説明

接着剤、並びにネジ部材及びナット部材

【課題】従来のマイクロカプセル型接着剤に比べて、より保管安定性に優れる接着剤を提供する。
【解決手段】重合性モノマーを内包する第1のマイクロカプセルと、前記重合性モノマーを重合させる重合開始剤を内包する第2のマイクロカプセルとを含有する接着剤、並びに前記接着剤がネジ山表面に塗工されたネジ部材、前記接着剤がネジ溝表面に塗工されたナット部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロカプセル化した接着剤に関し、より詳細には、ネジ、ボルト等のネジ部材のネジ山表面あるいはナット部材のネジ溝表面に塗布し、ナット部材を締め付けたときの緩み防止や密着性の付与を図るための接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ネジ、ボルト等のネジ部材のネジ山表面やナット部材のネジ溝表面に接着剤を塗工し、ナット部材を締め付けた際の緩みを防止することが行われている。また、マイクロカプセル化した接着剤を予めネジ山表面やネジ溝表面に塗工しておき、ナット部材を締め付けた際にその締付圧力によりマイクロカプセルの外殻を破壊して接着力を発現させるようにした、プレコート式のネジ部材やナット部材も知られている(例えば、特許文献1、2参照)。このプレコート式のネジ部材やナット部材は、ナット部材を締め付けるまではネジ山表面やネジ溝表面に塗工したマイクロカプセルが破壊せず、接着力が発現しないため、保管安定性に優れるという利点がある。
【0003】
【特許文献1】特開平2−308876号公報
【特許文献2】特開平7−331187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のマイクロカプセル型接着剤は、重合開始剤を内包するマイクロカプセルを、前記重合開始剤により重合する重合性モノマーを含有する溶媒やバインダーに配合して一体化したものであるため、重合開始剤がマイクロカプセルの外殻により保護されていても、重合性モノマーが熱や光により劣化するおそれがある。そのため、ナット締め付け時に重合性モノマーの重合が十分に進行せず、目的とする接着性能が発現しないおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、従来のマイクロカプセル型接着剤に比べて、より保管安定性に優れる接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は、以下の接着剤、並びにネジ部材及びナット部材を提供する。
(1)重合性モノマーを内包する第1のマイクロカプセルと、前記重合性モノマーを重合させる重合開始剤を内包する第2のマイクロカプセルとを含有することを特徴とする接着剤。
(2)マイクロカプセルの外殻がポリスチレンからなることを特徴とする上記(1)記載の接着剤。
(3)上記(1)または(2)に記載の接着剤が、ネジ山表面に塗工されていることを特徴とするネジ部材。
(4)上記(1)または(2)に記載の接着剤が、ネジ溝表面に塗工されていることを特徴とするナット部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接着剤は、重合性モノマーと重合開始剤とが別々にマイクロカプセル化されているため、重合性モノマー及び重合開始剤の両方がマイクロカプセルの外殻により保護されており、一方のみがマイクロカプセル化されている場合に比べて保管安定性に優れる。そのため、本発明のネジ部材及びナット部材もまた保管安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0009】
本発明の接着剤は、重合性モノマーを内包するマイクロカプセルと、前記重合性モノマーの重合開始剤を内包するマイクロカプセルとを、適当なバインダーに分散したものである。
【0010】
マイクロカプセルの外殻は制限されるものではないが、熱や光に耐する耐性が高く保管安定性に優れること、重合度により膜強度を可変できること等の理由から、ポリスチレンが好ましい。
【0011】
重合性モノマーと重合開始剤との組み合わせには制限がなく、従来から2液混合型の接着剤に使用されている各種重合性モノマーと、前記重合性モノマーを硬化させる重合開始剤との組み合わせにすることができる。中でも、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコーン樹脂系が好ましく、反応性、硬化物の物性等の点からエポキシ樹脂系、アクリル樹脂系がより好ましい。
【0012】
エポキシ樹脂系の重合性モノマーとしては、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型の如きビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂、ポリアルキレングリコール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0013】
これらエポキシ樹脂系の重合性モノマーと組み合わせる重合開始剤としては、例えば鎖状脂肪族ポリアミン、環状脂肪族ポリアミン、脂肪芳香族アミン、芳香族アミン、アミンアダクト等の変性アミン、ポリアミド樹脂、イミダゾール類、メルカプタン類、酸無水物等が挙げられ、これらを単独もしくは二種類以上混合して用いることができる。
【0014】
一方、アクリル樹脂系の重合性モノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、ジエチルアミノ(メタ)アクリルレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等のモノマー成分や、ポリエーテル変性ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル変性ウレタン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン変性(メタ)アクリレート、ポリブタジエン変性ウレタン(メタ)アクリレート、ポリカーボネート変性ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマー成分が挙げられる。
【0015】
これらアクリル樹脂系の重合性モノマーと組み合わせる重合開始剤としては、例えばハイドロパーオキサイド、アルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド等が、より具体的にはクメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、パーメンタンハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンバーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の有機過酸化物が挙げられる。
【0016】
上記の重合性モノマーのマイクロカプセルは複数種を組み合わせて使用することもできるが、その場合は重合性モノマー毎に、対応する重合開始剤を用いる必要がある。
【0017】
また、重合性モノマー及び重合開始剤の他に、反応を活性化する活性剤を、何れかのマイクロカプセルに添加することができる。活性剤としては、例えばトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリアリルアミン、エチレンジエタノールアミン等のアミン類、エチレンチオ尿素、モノベンゾイルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素等のチオ尿素誘導体、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等のアニリン誘導体、N,N−ジメチル−P−トルイジン、N,N−ジエチル−P−トルイジン等のトルイジン誘導体、L−アスコルビン酸、有機金属塩、サッカリンメルカプタン化合物等が挙げられ、これらを単独もしくは二種類以上混合して用いることができる。
【0018】
マイクロカプセル化の方法には限定されず、例えばコアセルベーション法や界面重合法等の公知の方法を採用することができる。また、マイクロカプセルの粒径にも限定されないが、数十μm〜数百μmが適当である。
【0019】
バインダーにも制限はないが、例えば、ネジ山やネジ溝の表面等の被着面に対して高い密着性を発現でき、サスペンションの生成が容易なこと等から、ポリアクリル酸エステルナトリウム樹脂やアルギン酸ナトリウム樹脂、ポリビニルアルコール、水溶性ポリアセタール樹脂等が好ましい。
【0020】
本発明はまた、上記の接着剤をネジ山表面に塗工したネジ部材及び上記の接着剤をネジ溝表面に塗工したナット部材に関する。尚、接着剤を塗工する前のネジ部材及びナット部材には制限がなく、また接着剤の塗工量にも制限がない。接着剤は、ネジ部材とネット部材とを螺合する直前に、ネジ山やネジ溝に塗工してもよいし、予めネジ山やネジ溝に塗工していてもよいが、ネジ止の作業性からは予め塗工したプレコート式であることが好ましい。本発明の接着剤は、重合性モノマーと重合開始剤とが別々のマイクロカプセルに内包されているため、ネジ部材とナット部材とを締め付けるまでは接着作用が発現せず、保存安定性に優れる。
【0021】
また、ネジ部材とナット部材は、共に接着剤を塗工したものを用いてもよいが、何れか一方に接着剤が塗工されていてもよい。
【実施例】
【0022】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0023】
(実施例1)
重合性モノマーであるエポキシアクリレートをポリスチレンからなる外郭中に内包する第1のマイクロカプセルを、乳化重合して調製した。また、重合開始剤であるジアシルパーオキサイドをポリスチレンからなる外郭中に内包する第2のマイクロカプセルを、乳化重合して調製した。そして、第1のマイクロカプセルを塗工液全体の30質量%、第2のマイクロカプセルを塗工液全体の30質量%となるように、カブセルが溶解しない水系の溶媒に配合して塗工液を調製した。そして、塗工液をネジ山表面に塗工してネジ部材を作製した。
【0024】
(実施例2)
重合性モノマーであるグリシジルメタアクリレートをポリスチレンからなる外郭中に内包する第1のマイクロカプセルを、乳化重合して調製した。また、重合開始剤であるベンゾイルパーオキサイドをポリスチレンからなる外郭中に内包する第2のマイクロカプセルを、乳化重合して調製した。そして、第1のマイクロカプセルを塗工液全体の30質
量%、第2のマイクロカプセルを塗工液全体の30質量%となるように、カプセルが溶解しない水系の溶媒に配合して塗工液を調製した。そして、塗工液をネジ山表面に実施例1と同量塗工してネジ部材を作製した。
【0025】
(比較例1)
重合開始剤のみをマイクロカプセル化した市販のエポキシ系接着剤を、ネジ山表面に実施例1と同量塗工してネジ部材を作製した。
【0026】
(比較例2)
接着剤を塗工していないネジ部材を用意した。
【0027】
(締め付け試験)
各ネジ部材に、接着剤を塗工していないナット部材を300kgf・cmの力で締め付け、6時間放置した後、ナット部材を緩めるのに要するトルクを測定した。試験は3回行い、その平均を求めた。また、ナット部材を締め付けた際に、接着剤塗工部から溢れ出た接着剤の有無を目視で確認した。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示すように、本発明に従う重合性モノマーを内包するマイクロカプセルと、重合開始剤を内包するマイクロカプセルとからなる実施例の接着剤は、接着力が強く、塗工部から溢れ出ることも無い。これに対し従来の接触剤では、接着力が弱く、塗工部から溢れ出ている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーを内包する第1のマイクロカプセルと、前記重合性モノマーを重合させる重合開始剤を内包する第2のマイクロカプセルとを含有することを特徴とする接着剤。
【請求項2】
マイクロカプセルの外殻がポリスチレンからなることを特徴とする請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着剤が、ネジ山表面に塗工されていることを特徴とするネジ部材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の接着剤が、ネジ溝表面に塗工されていることを特徴とするナット部材。

【公開番号】特開2010−138340(P2010−138340A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318169(P2008−318169)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】