる二つの流路に分岐させるといったことを繰り返すことである。このため、外層用注入孔および内層用注入孔からチューブ形状形成部までの軸方向の長さを短くすることができるとともに、外周側流路および内周側流路の容積を小さくすることができる。
【0011】
すなわち、外層成形材料と内層成形材料との容積比を滑らかに、かつ急激に変化させるためには、外層用注入孔および内層用注入孔からチューブ形状形成部までの長さを短くすることと、外周側流路および内周側流路の容積を小さくすることが効果的であることを、本発明者は、各種の実験等により見出した。このため、本発明は、外周側流路および内周側流路を、上流側から下流側にいくにしたがって順次分岐させていくことにより、外層用注入孔および内層用注入孔からチューブ形状形成部までの長さを限界まで短くするとともに、外周側流路および内周側流路の容積を小さくしたものである。また、外層用注入孔と内層用注入孔とは、対向して、すなわち金型本体の両側部分に配置されるが、この場合、外層用注入孔と内層用注入孔との軸方向が同一直線上に位置するようにすることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る押出成形金型の他の構成上の特徴は、外周側流路と内周側流路とを、分岐して周方向の互いに反対側になる方向にそれぞれ延びる部分と周方向に略直交して下流側に延びる部分とからなる分岐部と、分岐部の各下流端から螺旋状に延びたのちに円周方向に連なる下流端部とで構成したことにある。これによると、外周側流路および内周側流路を、上流側から下流側にいくにしたがって順次分岐させていくことに加えて、分岐部の各下流端から螺旋状に延びたのちに円周方向に連なる下流端部を設けることによって、さらに、外層用注入孔および内層用注入孔からチューブ形状形成部までの全体の長さを短くするとともに、外周側流路および内周側流路の全体の容積を小さくすることができる。
【0013】
また、本発明に係る押出成形金型のさらに他の構成上の特徴は、外周側流路の分岐部を外側マンドレルの外周面の周方向の1周以内の範囲に設けるとともに、内周側流路の分岐部を内側マンドレルの外周面の周方向の1周以内の範囲に設けたことにある。これによると、好適な形状および長さを備えた外周側流路と内周側流路とを形成することができる。なお、外周側流路と内周側流路との分岐部の周方向の長さは、それぞれ外側マンドレルの外周面や内側マンドレルの外周面の周方向の半周から1周の間に設定することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る押出成形装置の構成上の特徴は、前述した押出成形金型を備えるとともに、外層用注入孔および内層用注入孔にそれぞれスクリューを備えた押出機を接続し、両押出機のスクリュー回転比を調整することにより、外層成形材料と内層成形材料との注入量を変更できるようにしたことにある。これによると、外層成形材料と内層成形材料との注入量を正確に制御できる。
【0015】
また、本発明に係る医療用チューブの構成上の特徴は、前述した押出成形装置を用いて成形され、先端側部分と後端側部分とが特性の異なる外層成形材料と内層成形材料とからなるとともに、その境界の移行部が徐々に容積比が変化する外層成形材料からなる外層と内層成形材料からなる内層とで構成されていることにある。
【0016】
これによると、先端側部分と後端側部分とが硬度等の特性が異なる外層成形材料と内層成形材料とからなるとともに、その境界の移行部が外層成形材料と内層成形材料との容積比が滑らかに変化する外層と内層とからなりその移行部の長さが短くなった医療用チューブを得ることができる。この場合、先端側部分と後端側部分とは、完全に異なる成形材料で構成してもよいし、一方が、外層成形材料の中に僅かな内層成形材料が含まれたもので、他方が、内層成形材料の中に僅かな外層成形材料が含まれたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態により成形された医療用チューブを示しており、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は背面図、(d)は(a)のd−d断面図である。
【図2】押出成形金型の断面図である。
【図3】外側マンドレルの断面図である。
【図4】外側マンドレルの外周面の展開図である。
【図5】内側マンドレルの断面図である。
【図6】内側マンドレルの外周面の展開図である。
【図7】ランド部の正面図である。
【図8】ブッシングを示しており、(a)は正面図、(b)は(a)のb−b断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る医療用チューブ10を示している。この医療用チューブ10は、軟質のポリウレタンからなる略円筒状の成形体で構成されており、一方側(図1(a)の右側)が軟質部11で構成され、他方側(図1(a)の左側)が軟質部11よりもやや硬い硬質部12で構成されている。そして、軟質部11と硬質部12との間に軸方向の長さが短い移行部13が形成されている。軟質部11の内部には軟質部11内を二分する隔壁部11a(図1(b)参照)が軸方向に沿って形成され、硬質部12の内部には硬質部12内を二分する隔壁部12a(図1(c)参照)が軸方向に沿って形成されている。
【0019】
移行部13は、外周円筒部が軟質の外層13aと硬質の内層13bとからなる二層で構成され、軸方向に沿って形成され移行部13内を二分する隔壁部13cが硬質部で構成されている。図1(d)は移行部13の軸方向の中央部の断面を示している。なお、図示していないが、移行部13における軟質部11側部分は、図1(d)に示した状態よりも外層13aの厚みが厚くなり、内層13bの厚みが薄くなる。そして、隔壁部13cの厚み方向の中央側には隔壁部13cの左右両側から中央部に向かって外層13aが食い込むようになる。また、移行部13における硬質部12側部分は、図1(d)に示した状態よりも外層13aの厚みが薄くなり、内層13bの厚みが厚くなる。
【0020】
隔壁部11a、隔壁部13cおよび隔壁部12aは連続して延びており、これによって、医療用チューブ10の内部には、薬液等の液体を通すための二つの流路14a,14bが形成されている。この医療用チューブ10は、例えば、外径が4.13mm、内径が3.43mm、隔壁部11a,13c,12aの厚みが0.37mm、移行部13の軸方向の長さが20〜30mmに設定されている。なお、後述するように、軟質部11の内周側に僅かな硬質材料が含まれ、硬質部12の外周側に僅かな軟質材料が含まれるが、これらからなる層は、極薄いものであるため、図1(b)では硬質材料で構成される層を省略し、図1(c)では軟質材料で構成される層を省略している。
【0021】
このように構成された医療用チューブ10は、ポリウレタンからなる硬度の異なる二種類の軟質熱可塑性の成形材料を、図2に示した押出成形金型20を備えた押出成形装置を用いて成形することにより得られる。押出成形金型20は、本発明に係る金型本体としての角ボディー21と、角ボディー21内に設置された外側マンドレル22と、外側マンドレル22内に設置された内側マンドレル23と、角ボディー21の前部中央に設けられたブッシング24と、角ボディー21の前面とブッシング24の前面外周側にかけて設けられたブッシング押さえ25とを備えている。
【0022】
角ボディー21は、略矩形のブロック体からなっており、その後端面中央から前端面中央に向って断面形状が円形で先細り状(略円錐状)の外周側凹部21aが形成されている。そして、角ボディー21の外周面の一方(図2の上方)における中央よりもやや後部側に材料供給口26が形成され、角ボディー21の外周面の他方(図2の下方)における中央よりもやや後部側に材料供給口27が形成されている。材料供給口26から外周側凹部21aに向かって外層用注入孔26aが延びており、材料供給口27から外周側凹部21aに向かって内層用注入孔外側部27aが延びている。この外層用注入孔26aと内層用注入孔外側部27aとはそれぞれの中心軸が同一線上に位置するようにして配置されている。また、角ボディー21の前面中央には、ブッシング24を設置するための凹部21bが形成されている。
【0023】
外側マンドレル22は、図3に示したように、先細りの略円筒状に形成されており、その後端面中央から前端面中央に向って断面形状が円形で先細り状の内周側凹部22aが形成されている。この外側マンドレル22の後端周縁部には、フランジ状の被固定部22bが形成されており、外側マンドレル22は、外周面の大部分および被固定部22bの前面を、角ボディー21の外周側凹部21aの内周面および後端面に密着させた状態で角ボディー21の外周側凹部21a内に設置される。また、外側マンドレル22の外周面には、図4(外周面の展開図)に示したように、外周側流路用溝28が形成されている。この外周側流路用溝28の上流端(図2ないし図4では左端)は、外層用注入孔26aの下方に位置し、外周側流路用溝28の下流端は外側マンドレル22の先端に位置している。
【0024】
また、外周側流路用溝28は、上流に位置し周方向よりも前後方向に長い楕円状の材料受凹部28aと、材料受凹部28aから下流側に進むにつれて複数の流路に分岐する分岐部28bと、分岐部28bの各下流端の下流で螺旋状に延びたのちに周方向に連なった螺旋状部分とリング状部分とからなる下流端部28cとで構成されている。この外周側流路用溝28の分岐部28bは、正面視(図3を右側から見た状態)で、まず、材料受凹部28aの下流端から分岐して周方向の反対側にそれぞれ90度の角度まで延びる二つの流路を形成したのちに、各流路は外側マンドレル22の先端側に少し延びている。
【0025】
ついで、各流路はそれぞれ分岐して周方向の反対側にそれぞれ45度の角度まで延びる二つの流路を形成したのちに、4つの各流路は外側マンドレル22の先端側に少し延びている。そして、4つの流路の下流側に、螺旋状に延びたのちに周方向に連なった下流端部28cが形成されている。なお、図4では、外周側流路用溝28は、上流側よりも下流側の方が周方向に広がるようにして延びているが、実際には、外側マンドレル22の外径が上流側から下流側にいくほど小さくなっているため、各流路の下流側は分岐しながら互いに接近している。また、分岐部28bの周方向の最大幅は角度で270度になっている。
【0026】
そして、外側マンドレル22における材料受凹部28aの上流端から円周方向に半周した部分に、内層用注入孔外側部27aに対して真っ直ぐに連通する内層用注入孔内側部27bが、外側マンドレル22の外周面から内周側凹部22aに向かって延びている。前述した内層用注入孔外側部27aと内層用注入孔内側部27bとで本発明に係る内層用注入孔が構成される。また、外周側流路用溝28と、外周側凹部21aの内周面における外周側流路用溝28に対向する部分とで、本発明に係る外周側流路Aが構成される。
【0027】
内側マンドレル23は、図5に示したように、先細りの略円錐体で構成されており、その後端面中央から前部側に向って内圧エア供給用の孔23aが形成されている。この内側マンドレル23の後端周縁部には、フランジ状の被固定部23bが形成されており、内側マンドレル23は、外周面の大部分および被固定部23bの前面を、外側マンドレル22の内周側凹部22aの内周面および被固定部22bの後端面に密着させた状態で外側マンドレル22の内周側凹部22a内に設置される。また、内側マンドレル23の外周面には、図6(外周面の展開図)に示したように、内周側流路用溝29が形成されている。この内周側流路用溝29の上流端近傍(図2、図5および図6では左端近傍)は、図2に示したように、内層用注入孔内側部27bの上方に位置し、内周側流路用溝29の下流端は内側マンドレル23の先端近傍に位置している。
【0028】
また、内周側流路用溝29は、上流に位置し周方向よりも前後方向に長い楕円状の材料受凹部29aと、材料受凹部29aから下流側に進むにつれて複数の流路に分岐する分岐部29bと、分岐部29bの各下流端の下流で螺旋状に延びたのちに周方向に連なった螺旋状部分とリング状部分とからなる下流端部29cとで構成されている。この内周側流路用溝29の分岐部29bは、正面視(図5を右側から見た状態)で、まず、材料受凹部29aの後端から分岐して周方向の反対側にそれぞれ90度の角度まで延びる二つの流路を形成したのちに、各流路は内側マンドレル23の先端側に少し延びている。
【0029】
ついで、各流路はそれぞれ分岐して周方向の反対側にそれぞれ45度の角度まで延びる二つの流路を形成したのちに、4つの各流路は内側マンドレル23の先端側に少し延びている。そして、4つの流路の下流側に、周方向に連なった下流端部29cが形成されている。下流端部29cの軸方向の長さは、前述した下流端部28cの軸方向の長さよりもやや長くなっている。この場合も、図6では、内周側流路用溝29は、上流側よりも下流側の方が周方向に広がるようにして延びているが、実際には、内側マンドレル23の外径が上流側から下流側にいくほど小さくなっているため、各流路の下流側は分岐しながら互いに接近している。この場合も、分岐部29bの周方向の最大幅は角度で270度になっている。
【0030】
また、内周側流路用溝29と、内周側凹部22aの内周面における内周側流路用溝29に対向する部分とで、本発明に係る内周側流路Bが構成される。外周側流路Aと内周側流路Bとは、外側マンドレル22の先端側で、かつ内側マンドレル23の先端近傍部分で合流している。すなわち、内側マンドレル23の先端側には、チューブ内周面形成部31が形成されており、内側マンドレル23は、チューブ内周面形成部31を外側マンドレル22の先端開口22cから突出させた状態で外側マンドレル22の内周側凹部22a内に設置されている。
【0031】
チューブ内周面形成部31は、円柱状の基部31aと、基部31aの先端側に位置し、後部よりも先端側が徐々に細径になったテーパ部31bと、テーパ部31bの先端側に位置する略円柱状のランド部31cとで構成されている。そして、ランド部31cの中央には、図7に示したように、スリット31dが形成されている。基部31aは、外周側凹部21aの内周面との間に外周側流路Aと内周側流路Bとが合流したのちに進む下流側流路を形成するための隙間を設けた状態で、角ボディー21の外周側凹部21a内に配置されており、テーパ部31bとランド部31cとは、角ボディー21の外周側凹部21aから外部に突出している。
【0032】
ブッシング24は、図8に示したように、後部のフランジ状部24aと前部の円筒状部24bとで構成されており、フランジ状部24aを角ボディー21の凹部21b内に配置させて角ボディー21に組み付けられている。フランジ状部24aの後端面中央から前端面中央に向って断面形状が円形で先細り状の外周面形成凹部24cが形成され、円筒状部24bには、外周面形成凹部24cの先端細径部と同じ径の外周面形成凹部24dが外周面形成凹部24cと連通して形成されている。
【0033】
そして、外周面形成凹部24c内に、チューブ内周面形成部31のテーパ部31bが外周面形成凹部24cの内周面との間に流路を形成するための隙間を設けた状態で配置され、外周面形成凹部24d内に、チューブ内周面形成部31のランド部31cが外周面形成凹部24dの内周面との間に流路を形成するための隙間を設けた状態で配置されている。外周面形成凹部24cの内周面とチューブ内周面形成部31のテーパ部31bの外周面との間の隙間は、外周側流路Aから送られてくるより軟質の軟質材料、内周側流路Bから送られてくる軟質材料より硬質の硬質材料、または軟質材料と硬質材料とを医療用チューブ10の太さに絞る。
【0034】
そして、外周面形成凹部24dの内周面とチューブ内周面形成部31のランド部31cの外周面との間の隙間は、軟質材料や硬質材料を所定の太さにして外部に送り出す。この場合、外周面形成凹部24dの内周面で、医療用チューブ10の外周面が形成され、チューブ内周面形成部31の外周面とスリット31dの内面とで医療用チューブ10の内周面および隔壁部11a,13c,12aが形成される。なお、前述した軟質材料は、本発明の外層形成材料を構成し、硬質材料は、本発明の内層形成材料を構成する。また、チューブ内周面形成部31と、チューブ内周面形成部31の外周面に対向する内周面を備えた角ボディー21の前部およびブッシング24で、本発明に係るチューブ成形流路Cを備えたチューブ形状形成部が構成される。
【0035】
ブッシング押さえ25は、中央に円形の穴部25aが形成された円形のプレートで構成されており、円筒状部24bを穴部25a内に入れた状態で、ブッシング24のフランジ状部24aの前側に設置されている。なお、図示していないが、ブッシング押さえ25はボルトによって角ボディー21に固定されており、これによってブッシング24は、角ボディー21の凹部21b内に固定されている。また、内側マンドレル23の被固定部23bはボルト32a,32bによって、外側マンドレル22の被固定部22bに固定され、外側マンドレル22の被固定部22bはボルト(図示せず)によって角ボディー21に固定されている。
【0036】
本実施形態においては、例えば、外層用注入孔26a、内層用注入孔外側部27aおよび内層用注入孔内側部27bの内径を5〜10mmとしたときには、外層用注入孔26a、内層用注入孔外側部27aおよび内層用注入孔内側部27bの中心軸からチューブ内周面形成部31の先端までの長さを30〜60mm程度とする。これによると、軟質材料や硬質材料の注入速度に軟質材料や硬質材料が敏感に応答して移行部13の長さが短い医療用チューブ10を成形することができる。
【0037】
なお、図示していないが、押出成形金型20が取り付けられる押出成形装置には、押出成形金型20と押出成形装置とをつなぎ、材料供給口26から外層用注入孔26a側に軟質材料を送り込むアダプタ、材料供給口27から内層用注入孔側に硬質材料を送り込むアダプタ、材料供給口26,27に送り込む成形用材料を加熱する加熱シリンダー、加熱シリンダー内に設置されたスクリュー、押出成形金型20の周辺に設けられた各装置を制御する制御装置等、押出成形金型20を用いて押出成形を行うために必要な各装置や機構が備わっている。なお、内側マンドレル23の孔23aを利用して、加熱用のヒータや冷却水路を設置することもできる。
【0038】
このように構成された押出成形装置を用いて、医療用チューブ10を成形する場合には、まず、押出成形金型20を適正温度に加熱したのちに、各材料投入口(図示せず)に投入した軟質材料と硬質材料とをそれぞれ各加熱シリンダーで加熱する。ついで、軟質材料を軟質材料送り出し用のスクリューの回転で送り出して、アダプタを介して外層用注入孔26a内に充填する。この場合、硬質材料送り出し用のスクリューも回転速度を最低程度の低速にして回転させる。これによって、硬質材料は、硬質材料送り出し用のスクリューの回転で極少量づつ送り出され、アダプタを介して内層用注入孔内に充填される。
【0039】
さらに、軟質材料を送り出して、軟質材料を外層用注入孔26aから外周側流路A内に移動させていく。このとき、軟質材料は、外周側流路Aの材料受凹部28aから分岐部28bに流れて複数の流路に分岐したのちに、下流端部28cでリング状に連なる。また、硬質材料は、内層用注入孔から内周側流路B内に移動していく。このとき、硬質材料は、内周側流路Bの材料受凹部29aから分岐部29bに流れて複数の流路に分岐したのちに、下流端部29cでリング状に連なる。
【0040】
さらに、軟質材料と硬質材料とは、ブッシング24やチューブ内周面形成部31で形成されるチューブ成形流路Cに移動していく。これによって、円筒状の軟質材料は、内周側に極僅かな硬質材料を含ませて、設定された医療用チューブ10の太さよりもやや太い太さに変形していく。そして、軟質材料と硬質材料とは、その形状を維持したままチューブ成形流路Cの先端から外部に押し出されたのちに冷却され径方向に収縮したのちに、設定された太さの医療用チューブ10の軟質部11が成形される。この押出成形の際、軟質材料等は、適度な温度に加熱されて外層用注入孔26aから外周側流路Aを通過してチューブ成形流路Cに移動するまでに徐々に変形していくため、無理なく成形されていく。
【0041】
つぎに、軟質材料送り出し用のスクリューの回転速度を徐々に低速にしながら、硬質材料送り出し用のスクリューの回転速度を徐々に高速にしていく。これによって、軟質材料は、注入量を徐々に減少させながら外層用注入孔26aから外周側流路A内に移動していく。また、硬質材料は、注入量を徐々に増加させながら内層用注入孔から内周側流路B内に移動していく。そして、チューブ成形流路C内で、軟質材料と硬質材料とは、徐々にその割合を変更しながら外層と内層からなる二層の円筒体に形成されていく。二層の円筒体は、その形状を維持したままチューブ成形流路Cから外部に押し出されたのちに冷却され医療用チューブ10の移行部13になる。
【0042】
この際、外周側流路Aと内周側流路Bとの容積が小さいことに加え、外層用注入孔26aや内層用注入孔内側部27bからチューブ成形流路Cの先端までの長さが短いため、各スクリューの回転速度を変えたときに、その回転速度に軟質材料と硬質材料との注入量が敏感に応答する。このため、移行部13の長さを極力短くすることができる。つぎに、軟質材料送り出し用のスクリューの回転速度が最低程度の低速になり、硬質材料送り出し用のスクリューの回転速度が高速になったときに、両スクリューの回転速度を一定にする。これによって、円筒状の硬質材料の外周側に僅かな軟質材料が含まれた硬質部12が成形される。そして、得られた医療用チューブ10は、軟質部11、移行部13および硬質部12からなり寸法精度が良好な成形品になる。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る押出成形金型20では、外層用注入孔26aからチューブ成形流路Cに向かって延びる外周側流路Aおよび内層用注入孔からチューブ成形流路Cに向かって延びる内周側流路Bを、上流側から下流側にいくにしたがって順次分岐させている。そして、外周側流路を構成する外周側流路用溝28は、複数の流路に分岐する分岐部28bと、分岐部28bの下流で螺旋状に延びたのちに周方向に連なった下流端部28cとで構成され、内周側流路を構成する内周側流路用溝29は、複数の流路に分岐する分岐部29bと、分岐部29bの下流で螺旋状に延びたのちに周方向に連なった下流端部29cとで構成されている。
【0044】
このため、外層用注入孔26aおよび内層用注入孔からチューブ成形流路Cまでの長さを短くすることができるとともに、外周側流路Aおよび内周側流路Bの容積を小さくすることができる。これによって、軟質材料と硬質材料との容積比を滑らかに、かつ急激に変化させることができ、移行部13の長さも短くすることができる。
【0045】
さらに、外周側流路用溝28の分岐部28bおよび内周側流路用溝29の分岐部29bを外側マンドレル22や内側マンドレル23の周方向の270度以内の範囲に設けたため、好適な形状および長さを備えた外周側流路Aと内周側流路Bとを形成することができる。また、本実施形態に係る押出成形装置は、押出成形金型20の材料供給口26,27側にそれぞれスクリューを備えた加熱シリンダー(本発明に係る押出機)を接続し、各加熱シリンダーのスクリュー回転比を調整することにより、軟質材料と硬質材料との注入量を変更できるようにしている。これによると、軟質材料と硬質材料との注入量を正確に制御できる。
【0046】
また、本実施形態に係る押出成形装置によると、先端側部分と後端側部分とが硬さの異なる軟質部11と硬質部12とからなるとともに、その間に、軟質の外層13aと硬質の内層13bとからなりその容積比が滑らかに変化する長さの短い移行部13が形成された医療用チューブ10を得ることができる。この医療用チューブ10によると、軟質部11を患者の体内の奥側に入れて患者の体に対する刺激を少なくするとともに、硬質部12を患者の体外に延ばして操作をし易くしたり、潰れ難くしたりすることができる。また、移行部13は、内部が固く表面が軟らかくなるため腰を強くしながら患者への刺激を少なくすることができる。また、本実施形態に係る押出成形装置は、成形材料の注入量を制御するために、バルブ等の流路開閉ではなく、スクリューの回転比を可変させる装置を用いたため、急激な圧力変化が生じず精度のよい成形を行える。
【0047】
また、本発明に係る医療用チューブおよび押出成形金型は、前述した実施形態に限定するものでなく、本発明の技術範囲内で適宜変更が可能である。例えば、前述した実施形態では、医療用チューブを二つの流路14a,14bを備えた医療用チューブ10としているが、この医療用チューブは、隔壁部11a等のない一つの流路を備えた医療用チューブでもよいし、三つ以上の流路を備えた医療用チューブでもよい。さらに、医療用チューブを構成する軟質の熱可塑性樹脂についてもポリウレタンに限らずポリ塩化ビニル等の他の材料を用いることもできる。また、硬質材料と軟質材料との色を異なるものにして、区別できるようにすることもできる。
【0048】
さらに、前述した実施形態では、成形材料の特性を、硬度としているが、他の特性としてもよい。例えば、医療用チューブの内層をガイドワイヤの通りをよくするために、ポリプロピレンなどの高い滑性を備えた材料で構成し、外層を軟らかいオレフィンエラストマーで構成することができる。また、医療用チューブの内層を耐薬剤性のある芳香族ポリウレタンで構成し、外層を体温により軟化する性質を備えた脂肪族ポリウレタンで構成することもできる。さらに、これ以外の種々の特性を備えた成形材料を組み合わせて医療用チューブの内層と外層とを構成することができる。また、本発明に係る医療用チューブの移行部は、医療用チューブの長手方向の中間部に限らず両端部のどちらか寄りに設けられていてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
10…医療用チューブ、11…軟質部、12…硬質部、13…移行部、13a…外層、13b…内層、20…押出成形金型、21…角ボディー、21a…外周側凹部、22…外側マンドレル、22a…内周側凹部、23…内側マンドレル、24…ブッシング、24c,24d…外周面形成凹部、26a…外層用注入孔、27a…内層用注入孔外側部、27b…内層用注入孔内側部、28…外周側流路用溝、28b,29b…分岐部、28c,29c…下流端部、29…内周側流路用溝、31…チューブ内周面形成部、A…外周側流路、B…内周側流路、C…チューブ成形流路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部から前部に貫通する先細り円錐状の外周側凹部が形成された金型本体と、
前記金型本体の外周側凹部内に設置され前記外周側凹部の内周面との間に外周側流路を形成するとともに後部から前部に貫通する先細り円錐状の内周側凹部が形成された先細り円筒状の外側マンドレルと、
前記外側マンドレルの内周側凹部内に設置され前記内周側凹部の内周面との間に内周側流路を形成する内側マンドレルと、
前記金型本体の外周面から前記外周側凹部にかけて設けられ外層成形材料を前記外周側流路に注入するための外層用注入孔と、
前記外層用注入孔に対向して前記金型本体の外周面から前記外側マンドレルを貫通して前記内周側凹部にかけて設けられ内層成形材料を前記内周側流路に注入するための内層用注入孔と、
前記金型本体の前部で前記外周側流路と前記内周側流路とを合流させて前記外層成形材料と前記内層成形材料とを医療用チューブに形成するチューブ成形流路を有するチューブ形状形成部とを備えた押出成形金型であって、
前記外周側流路および前記内周側流路を、上流側から下流側にいくにしたがって順次分岐させていくことによって、前記外層用注入孔および前記内層用注入孔から前記チューブ形状形成部までの長さを短くするとともに、前記外周側流路および前記内周側流路の容積を小さくしたことを特徴とする押出成形金型。
【請求項2】
前記外周側流路と前記内周側流路とを、分岐して周方向の互いに反対側になる方向にそれぞれ延びる部分と前記周方向に略直交して下流側に延びる部分とからなる分岐部と、前記分岐部の各下流端から螺旋状に延びたのちに円周方向に連なる下流端部とで構成した請求項1に記載の押出成形金型。
【請求項3】
前記外周側流路の分岐部を前記外側マンドレルの外周面の周方向の1周以内の範囲に設けるとともに、前記内周側流路の分岐部を前記内側マンドレルの外周面の周方向の1周以内の範囲に設けた請求項2に記載の押出成形金型。
【請求項4】
請求項1ないし3に記載の押出成形金型を備えた押出成形装置であって、前記外層用注入孔および前記内層用注入孔にそれぞれスクリューを備えた押出機を接続し、両押出機のスクリュー回転比を調整することにより、前記外層成形材料と前記内層成形材料との注入量を変更できるようにした押出成形装置。
【請求項5】
請求項4に記載の押出成形装置を用いて成形され、先端側部分と後端側部分とが特性の異なる前記外層成形材料と前記内層成形材料とからなるとともに、その境界の移行部が徐々に容積比が変化する前記外層成形材料からなる外層と前記内層成形材料からなる内層とで構成されている医療用チューブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−46047(P2011−46047A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195238(P2009−195238)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】