抽出物、医薬組成物、化粧用組成物、及びこれら組成物の製造方法
【課題】細胞または組織の増殖を抑制することができる細胞若しくは組織の抽出物を提供する。
【解決手段】休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする工程と、前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなるプロセスで得られた抽出物であって、前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい、抽出物であり、かつ、前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア属に属する生物体であることを特徴とする抽出物。
【解決手段】休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする工程と、前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなるプロセスで得られた抽出物であって、前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい、抽出物であり、かつ、前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア属に属する生物体であることを特徴とする抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞または組織の増殖を抑制することができる細胞若しくは組織の抽出物に関する。本発明はこうした抽出物を含む医薬組成物及び化粧用組成物、並びにこれら組成物の製造方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
休眠は植物界並びに動物界の典型例において見られる現象である。
必須の増殖器官を含む各種の穀類および種子の発芽はある種の状況下で遅延されるが、それでもその穀類または種子は様々な時間後に発芽することができる。こうした種子の発芽が遅延され得る時間は変化し、またその種子の固有の特性ならびに環境条件の性質および過激度の両方に応じて決まる。種子は数日、1年、数年およびさらに数世紀以上も休眠することが示された(これはスイレン科(ニンフェアセアエ(nympheaceae))のあるものおよびマメ科(レギュミノサエ(Leguminosae))の木の種子の場合において最近発見された(セン−ミラー Shen-Miller,J.ら、American Journal of Botany,82:1367-1380,1995))。
【0003】
ある場合においては、休眠を進行させる能力は胚包膜に存在する。こうした場合、胚からの包膜の分離の結果、直ちに発芽をもたらす。
【0004】
別の場合において、胚自体の中に発芽を妨げることができる成長抑制化学物質が存在し、この場合は裸の胚でも休眠し続ける(ヤマブキ(ケリア(Kerria))モモ(ピーチ(Peach))などのバラ科(ロザセアエ(Rosaceae))植物の場合などである)。
【0005】
植物において、休眠状態は植物全体またはその1以上の部分において見られる。休眠性植物はその成長サイクルにおいて2つの主要な代謝状態を有する植物である。休眠状態において、植物の代謝は極めて低く、ある一定の細胞の分化は起こり得るが、植物の成長過程は著しく抑制される。活動状態において、植物の代謝速度はより高く、細胞は分裂および分化し、そして植物の各種部分の顕著な成長がある。いくつかの場合、植物全体が休眠状態に入る。スイセン(ナルシサス(Narcissus)) 属植物の場合がこれであり、この場合、休眠状態中に生存し続ける部分は休眠状態にある鱗茎のみである。別の場合、例えばリンゴの木の場合のように、その他の部分が休眠中でも、その植物のある部分は活動的なものもある。
【0006】
また、新鮮な果汁中または汁液を産生するその他の植物の器官中に発芽を抑制することができる物質が存在することが示されている。その例は、トマト、ブドウ、キウイ、スイカおよびグレープフルーツで、この場合、果実中に存在する種子は、周囲の環境が発芽に好適であっても、果実中の水分によって発芽しない。
【0007】
細胞の増殖に影響を与える、植物由来のいくつかの物質が報告されている。例えば、欧州特許出願第0381514 号に、各種の細胞に対して成長抑制活性を有する、天然物由来および合成的に調製されたスフィンゴ脂質の両者を含む組成物が記載されている。各種のヒト細胞に対して抗有糸分裂効果を有する、別の周知の植物由来の物質はコルヒチン物質である(サムソン Samson,F.E.,A Rev.Pharmac.Toxic 16:143(1976) )。ナルシサス(Narcissus) アルカロイドのプレタゼチン(pretazettine)の主要な活性は抗ウイルス活性であることが示されていたが、ラウシェル(Rausher) ウイルス保有細胞に対する細胞毒性効果および白血病マウスにおける抗白血病活性を有することが示された(フルザワ Furusawa,E.ら、Chemotherapy,26:36-45,(1980)およびフルザワ Furusawa,E.ら、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,152:186-191,(1976))。 ウレックス・エウロパエウス(Ulex europaeus)の種子抽出物はある種のリンパ球の増殖を可逆的に抑制することができる非糖タンパク質レクチンを含み、そして各種の細網内皮腫瘍細胞系の増殖を抑制することが示された(ピロフスキ Pirofsky,B.ら、Vox-Sang,42:295-303,(1982)およびピロフスキ Pirofsky,B.ら、J.Biol.Response Mod.,2:175-185,(1983) )。パネクス・ギンセング(Panex ginseng) の根の抽出物はV 79チャイニーズハムスターの肺細胞の[H3]-チミジンの取り込みによって測定したDNA 合成を減少させることが示された。別の物質の、各種のナルシサス(Narcissus) 変種の鱗茎から得られたナルシクラシン(Narciclasine)はその他の活性の中でも、コムギ穀粒の根の成長を抑制することが示された(セリオッティCeriotti,G.ら、Tumors 53:359-371(1967)) 。ハワイ(Hawaii)で採取されたパンクラチウム・リットラル(Pancratium littoral)の鱗茎は各種の腫瘍細胞系の成長をインヴィトロ(in vitro)で抑制することができる、パンクラチスタチン(pancratistatin)と命名された産物を含有することが発見された(ペティPettit,G.R.ら、J.Nat.Prod.,49:995-1002(1986))。
【0008】
これとは逆に、細胞に対して反対の効果を有する、すなわちその増殖を増加させることができる、多くの植物抽出物もまた記載されている。例えば、スクテラリア・バイカレンシス・ジョルジ(Scutellaria baicalensis georgi)の根のメタノール抽出物は繊維芽細胞の細胞活性を顕著に増大させることが示された(Chung,C.P.ら、Planta-Med.61:150-153,(1995))、などである。鱗茎を有する6種の植物種中にジベレリン様成長物質が発見された(スタビーStaby,G.L.,Hort Science,399-400(1970))。ナルシサス(Narcissus) 属の鱗茎から発生した根の中で発見された数種のサイトカイニンはそれらが検出された植物の鱗茎の成長に対して影響した(ヴァンスタデン Vanstaden,J.V.,Pflanzenphysiol.,86: 323-30(1978))。
【0009】
休眠現象は動物界、例えば小さい甲殻類動物、アルテミア・サリナ(Artemia salina)においても見られる(フィナモア Finamoreおよびクレッグ Clegg:The Cell Cycle,Academic Press Ed.,249-278,1969 )。この海生甲殻類の自然環境は通常塩水湖である。受精後、アルテミアの初期発生段階には胞胚の形成が関与し、これはその後嚢胚になる。脱水(旱魃)などの厳しい環境条件下では、嚢胚は包嚢を形成することができ、この中で生物体全体が休眠期に入る。休眠中のアルテミアの嚢胚(普通「アルテミア卵(artemia eggs)」と誤って称される)は何年間もその休眠状態を持続させることが可能である。包嚢が形成された嚢胚が水分を得ると、アルテミアの各種の代謝活性が回復し、約10分後にタンパク質合成を観察することができる。しかし、DNA 合成および細胞分裂は約60時間後まで見られない(ラガル Le Gal,Y.:Biochimie Marine,(Ed.Masson)p.176,1988 )。
【0010】
表皮細胞の増殖および再生を刺激するための美容剤分野における使用のために、各種の植物由来の組成物(レチノイン酸(US5,438,073) およびα−ヒドロキシ酸(ディトレ Ditre,C.M.ら、J.Am.Acad.Dermatol.,34:187-195,1996 )など)ならびに動物由来の抽出物が提案されてきた。こうした組成物は、表皮の自然の再生過程が加齡とともに遅くなることが一般に容認されている美容剤分野において有用であると考えられた。外表面の除去と同時に表皮の内層における新しい細胞の成長を刺激して分裂させ、そして外表面に移動させる結果として、皮膚の再生およびより若い皮膚の外観が得られるものと信じられている。しかし、細胞分裂の増加は、正常細胞を前悪性または悪性細胞への転換の決定的な因子であることも知られており、また最近示された(アメス Ames,B.N.ら、Environ.Health Perspect 101:35-44(1993) )。
【0011】
今日では、正常なヒトおよび動物細胞は有限の複製能力を有することも信じられている。培養された正常な動物細胞が実施することができる分裂事象の数はそれらが得られたドナーの年令に逆比例関係にあるらしいことが示された(ハイフリック Hayflick,L.、Clin.Geriatr.Med.,1:15-27,(1985))。加速老化症候群の患者から得られた細胞培養物は同年令の対照個体から得られた細胞培養物よりも複製の程度が低いことも示された。
【非特許文献1】セン−ミラー Shen-Miller,J.ら、American Journal of Botany,82:1367-1380,1995
【非特許文献2】サムソン Samson,F.E.,A Rev.Pharmac.Toxic 16:143(1976)
【非特許文献3】フルザワ Furusawa,E.ら、Chemotherapy,26:36-45,(1980)
【非特許文献4】フルザワ Furusawa,E.ら、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,152:186-191,(1976)
【非特許文献5】ピロフスキ Pirofsky,B.ら、Vox-Sang,42:295-303,(1982)
【非特許文献6】ピロフスキ Pirofsky,B.ら、J.Biol.Response Mod.,2:175-185,(1983)
【非特許文献7】セリオッティCeriotti,G.ら、Tumors 53:359-371(1967)
【非特許文献8】ペティPettit,G.R.ら、J.Nat.Prod.,49:995-1002(1986)
【非特許文献9】スタビーStaby,G.L.,Hort Science,399-400(1970)
【非特許文献10】ヴァンスタデン Vanstaden,J.V.,Pflanzenphysiol.,86: 323-30(1978)
【非特許文献11】フィナモア Finamoreおよびクレッグ Clegg:The Cell Cycle,Academic Press Ed.,249-278,1969
【非特許文献12】ラガル Le Gal,Y.:Biochimie Marine,(Ed.Masson)p.176,1988
【非特許文献13】ディトレ Ditre,C.M.ら、J.Am.Acad.Dermatol.,34:187-195,1996
【非特許文献14】アメス Ames,B.N.ら、Environ.Health Perspect 101:35-44(1993)
【非特許文献15】ハイフリック Hayflick,L.、Clin.Geriatr.Med.,1:15-27,(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、細胞または組織の増殖を抑制することができる細胞若しくは組織の抽出物、及び、このような抽出物を含む、皮膚の加齢に関連する現象の処置に用い、皮膚の若年様外観を維持すること、日焼け状態の維持・延長を可能とすること、良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高リスク状態の個体に投与し、細胞の増殖を抑制することができる、あるいは、脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の医薬用途に用いることができる医薬組成物、及び、化粧用組成物、並びにこれら抽出物や組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の抽出物は請求項1に記載の通り、(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなるプロセスで得られた抽出物であって、前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい、抽出物であり、かつ、前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物である。
【0014】
また、本発明の医薬組成物は請求項2に記載のように、前記請求項1に記載の標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物を含有することを特徴とする医薬組成物である。
【0015】
また、本発明の医薬組成物は請求項3に記載のように請求項2の医薬組成物において、個体の皮膚に局所適用のためのものであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の医薬組成物は請求項4に記載のように請求項2の医薬組成物において、膚の若年様外観を維持するための医薬組成物であるか、または皮膚の加齢に関連する現象の処置のための医薬組成物であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の医薬組成物は請求項5に記載のように請求項2の医薬組成物において、日焼けの延長用の医薬組成物であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の医薬組成物は請求項6に記載のように請求項2の医薬組成物において、良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高 リスク状態の個体に投与することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の医薬組成物は請求項7に記載のように請求項2の医薬組成物において、脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の群から選ばれたいずれかのためのものであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の化粧用組成物は請求項8に記載のように前記請求項1に記載の抽出物を含有することを特徴とする化粧用組成物である。
【0021】
また、本発明の化粧用組成物は請求項9に記載のように請求項8の化粧用組成物において、皮膚の若年様外観を維持する、または、皮膚の加齢に関連する現象の処置のためのものであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の化粧用組成物は請求項10に記載のように請求項8の化粧用組成物において、日焼けの延長のためのものであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の化粧用組成物は請求項11に記載のように請求項8の化粧用組成物において、脱毛症(Alopecia)の抑制、多毛症の抑制、爪の成長速度の低下、瘢痕形成の抑制、及び、皮膚疾患の処置、の群から選ばれる適用のためのものであることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物の製造方法は請求項12に記載の通り、(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなり、前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい抽出物の製造方法であり、かつ、前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物の製造方法である。
【0025】
また本発明の医薬組成物の製造方法は請求項13に記載の通り、医薬的に受容できる担体(carrier)に医薬的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する医薬組成物の製造方法である。
【0026】
また、本発明の医薬組成物の製造方法は請求項14に記載の通り、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法において、個体の皮膚の局所適用のために調整された医薬組成物のためのものであることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の医薬組成物の製造方法は請求項15に記載の通り、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法において、経口投与のために調整された医薬組成物のためのものであることを特徴とする。
【0028】
本発明の化粧用組成物の製造方法は請求項16に記載の通り、化粧用途に受容できる担体(carrier)に化粧用途的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する化粧用組成物の製造方法である。
【0029】
本発明の化粧用組成物の製造方法は請求項17に記載の通り、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法において、個体の皮膚の局所適用のために調整された化粧用組成物のためのものであることを特徴とする。
【0030】
本発明の化粧用組成物の製造方法は請求項18に記載の通り、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法において、経口投与のために調整された化粧用組成物のためのものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の抽出物は休眠組成物であり、この組成物は細胞、特にプロデューサー細胞または組織とは異種の細胞の増殖を抑制するために使用することができる。
医薬組成物に応用した場合、皮膚の加齢に関連する現象の処置に用い、皮膚の若年様外観を維持すること、日焼け状態の維持・延長を可能とすること、良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高リスク状態の個体に投与し、細胞の増殖を抑制することができる。
さらに細胞の増殖を抑制することができ、脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の医薬用途に用いることができる。
【0032】
また上記細胞の増殖を抑制する抽出物を含有する化粧用組成物とすることができ、このとき、皮膚の若年様外観を維持する、または、皮膚の加齢に関連する現象の処置に用いたり、日焼け状態の維持・延長のために用いる、あるいは、脱毛症(Alopecia)の抑制、多毛症の抑制、爪の成長速度の低下、瘢痕形成の抑制、及び、皮膚疾患の処置、に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
<語句の説明>
以下は下記の説明文において使用されるいくつかの用語の意味である。
休眠 −細胞または組織の代謝速度が著しく減少した結果、その細胞または組織の成長および増殖が抑制される状態。
【0034】
休眠物質 −細胞または組織中に天然に見出され、そして細胞または組織が休眠状態に入るのを誘発するかまたはすでにこの状態に入っている細胞または組織の休眠状態を維持することができる物質。この休眠物質は、休眠状態に入ることができる各種の植物の部分;果実中の種子の発芽を抑制することができる休眠物質を含有する各種の果実の果汁;生活サイクル中の休眠期に入ることができる動物、例えばアルテミアまたはダフニア(dafnia)などのある種の甲殻類の嚢胚;その他から得ることができる。ある場合においては、休眠物質は休眠組織中、例えば休眠種子中またはアルテミア若しくはダフニアの嚢胚中に見出だされ、別の場合においては、休眠物質は休眠組織または器官の周囲の組織中、例えば休眠種子の周囲の果汁中に見出だされる。
【0035】
抽出物 −当技術分野で既知の各種の抽出方法のいずれかによって得られる1以上の物質。例えば、この抽出物は水性抽出物、グリコール抽出物、アルコール抽出物、油性抽出物などでもよい。本発明に従う抽出物は休眠状態に入ることができる植物または動物の一部由来の細胞または組織から得られる。この細胞または組織は植物または動物から直接得ることができ、そして次にこれらから抽出物を調製することができる。あるいは、植物または動物の細胞または組織から細胞培養物を最初に調製し、次に細胞培養物を各種の時間増殖させる。抽出物を調製するために、次に細胞を細胞培養物から収穫し、細胞及びそれらの増殖培地を分離し、そして細胞自体から、または細胞によって増殖培地中に分泌された物質を含有する増殖培地(「上清」と称する)のいずれかから抽出物を調製することができる。こうして「抽出物」を植物または動物組織から直接に、あるいは動物または植物の細胞または組織培養物から得ることができる。
【0036】
休眠抽出物 −植物細胞若しくは組織から、果実から、または動物細胞若しくは組織から得られた、休眠物質を含む抽出物。
【0037】
富化休眠物質製剤(EDP ) −天然の未処理の抽出物の濃度よりも高い濃度の休眠物質を含む天然起源に由来する製剤。このEDP は、例えば各種のクロマトグラフィー技術、濾過などによって天然抽出物を精製して、さらに高い濃度の休眠物質を含有する画分を得ること、および休眠物質を産生することができる細胞または組織を、比較的大量に休眠物質を産生する条件下で増殖させて、その分泌産物を回収することを含む生物学的方法によって、得ることができる。ある製剤が富化休眠物質製剤であるかどうかを判定するために、以下に記載するように、この製剤について、休眠物質に関係する特異的な生物学的活性をアッセイすることができる。EDP は天然調製品に比較して実質的にさらに高い濃度の休眠物質を含有する。例えば、天然調製品中の休眠物質の濃度の少なくとも1.5倍、好ましくは2倍、そして典型的には少なくとも2.5倍である。
【0038】
プロデューサー細胞またはプロデューサー組織 −休眠物質を産生し、さらにそれらから休眠物質を抽出することができる、細胞または組織。
【0039】
標的細胞または標的組織 −本発明にしたがって休眠物質と接触させて、これによってそれらの成長または増殖の抑制状態に入るか、または休眠物質と接触させた結果と同じ状態を維持する細胞または組織。
【0040】
休眠物質類似体 −ある休眠物質によって休眠を誘発されるものと同一の細胞または組織中で休眠を誘発することができる点においてその休眠物質に類似する活性を有し、そして本発明にしたがって標的細胞または組織の成長および増殖を抑制することもできる物質(典型的には合成された物質)。
【0041】
休眠組成物(DC) −活性成分として、標的細胞または組織の成長および増殖を抑制するのに有効な量(「有効量」)の休眠物質(例えば休眠抽出物として)または休眠物質類似体を含む組成物。休眠組成物は、天然物由来のEDP 、合成休眠物質および休眠物質類似体を含む組成物を含み得る。
【0042】
活動期抽出物(AE) −休眠状態に入ることが可能な植物または動物の部分由来の細胞または組織から、非休眠状態の時期に取得した抽出物。
【0043】
発明の要約
本発明にしたがって、休眠組成物が使用される。この組成物は細胞、特にプロデューサー細胞または組織とは異種の細胞の増殖を抑制するために使用することができる。本発明の好ましい1実施形態によって、この組成物をヒトの医薬および美容剤に使用する。別の実施形態にしたがって、組成物を植物の成長の調節のために使用する。さらに別の実施形態によって、本発明の組成物を食品の保存に際して使用する。
【0044】
本発明の1態様によって、以下からなる群から選択される物を含む、標的細胞または標的組織の増殖を抑制することができる調製品が提供される。
(i) プロデューサー細胞またはプロデューサー組織から取得される抽出物であって、この細胞または組織が少なくともその一部において休眠状態に入ることが可能な生物体を起源とするものであり、このプロデューサー細胞または組織が由来する生物体中でこの休眠状態を誘発または維持する1以上の物質を含む抽出物、
(ii) 休眠を誘発する上記抽出物の画分、および
(iii) 上記抽出物または画分に由来する休眠誘発物質。
1実施形態によれば、組成物は上記定義のような、天然の未処理抽出物中に見られるよりも高い濃度の休眠物質を含む、富化休眠物質製剤(EDP )を含む。
抽出物が得られるプロデューサー細胞または組織はその標的細胞または組織と同一の起源のものでもよいが、好ましくは異なる起源のものがよい。本発明の1実施形態において、この標的細胞または組織はヒト細胞または組織であり、そしてこのプロデューサー細胞または組織は植物または非ヒト動物細胞または組織である。本発明の別の実施形態においては、この標的細胞または組織は植物細胞または組織である。
【0045】
本発明の好ましい1実施形態において、休眠組成物は体内の細胞増殖を抑制するための医薬または美容用組成物である。本発明の別の実施形態によれば、この組成物を(天然の若しくは人工的に調製された)種子の発芽または例えば保存期間中に苗木の休眠状態を維持することを目的とする、苗木の成長を抑制するために使用する。さらに別の本発明の実施形態によれば、休眠組成物を生鮮食品の保存のために使用する。
【0046】
1実施形態によれば、本発明にしたがって使用する休眠物質または抽出物は休眠植物に由来する。
【0047】
休眠性植物の鱗茎からその休眠状態中に取得した本発明に従う組成物は、苗木の成長を抑制することができるとともに、各種の哺乳類細胞、例えばヒト細胞を含む各種の標的細胞を、活動状態にある同一の植物の鱗茎から同一の条件下で取得した調製品よりも有意に、より高度に抑制することができる。また、休眠性植物の各種の部分から調製し、休眠を誘発された細胞培養物から取得した休眠組成物もまた、苗木の成長を抑制するとともに、各種の哺乳類細胞(例えばヒト細胞)を含む、各種の細胞の増殖を抑制することができることも発見された。これらのDCは広範囲の濃度において、標的細胞に認知し得る毒性効果を持たず、これは抗増殖効果を有する大部分の物質と対照的である。
【0048】
本発明にしたがって、DCを取得するために、休眠状態に入ることができるあらゆる植物を使用することができる。休眠状態に入り、そしてDCを取得することができる植物およびそれらの植物の部分(「D-部分」と称する)のいくつかの例を、以下の表I−1〜3およびIIー1〜4に示す。なお、これら例は本発明を限定するものではない。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
本発明において、DCは好ましくは、自然の休眠過程の結果として、あるいは休眠状態を誘発する曝露、例えば休眠誘発温度で十分な時間、インキュベート(培養)するなどの条件下で外部から休眠に誘導した結果としてのいずれかによって休眠状態にある植物から取得する。各種の休眠性植物中で休眠を誘発する条件(例えばインキュベーション(incubation)温度およびインキュベーション時間)は異なっているようであり、当技術に精通した者には知られている。こうして、例えば、比較的高温度に曝露することによって休眠に誘導される植物(ナルシサス(Narcissus) )など)がある。これと反対に、別の植物(チューリップなど)は比較的低温度に曝露することによって休眠に誘導される。光、湿度、各種の成長因子の濃度などのその他の因子もまた休眠を誘発するために使用することができる。
【0057】
本発明の好ましい1実施形態において、DCは休眠に入ることが可能な植物の部分(D-部分)、例えば鱗茎から取得する。休眠状態に誘導された鱗茎を即時にDCの調製のために使用するか、あるいは休眠状態を維持する条件下で保存してもよい。例えばナルシサス(Narcissus) の場合、この条件として高温度および低湿度が含まれる。鱗茎の他に、休眠性植物の鶏冠部(combs) 、根、種子などの別の部分を上記説明のように休眠に誘導して、それらからDCを取得するために使用することもできる。
【0058】
本発明の別の実施形態において、休眠性植物のいずれかの部分(例えば鱗茎)から調製して休眠に誘導した細胞培養物から、休眠抽出物を取得する。鱗茎抽出物のカルス培養物を形成させるため、好適な培地に休眠性植物の花梗分裂組織細胞(influorescence stalk initials)を有する鱗茎を接種することによって、培養物を取得することができる。次いで、細胞培養物を典型的にはコンフルエントまで成長させると、細胞培養物中に非常に小さい鱗茎部分(「鱗芽」と称される)が形成される。細胞培養物または鱗芽中の休眠状態の誘発は、休眠誘発温度で十分な時間インキュベートすることなどの、休眠状態を誘発する条件にそれらを曝露することによって得られる。細胞培養物または鱗芽を各種の型の化学的ストレス(低または高濃度の糖、塩など)に曝露することによって、インビトロ(in vitro)で休眠を誘発することもできる。
【0059】
鱗芽の他に、休眠性植物の鶏冠部、根、種子などの別の部分由来の細胞培養物もまた、細胞培養物由来の休眠抽出物を得るために使用することもできる。
【0060】
さらに別の実施形態によって、本発明の休眠類似体を、組換えDNA 技術、化学合成、コンビナショナルケミストリー(combinational chemistry)などの当分野で既知の任意の方法によって合成的に調製することができる。この場合の休眠類似体は、これらの基礎となる休眠物質の、標的細胞の休眠を誘発し、かつ増殖を抑制するという能力に限っては、実質的に同様の特性を維持しているものである。
【0061】
好ましくは、本発明の植物由来のDCは植物材料の水性抽出物として取得される。この水性抽出物は植物材料をホモジナイズし、次にこのホモジネートを水溶液に懸濁させることによって、調製することができる。しかし、それ自体既知の任意の抽出方法によって得られた非水性植物抽出物も、時には本発明にしたがって使用することができる。
【0062】
さらに別の本発明の実施形態にしたがって、果汁またはその他の汁液を産生する植物器官からEDP 類を取得することができる。果実は典型的には種子(seeds and pips)が果実内にある間はそれらの発芽を抑制する休眠物質を含有する。休眠物質を精製することができる汁液の例は柑橘類果実、ブドウ、トマト、キーウイなどの果汁である。果汁はそのまま使用するか、あるいは下記に説明するようにして、果汁から休眠物質を精製することができる。
【0063】
さらに別の本発明の実施形態にしたがって、生活サイクル中に休眠期に入ることが可能な動物を起源とするプロデューサー細胞から休眠物質を抽出する。休眠期中は、その動物の代謝速度は最低となり、細胞増殖の中断がある。こうした動物の例はアルテミア、ダフニアおよびシクロプスなどの各種の海生甲殻類である。
【0064】
植物由来のDCについて上に説明したように、動物由来のDCもまた、自然の休眠過程の結果として、あるいは脱水(アルテミア・サリナ(Artemia salina))または酸素欠乏(アルテミア・フランシスカーナ(Artemia franciscana) )などの休眠誘発条件に対する曝露によって、外部から休眠に誘導した結果としてのいずれかによって休眠状態にある動物から取得することもできる。休眠物質はその動物組織からそれ自体既知の各種の方法によって抽出することができる。
【0065】
動物由来のDCは動物またはその器官自体から取得することができる。あるいは、休眠動物から最初に細胞培養物を調製し、その細胞を培養物中に各種時間維持した後、その上清から抽出するか、あるいは細胞を収穫し、かつ/またはこれらからDCを抽出することによって、DCを得ることができる。
【0066】
本発明のDCはその産生細胞から、それ自体周知の様々な方法により、例えばクロマトグラフィー(例えばTLC、HPLC、イオン交換)により、サイズ分画(例えば、透析、ゲル濾過)などにより精製することができる。
【0067】
本発明によって、個体に投与されると前記休眠組成物の抗増殖活性は外皮内層に存在する細胞の細胞分裂速度を低下しうることが初めて理解された。
【0068】
かくして、本発明の他の態様は、個体の皮膚の若年様外観の保持または加齢による皮膚変化の治療に有用な美容用または皮膚科用組成物としての、前記休眠組成物の使用である。
本発明の後者の態様によって、皮膚科用または美容剤に許容される担体と一緒に、約0.0001重量%から、好ましくは約0.001重量%から、典型的には約0.01重量%から、約5重量%まで、好ましくは約1重量%までの休眠抽出物または休眠物質類似体を含んでなる皮膚科用または美容用組成物が提供される。
【0069】
本発明の皮膚科用または美容用組成物は、香油(balm)、乳化ゲル、水性アルコールゲル、無水ゲル、水中油(O/W)型乳化液、透明ゲル、リポソーム含有クリームなどの様々な形で投与することができる。
【0070】
美容用または皮膚科用組成物は典型的には表面塗布される。しかし時には、例えば皮下注射による、経口投与カプセルによるまたはイオン導入療法(iontophoresis)(イオン活性物質の浸透を増加するための電場使用を含む)による他の投与様式により組成物を投与するのが有利である場合もある。
【0071】
それらの著しい抗増殖効果により、前記休眠組成物は様々な悪性疾患の治療にも使うことができる。上述したように、細胞分裂速度は、細胞が前悪性もしくは悪性細胞になる確率を決定するのに重要な因子である。さらに、周知のとおり、良性もしくは悪性腫瘍の形成は、なかんずく、腫瘍を形成する細胞の連続分裂に依存する。良性もしくは悪性腫瘍の形成前もしくは形成早期における個体への休眠組成物の投与は、治療される個体の完全に成長した腫瘍形成の遅延または予防をもたらしうる。完全に成長した良性もしくは悪性腫瘍に罹っている個体への前記抽出物の投与は、治療される個体の腫瘍量の低減および腫瘍関連症候の軽減をもたらしうる。前記休眠組成物は原発性および続発性(転移性)腫瘍の治療に有効でありうる。相乗的な抗腫瘍形成効果を達成するために、前記抽出物を1つ以上の公知の抗腫瘍形成治療(例えば、化学療法剤、照射など)と組み合わせて投与することもできる。個体へ投与すべき前記抽出物の用量ならびに治療様式は、治療される個体の特性(年齢、体重、治療歴など)ならびに発生中または現存の腫瘍の特性(良性もしくは悪性、寸法、起源、原発性もしくは続発性など)に依存するであろう。原発性もしくは続発性腫瘍を発生するリスクの高い個体には、腫瘍形成の確率を低減する目的で休眠組成物を日常的に投与することができる。
【0072】
したがって、本発明はさらに、良性もしくは悪性の腫瘍を有するかまたは腫瘍発生リスクの高い個体への投与のための、細胞増殖を阻害する能力のある休眠抽出物を含んでなる組成物を提供する。
【0073】
本発明のさらに他の態様により、休眠組成物は化学療法および照射治療の治療指数を増すために使うことができる。このような治療を受ける個体では、腸の内層細胞、毛包細胞および造血細胞のような正常分裂細胞も、悪性細胞(その大部分が分裂細胞である)の破壊を目的とした化学療法剤または照射により害される。このような治療の前またはこれと一緒に、個体へ休眠組成物を投与することにより、かなりの割合で正常細胞の増殖を阻害することができよう。その結果、正常細胞にあたえる治療の影響による有害な副作用を著しく低減することが可能であり、有益であれば、さらに高濃度の化学療法または照射治療を使うことができる。休眠組成物の毒性低減効果を容易にする目的で、時々、必要な部位、組織または器官、例えば皮膚に直接投与することができる。
【0074】
従って、本発明は、そのさらなる態様により、休眠物質、休眠抽出物または休眠物質類似体の有効量を含んでなる、化学療法または照射治療を受ける個体に投与するための細胞増殖を阻害することができる組成物を提供する。
【0075】
休眠組成物の他の治療的用途は、線維症(例えば皮膚線維症、肝硬変、およびその他の阻害を含む。これまで、線維芽細胞の異常増殖である線維症は、細胞傷害性薬物により治療されてきたが、その一般的な非特異的な毒性によって用途が限定されていることに注意すべきである。本発明の休眠組成物の使用による線維芽細胞増殖の阻害は、実行可能な低毒性の代替手段を提供する。同様な方式で、本発明の休眠組成物は、ケラチノサイトの異常増殖から生じる乾癬の治療にも有用でありうる。脂漏性角化症、乳頭腫およびいぼも、休眠組成物により治療することができる。
【0076】
本発明の休眠組成物の他の可能な用途は、移植に使用する前の器官または組織の保存である。
【0077】
前記休眠組成物の他の用途は、例えば、多くの場合、個体の皮膚の加齢と関連する現象の1つである禿頭(脱毛症)の治療である。脱毛症に罹っている個体では、頭髪の寿命が実質的に低下する(例えば、正常な個体では約3年の寿命から脱毛症に罹った個体では約1年へ)。したがって、脱毛症発生の確率の高い個体または既に頭髪損失の徴候を既に示す個体の毛髪成長速度の低減は、このような毛髪損失の程度を低減するであろう。このような個体への本発明の休眠組成物の投与は、頭髪損失の部分的もしくは完全な低減をもたらしうる。この目的のため、休眠物質を含んでなる組成物を頭髪損失部位に表面塗布するかあるいは他の事例では全身に投与することができる。
【0078】
本発明の休眠物質を含んでなる組成物の投与により治療しうるさらなる症状は、腕、背などのような個体の様々な部分の体毛の異常成長(多毛症)に関連する。このような望ましくない体毛の異常成長は多くの場合、加齢した個体に現れ、そして時には同じ個体の頭髪損失と関連する。細胞増殖を低減する能力により、本発明の組成物は、このような望ましくない体毛の異常成長を低減するために有用である可能性がある。
【0079】
上記の2つの徴候に対して投与される休眠物質を含んでなる組成物の量、投与法ならびに適用様式も、治療される個体の特性(年齢、サイズ、性など)ならびに(頭髪損失の程度、体毛の異常成長がある具体的な身体部分のような)治療すべき症状に関連するパラメーターの両方に依存するであろう。
【0080】
さらに、休眠組成物は、例えば髭剃り(前記抽出物をアフターシェーブ溶液中に含ませて)または脱毛(例えばワックスにより)のような体毛除去処理と組み合わせてまたはその後に投与する補剤として使うことができる。
【0081】
休眠組成物の他の応用は、瘢痕が形成される期間、例えば手術後に、瘢痕の形成を縮小する目的での個体への投与を含んでも良い。このような個体の治癒過程の速度を低下させることにより、最終瘢痕ははるかに見えにくくなりうる。さらに、休眠組成物の抗線維症効果(anti-fibrotic effect)は、治癒後に通常現れるケロイドの形成を低減する。
【0082】
休眠組成物は、個体の日焼け期間を拡大するために使うこともできる。太陽に曝露された後、表皮細胞は高濃度のメラニンを含む。皮膚の再生中に、このようなメラニンを含む細胞が剥がれ落ちる。皮膚の細胞再生過程を遅くすることにより、休眠組成物はメラミンを含む細胞を、したがって日焼けを長期間残す。
【0083】
様々な細胞の増殖を抑制することに加えて、前記休眠組成物は、様々な植物実生の種子発芽を遅くし成長を抑制することもできる。種子発芽後、実生に根および胚軸が発生し始める。植物実生を休眠組成物とともにインキュベートすると、実生の根および胚軸の伸長が抑制される。したがって、休眠組成物は雑草防除用に使うことができ、その場合、それらの適切な濃度の投与は、所望の植物の成長に影響を与えないで、望ましくない雑草の成長を阻害することができる。休眠物質は天然起源であるので、それらの投与は、それが誘導されて作用する細胞もしくは組織にまたは環境に著しい毒性効果を与えない。さらに、しばしば、このような組成物は種子および実生の長期保存に使うことができる。
【0084】
したがって、本発明は、植物種子および/または実生の成長を遅くしかつ阻害する活性を有し前記休眠抽出物を含んでなる休眠組成物を提供する。
本発明の休眠組成物のさらなる用途は、新鮮な産物、例えば野菜、新鮮な魚卵、貝などの保存である。
【0085】
本発明は、その組成物中に抗増殖に有効な量の休眠物質をもつ抗増殖組成物を得るために、休眠物質またはDCを担体と混合することを含んでなる、抗増殖組成物の調製プロセスも提供する。このような調製組成物は、担体の性質によって、治療、美容用品、食品保存または農業に使うことができる。医薬用または美容用組成物を調製するこのようなプロセスは、典型的には、DCを調製しそれを適切な医薬または美容剤に許容される担体と混合することを含んでなり、DCの量は最終的な治療用または美容剤に(その場合に応じた)有効な量の休眠物質を組成物中にもたらすものである。このような医薬または美容用組成物の調製のための休眠物質またはDCの使用も提供される。
【0086】
よく理解されるように、以上に記載した本発明の休眠組成物の様々な用途は、これらの組成物の無数の可能な用途の例であり、全ては標的細胞の増殖阻害で共通している。
次に、幾つかの非限定的実施例により、図を時々参照して本発明を説明する。
【実施例】
【0087】
実施例 I: A:キュウリ実生の成長にあたえるナルシサス圃場鱗茎から調製したナルシサス鱗茎DCの効果
【0088】
(a) ナルシサス圃場鱗茎の休眠誘導
ナルシサス圃場鱗茎を入手し、45℃の温度を有する熱水に2〜4時間漬けた。その後、鱗茎をすぐ水溶性抽出物の調製に使うか、もしくは代わりに、乾燥室で30℃の温度に最大8ヶ月の期間維持した後、植物抽出物の調製に使った。
【0089】
(b) ナルシサス鱗茎からの抽出物の調製
活性もしくは(上に説明したように休眠を誘導した)休眠ナルシサス圃場鱗茎を1時間石鹸水中で消毒した。その後、鱗茎を切り、ウルトラ・ターボ・ツラックス(Ultra-Turbo-turax)ホモジナイザーを使って蒸留水中でホモジナイズした(30秒×3)。その後、ホモジナイズした鱗茎の調製物を第1の0.45μm無菌フィルターを通し、その後、第2の0.22μmフィルターを通して濾過し、その後、フィルター上に残らなかった調製物を回収した。濃度は、最終抽出物容積(ml)当たりの元の鱗茎の重量(g)として定義した。
【0090】
(c) ナルシサス圃場鱗茎抽出物がキュウリ実生の成長にあたえる効果
(i) 実験アッセイ:
キュウリ種子品種「デリカ("Delica")」, 1994-1995, 95%発芽、99.9%純度を水道水(tap water)中で発芽させ、その後、根分化(root initiation)(1〜2mm)まで暗所で27℃にて約20時間インキュベートさせた。各実験グループは、上に説明したように取得した様々な濃度の休眠ナルシサス圃場鱗茎由来のDC(IBR-1)2mlで満たされたそれぞれのペトリ皿を含んでなった。
1層の濾紙を各ペトリ皿において、上に説明したように発芽した10個のキュウリ種子を濾紙上においた。ペトリ皿を24〜72時間、26℃〜28℃にて暗所でインキュベートした。
色々な濃度で試験した鱗茎抽出物の効果を、キュウリ種子の2つのパラメーターについて試験した:
1. 根伸長
2. 胚軸伸長
これらの2つのパラメーターを、試験した抽出物と種子とをインキュベートした後24時間ごとに、およびその後24時間ごとに試験した。
(ii) 結果:
以下の表8及び9に示すごとく、DC IBR-1とともにインキュベートした種子の根および胚軸の長さにより測定されたように、無菌水とともにインキュベートした同じ器官の長さと比較してDC IBR-1は実生の成長に対して十分な阻害活性を示した。
【0091】
【表8】
【0092】
【表9】
【0093】
実施例 I: B:キュウリ実生の成長にあたえるナルシサスDCの効果の可逆性
(i) 実験アッセイ
(a) 実験は、上のI(A)に記載したのと同じ方法で実施した。キュウリ種子の根および胚軸の成長にあたえるDCの効果を、インキュベーション後24および72時間に測定した。インキュベーション後72時間に、種子を無菌蒸留水で洗浄し、無菌蒸留水でさらに72時間27℃にて、暗所でインキュベートした。種子の根および胚軸の長さを、インキュベーション開始後144時間(DCを洗浄除去後72時間)に再び測定した。
(ii) 結果
下の表10に見られるように、キュウリ種子の根および胚軸の成長に阻害効果のあるナルシサス由来DCを洗浄除去した後、根と胚軸は再び成長を開始した。このように、DCの阻害効果は可逆性があり毒性はなかった。同じ効果は、低濃度のDCとともにインキュベートした種子でも明らかであった(結果は示してない)。
【0094】
【表10】
【0095】
実施例 II: ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス鱗茎由来DCの効果
(a) ケラチノサイト培養物の調製
ヒト・ケラチノサイト培養物を、ベン バサート等による Ben Bassat H., et al., Plastic and Reconstructive Surgery, 89:511, (1992)に記載されたように調製した。全般に、ケラチノサイト培養物は、小さい中間層皮膚の小さい生検材料(約1cm2)から開始した。健康なドナーからの生検材料を、1%リドカインによる局所麻酔をかけて採取した。その生検片をトリプシン−EDTA中で4℃にて18〜20時間インキュベートした。その後、表皮を分離して上皮をトリプシン−EDTA中に統合(desegregate)して、単一細胞懸濁液を形成した。x10抗生物質、1000U/mlペニシリン、1000μg/mlストレプトマイシン、0.0025μg/mlアンホテリシンBおよび0.4mg/mlゲンタマイシンとともにトリプシン0.125%−EDTA0.025%を含むパックの生理的塩類溶液(Puck's saline)を、この方法に使用した。トリプシン溶液はトリプシン1:250強度から調製した。
支持細胞層として致死量照射した3T3マウス線維芽細胞2×105を含有する予め調製した25cm2ファルコンフラスコ中へ、上に記載のとおり調製した細胞懸濁液を、3〜6×106細胞の濃度で接種した。
【0096】
フラスコを37℃、10%CO2で、約8〜10日間、培養物がほぼ80%コンフルエント(confluent)になるまでインキュベートした。この段階で、各フラスコ中の細胞はトリプシン0.25%−EDTA0.05%(1:1)を加えて抗生物質なしに遊離し、遊離細胞を洗浄後、96ウェルマイクロプレートに1ウェル当たり3×104細胞の濃度で支持細胞層なしにラインバルトおよびグリーン(Rheinwald T.G. and Green, H., Nature, 265:421-424 (1988))によるケラチノサイト培地(Kmed)中に接種して、2次培養物を形成した。
【0097】
(b) ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス鱗茎に由来するDCの効果
(i) 実験アッセイ:
ナルシサス鱗茎抽出物を実施例I(b)に記載のとおり活性および休眠鱗茎から取得した。上記のとおりマイクロプレートに接種した2次ケラチノサイト細胞培養物を、さらにKmed中で3〜4日間増殖させた。その後、マイクロプレートを次の主なグループに分割した:
(1) Kmed中で連続増殖したケラチノサイト;
(2) 複数の濃度(0.5μg/ml〜10μg/ml、各濃度が別々の実験グループを形成する)の活性ナルシサス鱗茎から調製したAE IBR-3を含有するKmed中で増殖したケラチノサイトならびに
(3) 複数の濃度(0.5μg/ml〜10μg/ml、各濃度が別々の実験グループを形成する)の休眠ナルシサス鱗茎から得たDC IBR-1を含有するKmed中で増殖したケラチノサイト。
【0098】
各実験グループは5つのウェルを含んでなった。DC IBR-1またはAE IBR-3を含有する増殖培地は5日間、24時間ごとに取り替え、その後、全ウェルから培地をとり除いて植物抽出物のない新鮮なKmed培地を加え、培養物をその中でさらに3日間増殖した。
【0099】
ケラチノサイト増殖に対する試験したDCまたはAEの効果を、DCまたはAEを含まないKmed培地で細胞が増殖したウェルで検出した細胞数と比較して、試験した処理ウェル中に検出した細胞数により定量した。
【0100】
各ウェル中の細胞数はミクロ培養メチレンブルーアッセイにより次のとおり定量した:
抽出物で処理した培養物および対照を、グルタルアルデヒド中で最終濃度0.05%、10分間、室温で固定した。洗浄後、マイクロプレートを、メチレンブルー1%を含む0.1Mホウ酸バッファーpH8.5で60分間、室温にて染色した。その後、プレートを広範囲に徹底的に洗浄して過剰の染料をとり除いて乾燥した。細胞により摂取された染料は0.1N HClに60分間、37℃で溶出して620nmで読み取った。
【0101】
予備滴定実験で、1×103〜4×104細胞/ウェルに対して線形の読みを得た。ケラチノサイトは島で増殖し均一な単層を形成しないので、増殖曲線実験の各点は5ウェルの読みの平均である。試験したDCもしくはAEとともにケラチノサイトをインキュベートした後2日目および5日目、ならびにインキュベーション後8日目(試験抽出物なしに3日増殖の後)にウェル中の平均細胞数を測定した。
【0102】
(ii) 結果:
図1(a)に見られるとおり、ナルシサス鱗茎由来のDC IBR-1は、ケラチノサイトの増殖に著しい阻害効果を与えた。阻害は5日目の実験から明らかであり、用量に依存した。ケラチノサイト増殖の阻害は0.5μg/mlの低いDC濃度で明らかであったが、DCの10μg/ml濃度で最も著しかった。効果は用量に依存した(DCの1g/ml濃度で開始し、DCの10μg/mlで最も効果的であった)。
これに対して、図1(b)に見られるとおり、AE IBR-3は、ケラチノサイト増殖に対して有意な阻害効果を示さなかった。
【0103】
実施例 III: 培養中の線維芽細胞の増殖に対する休眠および活性ナルシサス鱗茎由来DCの効果
(a) 線維芽細胞培養物の調製:
1次線維芽細胞培養物を小さなヒト皮膚検体から開始し、使用増殖培地がDMEM+20%胎児ウシ血清であることを除くとケラチノサイト培養調製に関する上記実施例IIに記載のとおり調製した。
(b) DCおよびAEの調製
DC IBR-1およびAE IBR-3を休眠および活性ナルシサス鱗茎から上記のとおり調製した。
(c) 線維芽細胞にあたえるDCおよびAEの効果:
(i) 実験アッセイ:
前記抽出物を様々な濃度(1g〜10g/ml)で線維芽細胞培養物に加え、培養物内の線維芽細胞の数を上記実施例II(a)に記載のとおり細胞に抽出物を添加後、2日目、5日目および8日目に測定した。
(ii) 結果:
図2(a)に見られるとおり、DC IBR-1が培養中の線維芽細胞の増殖に最も著しい阻害効果を有した。効果は実験の5日目から明らかであり、用量に依存するが、0.5μg/mlの低い用量でも効果が見られた。
図2(b)に見られるとおり、AE IBR-3は線維芽の増殖に対する阻害効果はなかった。
【0104】
実施例 IV: DCを含んでなる美容用および皮膚科用組成物の調製
以下は、本発明により個体への投与用に使うことができる幾つかの具体的な美容用および皮膚科用組成物の例である。
【0105】
A. 香油(局所経路):
・ オゾケライト 10 g
・ パルミチン酸イソプロピル 9 g
・ 白ワセリン 14 g
・ 保存剤 0.2 g
・ 酸化防止剤 0.3 g
・ 香料 1 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.00001 g
・ 液体パラフィン 総量 100 g
【0106】
B. 香油(局所経路):
・ オゾケライト 19 g
・ 液状プルセリン(purcellin)オイル 10 g
・ 白ワセリン 15 g
・ 保存剤 0.2 g
・ 酸化防止剤 0.3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.00002 g
・ 液体パラフィン 総量 100 g
【0107】
C. 水中油(O/W)型の乳化ゲル(局所経路):
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチ(Goodrich)より市販) 0.6 g
・ 揮発性シリコーンオイル 3 g
・ プルセリンオイル 7 g
・ 保存剤 0.3 g
・ エチルアルコール 15 g
・ 香料 0.4 g
・ トリエタノールアミン 0.2 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.04 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0108】
D. 水性アルコールゲル(局所経路):
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 1 g
・ トリエタノールアミン 1 g
・ 95%エタノール 60 g
・ グリセロール 3 g
・ プロピレングリコール 2 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 5 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0109】
E. 無水ゲル(局所経路):
・ 無水エタノール 61.1992 g
・ ヒドロキシエチルセルロース 0.8 g
・ プロピレングリコール 25 g
・ ポリエチレングリコール 12 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.0008 g
【0110】
F. 水中油(O/W)型の乳化液(局所経路):
・ 揮発性シリコーンオイル 10 g
・ 液状パラフィン 6 g
・ 液状ラノリン 3 g
・ Arlacel(登録商標)165(アトラス(Atlas)より市販) 6 g
・ Tween(登録商標)60(アトラスより市販) 2 g
・ セチルアルコール 1.2 g
・ ステアリン酸 2.5 g
・ トリエタノールアミン 0.1 g
・ 保存剤 0.3 g
・ 酸化防止剤 0.3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.5 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0111】
G. 水中油(O/W)型の乳化液(局所経路):
・ プロピレングリコール 2 g
・ PEG 400 3 g
・ 保存剤 0.3 g
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 0.2 g
・ ミリスチン酸イソプロピル 1 g
・ セチルアルコール 3 g
・ ステアリン酸 3 g
・ グリセロール 3 g
・ コーン油 2 g
・ 香料 0.5 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.001 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0112】
H. 透明ゲル(局所経路)
・ オキシエチレン化ノニルフェノール 5 g
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 1 g
・ エチルアルコール 30 g
・ トリエタノールアミン 0.3 g
・ グリセリン 3 g
・ 香料 0.3 g
・ 保存剤 0.3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 1 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0113】
I.リポソーム含有クリーム(局所経路):
・ セチルアルコール 4 g
・ B−シトステロール 4 g
・ ジセチルリン酸 0.5 g
・ 保存剤 0.3 g
・ ヒマワリ油 35 g
・ 香料 0.6 g
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 0.2 g
・ トリエタノールアミン 0.2 g
・ スフィンゴシン 0.05 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.2 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0114】
J. 経口組成物:
・ タルク 5 mg
・ エーロジル(Aerosil)200 5 mg
・ ステアリン酸亜鉛 5 mg
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 3 mg
・ ラクトース 総量 400 mg
【0115】
K. イオン導入法用液:
・ 安息香酸ナトリウム 2 mg
・ 保存剤 0.15 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 1 g
・ 水 総量 100 g
【0116】
L. 水中油(W/O)乳化剤:
・ プロテギン(Protegin)(ゴールドシュミット(Goldschmidt)市販) 19 g
・ ワセリンオイル 8 g
・ グリセリン 3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 1 g
・ 硫酸マグネシウム 0.5 g
・ 香料 0.8 g
・ 保存剤 0.2 g
・ 水 総量 100 g
【0117】
実施例 V: キュウリ実生成長に対するナルシサス小鱗茎(細胞培養)から調製した抽出物:
(a) ナルシサス鱗茎細胞培養物の調製
圃場からの花序柄開始点(inflorescence stalk initials)を有する活性ナルシサス鱗茎を使って、複製内部規模外植片(duplicate inner scale explant)を調製した。その後、外植片をNR31培地(NAA/10μM BA: 5:0.5μM)に接種してカルス培養を開始した。カルス培養開始後4〜5週に、培養物をNR8培地(6%スクロース)に移植して小鱗茎(bulblet)成長外植体を形成した。バイオマスのスケールアップのため、半量の小鱗茎を、
ムラシゲ・スクーグ(Murashige & Skoog)(Sigma M-5525) 4.33 g/l
ミオイノシトール 100 mg/l
硫酸アデニン 150 mg/l
NaH2PO4H2O 345 mg/l
NAA 5 μM 寒天A型 7g/l
BA 5 μM pH=5.7
ピリドキシン 1 mg/l
グリシン 2 mg/l
ニコチン酸 5 mg/l
塩酸チアミン 0.5 mg/l
スクロース 30 g/l
を含んでなる液体基本培地N4の入った小鱗茎カラムバイオリアクターに4週間移植した。
【0118】
(b) 細胞培養に由来するDCの調製
その後、上記(a)に記載したように調製した植物材料を7〜10日間、ジャイロ型回転振とう機により、約35℃で振とうした(培地1ml当たりカラム重量は0.1gであった)。半量の細胞培養物を、高温(約35℃)でインキュベートして休眠を誘導した。この培養物から調製したDCをIBR-11と名付けた。残りの細胞培養物は、正常条件で成長させて活性状態を保持し、それから調製したAEをIBR-10と名付けた。AE IBR-10またはDC IBR-11は、水で洗浄し重量を測定しウルトラ・ターボ・ツラックス(ultra-Turbo-turax)でホモジナイズした培地を含まないバイオマスから調製した。ホモジネートを無菌蒸留水中に懸濁し希釈した。
【0119】
(c) キュウリ種子品種「デリカ("Delica")」, 1994-1995, 95%発芽、99.9%純度を水道水(tap water)中、27℃、暗所で約20時間、根分化(1-2mm)まで発芽させた。
(d) 実験アッセイ
(i) キュウリ実生の根伸長および胚軸伸長にあたえるナルシサス小鱗茎から調製した上記のDCおよびAEの効果を、次のとおり測定した。それぞれ10個の種子を含有するペトリ皿からなる各実験グループを、
1. DC IBR-11(休眠)
2. AE IBR-10(活性)
とともにインキュベートした。
【0120】
1層もしくは2層の濾紙をそれぞれのペトリ皿におき、上に説明したとおり発芽した10個のキュウリ種子を濾紙上においた。ペトリ皿を72時間、27℃〜30℃、暗所でインキュベートした。
【0121】
抽出物の効果をキュウリ種子の次の2つのパラメーターについて試験した:
1. 根伸長
2. 胚軸伸長
抽出物とともに種子を72時間インキュベートした後、これら2つのパラメーターを試験した。
【0122】
(ii) 結果:
以下の表11に見られるように、インキュベーション後72時間に、実生成長にあたえるAEの効果と比較して、DC IBR-11は実生の根の長さおよび胚軸の長さの両方に対して著しく高い阻害活性を有した。
【0123】
【表11】
【0124】
実施例 VI: ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス鱗茎細胞培養由来のDCの効果
(a) ケラチノサイト培養物の調製
ヒトケラチノサイト培養物を上の実施例II(a)に記載のとおり調製した。
(b) ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス小鱗茎由来のDCの効果
(i) 実験アッセイ
ナルシサス鱗茎由来細胞培養物を上に記載のとおり調製し、DC IBR-11を(上に記載したとおり)休眠に誘導した小鱗茎から調製した。
【0125】
上に記載したようにマイクロプレートに播いた2次ケラチノサイト細胞培養物を、さらにKmed培地中で3〜4日増殖した。その後、マイクロタイタープレートを次の主要グループに分割した:
【0126】
(1) Kmed中で連続増殖したケラチノサイト;および
(2) 複数の濃度(0.5μg/ml〜10μg/ml、各濃度に対して別個の実験グループを形成する)のDC IBR-11を含有するKmedで増殖したケラチノサイト。
各実験グループは5つのウエルを含んでなった。DCを含有する増殖培地は5日間、24時間ごとに取り替え、その後、培地を全ウエルからとり除いて植物抽出物を含まない新鮮なKmed培地を加え、培養物をその中でさらに3日間増殖した。
ケラチノサイト増殖について試験したDCの効果を、DCなしのKmed培地で増殖したウエルで検出した細胞数と比較した、試験した処理ウエル中に検出した細胞数により定量した。
【0127】
各ウエル中の細胞数は、ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより次のとおり定量した:
抽出物処理した培養物および対照は、グルタルアルデヒド中に、最終濃度0.05%、10分間、室温で固定した。洗浄後、マイクロプレートを、メチレンブルー1%を含む0.1Mホウ酸バッファーpH8.5中で、60分間、室温で染色した。その後、プレートを広範囲に徹底的に洗浄して過剰の染料をとり除いて乾燥させた。細胞により摂取された染料は0.1N HClに、60分間、37℃で溶出して620nmで読み取った。
予備滴定実験で、1×103〜4×104細胞/ウエルについて直線的な読み取りを得た。ケラチノサイトは島として増殖し均一な単層を形成しないので、増殖曲線実験の各点は5ウエルの読み取りの平均である。ウエルの平均細胞数は、試験したDCを含むケラチノサイトのインキュベーションの2日後および5日後、ならびに培養の8日後(試験抽出物なしに3日間の増殖を実施した後)に測定した。
【0128】
(ii) 結果:
図3に見られるように、DC IBR-11は培養のケラチノサイトの増殖に著しい阻害活性を示した。
【0129】
実施例 VII: 培養物中の線維芽細胞の増殖に対する休眠ナルシサス小鱗茎から得たDCの効果
(a) 線維芽細胞培養物の調製:
1次線維芽細胞培養物を小さいヒト皮膚標本から開始し、使用増殖培地がDMEM+20%胎児ウシ血清であること以外はケラチノサイト培養調製に関する上記実施例IIに記載のとおり調製した。
(b) 細胞培養したDCの調製
上の実施例V(b)に記載のとおり、IBR-11を休眠小鱗茎から調製した。
(c) 線維芽細胞増殖に対するDCの効果:
(i) 実験アッセイ:
前述抽出物を様々な濃度(1μg〜10μg/ml)で線維芽細胞培養物に加え、培養物内の線維芽細胞の数を上の実施例V(a)に記載のとおり細胞に抽出物を添加してから、2日後、5日後および8日後に測定した。
(ii) 結果:
図4に見られるとおり、細胞培養から誘導したDC IBR-11は線維芽細胞の増殖に阻害活性を示した。
【0130】
実施例 VIII. キュウリ種子成長に対する果実ジュースの効果
(a) 果実ジュースの調製
グレープフルーツジュースを1個の新鮮なグレープフルーツから作り、作ったジュースを絞り、綿布を通して濾過し、その後、10,000rpmで10分間、室温で遠心分離した。その後、上清を以下に記載するようにキュウリ種子成長に対するその効果を試験するために使った。
(b) キュウリ実生の成長に対するグレープフルーツジュースの効果
(i) 実験アッセイ:
キュウリ種子を、上の実施例1(c)(i)に記載のとおり調製した。各実験グループは、以下のものを1.8ml満たした10枚のペトリ皿を含んでなった:
(1) dH2O
(2) 上の(a)で得た果実ジュース。
1層もしくは2層の濾紙をそれぞれのペトリ皿におき、上に説明したとおり発芽した10個のキュウリ種子を濾紙上においた。ペトリ皿を25℃で培養し、キュウリ種子のパラメーターをインキュベーション開始の24時間後および72時間後に測定した。
果実ジュースの効果をキュウリ種子の2つのパラメーターについて試験した:
1. 根伸長
2. 胚軸伸長。
(ii) 結果:
下の表12に見られるように、この実験は、果実ジュースがキュウリ種子の成長に対する阻害活性を有することを示した。
【0131】
【表12】
【0132】
実施例 IX: キュウリ種子成長に対する甲殻類アルテミア・サリーナ(Artemia salina)から得た休眠抽出物の効果
【0133】
(a) アルテミア・サリーナ(Artemia salina)由来の抽出物の調製:
IBR-4と名付けた休眠抽出物をアルテミア・サリーナ(Artemia salina)から抽出物を調製することによって得た。アルテミア「卵」を、脱水または高塩濃度にかけ、殻を開けてから、グラウンディング(grounding)してもよい。あるいはまた、アルテミア「卵」を10mlの水に分注し、殻を軟化させることができる。殻のグラウンディングもしくは軟化の後、卵をそれ自体周知の溶媒(例えば水)のどれか1つに溶解してそれから抽出物を得る。抽出物は(本実施例のように)凍結乾燥するか、あるいはまた、得られたままの状態で使うことができる。アルテミア抽出物を得るさらなる方法として、プレノープリウス(prenauplius)幼生が殻から這い出すまでアルテミア「卵」を水中に溶解して、その後、幼生をグラウンディングし、それから抽出物を得てもよい。
【0134】
(b) キュウリ実生の成長に対するアルテミア由来のDC抽出物(IBR-4)の効果:
(i) 実験アッセイ:
キュウリ種子を、上の実施例1に説明したように調製してペトリ皿中に播種した。各実験グループは、10個のキュウリ種子を含有するペトリ皿を含んでなり、以下に示した結果は10個の種子に対して測定したパラメーターの平均である。ペトリ皿は、28℃、暗所で成長させ、キュウリ種子の根長と胚軸長を、以下のうちの1つの1.8mlとのインキュベーション開始の24時間後および48時間後に測定した:
(1) dH2O
(2) 0.02g/mlの濃度のDC IBR-4。
【0135】
(ii) 結果:
以下の表13に見られるように、アルテミアの休眠抽出物IBR-4は、キュウリ種子成長に著しい阻害効果を有し、その阻害効果はDC IBR-4による種子の培養の既に24時間後に明らかであったが培養の48時間後に最も著しかった(根成長の66%阻害および胚軸成長の40%阻害)。
【0136】
【表13】
【0137】
実施例 X: マウス膀胱癌細胞の増殖に対する、休眠植物からの休眠抽出物(ナルシサス由来のIBR-1)および動物から得た休眠抽出物(アルテミア由来のIBR-4)の効果
(a) 休眠抽出物の調製
ナルシサス由来の植物休眠抽出物であるIBR-1およびアルテミア由来の動物休眠抽出物IBR-4を上の実施例に説明したように調製した。
(b) マウス膀胱癌細胞の増殖に対するDC IBR-1およびDC IBR-4の効果
(i) 実験アッセイ
2つの実験を次のとおり実施した:
T24P細胞(マウス膀胱癌細胞)(図5)を4×104細胞/ウェルの濃度でミクロ培養ウェル中にまき、T50細胞(マウス膀胱癌細胞)(図6)を2×104細胞/ウェルの濃度でミクロ培養プレート中にまき、そして細胞培養培地で増殖した。
細胞を播いた24時間後および休眠抽出物での細胞インキュベーションの48時間後に、色々な濃度(0g/ml〜25g/ml)で、DC IBR-1およびDC IBR-4をT24P細胞培養に加え、IBR-1をT50細胞にも加えた。ウエル1つ当たりの細胞数を、抽出物を含む細胞インキュベーション開始の48時間後に、ミクロ培養メチレンブルーアッセイ(上の実施例2に記載した)を使い測定し、染色した培養プレートを620nmで読み取った。
(ii) 結果:
図5および6に見られるように、植物由来の休眠抽出物ならびに動物由来の休眠抽出物の両方共が、マウス膀胱癌細胞T24P(図5)およびT50(図6)の増殖にいくらかの阻害効果を有した。
【0138】
実施例 XI: グレープおよびキウィジュースによるキュウリ種子成長の阻害
(a) 果実ジュースの調製
グレープおよびキウィジュースは新鮮な果実から作った。果実をブレンダーカップ中で3分間高速でブレンドし、ブレンド物を寒冷紗を通して濾過し、そして6,500rpm、10分間、室温で遠心分離した。その後、上清液は、グレープジュース1.2g/mlおよびキウィジュース1.26g/mlの濃度で、実験に使用した。濃度は、最終容量(v)に対する果実重量(g)で測定した。各ジュースについて複数の希釈物を調製し、キュウリ種子成長についての試験に使った。
キュウリ種子の調製および実験アッセイは、上の実施例I(c)(i)に記載したとおり実施した。根および胚軸の長さは、各試験ジュースまたは対照と種子との28℃でのインキュベーションを開始した24および48時間後に測定した。以下の表14に見られるように、キウィジュースおよびグレープジュースは両方とも、キュウリ根ならびに胚軸の両方の成長に非常に高い百分率の阻害を示した。最も顕著な阻害は、インキュベーション開始の48時間後にみられ、両方のジュースがキュウリ種子の成長を阻害した。
【0139】
【表14】
【0140】
実施例 XII DCとのインキュベーション後の細胞の細胞周期分析
(i) 実験アッセイ
健康なヒト成人から得たケラチノサイトの細胞培養物および健康なヒト皮膚調製物から得た線維芽細胞の細胞培養物を、様々な濃度のナルシサス由来DC(IBR-1)、ナルシサス由来AE(IBR-3)およびアルテミア由来DC(IBR-4)とともにインキュベートした。細胞のDNA含量は、エチジウムヨウ素をDNAと結合する蛍光染料として使ってFACSにより分析した(パークスParks D. R.およびヘルツェンベルグHerzenberg, L.A., In: Methods in Cell Biology, Vol.26, Academic Press, p.283, 1982)。分析は、様々な抽出物との細胞のインキュベーションの開始の2日後および5日後に実施し、FACS FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.)で実施した。
【0141】
さらに、様々なDC抽出物とインキュベートした各細胞培養物におけるアポトーシス百分率も測定した。全般に、アポトーシスは、強いミトコンドリア活性化に始まり、続いて細胞核が分解した。上記の細胞培養物のFACS分析により、各細胞培養物のアポトーシス百分率を計算することも可能であった。
【0142】
(ii) 結果:
(a) ケラチノサイトの細胞周期に対するDCの効果
図7(a)および図7(b)、ならびに、図9(a)および(b)に見られるように、ナルシサス由来のDCおよびアルテミア由来のDCはケラチノサイトのDNA含量に対して効果を有し、G1期にある細胞百分率の減少ならびにSおよびG2+M期にある細胞の増加を示した(その効果はインキュベーションの2日目に既に明らかであり、インキュベーションの5日目に一層明白となった)。これに対して、図8(a)および(b)にみられるように、ナルシサス由来のAE(IBR-3)の効果は、インキュベーションの5日目にのみ僅かに判る程度で遥かに低くみられ、G1期の細胞百分率の減少がS期にある細胞百分率の増加およびG2+M期にある細胞百分率の有意でない増加とともにみられた。
さらに、ナルシサスおよびアルテミア由来のDC IBR-1およびEBR-4は、ナルシサス由来のAE IBR-3でインキュベートしたケラチノサイトではみられなかったアポトーシスの百分率の増加を示した。
【0143】
(b) 線維芽細胞の細胞周期に対するDCの効果
図10(a)および(b)ならびに図12(a)および(b)に見られるように、水とインキュベートした同じ細胞培養物と比較して、ナルシサス由来のDC(IBR-1)およびアルテミア由来のDC(IBR-4)はSおよびG2+M期にある細胞百分率を増加した(主にインキュベーション開始の5日後にみられた)。これに対して、図11(a)および(b)にみられるように、ナルシサス由来のAE(IBR-3)との細胞のインキュベーションは効果がなかった。どの試験抽出物も線維芽細胞培養中のアポトーシスの百分率を増加しなかった。
ケラチノサイトおよび線維芽細胞培養物に対する様々なDCの効果は時間および用量に依存した。
【0144】
実施例 XIII 発芽キュウリ種子の成長に対する様々な植物の鱗茎から得たDC調製物の効果
(a) 様々な植物の鱗茎から上の実施例Iに記載されたように抽出物を調製した。抽出した鱗茎は成長チップがみとめられない休眠段階にあった。抽出物濃度は、最終抽出物容量(ml)当たりの元の鱗茎の重量(g)として定義する。
(b) キュウリ発芽種子の成長に対する抽出物の効果:
実験アッセイは、上の実施例Iに説明したように実施した。発芽キュウリ種子の成長に対する試験鱗茎抽出物の効果を、種子を伴なう抽出物の培養開始の24および48時間後に試験した。
試験抽出物の阻害効果を上の実施例で記載したとおり計算した。
【0145】
結果:
下の表15に見られるように、殆どの抽出物は、発芽キュウリ種子の成長に対して(平均してほぼ60%までの)良好な阻害効果を示した。複数の植物(例えば、パンクラチウム・マリツマム(Pancratium maritumum))は、ほぼ90%阻害の非常に良好な阻害効果を示した。複数の抽出物は低い阻害効果を示し、これはある場合には鱗茎が完全な休眠でなかった事実によるのであろう。
パンクラチウム・マリツマム(Pancratium maritumum))およびヒアシンス・カーネギー(Hyancinth carnegie)由来の抽出物の効果を、キュウリ種子成長に対する効果について、様々な濃度の抽出物を種子に加えてさらに試験した。結果(示されてない)は、加えた抽出物の濃度と発芽キュウリ種子の成長に対する抽出物の阻害効果の相関を示した。
【0146】
【表15】
【0147】
実施例 XIV: キュウリ植物の成長に対するナルシサス鱗茎からの抽出物の効果
(a) 休眠ナルシサス鱗茎からの抽出物を上の実施例に説明されたとおり調製した。
(b) キュウリ種子を発芽させて、3日間、根および胚軸が約4cmになるまで成長させた。その後、植物を土壌に植えて水道水(tap water)中で23℃で成長させた。植物を、それぞれ18植物を含んでなる次の3グループに分割した:
1. 水道水で灌漑した植物;
2. 水道水で灌漑し、ナルシサス鱗茎抽出物(5mg/ml)を葉および成長分岐組織(growth meristem)に噴霧することによりナルシサス鱗茎抽出物で処理した植物;および
3. ナルシサス鱗茎抽出物(0.2g/ml)で直接灌漑した植物。
植物を毎日灌漑し、処理の1週後に、植物を土壌から取り出してそれぞれの処理の効果を各植物の根および幹の長さを測定して試験した。
結果:
下の表16にみられるように、抽出物を葉および成長分裂組織に噴霧することによる(グループ2)ならびに抽出物で植物を灌漑することによる(グループ3)、キュウリ植物への休眠ナルシサス鱗茎抽出物の施用は、両方とも水道水によるそれらの成長と比較してキュウリ植物の成長阻害をもたらした。
【0148】
【表16】
【0149】
実施例 XV: 様々なタイプの種子の成長に対するナルシサス鱗茎抽出物の効果
(a) 休眠ナルシサス鱗茎抽出物を上に説明したように調製した。
(b) 複数の種類の種子(トマト、キャベツ、メロン、スイカ、コムギ、イネ科草本(grass)、キュウリ、マメ、オオムギ、トウモロコシ(corn)およびエンドウマメ)を一夜、水洗し、その後、24時間、30℃、暗所にて、水に漬けた濾紙上で発芽させた。24時間後、発芽した種子(それぞれの実験セットにつき20個)を休眠抽出物に漬けたワットマン濾紙を置いたペトリ皿に施用した。
種子の各グループを次のグループに分けた:
1. 水中で成長した種子(対照);および
2. 休眠ナルシサス鱗茎抽出物で成長した種子。
様々なタイプの種子を、上の実施例1で説明した水または(複数の濃度の)抽出物で成長させ、インキュベーション後、各種子の根長および胚軸長を発芽および成長の速度に依って24時間ごと測定した。抽出物の阻害効果を、上に説明したように試験し計算した。
下の表17にみられるように、休眠ナルシサス鱗茎抽出物は効果的に上記種子の成長を阻害した。阻害の程度はいろいろであった。
【0150】
【表17】
【0151】
実施例 XVI: ナルシサス鱗茎抽出物中の活性成分の単離と同定
活性および休眠ナルシサス鱗茎から調製した粉末の数グラムをアセトンメタノール(90:10)で抽出した。抽出物を薄層クロマトグラフィー(TLC)技術を使って分離した。分離はTLCプレート(メルク(Merck)社製のシリカゲル60 F254)上で実施した。処理条件は、水:n−ブタノール:酢酸(5:4:1)であった。検出法は、254nmおよび365nmの紫外光であった。分離で生じたバンドをプレートからシリカで掻きとり、メタノールで洗浄し、60℃で乾燥した。活性ナルシサス鱗茎由来の抽出物に現れるバンドを休眠ナルシサス鱗茎の抽出物のそれらと比較した。
結果:
上の抽出物に現れたバンドを比較すると、(「バンド4」および「バンド6」と名付けた)2つのバンドの発現に差異があり、休眠鱗茎の抽出物においてより高い濃度で現れることを示した。
2つのバンドの紫外吸収スペクトルおよび発芽キュウリ種子に対する阻害活性を上に説明したように試験した。
図14(a)及び図14(b)にみられるように、バンド4の紫外吸収ピークは288nm、バンド6のそれは252nmにあった。下の表12にみられるように、バンド4および6は発芽キュウリ種子の成長を著しく阻害した。
【0152】
【表18】
【0153】
実施例 XVII 休眠ナルシサス鱗茎から得たDCの毒性試験
本発明のDCの毒性を以下の方法を使って試験した:
1. ラットにおける急性経口毒性(固定用量)試験
急性経口毒性学試験はインベレスク・リサーチ・インターナショナル(Inveresk Research International(IRI), Tranent, EH33 2NE, Scotland)により1996年1月刊行したプロトコル、コードP/ACU/005に基づいた。
2. エイムス試験(Ames Test)
ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)哺乳類ミクロソーム結合プレートアッセイは、エイムスら(Ames B.N., McCann, J.およびYamasaki E., Mutation Research, 31:347-364 (1975))に基づいた。
3. 細胞毒性(Cytotoxity)
アガロース拡散法により測定した美容クリーム中の0.2g/mlの抽出物(5%)の細胞毒性は、イーブイアイシー・シーイービーエイ(EVIC-CEBA, Bordeau, France)により試験された。
4. 刺激ポテンシャル(Irritaion Potential)
(0.2g/ml抽出物の(5%))クリーム中の生成物の刺激ポテンシャルは、HET-CAM(雌鳥の卵の絨毛尿膜)試験法を使い、イーブイアイシー・シーイービーエイ(EVIC-CEBA, Bordeau, France)により試験された。
5. 皮膚耐性(Cutaneous Tolerance)
皮膚への連続使用後の美容クリーム中の抽出物(0.2g/ml抽出物の(5%))の皮膚耐性は、イーブイアイシー・シーイービーエイ(EVIC-CEBA, Bordeau, France)により評価された。
【0154】
結果:
上記方法を使った毒性試験結果は次のとおりであった:
1. ラット経口(LD 50>2000mg/kg体重)における急性経口毒性(固定量)試験では、若い雌および雄ラットに急性の有害な影響はなかった。
2. 5000μg/プレートの上限用量までのエイムス試験では、沈殿および毒性を示さず、エイムス試験における突然変異性効果を誘導しなかった。
3. クリーム(0.2g/ml抽出物の(5%))の刺激ポテンシャル。産物はこの種の産物として正常の刺激性であることが見出された。
4. アガロース拡散法によるクリーム(0.2g/ml抽出物の(5%))中の生成物の細胞毒性測定は低いようで、この種の生成物として低くかつ正常とみなされた。
5. 皮膚耐性−美容クリーム中の抽出物の皮膚耐性の臨床評価を試験した。皮膚はこの生成物に非常によく耐えうることが見出された。
【0155】
実施例 XVIII 日焼け延長に対するDCの効果
(a) アッセイ:
5%ジヒドロキシアセトン(DHA)を含有するクリームを個人の前腕に塗布した。DHAは、自己日焼け製品に使われる皮膚上層を着色することが可能な化合物である。クリームを、日焼けが前腕に現れるまで3回塗布した。
その後、日焼け部を次の3部分に分け、それぞれ、異なるクリームを毎日2回、17日間塗布して処理した。
1. DC IBR-1の5%を含んでなるクリームによる処理;
2. 上の(1)に使われたものと同じであるが、IBR-1を含有しないクリーム;
3. αヒドロキシ酸(AHA)(皮膚処理用に市販されている)を含んでなるクリーム;そして
それぞれの皮膚領域の着色量を分光比色計を用いて測定した。
日焼け延長に対する%効果は、次式で計算した。
【0156】
【数1】
【0157】
結果:
上の実験結果は図15にみることができ、この図は、IBR-1を含有しないクリームの効果と比較した場合のIBR-1 DCを含有する上記1で使ったクリームの日焼け期間に対する効果(図15中AおよびB)と、AHAを全く含有しないクリームと比較した上記(3)に使われた(AHAを含んでなる)クリームの相対的効果(図15中CおよびD)との間の関係を示す。図15中Aにみることができるように、クリーム塗布の5日後、日焼け期間の延長に対するIBR-1を含有するクリームの効果は、IBR-1を含有しないクリームより著しく高かった。その効果は、図15中Bで見られるように、クリーム塗布後17日によりさらに著しかった。
【0158】
図15中CおよびDは、IBR-1を含有しない市販のクリームは日焼け期間にネガティブな効果をもつ、すなわちその塗布により、全く処理しない場合と比較して日焼け期間がより短くなることを明示している。また示されるように、AHAを含んでなるクリームは、塗布の5日後(図15中C)および塗布の17日(図15中D)に(無処理の日焼け期間と比較して)日焼け期間を短縮した。
以上の結果は、本発明のDCを含有するクリームは、おそらく皮膚細胞の増殖の阻害により、日焼け期間を延長することを示す。これに対して、皮膚処理用に一般的に使われるAHAを含有するクリームは、おそらく細胞分裂の刺激により日焼け期間を短縮する。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】様々な濃度の(休眠植物から得た)DC IBR-1(図1(a))または(活性植物から得た)AE IBR-3(図1(b))とともにインキュベートした後の、異なる時期における細胞培養ウェル中のケラチノサイト数を示すヒストグラムである。対照として、その細胞を増殖培地のみと共にインキュベートした(0μg/mlの試験したDCまたはAE)。各ウェル中の細胞数は、(実施例IIに記載した)ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより定量し、染色した培養プレートを620nmで読みとったものである。
【図2】以下の様々な濃度でインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中の線維芽細胞数を示すヒストグラムである。図2(a)−細胞をDC IBR-1(休眠)とともにインキュベートした。図2(b)−細胞をAE IBR-3(活性)とともにインキュベートした。
【図3】様々な濃度の細胞培養由来DC IBR-11とともにインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中のケラチノサイト数を示すヒストグラムである。対照として、細胞を増殖培地のみと共にインキュベートした(0μg/ml DE IBR-11)。各ウェル中の細胞数は、(実施例IIに記載した)ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより定量し、染色した培養プレートを620nmで読みとった。
【図4】様々な濃度の細胞培養由来DC IBR-11と共にインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中の線維芽細胞数を示すヒストグラムである。
【図5】様々な濃度の植物由来DC(IBR-1)(図5(a))または動物由来のDC(IBR-4)(図5(b))とともにインキュベートした後72時間のミクロ培養中の培養マウス膀胱癌細胞(T24P)数を示すグラフ表示である。各ウェル中の細胞数は、(実施例2に記載した)ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより定量し、染色した培養プレートを620nmで読みとった。
【図6】様々な濃度のDC IBR-1と共にインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中のマウス膀胱癌細胞(T50)数を示すグラフ表示である。休眠抽出物を細胞培養の第1日目および第3日目に加え、培養の第5日目に各ウェル中の細胞数を上の図5に記載したとおり定量した。各試験ウェルの細胞数は、上の図1の記載で説明したミクロ培養メチレンブルーアッセイを使い、染色した培養プレートを620nmにて読みとることにより定量した。
【図7】2日および5日間、DC IBR-1(それぞれ図7(a)および図7(b)とともにインキュベートしたケラチノサイトのDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、FACS、FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.))によりエチジウムブロマイドを使って実施した。G1期、S期およびG2+M期にある細胞の%を各細胞培養で測定した。さらに各培養中のアポトーシス(A)の%も測定した。
【図8】2日および5日間、AE IBR-3(それぞれ図8(a)および図8(b))とともにインキュベートしたケラチノサイトのDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、FACS、FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.))によりエチジウムブロマイドを使って実施した。G1期、S期およびG2+M期にある細胞の%を各細胞培養で測定した。さらに各培養中のアポトーシス(A)の%も測定した。
【図9】2日および5日間、DC IBR-4(それぞれ図9(a)および図9(b))とともにインキュベートしたケラチノサイトのDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、FACS、FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.))によりエチジウムブロマイドを使って実施した。G1期、S期およびG2+M期にある細胞の%を各細胞培養で測定した。さらに各培養中のアポトーシス(A)の%も測定した。
【図10】2日および5日間、DC IBR-1(それぞれ図10(a)および図10(b))ともにインキュベートした線維芽細胞のDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、上の図7に記載のとおり実施した。
【図11】2日および5日間、AE IBR-3(それぞれ図11(a)および図11(b))とともにインキュベートした線維芽細胞のDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、上の図8に記載のとおり実施した。
【図12】2日および5日間DC IBR-4(それぞれ図12(a)および図12(b))とともにインキュベートした線維芽細胞のDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、上の図9に記載のとおり実施した。
【図13】薄層クロマトグラフィー(TLC)による分離により得たバンドのUVスペクトルを示すグラフ表示である(a)及び(b)。
【図14】薄層クロマトグラフィー(TLC)による分離により得たバンドのUVスペクトルを示すグラフ表示である(a)及び(b)。
【図15】日焼け部分にクリームを塗布した後5日目および17日目における、日焼け持続期間にあたえる様々な処置の比較効果を示すグラフ表示である。図15中Aは、クリームの塗布後5日目における、日焼け持続期間の延長にあたえる5%IBRを含有するクリームの効果を示す。図15中Bは、クリーム塗布後17日目における、図15中Aと同じ効果を示す。図15中Cは、クリームの塗布後5日目における、クリームなしの日焼けと比較した、日焼け持続期間にあたえるαヒドロキシ酸(AHA)を含有するクリームの効果(短縮)を示す。図15中Dは、クリームを塗布した後17日目における、図15中Cと同じ効果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞または組織の増殖を抑制することができる細胞若しくは組織の抽出物に関する。本発明はこうした抽出物を含む医薬組成物及び化粧用組成物、並びにこれら組成物の製造方法に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
休眠は植物界並びに動物界の典型例において見られる現象である。
必須の増殖器官を含む各種の穀類および種子の発芽はある種の状況下で遅延されるが、それでもその穀類または種子は様々な時間後に発芽することができる。こうした種子の発芽が遅延され得る時間は変化し、またその種子の固有の特性ならびに環境条件の性質および過激度の両方に応じて決まる。種子は数日、1年、数年およびさらに数世紀以上も休眠することが示された(これはスイレン科(ニンフェアセアエ(nympheaceae))のあるものおよびマメ科(レギュミノサエ(Leguminosae))の木の種子の場合において最近発見された(セン−ミラー Shen-Miller,J.ら、American Journal of Botany,82:1367-1380,1995))。
【0003】
ある場合においては、休眠を進行させる能力は胚包膜に存在する。こうした場合、胚からの包膜の分離の結果、直ちに発芽をもたらす。
【0004】
別の場合において、胚自体の中に発芽を妨げることができる成長抑制化学物質が存在し、この場合は裸の胚でも休眠し続ける(ヤマブキ(ケリア(Kerria))モモ(ピーチ(Peach))などのバラ科(ロザセアエ(Rosaceae))植物の場合などである)。
【0005】
植物において、休眠状態は植物全体またはその1以上の部分において見られる。休眠性植物はその成長サイクルにおいて2つの主要な代謝状態を有する植物である。休眠状態において、植物の代謝は極めて低く、ある一定の細胞の分化は起こり得るが、植物の成長過程は著しく抑制される。活動状態において、植物の代謝速度はより高く、細胞は分裂および分化し、そして植物の各種部分の顕著な成長がある。いくつかの場合、植物全体が休眠状態に入る。スイセン(ナルシサス(Narcissus)) 属植物の場合がこれであり、この場合、休眠状態中に生存し続ける部分は休眠状態にある鱗茎のみである。別の場合、例えばリンゴの木の場合のように、その他の部分が休眠中でも、その植物のある部分は活動的なものもある。
【0006】
また、新鮮な果汁中または汁液を産生するその他の植物の器官中に発芽を抑制することができる物質が存在することが示されている。その例は、トマト、ブドウ、キウイ、スイカおよびグレープフルーツで、この場合、果実中に存在する種子は、周囲の環境が発芽に好適であっても、果実中の水分によって発芽しない。
【0007】
細胞の増殖に影響を与える、植物由来のいくつかの物質が報告されている。例えば、欧州特許出願第0381514 号に、各種の細胞に対して成長抑制活性を有する、天然物由来および合成的に調製されたスフィンゴ脂質の両者を含む組成物が記載されている。各種のヒト細胞に対して抗有糸分裂効果を有する、別の周知の植物由来の物質はコルヒチン物質である(サムソン Samson,F.E.,A Rev.Pharmac.Toxic 16:143(1976) )。ナルシサス(Narcissus) アルカロイドのプレタゼチン(pretazettine)の主要な活性は抗ウイルス活性であることが示されていたが、ラウシェル(Rausher) ウイルス保有細胞に対する細胞毒性効果および白血病マウスにおける抗白血病活性を有することが示された(フルザワ Furusawa,E.ら、Chemotherapy,26:36-45,(1980)およびフルザワ Furusawa,E.ら、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,152:186-191,(1976))。 ウレックス・エウロパエウス(Ulex europaeus)の種子抽出物はある種のリンパ球の増殖を可逆的に抑制することができる非糖タンパク質レクチンを含み、そして各種の細網内皮腫瘍細胞系の増殖を抑制することが示された(ピロフスキ Pirofsky,B.ら、Vox-Sang,42:295-303,(1982)およびピロフスキ Pirofsky,B.ら、J.Biol.Response Mod.,2:175-185,(1983) )。パネクス・ギンセング(Panex ginseng) の根の抽出物はV 79チャイニーズハムスターの肺細胞の[H3]-チミジンの取り込みによって測定したDNA 合成を減少させることが示された。別の物質の、各種のナルシサス(Narcissus) 変種の鱗茎から得られたナルシクラシン(Narciclasine)はその他の活性の中でも、コムギ穀粒の根の成長を抑制することが示された(セリオッティCeriotti,G.ら、Tumors 53:359-371(1967)) 。ハワイ(Hawaii)で採取されたパンクラチウム・リットラル(Pancratium littoral)の鱗茎は各種の腫瘍細胞系の成長をインヴィトロ(in vitro)で抑制することができる、パンクラチスタチン(pancratistatin)と命名された産物を含有することが発見された(ペティPettit,G.R.ら、J.Nat.Prod.,49:995-1002(1986))。
【0008】
これとは逆に、細胞に対して反対の効果を有する、すなわちその増殖を増加させることができる、多くの植物抽出物もまた記載されている。例えば、スクテラリア・バイカレンシス・ジョルジ(Scutellaria baicalensis georgi)の根のメタノール抽出物は繊維芽細胞の細胞活性を顕著に増大させることが示された(Chung,C.P.ら、Planta-Med.61:150-153,(1995))、などである。鱗茎を有する6種の植物種中にジベレリン様成長物質が発見された(スタビーStaby,G.L.,Hort Science,399-400(1970))。ナルシサス(Narcissus) 属の鱗茎から発生した根の中で発見された数種のサイトカイニンはそれらが検出された植物の鱗茎の成長に対して影響した(ヴァンスタデン Vanstaden,J.V.,Pflanzenphysiol.,86: 323-30(1978))。
【0009】
休眠現象は動物界、例えば小さい甲殻類動物、アルテミア・サリナ(Artemia salina)においても見られる(フィナモア Finamoreおよびクレッグ Clegg:The Cell Cycle,Academic Press Ed.,249-278,1969 )。この海生甲殻類の自然環境は通常塩水湖である。受精後、アルテミアの初期発生段階には胞胚の形成が関与し、これはその後嚢胚になる。脱水(旱魃)などの厳しい環境条件下では、嚢胚は包嚢を形成することができ、この中で生物体全体が休眠期に入る。休眠中のアルテミアの嚢胚(普通「アルテミア卵(artemia eggs)」と誤って称される)は何年間もその休眠状態を持続させることが可能である。包嚢が形成された嚢胚が水分を得ると、アルテミアの各種の代謝活性が回復し、約10分後にタンパク質合成を観察することができる。しかし、DNA 合成および細胞分裂は約60時間後まで見られない(ラガル Le Gal,Y.:Biochimie Marine,(Ed.Masson)p.176,1988 )。
【0010】
表皮細胞の増殖および再生を刺激するための美容剤分野における使用のために、各種の植物由来の組成物(レチノイン酸(US5,438,073) およびα−ヒドロキシ酸(ディトレ Ditre,C.M.ら、J.Am.Acad.Dermatol.,34:187-195,1996 )など)ならびに動物由来の抽出物が提案されてきた。こうした組成物は、表皮の自然の再生過程が加齡とともに遅くなることが一般に容認されている美容剤分野において有用であると考えられた。外表面の除去と同時に表皮の内層における新しい細胞の成長を刺激して分裂させ、そして外表面に移動させる結果として、皮膚の再生およびより若い皮膚の外観が得られるものと信じられている。しかし、細胞分裂の増加は、正常細胞を前悪性または悪性細胞への転換の決定的な因子であることも知られており、また最近示された(アメス Ames,B.N.ら、Environ.Health Perspect 101:35-44(1993) )。
【0011】
今日では、正常なヒトおよび動物細胞は有限の複製能力を有することも信じられている。培養された正常な動物細胞が実施することができる分裂事象の数はそれらが得られたドナーの年令に逆比例関係にあるらしいことが示された(ハイフリック Hayflick,L.、Clin.Geriatr.Med.,1:15-27,(1985))。加速老化症候群の患者から得られた細胞培養物は同年令の対照個体から得られた細胞培養物よりも複製の程度が低いことも示された。
【非特許文献1】セン−ミラー Shen-Miller,J.ら、American Journal of Botany,82:1367-1380,1995
【非特許文献2】サムソン Samson,F.E.,A Rev.Pharmac.Toxic 16:143(1976)
【非特許文献3】フルザワ Furusawa,E.ら、Chemotherapy,26:36-45,(1980)
【非特許文献4】フルザワ Furusawa,E.ら、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,152:186-191,(1976)
【非特許文献5】ピロフスキ Pirofsky,B.ら、Vox-Sang,42:295-303,(1982)
【非特許文献6】ピロフスキ Pirofsky,B.ら、J.Biol.Response Mod.,2:175-185,(1983)
【非特許文献7】セリオッティCeriotti,G.ら、Tumors 53:359-371(1967)
【非特許文献8】ペティPettit,G.R.ら、J.Nat.Prod.,49:995-1002(1986)
【非特許文献9】スタビーStaby,G.L.,Hort Science,399-400(1970)
【非特許文献10】ヴァンスタデン Vanstaden,J.V.,Pflanzenphysiol.,86: 323-30(1978)
【非特許文献11】フィナモア Finamoreおよびクレッグ Clegg:The Cell Cycle,Academic Press Ed.,249-278,1969
【非特許文献12】ラガル Le Gal,Y.:Biochimie Marine,(Ed.Masson)p.176,1988
【非特許文献13】ディトレ Ditre,C.M.ら、J.Am.Acad.Dermatol.,34:187-195,1996
【非特許文献14】アメス Ames,B.N.ら、Environ.Health Perspect 101:35-44(1993)
【非特許文献15】ハイフリック Hayflick,L.、Clin.Geriatr.Med.,1:15-27,(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、細胞または組織の増殖を抑制することができる細胞若しくは組織の抽出物、及び、このような抽出物を含む、皮膚の加齢に関連する現象の処置に用い、皮膚の若年様外観を維持すること、日焼け状態の維持・延長を可能とすること、良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高リスク状態の個体に投与し、細胞の増殖を抑制することができる、あるいは、脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の医薬用途に用いることができる医薬組成物、及び、化粧用組成物、並びにこれら抽出物や組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の抽出物は請求項1に記載の通り、(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなるプロセスで得られた抽出物であって、前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい、抽出物であり、かつ、前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物である。
【0014】
また、本発明の医薬組成物は請求項2に記載のように、前記請求項1に記載の標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物を含有することを特徴とする医薬組成物である。
【0015】
また、本発明の医薬組成物は請求項3に記載のように請求項2の医薬組成物において、個体の皮膚に局所適用のためのものであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の医薬組成物は請求項4に記載のように請求項2の医薬組成物において、膚の若年様外観を維持するための医薬組成物であるか、または皮膚の加齢に関連する現象の処置のための医薬組成物であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の医薬組成物は請求項5に記載のように請求項2の医薬組成物において、日焼けの延長用の医薬組成物であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の医薬組成物は請求項6に記載のように請求項2の医薬組成物において、良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高 リスク状態の個体に投与することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の医薬組成物は請求項7に記載のように請求項2の医薬組成物において、脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の群から選ばれたいずれかのためのものであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の化粧用組成物は請求項8に記載のように前記請求項1に記載の抽出物を含有することを特徴とする化粧用組成物である。
【0021】
また、本発明の化粧用組成物は請求項9に記載のように請求項8の化粧用組成物において、皮膚の若年様外観を維持する、または、皮膚の加齢に関連する現象の処置のためのものであることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の化粧用組成物は請求項10に記載のように請求項8の化粧用組成物において、日焼けの延長のためのものであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の化粧用組成物は請求項11に記載のように請求項8の化粧用組成物において、脱毛症(Alopecia)の抑制、多毛症の抑制、爪の成長速度の低下、瘢痕形成の抑制、及び、皮膚疾患の処置、の群から選ばれる適用のためのものであることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物の製造方法は請求項12に記載の通り、(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなり、前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい抽出物の製造方法であり、かつ、前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物の製造方法である。
【0025】
また本発明の医薬組成物の製造方法は請求項13に記載の通り、医薬的に受容できる担体(carrier)に医薬的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する医薬組成物の製造方法である。
【0026】
また、本発明の医薬組成物の製造方法は請求項14に記載の通り、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法において、個体の皮膚の局所適用のために調整された医薬組成物のためのものであることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の医薬組成物の製造方法は請求項15に記載の通り、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法において、経口投与のために調整された医薬組成物のためのものであることを特徴とする。
【0028】
本発明の化粧用組成物の製造方法は請求項16に記載の通り、化粧用途に受容できる担体(carrier)に化粧用途的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する化粧用組成物の製造方法である。
【0029】
本発明の化粧用組成物の製造方法は請求項17に記載の通り、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法において、個体の皮膚の局所適用のために調整された化粧用組成物のためのものであることを特徴とする。
【0030】
本発明の化粧用組成物の製造方法は請求項18に記載の通り、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法において、経口投与のために調整された化粧用組成物のためのものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の抽出物は休眠組成物であり、この組成物は細胞、特にプロデューサー細胞または組織とは異種の細胞の増殖を抑制するために使用することができる。
医薬組成物に応用した場合、皮膚の加齢に関連する現象の処置に用い、皮膚の若年様外観を維持すること、日焼け状態の維持・延長を可能とすること、良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高リスク状態の個体に投与し、細胞の増殖を抑制することができる。
さらに細胞の増殖を抑制することができ、脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の医薬用途に用いることができる。
【0032】
また上記細胞の増殖を抑制する抽出物を含有する化粧用組成物とすることができ、このとき、皮膚の若年様外観を維持する、または、皮膚の加齢に関連する現象の処置に用いたり、日焼け状態の維持・延長のために用いる、あるいは、脱毛症(Alopecia)の抑制、多毛症の抑制、爪の成長速度の低下、瘢痕形成の抑制、及び、皮膚疾患の処置、に応用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
<語句の説明>
以下は下記の説明文において使用されるいくつかの用語の意味である。
休眠 −細胞または組織の代謝速度が著しく減少した結果、その細胞または組織の成長および増殖が抑制される状態。
【0034】
休眠物質 −細胞または組織中に天然に見出され、そして細胞または組織が休眠状態に入るのを誘発するかまたはすでにこの状態に入っている細胞または組織の休眠状態を維持することができる物質。この休眠物質は、休眠状態に入ることができる各種の植物の部分;果実中の種子の発芽を抑制することができる休眠物質を含有する各種の果実の果汁;生活サイクル中の休眠期に入ることができる動物、例えばアルテミアまたはダフニア(dafnia)などのある種の甲殻類の嚢胚;その他から得ることができる。ある場合においては、休眠物質は休眠組織中、例えば休眠種子中またはアルテミア若しくはダフニアの嚢胚中に見出だされ、別の場合においては、休眠物質は休眠組織または器官の周囲の組織中、例えば休眠種子の周囲の果汁中に見出だされる。
【0035】
抽出物 −当技術分野で既知の各種の抽出方法のいずれかによって得られる1以上の物質。例えば、この抽出物は水性抽出物、グリコール抽出物、アルコール抽出物、油性抽出物などでもよい。本発明に従う抽出物は休眠状態に入ることができる植物または動物の一部由来の細胞または組織から得られる。この細胞または組織は植物または動物から直接得ることができ、そして次にこれらから抽出物を調製することができる。あるいは、植物または動物の細胞または組織から細胞培養物を最初に調製し、次に細胞培養物を各種の時間増殖させる。抽出物を調製するために、次に細胞を細胞培養物から収穫し、細胞及びそれらの増殖培地を分離し、そして細胞自体から、または細胞によって増殖培地中に分泌された物質を含有する増殖培地(「上清」と称する)のいずれかから抽出物を調製することができる。こうして「抽出物」を植物または動物組織から直接に、あるいは動物または植物の細胞または組織培養物から得ることができる。
【0036】
休眠抽出物 −植物細胞若しくは組織から、果実から、または動物細胞若しくは組織から得られた、休眠物質を含む抽出物。
【0037】
富化休眠物質製剤(EDP ) −天然の未処理の抽出物の濃度よりも高い濃度の休眠物質を含む天然起源に由来する製剤。このEDP は、例えば各種のクロマトグラフィー技術、濾過などによって天然抽出物を精製して、さらに高い濃度の休眠物質を含有する画分を得ること、および休眠物質を産生することができる細胞または組織を、比較的大量に休眠物質を産生する条件下で増殖させて、その分泌産物を回収することを含む生物学的方法によって、得ることができる。ある製剤が富化休眠物質製剤であるかどうかを判定するために、以下に記載するように、この製剤について、休眠物質に関係する特異的な生物学的活性をアッセイすることができる。EDP は天然調製品に比較して実質的にさらに高い濃度の休眠物質を含有する。例えば、天然調製品中の休眠物質の濃度の少なくとも1.5倍、好ましくは2倍、そして典型的には少なくとも2.5倍である。
【0038】
プロデューサー細胞またはプロデューサー組織 −休眠物質を産生し、さらにそれらから休眠物質を抽出することができる、細胞または組織。
【0039】
標的細胞または標的組織 −本発明にしたがって休眠物質と接触させて、これによってそれらの成長または増殖の抑制状態に入るか、または休眠物質と接触させた結果と同じ状態を維持する細胞または組織。
【0040】
休眠物質類似体 −ある休眠物質によって休眠を誘発されるものと同一の細胞または組織中で休眠を誘発することができる点においてその休眠物質に類似する活性を有し、そして本発明にしたがって標的細胞または組織の成長および増殖を抑制することもできる物質(典型的には合成された物質)。
【0041】
休眠組成物(DC) −活性成分として、標的細胞または組織の成長および増殖を抑制するのに有効な量(「有効量」)の休眠物質(例えば休眠抽出物として)または休眠物質類似体を含む組成物。休眠組成物は、天然物由来のEDP 、合成休眠物質および休眠物質類似体を含む組成物を含み得る。
【0042】
活動期抽出物(AE) −休眠状態に入ることが可能な植物または動物の部分由来の細胞または組織から、非休眠状態の時期に取得した抽出物。
【0043】
発明の要約
本発明にしたがって、休眠組成物が使用される。この組成物は細胞、特にプロデューサー細胞または組織とは異種の細胞の増殖を抑制するために使用することができる。本発明の好ましい1実施形態によって、この組成物をヒトの医薬および美容剤に使用する。別の実施形態にしたがって、組成物を植物の成長の調節のために使用する。さらに別の実施形態によって、本発明の組成物を食品の保存に際して使用する。
【0044】
本発明の1態様によって、以下からなる群から選択される物を含む、標的細胞または標的組織の増殖を抑制することができる調製品が提供される。
(i) プロデューサー細胞またはプロデューサー組織から取得される抽出物であって、この細胞または組織が少なくともその一部において休眠状態に入ることが可能な生物体を起源とするものであり、このプロデューサー細胞または組織が由来する生物体中でこの休眠状態を誘発または維持する1以上の物質を含む抽出物、
(ii) 休眠を誘発する上記抽出物の画分、および
(iii) 上記抽出物または画分に由来する休眠誘発物質。
1実施形態によれば、組成物は上記定義のような、天然の未処理抽出物中に見られるよりも高い濃度の休眠物質を含む、富化休眠物質製剤(EDP )を含む。
抽出物が得られるプロデューサー細胞または組織はその標的細胞または組織と同一の起源のものでもよいが、好ましくは異なる起源のものがよい。本発明の1実施形態において、この標的細胞または組織はヒト細胞または組織であり、そしてこのプロデューサー細胞または組織は植物または非ヒト動物細胞または組織である。本発明の別の実施形態においては、この標的細胞または組織は植物細胞または組織である。
【0045】
本発明の好ましい1実施形態において、休眠組成物は体内の細胞増殖を抑制するための医薬または美容用組成物である。本発明の別の実施形態によれば、この組成物を(天然の若しくは人工的に調製された)種子の発芽または例えば保存期間中に苗木の休眠状態を維持することを目的とする、苗木の成長を抑制するために使用する。さらに別の本発明の実施形態によれば、休眠組成物を生鮮食品の保存のために使用する。
【0046】
1実施形態によれば、本発明にしたがって使用する休眠物質または抽出物は休眠植物に由来する。
【0047】
休眠性植物の鱗茎からその休眠状態中に取得した本発明に従う組成物は、苗木の成長を抑制することができるとともに、各種の哺乳類細胞、例えばヒト細胞を含む各種の標的細胞を、活動状態にある同一の植物の鱗茎から同一の条件下で取得した調製品よりも有意に、より高度に抑制することができる。また、休眠性植物の各種の部分から調製し、休眠を誘発された細胞培養物から取得した休眠組成物もまた、苗木の成長を抑制するとともに、各種の哺乳類細胞(例えばヒト細胞)を含む、各種の細胞の増殖を抑制することができることも発見された。これらのDCは広範囲の濃度において、標的細胞に認知し得る毒性効果を持たず、これは抗増殖効果を有する大部分の物質と対照的である。
【0048】
本発明にしたがって、DCを取得するために、休眠状態に入ることができるあらゆる植物を使用することができる。休眠状態に入り、そしてDCを取得することができる植物およびそれらの植物の部分(「D-部分」と称する)のいくつかの例を、以下の表I−1〜3およびIIー1〜4に示す。なお、これら例は本発明を限定するものではない。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
本発明において、DCは好ましくは、自然の休眠過程の結果として、あるいは休眠状態を誘発する曝露、例えば休眠誘発温度で十分な時間、インキュベート(培養)するなどの条件下で外部から休眠に誘導した結果としてのいずれかによって休眠状態にある植物から取得する。各種の休眠性植物中で休眠を誘発する条件(例えばインキュベーション(incubation)温度およびインキュベーション時間)は異なっているようであり、当技術に精通した者には知られている。こうして、例えば、比較的高温度に曝露することによって休眠に誘導される植物(ナルシサス(Narcissus) )など)がある。これと反対に、別の植物(チューリップなど)は比較的低温度に曝露することによって休眠に誘導される。光、湿度、各種の成長因子の濃度などのその他の因子もまた休眠を誘発するために使用することができる。
【0057】
本発明の好ましい1実施形態において、DCは休眠に入ることが可能な植物の部分(D-部分)、例えば鱗茎から取得する。休眠状態に誘導された鱗茎を即時にDCの調製のために使用するか、あるいは休眠状態を維持する条件下で保存してもよい。例えばナルシサス(Narcissus) の場合、この条件として高温度および低湿度が含まれる。鱗茎の他に、休眠性植物の鶏冠部(combs) 、根、種子などの別の部分を上記説明のように休眠に誘導して、それらからDCを取得するために使用することもできる。
【0058】
本発明の別の実施形態において、休眠性植物のいずれかの部分(例えば鱗茎)から調製して休眠に誘導した細胞培養物から、休眠抽出物を取得する。鱗茎抽出物のカルス培養物を形成させるため、好適な培地に休眠性植物の花梗分裂組織細胞(influorescence stalk initials)を有する鱗茎を接種することによって、培養物を取得することができる。次いで、細胞培養物を典型的にはコンフルエントまで成長させると、細胞培養物中に非常に小さい鱗茎部分(「鱗芽」と称される)が形成される。細胞培養物または鱗芽中の休眠状態の誘発は、休眠誘発温度で十分な時間インキュベートすることなどの、休眠状態を誘発する条件にそれらを曝露することによって得られる。細胞培養物または鱗芽を各種の型の化学的ストレス(低または高濃度の糖、塩など)に曝露することによって、インビトロ(in vitro)で休眠を誘発することもできる。
【0059】
鱗芽の他に、休眠性植物の鶏冠部、根、種子などの別の部分由来の細胞培養物もまた、細胞培養物由来の休眠抽出物を得るために使用することもできる。
【0060】
さらに別の実施形態によって、本発明の休眠類似体を、組換えDNA 技術、化学合成、コンビナショナルケミストリー(combinational chemistry)などの当分野で既知の任意の方法によって合成的に調製することができる。この場合の休眠類似体は、これらの基礎となる休眠物質の、標的細胞の休眠を誘発し、かつ増殖を抑制するという能力に限っては、実質的に同様の特性を維持しているものである。
【0061】
好ましくは、本発明の植物由来のDCは植物材料の水性抽出物として取得される。この水性抽出物は植物材料をホモジナイズし、次にこのホモジネートを水溶液に懸濁させることによって、調製することができる。しかし、それ自体既知の任意の抽出方法によって得られた非水性植物抽出物も、時には本発明にしたがって使用することができる。
【0062】
さらに別の本発明の実施形態にしたがって、果汁またはその他の汁液を産生する植物器官からEDP 類を取得することができる。果実は典型的には種子(seeds and pips)が果実内にある間はそれらの発芽を抑制する休眠物質を含有する。休眠物質を精製することができる汁液の例は柑橘類果実、ブドウ、トマト、キーウイなどの果汁である。果汁はそのまま使用するか、あるいは下記に説明するようにして、果汁から休眠物質を精製することができる。
【0063】
さらに別の本発明の実施形態にしたがって、生活サイクル中に休眠期に入ることが可能な動物を起源とするプロデューサー細胞から休眠物質を抽出する。休眠期中は、その動物の代謝速度は最低となり、細胞増殖の中断がある。こうした動物の例はアルテミア、ダフニアおよびシクロプスなどの各種の海生甲殻類である。
【0064】
植物由来のDCについて上に説明したように、動物由来のDCもまた、自然の休眠過程の結果として、あるいは脱水(アルテミア・サリナ(Artemia salina))または酸素欠乏(アルテミア・フランシスカーナ(Artemia franciscana) )などの休眠誘発条件に対する曝露によって、外部から休眠に誘導した結果としてのいずれかによって休眠状態にある動物から取得することもできる。休眠物質はその動物組織からそれ自体既知の各種の方法によって抽出することができる。
【0065】
動物由来のDCは動物またはその器官自体から取得することができる。あるいは、休眠動物から最初に細胞培養物を調製し、その細胞を培養物中に各種時間維持した後、その上清から抽出するか、あるいは細胞を収穫し、かつ/またはこれらからDCを抽出することによって、DCを得ることができる。
【0066】
本発明のDCはその産生細胞から、それ自体周知の様々な方法により、例えばクロマトグラフィー(例えばTLC、HPLC、イオン交換)により、サイズ分画(例えば、透析、ゲル濾過)などにより精製することができる。
【0067】
本発明によって、個体に投与されると前記休眠組成物の抗増殖活性は外皮内層に存在する細胞の細胞分裂速度を低下しうることが初めて理解された。
【0068】
かくして、本発明の他の態様は、個体の皮膚の若年様外観の保持または加齢による皮膚変化の治療に有用な美容用または皮膚科用組成物としての、前記休眠組成物の使用である。
本発明の後者の態様によって、皮膚科用または美容剤に許容される担体と一緒に、約0.0001重量%から、好ましくは約0.001重量%から、典型的には約0.01重量%から、約5重量%まで、好ましくは約1重量%までの休眠抽出物または休眠物質類似体を含んでなる皮膚科用または美容用組成物が提供される。
【0069】
本発明の皮膚科用または美容用組成物は、香油(balm)、乳化ゲル、水性アルコールゲル、無水ゲル、水中油(O/W)型乳化液、透明ゲル、リポソーム含有クリームなどの様々な形で投与することができる。
【0070】
美容用または皮膚科用組成物は典型的には表面塗布される。しかし時には、例えば皮下注射による、経口投与カプセルによるまたはイオン導入療法(iontophoresis)(イオン活性物質の浸透を増加するための電場使用を含む)による他の投与様式により組成物を投与するのが有利である場合もある。
【0071】
それらの著しい抗増殖効果により、前記休眠組成物は様々な悪性疾患の治療にも使うことができる。上述したように、細胞分裂速度は、細胞が前悪性もしくは悪性細胞になる確率を決定するのに重要な因子である。さらに、周知のとおり、良性もしくは悪性腫瘍の形成は、なかんずく、腫瘍を形成する細胞の連続分裂に依存する。良性もしくは悪性腫瘍の形成前もしくは形成早期における個体への休眠組成物の投与は、治療される個体の完全に成長した腫瘍形成の遅延または予防をもたらしうる。完全に成長した良性もしくは悪性腫瘍に罹っている個体への前記抽出物の投与は、治療される個体の腫瘍量の低減および腫瘍関連症候の軽減をもたらしうる。前記休眠組成物は原発性および続発性(転移性)腫瘍の治療に有効でありうる。相乗的な抗腫瘍形成効果を達成するために、前記抽出物を1つ以上の公知の抗腫瘍形成治療(例えば、化学療法剤、照射など)と組み合わせて投与することもできる。個体へ投与すべき前記抽出物の用量ならびに治療様式は、治療される個体の特性(年齢、体重、治療歴など)ならびに発生中または現存の腫瘍の特性(良性もしくは悪性、寸法、起源、原発性もしくは続発性など)に依存するであろう。原発性もしくは続発性腫瘍を発生するリスクの高い個体には、腫瘍形成の確率を低減する目的で休眠組成物を日常的に投与することができる。
【0072】
したがって、本発明はさらに、良性もしくは悪性の腫瘍を有するかまたは腫瘍発生リスクの高い個体への投与のための、細胞増殖を阻害する能力のある休眠抽出物を含んでなる組成物を提供する。
【0073】
本発明のさらに他の態様により、休眠組成物は化学療法および照射治療の治療指数を増すために使うことができる。このような治療を受ける個体では、腸の内層細胞、毛包細胞および造血細胞のような正常分裂細胞も、悪性細胞(その大部分が分裂細胞である)の破壊を目的とした化学療法剤または照射により害される。このような治療の前またはこれと一緒に、個体へ休眠組成物を投与することにより、かなりの割合で正常細胞の増殖を阻害することができよう。その結果、正常細胞にあたえる治療の影響による有害な副作用を著しく低減することが可能であり、有益であれば、さらに高濃度の化学療法または照射治療を使うことができる。休眠組成物の毒性低減効果を容易にする目的で、時々、必要な部位、組織または器官、例えば皮膚に直接投与することができる。
【0074】
従って、本発明は、そのさらなる態様により、休眠物質、休眠抽出物または休眠物質類似体の有効量を含んでなる、化学療法または照射治療を受ける個体に投与するための細胞増殖を阻害することができる組成物を提供する。
【0075】
休眠組成物の他の治療的用途は、線維症(例えば皮膚線維症、肝硬変、およびその他の阻害を含む。これまで、線維芽細胞の異常増殖である線維症は、細胞傷害性薬物により治療されてきたが、その一般的な非特異的な毒性によって用途が限定されていることに注意すべきである。本発明の休眠組成物の使用による線維芽細胞増殖の阻害は、実行可能な低毒性の代替手段を提供する。同様な方式で、本発明の休眠組成物は、ケラチノサイトの異常増殖から生じる乾癬の治療にも有用でありうる。脂漏性角化症、乳頭腫およびいぼも、休眠組成物により治療することができる。
【0076】
本発明の休眠組成物の他の可能な用途は、移植に使用する前の器官または組織の保存である。
【0077】
前記休眠組成物の他の用途は、例えば、多くの場合、個体の皮膚の加齢と関連する現象の1つである禿頭(脱毛症)の治療である。脱毛症に罹っている個体では、頭髪の寿命が実質的に低下する(例えば、正常な個体では約3年の寿命から脱毛症に罹った個体では約1年へ)。したがって、脱毛症発生の確率の高い個体または既に頭髪損失の徴候を既に示す個体の毛髪成長速度の低減は、このような毛髪損失の程度を低減するであろう。このような個体への本発明の休眠組成物の投与は、頭髪損失の部分的もしくは完全な低減をもたらしうる。この目的のため、休眠物質を含んでなる組成物を頭髪損失部位に表面塗布するかあるいは他の事例では全身に投与することができる。
【0078】
本発明の休眠物質を含んでなる組成物の投与により治療しうるさらなる症状は、腕、背などのような個体の様々な部分の体毛の異常成長(多毛症)に関連する。このような望ましくない体毛の異常成長は多くの場合、加齢した個体に現れ、そして時には同じ個体の頭髪損失と関連する。細胞増殖を低減する能力により、本発明の組成物は、このような望ましくない体毛の異常成長を低減するために有用である可能性がある。
【0079】
上記の2つの徴候に対して投与される休眠物質を含んでなる組成物の量、投与法ならびに適用様式も、治療される個体の特性(年齢、サイズ、性など)ならびに(頭髪損失の程度、体毛の異常成長がある具体的な身体部分のような)治療すべき症状に関連するパラメーターの両方に依存するであろう。
【0080】
さらに、休眠組成物は、例えば髭剃り(前記抽出物をアフターシェーブ溶液中に含ませて)または脱毛(例えばワックスにより)のような体毛除去処理と組み合わせてまたはその後に投与する補剤として使うことができる。
【0081】
休眠組成物の他の応用は、瘢痕が形成される期間、例えば手術後に、瘢痕の形成を縮小する目的での個体への投与を含んでも良い。このような個体の治癒過程の速度を低下させることにより、最終瘢痕ははるかに見えにくくなりうる。さらに、休眠組成物の抗線維症効果(anti-fibrotic effect)は、治癒後に通常現れるケロイドの形成を低減する。
【0082】
休眠組成物は、個体の日焼け期間を拡大するために使うこともできる。太陽に曝露された後、表皮細胞は高濃度のメラニンを含む。皮膚の再生中に、このようなメラニンを含む細胞が剥がれ落ちる。皮膚の細胞再生過程を遅くすることにより、休眠組成物はメラミンを含む細胞を、したがって日焼けを長期間残す。
【0083】
様々な細胞の増殖を抑制することに加えて、前記休眠組成物は、様々な植物実生の種子発芽を遅くし成長を抑制することもできる。種子発芽後、実生に根および胚軸が発生し始める。植物実生を休眠組成物とともにインキュベートすると、実生の根および胚軸の伸長が抑制される。したがって、休眠組成物は雑草防除用に使うことができ、その場合、それらの適切な濃度の投与は、所望の植物の成長に影響を与えないで、望ましくない雑草の成長を阻害することができる。休眠物質は天然起源であるので、それらの投与は、それが誘導されて作用する細胞もしくは組織にまたは環境に著しい毒性効果を与えない。さらに、しばしば、このような組成物は種子および実生の長期保存に使うことができる。
【0084】
したがって、本発明は、植物種子および/または実生の成長を遅くしかつ阻害する活性を有し前記休眠抽出物を含んでなる休眠組成物を提供する。
本発明の休眠組成物のさらなる用途は、新鮮な産物、例えば野菜、新鮮な魚卵、貝などの保存である。
【0085】
本発明は、その組成物中に抗増殖に有効な量の休眠物質をもつ抗増殖組成物を得るために、休眠物質またはDCを担体と混合することを含んでなる、抗増殖組成物の調製プロセスも提供する。このような調製組成物は、担体の性質によって、治療、美容用品、食品保存または農業に使うことができる。医薬用または美容用組成物を調製するこのようなプロセスは、典型的には、DCを調製しそれを適切な医薬または美容剤に許容される担体と混合することを含んでなり、DCの量は最終的な治療用または美容剤に(その場合に応じた)有効な量の休眠物質を組成物中にもたらすものである。このような医薬または美容用組成物の調製のための休眠物質またはDCの使用も提供される。
【0086】
よく理解されるように、以上に記載した本発明の休眠組成物の様々な用途は、これらの組成物の無数の可能な用途の例であり、全ては標的細胞の増殖阻害で共通している。
次に、幾つかの非限定的実施例により、図を時々参照して本発明を説明する。
【実施例】
【0087】
実施例 I: A:キュウリ実生の成長にあたえるナルシサス圃場鱗茎から調製したナルシサス鱗茎DCの効果
【0088】
(a) ナルシサス圃場鱗茎の休眠誘導
ナルシサス圃場鱗茎を入手し、45℃の温度を有する熱水に2〜4時間漬けた。その後、鱗茎をすぐ水溶性抽出物の調製に使うか、もしくは代わりに、乾燥室で30℃の温度に最大8ヶ月の期間維持した後、植物抽出物の調製に使った。
【0089】
(b) ナルシサス鱗茎からの抽出物の調製
活性もしくは(上に説明したように休眠を誘導した)休眠ナルシサス圃場鱗茎を1時間石鹸水中で消毒した。その後、鱗茎を切り、ウルトラ・ターボ・ツラックス(Ultra-Turbo-turax)ホモジナイザーを使って蒸留水中でホモジナイズした(30秒×3)。その後、ホモジナイズした鱗茎の調製物を第1の0.45μm無菌フィルターを通し、その後、第2の0.22μmフィルターを通して濾過し、その後、フィルター上に残らなかった調製物を回収した。濃度は、最終抽出物容積(ml)当たりの元の鱗茎の重量(g)として定義した。
【0090】
(c) ナルシサス圃場鱗茎抽出物がキュウリ実生の成長にあたえる効果
(i) 実験アッセイ:
キュウリ種子品種「デリカ("Delica")」, 1994-1995, 95%発芽、99.9%純度を水道水(tap water)中で発芽させ、その後、根分化(root initiation)(1〜2mm)まで暗所で27℃にて約20時間インキュベートさせた。各実験グループは、上に説明したように取得した様々な濃度の休眠ナルシサス圃場鱗茎由来のDC(IBR-1)2mlで満たされたそれぞれのペトリ皿を含んでなった。
1層の濾紙を各ペトリ皿において、上に説明したように発芽した10個のキュウリ種子を濾紙上においた。ペトリ皿を24〜72時間、26℃〜28℃にて暗所でインキュベートした。
色々な濃度で試験した鱗茎抽出物の効果を、キュウリ種子の2つのパラメーターについて試験した:
1. 根伸長
2. 胚軸伸長
これらの2つのパラメーターを、試験した抽出物と種子とをインキュベートした後24時間ごとに、およびその後24時間ごとに試験した。
(ii) 結果:
以下の表8及び9に示すごとく、DC IBR-1とともにインキュベートした種子の根および胚軸の長さにより測定されたように、無菌水とともにインキュベートした同じ器官の長さと比較してDC IBR-1は実生の成長に対して十分な阻害活性を示した。
【0091】
【表8】
【0092】
【表9】
【0093】
実施例 I: B:キュウリ実生の成長にあたえるナルシサスDCの効果の可逆性
(i) 実験アッセイ
(a) 実験は、上のI(A)に記載したのと同じ方法で実施した。キュウリ種子の根および胚軸の成長にあたえるDCの効果を、インキュベーション後24および72時間に測定した。インキュベーション後72時間に、種子を無菌蒸留水で洗浄し、無菌蒸留水でさらに72時間27℃にて、暗所でインキュベートした。種子の根および胚軸の長さを、インキュベーション開始後144時間(DCを洗浄除去後72時間)に再び測定した。
(ii) 結果
下の表10に見られるように、キュウリ種子の根および胚軸の成長に阻害効果のあるナルシサス由来DCを洗浄除去した後、根と胚軸は再び成長を開始した。このように、DCの阻害効果は可逆性があり毒性はなかった。同じ効果は、低濃度のDCとともにインキュベートした種子でも明らかであった(結果は示してない)。
【0094】
【表10】
【0095】
実施例 II: ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス鱗茎由来DCの効果
(a) ケラチノサイト培養物の調製
ヒト・ケラチノサイト培養物を、ベン バサート等による Ben Bassat H., et al., Plastic and Reconstructive Surgery, 89:511, (1992)に記載されたように調製した。全般に、ケラチノサイト培養物は、小さい中間層皮膚の小さい生検材料(約1cm2)から開始した。健康なドナーからの生検材料を、1%リドカインによる局所麻酔をかけて採取した。その生検片をトリプシン−EDTA中で4℃にて18〜20時間インキュベートした。その後、表皮を分離して上皮をトリプシン−EDTA中に統合(desegregate)して、単一細胞懸濁液を形成した。x10抗生物質、1000U/mlペニシリン、1000μg/mlストレプトマイシン、0.0025μg/mlアンホテリシンBおよび0.4mg/mlゲンタマイシンとともにトリプシン0.125%−EDTA0.025%を含むパックの生理的塩類溶液(Puck's saline)を、この方法に使用した。トリプシン溶液はトリプシン1:250強度から調製した。
支持細胞層として致死量照射した3T3マウス線維芽細胞2×105を含有する予め調製した25cm2ファルコンフラスコ中へ、上に記載のとおり調製した細胞懸濁液を、3〜6×106細胞の濃度で接種した。
【0096】
フラスコを37℃、10%CO2で、約8〜10日間、培養物がほぼ80%コンフルエント(confluent)になるまでインキュベートした。この段階で、各フラスコ中の細胞はトリプシン0.25%−EDTA0.05%(1:1)を加えて抗生物質なしに遊離し、遊離細胞を洗浄後、96ウェルマイクロプレートに1ウェル当たり3×104細胞の濃度で支持細胞層なしにラインバルトおよびグリーン(Rheinwald T.G. and Green, H., Nature, 265:421-424 (1988))によるケラチノサイト培地(Kmed)中に接種して、2次培養物を形成した。
【0097】
(b) ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス鱗茎に由来するDCの効果
(i) 実験アッセイ:
ナルシサス鱗茎抽出物を実施例I(b)に記載のとおり活性および休眠鱗茎から取得した。上記のとおりマイクロプレートに接種した2次ケラチノサイト細胞培養物を、さらにKmed中で3〜4日間増殖させた。その後、マイクロプレートを次の主なグループに分割した:
(1) Kmed中で連続増殖したケラチノサイト;
(2) 複数の濃度(0.5μg/ml〜10μg/ml、各濃度が別々の実験グループを形成する)の活性ナルシサス鱗茎から調製したAE IBR-3を含有するKmed中で増殖したケラチノサイトならびに
(3) 複数の濃度(0.5μg/ml〜10μg/ml、各濃度が別々の実験グループを形成する)の休眠ナルシサス鱗茎から得たDC IBR-1を含有するKmed中で増殖したケラチノサイト。
【0098】
各実験グループは5つのウェルを含んでなった。DC IBR-1またはAE IBR-3を含有する増殖培地は5日間、24時間ごとに取り替え、その後、全ウェルから培地をとり除いて植物抽出物のない新鮮なKmed培地を加え、培養物をその中でさらに3日間増殖した。
【0099】
ケラチノサイト増殖に対する試験したDCまたはAEの効果を、DCまたはAEを含まないKmed培地で細胞が増殖したウェルで検出した細胞数と比較して、試験した処理ウェル中に検出した細胞数により定量した。
【0100】
各ウェル中の細胞数はミクロ培養メチレンブルーアッセイにより次のとおり定量した:
抽出物で処理した培養物および対照を、グルタルアルデヒド中で最終濃度0.05%、10分間、室温で固定した。洗浄後、マイクロプレートを、メチレンブルー1%を含む0.1Mホウ酸バッファーpH8.5で60分間、室温にて染色した。その後、プレートを広範囲に徹底的に洗浄して過剰の染料をとり除いて乾燥した。細胞により摂取された染料は0.1N HClに60分間、37℃で溶出して620nmで読み取った。
【0101】
予備滴定実験で、1×103〜4×104細胞/ウェルに対して線形の読みを得た。ケラチノサイトは島で増殖し均一な単層を形成しないので、増殖曲線実験の各点は5ウェルの読みの平均である。試験したDCもしくはAEとともにケラチノサイトをインキュベートした後2日目および5日目、ならびにインキュベーション後8日目(試験抽出物なしに3日増殖の後)にウェル中の平均細胞数を測定した。
【0102】
(ii) 結果:
図1(a)に見られるとおり、ナルシサス鱗茎由来のDC IBR-1は、ケラチノサイトの増殖に著しい阻害効果を与えた。阻害は5日目の実験から明らかであり、用量に依存した。ケラチノサイト増殖の阻害は0.5μg/mlの低いDC濃度で明らかであったが、DCの10μg/ml濃度で最も著しかった。効果は用量に依存した(DCの1g/ml濃度で開始し、DCの10μg/mlで最も効果的であった)。
これに対して、図1(b)に見られるとおり、AE IBR-3は、ケラチノサイト増殖に対して有意な阻害効果を示さなかった。
【0103】
実施例 III: 培養中の線維芽細胞の増殖に対する休眠および活性ナルシサス鱗茎由来DCの効果
(a) 線維芽細胞培養物の調製:
1次線維芽細胞培養物を小さなヒト皮膚検体から開始し、使用増殖培地がDMEM+20%胎児ウシ血清であることを除くとケラチノサイト培養調製に関する上記実施例IIに記載のとおり調製した。
(b) DCおよびAEの調製
DC IBR-1およびAE IBR-3を休眠および活性ナルシサス鱗茎から上記のとおり調製した。
(c) 線維芽細胞にあたえるDCおよびAEの効果:
(i) 実験アッセイ:
前記抽出物を様々な濃度(1g〜10g/ml)で線維芽細胞培養物に加え、培養物内の線維芽細胞の数を上記実施例II(a)に記載のとおり細胞に抽出物を添加後、2日目、5日目および8日目に測定した。
(ii) 結果:
図2(a)に見られるとおり、DC IBR-1が培養中の線維芽細胞の増殖に最も著しい阻害効果を有した。効果は実験の5日目から明らかであり、用量に依存するが、0.5μg/mlの低い用量でも効果が見られた。
図2(b)に見られるとおり、AE IBR-3は線維芽の増殖に対する阻害効果はなかった。
【0104】
実施例 IV: DCを含んでなる美容用および皮膚科用組成物の調製
以下は、本発明により個体への投与用に使うことができる幾つかの具体的な美容用および皮膚科用組成物の例である。
【0105】
A. 香油(局所経路):
・ オゾケライト 10 g
・ パルミチン酸イソプロピル 9 g
・ 白ワセリン 14 g
・ 保存剤 0.2 g
・ 酸化防止剤 0.3 g
・ 香料 1 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.00001 g
・ 液体パラフィン 総量 100 g
【0106】
B. 香油(局所経路):
・ オゾケライト 19 g
・ 液状プルセリン(purcellin)オイル 10 g
・ 白ワセリン 15 g
・ 保存剤 0.2 g
・ 酸化防止剤 0.3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.00002 g
・ 液体パラフィン 総量 100 g
【0107】
C. 水中油(O/W)型の乳化ゲル(局所経路):
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチ(Goodrich)より市販) 0.6 g
・ 揮発性シリコーンオイル 3 g
・ プルセリンオイル 7 g
・ 保存剤 0.3 g
・ エチルアルコール 15 g
・ 香料 0.4 g
・ トリエタノールアミン 0.2 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.04 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0108】
D. 水性アルコールゲル(局所経路):
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 1 g
・ トリエタノールアミン 1 g
・ 95%エタノール 60 g
・ グリセロール 3 g
・ プロピレングリコール 2 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 5 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0109】
E. 無水ゲル(局所経路):
・ 無水エタノール 61.1992 g
・ ヒドロキシエチルセルロース 0.8 g
・ プロピレングリコール 25 g
・ ポリエチレングリコール 12 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.0008 g
【0110】
F. 水中油(O/W)型の乳化液(局所経路):
・ 揮発性シリコーンオイル 10 g
・ 液状パラフィン 6 g
・ 液状ラノリン 3 g
・ Arlacel(登録商標)165(アトラス(Atlas)より市販) 6 g
・ Tween(登録商標)60(アトラスより市販) 2 g
・ セチルアルコール 1.2 g
・ ステアリン酸 2.5 g
・ トリエタノールアミン 0.1 g
・ 保存剤 0.3 g
・ 酸化防止剤 0.3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.5 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0111】
G. 水中油(O/W)型の乳化液(局所経路):
・ プロピレングリコール 2 g
・ PEG 400 3 g
・ 保存剤 0.3 g
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 0.2 g
・ ミリスチン酸イソプロピル 1 g
・ セチルアルコール 3 g
・ ステアリン酸 3 g
・ グリセロール 3 g
・ コーン油 2 g
・ 香料 0.5 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.001 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0112】
H. 透明ゲル(局所経路)
・ オキシエチレン化ノニルフェノール 5 g
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 1 g
・ エチルアルコール 30 g
・ トリエタノールアミン 0.3 g
・ グリセリン 3 g
・ 香料 0.3 g
・ 保存剤 0.3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 1 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0113】
I.リポソーム含有クリーム(局所経路):
・ セチルアルコール 4 g
・ B−シトステロール 4 g
・ ジセチルリン酸 0.5 g
・ 保存剤 0.3 g
・ ヒマワリ油 35 g
・ 香料 0.6 g
・ Carbopol(登録商標)981(グッドリッチより市販) 0.2 g
・ トリエタノールアミン 0.2 g
・ スフィンゴシン 0.05 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 0.2 g
・ 脱塩水 総量 100 g
【0114】
J. 経口組成物:
・ タルク 5 mg
・ エーロジル(Aerosil)200 5 mg
・ ステアリン酸亜鉛 5 mg
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 3 mg
・ ラクトース 総量 400 mg
【0115】
K. イオン導入法用液:
・ 安息香酸ナトリウム 2 mg
・ 保存剤 0.15 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 1 g
・ 水 総量 100 g
【0116】
L. 水中油(W/O)乳化剤:
・ プロテギン(Protegin)(ゴールドシュミット(Goldschmidt)市販) 19 g
・ ワセリンオイル 8 g
・ グリセリン 3 g
・ 鱗茎抽出物から調製したDC 1 g
・ 硫酸マグネシウム 0.5 g
・ 香料 0.8 g
・ 保存剤 0.2 g
・ 水 総量 100 g
【0117】
実施例 V: キュウリ実生成長に対するナルシサス小鱗茎(細胞培養)から調製した抽出物:
(a) ナルシサス鱗茎細胞培養物の調製
圃場からの花序柄開始点(inflorescence stalk initials)を有する活性ナルシサス鱗茎を使って、複製内部規模外植片(duplicate inner scale explant)を調製した。その後、外植片をNR31培地(NAA/10μM BA: 5:0.5μM)に接種してカルス培養を開始した。カルス培養開始後4〜5週に、培養物をNR8培地(6%スクロース)に移植して小鱗茎(bulblet)成長外植体を形成した。バイオマスのスケールアップのため、半量の小鱗茎を、
ムラシゲ・スクーグ(Murashige & Skoog)(Sigma M-5525) 4.33 g/l
ミオイノシトール 100 mg/l
硫酸アデニン 150 mg/l
NaH2PO4H2O 345 mg/l
NAA 5 μM 寒天A型 7g/l
BA 5 μM pH=5.7
ピリドキシン 1 mg/l
グリシン 2 mg/l
ニコチン酸 5 mg/l
塩酸チアミン 0.5 mg/l
スクロース 30 g/l
を含んでなる液体基本培地N4の入った小鱗茎カラムバイオリアクターに4週間移植した。
【0118】
(b) 細胞培養に由来するDCの調製
その後、上記(a)に記載したように調製した植物材料を7〜10日間、ジャイロ型回転振とう機により、約35℃で振とうした(培地1ml当たりカラム重量は0.1gであった)。半量の細胞培養物を、高温(約35℃)でインキュベートして休眠を誘導した。この培養物から調製したDCをIBR-11と名付けた。残りの細胞培養物は、正常条件で成長させて活性状態を保持し、それから調製したAEをIBR-10と名付けた。AE IBR-10またはDC IBR-11は、水で洗浄し重量を測定しウルトラ・ターボ・ツラックス(ultra-Turbo-turax)でホモジナイズした培地を含まないバイオマスから調製した。ホモジネートを無菌蒸留水中に懸濁し希釈した。
【0119】
(c) キュウリ種子品種「デリカ("Delica")」, 1994-1995, 95%発芽、99.9%純度を水道水(tap water)中、27℃、暗所で約20時間、根分化(1-2mm)まで発芽させた。
(d) 実験アッセイ
(i) キュウリ実生の根伸長および胚軸伸長にあたえるナルシサス小鱗茎から調製した上記のDCおよびAEの効果を、次のとおり測定した。それぞれ10個の種子を含有するペトリ皿からなる各実験グループを、
1. DC IBR-11(休眠)
2. AE IBR-10(活性)
とともにインキュベートした。
【0120】
1層もしくは2層の濾紙をそれぞれのペトリ皿におき、上に説明したとおり発芽した10個のキュウリ種子を濾紙上においた。ペトリ皿を72時間、27℃〜30℃、暗所でインキュベートした。
【0121】
抽出物の効果をキュウリ種子の次の2つのパラメーターについて試験した:
1. 根伸長
2. 胚軸伸長
抽出物とともに種子を72時間インキュベートした後、これら2つのパラメーターを試験した。
【0122】
(ii) 結果:
以下の表11に見られるように、インキュベーション後72時間に、実生成長にあたえるAEの効果と比較して、DC IBR-11は実生の根の長さおよび胚軸の長さの両方に対して著しく高い阻害活性を有した。
【0123】
【表11】
【0124】
実施例 VI: ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス鱗茎細胞培養由来のDCの効果
(a) ケラチノサイト培養物の調製
ヒトケラチノサイト培養物を上の実施例II(a)に記載のとおり調製した。
(b) ケラチノサイトの増殖に対するナルシサス小鱗茎由来のDCの効果
(i) 実験アッセイ
ナルシサス鱗茎由来細胞培養物を上に記載のとおり調製し、DC IBR-11を(上に記載したとおり)休眠に誘導した小鱗茎から調製した。
【0125】
上に記載したようにマイクロプレートに播いた2次ケラチノサイト細胞培養物を、さらにKmed培地中で3〜4日増殖した。その後、マイクロタイタープレートを次の主要グループに分割した:
【0126】
(1) Kmed中で連続増殖したケラチノサイト;および
(2) 複数の濃度(0.5μg/ml〜10μg/ml、各濃度に対して別個の実験グループを形成する)のDC IBR-11を含有するKmedで増殖したケラチノサイト。
各実験グループは5つのウエルを含んでなった。DCを含有する増殖培地は5日間、24時間ごとに取り替え、その後、培地を全ウエルからとり除いて植物抽出物を含まない新鮮なKmed培地を加え、培養物をその中でさらに3日間増殖した。
ケラチノサイト増殖について試験したDCの効果を、DCなしのKmed培地で増殖したウエルで検出した細胞数と比較した、試験した処理ウエル中に検出した細胞数により定量した。
【0127】
各ウエル中の細胞数は、ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより次のとおり定量した:
抽出物処理した培養物および対照は、グルタルアルデヒド中に、最終濃度0.05%、10分間、室温で固定した。洗浄後、マイクロプレートを、メチレンブルー1%を含む0.1Mホウ酸バッファーpH8.5中で、60分間、室温で染色した。その後、プレートを広範囲に徹底的に洗浄して過剰の染料をとり除いて乾燥させた。細胞により摂取された染料は0.1N HClに、60分間、37℃で溶出して620nmで読み取った。
予備滴定実験で、1×103〜4×104細胞/ウエルについて直線的な読み取りを得た。ケラチノサイトは島として増殖し均一な単層を形成しないので、増殖曲線実験の各点は5ウエルの読み取りの平均である。ウエルの平均細胞数は、試験したDCを含むケラチノサイトのインキュベーションの2日後および5日後、ならびに培養の8日後(試験抽出物なしに3日間の増殖を実施した後)に測定した。
【0128】
(ii) 結果:
図3に見られるように、DC IBR-11は培養のケラチノサイトの増殖に著しい阻害活性を示した。
【0129】
実施例 VII: 培養物中の線維芽細胞の増殖に対する休眠ナルシサス小鱗茎から得たDCの効果
(a) 線維芽細胞培養物の調製:
1次線維芽細胞培養物を小さいヒト皮膚標本から開始し、使用増殖培地がDMEM+20%胎児ウシ血清であること以外はケラチノサイト培養調製に関する上記実施例IIに記載のとおり調製した。
(b) 細胞培養したDCの調製
上の実施例V(b)に記載のとおり、IBR-11を休眠小鱗茎から調製した。
(c) 線維芽細胞増殖に対するDCの効果:
(i) 実験アッセイ:
前述抽出物を様々な濃度(1μg〜10μg/ml)で線維芽細胞培養物に加え、培養物内の線維芽細胞の数を上の実施例V(a)に記載のとおり細胞に抽出物を添加してから、2日後、5日後および8日後に測定した。
(ii) 結果:
図4に見られるとおり、細胞培養から誘導したDC IBR-11は線維芽細胞の増殖に阻害活性を示した。
【0130】
実施例 VIII. キュウリ種子成長に対する果実ジュースの効果
(a) 果実ジュースの調製
グレープフルーツジュースを1個の新鮮なグレープフルーツから作り、作ったジュースを絞り、綿布を通して濾過し、その後、10,000rpmで10分間、室温で遠心分離した。その後、上清を以下に記載するようにキュウリ種子成長に対するその効果を試験するために使った。
(b) キュウリ実生の成長に対するグレープフルーツジュースの効果
(i) 実験アッセイ:
キュウリ種子を、上の実施例1(c)(i)に記載のとおり調製した。各実験グループは、以下のものを1.8ml満たした10枚のペトリ皿を含んでなった:
(1) dH2O
(2) 上の(a)で得た果実ジュース。
1層もしくは2層の濾紙をそれぞれのペトリ皿におき、上に説明したとおり発芽した10個のキュウリ種子を濾紙上においた。ペトリ皿を25℃で培養し、キュウリ種子のパラメーターをインキュベーション開始の24時間後および72時間後に測定した。
果実ジュースの効果をキュウリ種子の2つのパラメーターについて試験した:
1. 根伸長
2. 胚軸伸長。
(ii) 結果:
下の表12に見られるように、この実験は、果実ジュースがキュウリ種子の成長に対する阻害活性を有することを示した。
【0131】
【表12】
【0132】
実施例 IX: キュウリ種子成長に対する甲殻類アルテミア・サリーナ(Artemia salina)から得た休眠抽出物の効果
【0133】
(a) アルテミア・サリーナ(Artemia salina)由来の抽出物の調製:
IBR-4と名付けた休眠抽出物をアルテミア・サリーナ(Artemia salina)から抽出物を調製することによって得た。アルテミア「卵」を、脱水または高塩濃度にかけ、殻を開けてから、グラウンディング(grounding)してもよい。あるいはまた、アルテミア「卵」を10mlの水に分注し、殻を軟化させることができる。殻のグラウンディングもしくは軟化の後、卵をそれ自体周知の溶媒(例えば水)のどれか1つに溶解してそれから抽出物を得る。抽出物は(本実施例のように)凍結乾燥するか、あるいはまた、得られたままの状態で使うことができる。アルテミア抽出物を得るさらなる方法として、プレノープリウス(prenauplius)幼生が殻から這い出すまでアルテミア「卵」を水中に溶解して、その後、幼生をグラウンディングし、それから抽出物を得てもよい。
【0134】
(b) キュウリ実生の成長に対するアルテミア由来のDC抽出物(IBR-4)の効果:
(i) 実験アッセイ:
キュウリ種子を、上の実施例1に説明したように調製してペトリ皿中に播種した。各実験グループは、10個のキュウリ種子を含有するペトリ皿を含んでなり、以下に示した結果は10個の種子に対して測定したパラメーターの平均である。ペトリ皿は、28℃、暗所で成長させ、キュウリ種子の根長と胚軸長を、以下のうちの1つの1.8mlとのインキュベーション開始の24時間後および48時間後に測定した:
(1) dH2O
(2) 0.02g/mlの濃度のDC IBR-4。
【0135】
(ii) 結果:
以下の表13に見られるように、アルテミアの休眠抽出物IBR-4は、キュウリ種子成長に著しい阻害効果を有し、その阻害効果はDC IBR-4による種子の培養の既に24時間後に明らかであったが培養の48時間後に最も著しかった(根成長の66%阻害および胚軸成長の40%阻害)。
【0136】
【表13】
【0137】
実施例 X: マウス膀胱癌細胞の増殖に対する、休眠植物からの休眠抽出物(ナルシサス由来のIBR-1)および動物から得た休眠抽出物(アルテミア由来のIBR-4)の効果
(a) 休眠抽出物の調製
ナルシサス由来の植物休眠抽出物であるIBR-1およびアルテミア由来の動物休眠抽出物IBR-4を上の実施例に説明したように調製した。
(b) マウス膀胱癌細胞の増殖に対するDC IBR-1およびDC IBR-4の効果
(i) 実験アッセイ
2つの実験を次のとおり実施した:
T24P細胞(マウス膀胱癌細胞)(図5)を4×104細胞/ウェルの濃度でミクロ培養ウェル中にまき、T50細胞(マウス膀胱癌細胞)(図6)を2×104細胞/ウェルの濃度でミクロ培養プレート中にまき、そして細胞培養培地で増殖した。
細胞を播いた24時間後および休眠抽出物での細胞インキュベーションの48時間後に、色々な濃度(0g/ml〜25g/ml)で、DC IBR-1およびDC IBR-4をT24P細胞培養に加え、IBR-1をT50細胞にも加えた。ウエル1つ当たりの細胞数を、抽出物を含む細胞インキュベーション開始の48時間後に、ミクロ培養メチレンブルーアッセイ(上の実施例2に記載した)を使い測定し、染色した培養プレートを620nmで読み取った。
(ii) 結果:
図5および6に見られるように、植物由来の休眠抽出物ならびに動物由来の休眠抽出物の両方共が、マウス膀胱癌細胞T24P(図5)およびT50(図6)の増殖にいくらかの阻害効果を有した。
【0138】
実施例 XI: グレープおよびキウィジュースによるキュウリ種子成長の阻害
(a) 果実ジュースの調製
グレープおよびキウィジュースは新鮮な果実から作った。果実をブレンダーカップ中で3分間高速でブレンドし、ブレンド物を寒冷紗を通して濾過し、そして6,500rpm、10分間、室温で遠心分離した。その後、上清液は、グレープジュース1.2g/mlおよびキウィジュース1.26g/mlの濃度で、実験に使用した。濃度は、最終容量(v)に対する果実重量(g)で測定した。各ジュースについて複数の希釈物を調製し、キュウリ種子成長についての試験に使った。
キュウリ種子の調製および実験アッセイは、上の実施例I(c)(i)に記載したとおり実施した。根および胚軸の長さは、各試験ジュースまたは対照と種子との28℃でのインキュベーションを開始した24および48時間後に測定した。以下の表14に見られるように、キウィジュースおよびグレープジュースは両方とも、キュウリ根ならびに胚軸の両方の成長に非常に高い百分率の阻害を示した。最も顕著な阻害は、インキュベーション開始の48時間後にみられ、両方のジュースがキュウリ種子の成長を阻害した。
【0139】
【表14】
【0140】
実施例 XII DCとのインキュベーション後の細胞の細胞周期分析
(i) 実験アッセイ
健康なヒト成人から得たケラチノサイトの細胞培養物および健康なヒト皮膚調製物から得た線維芽細胞の細胞培養物を、様々な濃度のナルシサス由来DC(IBR-1)、ナルシサス由来AE(IBR-3)およびアルテミア由来DC(IBR-4)とともにインキュベートした。細胞のDNA含量は、エチジウムヨウ素をDNAと結合する蛍光染料として使ってFACSにより分析した(パークスParks D. R.およびヘルツェンベルグHerzenberg, L.A., In: Methods in Cell Biology, Vol.26, Academic Press, p.283, 1982)。分析は、様々な抽出物との細胞のインキュベーションの開始の2日後および5日後に実施し、FACS FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.)で実施した。
【0141】
さらに、様々なDC抽出物とインキュベートした各細胞培養物におけるアポトーシス百分率も測定した。全般に、アポトーシスは、強いミトコンドリア活性化に始まり、続いて細胞核が分解した。上記の細胞培養物のFACS分析により、各細胞培養物のアポトーシス百分率を計算することも可能であった。
【0142】
(ii) 結果:
(a) ケラチノサイトの細胞周期に対するDCの効果
図7(a)および図7(b)、ならびに、図9(a)および(b)に見られるように、ナルシサス由来のDCおよびアルテミア由来のDCはケラチノサイトのDNA含量に対して効果を有し、G1期にある細胞百分率の減少ならびにSおよびG2+M期にある細胞の増加を示した(その効果はインキュベーションの2日目に既に明らかであり、インキュベーションの5日目に一層明白となった)。これに対して、図8(a)および(b)にみられるように、ナルシサス由来のAE(IBR-3)の効果は、インキュベーションの5日目にのみ僅かに判る程度で遥かに低くみられ、G1期の細胞百分率の減少がS期にある細胞百分率の増加およびG2+M期にある細胞百分率の有意でない増加とともにみられた。
さらに、ナルシサスおよびアルテミア由来のDC IBR-1およびEBR-4は、ナルシサス由来のAE IBR-3でインキュベートしたケラチノサイトではみられなかったアポトーシスの百分率の増加を示した。
【0143】
(b) 線維芽細胞の細胞周期に対するDCの効果
図10(a)および(b)ならびに図12(a)および(b)に見られるように、水とインキュベートした同じ細胞培養物と比較して、ナルシサス由来のDC(IBR-1)およびアルテミア由来のDC(IBR-4)はSおよびG2+M期にある細胞百分率を増加した(主にインキュベーション開始の5日後にみられた)。これに対して、図11(a)および(b)にみられるように、ナルシサス由来のAE(IBR-3)との細胞のインキュベーションは効果がなかった。どの試験抽出物も線維芽細胞培養中のアポトーシスの百分率を増加しなかった。
ケラチノサイトおよび線維芽細胞培養物に対する様々なDCの効果は時間および用量に依存した。
【0144】
実施例 XIII 発芽キュウリ種子の成長に対する様々な植物の鱗茎から得たDC調製物の効果
(a) 様々な植物の鱗茎から上の実施例Iに記載されたように抽出物を調製した。抽出した鱗茎は成長チップがみとめられない休眠段階にあった。抽出物濃度は、最終抽出物容量(ml)当たりの元の鱗茎の重量(g)として定義する。
(b) キュウリ発芽種子の成長に対する抽出物の効果:
実験アッセイは、上の実施例Iに説明したように実施した。発芽キュウリ種子の成長に対する試験鱗茎抽出物の効果を、種子を伴なう抽出物の培養開始の24および48時間後に試験した。
試験抽出物の阻害効果を上の実施例で記載したとおり計算した。
【0145】
結果:
下の表15に見られるように、殆どの抽出物は、発芽キュウリ種子の成長に対して(平均してほぼ60%までの)良好な阻害効果を示した。複数の植物(例えば、パンクラチウム・マリツマム(Pancratium maritumum))は、ほぼ90%阻害の非常に良好な阻害効果を示した。複数の抽出物は低い阻害効果を示し、これはある場合には鱗茎が完全な休眠でなかった事実によるのであろう。
パンクラチウム・マリツマム(Pancratium maritumum))およびヒアシンス・カーネギー(Hyancinth carnegie)由来の抽出物の効果を、キュウリ種子成長に対する効果について、様々な濃度の抽出物を種子に加えてさらに試験した。結果(示されてない)は、加えた抽出物の濃度と発芽キュウリ種子の成長に対する抽出物の阻害効果の相関を示した。
【0146】
【表15】
【0147】
実施例 XIV: キュウリ植物の成長に対するナルシサス鱗茎からの抽出物の効果
(a) 休眠ナルシサス鱗茎からの抽出物を上の実施例に説明されたとおり調製した。
(b) キュウリ種子を発芽させて、3日間、根および胚軸が約4cmになるまで成長させた。その後、植物を土壌に植えて水道水(tap water)中で23℃で成長させた。植物を、それぞれ18植物を含んでなる次の3グループに分割した:
1. 水道水で灌漑した植物;
2. 水道水で灌漑し、ナルシサス鱗茎抽出物(5mg/ml)を葉および成長分岐組織(growth meristem)に噴霧することによりナルシサス鱗茎抽出物で処理した植物;および
3. ナルシサス鱗茎抽出物(0.2g/ml)で直接灌漑した植物。
植物を毎日灌漑し、処理の1週後に、植物を土壌から取り出してそれぞれの処理の効果を各植物の根および幹の長さを測定して試験した。
結果:
下の表16にみられるように、抽出物を葉および成長分裂組織に噴霧することによる(グループ2)ならびに抽出物で植物を灌漑することによる(グループ3)、キュウリ植物への休眠ナルシサス鱗茎抽出物の施用は、両方とも水道水によるそれらの成長と比較してキュウリ植物の成長阻害をもたらした。
【0148】
【表16】
【0149】
実施例 XV: 様々なタイプの種子の成長に対するナルシサス鱗茎抽出物の効果
(a) 休眠ナルシサス鱗茎抽出物を上に説明したように調製した。
(b) 複数の種類の種子(トマト、キャベツ、メロン、スイカ、コムギ、イネ科草本(grass)、キュウリ、マメ、オオムギ、トウモロコシ(corn)およびエンドウマメ)を一夜、水洗し、その後、24時間、30℃、暗所にて、水に漬けた濾紙上で発芽させた。24時間後、発芽した種子(それぞれの実験セットにつき20個)を休眠抽出物に漬けたワットマン濾紙を置いたペトリ皿に施用した。
種子の各グループを次のグループに分けた:
1. 水中で成長した種子(対照);および
2. 休眠ナルシサス鱗茎抽出物で成長した種子。
様々なタイプの種子を、上の実施例1で説明した水または(複数の濃度の)抽出物で成長させ、インキュベーション後、各種子の根長および胚軸長を発芽および成長の速度に依って24時間ごと測定した。抽出物の阻害効果を、上に説明したように試験し計算した。
下の表17にみられるように、休眠ナルシサス鱗茎抽出物は効果的に上記種子の成長を阻害した。阻害の程度はいろいろであった。
【0150】
【表17】
【0151】
実施例 XVI: ナルシサス鱗茎抽出物中の活性成分の単離と同定
活性および休眠ナルシサス鱗茎から調製した粉末の数グラムをアセトンメタノール(90:10)で抽出した。抽出物を薄層クロマトグラフィー(TLC)技術を使って分離した。分離はTLCプレート(メルク(Merck)社製のシリカゲル60 F254)上で実施した。処理条件は、水:n−ブタノール:酢酸(5:4:1)であった。検出法は、254nmおよび365nmの紫外光であった。分離で生じたバンドをプレートからシリカで掻きとり、メタノールで洗浄し、60℃で乾燥した。活性ナルシサス鱗茎由来の抽出物に現れるバンドを休眠ナルシサス鱗茎の抽出物のそれらと比較した。
結果:
上の抽出物に現れたバンドを比較すると、(「バンド4」および「バンド6」と名付けた)2つのバンドの発現に差異があり、休眠鱗茎の抽出物においてより高い濃度で現れることを示した。
2つのバンドの紫外吸収スペクトルおよび発芽キュウリ種子に対する阻害活性を上に説明したように試験した。
図14(a)及び図14(b)にみられるように、バンド4の紫外吸収ピークは288nm、バンド6のそれは252nmにあった。下の表12にみられるように、バンド4および6は発芽キュウリ種子の成長を著しく阻害した。
【0152】
【表18】
【0153】
実施例 XVII 休眠ナルシサス鱗茎から得たDCの毒性試験
本発明のDCの毒性を以下の方法を使って試験した:
1. ラットにおける急性経口毒性(固定用量)試験
急性経口毒性学試験はインベレスク・リサーチ・インターナショナル(Inveresk Research International(IRI), Tranent, EH33 2NE, Scotland)により1996年1月刊行したプロトコル、コードP/ACU/005に基づいた。
2. エイムス試験(Ames Test)
ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)哺乳類ミクロソーム結合プレートアッセイは、エイムスら(Ames B.N., McCann, J.およびYamasaki E., Mutation Research, 31:347-364 (1975))に基づいた。
3. 細胞毒性(Cytotoxity)
アガロース拡散法により測定した美容クリーム中の0.2g/mlの抽出物(5%)の細胞毒性は、イーブイアイシー・シーイービーエイ(EVIC-CEBA, Bordeau, France)により試験された。
4. 刺激ポテンシャル(Irritaion Potential)
(0.2g/ml抽出物の(5%))クリーム中の生成物の刺激ポテンシャルは、HET-CAM(雌鳥の卵の絨毛尿膜)試験法を使い、イーブイアイシー・シーイービーエイ(EVIC-CEBA, Bordeau, France)により試験された。
5. 皮膚耐性(Cutaneous Tolerance)
皮膚への連続使用後の美容クリーム中の抽出物(0.2g/ml抽出物の(5%))の皮膚耐性は、イーブイアイシー・シーイービーエイ(EVIC-CEBA, Bordeau, France)により評価された。
【0154】
結果:
上記方法を使った毒性試験結果は次のとおりであった:
1. ラット経口(LD 50>2000mg/kg体重)における急性経口毒性(固定量)試験では、若い雌および雄ラットに急性の有害な影響はなかった。
2. 5000μg/プレートの上限用量までのエイムス試験では、沈殿および毒性を示さず、エイムス試験における突然変異性効果を誘導しなかった。
3. クリーム(0.2g/ml抽出物の(5%))の刺激ポテンシャル。産物はこの種の産物として正常の刺激性であることが見出された。
4. アガロース拡散法によるクリーム(0.2g/ml抽出物の(5%))中の生成物の細胞毒性測定は低いようで、この種の生成物として低くかつ正常とみなされた。
5. 皮膚耐性−美容クリーム中の抽出物の皮膚耐性の臨床評価を試験した。皮膚はこの生成物に非常によく耐えうることが見出された。
【0155】
実施例 XVIII 日焼け延長に対するDCの効果
(a) アッセイ:
5%ジヒドロキシアセトン(DHA)を含有するクリームを個人の前腕に塗布した。DHAは、自己日焼け製品に使われる皮膚上層を着色することが可能な化合物である。クリームを、日焼けが前腕に現れるまで3回塗布した。
その後、日焼け部を次の3部分に分け、それぞれ、異なるクリームを毎日2回、17日間塗布して処理した。
1. DC IBR-1の5%を含んでなるクリームによる処理;
2. 上の(1)に使われたものと同じであるが、IBR-1を含有しないクリーム;
3. αヒドロキシ酸(AHA)(皮膚処理用に市販されている)を含んでなるクリーム;そして
それぞれの皮膚領域の着色量を分光比色計を用いて測定した。
日焼け延長に対する%効果は、次式で計算した。
【0156】
【数1】
【0157】
結果:
上の実験結果は図15にみることができ、この図は、IBR-1を含有しないクリームの効果と比較した場合のIBR-1 DCを含有する上記1で使ったクリームの日焼け期間に対する効果(図15中AおよびB)と、AHAを全く含有しないクリームと比較した上記(3)に使われた(AHAを含んでなる)クリームの相対的効果(図15中CおよびD)との間の関係を示す。図15中Aにみることができるように、クリーム塗布の5日後、日焼け期間の延長に対するIBR-1を含有するクリームの効果は、IBR-1を含有しないクリームより著しく高かった。その効果は、図15中Bで見られるように、クリーム塗布後17日によりさらに著しかった。
【0158】
図15中CおよびDは、IBR-1を含有しない市販のクリームは日焼け期間にネガティブな効果をもつ、すなわちその塗布により、全く処理しない場合と比較して日焼け期間がより短くなることを明示している。また示されるように、AHAを含んでなるクリームは、塗布の5日後(図15中C)および塗布の17日(図15中D)に(無処理の日焼け期間と比較して)日焼け期間を短縮した。
以上の結果は、本発明のDCを含有するクリームは、おそらく皮膚細胞の増殖の阻害により、日焼け期間を延長することを示す。これに対して、皮膚処理用に一般的に使われるAHAを含有するクリームは、おそらく細胞分裂の刺激により日焼け期間を短縮する。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】様々な濃度の(休眠植物から得た)DC IBR-1(図1(a))または(活性植物から得た)AE IBR-3(図1(b))とともにインキュベートした後の、異なる時期における細胞培養ウェル中のケラチノサイト数を示すヒストグラムである。対照として、その細胞を増殖培地のみと共にインキュベートした(0μg/mlの試験したDCまたはAE)。各ウェル中の細胞数は、(実施例IIに記載した)ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより定量し、染色した培養プレートを620nmで読みとったものである。
【図2】以下の様々な濃度でインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中の線維芽細胞数を示すヒストグラムである。図2(a)−細胞をDC IBR-1(休眠)とともにインキュベートした。図2(b)−細胞をAE IBR-3(活性)とともにインキュベートした。
【図3】様々な濃度の細胞培養由来DC IBR-11とともにインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中のケラチノサイト数を示すヒストグラムである。対照として、細胞を増殖培地のみと共にインキュベートした(0μg/ml DE IBR-11)。各ウェル中の細胞数は、(実施例IIに記載した)ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより定量し、染色した培養プレートを620nmで読みとった。
【図4】様々な濃度の細胞培養由来DC IBR-11と共にインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中の線維芽細胞数を示すヒストグラムである。
【図5】様々な濃度の植物由来DC(IBR-1)(図5(a))または動物由来のDC(IBR-4)(図5(b))とともにインキュベートした後72時間のミクロ培養中の培養マウス膀胱癌細胞(T24P)数を示すグラフ表示である。各ウェル中の細胞数は、(実施例2に記載した)ミクロ培養メチレンブルーアッセイにより定量し、染色した培養プレートを620nmで読みとった。
【図6】様々な濃度のDC IBR-1と共にインキュベートした後の、異なる時期におけるミクロ培養中のマウス膀胱癌細胞(T50)数を示すグラフ表示である。休眠抽出物を細胞培養の第1日目および第3日目に加え、培養の第5日目に各ウェル中の細胞数を上の図5に記載したとおり定量した。各試験ウェルの細胞数は、上の図1の記載で説明したミクロ培養メチレンブルーアッセイを使い、染色した培養プレートを620nmにて読みとることにより定量した。
【図7】2日および5日間、DC IBR-1(それぞれ図7(a)および図7(b)とともにインキュベートしたケラチノサイトのDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、FACS、FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.))によりエチジウムブロマイドを使って実施した。G1期、S期およびG2+M期にある細胞の%を各細胞培養で測定した。さらに各培養中のアポトーシス(A)の%も測定した。
【図8】2日および5日間、AE IBR-3(それぞれ図8(a)および図8(b))とともにインキュベートしたケラチノサイトのDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、FACS、FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.))によりエチジウムブロマイドを使って実施した。G1期、S期およびG2+M期にある細胞の%を各細胞培養で測定した。さらに各培養中のアポトーシス(A)の%も測定した。
【図9】2日および5日間、DC IBR-4(それぞれ図9(a)および図9(b))とともにインキュベートしたケラチノサイトのDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、FACS、FPAR-Plus(Becton-Dickinson, Inc.))によりエチジウムブロマイドを使って実施した。G1期、S期およびG2+M期にある細胞の%を各細胞培養で測定した。さらに各培養中のアポトーシス(A)の%も測定した。
【図10】2日および5日間、DC IBR-1(それぞれ図10(a)および図10(b))ともにインキュベートした線維芽細胞のDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、上の図7に記載のとおり実施した。
【図11】2日および5日間、AE IBR-3(それぞれ図11(a)および図11(b))とともにインキュベートした線維芽細胞のDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、上の図8に記載のとおり実施した。
【図12】2日および5日間DC IBR-4(それぞれ図12(a)および図12(b))とともにインキュベートした線維芽細胞のDNA含量分析を示すヒストグラムである。分析は、上の図9に記載のとおり実施した。
【図13】薄層クロマトグラフィー(TLC)による分離により得たバンドのUVスペクトルを示すグラフ表示である(a)及び(b)。
【図14】薄層クロマトグラフィー(TLC)による分離により得たバンドのUVスペクトルを示すグラフ表示である(a)及び(b)。
【図15】日焼け部分にクリームを塗布した後5日目および17日目における、日焼け持続期間にあたえる様々な処置の比較効果を示すグラフ表示である。図15中Aは、クリームの塗布後5日目における、日焼け持続期間の延長にあたえる5%IBRを含有するクリームの効果を示す。図15中Bは、クリーム塗布後17日目における、図15中Aと同じ効果を示す。図15中Cは、クリームの塗布後5日目における、クリームなしの日焼けと比較した、日焼け持続期間にあたえるαヒドロキシ酸(AHA)を含有するクリームの効果(短縮)を示す。図15中Dは、クリームを塗布した後17日目における、図15中Cと同じ効果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、
(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、
(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなるプロセスで得られた抽出物であって、
前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい、抽出物であり、かつ、
前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物。
【請求項2】
前記請求項1に記載の標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
個体の皮膚に局所適用のための請求項2の医薬組成物
【請求項4】
皮膚の若年様外観を維持するための医薬組成物であるか、または皮膚の加齢に関連する現象の処置のための医薬組成物であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
日焼けの延長用の医薬組成物であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高 リスク状態の個体に投与するための請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の群から選ばれたいずれかのためのものであることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記請求項1に記載の抽出物を含有することを特徴とする化粧用組成物。
【請求項9】
皮膚の若年様外観を維持する、または、皮膚の加齢に関連する現象の処置のためのものであることを特徴とする請求項8に記載の化粧用組成物。
【請求項10】
日焼けの延長のためのものであることを特徴とする請求項8に記載の皮膚の化粧用組成物。
【請求項11】
脱毛症(Alopecia)の抑制、多毛症の抑制、爪の成長速度の低下、瘢痕形成の抑制、及び、皮膚疾患の処置、の群から選ばれる適用のためのものであることを特徴とする請求項8に記載の皮膚の化粧用組成物。
【請求項12】
(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、
(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、
(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなり、
前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい抽出物の製造方法であり、かつ、
前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物の製造方法。
【請求項13】
医薬的に受容できる担体(carrier)に医薬的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する医薬組成物の製造方法。
【請求項14】
個体の皮膚の局所適用のために調整された医薬組成物のための、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項15】
経口投与のために調整された医薬組成物のための、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項16】
化粧用途に受容できる担体(carrier)に化粧用途的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する化粧用組成物の製造方法。
【請求項17】
個体の皮膚の局所適用のために調整された化粧用組成物のための、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法。
【請求項18】
経口投与のために調整された化粧用組成物のための、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法。
【請求項1】
(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、
(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、
(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなるプロセスで得られた抽出物であって、
前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい、抽出物であり、かつ、
前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物。
【請求項2】
前記請求項1に記載の標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物を含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
個体の皮膚に局所適用のための請求項2の医薬組成物
【請求項4】
皮膚の若年様外観を維持するための医薬組成物であるか、または皮膚の加齢に関連する現象の処置のための医薬組成物であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
日焼けの延長用の医薬組成物であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
良性もしくは悪性の腫瘍があるか、または良性若しくは悪性腫瘍に進行する高 リスク状態の個体に投与するための請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
脱毛症の抑制用、多毛症の抑制用、爪の成長速度の低下用、髪の処置、瘢痕形成の抑制用、及び、皮膚疾患の治療用の群から選ばれたいずれかのためのものであることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記請求項1に記載の抽出物を含有することを特徴とする化粧用組成物。
【請求項9】
皮膚の若年様外観を維持する、または、皮膚の加齢に関連する現象の処置のためのものであることを特徴とする請求項8に記載の化粧用組成物。
【請求項10】
日焼けの延長のためのものであることを特徴とする請求項8に記載の皮膚の化粧用組成物。
【請求項11】
脱毛症(Alopecia)の抑制、多毛症の抑制、爪の成長速度の低下、瘢痕形成の抑制、及び、皮膚疾患の処置、の群から選ばれる適用のためのものであることを特徴とする請求項8に記載の皮膚の化粧用組成物。
【請求項12】
(a)標的細胞とは異種であり、かつ休眠状態に入ることが可能な生物体に由来するプロデューサー細胞またはプロデューサー組織を準備する工程と、
(b)前記細胞または組織を休眠状態に誘導して休眠状態とする、また、休眠状態にある場合はその休眠状態を維持するための条件を設定する工程と、
(c)前記細胞または組織から、あるいは前記細胞または組織が培養されたメディアから、細胞の抗増殖作用を示す水溶性の画分を取得する工程とからなり、
前記抗増殖作用の抗力は可逆的であり、休眠状態にない前記細胞または組織から同様にして画分を取得した場合は該作用を示さないか、あるいは示してもその程度が小さい抽出物の製造方法であり、かつ、
前記プロデューサー細胞またはプロデューサー組織がナルシサス(Narcissus)属の球根から取得した細胞または組織であるか、前記生物体がアルテミア(Artemia)属に属する生物体であることを特徴とする標的細胞または標的組織に対して抗増殖作用を有する抽出物の製造方法。
【請求項13】
医薬的に受容できる担体(carrier)に医薬的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する医薬組成物の製造方法。
【請求項14】
個体の皮膚の局所適用のために調整された医薬組成物のための、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項15】
経口投与のために調整された医薬組成物のための、請求項13に記載の医薬組成物の製造方法。
【請求項16】
化粧用途に受容できる担体(carrier)に化粧用途的に効果的な量の請求項1に係る抽出物を含有させる工程を有する化粧用組成物の製造方法。
【請求項17】
個体の皮膚の局所適用のために調整された化粧用組成物のための、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法。
【請求項18】
経口投与のために調整された化粧用組成物のための、請求項16に記載の化粧用組成物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−316073(P2006−316073A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234112(P2006−234112)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【分割の表示】特願平10−536454の分割
【原出願日】平成10年2月23日(1998.2.23)
【出願人】(501088730)アイ・ビー・アール イスラエリ バイオテクノロジー リサーチ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【分割の表示】特願平10−536454の分割
【原出願日】平成10年2月23日(1998.2.23)
【出願人】(501088730)アイ・ビー・アール イスラエリ バイオテクノロジー リサーチ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】
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