説明

接着構造体の製造方法

【課題】樹脂に磁性材料よりなる熱伝導性フィラーを含有してなる接着部材を介して、2個の部材を接着してなる接着構造体の製造方法において、熱伝導性フィラーと当該被接着面との安定した接触を実現する接着構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂31がシート状に成形された接着部材30を形成する工程では、シート状に成形された樹脂31の厚さよりも長い針状をなすフィラー32を用い、さらに磁場印加しながらシート成形を行うことによって、フィラー両端部が樹脂31の厚さ方向の両面にて露出するようにフィラー32を当該厚さ方向に配向させる。次に、形成された接着部材30を2つの部材10、20にて挟んだ状態にて、シート成形において印加した磁場よりも弱い磁場を印加してフィラー32の配向状態を保持しながら、接着部材30を加熱して両部材10、20の接着を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性を有する接着部材を介して2つの部材を接着してなる接着構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の接着構造体は、第1の部材と第2の部材との間に、樹脂に熱伝導性フィラーを含有してなる接着部材を介在させ、樹脂を固化させることにより熱伝導性フィラーによる熱経路を形成しながら、両部材を接着するものが一般的であり、具体的には、熱伝導性接着剤を介して発熱部品と放熱部材とを接着する電子装置が開示されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0003】
一方で、接着部材の熱伝導性を良好にするために、磁性材料にAg膜を付け磁界を利用する方法が提案されている(特許文献3参照)。この方法は、第1および第2の両部材の被接着面に磁性材料を設け、一方の被接着面の磁性材料とこれに対向する他方の被接着面の磁性材料とを、かみ合わせるように接触させて接着材料で固定する方法である。
【特許文献1】特開2005−12154号公報
【特許文献2】特開2005−89559号公報
【特許文献3】特開2002−280715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、従来の熱伝導性接着剤では、高熱伝導化を図るために、熱伝導性フィラーの高充填化を行う手法が一般的である。本発明者は、熱伝導性フィラーの含有割合を変えることで熱伝導率が異なる接着部材について、それぞれ接着部材の膜厚を変えて熱抵抗を測定するという検討を行った。
【0005】
その結果、高熱伝導材料よりなる接着部材では、材料と膜厚とを加えた熱伝導率は高くなるものの、第1及び第2の部材と接着部材との界面における接触熱抵抗については、低熱伝導材料と同等レベルであった。
【0006】
つまり、熱伝導性フィラーを高充填化して、接着部材自体の熱伝導率を向上しても、パワーIC等の発熱部品を実装した際、上記の界面における熱抵抗が支配的であるため、充分に熱抵抗を下げられないことがわかってきた。このように、従来の高熱伝導材料の問題点は、被接着部材との界面熱伝導性が悪いことにある。
【0007】
また、上記特許文献3に記載の方法では、被接着部材である第1及び第2の両部材の被接着面に磁性材料を設ける処理を行う必要があり、工数がかかる。また、一方の被接着面の磁性材料と他方の被接着面の磁性材料との接触程度の違いにより、接触点数が変化し、安定した高熱伝導が得られないなどの問題も生じる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、樹脂に磁性材料よりなる熱伝導性フィラーを含有してなる接着部材を介して、2個の部材を接着してなる接着構造体の製造方法において、接着前に予め各部材の被接着面に磁性材料を設けることなく、熱伝導性フィラーと当該被接着面との安定した接触を実現する接着構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、接着部材(30)として、熱伝導性フィラー(32)を含有してなる樹脂(31)がシート状に成形されたものを形成するシート成形工程と、シート状の接着部材(30)における厚さ方向の一面、他面にそれぞれ第1の部材(10)、第2の部材(20)を配置して、これら両部材(10、20)にて接着部材(30)を挟み、接着部材(30)を加熱して両部材(10、20)を接着する接着工程とを備えている。
【0010】
そして、シート成形工程では、熱伝導性フィラー(32)としてシート状に成形された樹脂(31)の厚さよりも長い針状をなすものを用い、熱伝導性フィラー(32)に磁場を印加して、熱伝導性フィラー(32)の両端部が樹脂(31)の厚さ方向の両面にて露出するように熱伝導性フィラー(32)を当該厚さ方向に配向させながら、樹脂(31)のシート状成形を行い、接着工程では、両部材(10、20)にて接着部材(30)を挟んだ状態にて、シート成形工程における磁場よりも弱い磁場を印加して熱伝導性フィラー(32)の配向状態を保持しながら、接着部材(30)の加熱による両部材(10、20)の接着を行うことを特徴としている。
【0011】
それによれば、シート状に成形された接着部材(30)においては、樹脂(31)の内部にて当該樹脂(31)の厚さよりも長い針状の熱伝導性フィラー(32)が当該樹脂(31)の厚さ方向に配向し、接着部材(30)の両面にて熱伝導性フィラー(32)の端部が露出するため、このシート状の接着部材(30)を第1の部材(10)と第2の部材(20)とで挟むことで、各部材(10、20)の被接着面に熱伝導性フィラー(32)の当該端部が接触する。
【0012】
そのため、本発明によれば、接着前に予め各部材(10、20)の被接着面に磁性材料を設けることなく、熱伝導性フィラーと当該被接着面との安定した接触を実現する接着構造体の製造方法が提供される。
【0013】
ここで、請求項2に記載の発明では、互いに隙間をもって対向して配置され、当該隙間の一端から入り込んだ部材を当該隙間の他端側へ送り出すように回転する一対の円筒状の回転ローラー(201、202)を用意し、シート成形工程では、一対の回転ローラー(201、202)の隙間に対して、熱伝導性フィラー(32)を配向させるための磁場を印加した状態で、熱伝導性フィラー(32)を含有してなる樹脂(31)を当該隙間に送り込み、一対の回転ローラー(201、202)の円筒側面によって樹脂(31)を延伸してシート状にすることを特徴としている。それによれば、簡単にシート成形を行うことができる。
【0014】
この場合、さらに、請求項3に記載の発明のように、一対の回転ローラー(201、202)を、一方がN極、他方がS極となる磁石により構成されているものすれば、ローラー(201、202)が磁石を兼用するため、シート成形工程を行う装置を簡素な構成とすることができ、製造コストの低減が期待できる。
【0015】
また、請求項4に記載の発明のように、熱伝導性フィラー(32)としては、強磁性体材料よりなる針状の芯部(32a)と当該芯部(32a)の表面にコーティングされたAgまたはAuよりなる被膜(32b)とにより構成されているものを採用できる。それによれば、熱伝導性フィラー(32)の良好な磁場配向、および、熱伝導性フィラー(32)と各部材(10、20)の被接着面との良好な熱接続性を両立しやすい。
【0016】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0018】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る接着構造体S1の概略断面構成を示す図であり、図1(b)は、図1(a)中の丸で囲まれたA部、B部を拡大して示す図である。
【0019】
この接着構造体S1は、大きくは、熱伝導性を有する接着部材30を介して、第1の部材10と第2の部材20とを接着してなるものであり、これら両部材10、20の間にて接着部材30を介して熱伝導を行うものである。
【0020】
第1の部材10は、たとえば、第2の部材20に発生する熱を放熱する放熱部材などよりなる。このような放熱部材としては、特に限定されないが、たとえば、セラミック基板やプリント基板などの配線基板や回路基板が挙げられる。
【0021】
第2の部材20は、たとえば、駆動時に発熱するものであって接着部材30で第1の部材10に実装可能な部品などよりなる。このような発熱部品としては、特に限定されないが、駆動時に高発熱を伴うシリコン半導体よりなるパワーICチップ、それ以外に、ダイオード、コンデンサ、抵抗などの表面実装部品が挙げられる。
【0022】
本実施形態では、第1の部材10の被接着面、第2の部材20の被接着面には、それぞれ第1のパッド11、第2のパッド21が設けられている。これら第1のパッド11および第2のパッド21は、熱伝導性を有する材料よりなる。
【0023】
また、これらパッド11、21に電極としての機能を持たせるときは、さらにパッド構成材料は導電性を有するものとする。たとえば、これらパッド11、21は、Au、Sn、Ag、Ni、Cuなど、および、これらの合金などの材料を用いた厚膜やめっきから構成されたものである。
【0024】
ここでは、接着部材30は、各パッド11、21に接触しており、それによって接着部材30は、パッド11、21を介して熱的に接続されている。なお、接着部材30と各部材10、20が十分に熱的に接続されるならば、上記パッド11、21を設けずに、各部材10、20を構成するセラミックや樹脂、金属などの構成材料と接着部材30とが直接接触していてもよい。
【0025】
接着部材30は、シート状に成形された樹脂31に多数の熱伝導性フィラー32を含有してなる。この接着部材30は、両部材10、20の間に介在し当該両部材10、20を熱的・機械的に接続するものである。ここで、樹脂31は、ナイロン(登録商標)などのフッ素樹脂、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂よりなる。
【0026】
また、熱伝導性フィラー32は、熱伝導性を有する磁性材料よりなる。接着部材30は必要に応じて導電性でもよいし、非導電性でもよいが、導電性である場合には、熱伝導性フィラー32は、さらに導電性を有するものとなる。
【0027】
図2は、図1中の接着部材30の厚さ方向に沿った断面構成を拡大して示す図であり、図3は、接着部材30における熱伝導性フィラー32の単体構成の一例を示す図であり、(a)は全体の外観図、(b)は全体の断面図である。これら図2、図3も参照して、接着部材30についてより詳細に述べる。
【0028】
図1〜図3に示されるように、個々の熱伝導性フィラー32は、シート状に成形された樹脂31の厚さtよりも長い針状をなす。そして、熱伝導性フィラー32は、シート状の樹脂31の厚さ方向に沿って配向しており、熱伝導性フィラー32の両端部は、樹脂31の厚さ方向の両面にて露出している。
【0029】
このような熱伝導性フィラー32としては、鉄、コバルト、ニッケルおよびこれらの合金などに代表される強磁性材料を針状に成形したものが挙げられる。ここで、針状とは、端部が尖った針状以外にも円柱、角柱などの柱状、細長の短冊状のものも含むものであり、つまり棒形状であることを意味する。
【0030】
また、この針状の熱伝導性フィラー32が、樹脂31の厚さ方向に沿って配向することは、図2に示されるように、同方向に対して多少斜めになっていてもよいし、熱伝導性フィラー32が多少曲がっていてもよいものである。
【0031】
そして、本実施形態の熱伝導性フィラー32は、より好ましい形態として、熱伝導性フィラー32は、強磁性体材料よりなる針状の芯部32aと、この芯部32aの表面にコーティングされたAgまたはAuよりなる被膜32bとにより構成されている。
【0032】
芯部32aを構成する強磁性材料は、上述の通りであるが、より具体的には、純鉄、78.5Ni+Feの合金であるパーマロイ、50Co+Feの合金であるパーメンジュール等が挙げられる。また、被膜32bは、めっきや蒸着などにより形成される。
【0033】
また、熱伝導性フィラー32の形状は、細長いものであるが、長さLと幅Wとの比L/Wは、たとえば10〜20程度にできる。また、熱伝導性フィラー32の長さLは樹脂31の厚さtよりも大きいが、たとえば、樹脂31の厚さtを240μmとすれば、熱伝導性フィラー32の幅Wは20μm、長さLは260μm程度にする。これら寸法t、L、Wについては図2、図3参照のこと。
【0034】
このように、シート状に成形された接着部材30においては、樹脂31の内部にて樹脂31の厚さtよりも長い針状の熱伝導性フィラー32が樹脂31の厚さ方向に配向しており、接着部材31の厚さ方向の両面にて熱伝導性フィラー32の端部が露出する。
【0035】
そして、図1に示されるように、この接着部材30が第1の部材10と第2の部材20とで挟まれることで、各部材10、20の被接着面である各パッド11、21に熱伝導性フィラー32の端部が接触している。
【0036】
ここでは、各パッド11、21はAu、Ag、Niなどの膜であり、熱伝導性フィラー32の表面を構成するAgまたはAuよりなる被膜32bと、各パッド11、21とは、両者の接触部にて拡散接合する。
【0037】
なお、上述したように、接着部材30と各部材10、20が十分に熱的に接続されるならば、上記パッド11、21を設けなくてもよいが、この場合には、各部材10、20を構成するセラミックや樹脂、金属などの構成材料と熱伝導性フィラー32の上記端部とが直接接触したものとなる。
【0038】
このように、各部材10、20と熱伝導性フィラー32の上記端部とが接触することにより、両部材10、20を熱的に接続する伝熱経路が形成されている。また、樹脂31の接着力によって、両部材10、20は機械的に接続されている。
【0039】
次に、この接着構造体S1の製造方法について、図4は、本製造方法を工程順に示す工程図であり、各工程におけるワークを断面的に示している。また、図5は、シート成形工程の詳細を示す工程図である。
【0040】
まず、シート成形工程では、熱伝導性フィラー32を含有してなる樹脂31がシート状に成形されてなる接着部材30を形成する(図4(a)〜(e)参照)。この工程では、まず、図4(a)に示されるように、容器などに入れた樹脂31を、ヒータなどによって融点以上に加熱して溶融状態とする。
【0041】
次に、図4(b)に示されるように、この溶融状態の樹脂31に、上記針状の熱伝導性フィラー32を混合し、均一に分散させる。
【0042】
そして、図4(c)に示されるように、樹脂31をシート状に成形するとともに、磁石などの磁界発生装置によって当該シート状の樹脂31の両面から熱伝導性フィラー32に磁場を印加する。それにより、熱伝導性フィラー32の両端部が樹脂31の厚さ方向の両面にて露出するように、熱伝導性フィラー32を当該樹脂31の厚さ方向に沿って配向させる。
【0043】
この樹脂31をシート状に成形することについては、一般的な樹脂シートの成形と同様に行えるが、ここでは、回転ローラーで樹脂を延伸する方法の例について、図5を参照して述べる。
【0044】
この回転ローラー201、202は、対向して配置された一対の円筒状のものであり、両ローラー201、202の円筒側面の間に隙間が形成される。この隙間の大きさは、成形されたシート状の樹脂31の厚さtに相当する。そして、両回転ローラー201、202はモータなどによって当該隙間の一端から入り込んだ部材を当該隙間の他端側へ送り出すように回転する。
【0045】
図5では、熱伝導性フィラー32を含有し溶融した状態の樹脂31が、図示しないベルトコンベアなどにより図中の左方から右方へ搬送され、一対の回転ローラー201、202の隙間に入り込む。そして、両ローラー201、202の円筒側面によって樹脂31は延伸され、当該隙間から出てくるときにはシート状に成形される。
【0046】
ここで、樹脂31の搬送の流れにおいて、図5中のローラー201、202の上流側から1点鎖線Kよりも左側に位置するローラー201、202の下流側までは、樹脂31は、図示しないヒータなどにより加熱され溶融状態となっており、当該1点鎖線Kよりも右側の部分では、樹脂31は固化されるべく冷却された状態となっている。
【0047】
また、本実施形態のシート成形工程では、一対の回転ローラー201、202の隙間に対して、溶融状態の樹脂31内にて熱伝導性フィラー32を上記したように配向させるための磁場を印加する。たとえば500ガウス程度の磁場を印加する。そして、この磁場を印加した状態で、樹脂31をローラー201、202間の隙間に送り込み、シート状に成形する。
【0048】
この熱伝導性フィラー32の配向用の磁場を発生させるものとしては、ローラー201、202とは別に用意された磁石や磁界発生装置などを用いて、ローラー201、201間の隙間に磁場を発生させてもよいが、図5に示される例では、ローラー201、202自身を磁場発生部材として構成している。
【0049】
すなわち、図5では、一対の回転ローラー201、202は、一方のローラー201がN極、他方のローラー202がS極となる磁石により構成されている。これは、各ローラー201、202を強磁性体によって構成すればよい。この場合、ローラー201、202が磁石を兼用するため、別途、磁場発生装置を設ける場合に比べて、シート成形工程を行う装置の簡素化が図れ、製造コストの低減が期待できる。
【0050】
こうして、シート成形工程では、溶融状態の樹脂31を、ローラー201、202間の上記配向用の磁場が印加されている隙間に送り込み、シート状に成形する。それによって、熱伝導性フィラー32がシート状の樹脂31の厚さ方向に配向し、熱伝導性フィラー32の両端部が樹脂31の厚さ方向の両面にて露出する。
【0051】
なお、図5では、上記熱伝導性フィラー32の配向をより確実に形成するために、ローラー201、202の下流においても磁石などよりなる磁界発生装置110を設け、シート状ではあるが溶融状態の樹脂31に対して、上記配向用の磁場を印加するようにしている。つまり、この配向用の磁場の発生領域は、ローラー201、202間の隙間から樹脂31が固化する領域の手前まで設けることが好ましい。
【0052】
ここで、シート形成工程では、樹脂31を溶融させるために加熱するが、その上限は、熱伝導性フィラー32を構成するの磁性材料のキュリー温度以下である。たとえば、上記した純鉄、パーマロイ、パーメンジュール等のキュリー温度は600℃以上と高いため、磁性がなくなることはない。
【0053】
こうして、樹脂31の冷却後は、シート状に成形され且つ熱伝導性フィラー32が上記配向状態となった接着部材30が形成される。そして、この接着部材30は、図4(d)に示されるように、第1の部材10および第2の部材20の被接着面のサイズに応じて、切断される。
【0054】
次に、本製造方法では、図4(e)に示される接着工程を行う。この接着工程では、シート状の接着部材30における厚さ方向の一面、他面にそれぞれ第1の部材10、第2の部材20を配置して、これら両部材10、20によって接着部材30を挟む。そして、この状態で、接着部材30を加熱することにより、樹脂31の接着力により両部材10、20を接着する。
【0055】
ここで、本実施形態の接着工程では、第1および第2の部材10、20によって接着部材30を挟んだ状態で、シート成形工程における配向用の磁場よりも弱い磁場を印加しながら、接着部材30を樹脂31の融点以上で加熱して樹脂31を溶融させ両部材10、20の接着を行う。
【0056】
この接着工程にて印加する当該弱い磁場は、図4(e)に示されるように、磁石などよりなる磁界発生装置200により行う。そして、当該弱い磁場は、本工程の加熱により熱伝導性フィラー32の配向状態がくずれないように保持するものである。限定するものではないが、上記シート形成工程における配向用の磁場が500ガウスである場合には、当該弱い磁場は200ガウスとする。
【0057】
本接着工程では、樹脂31中にて既に配向している熱伝導性フィラー32の当該配向を保持するために当該弱い磁場を印加するので、この磁場は、上記シート成形工程においてランダムな配向状態の熱伝導性フィラーを配向させるために印加する配向用の磁場よりは、弱い磁場で十分である。そのため、第1の部材10や第2の部材20が電子部品などである場合に、これら部材10、20の磁場による特性不良の発生を極力抑制できる。
【0058】
そして、このように、熱伝導性フィラー32の配向状態を保持したまま、第1の部材10、第2の部材20によって接着部材30を挟むので、接着工程においては、接着部材30の厚さ方向の両面にて露出する熱伝導性フィラー32の各端部が、それぞれ第1、第2の部材10、20の被接着面であるパッド11、21に接触し、熱的に接続される。
【0059】
また、本実施形態では、接着工程における熱により、上述したように、パッド11、21を構成する金属と熱伝導性フィラー32の表面の被膜32bとの間で金属拡散が生じ、良好な熱的接続がなされる。そして、樹脂31を冷却・固化させれば、接着部材30によって両部材10、20が熱的・機械的に接続され、接着工程が終了する。これに伴い、上記図1に示される本実施形態の接着構造体S1ができあがる。
【0060】
以上のように、本実施形態の上記製造方法によれば、シート状に成形された接着部材30において、その厚さよりも長く磁性材料よりなる針状の熱伝導性フィラー32を用い、この熱伝導性フィラー32をシート成形時にシート厚さ方向に沿って配向させることで、フィラーの両端部を接着部材30の両面にて露出させるため、第1、第2の部材10、20の被接着面に熱伝導性フィラー32の当該端部を接触させた構成ができあがる。
【0061】
そして、1本1本の熱伝導性フィラー32が両部材10、20間の伝熱経路となるため、本実施形態では、接着部材30の厚さ方向に延びる伝熱経路が、実質的に熱伝導性フィラー32の数と同じ数の分、並列に形成された構成となる。
【0062】
このように、本製造方法によれば、接着前に予め各部材10、20の被接着面に磁性材料を設けることなく、熱伝導性フィラーと当該被接着面との安定した接触を実現する接着構造体の製造方法が提供される。
【0063】
また、接着部材30はシート状に成形されたものであるため、成形後から両部材10、20で挟むまでの間に熱伝導性フィラー32の配向が保持され、また、両部材10、20の間に接着部材30を配置するときなどに、その取り扱いが行いやすい。また、シートの厚さにより両部材10、20間の距離が実質的に規定されるため、熱伝導性フィラー32と両部材10、20の被接着面との接触状態の安定化が期待できる。
【0064】
(他の実施形態)
なお、接着部材30の樹脂30中に、熱伝導性フィラー32よりも小さなナノメートルサイズのフィラー、いわゆるナノフィラーを入れてもよい。そうすることで、このナノフィラーと熱伝導性フィラー32との接触性が良好になり、またナノフィラーと各部材10、20間の接触性も良好になることから、熱伝導性のさらなる向上が期待される。
【0065】
また、第1の部材10および第2の部材20としては、上記実施形態に示した例に限定されるものではなく、たとえば、両方が表面実装部品である場合や、両方が配線基板である場合でもよく、さらには、各部材10、20は、ヒートシンク、リードフレーム、バスバー、ケースなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る接着構造体の概略断面図であり、(b)は(a)中のA部、B部の拡大図である。
【図2】図1中の接着部材の厚さ方向に沿った断面の拡大図である。
【図3】熱伝導性フィラーの単体構成の一例を示す図であり、(a)は全体外観図、(b)は全体断面図である。
【図4】上記実施形態に係る接着構造体の製造方法を示す工程図である。
【図5】シート成形工程の詳細を示す工程図である。
【符号の説明】
【0067】
10 第1の部材
20 第2の部材
30 接着部材
31 樹脂
32 熱伝導性フィラー
32a 芯部
32b 被膜
201 回転ローラー
202 回転ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(31)に磁性材料よりなる熱伝導性フィラー(32)を含有してなる接着部材(30)を介して、第1の部材(10)と第2の部材(20)とを接着してなる接着構造体の製造方法において、
前記接着部材(30)として、前記熱伝導性フィラー(32)を含有してなる前記樹脂(31)がシート状に成形されたものを形成するシート成形工程と、
前記シート状の接着部材(30)における厚さ方向の一面、他面にそれぞれ前記第1の部材(10)、第2の部材(20)を配置して、これら両部材(10、20)にて前記接着部材(30)を挟み、前記接着部材(30)を加熱して前記両部材(10、20)を接着する接着工程とを備え、
前記シート成形工程では、前記熱伝導性フィラー(32)として前記シート状に成形された前記樹脂(31)の厚さよりも長い針状をなすものを用い、前記熱伝導性フィラー(32)に磁場を印加して、前記熱伝導性フィラー(32)の両端部が前記樹脂(31)の厚さ方向の両面にて露出するように前記熱伝導性フィラー(32)を当該厚さ方向に配向させながら、前記樹脂(31)のシート状成形を行い、
前記接着工程では、前記両部材(10、20)にて前記接着部材(30)を挟んだ状態にて、前記シート成形工程における前記磁場よりも弱い磁場を印加して前記熱伝導性フィラー(32)の配向状態を保持しながら、前記接着部材(30)の加熱による前記両部材(10、20)の接着を行うことを特徴とする接着構造体の製造方法。
【請求項2】
互いに隙間をもって対向して配置され、当該隙間の一端から入り込んだ部材を当該隙間の他端側へ送り出すように回転する一対の円筒状の回転ローラー(201、202)を用意し、
前記シート成形工程では、前記一対の回転ローラー(201、202)の前記隙間に対して、前記熱伝導性フィラー(32)を配向させるための磁場を印加した状態で、前記熱伝導性フィラー(32)を含有してなる前記樹脂(31)を前記隙間に送り込み、前記隙間にて対向する前記一対の回転ローラー(201、202)の円筒側面によって前記樹脂(31)を延伸してシート状にすることを特徴とする請求項1に記載の接着構造体の製造方法。
【請求項3】
前記一対の回転ローラー(201、202)は、一方がN極、他方がS極となる磁石により構成されているものであることを特徴とする請求項2に記載の接着構造体の製造方法。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラー(32)は、強磁性体材料よりなる針状の芯部(32a)と前記芯部(32a)の表面にコーティングされたAgまたはAuよりなる被膜(32b)とにより構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の接着構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−266913(P2009−266913A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112135(P2008−112135)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】