説明

振動低減材

【課題】高分子樹脂フィルムを主体とした、簡便に製造可能で、軽量で、より高い振動低減性を有する材料を提供する。
【解決手段】クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムの、クレーズ領域の拡張されたボイド内に、剛性粒子が詰め込まれてなることを特徴とする振動低減材を提供する。さらに、クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムの、クレーズ領域の拡張されたボイド内に導電性材料を充填し、高分子樹脂フィルムの両面に導電層を積層した振動低減材であって、前記高分子樹脂フィルムが圧電性を有することを特徴とする振動低減材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制振材あるいは防音材といった振動低減用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
制振あるいは防音といった振動低減技術は日常生活のなかで広く利用されており、例えば建築構造物の遮音間仕切り、水配管の防音、車両や電気機械装置の防音制振等があげられる。中でも電子機器の場合、モーター等から発する振動騒音を抑える他に電磁ノイズを遮蔽することも要求される。従来より知られているものとして、特開平6‐81187号公報、特開平5‐110284号公報、特開平5‐87186号公報、特開平4‐266942号公報、特開平4‐84921号公報、特開昭61‐174700号公報に開示されている技術が挙げられる。
【0003】
まず、特開平6‐81187号公報に開示されている技術は、金属発泡体に関するものであり、この金属発泡体は、音響絶縁材料や遮音材料として用いられ、導電性表面膜が付与されたポリウレタンフォームに、ニッケルによる金属メッキが施されたものである。
【0004】
次に、特開平5‐110284号公報に開示されている技術は、プリンタ装置等の電子機器や端末機器の通風窓に、導電性発泡樹脂体を取り付けて、防音シールド及び電磁波シールドを行い、該電子機器や端末機器の性能を優れたものにした技術である。この導電性発泡樹脂体は、ポリウレタン樹脂の平板状の発泡体を、金属メッキにより導電化したものであり、上記の機器に導電性接着剤や両面導電性テープにより取り付けられている。
【0005】
次に、特開平5‐87186号公報に開示されている技術は、各種機械装置や建築構造物等の防音材や、防振材として利用される制振性材料に関するものであり、シート状ないしフィルム状の圧電性材料に導電性塗料を塗布してなる。圧電性材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFとトリフルオロエチレンとの共重合体、シアン化ビニリデンと酢酸ビニルとの共重合体などが挙げられ、導電性材料としては、金属や金属酸化物あるいはカーボンなどの導電性の粒子を含むものが挙げられる。具体的には、この制振性材料は、厚さが0.2mmのポリプロピレンフィルムの表面に厚さが30μmの呉羽化学製クレハKFピエゾフィルム(PVDF)が貼られ、その表面に厚さが20μmの帯電防止塗料が塗布されている。また、安価で製膜の容易な圧電性フィルムを用いた例として、ポリアミド系ポリマーを利用した圧電性フィルムを用いた制振材も提案されている(例えば特開平8‐305369号公報、特開平9‐309962号公報参照)。しかしながらフィルムに圧電性を発現させるためには分極処理を必要とするため、その製造に特殊な装置が必要であり製造コストが上昇するという問題があった。
【0006】
また、高分子材料と圧電性粉末材料とを主成分とした組成物が開示されている(例えば特開昭60‐51750号公報、特開平3‐188165号公報参照)。高分子材料と圧電性粉末の組成物は圧電性により、振動エネルギーを電気エネルギーに変換し、生じた電気エネルギーをジュール熱によって消費、振動を吸収、減衰させるものである。ところが、この組成物においては圧電性粒子を50質量%以上含むように配合しないと十分な制振性が得られない。しかし、そのように配合すると溶融状態での流動性が低くなり、混練や成形が困難となる。また、圧電性粒子にジルコン酸チタン酸鉛や、チタン酸バリウムなどのセラミクスを用いているため、質量が大きくなるという欠点があった。
【0007】
次に、特開平4‐266942号公報に開示されている技術は、電磁シールド性及び帯電防止性等を兼ね備えた多孔質材及び防音パネルに関するものである。これは、発泡スチロールビーズ等の粒状素材を、適当な隙間率を有するようにするとともに、その表裏各々の表面に半溶融固化層と溶融固化層とが同時形成されるとともに、加熱・加圧したものに、不織布等の繊維シートが積層されたものである。同号公報には、発泡スチロールビーズ層の間に通気性金属シートや導電性繊維ウエブを介層されたものも開示されている。
【0008】
次に、特開平4‐84921号公報に開示されている技術は、電気掃除機の使用時に発生する騒音の消音技術に関するものであり、掃除機使用時に発生するモータやファンの回転音あるいは空気の吸排気音などの騒音を本体あるいはパイプ内で感知し、該騒音を打ち消すようにしたものである。これによれば、消音部は、音圧検知部、電気信号解析処理部、圧電フィルムによって構成されている。
【0009】
さらに、特開昭61‐174700号公報に開示されている技術は、騒音防止手段を施した電子装置に関するものであり、これによれば、騒音防止手段として、冷却用通風窓部に金属メッキされた発泡樹脂体が電磁波シールド層として形成されている。この電磁波シールド層は、発泡樹脂体が厚さ1mmのポリウレタン樹脂によって形成され、金属メッキ層が厚さ1μmのニッケル膜によって形成されている。
【0010】
また、高分子母材中に双極子モーメント量を増加させる活性成分が含まれる制振材料も開示されている(例えば特許第3318593号公報、特許第3192400号公報参照)。ところが、この材料で用いられる活性成分は低分子化合物であり、使用中に母材から滲みだして性能が低下するという欠点があった。
【特許文献1】特開平6‐81187号公報
【特許文献2】特開平5‐110284号公報
【特許文献3】特開平5‐87186号公報
【特許文献4】特開平8‐305369号公報
【特許文献5】特開平9‐309962号公報
【特許文献6】特開昭60‐51750号公報
【特許文献7】特開平3‐188165号公報
【特許文献8】特開平4‐266942号公報
【特許文献9】特開平4‐84921号公報
【特許文献10】特開昭61‐174700号公報
【特許文献11】特許第3318593号公報
【特許文献12】特許第3192400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高分子樹脂フィルムを主体とした、簡便に製造可能で、軽量で、より高い振動低減性を有する材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は前記の課題を解決するために種々検討した結果、延伸をしながらボイドの中に剛性粒子を詰め込むことにより振動低減性を持つフィルムを得ることが出来た。請求項1の発明は、クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムの、クレーズ領域の拡張されたボイド内に、剛性粒子が詰め込まれてなることを特徴とする振動低減材である。
【0013】
請求項2の発明は、前記剛性粒子が、金属または合金あるいはカーボンの剛性粒子であることを特徴とする請求項1記載の振動低減材である。
【0014】
請求項3の発明は、クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムの、クレーズ領域の拡張されたボイド内に導電性材料を充填し、高分子樹脂フィルムの両面に導電層を積層した振動低減材であって、前記高分子樹脂フィルムが圧電性を有することを特徴とする振動低減材である。
【発明の効果】
【0015】
延伸をしながらボイドの中に剛性粒子を詰め込むことにより、フィルムが振動を受けたとき、ひとつは剛性粒子の振動によるこすれあいの摩擦によって、もうひとつは粒子をボイドに詰め込んで固定した結果フィルム自体の塑性領域への変化によって、大きな振動減衰性をもたらすことが出来る。さらにフィルムを圧電性にし、粒子および表面を導電性にすることにより圧電効果による振動減衰効果を加えることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施の形態を示し、さらの詳しくこの発明について説明する。もちろんこの発明は以下の実施の形態によって限定されるものではない。
【0017】
クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムは、例えば特開2002‐258010あるいは特開平6‐82607に開示された方法により作ることが出来る。すなわち、図1に示されるクレーズ形成装置は、概略、先端部が鋭角なエッジ11aとなった支持体11とガイドローラ12で構成されるクレージング処理機13と、張力付与機構(図示せず)とからなる。緊張状態に保持された高分子樹脂フィルム14を支持体のエッジ11aに当接して、該高分子樹脂フィルム14を局部的に折り曲げて変形域を形成し、その折り曲げ変形域を、該高分子樹脂フィルムに対して相対的に徐々に移動させることで、移動方向と略直角の方向に連続的にクレーズ領域を縞状に形成することができる。得られたクレーズの模式図を図2に示す。
【0018】
縞状に形成されたクレーズ領域は、幅は0.5〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。そして、縞状とは、クレーズ領域が、0.1〜1,000μm、好ましくは、1〜800μmの間隔で形成された状態をいう。
【0019】
ここで用いる樹脂の材料はフィルムとなる高分子樹脂材料ならどれでもよいが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリイソプレン等のポリオレフィン、ナイロン‐6、ナイロン‐6,6等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等を使うことが出来る。
【0020】
本願の発明は、このようにしてクレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルム(以下、「クレーズフィルム」という)の、クレーズ領域の拡張されたボイド内に、剛性粒子が詰め込まれてなることを特徴とする振動低減材である。図3はクレーズ領域の拡張されたボイド内に剛性粒子が詰め込まれてなる状態の模式図である。延伸されるとボイドは拡張し、その中に粒子を詰めると張力を除いてもボイドは拡がったままであり、これにより振動を低減させる。すなわち、高分子材料を引張った時の応力−歪曲線を見ると引張りの初期は材料は弾性変形するが、さらに張力を加えると材料は塑性変形するようになる。高分子樹脂フィルムのクレーズ生成領域まで伸張してボイドを固定した状態はこの塑性領域に相当し振動減衰性を増加させる。さらにボイド内の剛性粒子は高分子樹脂フィルムが振動をうけるとボイド内で互いにこすれあい、その摩擦で振動を減衰する。この両者の作用により、ボイド内に剛性粒子が詰め込まれてなる高分子樹脂フィルムは振動を低減することができる。
【0021】
剛性粒子をクレーズ領域のボイド内に詰め込むにあたって、まず、ボイドを拡張する。これはフィルムにクレーズを生成させる時、または一旦フィルムにクレーズを形成したのち、該フィルムを延伸せしめることで拡張する。この状態で剛性粒子の分散液をクレーズフィルムのクレーズ領域のボイド内へ浸透させる。具体的には、剛性粒子の分散液中に浸漬する方法、剛性粒子の分散液をローラ、ドクターによって塗布する方法、または、スプレー等によって塗布する方法が例示できる。剛性粒子の分散液は剛性粒子をトルエン、アセトン、エタノール、水のような分散媒に分散することで得られる。
【0022】
浸漬による剛性粒子の分散液の浸透において、例えば、クレージング領域のボイドがクレーズフィルムの厚み方向に貫通していない場合は、クレーズフィルムのボイドが外側になるように湾曲させて剛性粒子の分散液を浸透させることも時間を短縮するのに有効である。クレーズフィルムを湾曲させるには、例えば、円筒の表面に巻き付ける方法が採用できる。
【0023】
塗布によってクレーズフィルムのクレーズ領域のボイド内に剛性粒子の分散液を浸透させるには、クレーズフィルムの片面または両面から剛性粒子の分散液の塗布を行えばよい。ローラ、または、ドクターによる塗布では、ローラ、または、ドクターをクレーズフィルムと相対的に移動させて、クレーズフィルムの表面に傷を付けないようにしつつ、クレーズ領域のボイド内に剛性粒子の分散液を圧入するようにすると、短時間で浸透が可能となる。ローラ、または、ドクターによる塗布、または、スプレーによる塗布であって、フィルムを貫通するボイドを多数有するクレーズフィルムにおいて、剛性粒子の分散液を片面塗布する場合、塗布面の反対面側を減圧したり、塗布面側から加圧したりするようにすれば、より深部までの迅速な浸透が可能となる。
【0024】
このように剛性粒子の分散液をボイドに浸透させたのち分散液を乾燥させれば剛性粒子が残留し剛性粒子が詰め込まれることになる。乾燥する前に延伸機からはずしてボイドを拡張していた張力を除いても、樹脂の応力によりボイドが圧縮されて濾過する形となり剛性粒子は残留する。一方、分散液の乾燥が進むまで延伸しておいて、その後ボイドを拡張していた張力を除いて樹脂の応力によりボイドを圧縮した方が、より確実に剛性粒子をボイドに詰め込むことが出来る。浸透と乾燥の繰り返しにより、より多量の粒子を詰めることが出来る。
【0025】
本願の剛性粒子は前記のように樹脂の弾性に抗してボイドの空間を確保するものであり、粒子の弾性率が樹脂の弾性率より大きければよい。粒子の大きさはボイドのサイズと相対的に定まるが、数ナノメーターから、数ミクロンの粒子を使うこともよい。通常無機材料の粒子を好ましく用いることが出来、例えばコロイダルシリカ、アルミナ、シリカアルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン等粒子のサイズさえ合致すれば任意の材料を用いることが出来る。
【0026】
剛性粒子として磁性材料を用いると粒子間の磁気作用により、より振動減衰を高めることが出来る。例えば、Fe、Co、Ni、希土類コバルト合金、ネオジム鉄ボロン系合金、マンガン−アルミニウム磁石、Al,Ni,Co,Cu等の金属を含有するアルニコ磁石、センダスト(Fe‐Si‐Al合金)、パーマロイ(Ni‐Fe合金)、マンガン−ビスマス磁石、カーボニル鉄、Fe基またはCo基を有するアモルファス合金等の金属磁性体、スピネル型フェライト(MnFe24、Fe34、Y‐Fe23、NiZnFe46、ZnFe24等)、ガーネット型フェライト(Y3Fe2(FeO43、Sm3Fe2(FeO4)3等)、マグネトプランバイト型フェライト(BaO・6Fe23、SrO・6Fe23、PbO・6Fe23等)などのフェライト系金属酸化物磁性体、フェライト以外の金属酸化物磁性体(CrO2、EuO等)、また最近、盛んに開発研究が行われている有機化合物、有機金属、有機金属錯体等からなる強磁性体などが挙げられる。中でもスピネル型、ガーネット型、マグネトプランバイト型などのフェライト系金属酸化物磁性体、希土類コバルト合金磁性体、およびネオジム鉄ボロン系合金磁性体などをあげることが出来る。
【0027】
振動低減とともに、電磁波遮蔽等のために導電性も付加するときは、剛性粒子として金属または合金あるいはカーボンといった導電性剛性粒子を用いる。金属の剛性粒子は金属または合金として、金、白金、パラジウム、ロジューム、イリジウム、ルテニウム、銀等の貴金属や銅、ニッケル、鉄、クロム、アルミニウム、亜鉛、チタン等の卑金属を用い得るが、粒子サイズを小さくしたときは表面積が増大し、卑金属では容易に酸化されてしまう。金、白金、パラジウム、ロジューム、イリジウム、ルテニウム、銀等の貴金属や銅の金属または合金の微粒子が好ましい。特に界面活性剤水溶液中で金属塩を還元して得られるナノコロイドは、粒子径が2nm〜10nmとクレーズ領域のボイドに詰め込むによいサイズであり好ましく使用することが出来る。
【0028】
導電性剛性粒子としてカーボンを用いることも出来る。ただし通常のカーボンブラックは20〜100nmの基本粒子が凝集し200〜1000nmのアグリゲートというストラクチャーを持っている。カーボンブラックの分散液をそのままクレーズフィルムに塗布するだけでは充分にボイドに浸透せず、フィルムの表面近傍に留まり十分な導電性を得ることができない。また、使用中にカーボンブラック等が粉末状となってフィルム表面に浮き上がったり、フィルムから脱落したりする不都合がある。
【0029】
本願のカーボンはこのような不都合に鑑み、カーボンをナノ分散して用いた。すなわち、カーボンブラックの有機溶媒分散液を超音波処理する、あるいは高速でカーボンブラックの有機溶媒分散液を衝突させる高圧噴射乳化法または高速回転している刃の間を通過させる等により液中でカーボンブラック凝集体に強いせん断力を与えることでカーボンブラック凝集体を微細分散することが出来る。カーボンブラック凝集体を平均粒子径1μm以下、好ましくは平均粒子径0.1μm以下、特に好ましくは平均粒子径20nmから700nmのいわゆるナノサイズとすることにより、ボイドに容易に詰め込むことが出来、高い導電性を得ることが出来る。
【0030】
カーボンの種類としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックといった導電性カーボンの他、必要とする粒子サイズにより、FT、MTといったサーマルブラックやFEF、GPF、SRFといったソフトカーボンやSAF、ISAF、HAFといったハードカーボンも使用できる。
【0031】
クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムの、クレーズ領域の拡張されたボイド内に剛性粒子を詰め込むとき、その粒子のサイズは小さく表面積が大きくなって酸化され易いものとなる。その対応として貴金属の微粒子を用いるのもひとつの方法であるが、高分子樹脂フィルム内のボイドの外部に通ずる開口部を気密層で覆ってもよい。
【0032】
気密層は、高分子樹脂フィルムのボイドの表面を覆うものであればよい。例えば、金属粉末や導電カーボンをバインダーで結合したフィルムを積層する。金属粉末や導電カーボンをバインダーで結合した塗料を塗布する。導電性モノマーを塗布して重合せしめる。あるいは金属またはカーボンを蒸着するといった方法が挙げられる。
【0033】
またボイドに詰め込む剛性粒子として導電性粒子に加えて圧電性粒子を用いてもよい。フィルムの振動により粒子表面に電荷を生じ、表面伝導あるいは介在する導電性粒子を流れるときのジュール熱により振動減衰を高めるからである。たとえば、PZTに代表される圧電セラミックスは、一般組成式がABOで書き表されるペロブスカイト型結晶を有する強誘電体である。PZTは組成式Pb(Zr,Ti)Oで表され、強誘電体PbTiOと反強誘電体PbZrOとの固溶体で構成されている。この他の圧電セラミックスとしては、BaTiO、PbTiOおよび(Pb,La)(Zr,Ti)Oが代表的である。
【0034】
さらに、発明者はクレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムとして圧電性フィルムを用いることにより、より振動減衰性が向上することを見出した。図4に示すように、圧電性フィルム20にクレーズ領域1を形成し、そのボイド内に剛性粒子を含む導電性材料を充填する。該導電性材料を充填した圧電性フィルム20の両面に導電層22を積層することで本発明の振動低減材が得られる。振動により圧電性フィルム20の表面に電荷が生じ、導電層22を経て集められた電荷はクレーズ領域1内の導電性材料で通電することによりジュール熱を生じ、結果振動を低減する。クレーズ領域に詰め込んだ剛性粒子による振動低減効果とあいまって大きな振動低減効果を導き出す。
【0035】
ここで用いる圧電性フィルムには圧電性を発する高分子樹脂フィルムであればいずれでもよいが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFとトリフルオロエチレンとの共重合体、シアン化ビニリデンと酢酸ビニルとの共重合体、強誘電性ポリアミド、あるいはポリペプチドやセルロース誘導体などの生体高分子、光学活性を有するモノマーを重合してなるポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸などの合成高分子等のような光学活性を有するポリマーなどが挙げられる。これらのフィルムに必要であれば分極処理をし、その後クレージング処理をしてクレーズ領域を形成しボイドを生成させる。
【0036】
ボイド内に充填する導電性材料は剛性粒子を含む。導電性を持つ金属または合金あるいはカーボンといった導電性剛性粒子、磁性粒子、圧電性粒子、その他の剛性粒子を使用できる。これに導電性を与える導電性剛性粒子あるいは導電性ポリマーを加えて導電性材料としてボイド内に充填する。
【0037】
得られたボイド内粒子充填圧電性フィルムの両面に導電層を設ける。導電層は、高分子樹脂フィルムのボイドの表面を覆うものであればよい。例えば、金属粉末や導電カーボンをバインダーで結合したフィルムを積層する。金属粉末や導電カーボンをバインダーで結合した塗料を塗布する。導電性モノマーを塗布して重合せしめる。あるいは金属またはカーボンを蒸着するといった方法が挙げられる。表面に導電層を設けることにより充填粒子が外気の酸素から遮断され、金属の微細粒子のような表面積の大きい粒子も安定して使用することが出来る。
【0038】
得られた振動低減材を電子機器等に実装するに当たりフィルムを機器に接して巻きつけるのでなく、フィルムを成型して空間を設けて音を遮蔽することが出来る。フィルム膜厚は、20〜300μmの範囲にあるものが好ましいがクレージング処理が出来れば300μm以上あってもよい。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例を以下に図示しながらさらに詳しく説明するが、これは代表的なものを示したものであり、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【0040】
[参考例]
素材フィルムとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のTダイ法により成形された厚さ50μmの1軸延伸フィルム(三菱化学(株)製、KYNAR720)を使用した。このフィルムを図1のクレージング処理機にかけ、処理張力を16N/cmとして室温でクレージング処理を行った。
【0041】
[実施例1]
参考例のクレーズフィルムを手回し延伸機にたるまないように固定し、8N/cmの張力をかけながら、シーテック社のプラチナナノコロイド濃縮液「IASO」を塗布する。毛管現象により速やかにクレーズ領域に浸透した。次いで、温風をあてて乾燥し、乾燥後張力を除いた。
【0042】
[実施例2]
<分散液の調整>
ケッチェンブラック1部をトルエン20部と混合して粗分散液を調製し、上記粗分散液に対しプローブ型超音波ホモジナイザー(ULTRASONIC DISRUPTOR UR‐200P、トミー精工)を用いて30分間超音波処理を施すことによりナノ分散カーボン液を得た。参考例のクレーズフィルムを手回し延伸機にたるまないように固定し、20N/cmの張力をかけながら前記ナノ分散カーボン液を塗布する。毛管現象により速やかにクレーズ領域に浸透した。次いで、温風をあてて乾燥し、乾燥後張力を除いた。
【0043】
[実施例3]
参考例のクレーズフィルムを手回し延伸機にたるまないように固定し、20N/cmの張力をかけながら日産化学製コロイダルシリカ「スノーテックス」を塗布する。毛管現象により速やかにクレーズ領域に浸透した。次いで、温風をあてて乾燥し、乾燥後張力を除いた。
【0044】
[実施例4]
実施例1のプラチナナノコロイド詰め込み導電フィルムを手回し延伸機にたるまないように固定し、フィルムの表面側にピロールを塗布したところ、毛管現象により速やかにクレーズ領域に浸透した。次いで、フィルム表面のモノマーを拭き取った後、フィルムを室温で乾燥させ、0.1mol塩化鉄(III)のエタノール溶液をフィルム表面側に塗布し、ピロールを重合させた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明はクレーズ領域のボイド内に剛性粒子を詰め込むことにより、振動減衰性そして導電性剛性粒子を使って導電性ひいては電磁波遮蔽の機能を持つことが出来た。これにより自動車、建築物、配管等の制振や防音に使用できるだけでなく、パソコン、DVDドライブそのた電子音響機器等の防音および電磁波遮蔽に効果的に適用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】クレーズフィルム製造の模式図
【図2】クレーズの模式図
【図3】ボイドに剛性粒子を詰め込んだ模式図
【図4】圧電性振動低減フィルムの模式図
【符号の説明】
【0047】
1 クレーズ領域
3 分子束
4 ボイド
11 支持体
14 高分子樹脂フィルム
20 圧電フィルム
22 導電層
30 振動低減材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムの、クレーズ領域の拡張されたボイド内に、剛性粒子が詰め込まれてなることを特徴とする振動低減材。
【請求項2】
前記剛性粒子が、金属または合金あるいはカーボンの導電性剛性粒子であることを特徴とする請求項1記載の振動低減材。
【請求項3】
クレーズ領域が形成されてなる高分子樹脂フィルムの、クレーズ領域の拡張されたボイド内に導電性材料を充填し、高分子樹脂フィルムの両面に導電層を積層した振動低減材であって、前記高分子樹脂フィルムが圧電性を有することを特徴とする振動低減材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−248857(P2007−248857A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72847(P2006−72847)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(397010446)有限会社中島工業 (28)
【Fターム(参考)】