説明

拡径管杭の使用方法

【課題】基礎構築と地盤強化に使用する回転貫入杭の一部を異径管に置き換え、杭の先端有効断面積の選択を容易にした拡径管杭を用いる方法を提供する。
【解決手段】 回転貫入杭を先端部12と補足部19とに分割し、
先端部12を、異径管13の拡大径14側には螺旋状の羽根18を付け、必要に応じて掘削刃17付きの構成とし、
補足部19に、異径管13の縮小径16側と同径で所要長さの管20を繋ぎ、
両部を連結一体化した拡径管杭11を所要の地盤に貫入した後、杭頭部21に上物を直接もしくは間接連結して金属により基礎を構築し、
拡径管杭を所要の地盤に貫入した後、杭頭部21と対応する地盤を固定し、杭に支持力と張力の何れかもしくは双方を発生させて地盤を強化した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎構築と地盤強化に使用する回転貫入杭の一部を異径管に置き換え、杭の先端有効断面積の選択を容易にした拡径管杭を用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの上物は地盤面に構築したコンクリート基礎を介して支えられるのが普通である。床盤強度が上物とコンクリート基礎の支持に不充分な時、基礎に摩擦杭もしくは所要強度の地盤に達する支持杭を貫入して不足を補うか、地盤に硬化材を充填する改良方法が、単独もしくは併用される。杭の支持力は杭先端有効断面積と地盤強度に依存するので、利用する地盤強度に依っては、太い杭を使用して先端有効断面積を増加する。上物の底面が地表面から深くなり、掘削で立坑が形成されると山留壁の支保工を施す。
【0003】
上物の底面が地表面以下の場合、床盤に非透水層が存在すると地下水圧の影響があり、盤ぶくれと呼ぶ床盤の浮き上がりが起きるので、掘削に先立ち支持杭を貫入もしくは埋設した後、上物を設置する予定面の床盤を硬化材で強化し、前記支持杭と連結して盤ぶくれを起こす被圧水を抑止するグランドアンカーと呼ぶ補強が施され、使用する杭は支持杭と張力杭を兼ねる。補強が終わり掘削が進み立坑ができ始めると、山留壁には張力杭としてのグランドアンカーが使用され、地盤の剪断力を向上する補強が施されることがある。
【0004】
[非特許文献1]は先端有効断面積を増した羽根付き杭(回転貫入杭)が記載されている。[特許文献1]は剪断力を増すグランドアンカー技術を開示する。[特許文献2]は回転貫入杭による盤ぶくれ防止技術を開示する。また、[特許文献2]の杭先端の羽根を繊維体に代え硬化材で球根状(添付資料なし)に膨らまし、杭と地盤の定着性を改善するグランドアンカーもある。
【非特許文献1】財団法人日本建築センター刊行カタログ・2002年版
【特許文献1】特許公開平6−81334
【特許文献2】特許公開2001−182088
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重機使用が難しい場所のコンクリート基礎構築は、手作業が増え工事日数が掛かり過ぎる問題が起きる。また、弱い地盤のために太い杭を使用すると支持力は増すが、取扱性の低下とコスト増によるマイナス効果が起きて有効な解決策になり難い。従って、管径を拡大する代わりに先端に羽根を付けて同等効果を目論んだ[非特許文献1]に示される回転貫入杭が使用されるが、支持力は先端有効断面積に関係するだけで、先端以外の大部分は支持力伝達と貫入時の捩じりに耐えればよいことを考えると、全長が同径の回転貫入杭の場合は相当の長さ部分に過剰仕様が含まれることになる。
【0006】
[特許文献1]の土留壁や法面等の強化に使用する張力杭としてのグランドアンカーの場合、地盤にアンカーを差し込む作業とアンカーの定着部を形成する地盤への固結材の充填作業及び山留壁との締結作業が必要になるため、非常に手間の掛かる作業と言える。また、充填する固結材は浸透して発泡すると地盤を圧密強化するが、強化状態が目視等の確認が来ないこととアンカー毎に定着力がバラツク心配がある。
【0007】
[特許文献2]の盤ぶくれ防止に使用するグランドアンカーの場合も、回転貫入杭に過剰仕様の問題がある。また、杭先端の繊維体を膨らます技術にも膨れ具合が目視できない問題があり、前項と同様にバラツク可能性は否定できない。本発明は、基礎構築と地盤強化に関する様々な問題を解決するため、支持杭の先端部に異径管を使用して断面積を増やし易くし、先端部以降に細い管を使用して支持力を拡大した拡径管杭による基礎構築と地盤強化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転貫入杭を先端部と補足部とに分割し、
先端部を、異径管の拡大径側に螺旋状の羽根を付け、必要に応じて掘削刃を付きの構成とし、
補足部に、異径管の縮小径側と同径で所要長さの管を繋ぎ、
両部を連結一体化した拡径管杭を所要深さに貫入した後、杭頭部に上物を直接か間接連結し、金属により基礎構築をした拡径管杭の使用方法であり、
前記杭を所要深さに貫入した後、杭頭部と対応する地盤を固定し、杭に張力を発生させて地盤強化した拡径管杭の使用方法である。
【発明の効果】
【0009】
拡径管杭は異径管の拡大径と羽根径を組み合わすことができるので、先端有効断面積の選択肢を拡大することができた。また、縮小径側は支持力伝達と貫入時の捩れに耐えるだけの細い管を選択するので軽量化に役立つ。杭を先端部と補足部に分けて、随時、接続すれば一体化する構成としたので、従来形回転貫入杭に比べると無駄のない構造になった。異径管は両端が要件を満たせば、中間形状は羽根が付け易すければよく、入手し易い市販品でもよい。先端部を鋳物にすると羽根の溶接や曲げ加工が省略できる。
【0010】
大きい支持力が得られる拡径管杭は、従来形に比べ使用本数を減らすことができるし、支持力の割りには軽量で、貫入時の杭頭部も細く、使用重機も小型で済む。該特徴は通常の回転貫入杭では得られない効果が拡径管杭では得られることを意味する。細い杭頭部はフランジや補強板等の接続材が付け易く、金属製の形材や板材で造られた枠と組み合わすと簡単に構造物の基礎ができあがるので、立地条件の悪い場所のコンクリート基礎に代えて利用すると作業日数の大幅な短縮に役立つ。
【0011】
拡径管杭は螺旋状の羽根で推進するが、先端部に比べて補足部の管が細いので残土発生の心配がない。羽根と異径管の先端が支持力を生み、羽根と異径管の背面による引抜抵抗が大で、従って大きな引張力を生むので、有効断面積の大きい拡径管杭は、盤ぶくれ防止の支持杭と張力杭を兼ねたグランドアンカー、土留壁や法面の剪断力を強化する張力杭のグランドアンカーに使用できる。土留壁や法面の場合、拡径管杭は固定材の充填を必要としないので施工内容が簡単になる。この様に拡径管杭を使用すると材料・製作・保管・運搬・組立・施工に好影響を与え、工事のトータルコスト減に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
異径管を使用する回転貫入杭は同径管の回転貫入杭に比べて、異径管の拡大径側に螺旋状の羽根が付くので、拡大径に対する羽根径の組み合わせ、即ち、先端有効断面積の選択による支持力もしくは引抜力を増減する選択肢が増える。また、縮小径側は貫入深度に適した支持力もしくは支持力と張力の伝達と貫入時の捩じり強度を考慮した細い管を当てればよく、杭を合理的な強度配分に基づく形状にすることができる。
【0013】
拡径管杭は、螺旋状の羽根と必要時に付ける掘削刃を有する異径管による先端部と、縮小径側に使用する補足部の管を別々に用意して、随時、両者を溶接やフランジ等から選択した手段で一体化する形状とすると、保管や運搬にとり好ましい効果が得られる。異径管は規格の溶接型配管材かテーパー管もしくは両端間を任意の形状にしたものでもよい。杭の大半の長さは補足部が占めるので軽量化に都合がよい。異径管の使用で先端有効断面積を拡大し弱い地盤ても必要な支持力を確保することができる。
【0014】
杭の貫入時に先端部の開口から杭内に流入する土砂は、口径が縮小する異径管により土砂が圧縮緻密化され、先端寄りに目詰まりが起きて流入が止まる。従って、拡径管杭は先端を閉塞しなくても、閉塞と同等の支持力が提供できる。拡径管杭の細い頭部は基礎との連結用の接続金具等が付け易い。拡径管杭を支持杭と張力杭あるいは張力杭として使用するグランドアンカーでは、貫入後は土留板や強化床盤の間に連結手段を施すだけで、下穴や定着用強化材の充填等の必要はない。
【0015】
異径管の両端径比は、1.2〜2.5の範囲、好ましくは1.5〜2.5の範囲、より好ましくは1.5〜2.0の範囲から選択する。この比率は、上物の底面から支持地盤までが深い時、先端部の異径管に比べると縮小径側の補足部の管が長いため小さ目がよく、浅い場合は杭全長が短いので大き目にすればよい。地表近くに支持地盤を求める場合に拡径管杭を使用するとトータルコストに好影響を与える。
【実施例1】
【0016】
図1(A,B)は長さL1の鋼製の拡径管杭11の側面図と底面図である。先端部12には長さL2で径D1,D2(D1>D2)からなる鋼製の異径管13を使用して、D1なる拡大径14側に特殊鋼製の掘削刃17を付け、拡大径側寄り中間15外周に外径D3で所要角度付きの鋼製の螺旋状の羽根18を付け、D2なる縮小径16側に補足部19の管20を継ぎ足す。先端部と補足部は溶接接続して一体化すればよい。また、先端部を鋳物にして補足部の管との接続をフランジとボルトにしてもよい。掘削刃の装着は地盤状態で決まり必要条件ではない。
【0017】
通常型回転貫入鋼管杭1の支持力も管径と羽根径の組み合わせで先端有効断面積が決まるが、全長が同径のため取扱やコスト等の要件を考慮すると、管径側の自由度が低下して選択肢が制限される。管径を据え置き羽根径を増すと羽根強度が低下し、双方の均衡が欠かせない。拡径鋼管杭11の場合は異径管の拡大径D1と羽根径D3双方の自由度が豊富で先端有効断面積が選択し易い特徴がある。更に、杭全長Lの大半を占める補足部の管は支持力伝達と捩じり強度に限定され、支持力増減に関係なく軽量化に都合がよい。
【0018】
図2は、荷重Wを支える長さL1で径D1の通常型の回転貫入鋼管杭1と径D1とD2で長さL2の異径管13を使用した長さL1の拡径鋼管杭11の比較で、強い支持層N2に先端有効断面積と長さが同じ杭を使用すると、後者は補足部19にD2(D2<D1)の管20を使用して軽量化することができた。また、拡大径D4と羽根径D6とで先端有効断面積を増し、径D5の管を補足して長さL3とした拡径鋼管杭を使えば、支持層N1(N1<N2)に使用しても充分な支持力が得られ、同時に軽量化も一層進み製作費と工事費等を抑えることができる。拡径鋼管杭には下穴の必要がなく、貫入時に掘削残土の発生も殆どない。
【実施例2】
【0019】
上物の多くはコンクリート基礎で支える。鉄筋や杭を使用しないコンクリート基礎は、根切り・栗石・捨てコンクリート打ち・仮枠組立・コンクリート打ち・養生・仮枠外し・埋戻し等の工程があり、使用すると鉄筋加工・配筋・杭の頭部加工・コンクリートとの繋ぎ等の手間が加わる。更に、コンクリート強度が出る迄の期間を含めると完成に相当の日数を要し、基礎が完成して上物の立て方に移行できるので、最終工事の完了に相当の日数を要する。然し、拡径鋼管杭を使うとコンクリート基礎の省略が可能になる。
【0020】
図3は拡径鋼管杭11の頭部21に接続金具22を付け、コンクリート基礎なしに支柱(街灯)31を直接支えた正面図である。図4は複数の拡径鋼管杭11を方形の各頂点に配置し、杭の接続金具と金属製架台32と連結し、コンクリート基礎なしに上物(風力発電機)を直接支えた正面図と平面図である。図5は拡径鋼管杭11の頭部に接続金具を付け、コンクリート基礎なしに上物(立体駐車場)の脚33を直接支持した正面図である。各図に示すように、拡径鋼管杭の頭部と上物もしくは架台を直結するので工期短縮に役立つ。拡径鋼管杭と上物の接続部を地表面下にすると見栄えと安全度が向上する。
【0021】
拡径鋼管杭は重機が作業できる最小空間が確保できれば、斜面や凹凸のある地形は最小限の均しをするだけで、杭打ちと上物の立て方の本体工事に移行できる。コンクリート巻き等は杭打ちと立て方の完了後に施せばよく、本体工事日数の短縮に抜群の効果がある。図6(A,B)は拡径鋼管杭11の頭部21に補強板23を付け、栗石34と捨てコンクリート35で固定し、補強板上に布基礎36を直接構築した正面図と側面図である。この様に、布基礎の場合は拡径鋼管杭の細い頭部に補強板を使用する。拡径鋼管杭から得られる既述されていない効果は[実施例1]と同じである。
【実施例3】
【0022】
図7(A)は土留壁41を強化するグランドアンカーに拡径鋼管杭11を使用した施工状態図、図7(B)は現在のグランドアンカーの施工状態図で参考に示した。掘削した立坑の壁面や法面に拡径鋼管杭を斜めに貫入する。挿入口から羽根面に至る距離の土砂が杭の引き抜き抵抗になり、杭頭部と掘削穴の壁板42を連結するとグランドアンカーとして働く。現用のグランドアンカーは地盤との定着に強化材の充填が必須であるが、拡径鋼管杭では必要なく、グランドアンカーの埋設に要する手間を減らすことができる。拡径鋼管杭から得られる既述されていない効果は[実施例1]と同じである。
【実施例4】
【0023】
図8は掘削床盤43周辺の非透水層と被圧水で床盤が浮き上がる盤ぶくれを防止するグランドアンカーに拡径鋼管杭11を使用した施工状態図である。地表面から予定床盤43と支持地盤に至る拡径鋼管杭を貫入し、予定床盤に硬化材を充填して地盤を改良すると共に、拡径鋼管杭の頭部の抜止板24を改良地盤に定着させる。拡径鋼管杭は上物に対して支持杭として働く他、[実施例3]と同様、床盤と支持層に至る土砂が杭の引き抜き抵抗となり、盤ぶくれを防止するグランドアンカーとして働く。拡径鋼管杭から得られる既述されていない効果は[実施例1]と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A,B)は拡径鋼管杭の側面図と底面図である。(実施例1)
【図2】通常型の回転貫入杭と拡径鋼管杭を比較した地盤の断面図である。
【図3】拡径鋼管杭の頭部に接続金具を付け、コンクリート基礎なしに支柱を直接支 えた正面図である。(実施例2)
【図4】複数の拡径鋼管杭を方形の各頂点に配置し、杭の接続金具と金属架台を連結 し、コンクリート基礎なしに上物を直接支えた正面図と平面図である。
【図5】拡径鋼管杭の頭部に接続金具を付け、コンクリート基礎なしに上物の脚を直 接支持した正面図である。
【図6】(A,B)は拡径鋼管杭の頭部に補強板を付けて布基礎を支えた正面図と側 面図である。
【図7】(A)は土留壁を強化するグランドアンカーに拡径鋼管杭を使用した施工状 態図、(B)は現在のグランドアンカーの施工状態図で比較のため示した。 (実施例3)
【図8】掘削床盤周辺の非透水層と被圧水で床盤が浮き上がる盤ぶくれ現象を防止す るためのグランドアンカーに拡径鋼管杭を使用した施工状態図である。 (実施例4)
【符号の説明】
【0025】
11 拡径鋼管杭
12 先端部
13 異径鋼管
14 拡大径
16 縮小径
18 羽根
19 補足部
20 鋼管
21 頭部
22 接続金具
23 補強板
24 抜止板
31 柱
32 架台
36 布基礎
41 土留壁
43 床盤





【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転貫入杭を先端部(12)と補足部(19)とに分割し、
先端部(12)を、異径管(13)の拡大径(14)側には螺旋状の羽根(18)を付け、必要に応じて掘削刃(17)付きの構成とし、
補足部(19)に、異径管(13)の縮小径(16)側と同径で所要長さの管(20)を繋ぎ、
両部を連結一体化した拡径管杭(11)を所要の地盤に貫入した後、杭頭部(21)に上物を直接か間接連結して金属により基礎構築した拡径管杭の使用方法。
【請求項2】
請求項1に記載した杭を所要の地盤に貫入した後、杭頭部(21)と対応する地盤を固定し、杭に張力を発生させて地盤強化した拡径管杭の使用方法。
【請求項3】
請求項1に記載した杭を所要の地盤に貫入した後、杭頭部(21)と対応する地盤を固定し、地盤に作用する被圧水により杭に張力を発生させ、地盤に作用する上物により杭に支持力を発生させて地盤強化した請求項2に記載の拡径管杭の使用方法。
【請求項4】
異径管(13)の口径比を1.2〜2.5の範囲から選択した請求項1から3の何れかに記載の拡径管杭の使用方法。
【請求項5】
杭を鋼製とした請求項1から4の何れかに記載の拡径管杭の使用方法。
【請求項6】
杭の先端部(12)を鋳物で一体化した請求項5に記載の拡径管杭の使用方法。


【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−16774(P2006−16774A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193097(P2004−193097)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000128599)株式会社オートセット (1)
【Fターム(参考)】