説明

排気加熱方法

【課題】従来の排気加熱装置は、燃料の燃焼率を常に高く維持することが困難なため、排気温を迅速に昇温させることに関してさらに改善すべき点があった。
【解決手段】排気浄化装置26よりも上流側の排気通路23aに燃料を供給し、この排気通路23aに供給された燃料を加熱して着火させることにより、エンジン10から排気浄化装置26に導かれる排気を加熱する本発明の方法は、燃料を第1の供給割合にて排気通路23aに供給するステップS20と、排気通路23aに供給された燃料の着火状態を判定するステップS22と、燃料の着火状態を判定するステップS22での判定結果に基づき、燃料を第1の供給割合よりも多い第2の供給割合にて排気通路23aに供給するステップS24とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置が設けられた内燃機関において、排気浄化装置を活性化および活性状態の維持のために排気の温度を高める排気加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関に対する厳しい排気規制に対処するため、内燃機関の始動時に排気浄化装置の活性化を促進させたり、内燃機関の運転中にその活性状態を維持したりすることが必要となっている。このため、排気浄化装置よりも上流側の排気通路に排気加熱装置を組み込んだ内燃機関が特許文献1などで提案されている。この排気加熱装置は、排気中に加熱ガスを生成し、この生成された加熱ガスを下流側の排気浄化装置に供給することにより、排気浄化装置の活性化を促進させたり、活性状態を維持するものである。このため、排気加熱装置は、燃料を排気通路に供給する燃料添加弁と、この燃料を加熱して着火させることにより、加熱ガスを生成させるグロープラグなどの着火装置とを一般的に有する。また、この特許文献1に開示された従来の排気加熱装置においては、燃料添加弁から排気通路に供給される燃料の拡散および霧化を推進させるための衝突板が燃料添加弁に対向するように排気通路に配されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−84710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気加熱装置は、その使用目的から排気を迅速に昇温できるものであることが好ましい。この点において、特許文献1に記載された排気加熱装置は、燃料添加弁から排気通路に供給された燃料の着火性能や燃料の燃焼安定性が比較的良好ではあるものの、その使用条件が高酸素かつ低排気流速の場合に限定される。また、燃料添加弁からパルス状に供給される燃料の1回あたりの供給量と、その供給周期とによっては、燃焼率が著しく低くなることが判明している。例えば、1回あたりの燃料の供給量が多く、かつその供給周期が長い場合には、燃料の着火遅れが発生して燃料の大部分が未燃状態となる。より具体的には、排気温が100℃の場合には燃焼率が20%程度しか得られない場合がある。
【0005】
本発明の目的は、燃料添加弁から排気通路に添加される燃料の燃焼率を常に高く維持し得るようにした排気加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、排気浄化装置よりも上流側の排気通路に燃料を供給し、この排気通路に供給された燃料を加熱して着火させることにより、内燃機関から排気浄化装置に導かれる排気を加熱する方法であって、燃料を第1の供給割合にて排気通路に供給するステップと、排気通路に供給された燃料の着火状態を判定するステップと、燃料の着火状態を判定する前記ステップでの判定結果に基づき、燃料を第1の供給割合よりも多い第2の供給割合にて排気通路に供給するステップとを具える。
【0007】
本発明による排気加熱方法において、燃料を排気通路に供給する前記ステップは、空燃比および吸入空気量の少なくとも一方を求めるステップを含み、求めた空燃比および吸入空気量の少なくとも一方に基づいて燃料の供給割合が設定されるものであってよい。
【0008】
燃料の着火状態を判定する前記ステップが燃料を第1の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップの開始からの経過時間を積算するステップを含み、この積算経過時間があらかじめ設定した時間を越えた場合、燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップが実行されるものであってよい。
【0009】
あるいは、燃料の着火状態を判定する前記ステップが排気浄化装置に流入する排気温を検出するステップを含み、この排気温があらかじめ設定した温度を越えた場合、燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップが実行されるものであってよい。
【0010】
あるいは、燃料の着火状態を判定する前記ステップが第1の供給割合にて排気通路に供給された燃料の積算供給量を算出するステップを含み、この積算供給量があらかじめ設定した量を越えた場合、燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップが実行されるものであってよい。
【0011】
内燃機関の燃焼室への燃料の供給の有無を判定するステップをさらに具え、このステップでの判定結果に基づき、燃料を排気通路に供給する前記ステップが実行されるものであってよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排気加熱方法によると、燃料を第1の供給割合にて排気通路に供給し、燃料の着火状態に基づき、燃料を第1の供給割合よりも多い第2の供給割合にて排気通路に供給するようにしたので、従来のものよりも燃焼率を改善することができる。しかも、排気温を従来のものよりも迅速に昇温させることが可能である。
【0013】
燃料を排気通路に供給するステップが空燃比および吸入空気量の少なくとも一方を求めるステップを含む場合、求めた空燃比および吸入空気量の少なくとも一方に基づいて燃料の供給割合を最適に設定することができる。
【0014】
燃料の着火状態を判定するステップが第1の供給割合にて排気通路に対する燃料の供給開始からの経過時間を積算するステップを含む場合、この積算経過時間があらかじめ設定した時間を越えた時点で燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給することができる。これにより、排気温をより迅速に昇温させることができる。
【0015】
燃料の着火状態を判定するステップが排気浄化装置に流入する排気温を検出するステップを含む場合、この排気温があらかじめ設定した温度を越えた時点で燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給することができる。これにより、排気温をより迅速に昇温させることが可能である。
【0016】
燃料の着火状態を判定するステップが第1の供給割合にて排気通路に供給された燃料の積算供給量を算出するステップを含む場合、この積算供給量があらかじめ設定した量を越えた時点で燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給することができる。これにより、排気温をより迅速に昇温させることが可能である。
【0017】
内燃機関の燃焼室への燃料の供給の有無を判定するステップをさらに具えることができ、このステップでの判定結果に基づいて燃料を排気通路に供給するステップを実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を圧縮点火方式の多気筒内燃機関に搭載された車両に応用した一実施形態におけるエンジンシステムの概念図である。
【図2】図1に示した実施形態における主要部の制御ブロック図である。
【図3】吸入空気量と燃料添加量との関係を模式的に表すグラフである。
【図4】空燃比と燃料添加量との関係を模式的に表すグラフである。
【図5】燃料添加周期とその燃料の燃焼率との関係を模式的に表すグラフである。
【図6】燃料の添加開始から初期火炎が形成されるまでの時間と燃料の添加量との関係を模式的に表すグラフである。
【図7】本実施形態における燃料添加手順を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による排気加熱方法を圧縮点火方式の多気筒内燃機関に応用した実施形態について、図1〜図7を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態のみに限らず、要求される特性に応じてその構成を自由に変更することが可能である。例えば、ガソリンやアルコールまたはLNG(液化天然ガス)などを燃料としてこれを点火プラグにて着火させる火花点火式内燃機関に対しても本発明は有効である。
【0020】
本実施形態におけるエンジンシステムの主要部を模式的に図1に示し、その主要部の制御ブロックを概略的に図2に示す。なお、図1にはエンジン10の吸排気のための動弁機構や消音器の他に、このエンジン10の補機として一般的な排気ターボ式過給機やEGR装置なども省略されている。また、エンジン10の円滑な運転のために必要とされる各種センサー類もその一部が便宜的に省略されていることに注意されたい。
【0021】
本実施形態におけるエンジン10は、燃料である軽油を燃料噴射弁11から圧縮状態にある燃焼室10a内に直接噴射することにより、自然着火させる圧縮点火式の多気筒内燃機関である。しかしながら、本発明の特性上、単気筒の内燃機関であってもかまわない。
【0022】
燃焼室10aにそれぞれ臨む吸気ポート12aおよび排気ポート12bが形成されたシリンダーヘッド12には、吸気ポート12aを開閉する吸気弁13aおよび排気ポート12bを開閉する排気弁13bを含む図示しない動弁機構が組み込まれている。燃焼室10aの上端中央に臨む先の燃料噴射弁11もまた、これら吸気弁13aおよび排気弁13bに挟まれるようにシリンダーヘッド12に組み付けられている。燃料噴射弁11から燃焼室10a内に供給される燃料の量および噴射時期は、運転者によるアクセルペダル14の踏み込み量を含む車両の運転状態に基づいてECU(Electronic Control Unit)15により制御される。アクセルペダル14の踏み込み量は、アクセル開度センサー16により検出され、その検出情報がECU15に出力される。
【0023】
ECU15は、このアクセル開度センサー16や後述する各種センサー類などからの情報に基づき、車両の運転状態を判定する運転状態判定部15aと、燃料噴射設定部15bと、燃料噴射弁駆動部15cとを有する。燃料噴射設定部15bは、運転状態判定部15aでの判定結果に基づいて燃料噴射弁11からの燃料の噴射量や噴射時期を設定する。燃料噴射弁駆動部15cは、燃料噴射設定部15bにて設定された量の燃料が設定された時期に燃料噴射弁11から噴射されるように、燃料噴射弁11の作動を制御する。
【0024】
吸気ポート12aに連通するようにシリンダーヘッド12に連結されて吸気ポート12aと共に吸気通路17aを画成する吸気管17の途中には、サージタンク18が形成されている。このサージタンク18よりも上流側の吸気管17には、スロットルアクチュエーター19を介して吸気通路17aの開度を調整するためのスロットル弁20が組み込まれている。また、スロットル弁20よりも上流側の吸気管17には、吸気通路17aを流れる吸気の流量を検出してこれをECU15に出力するエアーフローメーター21が取り付けられている。なお、このエアーフローメーター21に代えて同じ構成の排気流量センサーを後述する排気加熱装置22とシリンダーヘッド12の排気ポート12bとの間に位置する排気管23の部分に取り付けるようにしてもよい。
【0025】
先のECU15は、スロットル開度設定部15dと、スロットル弁駆動部15eとをさらに有する。スロットル開度設定部15dは、アクセルペダル14の踏み込み量に加え、先の運転状態判定部15aでの判定結果に基づいてスロットル弁20の開度を設定する。スロットル弁駆動部15eは、スロットル弁20がスロットル開度設定部15dにて設定された開度となるように、スロットルアクチュエーター19の作動を制御する。
【0026】
ピストン24aが往復動するシリンダーブロック24には、連接棒24bを介してピストン24aが連結されるクランク軸24cの回転位相、つまりクランク角を検出してこれをECU15に出力するクランク角センサー25が取り付けられている。ECU15の運転状態判定部15aは、このクランク角センサー25からの情報に基づき、クランク軸24cの回転位相やエンジン回転数の他に車両の走行速度などを実時間で把握する。
【0027】
排気ポート12bに連通するようにシリンダーヘッド12に連結される排気管23は、排気ポート12bと共に排気通路23aを画成する。下流端側に取り付けられた図示しない消音器よりも上流側の排気管23の途中には、燃焼室10a内での混合気の燃焼により生成する有害物質を無害化するための排気浄化装置26が取り付けられている。本実施形態における排気浄化装置26は、少なくとも酸化触媒26aを含むが、この他にDPF(Diesel Particulate Filter)やNOX吸蔵触媒などを組み込むことも可能である。酸化触媒26aは、主として排気に含まれる未燃ガスを酸化、つまり燃焼させるためのものである。この酸化触媒26aの出口側の排気通路23aには、酸化触媒26aを出た排気の温度(以下、これを触媒温度と記述する)TOを検出してこれをECU15に出力する触媒温度センサー27が組み込まれている。ECU15の運転状態判定部15aは、この触媒温度センサー27からの情報に基づき、酸化触媒26aが活性状態にあるか否かも把握する。
【0028】
この排気浄化装置26よりも上流側の排気管23の途中には、加熱ガスを生成してこれを下流側に配された排気浄化装置26に供給し、その活性化および活性状態を維持するための排気加熱装置22が配されている。本実施形態における排気加熱装置22は、燃料添加弁28と、グロープラグ29と、酸化触媒(排気浄化装置26の酸化触媒26aと区別するため、以下、便宜的に補助酸化触媒と記述する)30とを具えている。この他、燃料供給弁26から供給される燃料を受けてその霧化およびグロープラグ29側への飛散を促進させるための特許文献1に開示されたような衝突板を配することも有効である。
【0029】
燃料添加弁28は、基本的な構成が通常の燃料噴射弁11と同じものであり、通電時間を制御することによって、任意の量の燃料を任意の時間間隔で排気通路23aにパルス状に供給することができるようになっている。
【0030】
燃料添加弁28から排気通路23aに供給される1回あたりの燃料の量は、エアーフローメーター21によって検出される吸入空気量および空燃比を含む車両の運転状態に基づき、ECU15の燃料添加設定部15fにより設定される。このため、燃料添加設定部15fには図3,図4に示すようなマップが記憶されており、これらのマップに基づいて1回あたりの燃料の添加量が設定される。燃料添加設定部15fはまた、目標とすべき触媒温度TLと触媒温度センサー27によって検出される現在の触媒温度TOとの差に基づき、燃料添加量FTも併せて算出する。目標とすべき触媒温度TLは、酸化触媒26aが活性状態となる最低温度(以下、これを触媒活性最低温度と記述する)が一般的に選択される。
【0031】
なお、本実施形態では空燃比を吸入空気量と燃料添加弁28からの燃料の添加量とによってECU15の運転状態判定部15aにて算出するようにしている。しかしながら、空燃比センサーを排気通路23aの途中に組み込み、この空燃比センサーからの検出信号から読み出すようにしてもよい。
【0032】
ECU15の燃料添加弁駆動部15gは、燃料添加設定部15fにて設定された量の燃料が設定された周期で燃料添加弁28から噴射されるように、燃料添加弁28の作動を制御する。この場合、燃料添加弁28の作動は、燃料添加を開始してから積算される燃料添加量FNが燃料添加設定部15fにて設定された燃料添加量FTに達するまで、基本的に行われる。
【0033】
燃料添加の開始直後は、排気通路23aを流れる排気の温度が低下しているため、1回あたりの添加量、すなわち単位時間あたりの燃料添加量の平均値を少なくし、グロープラグ29によって確実に燃料を着火できるようにすることが好ましい。しかしながら、1回あたりの燃料添加量を少なくしたままでは、排気温の迅速な昇温を損なうこととなる。一方、燃料の着火が安定して排気温が上昇して来ると、1回あたりの燃料添加量を多くしても、燃料の着火性が損なわれず、排気温の迅速な昇温が可能となる。従って、燃料添加の開始直後は、単位時間あたりの燃料添加量の平均値を少なく設定して燃料を確実に着火させるようにし、燃料の着火が安定して排気温がある程度上昇した時点で、単位時間あたりの燃料添加量の平均値を多くすることが有効である。
【0034】
ここで、燃料添加弁28から排気通路23aへの単位時間あたりの燃料添加量の平均値を一定に保持しつつ、燃料の添加周期を変更した場合における添加燃料の燃焼率の変化を模式的に図5に示す。この図5から明らかなように、燃料の添加周期を長くするほど燃焼率が低下し、図5においては添加周期が60ミリ秒以上になると燃焼率がほぼ25%で一定となる。逆に、燃料の添加周期が50ミリ秒よりも短い場合、その添加周期が短くなるに従って燃焼率が急激に向上する傾向を持つ。従って、燃料添加弁28から排気通路23aに供給される燃料の燃焼率を向上させるためには、燃料の添加周期を短くするほど好ましいことが理解されよう。しかしながら、排気浄化装置26における酸化触媒26aの安定した動作を確保するためには、排気通路23aを流れる排気の空燃比をほぼ一定に保つ必要性がある。従って、燃料の添加周期を短くした場合には、1回あたりの燃料の添加量を逆に少なくしなければならない。つまり、排気通路23aを流れる排気の空燃比を考慮しつつ、1回あたりの燃料の添加量に基づいて燃料の添加周期を適切に設定する必要がある。
【0035】
一方、燃料の添加開始から初期火炎が形成されるまでの時間と、燃料の添加量との関係を図6に示すが、図中の一点鎖線は燃料の添加完了時期を表している。この図6から明らかなように、燃料添加量と初期火炎の形成時間とは比例関係にあり、燃料の添加を終えてからほぼ一定時間後に初期火炎が形成され、この初期火炎の形成後に次の燃料を添加することが好ましいと言える。
【0036】
このような観点に基づき、本実施形態における燃料添加設定部15fは、上述したように1回あたりの燃料添加量を図3,図4から求め、これに対応する図6に示す初期火炎形成時期から、上述したような空燃比を考慮に入れた添加周期を算出する。第2の供給割合は、第1の供給割合よりも大きい傾向を持つ。
【0037】
なお、本実施形態において第1の供給割合である燃料添加弁28からの初発の燃料添加量は、燃料添加弁28と補助酸化触媒30との間の着火空間の等量比となる程度に設定され、初期火炎の形成を主目的とする。本実施形態において第2の供給割合である2発目の燃料添加は、初発の燃料添加での初期火炎が形成され、これが燃え広がった頃に実行される。これは実験などであらかじめ設定しておくことができる。一例として、内径が60mmの排気管23にて排気温が100℃かつ排気流速が毎秒3m程度の場合、初発燃料添加量を15mm3,2発目の燃料添加開始を初発の燃料添加を完了してから25ミリ秒後程度に設定することが好ましい。
【0038】
2発目以降の燃料噴射に関しては添加周期を優先した制御とし、燃料添加中における燃料の供給割合は、1回あたりの燃料添加量を変更することによって調整する。この場合、排気系における排気脈動に留意し、前回の燃料添加による火炎滞留が燃料添加弁28の噴霧範囲にあるような時間内にて設定する。一例として内径が60mmの排気管23にて排気温が100℃かつ排気流速が毎秒3m程度の場合、添加周期を30ミリ秒以下に設定することが好ましい。
【0039】
このように、初発での燃料添加による排気管23の内壁への燃料の付着を最小限に抑え、2発目以降の燃料の着火を安定化させて補助酸化触媒30よりも上流側での排気通路23aでの燃料の燃焼率を高めることが有効である。これにより、補助酸化触媒30による燃料の消炎を防ぐことができる。また、補助酸化触媒30よりも下流側の排気通路23aでの燃料の燃焼も安定化し、排気浄化装置26における酸化触媒26aの活性状態を安定的に維持することが可能となる。なお、第1の供給割合を初発に限定することなく、着火状態が安定するまで2発目以降も第1の供給割合に設定することも可能であることに注意されたい。
【0040】
第1の供給割合での燃料の供給を第2の供給割合に切り換えるタイミングは、図6に示す初期着火時期、つまり初期火炎の形成時期に基づいて行われる。本実施形態では、燃料を第1の供給割合にて排気通路23aに供給してからの経過時間を積算し、この積算経過時間があらかじめ設定した時間を越えた場合に燃料を第2の供給割合にて排気通路23aに供給するようにしている。
【0041】
しかしながら、排気浄化装置26に流入する排気温を検出し、この排気温があらかじめ設定した温度を越えた場合に燃料を第2の供給割合にて排気通路23aに供給するようにしてもよい。あるいは、第1の供給割合にて排気通路23aに供給された燃料の積算供給量を算出し、この積算供給量があらかじめ設定した量を越えた場合に燃料を第2の供給割合にて排気通路23aに供給することも可能である。
【0042】
本発明における着火手段としてのグロープラグ29は、車載の図示しない電源にオン/オフスイッチとしてのECU15のグロープラグ駆動部15hを介して接続している。従って、グロープラグ29に対する通電および非通電の切り替えは、予め設定されたプログラムに従ってECU15のグロープラグ駆動部15hにより制御される。
【0043】
補助酸化触媒30は、燃料供給弁25による燃料の供給位置よりも下流側かつ排気浄化装置26よりも上流側の排気通路23aに配されている。この補助酸化触媒30は、排気通路23aの断面積よりも小さな断面積を有し、従って排気の一部がこの補助酸化触媒30を通らずに通過することを可能にする。つまり、補助酸化触媒30を通る排気の流速は、ここを通らない排気の流速よりも低速となり、補助酸化触媒30を通る排気をさらに昇温させることが可能となる。補助酸化触媒30が充分に高温、つまり活性化した状態では、グロープラグ29に対する通電を遮断し、補助酸化触媒30内で混合気を直接燃焼させることも可能である。しかしながら、エンジン10の冷態始動時など、補助酸化触媒30が活性化していない場合には、グロープラグ29に対して通電を行うことが必要である。なお、補助酸化触媒30が高温になると、未燃混合気中の炭素数の多い炭化水素が分解し、炭素数の少ない反応性の高い炭化水素に改質される。換言すれば、この補助酸化触媒30は、一方ではそれ自体が急速に発熱する急速発熱体として機能し、他方では改質された燃料を生成させる燃料改質触媒としても機能する。
【0044】
本実施形態においては、エンジン10がモータリング状態、すなわちエンジン10の運転中にアクセルペダル14の開度が0となり、燃料噴射弁11から燃料が噴射されない燃料カット状態になった場合、上述した燃料添加弁28からの燃料の添加処理が実行される。
【0045】
従って、吸気通路17aから燃焼室10a内に供給される吸気は、燃料噴射弁11から燃焼室10a内に噴射される燃料と混合気を形成する。そして、ピストン24aの圧縮上死点近傍にて自然着火して燃焼し、これによって生成する排気が排気浄化装置26を通って排気管23から大気中に排出される。エンジン10が燃料カット状態になると、燃料添加弁28から燃料が排気通路23aに供給され、これによって排気通路23aを流れる排気の昇温を図り、排気浄化装置26の酸化触媒26aの活性状態を維持する。
【0046】
このような本実施形態における燃料の添加手順について図7を参照しながら説明する。すなわち、まずS11のステップにてエンジン10の運転中にアクセルペダル14の開度が0となって、燃料噴射弁11から燃料が噴射されない燃料カット状態であるか否かを判定する。ここで燃料カット状態である、すなわち排気浄化装置26の温度が低下して酸化触媒26aが不活性状態となる可能性があると判断した場合には、S12のステップに移行する。そして、酸化触媒26aを通過した触媒温度TOが触媒活性最低温度TLよりも低いか否かを判定する。このS12のステップにて触媒温度TOが触媒活性最低温度TL未満である、すなわち燃料添加弁28から排気通路23aに燃料を添加して酸化触媒26aを活性化させる必要があると判断した場合には、S13のステップに移行して燃料添加量FTを算出する。次いでS14のステップにて第1フラグがセットされているか否かを判定するが、最初は第1フラグがセットされていないので、S15のステップに移行し、 グロープラグ29に対する通電を開始する。次に、S16のステップにてタイマーのカウントアップを開始し、さらにS17のステップにて第1フラグをセットした後、S18のステップに移行してタイマーのカウント値CNがあらかじめ設定した第1の閾値CA以上か否かを判定する。最初は、タイマーのカウント値CNは第1の閾値CAよりも小さいので何もせずに戻り、S11以降のステップを繰り返す。
【0047】
先のS15のステップにてグロープラグ29に対する通電を開始した後は、第1フラグがセットされるので、S11〜S14のステップが続いた場合、S14のステップからはS19のステップに移行し、ここで第2フラグがセットされているか否かを判定する。最初は第2フラグがセットされていないので、S18のステップに移行する。このようにして、S18のステップにてタイマーのカウント値CNが第1の閾値CA以上となるまで、通常はS11〜S19のステップが繰り返される。
【0048】
S18のステップにてタイマーのカウント値CNが第1の閾値CA以上である、すなわちグロープラグ29による燃料の着火が可能と判断した場合には、S20のステップに移行して燃料添加弁28から第1周期にて排気通路23aへの燃料の添加を開始する。次に、S21のステップにて第2フラグをセットした後、S22のステップに移行してタイマーのカウント値CNがあらかじめ設定した第2の閾値CB以上か否かを判定する。この時点では、タイマーのカウント値CNは第2の閾値CBよりも小さいので何もせずに戻り、S11以降のステップを繰り返す。
【0049】
S20のステップにて燃料の添加を開始した後は、第2フラグがセットされるので、S11〜S14,S19の処理が続いた場合、S19のステップからはS23のステップに移行し、ここで第3フラグがセットされているか否かを判定する。最初は第3フラグがセットされていないので、S22のステップに移行する。このようにして、S22のステップにてタイマーのカウント値CNが第2の閾値CB以上となるまで、通常はS11〜S23のステップが繰り返される。
【0050】
S22のステップにてタイマーのカウント値CNが第2の閾値CB以上である、すなわち燃料の増量添加が可能と判断した場合には、S24のステップに移行して燃料添加弁28から第2周期にて排気通路23aへの燃料の添加を行う。次に、S25のステップにて第3フラグをセットした後、S26のステップに移行して燃料添加積算量FNがS13のステップにて算出された燃料添加量FTに達したか否かを判定する。最初は燃料添加積算量FNが燃料添加量FTに達していないのが一般的であるので 何もせずに戻り、S11以降のステップを繰り返す。
【0051】
なお、S22のステップにてタイマーのカウント値CNが第2の閾値CB以上であると判断した場合、酸化触媒26aに流入する排気の空燃比が所定値以上かつその酸素濃度が所定値未満の場合にのみ、S24以降のステップを実行することがより好ましい。すなわち、排気浄化装置26の酸化触媒26aに流入する排気の空燃比が所定値未満の場合、第2周期にて燃料を添加した瞬間に空燃比がリッチとなってしまい、排気の昇温性が低下すると共にスモークの増大など、排気の性状が悪化してしまう。また、排気浄化装置26の酸化触媒26aに流入する排気の酸素濃度が所定値以上の場合、第2周期にて燃料を添加すると、燃焼が激しく進行して排気温が過剰に昇温してしまう可能性がある。従って、排気浄化装置26の酸化触媒26aに流入する排気の空燃比が所定値未満かつ酸素濃度が所定値以上の場合には、S22のステップからS24,S25のステップを介さずにS26のステップに移行させ、第1周期での燃料添加を継続することが好ましい。酸素濃度は、吸入空気量と燃料添加弁28からの燃料の添加量とによってECU15の運転状態判定部15aにて算出することも可能であるが、O2センサーを排気管23に組み込むことによって、より正確に検出することができる。
【0052】
S24のステップにて第2周期での燃料の添加を開始した後は、第3フラグがセットされるので、S11〜S14,S19,S23の処理が続いた場合、S23のステップからはS26のステップに移行する。そして、燃料添加積算量FNが燃料添加量FTに達するまで、通常はS11〜S26のステップが繰り返される。
【0053】
このようにして、S26のステップにて燃料添加積算量FNが燃料添加量FT以上である、すなわち酸化触媒26aが活性状態にあると判断した場合には、S27のステップに移行する。そして、グロープラグ29に対する通電を止め、タイマーのカウント値CNを0にリセットし、さらに燃料添加弁28から排気通路23aへの燃料の添加を停止すると共に第1〜第3フラグをリセットして再びS11のステップに戻る。
【0054】
一方、S11のステップにてエンジン10が燃料カット状態ではない、すなわちエンジン10の燃焼室10aからの高温の排気によって酸化触媒26aが活性状態に保たれると判断した場合には、S28のステップに移行する。このS28のステップでは、第2フラグがセットされているか否かを判定する。同様に、S12のステップにて触媒温度TOが触媒活性最低温度TL以上である、すなわち燃料添加弁28から排気通路23aに燃料を添加する必要がないと判断した場合にもS28のステップに移行する。そして、このS28のステップにて第2フラグがセットされていないと判断した場合には、S29のステップに移行して第1フラグがセットされているか否かを判定する。ここで第1フラグがセットされていないと判断した場合には、何もせずに戻ってS11以降のステップを繰り返す。
【0055】
S29のステップにて第1フラグがセットされていると判断した場合には、S30のステップに移行してグロープラグ29に対する通電を停止し、さらにタイマーのカウント値CNを0にリセットする。しかる後、S31のステップに移行して第1フラグをリセットし、S11のステップに戻る。
【0056】
また、S28のステップにて第2フラグがセットされていると判断した場合には、S32のステップに移行してグロープラグ29に対する通電を止め、タイマーのカウント値CNを0にリセットする。さらに、燃料添加弁28から排気通路23aへの燃料の添加を停止した後、S33のステップに移行して第3フラグがセットされているか否かを判定する。ここで第3フラグがセットされていないと判断した場合にはS34のステップに移行して第1フラグおよび第2フラグをリセットした後、S11のステップに戻る。逆に、S33のステップにて第3フラグがセットされていると判断した場合には、S35のステップに移行して第1〜第3フラグをリセットした後、S11のステップに戻る。
【0057】
このように、燃料添加弁28による燃料の添加中であっても、S11のステップにて燃料カット状態が解除されたり、S12のステップにて触媒温度TOが何らかの原因で触媒活性最低温度TL以上になった場合には、燃料添加弁28からの燃料の添加を中止する。これにより、燃料の無駄な添加処理を確実に防止することができる。
【0058】
なお、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。
【符号の説明】
【0059】
10 エンジン
10a 燃焼室
11 燃料噴射弁
12 シリンダーヘッド
12a 吸気ポート
12b 排気ポート
13a 吸気弁
13b 排気弁
14 アクセルペダル
15 ECU
15a 運転状態判定部
15b 燃料噴射設定部
15c 燃料噴射弁駆動部
15d スロットル開度設定部
15e スロットル弁駆動部
15f 燃料添加設定部
15g 燃料添加弁駆動部
15h グロープラグ駆動部
16 アクセル開度センサー
17 吸気管
17a 吸気通路
18 サージタンク
19 スロットルアクチュエーター
20 スロットル弁
21 エアーフローメーター
22 排気加熱装置
23 排気管
23a 排気通路
24 シリンダーブロック
24a ピストン
24b 連接棒
24c クランク軸
25 クランク角センサー
26 排気浄化装置
26a 酸化触媒
27 触媒温度センサー
28 燃料添加弁
29 グロープラグ
30 補助酸化触媒
O 触媒温度
L 触媒活性最低温度
T 燃料添加量
N 積算燃料添加量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気浄化装置よりも上流側の排気通路に燃料を供給し、この排気通路に供給された燃料を加熱して着火させることにより、内燃機関から排気浄化装置に導かれる排気を加熱する方法であって、
燃料を第1の供給割合にて排気通路に供給するステップと、
排気通路に供給された燃料の着火状態を判定するステップと、
燃料の着火状態を判定する前記ステップでの判定結果に基づき、燃料を第1の供給割合よりも多い第2の供給割合にて排気通路に供給するステップと
を具えたことを特徴とする排気加熱方法。
【請求項2】
燃料を排気通路に供給する前記ステップは、空燃比および吸入空気量の少なくとも一方を求めるステップを含み、求めた空燃比および吸入空気量の少なくとも一方に基づいて燃料の供給割合が設定されることを特徴とする請求項1に記載の排気加熱方法。
【請求項3】
燃料の着火状態を判定する前記ステップは、燃料を第1の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップの開始からの経過時間を積算するステップを含み、この積算経過時間があらかじめ設定した時間を越えた場合に燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップが実行されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排気加熱方法。
【請求項4】
燃料の着火状態を判定する前記ステップは、排気浄化装置に流入する排気温を検出するステップを含み、この排気温があらかじめ設定した温度を越えた場合に燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップが実行されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排気加熱方法。
【請求項5】
燃料の着火状態を判定する前記ステップは、第1の供給割合にて排気通路に供給された燃料の積算供給量を算出するステップを含み、この積算供給量があらかじめ設定した量を越えた場合に燃料を第2の供給割合にて排気通路に供給する前記ステップが実行されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排気加熱方法。
【請求項6】
内燃機関の燃焼室への燃料の供給の有無を判定するステップをさらに具え、このステップでの判定結果に基づき、燃料を排気通路に供給する前記ステップが実行されることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の排気加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72381(P2013−72381A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212676(P2011−212676)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】