説明

掃除ロボット及びそれを用いた掃除方法

【目的】軌道を正確に最小分散推定して未清掃の空白領域が無い清掃効率の高い掃除ロボット及び掃除方法を提供する。
【構成】本発明に係る掃除ロボットは、センサの信号を用いてコンピュータにより演算される時々刻々の位置と、前記位置を格納するデータ記憶部と、清掃領域の境界に分散配置された位置情報発信部と、前記位置情報発信部に接近したときに位置情報を受信する位置情報受信部と、受信された前記位置情報により現在位置から最適推定された現在推定位置と、前記現在推定位置を用いて過去位置から最適推定された過去推定位置と、前記現在及び過去の推定位置からなる推定軌道を格納する軌道記憶部と、軌道データから清掃領域内で軌道の無い及び/又は少ない再掃引領域を導出する再掃引領域導出手段と、前記再掃引領域内を走行させて前記再掃引領域を清掃する再掃引領域行走行手段を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は掃除ロボットに関し、更に詳細には掃除ロボットに特定の走行動作をさせて清掃領域を隈なく清掃できる掃除ロボット及びそれを用いた掃除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建物内における部屋等の清掃領域を掃除する場合には、電気掃除機やモップ等が利用されている。しかし、電気掃除機やモップで掃除する場合には、そのハンドルを手で把握して電気掃除機やモップを部屋内に強制的に移動させながら行う人力作業になるのが常であった。
【0003】
工場や施設内で特殊動作を行う工業用ロボットが普及する現代において、家庭内の掃除を実行させる掃除ロボットが開発されつつある。前記工業用ロボットの多くが固定式のロボットアームであるのに対し、掃除ロボットは室内を移動しながら掃除する点が異なっている。
【0004】
掃除ロボットは室内を自由に走行移動し、走行中に塵埃を吸引する形式のものが多い。室内における掃除ロボットの時々刻々の位置を計測するために、レーザビーム装置や超音波装置や赤外線ビーム装置を掃除ロボット自体に搭載したり、室内にビデオカメラを配備して掃除ロボットを観察する多数の掃除ロボットが開発されている。しかし、これらの装置を装備した掃除ロボットは高価になるため、なかなか普及していないのが現実である。
【0005】
近年に到って、安価且つ容易に時々刻々の位置を計測するために、RFIDを搭載した移動ロボットが開発されつつある。掃除や物体移動などを行なう汎用の移動ロボットとしては特開2004−21978(特許文献1)が有り、自走式掃除機としては特開2007−34866(特許文献2)が存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−21978号公報
【特許文献2】特開2007−34866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特開2004−21978(特許文献1)は、ロボット本体に装備されたRFID検出器により、作業領域に設けられたRFIDカード(別名、RFIDタグ)から固有番号を獲得しながら、ロボットの位置と方向を認識して自走する移動ロボットを開示している。また、[0003]には、家庭において、移動ロボットは掃除、物体の移動などの作業を行う、と記載されており、特許文献1は掃除ロボットに適用できる旨を主張している。
【0008】
確かに、前記移動ロボットは途中ではオドメトリにより位置を計算し、要所要所に配置されたRFIDカードから位置情報(固有番号)を獲得しながら、位置と方向を算出して、作業領域を移動していることが記載されている。しかし、オドメトリ法はデッドレコニング法とも称し、車輪軸の回転速度と方向をセンサ検出して移動距離と移動方向を算出するものであり、車輪のすべり等の誤差により、移動距離と移動方向には大きな誤差が含まれるのが常である。しかも、特許文献1には、前記RFID情報を移動距離と移動方向、即ちロボットの軌道の修正に具体的にどのように適用するかが明白でない。特に、前記移動ロボットが作業領域を移動する中で、その軌道が作業領域の全体に均一に移動せず、通過しない複数の空白領域が残されることが多い。このような場合に、この空白領域をどのように掃除するかについては記載もされていないし、示唆さえされていない。その意味で、掃除ロボットとしては不十分である。
【0009】
前記特開2007−34866(特許文献2)には、境界にRFID発信手段からなるマーカを配置し、マーカからの信号を受けてマーカに対する移動体の走行方向を計測して移動体の走行方向を制御する技術が開示されており、この移動体として自走式掃除機が記載されている。
【0010】
しかし、この特許文献2においても特許文献1と同様の欠点が存在する。即ち、前記マーカ情報(RFID情報)をロボットの軌道の修正に具体的にどのように適用するかが明白でない。また、その軌道が作業領域の全体に均一に移動しないことが多く、この未清掃の空白領域をどのように掃除するかについては記載もされていないし、示唆さえされていない。従って、掃除ロボットとしては不十分である。
【0011】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、走行中にデッドレコニングにより計測された大きな誤差を有する位置に対し、壁面に配置された位置情報発信部から受信した位置情報に基づき最適推定法により誤差の小さな推定位置を導出し、現在及び過去の推定位置による推定軌道を導出し、推定軌道の空白領域を検出して、この空白域を再掃引領域として集中的に走行する掃除ロボット及びそれを利用した掃除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1形態は、内蔵されるコンピュータからの指令により清掃領域内での走行を制御する走行制御部と、前記走行を検出するセンサを有して、走行しながら清掃領域を掃除する掃除ロボットにおいて、前記センサの信号を用いて前記コンピュータにより演算される時々刻々の位置と、前記位置を格納するデータ記憶部と、前記清掃領域の境界に分散配置された位置情報発信部と、前記位置情報発信部に接近したときに位置情報を受信する位置情報受信部と、受信された前記位置情報により現在位置から最適推定された現在推定位置と、前記現在推定位置を用いて過去位置から最適推定された過去推定位置と、前記現在推定位置と前記過去推定位置からなる推定軌道を格納する軌道記憶部と、前記軌道記憶部に格納された軌道データから前記清掃領域内で軌道の無い及び/又は軌道の少ない再掃引領域を導出する再掃引領域導出手段と、前記再掃引領域内を走行させて前記再掃引領域を清掃する再掃引領域行走行手段を有する掃除ロボットである。
【0013】
本発明の第2形態は、前記第1形態において、前記位置情報発信部がRFIDタグであり、前記位置情報受信部がRFIDアンテナである掃除ロボットである。
【0014】
本発明の第3形態は、前記第1又は第2形態において、前記走行の開始から所定時間を検出する所定時間検出手段と、前記所定時間の経過後に前記再掃引領域検出手段を作動させる掃除ロボットである。
【0015】
本発明の第4形態は、前記第1、第2又は第3形態において、前記再掃引領域検出手段により検出された再掃引領域の形状により再掃引動作を選択する掃除ロボットである。
【0016】
本発明の第5形態は、前記第1〜第4のいずれかにおいて、前記位置がデッドレコニングにより演算される掃除ロボットである。
【0017】
本発明の第6形態は、前記第1〜第5形態のいずれかにおいて、前記最適推定が最小分散推定である掃除ロボットである。
【0018】
本発明の第7形態は、前記第6形態において、前記現在推定位置の前記最小分散推定が、拡張カルマンフィルタ法、パーティクルフィルタ法、ヒストグラムフィルタ法、カルマンフィルタ法、アンセンテッドカルマンフィルタ法又は情報フィルタ法により演算される掃除ロボットである。
【0019】
本発明の第8形態は、前記第6又は第7形態において、前記過去推定位置の前記最小分散推定が、固定区間スムージング法、固定点スムージング法又は固定ラグスムージング法により演算される掃除ロボットである。
【0020】
本発明の第9形態は、前記第1〜第8形態のいずれかにおいて、前記清掃領域内の床面に接触するように払拭体を装備し、走行中に前記床面を前記払拭体により掃除する掃除ロボットである。
【0021】
本発明の第10形態は、内蔵されるコンピュータからの指令により清掃領域を走行し、前記走行を内蔵されるセンサで検出しながら清掃領域を掃除する掃除ロボットによる掃除方法において、前記センサの信号を用いて前記コンピュータにより時々刻々の位置を演算し、前記清掃領域の境界に分散配置された位置情報発信部に接近したときに位置情報を受信し、前記位置情報により現在位置から最適推定して現在推定位置を導出し、前記現在推定位置を用いて過去位置から最適推定して過去推定位置を導出し、前記現在推定位置と前記過去推定位置からなる推定軌道から前記清掃領域内で軌道の無い及び/又は軌道の少ない再掃引領域を導出し、前記再掃引領域内を走行させて前記再掃引領域を掃除する掃除ロボットによる掃除方法である。
【0022】
本発明の第11形態は、前記第10形態において、前記走行の開始から所定時間の経過後に前記再掃引領域を導出する掃除ロボットによる掃除方法である。
【0023】
本発明の第12形態は、前記第10又は第11形態において、前記再掃引領域の形状により再掃引動作を選択する掃除ロボットによる掃除方法である。
【0024】
本発明の第13形態は、前記第10、第11又は第12形態において、前記位置がデッドレコニングにより演算される掃除ロボットによる掃除方法である。
【0025】
本発明の第14形態は、前記第10〜第13形態のいずれかにおいて、前記現在推定位置が、拡張カルマンフィルタ法、パーティクルフィルタ法、ヒストグラムフィルタ法、カルマンフィルタ法、アンセンテッドカルマンフィルタ法又は情報フィルタ法により最小分散推定される掃除ロボットによる掃除方法である。
【0026】
本発明の第15形態は、前記第10〜第14形態のいずれかにおいて、前記過去推定位置が、固定区間スムージング法、固定点スムージング法又は固定ラグスムージング法により最小分散推定される掃除ロボットによる掃除方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明の第1形態によれば、床面に対する車輪の滑り等により、センサ信号を用いて演算された時々刻々の位置が大きな誤差を有するとしても、位置情報発信部に接近したときに受信する位置情報により、現在位置から最適推定法により誤差の小さな現在推定位置に修正でき、しかもこの現在推定位置を用いて過去位置へと順に遡って過去推定位置を正しく最適推定することができる。過去推定位置を極力正確に推定するためには、1点の現在推定位置を出発値とする場合だけでなく、少なくとも現在推定位置を含めて現在推定位置の周りにある複数点の推定位置を出発値とすることも可能である。前記現在推定位置と前記過去推定位置から推定軌道を構成でき、しかもこの推定軌道は実際軌道に最適近似している。従って、軌道記憶部に格納された推定軌道から掃除ロボットにより清掃領域内の掃除された領域が正しく判別できる。掃除ロボットが清掃領域内を不均一の走行している場合には、前記清掃領域内に軌道の無い及び/又は軌道の少ない空白領域が出現し、次にこの空白領域を集中的に掃除する必要が生じる。この空白領域を再掃引領域として導出し、掃除ロボットを前記再掃引領域内に集中的に走行させることによって、清掃領域の全領域を隈なく清掃することが可能になり、またこれを可能にする掃除ロボットを提供できる。
【0028】
本形態の位置情報発信部及び位置情報受信部とは、超音波では超音波発信器と超音波受信器、レーザではレーザ発光部とレーザ受光部、赤外線では赤外線発光部と赤外線受光部、マイクロ波ではマイクロ波発信部とマイクロ波受信部、電波では電波発信部と電波受信部に対応し、公知の送受信器が利用できる。
【0029】
本発明の第2形態によれば、前記位置情報発信部がRFIDタグであり、前記位置情報受信部がRFIDアンテナであるから、他の送受信器と比較して安価であり、しかも装備が容易である利点を有する。RFIDとはRadio Frequency Identificationの略であり、無線自動識別と訳される。RFIDシステムは、リーダ部(アンテナ及び読取部)とタグから構成され、電波によりタグから固有のIDを受信できる。タグにはActive型とPassive型がある。Active型のタグは電池を内蔵し、通信距離が数m〜数100mと長い。一方、Passive型のタグは通信距離は数cm〜数mと短いが、リーダ側のアンテナからのエネルギーを利用して動作するため、電池を内蔵する必要が無い。RFIDシステムは幾つかの周波数に分類される。例えば、134.2kHz帯(LF帯)〜13.56MHz帯(HF帯)〜高周波帯(例、UHF帯)があるが、HF帯のRFIDシステムを用いると、低周波のものより通信可能距離が長く小型であり、高周波のものよりノイズに強く安価である利点を有する。
【0030】
本発明の第3形態によれば、走行の開始から所定時間を検出する所定時間検出手段と、前記所定時間の経過後に前記再掃引領域検出手段を作動させることができ、例えば所定時間を20分に設定すると、20分の間、掃除ロボットは清掃領域を走り回り、20分の時点で軌道記憶部に記録された推定軌道から空白領域、即ち再掃引領域を検出し、次に掃除ロボットを再掃引領域に集中的に走行させて再掃引領域の掃除を実現できる。この結果、清掃領域の全領域を隈なく掃除することが可能になる。前記所定時間は清掃領域の面積やデスク・段差などの障害物の多さによって自在に調整することができる。また、時間判断だけでなく、掃除ロボットに床面の清掃率や軌道の掃引密度などの検出機能を付加しておけば、一定の清掃率や掃引密度に到達したことによって、再掃引領域の検出動作に移行させることも可能である。
【0031】
本発明の第4形態によれば、前記再掃引領域検出手段により検出された再掃引領域の形状により再掃引動作を選択する掃除ロボットが提供される。掃引動作には、例えば螺旋動作、パラレル動作(多重往復動作)、壁面反射動作、壁面追従動作があり、再清掃領域の外周形状により、最適な動作を選択すれば清掃効率が一層に高まる。島状の再清掃領域に対しては、その中心を導出して、その中心から螺旋動作を実施すればよい。矩形の再清掃領域に対しては、パラレル動作が好適である。壁面に沿った矩形の再清掃領域に対しては、壁面追従動作が好適であり、狭い壁面間の再清掃領域に対しては、壁面反射動作を考えれば良いなど、自在に掃引動作を選択することができる。
【0032】
本発明の第5形態によれば、前記位置がデッドレコニングにより演算される掃除ロボットが提供される。デッドレコニングとは、ロボットが有する車軸回転角センサ(オドメーター)の測定値を積分することで、出発位置から走行した軌道(軌跡)を計算し、ロボットの現在位置を推定する手法である。デッドレコニングは、位置(連続線としては軌道)の計測の第1近似手法であり、本形態ではデッドレコニング法を用いることにより、位置計測を安価且つ容易に行うことができる利点がある。但し、ユーザーが最初に掃除ロボットを設置する位置と姿勢を予め特定するのは困難であり、また車輪は床面との滑りを伴いながら動作するため、デッドレコニングによる推定手法は動作距離が長くなるに連れて大きな誤差を生じることが知られている。従って、デッドレコニングによる位置・軌道の推定値から、真の位置・軌道を推定することが必要になる。以下の通り、この推定方法も本発明の要点である。
【0033】
本発明の第6形態によれば、前記最適推定が最小分散推定である掃除ロボットが提供される。前述した通り、デッドレコニングにより計測された位置・軌道は大きな誤差を有しやすい。真の位置・軌道は不明であるが、前記位置・軌道から位置・軌道の最確値を推定することが必要になる。その最適推定法として最小分散推定法を用いる。最小分散推定法とは、母数xの推定量Xの中で、Xの分散V[X]=E[(X−x)]を最小にする推定量を導出する方法で、推定量を最小分散推定量と呼び、推定量が満たすべき望ましい基準とされている。本形態では、真の位置に最近接する推定位置を導出するために、デッドレコニングにより計測された位置に対し、最小分散推定法を用いる。
【0034】
本発明の第7形態によれば、前記現在推定位置の前記最小分散推定が、拡張カルマンフィルタ法、パーティクルフィルタ法、ヒストグラムフィルタ法、カルマンフィルタ法、アンセンテッドカルマンフィルタ法又は情報フィルタ法により演算される掃除ロボットが提供される。掃除ロボットの位置はデッドレコニングにより時々刻々と計測され、多数の位置の中でも位置情報送信部からの位置情報を受信した時刻の位置を現在位置と称する。この現在位置に対し最小分散推定を適用して現在推定位置を導出する。この最小分散推定法として、前述した各種の方法が具体的に適用される。これらの方法はカルマンフィルタ法を中心とするが、特に拡張カルマンフィルタ法(Extended Kalman Filter Method)が好適であり、以下でEKFと略記される場合には、拡張カルマンフィルタ法を意味する。記号で説明すると、x、x・・xを位置とし、xを現在位置とすると、現在位置xに対し最小分散推定を行って現在推定位置Xを導出する。
【0035】
本発明の第8形態によれば、前記過去推定位置の前記最小分散推定が、固定区間スムージング法、固定点スムージング法又は固定ラグスムージング法により演算される掃除ロボットが提供される。デッドレコニングにより時々刻々と計測されてきた多数の位置の中で、現在位置よりも過去の位置の全てを過去位置と称する。第7形態で現在推定位置を導出した後、この現在推定位置を利用して、現在位置に近い過去位置から過去に遡りながら順に最小分散推定法により修正して過去推定位置を導出して行く。この最小分散推定法として、前述した各種の方法が具体的に適用される。特に、固定区間スムージング法が好適である。記号で説明すると、x、x・・xをデッドレコニングで計測された位置とし、xを現在位置とすると、過去位置はx、x・・xN−1である。現在推定位置Xを利用して、過去位置を遡るから、xN−1・・x、xの順に最小分散推定を行って順次に過去推定位置XN−1・・X、Xを導出して行く。清掃領域に複数の位置情報発信部(例えばRFIDタグ)を配置する場合には、出発位置〜第1発信部までをx・・・xとし、xをxと置きなおして第1発信部〜第2発信部までを新たにx・・・xとし、第2発信部〜第3発信部・・という具合に、次々と位置を計測し、推定して行くのである。
【0036】
本発明の第9形態によれば、前記清掃領域内の床面に接触するように払拭体を装備し、走行中に前記床面を前記払拭体により掃除する掃除ロボットが提供される。床面を掃除する掃除ロボットの多くでは、掃除用ロボットの下面に吸込口を開口しておき、ファンにより吸引しながら走行させると、走行軌道近傍の塵埃が吸引されて掃除が行われる。本形態では、掃除ロボットにモップなどの払拭体を装着しておき、前記払拭体が床面に接触するように構成される。こうすれば、掃除ロボットを走行させれば、走行軌道の近傍の塵埃を払拭体が吸着して保持する。従って、掃除ロボットを清掃領域に隈なく走行させれば、軌道近傍の塵埃は払拭体に吸着され、掃除が完了する。
【0037】
前述したように、本発明の第1形態から第9形態までは掃除ロボットを対象とするのに対し、第10形態から第15形態までは、掃除ロボットによる掃除方法を対象としている。第10形態は第1形態に、第11形態は第3形態に、第12形態は第4形態に、第13形態は第5形態に、第14形態は第7形態に、第15形態は第8形態に、夫々対応している。掃除ロボットでは構造限定で表現しているのに対し、掃除方法では動作機能限定で表現しているが、対応項の効果はほぼ同様である。即ち、第10形態〜第15形態の効果は、第1形態、第3形態、第4形態、第5形態、第7形態、第8形態の効果と夫々同様であるから、ここでは第1形態、第3形態、第4形態、第5形態、第7形態、第8形態の効果を夫々引用することにより、再記を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る掃除ロボットの床上走行図である。
【図2】本発明に係る掃除ロボットに内蔵される走行制御装置のブロック構成図である。
【図3】本発明に係る掃除ロボットに組み込まれた機能制御一覧図である。
【図4】掃除対象となる部屋の壁面に分散配置されたRFIDタグの配置図である。
【図5】本発明に係る掃除ロボットの基本動作説明図である。
【図6】本発明に係る掃除ロボットの基本動作の複合による清掃時間図である。
【図7】本発明に係る掃除ロボットが螺旋・壁面追従・反射の複合動作する場合の軌道図である。
【図8】本発明に係る掃除ロボットにおける軌道の最小分散推定の手順図である。
【図9】本発明に係る掃除ロボットのオドメトリによる軌道測定のデッドレコニング説明図である。
【図10】デッドレコニングによる位置x(t)、y(t)と姿勢角θ(t)の演算説明図である。
【図11】RFIDタグ座標と掃除ロボットの位置姿勢座標との関係図である。
【図12】拡張カルマンフィルタ法によるシステムの状態方程式の説明図である。
【図13】拡張カルマンフィルタ法による観測方程式と非線形モデルの説明図である。
【図14】拡張カルマンフィルタ法によるタグ検出時の位置姿勢座標の時間更新と観測更新の説明図である。
【図15】区間固定スムージング法によるタグ間全データの最小分散推定の説明図である。
【図16】拡張カルマンフィルタ法と区間固定スムージング法による最小分散推定のイメージ説明図である。
【図17】本発明によるRFIDタグを用いた最小分散推定軌道が実際軌道に最適一致する説明図である。
【図18】本発明の実施例におけるロボット動作の状態遷移図である。
【図19】本発明に係る掃除ロボットの軌道を最小分散推定するフローチャート図である。
【図20】本発明に係る掃除ロボットの掃除軌道から判別された再掃引領域を掃除するフローチャート図である。
【図21】本発明に係る掃除ロボットの掃除軌道から判別された再掃引領域の説明図である。
【図22】判別された未掃引領域を螺旋動作により掃除した後の掃除ロボットの軌道図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明に係る掃除ロボット及びそれを用いた掃除方法の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
図1は、本発明に係る掃除ロボットの床上走行図である。清掃領域の床2を掃除ロボット4が車輪6の回転駆動により走行する。車輪6は掃除ロボット4の左右に装備され、左右車輪6、6は独立に駆動される。その結果、直線走行のみならず、左右変向や回転、螺旋などが自由自在に行われる。掃除ロボット4には床2に接触するようにモップ等からなる払拭体8が装着されており、掃除ロボット4が走行すると、その軌道近傍の塵埃を払拭体8に吸着してゆく。従って、清掃領域を隈なく走行した場合には、清掃領域の床2の全体が余すところ無く清掃されることになる。清掃手段としては、掃除ロボット4の下面に吸引口を設けて、電気掃除機と同様の吸引方式にしても構わない。
【0041】
図2は、本発明に係る掃除ロボットに内蔵される走行制御装置のブロック構成図である。走行制御装置は、コンピュータC、走行制御部RCP、車輪部WP、各種センサSP、RFIDアンテナANから構成される。RFIDタグTAは清掃領域の壁面に分散配置されており、掃除ロボット4がRFIDタグTAに接近すると、RFIDアンテナANがRFIDタグTAから位置情報(以下、RFID情報とも称する)を受信する。コンピュータCは演算部AP、制御部CP、入出力部IOP、プログラム記憶部PM、データ記憶部DMを少なくとも有し、データ記憶部DMは軌道記憶部OM、位置姿勢データ記憶部PAM、その他データ記憶部AMを有している。各種センサSPは回転速度センサや方向センサなどから構成され、車輪部WPの回転数や方向などを検出して、それらの情報は入出力部IOPを介してコンピュータCに出力される。検出されたセンサ情報はオドメトリ法(以下、デッドレコニング法とも称する)により演算されて、掃除ロボット4の位置(x、y)及び姿勢角(θ)が位置姿勢データ記憶部に格納(保存)される。RFIDアンテナANから入力された位置情報は前記位置姿勢データを修正し、修正された位置姿勢データが軌道記憶部OMに格納される。プログラム記憶部PMからのステップ情報は入出力部を介して走行制御部RCPに出力される。走行制御部RCPはモータ等の機械駆動機構から構成され、前記ステップ情報により車輪部WPの動作制御を行い、掃除ロボット4に所定の走行動作を付与する。
【0042】
図3は、本発明に係る掃除ロボットに組み込まれた機能制御一覧図である。センサ入力には、エンコーダ、タッチ、距離、段差、脱輪、リモコン、RFID、ポテンショメータ、電圧があり、デジタル入力又はアナログ入力が為される。モータ出力は左右車輪に対して行われ、デジタル出力又はPWM出力が為される。車輪回転数制御はPID制御である。基本動作としては、直進、回転、螺旋、壁面追従の4動作であり、速度指定若しくはPD制御が行われる。動作モードには、反射モード、壁面追従モード、螺旋モードがある。反射モードでは、直進し、物体に近接する場合には低速化し、衝突すると回転する。壁面追従モードでは、壁面に追従しながら、物体に近接する場合には低速化し、衝突すると小回転する。螺旋モードでは、螺旋を描きながら、物体に近接する場合には低速化し、衝突すると停止終了する。応用動作としては、段差センサにより段差対応し、またリモコンセンサにより最終的に基地帰還する。動作選択として、衝突回数により基本動作の遷移を行ったり、時間経過すると基本動作の遷移を行うこともできる。動作チェックは、LED出力、パソコン表示、LCD表示及びディップスイッチ入力により行われる。この場合には、デジタル入出力又はシリアル通信で行われる
図4は、掃除対象となる部屋の壁面に分散配置されたRFIDタグの配置図である。清掃領域となる部屋10には、床2、壁12、キッチン14、食卓テーブル16、台18、デスク20、花瓶台22、長デスク23が存在し、掃除ロボットの障害物になっている。壁12には10個のRFIDタグ、即ちTA1〜TA10が適所に分散配置されている。本発明では、掃除ロボットはこの部屋10を清掃領域とする。
【0043】
図5は、本発明に係る掃除ロボットの基本動作説明図である。本発明に係る掃除ロボットの基本動作は4動作であり、図示するように、螺旋動作S、パラレル動作P、壁面反射動作R、壁面追従動作Fである。実際の動作は、上記4動作を組み合わせた複合動作とすることもできる。これらの選択は、掃除ロボットに搭載されたコンピュータにより自動制御される。
【0044】
図6は、本発明に係る掃除ロボットの基本動作の複合による清掃時間図である。各基本動作の組み合わせ方による清掃時間のシミュレーションの結果が示されている。部屋形状により清掃時間は異なるため、平均の時間(分)が示されている。清掃時間は部屋全体に対して98%の領域を移動したときの時間であり、短いほど効率的に清掃できることを意味している。OVERは60分を超えても清掃できなかったことを意味している。このシミュレーションの結果から、壁面反射動作Rと壁面追従動作Fが極めて重要であることが分かった。ユーザーが掃除ロボットを最初に設置するのは、部屋内の比較的広い領域の中心付近であり、このような状況では、螺旋動作が比較的効率よく清掃できることが理解できる。従って、本発明に係る掃除ロボットでは、螺旋動作S、壁面反射動作R、壁面追従動作Fを基本動作とし、これらを組合わせることで動作制御アルゴリズムを構成することにした。
【0045】
図7は、本発明に係る掃除ロボットが螺旋・壁面追従・反射の複合動作する場合の軌道図である。図4とは異なる部屋に対して、螺旋S+壁面追従F+反射Rの複合動作を付与して掃除ロボットを走行させた。スタート位置Sから始めると、スタート位置S→螺旋→壁面追従→反射→壁面追従→反射→壁面追従→終了地点24と動作が遷移し、終了地点24に到達した時点で停止した。従って、上記3基本動作の複合動作により、部屋全体に掃除ロボットが走行することが証明された。
【0046】
図8は、本発明に係る掃除ロボットにおける軌道の最小分散推定の手順図である。図8により、本発明の手順を概括しておく。(1)では、まず掃除ロボットを部屋の初期位置に配置する。掃除ロボットが初期位置に配置されると、自動的にxy座標軸を設定して、初期位置(x、y)及び初期姿勢角(θ)が設定される。両者を含めて初期位置姿勢(x、y、θ)と呼ぶ。(2)では、掃除ロボットが走行すると、デッドレコニング法(オドメトリ法とも云う)により位置姿勢(x、y、θ)(I=1,2・・N)が一定の時間間隔Δtで計測されて行く。(3)では、位置情報発信部の位置情報、例えばRFIDタグのRFID情報の検出値を用いて、現在位置姿勢(x、y、θ)を最適補正し、例えば最小分散推定により現在推定位置姿勢(X、Y、θ)を導出する。最小分散推定法として、拡張カルマンフィルタ法、パーティクルフィルタ法、ヒストグラムフィルタ法、カルマンフィルタ法、アンセンテッドカルマンフィルタ法又は情報フィルタ法があり、その中でも精度的に拡張カルマンフィルタ法が好適である。(4)では、現在推定位置姿勢(X、Y、θ)を用いて、過去位置姿勢(x、y、θ)(I=1,2・・N−1)を最適補正し、例えば最小分散推定により過去推定位置姿勢(X、Y、θ)(I=1,2・・N−1)を導出する。出発値として現在推定位置姿勢(X、Y、θ)を少なくとも含めばよく、例えば(X、Y、θ)と(XN−1、YN−1、θN−1)を拡張カルマンフィルタ法で求めて、2点を出発値とすることも可能である。更に、2点以上の複数点を出発値とすることも可能である。最小分散推定法として、固定区間スムージング法、固定点スムージング法又は固定ラグスムージング法があり、その中でも精度的に固定区間スムージング法が好適である。(5)では、位置情報発信部(例えばRFIDタグ)と位置情報発信部(例えばRFIDタグ)の間も、前述した(1)〜(4)を反復することにより位置姿勢及び推定位置姿勢を導出できる。
【0047】
図9は、本発明に係る掃除ロボットのオドメトリによる軌道測定のデッドレコニング説明図である。デッドレコニングとは、掃除ロボットが有する車軸回転角センサ(オドメーター)の測定値を積分し、ロボットの現在位置を推定する手法である。掃除ロボットを部屋の初期位置に配置する。掃除ロボットが初期位置に配置されると、自動的にxy座標軸が設定され、初期位置(x、y)及び初期姿勢角(θ)が設定される。両者を含めて初期位置姿勢(x、y、θ)と呼ぶ。掃除ロボットは軌道を描きながら、時刻tに位置姿勢(x(t)、y(t)、θ(t))まで走行する。車輪半径r、車輪間距離l、並進速度v、左車輪角速度ω、右車輪角速度ωとする。このとき、左車輪周速度はωr、右車輪周速度はωrとなる。従って、並進速度vは周速度の平均値としてv=(ωr+ωr)/2となる。また、ロボットの角速度はdθ/dt=(ωr−ωr)/lで与えられる。
【0048】
図10は、デッドレコニングによる位置x(t)、y(t)と姿勢角θ(t)の演算説明図である。式(A)は、前述された並進速度vとロボット角速度dθ/dtを行列表現したものである。時刻tにおける掃除ロボットの現在位置(x(t)、y(t))は積分表現である式(B1)及び式(B2)によって与えられる。また、ロボット回転角、θ(t)は式(B3)によって計算される。しかし、車輪は床面との滑りを伴いながら動作するため、デッドレコニングによる推定手法はロボットの動作距離が長くなるに連れて、大きな誤差を生じる。この誤差を最小分散推定法などの最適推定法を適用して修正することが本発明の要点の一部である。
【0049】
図11は、RFIDタグ座標と掃除ロボットの位置姿勢座標との関係図である。(x、y)は壁面に配置されたRFIDタグ(TA)の座標、姿勢角θは壁に垂直で部屋の内側を向くベクトルの角度を表す。(x,y,θ)は観測された掃除ロボットの位置姿勢を示す。rは掃除ロボットの半径、dはロボットと壁面との距離である。RFIDタグ座標と掃除ロボットの位置姿勢座標との関係は式(1)で与えられる。dは観測の状況により変化する。
【0050】
本発明に係る掃除ロボットのパラメータは表1に記載されている様に、直径2rが25cm、並進速度vが15cm/s及び角速度ωが64deg/sである。左右両輪がモータにより独立駆動され、両モータをコンピュータ制御することにより、表1のパラメータに設定されている。但し、これらのパラメータは可変可能であることは云うまでも無い。
【0051】
【表1】

図12は、拡張カルマンフィルタ法によるシステムの状態方程式の説明図である。拡張カルマンフィルタ法とは、ロボットのオドメトリとRFID情報を統合した自己位置推定法で、位置と姿勢を最小分散推定する有効手法である。オドメトリから得られる並進速度vと回転速度ωを制御とみなし、システムの状態方程式を記述すると、状態の次元を位置と姿勢の3次元に減らすことができる。システムの状態方程式は式(2)で与えられる。wvt、wωtは夫々並進速度v及び回転速度ωに加わる雑音であり、Δtは計算時間間隔である。
【0052】
図13は、拡張カルマンフィルタ法による観測方程式と非線形モデルの説明図である。システムの観測方程式は式(3)で表され、vxt、vyt、vθtは位置及び姿勢の観測に加わる雑音である。以上をまとめると、式(4)及び式(5)の非線形システムモデルの形式で表される。式(4)は式(2)に対応し、式(5)は式(3)に対応する。ここで、状態x、制御u、観測zは、x=(x,y,θ、u=(v,ω、z=(xrt,yrt,θrtで与えられる。また制御の雑音wと観測の雑音vは、w=(wvt,wωt、v=(vxt、vyt、vθtで与えられる。但し、平均0、共分散はそれぞれQ、Rに従うガウス白色雑音とする。
【0053】
図14は、拡張カルマンフィルタ法によるタグ検出時の位置姿勢座標の時間更新と観測更新の説明図である。以上のシステムに拡張カルマンフィルタ法を適用する。その結果、状態の推定Xt/t及び共分散Pt/tは以下のように求められる。まず、時間更新では、式(6)及び式(7)により更新が実行される。また、観測更新では、式(8)、式(9)及び式(10)により更新が実行される。但し、F,G、Hに対しては式(11)の線形近似が使用される。以上の手順により、RFIDタグの観測点での自己位置が修正されて、現在推定位置Xt/tが求められる。Xt/tはXN/Nと書かれる。従って、時系列X〜XはX〜Xと書かれる。
【0054】
図15は、区間固定スムージング法によるタグ間全データの最小分散推定の説明図である。RFIDタグを観測する直前の軌道は不確かである。従って、時間区間[0,N]の観測データに基づき、区間[0,N]の全ての時点tにおける最小分散推定が行われる。ここでは固定区間スムージング法が適用される。固定区間スムージング法は以下の二つのステップから構成される。第1に、拡張カルマンフィルタ法により、区間t=0・・Nにおける状態の推定値Xt/t−1、Xt/t及び共分散Pt/t−1、Pt/tを計算し記憶する。第2に、境界値XN/N、PN/Nから出発して逆向きにXN−1/N・・・X0/N及びPN−1/N・・・P0/Nを推定する。具体的には式(12)、式(13)及び式(14)により計算される。
【0055】
図16は、拡張カルマンフィルタ法と区間固定スムージング法による最小分散推定のイメージ説明図である。(16A)は壁面追従する掃除ロボットの位置に拡張カルマンフィルタ法を適用した場合のイメージ図である。ロボットがRFIDタグを検出する前には破線で囲まれる共分散楕円がかなり大きいが、RFIDタグを検出すると、その現在位置の共分散楕円は小さくなり、タグ位置の位置精度は急激に向上する。実際には壁面に平行して直線走行しているが、測定された位置データはタグ点でギャップのある階段線になる。(16B)は壁面追従する掃除ロボットの位置に固定区間スムージング法を適用した場合のイメージ図である。最小分散推定された軌道は実際の軌道にかなり近くなることが分かる。本発明では、デッドレコニング法で測定された位置データからRFIDタグデータに基づく拡張カルマンフィルタ推定を行い、更に固定区間スムージング推定を行って全位置データを最小分散推定して、実際軌道に近い軌道データを作り上げている。
【0056】
図17は、本発明によるRFIDタグを用いた最小分散推定軌道が実際軌道に最適一致する説明図である。掃除ロボットをスタート地点Sから壁面追従動作をさせて、実際軌道と推定軌道を比較する。実際軌道は実線、本発明のRFID修正軌道は一点鎖線、デッドレコニング測定軌道は長破線である。長破線は実線からかなり逸れているが、本発明方法である一点鎖線は実線にかなり近いことが分かる。従って、本発明の2段階推定法は実際軌道を描出することに成功したと判断できる。
【実施例】
【0057】
図18は、本発明の実施例におけるロボット動作の状態遷移図である。本実施例では、掃除ロボットに直進動作+壁面追従動作+壁面反射動作からなる複合動作を与える。ある時間帯は一動作だけであるが、時間的に遷移しながら全体として3動作が組み合わされた状態が出現する。スタート時は直進動作であるが、どこかで衝突すると壁面追従動作に遷移し、10〜20秒経過すると自動的に壁面反射動作に遷移し、壁面反射で衝突回数が5〜10回以上になると壁面追従動作に遷移する。以後、壁面追従動作と壁面反射動作を交互に繰り返す。
【0058】
図19は、本発明に係る掃除ロボットの軌道を最小分散推定するフローチャート図である。ステップS1では初期設定が行われ、掃除ロボットの掃引時間Tが15分(自在設定が可能)と設定され、時刻t=0、パラメータI=0が設定される。ステップS2では、掃除ロボットの初期機能により初期位置姿勢X=(x,y,θ)が検出される。ユーザーが与えるのではなく、掃除ロボットが自己判断で検出又は設定するもので、最も単純にはx軸、y軸を決めた上で(x,y,θ)=(0,0,0)と設定する。ステップS3では、前記初期位置姿勢データが位置姿勢データ記憶部に格納保存される。ステップS4では、計測の時間間隔Δtを用いて、t=t+Δt、I=I+1、センサデータからオドメトリ計測が行われ、X=(x,y,θ)が算出され、位置姿勢データ記憶部に格納保存される。ステップS5では、RFID検出が判断され、NOならステップS4に帰還してループを反復する。YESなら、ステップS6に飛び、RFIDタグからRFID情報を受信し、そのパラメータIをNとする。従って、掃除ロボットの現在位置はX=(x,y,θ)により与えられる。ステップS7では、現在位置Xから拡張カルマンフィルタ法による自己位置推定により現在推定位置XN/Nが算出される。現在推定位置はXN/N=(xN/N,yN/N,θN/N)で与えられる。ステップS8では、固定区間スムージング法を通して区間の全データを最小分散推定により修正する。即ち、現在推定位置XN/Nを用いて、過去位置(X・・・XN−1)から過去推定位置(X0/N・・・XN−1/N)を導出する。ステップS9では、現在推定位置と過去推定位置を合わせた全推定位置データ(X0/N・・・XN/N)を軌道記憶部に格納保存する。ステップS10では、現在推定位置XN/Nを初期位置姿勢Xに、即ち、X=(xN/N,yN/N,θN/N)とする。ステップS11では、掃引時間(T)内であればステップS12でI=0を設定してステップS3に飛び、再び次のRFIDタグを検出するまで同じステップルートを繰り返す。このようにして、RFIDタグと次のRFIDタグとの間の位置姿勢データを推定位置姿勢データに変換して軌道記憶部に次々と格納してゆく。軌道記憶部には掃除ロボットの最確軌道が保存される。ステップS11で例えば15分の掃引時間(T)を過ぎると、中継Pに移行する。
【0059】
図20は、本発明に係る掃除ロボットの掃除軌道から判別された再掃引領域を掃除するフローチャート図である。掃引時間Tを過ぎるとステップ20に飛び、2次元メモリである軌道記憶部から掃除ロボットの軌道図が作成される。この軌道図には掃除ロボットのスタートからの全軌道が描出されている。ステップ21では、軌道図に未掃引領域(軌道が全く無い)又は少掃引領域(軌道が少ない)が無い場合には掃除が完了したとして、ステップS27に飛び、掃除ロボットを基地帰還させてフローを終了する。未掃引領域及び少掃引領域を本発明では再掃引領域と称している。軌道図に再掃引領域がある場合には、再掃引領域の外周を確認し、且つ再掃引領域の中心(x,y)が導出される。ステップS23では、掃除ロボットを前記中心(x,y)に移動させる。ステップS24では、再掃引領域の外周から掃引動作が選択される。掃引動作は、螺旋動作、パラレル動作、壁面反射動作、壁面追従動作のいずれかから選択される。再掃引領域とは未清掃の空白領域であるから螺旋動作が選択されることが多い。例えば螺旋動作が選択されると、ステップS25において再清掃領域が螺旋動作で掃除される。ステップS26では、再清掃領域の全てが終了か判断され、残っておればステップS22に飛んで再清掃領域の掃除が反復される。再清掃領域の全てが終了すると、ステップS27に飛び、掃除ロボットを基地帰還させ、掃除は終了する。
【0060】
図21は、本発明に係る掃除ロボットの掃除軌道から判別された再掃引領域の説明図である。部屋10に対し掃引時間Tの間に掃引された軌道が描画されている。この軌道図から4個の再清掃領域C、C、C、Cが抽出される。同時に、再清掃領域の中心(xC1、yC1)、(xC2、yC2)、(xC3、yC3)、(xC4、yC4)が検出される。図20のフロー図では、上記4個の再清掃領域C、C、C、Cが螺旋動作により再清掃される。
【0061】
図22は、判別された未掃引領域を螺旋動作により掃除した後の掃除ロボットの軌道図である。前述した4個の再清掃領域C、C、C、Cが螺旋動作で清掃され、軌道である螺旋SL1、SL2、SL3、SL4が再清掃領域C、C、C、Cに描画されている。以上によって、本発明に係る掃除ロボット及びそれを用いた掃除方法が詳細に説明された。
【0062】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、走行中にデッドレコニングにより計測された大きな誤差を有する位置に対し、壁面に配置された位置情報発信部から受信した位置情報に基づき最適推定法により誤差の小さな推定位置を導出し、現在及び過去の推定位置による推定軌道を導出し、推定軌道の空白領域を検出して、この空白域を再掃引領域として集中的に掃除ロボットを走行させて、清掃作業の自動化と空白領域の無い清掃完全化を達成することができる。本発明の掃除ロボット及びそれを利用した掃除方法は、家庭、会社、工場、その他掃除が必要になる全設備に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
2 床
4 掃除ロボット
6 車輪
8 払拭体
10 部屋
12 壁
14 キッチン
16 食卓テーブル
18 台
20 デスク
22 花瓶台
23 長デスク
24 終了位置
AM その他データ記憶部
AP 演算部
AN RFIDアンテナ(リーダ)
C コンピュータ
CP 制御部
C1 再掃引領域1
C2 再掃引領域2
C3 再掃引領域3
C4 再掃引領域4
DM データ記憶部
F 壁面追従動作
IOP 入出力部
OM 軌道記憶部
PAM 位置姿勢データ記憶部
PM プログラム記憶部
R 反射動作
RCP 走行制御部
S スタート位置
S 螺旋動作
SP 各種センサ
SL1 螺旋軌道1
SL2 螺旋軌道2
SL3 螺旋軌道3
SL4 螺旋軌道4
TA RFIDタグ
TA1 RFIDタグ
TA2 RFIDタグ
TA3 RFIDタグ
TA4 RFIDタグ
TA5 RFIDタグ
TA6 RFIDタグ
TA7 RFIDタグ
TA8 RFIDタグ
TA9 RFIDタグ
TA10 RFIDタグ
WP 車輪部
(xC1,yC1) 中心1
(xC2,yC2) 中心2
(xC3,yC3) 中心3
(xC4,yC4) 中心4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内蔵されるコンピュータからの指令により清掃領域内での走行を制御する走行制御部と、前記走行を検出するセンサを有して、走行しながら清掃領域を掃除する掃除ロボットにおいて、
前記センサの信号を用いて前記コンピュータにより演算される時々刻々の位置と、前記位置を格納するデータ記憶部と、前記清掃領域の境界に分散配置された位置情報発信部と、前記位置情報発信部に接近したときに位置情報を受信する位置情報受信部と、受信された前記位置情報により現在位置から最適推定された現在推定位置と、前記現在推定位置を用いて過去位置から最適推定された過去推定位置と、前記現在推定位置と前記過去推定位置からなる推定軌道を格納する軌道記憶部と、前記軌道記憶部に格納された軌道データから前記清掃領域内で軌道の無い及び/又は軌道の少ない再掃引領域を導出する再掃引領域導出手段と、前記再掃引領域内を走行させて前記再掃引領域を清掃する再掃引領域行走行手段を有することを特徴とする掃除ロボット。
【請求項2】
前記位置情報発信部がRFIDタグであり、前記位置情報受信部がRFIDアンテナである請求項1に記載の掃除ロボット。
【請求項3】
前記走行の開始から所定時間を検出する所定時間検出手段と、前記所定時間の経過後に前記再掃引領域検出手段を作動させる請求項1又は2に記載の掃除ロボット。
【請求項4】
前記再掃引領域検出手段により検出された再掃引領域の形状により再掃引動作を選択する請求項1、2又は3に記載の掃除ロボット。
【請求項5】
前記位置はデッドレコニングにより演算される請求項1〜4のいずれかに記載の掃除ロボット。
【請求項6】
前記最適推定は最小分散推定である請求項1〜5のいずれかに記載の掃除ロボット。
【請求項7】
前記現在推定位置の前記最小分散推定は、拡張カルマンフィルタ法、パーティクルフィルタ法、ヒストグラムフィルタ法、カルマンフィルタ法、アンセンテッドカルマンフィルタ法又は情報フィルタ法により演算される請求項6に記載の掃除ロボット。
【請求項8】
前記過去推定位置の前記最小分散推定は、固定区間スムージング法、固定点スムージング法又は固定ラグスムージング法により演算される請求項6又は7に記載の掃除ロボット。
【請求項9】
前記清掃領域内の床面に接触するように払拭体を装備し、走行中に前記床面を前記払拭体により掃除する請求項1〜8のいずれかに記載の掃除ロボット。
【請求項10】
内蔵されるコンピュータからの指令により清掃領域を走行し、前記走行を内蔵されるセンサで検出しながら清掃領域を掃除する掃除ロボットによる掃除方法において、前記センサの信号を用いて前記コンピュータにより時々刻々の位置を演算し、前記清掃領域の境界に分散配置された位置情報発信部に接近したときに位置情報を受信し、前記位置情報により現在位置から最適推定して現在推定位置を導出し、前記現在推定位置を用いて過去位置から最適推定して過去推定位置を導出し、前記現在推定位置と前記過去推定位置からなる推定軌道から前記清掃領域内で軌道の無い及び/又は軌道の少ない再掃引領域を導出し、前記再掃引領域内を走行させて前記再掃引領域を清掃することを特徴とする掃除ロボットによる掃除方法。
【請求項11】
前記走行の開始から所定時間の経過後に前記再掃引領域を導出する請求項10に記載の掃除ロボットによる掃除方法。
【請求項12】
前記再掃引領域の形状により再掃引動作を選択する請求項10又は11に記載の掃除ロボットによる掃除方法。
【請求項13】
前記位置はデッドレコニングにより演算される請求項10、11又は12のいずれかに記載の掃除ロボットによる掃除方法。
【請求項14】
前記現在推定位置は、拡張カルマンフィルタ法、パーティクルフィルタ法、ヒストグラムフィルタ法、カルマンフィルタ法、アンセンテッドカルマンフィルタ法又は情報フィルタ法により最小分散推定される請求項10〜13のいずれかに記載の掃除ロボットによる掃除方法。
【請求項15】
前記過去推定位置は、固定区間スムージング法、固定点スムージング法又は固定ラグスムージング法により最小分散推定される請求項10〜14のいずれかに記載の掃除ロボットによる掃除方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2011−56123(P2011−56123A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210609(P2009−210609)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)
【Fターム(参考)】