説明

排ガス浄化用触媒

【課題】低温条件下においても一酸化炭素の浄化性能に優れた排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】ここで開示される排ガス浄化用触媒は、基材54と、該基材54上に配置された下層57と、該下層57上に配置された上層58を有する。上記上層58は、第1触媒、及び第2触媒を備え、上記下層57は、第1触媒を備える。上記第1触媒は、担体としてAlを有し、該Al上に担持された貴金属としてPt及びPdを有し、上記第2触媒は、担体として典型的にはAl−ZrO−TiO複合酸化物を有し、該Al−ZrO−TiO複合酸化物上に担持された貴金属としてPdを有する。また、上記上層58は炭化水素吸着材68を有する。このような排ガス浄化用触媒では、触媒のHC被毒及び硫黄被毒が抑制され、一酸化炭素の浄化性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。詳しくは、ディーゼルエンジン用に適した排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出される排ガスには炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(パティキュレートマター、PM)などが含まれる。これらの排ガス成分を浄化するため、自動車には排ガス浄化用触媒が、例えばエンジン排気マニホルドの直下に配設されている。
一般に、エンジン始動時など排ガス温度が未だ低い場合、排ガス浄化用触媒は十分に暖機されていないため触媒の浄化性能は低下する。さらに、低温の排ガス中には燃料の未燃物質であるHCやCOが多く含まれる。このため、排ガス温度が低温である場合において、排ガス浄化用触媒によるHCやCOの浄化が不十分であることが問題であった。HCやCOは、酸化されることにより、HOやCOに変換されて排出される。よって排ガス浄化用触媒において、特に酸化による浄化性能について低温活性を向上させることが求められている。
【0003】
HCやCOの浄化性能を向上させるため種々の試みがなされている。その1つに、HC成分を吸着する材料としてゼオライトを含有した排ガス浄化用触媒が知られている。
特許文献1には炭化水素を吸着または脱着させる炭化水素トラップがコーティングされた第1部分、そして炭化水素及び一酸化炭素を酸化させる酸化触媒がコーティングされた第2部分、を含み、前記第2部分は、前記第1部分で脱着されたHCと酸化反応し、前記酸化反応で発生する酸化熱を利用して前記酸化触媒に吸着した硫黄を脱着させることを特徴とするディーゼル酸化触媒が開示されている。これは吸着及び脱着されたHC成分を利用することにより酸化熱を発生させ、触媒床温度を上昇させることにより触媒活性の向上を図ったものである。
他にもHC成分を吸着する成分を含有した排ガス浄化用触媒として、特許文献2〜7などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−120008号公報
【特許文献2】特開平11−138006号公報
【特許文献3】特開2003−290629号公報
【特許文献4】特開平9−10594号公報
【特許文献5】特開2003−236339号公報
【特許文献6】特開2010−29814号公報
【特許文献7】特開平8−224449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の排ガス浄化用触媒では低温条件下における内燃機関からの排ガス、特にディーゼルエンジンからの排ガスに対するCOの浄化性能は未だ不十分であり、改善の余地がある。
本発明者らは、CO浄化の阻害要因となる触媒の汚染に着目した。即ち、HCとCOが併存する場合、HCが触媒表面を被覆することにより、触媒の活性が低下する現象(以下、「HC被毒」ともいう。)が生じる場合がある。また、燃料中に硫黄酸化物に代表される硫黄成分が含まれる場合、排ガス中の該硫黄成分が触媒表面を被覆し、触媒の活性を低下させる現象(以下、「硫黄被毒」ともいう。)が生じる場合がある。
本発明は、かかる排ガス浄化用触媒の事情に鑑みてなされたものであり、排ガス浄化用触媒について上記HC被毒、及び上記硫黄被毒を抑制することにより、低温条件下においても一酸化炭素(CO)の浄化性能に優れた排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、様々な角度から検討を加え、上記目的を実現することのできる本発明を創出するに至った。
即ち、ここに開示される排ガス浄化用触媒は基材と、該基材上に配置された下層と、該下層上に配置された上層と、を備える。
上記上層は、第1触媒、及び第2触媒を備える。上記下層は、第1触媒を備える。
上記第1触媒は、担体としてAlを有し、該Al上に担持された貴金属としてPt及びPdを有する。上記第2触媒は、担体としてAl−ZrO複合酸化物とAl−ZrO−TiO複合酸化物の少なくともいずれかを有し、該Al−ZrO複合酸化物と該Al−ZrO−TiO複合酸化物の少なくともいずれかの上に担持された貴金属としてPdを有する。また、上記上層は炭化水素吸着材を備えていることを特徴とする。
【0007】
かかる構成の排ガス浄化用触媒では、排ガスが最初に接触する層である上記上層は炭化水素吸着材を備える。このような排ガス浄化用触媒では、排ガス中のHCが効果的に上層中の炭化水素吸着材に吸着される。よって、続いて排ガスが接触する下層にまで到達するHC量は大幅に減少しており、下層における触媒のHC被毒が抑制される。
また、かかる構成の排ガス浄化用触媒では、上記上層及び上記下層は第1触媒、即ち、担体としてAlを有し、該Al上に担持された貴金属としてPt及びPdを有する。第1触媒は特に高温領域(例えば180℃以上)において、高いCO浄化性能を示すため、かかる構成の排ガス浄化用触媒は高温条件下でのCO浄化性能に優れる。
さらに、かかる構成の排ガス浄化用触媒では、上記上層は第2触媒、即ち、担体としてAl−ZrO複合酸化物(以下、「AZ複合酸化物」ともいう。)とAl−ZrO−TiO複合酸化物(以下、「AZT複合酸化物」ともいう。)の少なくともいずれかを有し、該AZ複合酸化物と該AZT複合酸化物の少なくともいずれかの上に担持された貴金属としてPdを有する。第2触媒は特に低温領域(例えば180℃未満)において高いCO浄化性能を示し、かつ低温領域において比較的高い耐硫黄被毒性を示す。このため、かかる構成の排ガス浄化用触媒は低温条件下において、たとえ排ガス中に硫黄成分が比較的高濃度で存在する場合であっても、高いCO浄化性能を発揮する。
【0008】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記第2触媒において、上記Al−ZrO複合酸化物と上記Al−ZrO−TiO複合酸化物の少なくともいずれかの担体を100質量%としたときの、上記Pdの担持率が2.5質量%以下であることを特徴とする。
上記第2触媒における上記Pdの担持率が2.5質量%以下(例えば0.05質量%以上2.5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上1.3質量%以下)であると、第2触媒のCO浄化性能に対する低温活性が向上する。このため、かかる構成の排ガス浄化用触媒は低温条件下(例えば180℃未満)におけるCO浄化性能がより優れる。
【0009】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、上記上層において、上記第1触媒と上記第2触媒の合計を100質量%としたとき、上記第1触媒の含有率が30質量%以上99質量%以下であることを特徴とする。
かかる構成の排ガス浄化用触媒では、高温条件下(例えば180℃以上)及び低温条件下(例えば180℃未満)のいずれの温度領域においても、安定して高い耐硫黄被毒性、及び高いCO浄化性能を示す。
【0010】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、上記下層が、さらに上記第2触媒を備えていることを特徴とする。
かかる構成の排ガス浄化用触媒によると、触媒自体の耐熱特性が向上し、熱耐久後であっても高いCO浄化性能を示す。また、かかる構成の排ガス浄化用触媒では、耐硫黄被毒性がより向上する。
【0011】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、上記下層において、上記第1触媒と上記第2触媒の合計を100質量%としたとき、上記第1触媒の含有率が30質量%以上99質量%以下であることを特徴とする。
かかる構成の排ガス浄化用触媒によると、高温条件下及び低温条件下のいずれの温度領域においても、安定して高い耐硫黄被毒性、及び高いCO浄化性能を発揮する。
【0012】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、上記下層が、さらに炭化水素吸着材を備えていることを特徴とする。
かかる構成の排ガス浄化用触媒では、上層において吸着されずに下層に到達したHCを、下層における上記炭化水素吸着材により捕捉することができるため、下層における触媒のHC被毒をより一層抑制することができる。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、上記第2触媒に担持された貴金属の平均粒径が5nm以下であることを特徴とする。
かかる構成の排ガス浄化用触媒では、低温条件下におけるCO浄化性能が向上する。
【0014】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、上記炭化水素吸着材としてゼオライト粒子を備えていることを特徴とする。
ゼオライト粒子は吸着物質の高い選択性を有するため、かかる構成の排ガス浄化用触媒によると、効率的に種々のHC成分(例えば、炭素原子が6個以下の低級オレフィン、炭素原子が7個以上の高級炭化水素など)を吸着させることができる。
【0015】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の他の好ましい一態様では、ディーゼルエンジンの排ガスを浄化するために用いられる排ガス浄化用触媒であることを特徴とする。
ディーゼルエンジンから排出される排ガスは、ガソリンエンジンから排出される排ガスと比較して、低い温度を有する傾向がある。また、ディーゼルエンジンで用いられる軽油は、炭素数15以上(典型的には15〜17程度)であり、これはガソリンエンジンで用いられるガソリン(炭素数4〜10程度)よりも比較的大きい高級炭化水素である。このため、未燃焼の軽油成分が触媒に付着することによる影響(HC被毒)は、未燃焼のガソリン成分による影響よりも大きい傾向がある。
さらに、ディーゼルエンジンを広く用いる地域では、同時に硫黄が比較的高濃度に含有する燃料を用いていることが多い。
ここに開示される排ガス浄化用触媒は、CO浄化における低温活性に優れ、さらに触媒のHC被毒、及び硫黄被毒を抑制することができるため、ディーゼルエンジンの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係る排ガス浄化装置の概略図である。
【図2】一実施形態に係る排ガス浄化装置における制御部の構成を模式的に説明した図である。
【図3】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の全体図である。
【図4】図3の排ガス浄化用触媒におけるリブ壁部分の構成を拡大して示す図である。
【図5】図4における上層部分の構成を模式的に説明した図である。
【図6】図4における下層部分の構成を模式的に説明した図である。
【図7】参考例に係る排ガス浄化用触媒において硫黄被毒処理前後における、Pd割合とCO浄化に対する低温活性との関係を示した図である(縦軸:CO5%浄化温度(℃)、横軸:Pd割合(質量比))。
【図8】参考例に係る排ガス浄化用触媒において硫黄被毒処理前後における、Pd割合とCO浄化に対する高温活性との関係を示した図である(縦軸:CO80%浄化温度(℃)、横軸:Pd割合(質量比))。
【図9】参考例に係る排ガス浄化用触媒における、貴金属担持率とCO浄化に対する低温活性との関係を示した図である(縦軸:CO5%浄化温度(℃)、横軸:貴金属担持率(質量%))。
【図10】参考例に係る排ガス浄化用触媒における、Pd担持率とPd粒子の平均粒径との関係を示した図である。(縦軸:Pd粒子径(nm)、横軸:Pd担持率(質量%))。
【図11】参考例に係る排ガス浄化用触媒における、第1触媒と第2触媒の混合割合と、CO浄化性能との関係を示した図である(縦軸:CO5%浄化温度(℃)(左)、CO80%浄化温度(℃)(右)、横軸:PtPd/アルミナ含有率(質量比))。
【図12】実施例に係る排ガス浄化用触媒の排ガス浄化性能を評価するために用いたNEDC(New European Driving Cycle)モードの概略を示す図である(縦軸:回転数(rpm)(左)、温度(℃)(右)、横軸:時間(秒))。
【図13】複数の実施例、及び比較例に係る排ガス浄化用触媒における、評価結果を示す図である。縦軸は比較例1に係る熱耐久後のCO浄化率を基準にしたCO浄化の向上割合を示す(縦軸:CO浄化の向上割合(%))。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここに開示される排ガス浄化用触媒及び該排ガス浄化用触媒を備える排ガス浄化装置の一実施形態について図面を用いて説明する。ここでは、内燃機関としてディーゼルエンジンを備える場合を例にして詳細に説明するが、本発明の適用範囲をかかるディーゼルエンジンに限定することを意図したものではない。本発明は、例えば、ガソリンエンジン等に適用することができる。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100は、大まかに言って、ディーゼルエンジンを主体とするエンジン部1(エンジン部1にはエンジンを駆動するためのアクセルその他の操作系を含む。)と、該エンジン部1に連通する排気系に設けられる排ガス浄化部40と、該排ガス浄化部40と該エンジン部1との間の制御をつかさどるECU(電子制御ユニット)30とにより構成されている。
【0020】
エンジン部1は、典型的には複数ある燃焼室2と、各燃焼室2に燃料を噴射する燃料噴射弁3とを備えている。各燃焼室2は、吸気マニホルド4および排気マニホルド5と連通している。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して、排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に接続されている。コンプレッサ7aの入口は、吸入空気量検出器8を介してエアクリーナ9に接続されている。吸気ダクト6内にはスロットル弁10が配置されている。吸気ダクト6の周りには、吸気ダクト6内を流れる空気を冷却するための冷却装置11が配置されている。排気マニホルド5は、排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に接続されている。排気タービン7bの出口は、排気管12に接続されている。
【0021】
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは、排気ガス再循環(以下、EGRと称する。)通路18を介して互いに連結されている。EGR通路18内には、電子制御式の制御弁19が配置されている。また、EGR通路18の周りには、EGR通路18内を流れるEGRガスを冷却するための冷却装置20が配置されている。
【0022】
各燃料噴射弁3は、燃料供給管21を介してコモンレール22に接続されている。コモンレール22は、燃料ポンプ23を介して燃料タンク24に接続されている。ここでは燃料ポンプ23は、吐出量可変な電子制御式の燃料ポンプである。ただし、燃料ポンプ23の構成は特に限定される訳ではない。
【0023】
排気管12内には、排気ガス中に燃料を供給(噴射)する燃料供給弁15が配置されており、さらに下流側には排ガス浄化部40が配置されている。排ガス浄化部40は、排気ガス中のCOやHCを酸化するための排ガス浄化用触媒50と、排ガス中の粒子状物質(PM)を捕集するパティキュレートフィルタ80を備えている。
【0024】
図2に示すように、ECU30は、エンジン部1と排ガス浄化部40との間の制御を行うユニットであり、デジタルコンピュータを含んでいる。ECU30は、双方向性バスによって互いに接続されたROM(リードオンメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、CPU(マイクロプロセッサ)、入力ポートおよび出力ポートを有している。
図示しないアクセルペダルには、アクセルペダルの踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサが接続されている。該負荷センサの出力電圧は、対応するAD変換機を介して入力ポートに入力される。更に入力ポートには、クランクシャフトが所定の角度(例えば15°)回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサが接続される。
【0025】
排ガス浄化部40における温度センサ及び差圧センサからの出力信号は、それぞれ対応するAD変換機を介して入力ポートに入力される。一方、出力ポートは、対応する駆動回路を介して燃料噴射弁3、スロットル弁10の駆動用ステップモータ、制御弁19、燃料ポンプ23及び燃料供給弁15に接続されている。このように、燃料噴射弁3、燃料供給弁15等は、ECU30により制御されている。
なお、上述の制御系自体は本発明を特徴付けるものではなく、従来この種の内燃機関(自動車用エンジン)で採用されるものでよく、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0026】
次に、本発明を特徴付ける排ガス浄化部40に備えられた排ガス浄化用触媒50について説明する。
ここで開示される排ガス浄化用触媒を構成する上記基材としては、従来この種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。例えば、高耐熱性を有するコージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成されたハニカム構造を備えるハニカム基材などを好適に採用することができる。一例として外形が円筒形状であるハニカム基材であって、その筒軸方向に排ガス通路としての貫通孔(セル)が設けられ、各セルを仕切る隔壁(リブ壁)に排ガスが接触可能となっているものが挙げられる。基材の形状はハニカム形状の他にフォーム形状、ペレット形状などとすることができる。また基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
図3は一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の模式図である。即ち、本実施形態の排ガス浄化用触媒50は、ハニカム基材52と、複数の規則的に配列されたセル56と、該セル56を構成するリブ壁(以下、「基材」ともいう。)54を有する。
【0027】
図4は、図3の本実施形態における排ガス浄化用触媒50におけるリブ壁(基材)54の表面部分の構成を拡大して説明した図である。即ち、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒50は、基材54、該基材54上に配置された下層57、該下層57上に配置された上層58を有する。上記下層57は、下層担体60と、貴金属としてPt粒子64及びPd粒子66を有している。また上記上層58は、上層担体62と、貴金属としてPt粒子64及びPd粒子66と、炭化水素吸着材68を有している。
【0028】
図5は、図4の本実施形態における上層58の構成を拡大して説明した概略図である。上記上層58は、第1触媒70、第2触媒72、及び炭化水素吸着材68を備える。ここで第1触媒70は、担体としてアルミナ(Al)74、及び該担体74に担持されたPt粒子64及びPd粒子66を備える。また、第2触媒72は、担体としてAZ複合酸化物とAZT複合酸化物の少なくともいずれか(典型的にはAZT複合酸化物76)、及び該担体76に担持されたPd粒子66を備える。
図6は、図4の本実施形態における下層57の構成を拡大して説明した概要図である。上記下層57は、少なくとも第1触媒70を備え、好ましくはさらに第2触媒72を備える。第1触媒70及び第2触媒72を構成する担体及び貴金属については上記上層58の場合と同様である。即ち、第1触媒70は、担体としてアルミナ(Al)74、及び該担体74に担持されたPt粒子64及びPd粒子66を備える。また、第2触媒72は、担体としてAZ複合酸化物とAZT複合酸化物の少なくともいずれか(典型的にはAZT複合酸化物76)、及び該担体76に担持されたPd粒子66を備える。
【0029】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50を構成する上記第1触媒70、及び第2触媒72における担体としては上記Al74、上記AZ複合酸化物、又はAZT複合酸化物76が好適に用いられる。
上記AZ複合酸化物、及びAZT複合酸化物76の製法は特に制限されず、例えば共沈法、ゾルゲル法、水熱合成法などにより製造される。典型的な共沈法によるAZT複合酸化物76の調製方法は以下の通りである。即ち、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタンの水溶性塩(例えば、硝酸塩)からなる混合水溶液に、必要に応じて界面活性剤を混合した後、アルカリ性物質であるアンモニア水を添加して徐々にpHを高くすることにより共沈物を生成させ、該共沈物を熱処理することにより該複合酸化物を得ることができる。
【0030】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50には貴金属としてPt粒子64及びPd粒子66が含まれる。また、上記排ガス浄化用触媒50は貴金属として上記Pt粒子64及び上記Pd粒子66の他に、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及び銀(Ag)等の粒子を備えていてもよい。これらの貴金属は合金化したものを用いてもよい。
かかる貴金属(典型的にはPt粒子64、及びPd粒子66、特にAZ複合酸化物またはAZT複合酸化物76上に担持されたPd粒子66)は、排ガスとの接触面積を高める観点、及び担体との相互作用の観点から十分に小さい粒径を有することが好ましい。典型的には、貴金属の平均粒径はいずれも1〜15nm程度であることが好ましいが、上記排ガス浄化用触媒50のCO浄化性能に対する低温活性向上の観点から、5nm以下であることがより好ましく、4nm以下、3nm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50を構成する上記第1触媒70は、貴金属としてPt粒子64及びPd粒子66を備える。上記第1触媒70における貴金属を100質量%としたときのPd粒子66の含有割合は質量比で0.2以上0.8以下(好ましくは0.25以上0.6以下、より好ましくは0.3以上0.5以下)であることが望ましい。第1触媒70において貴金属に占めるPd粒子66の含有割合が上記範囲より小さすぎる、または大きすぎる場合、排ガス浄化用触媒のCO浄化性能低下を招く虞がある。
【0032】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50を構成する上記第2触媒72は、貴金属としてPd粒子66を備える。上記第2触媒72における担体(典型的にはAZT複合酸化物76)を100質量%としたときの、上記Pd粒子66の担持率は2.5質量%以下(例えば0.05質量%以上2.5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上1.3質量%以下)であることが好ましい。上記第2触媒72におけるPd粒子66の担持率が上記範囲より少なすぎると、貴金属による触媒効果が得られにくい。また、上記第2触媒72におけるPd粒子66の担持率が上記範囲より多すぎると、貴金属の粒成長が進行する虞があり、さらにコスト面でも不利である。
【0033】
上記上層58または上記下層57における上記第1触媒70と上記第2触媒72の混合割合について、上記第1触媒70と上記第2触媒72の合計を100質量%としたとき、上記第1触媒70の含有率は30質量%以上99質量%以下(好ましくは35質量%以上70質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは45質量%以上55質量%以下)であることが望ましい。上記第1触媒70の含有率が上記範囲より小さすぎる場合、高温条件下(例えば180℃以上)におけるCO浄化性能が低下する傾向がある。また、上記含有率が上記範囲より大きすぎる場合、低温条件下におけるCO浄化性能の低下が生じる虞がある。
【0034】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50を構成する上記上層58には、炭化水素吸着材68が含まれる。ここで、本明細書で言う炭化水素吸着材68とは、多孔質構造を有する材料であって、その多孔質構造内に炭化水素を吸着する材料を意味する。
かかる炭化水素吸着材68としては、ゼオライト、例えば、A型ゼオライト、フェリライト型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、β型ゼオライト、X型ゼオライト、及びY型ゼオライト、並びにそれらの組合せからなる群より選択されるゼオライトを挙げることができる。また、粒子状のものを好適に用いることができる。
【0035】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50は、上下層を有する積層構造に形成されている。かかる積層構造を製造するためには、基材54表面に少なくとも第1触媒70を含むスラリーをウォッシュコートすることにより下層57を形成し、さらに下層57表面に少なくとも第1触媒70、第2触媒72、及び炭化水素吸着材68、を含むスラリーをウォッシュコートすることにより上層58を形成する。ウォッシュコートにより触媒層を形成するプロセスにおいて、基材54表面、あるいは下層57表面にスラリーを適当に密着させるため、スラリーにはバインダーを含有させることが好ましい。バインダーとしては、例えばアルミナゾル、シリカゾル等を用いることができる。スラリーの粘度は、スラリーがハニカム基材52のセル56内へ容易に流入しうるものとすべきである。
基材54、または下層57表面にウォッシュコートされたスラリーの焼成条件は基材54または担体の形状及び寸法により左右されるが、典型的には約400〜1000℃程度(例えば500〜600℃)で約1〜4時間程度である。
【0036】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50を構成する上記上層58は、任意の厚さを有することができるが、好ましくは30μm以上100μm以下、より好ましくは40μm以上であって、70μm以下、又は60μm以下でよい。(ここで厚さは平均厚さをいう。以下同じ。)
本明細書において平均層厚さは、基材を流入側端面及び流出側端面からそれぞれ35mmの位置で切断し、それぞれの端面側の任意の4つのセルについて、角部分及び辺部分の層厚さを測定し(計16箇所)、測定された値の平均値を算出することにより得ることができる。以下、本明細書における層厚さに関しては上記の測定法により得られたものと規定する。
上層58の厚さが上記範囲より薄すぎる場合、エンジン始動時等、排ガスが低温の場合であって、排ガス中にHC成分が比較的多量に含有されている場合、HCが上層58を通り抜けて下層57に達し、下層57における触媒に付着して触媒活性を低下させることがある。また、上層58の厚さが上記範囲より厚すぎる場合、浄化すべき一酸化炭素等の排ガス成分が、拡散によっては十分に下層57に達しないことがある。
【0037】
ここで開示される排ガス浄化用触媒50では、上記上層58及び上記下層57の合計の厚さは、任意に設定することができるが、好ましくは100μm以上250μm以下、より好ましくは150μm以上250μm以下(上記と同様に平均厚さをいう。以下同じ。)であってよい。
上記上層58及び上記下層57の合計の厚さが上記範囲より薄すぎる場合、排ガス浄化用触媒50における貴金属の絶対量が不足し、十分な排ガスの浄化が達成できないことがある。また、上記厚さが上記範囲より厚すぎる場合、排ガスが排ガス浄化用触媒50の全体に行き渡らない虞があり、担体に担持された貴金属を効率的に利用することができないことがある。また、排ガス浄化用触媒50のセル56内を排ガスが通過する際の圧力損失の上昇を招く虞がある。
なお、上記積層構造は上層58として上述したような触媒層があり、下層57として上述したような触媒層があればよく、当該二つの層に加えて他の層(例えば基材54に近接した別の層)を有する3層以上であってもよい。
【0038】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示
すものに限定することを意図したものではない。
【0039】
<担体:Al−ZrO−TiO複合酸化物粉末の製造>
Al−ZrO−TiO(AZT)複合酸化物を以下のプロセスにより製造した。即ち、硝酸アルミニウムを純水に溶解させ、硝酸アルミニウム水溶液を調製した(水溶液1)。次にオキシ硝酸ジルコニウムと四塩化チタンを純水に溶解させ、混合液を調製した(水溶液2)。上記、水溶液1と水溶液2の二つの溶液を中和するのに必要なアンモニア量の1.2倍のアンモニアを含むアンモニア水溶液を調製した(水溶液3)。まず、水溶液3に水溶液1を撹拌しながら加え、続いて、これに水溶液2を投入し、1時間以上撹拌を行うことにより沈殿物を得た。この沈殿物を150℃で12時間加熱することにより乾燥させた後、600℃で5時間焼成することにより、AZT複合酸化物の粉末を得た。上記粉末の組成比は質量比でAl:ZrO:TiO=60:28:12であった。
【0040】
<担体:Al粉末の製造>
上記AZT複合酸化物に係る製造プロセスの中で、原料のオキシ硝酸ジルコニウム及び四塩化チタンを用いる代わりに、硝酸アルミニウムを用いたこと以外は、同様の製造プロセスによりAl粉末を製造した。
【0041】
<参考例に係る排ガス浄化用触媒の製造>
(参考例1〜3)
上記AZT複合酸化物粉末に、Pt粒子及び/又はPd粒子が担持した排ガス浄化用触媒を製造した。
具体的には、担体である上記AZT複合酸化物粉末に、適当に濃度を調節したジニトロジアンミン白金硝酸塩溶液、及び/又は適当に濃度を調節した硝酸パラジウム水溶液と、適量の純水を混合し、これを2時間撹拌した後、130℃で乾燥、500℃で1時間焼成することにより、Pt粒子及び/又はPd粒子が担持されたAZT複合酸化物に係る排ガス浄化用触媒を製造した。このとき、担持させたPt粒子及び/又はPd粒子の担持量は、該担体を100質量%としたときに、表1の通りとなるように調節した。
得られた貴金属粒子担持粉末は、プレス機によりペレット状に成形し、これを参考例1〜3に係る排ガス浄化用触媒とした。
【0042】
【表1】

【0043】
(参考例4〜6)
上記Al粉末に、Pt粒子及び/又はPd粒子が担持された排ガス浄化用触媒を製造した。
具体的には、担体として上記AZT複合酸化物粉末の代わりに、上記Al粉末を用いること以外は、上記参考例1〜3に係る製造プロセスと同様に製造した。このとき、担持させたPt粒子及び/又はPd粒子の担持量は、担体を100質量%としたときに、表1の通りとなるように調節した。
得られた貴金属粒子担持粉末は、プレス機によりペレット状に成形し、これを参考例4〜6に係る排ガス浄化用触媒とした。
【0044】
<参考例に係る排ガス浄化用触媒に対する熱耐久処理>
上記参考例1〜6に係る合計6種類の排ガス浄化用触媒について、熱耐久処理を施した。具体的には、参考例1〜6に係る排ガス浄化用触媒を空気中において750℃で5時間加熱した。
<参考例に係る排ガス浄化用触媒に対する硫黄被毒処理>
上記熱耐久処理を施した後の参考例1〜6に係る排ガス浄化用触媒について、硫黄を含むガスを接触させることにより硫黄被毒処理を施した。
具体的には、上記熱耐久処理後の参考例1〜6に係る排ガス浄化用触媒を評価装置に設置し、表2に示すガス組成のガスを、入りガス温度を400℃に設定し流入した。ここでガス流量は15L/minとした。上記硫黄被毒処理は、評価装置を硫黄が通過した量が上記触媒1L当たり5gになるまで行った。
【0045】
【表2】

【0046】
<活性評価>
参考例1〜6に係る排ガス浄化用触媒について、一酸化炭素(CO)に対する活性評価を行った。
具体的には、上記排ガス浄化用触媒を1g秤量して評価装置に設置した。その後、かかる排ガス浄化用触媒を65℃から昇温速度20℃/minで昇温させながら、表3に示す組成のガスをガス流量15L/minの条件で流入させ、出口における一酸化炭素(CO)の濃度を測定した。このときガス投入時のCO濃度のうち、5mol%が浄化により減少したときの温度(CO5%浄化温度(℃))、及び80mol%が浄化により減少したときの温度(CO80%浄化温度(℃))を算出した。
【0047】
【表3】

【0048】
上記活性評価の結果を図7、及び図8に示す。図7より明らかなように、熱耐久後の参考例1〜6に係る排ガス浄化用触媒を比較すると、全体的に、担体にAZT複合酸化物粉末を用いた排ガス浄化用触媒(参考例1〜3)の方が、担体にAl粉末を使用した排ガス浄化用触媒(参考例4〜6)よりも、CO浄化に対する低温活性は良好であることが確認された。また、上記熱耐久後の参考例1〜3の中でも、Pd割合が1である(即ち、貴金属粒子としてPd粒子のみを担持させた)参考例2に係る排ガス浄化用触媒が最も良好なCO浄化に対する低温活性を示した。
また、硫黄被毒処理後の参考例2に係る排ガス浄化用触媒は、硫黄被毒処理前の(即ち、熱耐久後の)参考例2に係る排ガス浄化用触媒と比較して、CO浄化に対する低温活性が低下した。しかしながら、硫黄被毒処理後の参考例2に係る排ガス浄化用触媒は、担体にAlを使用した排ガス浄化用触媒(参考例4〜6)と比較すると、依然として高い低温活性を有することが判る。
即ち、AZT複合酸化物担体にPd粒子を担持させた排ガス浄化用触媒(即ち、第2触媒)は、高いCO浄化に対する低温活性を有することが確認された。また該触媒は低温条件下において、比較的高い耐硫黄被毒性を有することが確認された。
【0049】
一方、図8より明らかなように、高温領域(例えば180℃以上)においては、熱耐久後の参考例1〜6に係る排ガス浄化用触媒を比較すると、CO浄化性能にあまり大きな差は見られなかった。即ち、担体にAl粉末を使用した排ガス浄化用触媒(参考例4〜6)は、担体にAZT複合酸化物粉末を用いた排ガス浄化用触媒(参考例1〜3)と同等に高いCO浄化性能を示した。
また、硫黄被毒処理後の参考例1〜3に係る排ガス浄化用触媒と、硫黄被毒処理前の(即ち、熱耐久後の)参考例1〜3に係る排ガス浄化用触媒を比較すると、硫黄被毒処理後の該触媒は高温域におけるCOの浄化性能が大きく低下することが確認された。即ち、AZT複合酸化物担体にPd粒子、及び又は、Pt粒子を担持させた排ガス浄化用触媒は、高温域(例えば180℃以上)において、硫黄被毒の影響を強く受け、CO浄化性能が低下することが明らかとなった。
以上の結果より、低温領域と高温領域の両領域にわたり、たとえ硫黄に曝された場合にあっても安定したCO浄化性能を発揮させるためには、AZT複合酸化物担体にPd粒子を担持させた触媒(第2触媒)と、Al担体にPt粒子及びPd粒子を担持させた触媒(第1触媒)と、を適当な混合割合で混合させた触媒が有用であることが理解される。
【0050】
<貴金属粒子の担持量>
上記AZT複合酸化物担体にPd粒子を担持させた触媒(第2触媒)について、該Pd粒子の担持量を変化させたときのCO浄化性能を調べた。
具体的には、担体であるAZT複合酸化物を100質量%としたときのPd粒子の担持率を1.5質量%(即ち、参考例2)、3.0質量%(参考例7)、5.0質量%(参考例8)と設定し、上記参考例1〜3に係る製造プロセスと同様に排ガス浄化用触媒を製造した。また、比較のため、担体としてAlを使用し、これにPt粒子とPd粒子を担持させた上記参考例4に係る排ガス浄化用触媒を調製した。
これら合計4種類の排ガス浄化用触媒(参考例2、4、7、8)について、上記熱耐久処理を施し、その後、上記活性評価を行った。結果を図9に示す。
図9より明らかなように、担体にAZT複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒において、Pd粒子の担持量が増加するのに従い、低温域におけるCO浄化性能が低下する傾向があることが確認された。担体にAlを用いた参考例4に係る排ガス浄化用触媒の評価結果と比較すると、AZT複合酸化物担体にPd粒子を担持させた場合(第2触媒)におけるPd粒子担持量は概ね2.5質量%以下である場合に、良好なCO浄化性能を示すことが明らかとなった。
【0051】
また、上記参考例2、7、8に係る排ガス浄化用触媒について、Pd粒子の平均粒径をCOパルス吸着法により測定した。結果を図10に示す。図10より明らかなように、担体にAZT複合酸化物を用いた排ガス浄化用触媒において、Pd粒子の担持量が増加するのに従い、該Pd粒子の平均粒径は増加する傾向があることが確認された。図10より、Pd粒子の担持量が概ね2.5質量%以下である場合、Pd粒子の平均粒径は概ね5nm以下であることが読み取れる。従って、AZT複合酸化物に担持させるPd粒子の平均粒径は5nm以下であると良好なCO浄化性能を示すことが判る。
【0052】
<第1触媒と第2触媒の混合割合>
担体にAlを用いた上記触媒(第1触媒)と、担体にAZT複合酸化物を用いた上記触媒(第2触媒)の適切な混合割合を調べるために、該混合割合を変化させたサンプルを調製し、CO浄化性能を測定した。
具体的には、AZT複合酸化物にPd粒子を担持させた触媒(上記参考例2;第2触媒)、AlにPt粒子及びPd粒子を担持させた触媒(上記参考例4;第1触媒)、及び参考例4に係る排ガス浄化用触媒(第1触媒)と参考例9に係る排ガス浄化用触媒(第2触媒)を質量比で50%ずつ混合した排ガス浄化用触媒(参考例10)を調製した。参考例9、10に係るPt粒子及び/又はPd粒子の担持量は上記表1に示す通りである。上記合計3種類の排ガス浄化用触媒(参考例2、4、10)について上記熱耐久処理を施し、その後、上記活性評価を行った。結果を図11に示す。
図11より明らかなように、第1触媒及び第2触媒を混合して得られた排ガス浄化用触媒では、第1触媒の含有率の変化に対して、CO浄化に対する低温活性、及びCO浄化に対する高温活性は、相反する傾向を示す。ここでCO80%浄化温度(即ち高温活性)に着目すると、第1触媒の含有率が50質量%以上の範囲においては、CO浄化に対する高温活性は高い(即ち、CO80%浄化温度が低い)まま維持されていることが確認される。よって、概ね第1触媒の含有率が30質量%以上99質量%以下であれば、第1触媒及び第2触媒の混合による触媒のCO浄化性能は向上することが期待される。
【0053】
次に、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒について製造し、その性能評価を行った。
【0054】
<排ガス浄化用触媒の製造例>
(実施例1)
まず、下層用の第1触媒に係る貴金属粒子担持粉末を調製した。即ち、担体であるAl粉末(γ−Al)50gに対し、Pt含有量が1.33gである適量のジニトロジアンミン白金硝酸塩溶液と、Pd含有量が0.67gである適量の硝酸パラジウム水溶液と、適量の純水を混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥し、その後500℃で1時間焼成することにより、下層用の第1触媒に係る貴金属粒子担持粉末を調製した。
次に、上記下層用の貴金属粒子担持粉末を用いて、下層用のスラリーを調製した。具体的には、上記下層用の貴金属粒子担持粉末に対し、BEA型ゼオライト(Si/Al比=40)30g、バインダー成分として焼成後のAl量が17.5gとなる硝酸アルミニウム水溶液、及び適量の純水を混合することにより下層用スラリーを調製した。
続いて、上記下層用スラリーを触媒用基材の表面にウォッシュコートした。ここで触媒用基材としては、コージェライト製のハニカム基材(容量2L)を用いた。コートした後、通風で乾燥させた後、500℃で1時間焼成することにより、排ガス浄化用触媒の下層を形成した。
【0055】
上層用の第1触媒に係る貴金属粒子担持粉末を調製した。即ち、担体であるAl粉末(γ−Al)12.5gに対し、Pt含有量が0.58gである適量のジニトロジアンミン白金硝酸塩溶液と、Pd含有量が0.29gである適量の硝酸パラジウム水溶液、及び適量の純水を混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥し、その後500℃で1時間焼成することにより、上層用の第1触媒に係る貴金属粒子担持粉末を調製した。
次に同様の手法により上層用の第2触媒に係る貴金属粒子担持粉末を調製した。即ち担体であるAZT複合酸化物粉末12.5gに対し、Pd含有量が0.13gである適量の硝酸パラジウム水溶液、及び適量の純水を混合し、上記と同様の条件において乾燥、焼成することにより、上層用の第2触媒に係る貴金属粒子担持粉末を調製した。
続いて、上記上層用の第1触媒及び第2触媒に係る貴金属粒子担持粉末を用いて、上層用のスラリーを調製した。具体的には、上記上層用の貴金属粒子担持粉末(第1触媒と第2触媒の混合物)に対し、BEA型ゼオライト(Si/Al比=40)60g、バインダーとして焼成後のAl量が17.5gとなる硝酸アルミニウム水溶液、及び適量の純水を混合することにより上層用スラリーを調製した。
上記上層用スラリーを、上記下層が形成されている基材の表面にウォッシュコートした。コート後、通風で乾燥させた後、500℃で1時間焼成することにより、排ガス浄化用触媒の上層を形成した。
上記の一連のプロセスにより製造された排ガス浄化用触媒を実施例1に係る排ガス浄化用触媒とする。
【0056】
(実施例2、3、及び比較例1、2)
上記実施例1に係る排ガス浄化用触媒の製造プロセスに倣って、実施例2、3及び比較例1、2に係る排ガス浄化用触媒を製造した。上記排ガス浄化用触媒の成分構成比(g/基材−L)、及び各層の層厚さは表4に示す通りである。このとき、それぞれの排ガス浄化用触媒全体に占める貴金属担持量は3g/Lに設定した。
【0057】
【表4】

【0058】
上記実施例1〜3、及び比較例1、2に係る排ガス浄化用触媒全体に含まれる材料組成比(質量%)は表5の通りである。
【0059】
【表5】

【0060】
<実施例、及び比較例に係る排ガス浄化用触媒に対する熱耐久処理>
実施例1〜3、及び比較例1、2に係る排ガス浄化用触媒について、電気炉を用いて、空気中において750℃で37時間にわたって加熱することにより、簡易耐久を施した。
<実施例、及び比較例に係る排ガス浄化用触媒に対する硫黄被毒処理>
上記熱耐久処理を施した排ガス浄化用触媒について、2.2Lディーゼルエンジンベンチにおいて、硫黄成分を350ppm含んだ燃料を用いて硫黄被毒処理を施した。このとき、触媒への入りガス温度は400℃にした。また、硫黄量は排ガス浄化用触媒1個当たり10g通過させた。
【0061】
<浄化性能評価>
上記熱耐久処理後、及びその後の硫黄被毒処理後の実施例、及び比較例に係る排ガス浄化用触媒について、2.2リットルのディーゼルエンジンからの排ガスを用いて、排ガス浄化性能を評価した。ここでは、上記ディーゼルエンジンを用いて、NEDC(New European Driving Cycle)モード(図12参照)を再現した。また、前処理として、5分間触媒床温度を600℃にすることにより粒子状物質(PM)の燃焼による再生処理を行った。
【0062】
上記浄化性能評価の結果を図13に示す。図13より明らかなように、比較例1及び比較例2に係る排ガス浄化用触媒は、熱耐久処理後、硫黄被毒処理されることにより、大幅にCO浄化性能が低下した。一方、実施例1〜3に係る排ガス浄化用触媒については、熱耐久処理後から硫黄被毒処理後にかけてのCO浄化性能の低下は小さくなり、特に、実施例2及び実施例3に係る排ガス浄化用触媒の硫黄被毒処理後のCO浄化性能は良好であった。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン部
2 燃焼室
12 排気管
30 ECU(電子制御ユニット)
40 排ガス浄化部
50 排ガス浄化用触媒
52 ハニカム基材
54 リブ壁(基材)
56 セル
57 下層
58 上層
60 下層担体
62 上層担体
64 Pt粒子
66 Pd粒子
68 炭化水素吸着材
70 第1触媒
72 第2触媒
74 アルミナ(Al
76 AZT複合酸化物
80 パティキュレートフィルタ
100 排ガス浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に配置された下層と、該下層上に配置された上層と、を備える排ガス浄化用触媒であって、
前記上層は、第1触媒、及び第2触媒を備え、
前記下層は、第1触媒を備え、
前記第1触媒は、担体としてAlを有し、該Al上に担持された貴金属としてPt及びPdを有しており、
前記第2触媒は、担体としてAl−ZrO複合酸化物とAl−ZrO−TiO複合酸化物の少なくともいずれかを有し、該Al−ZrO複合酸化物と該Al−ZrO−TiO複合酸化物の少なくともいずれかの上に担持された貴金属としてPdを有しており、
前記上層が炭化水素吸着材を備えている、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記第2触媒において、前記Al−ZrO複合酸化物と前記Al−ZrO−TiO複合酸化物の少なくともいずれかの担体を100質量%としたときの、前記Pdの担持率が2.5質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記上層において、前記第1触媒と前記第2触媒の合計を100質量%としたとき、前記第1触媒の含有率が30質量%以上99質量%以下である、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記下層が、さらに前記第2触媒を備えている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記下層において、前記第1触媒と前記第2触媒の合計を100質量%としたとき、前記第1触媒の含有率が30質量%以上99質量%以下である、請求項4に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記下層が、さらに炭化水素吸着材を備えている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記第2触媒に担持された貴金属の平均粒径が5nm以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記炭化水素吸着材としてゼオライト粒子を備えている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
ディーゼルエンジンの排ガスを浄化するために用いられる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−217934(P2012−217934A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86552(P2011−86552)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】