説明

排気浄化装置

【課題】高硫黄燃料を使用してもパティキュレートフィルタの強制再生を支障なく行い得るようにした排気浄化装置を提供する。
【解決手段】排気ガス5中のSO2ガスを水と化合させてサルフェートの状態で吸着し且つその吸着したサルフェートを所定の脱離温度以上となった時に再びSO2ガスとして脱離する脱硫触媒9をパティキュレートフィルタ1の前段に設けると共に、排気ガス5を酸化触媒2を経由させて脱硫触媒9へ導く再生流路10と、排気ガス5を酸化触媒2を迂回させて脱硫触媒9へ直接導く通常流路11とを設け、通常時は通常流路11を選択して排気ガス5を流し且つパティキュレートフィルタ1の強制再生時にのみ排気ガス5の流れを通常流路11から再生流路10に切り換えるバタフライ弁12を流路切換手段として設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるパティキュレート(Particulate Matter:粒子状物質)は、炭素質から成る煤分と、高沸点炭化水素成分から成るSOF分(Soluble Organic Fraction:可溶性有機成分)とを主成分とし、更に微量のサルフェート(ミスト状硫酸成分)を含んだ組成を成すものであるが、この種のパティキュレートの低減対策としては、排気ガスが流通する排気管の途中に、パティキュレートフィルタを装備することが従来より行われている。
【0003】
前記パティキュレートフィルタは、コージェライト等のセラミックから成る多孔質のハニカム構造となっており、格子状に区画された各流路の入口が交互に目封じされ、入口が目封じされていない流路については、その出口が目封じされるようになっており、各流路を区画する多孔質薄壁を透過した排気ガスのみが下流側へ排出されるようにしてある。
【0004】
そして、排気ガス中のパティキュレートは、前記多孔質薄壁の内側表面に捕集されて堆積するので、目詰まりにより排気抵抗が増加しないうちにパティキュレートを適宜に燃焼除去してパティキュレートフィルタの再生を図る必要があるが、通常のディーゼルエンジンの運転状態においては、パティキュレートが自己燃焼するほどの高い排気温度が得られる機会が少ない為、酸化触媒を一体的に担持させた触媒再生型のパティキュレートフィルタの採用が検討されている。
【0005】
即ち、このような触媒再生型のパティキュレートフィルタを採用すれば、捕集されたパティキュレートの酸化反応が促進されて着火温度が低下し、従来より低い排気温度でもパティキュレートを燃焼除去することが可能となる。
【0006】
ただし、斯かる触媒再生型のパティキュレートフィルタを採用した場合であっても、排気温度の低い運転領域では、パティキュレートの処理量よりも捕集量が上まわってしまうので、このような低い排気温度での運転状態が続くと、パティキュレートフィルタの再生が良好に進まずに該パティキュレートフィルタが過捕集状態に陥る虞れがある。
【0007】
そこで、パティキュレートフィルタの前段に、フロースルー型の酸化触媒を別途配置し、パティキュレートの堆積量が増加してきた段階で前記酸化触媒より上流側の排気ガス中に燃料を添加してパティキュレートフィルタの強制再生を行うことが考えられている。
【0008】
つまり、パティキュレートフィルタより上流側で添加された燃料から生じたHCガスが前段の酸化触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により直後のパティキュレートフィルタの触媒床温度が上げられてパティキュレートが燃やし尽くされ、パティキュレートフィルタの再生化が図られることになる。
【0009】
この種の燃料添加を実行するための具体的手段としては、圧縮上死点付近で行われる燃料のメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を追加することで排気ガス中に燃料を添加すれば良い。
【0010】
図2に示す如く、このようなパティキュレートフィルタ1を前段の酸化触媒2と一緒に排気管3の途中に装備するにあたっては、該排気管3の途中に介装したケーシング4内に、前段の酸化触媒2とパティキュレートフィルタ1とを直列に配置して収容せしめるようにしている。
【0011】
また、図2中における符号の5は排気ガス、6は前記ケーシング4の入側に排気ガス5を導入する入口パイプ、7は前記ケーシング4の出側から排気ガス5を排出するテールパイプ、8は前記ケーシング4の保温を図るための断熱材を示している。
【0012】
尚、このような前段の酸化触媒2とパティキュレートフィルタ1との配置状態について技術開示した先行技術文献情報としては、例えば、本発明と同じ出願人による下記の特許文献1等がある。
【特許文献1】特開2004−225657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、ディーゼルエンジンの排気ガス5中には、燃料(軽油)中の硫黄分に起因するSO2ガスが存在するため、排気ガス5の温度が約200〜300℃以上となった時に、前段の酸化触媒2にて次式
[化1]
2SO2+O2+2H2O→2H2SO4
によりサルフェート(ミスト状硫酸成分)が生成されて酸化触媒2上に溜まってしまう。
【0014】
この種の酸化触媒2上に溜まるサルフェートは、約630℃以上の高温下で再びSO2ガスとなって酸化触媒2から脱離してしまうものであるが、特に高硫黄燃料を使用した場合には、サルフェートの生成量が多すぎて短期間のうちに酸化触媒2の表面全てが覆われるコーキングを招いてしまうので、酸化触媒2上でHCガスの酸化反応を促す機能が発揮できなくなってパティキュレートフィルタ1の強制再生が行えなくなる虞れがあった。
【0015】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、高硫黄燃料を使用してもパティキュレートフィルタの強制再生を支障なく行い得るようにした排気浄化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、パティキュレートフィルタより上流側に酸化触媒を備え、該酸化触媒の上流側で排気ガス中に燃料添加を行い、その添加燃料から生じたHCガスが酸化触媒上で酸化反応した時の反応熱により捕集済みパティキュレートを燃焼させてパティキュレートフィルタを強制再生する排気浄化装置であって、排気ガス中のSO2ガスを水と化合させてサルフェートの状態で吸着し且つその吸着したサルフェートを所定の脱離温度以上となった時に再びSO2ガスとして脱離する脱硫触媒を前記パティキュレートフィルタの前段に設けると共に、排気ガスを酸化触媒を経由させて脱硫触媒へ導く再生流路と、排気ガスを酸化触媒を迂回させて脱硫触媒へ直接導く通常流路とを設け、通常時は通常流路を選択して排気ガスを流し且つパティキュレートフィルタの強制再生時にのみ排気ガスの流れを通常流路から再生流路に切り換える流路切換手段を設けたことを特徴とするものである。
【0017】
而して、このようにすれば、通常時に流路切換手段により選択された通常流路に排気ガスが流れ、該排気ガスが酸化触媒を迂回して脱硫触媒に直接導かれるので、該脱硫触媒上で排気ガス中のSO2ガスが水と化合してサルフェートの状態で吸着され、排気ガス中のパティキュレートが後段のパティキュレートフィルタで捕集される。
【0018】
また、パティキュレートフィルタの強制再生時には、流路切換手段により選択された再生流路に排気ガスが流れ、該排気ガスが酸化触媒を経由して脱硫触媒へ流れることになるので、エンジン側でのポスト噴射等により燃料添加を行うと、その添加燃料から生じたHCガスが酸化触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスが後方の脱硫触媒とパティキュレートフィルタに流入する。
【0019】
これにより酸化触媒の直後の脱硫触媒の触媒床温度が所定の脱離温度以上に上げられてサルフェートが再びSO2ガスとして脱離されると共に、その直後のパティキュレートフィルタの触媒床温度も上げられてパティキュレートが燃やし尽くされ、パティキュレートフィルタの再生化が図られる。
【0020】
この際、酸化触媒では、通常時において排気ガスの流れに晒されていないことからサルフェートが殆ど溜まっておらず、HCガスの酸化反応を促す機能を良好に発揮し得る状態にあるため、添加燃料から生じたHCガスを良好に酸化反応させて排気ガスの昇温化を図ることが可能である。
【0021】
しかも、酸化触媒の触媒表面でHCガスが酸化処理されている状況下では、触媒上のあちこちが局所的に著しく高温となっているため、排気ガス中のSO2ガスは硫酸化の行程を飛び越してSO2ガスの状態で酸化触媒を通り抜け、パティキュレートフィルタの強制再生の実行中に新たなサルフェートが生成されて酸化触媒上に溜まる虞れは殆どない。
【0022】
また、通常時にパティキュレートフィルタの前段で脱硫触媒により積極的にSO2ガスが水と化合されてサルフェートの状態で吸着されるようになっており、この脱硫触媒からはSO2ガスの状態で脱離されてパティキュレートフィルタをそのまま通過するようになっているため、パティキュレートフィルタにサルフェートが溜まる虞れも殆どなくなる。
【0023】
この結果、潤滑油を起源として排気ガス中に存在するCaOがパティキュレートフィルタ内で次式
[化2]
2SO4+CaO→CaSO4+H2
によりサルフェート(H2SO4)と化合し、パティキュレートフィルタの強制再生で焼却できないアッシュ(CaSO4)が生成されてパティキュレートフィルタ内に溜まってしまう事態も回避される。
【発明の効果】
【0024】
上記した本発明の排気浄化装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0025】
(I)通常時は酸化触媒が排気ガスに晒されないようにしてパティキュレートフィルタの強制再生を実行する時にのみ酸化触媒に排気ガスを流すようにしているので、高硫黄燃料を使用しても短期間のうちに酸化触媒の表面全てがサルフェートにより覆われてしまうコーキングを防ぐことができ、HCガスの酸化反応を促す機能を長期間に亘り良好に維持せしめてパティキュレートフィルタの強制再生を支障なく行うことができる。
【0026】
(II)通常時にパティキュレートフィルタの前段で脱硫触媒により積極的にSO2ガスを水と化合させてサルフェートの状態で吸着し、パティキュレートフィルタの強制再生時には再びSO2ガスの状態で脱硫触媒から脱離させてパティキュレートフィルタをそのまま通過させることができるので、パティキュレートフィルタ内でCaOとサルフェートとが化合することによりアッシュが生成されて溜まってしまう事態を回避でき、アッシュによるパティキュレートフィルタの目詰まりを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、先に説明した図2のものと略同様に、排気管3の途中に介装したケーシング4内の後段にパティキュレートフィルタ1が収容されているが、前記ケーシング4内におけるパティキュレートフィルタ1の前段には、白金等の酸化触媒原料を吸着性能の高いゼオライト等を担体として担持させて成る脱硫触媒9が収容されており、この脱硫触媒9では、排気ガス5の温度が約200〜300℃以上となった時に次式
[化3]
2SO2+O2+2H2O→2H2SO4
によりSO2ガスを水と化合させてサルフェートの状態で吸着し且つその吸着したサルフェートを所定の脱離温度(約630℃)以上となった時に再びSO2ガスとして脱離するようになっている。
【0029】
そして、前記ケーシング4の入側に排気ガス5を導入する入口パイプ6が、排気ガス5を酸化触媒2を経由させて脱硫触媒9へ導く再生流路10と、排気ガス5を酸化触媒2を迂回させて脱硫触媒9へ直接導く通常流路11とに二股状に分岐されており、その分岐箇所には、通常時は通常流路11を選択して排気ガス5を流し且つパティキュレートフィルタ1の強制再生時にのみ排気ガス5の流れを通常流路11から再生流路10に切り換えるバタフライ弁12が流路切換手段として設けられている。
【0030】
而して、このように排気浄化装置を構成すれば、図1中に実線で示す通り、通常時にバタフライ弁12により選択された通常流路11に排気ガス5が流れ、該排気ガス5が酸化触媒2を迂回して脱硫触媒9に直接導かれるので、排気ガス5の温度が約200〜300℃以上となった時に脱硫触媒9上で排気ガス5中のSO2ガスが水と化合してサルフェートの状態で吸着され、排気ガス5中のパティキュレートが後段のパティキュレートフィルタ1で捕集される。
【0031】
また、図1中に仮想線で示す通り、パティキュレートフィルタ1の強制再生時には、バタフライ弁12により選択された再生流路10に排気ガス5が流れ、該排気ガス5が酸化触媒2を経由して脱硫触媒9へ流れることになるので、エンジン側でのポスト噴射等により燃料添加を行うと、その添加燃料から生じたHCガスが酸化触媒2を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガス5が後方の脱硫触媒9とパティキュレートフィルタ1に流入する。
【0032】
これにより酸化触媒2の直後の脱硫触媒9の触媒床温度が所定の脱離温度(約630℃)以上に上げられてサルフェートが再びSO2ガスとして脱離されると共に、その直後のパティキュレートフィルタ1の触媒床温度も上げられてパティキュレートが燃やし尽くされ、パティキュレートフィルタ1の再生化が図られる。
【0033】
この際、酸化触媒2では、通常時において排気ガス5の流れに晒されていないことからサルフェートが殆ど溜まっておらず、HCガスの酸化反応を促す機能を良好に発揮し得る状態にあるため、添加燃料から生じたHCガスを良好に酸化反応させて排気ガス5の昇温化を図ることが可能である。
【0034】
しかも、酸化触媒2の触媒表面でHCガスが酸化処理されている状況下では、触媒上のあちこちが局所的に著しく高温となっているため、排気ガス5中のSO2ガスは硫酸化の行程を飛び越してSO2ガスの状態で酸化触媒2を通り抜け、パティキュレートフィルタ1の強制再生の実行中に新たなサルフェートが生成されて酸化触媒2上に溜まる虞れは殆どない。
【0035】
また、通常時にパティキュレートフィルタ1の前段で脱硫触媒9により積極的にSO2ガスが水と化合されてサルフェートの状態で吸着されるようになっており、この脱硫触媒9からはSO2ガスの状態で脱離されてパティキュレートフィルタ1をそのまま通過するようになっているため、パティキュレートフィルタ1にサルフェートが溜まる虞れも殆どなくなる。
【0036】
この結果、潤滑油を起源として排気ガス5中に存在するCaOがパティキュレートフィルタ1内で次式
[化4]
2SO4+CaO→CaSO4+H2
によりサルフェート(H2SO4)と化合し、パティキュレートフィルタ1の強制再生で焼却できないアッシュ(CaSO4)が生成されてパティキュレートフィルタ1内に溜まってしまう事態も回避されることになる。
【0037】
従って、上記形態例によれば、通常時は酸化触媒2が排気ガス5に晒されないようにしてパティキュレートフィルタ1の強制再生を実行する時にのみ酸化触媒2に排気ガス5を流すようにしているので、高硫黄燃料を使用しても短期間のうちに酸化触媒2の表面全てがサルフェートにより覆われてしまうコーキングを防ぐことができ、HCガスの酸化反応を促す機能を長期間に亘り良好に維持せしめてパティキュレートフィルタ1の強制再生を支障なく行うことができる。
【0038】
また、通常時にパティキュレートフィルタ1の前段で脱硫触媒9により積極的にSO2ガスを水と化合させてサルフェートの状態で吸着し、パティキュレートフィルタ1の強制再生時には再びSO2ガスの状態で脱硫触媒9から脱離させてパティキュレートフィルタ1をそのまま通過させることができるので、パティキュレートフィルタ1内でCaOとサルフェートとが化合することによりアッシュが生成されて溜まってしまう事態を回避でき、アッシュによるパティキュレートフィルタ1の目詰まりを防止することができる。
【0039】
尚、本発明の排気浄化装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、流路切換手段は図示の如きバタフライ弁を用いて流路を切り替える形式に限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【図2】従来例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 パティキュレートフィルタ
2 酸化触媒
3 排気管
5 排気ガス
9 脱硫触媒
10 再生流路
11 通常流路
12 バタフライ弁(流路切換手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パティキュレートフィルタより上流側に酸化触媒を備え、該酸化触媒の上流側で排気ガス中に燃料添加を行い、その添加燃料から生じたHCガスが酸化触媒上で酸化反応した時の反応熱により捕集済みパティキュレートを燃焼させてパティキュレートフィルタを強制再生する排気浄化装置であって、排気ガス中のSO2ガスを水と化合させてサルフェートの状態で吸着し且つその吸着したサルフェートを所定の脱離温度以上となった時に再びSO2ガスとして脱離する脱硫触媒を前記パティキュレートフィルタの前段に設けると共に、排気ガスを酸化触媒を経由させて脱硫触媒へ導く再生流路と、排気ガスを酸化触媒を迂回させて脱硫触媒へ直接導く通常流路とを設け、通常時は通常流路を選択して排気ガスを流し且つパティキュレートフィルタの強制再生時にのみ排気ガスの流れを通常流路から再生流路に切り換える流路切換手段を設けたことを特徴とする排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−156180(P2009−156180A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335971(P2007−335971)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】