説明

接近警告音発生装置

【課題】接近警告音を放音しつつ、各種の情報の伝達を可能とした接近警告音発生装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車や電気自動車等の移動体に搭載され、エンジン模擬音などの主警告音を発生する主警告音発生部と、符号化された各種の情報によって変調された変調信号を生成する変調信号生成部と、主警告音と変調信号とを合成して接近警告音を生成する合成部と、接近警告音を移動体の少なくとも外部に放音する放音部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハイブリッド車や電気自動車などの移動体に搭載される接近警告音発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界では、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減等の環境問題への取り組みが急速に進んでおり、石油を燃焼させる内燃機関(エンジン)のみで駆動される車に代えて、電気モーターで駆動される電気自動車やハイブリッド車の開発や普及が進んでいる。電気モーターで駆動される車両は、内燃機関の車両に比べて走行音がはるかに静かである。一般的に走行音が静かであることは利点であるが、歩行者の安全面、すなわち歩行者が車両の接近に気づきにくいという点が問題点として存在する。
【0003】
上記問題点を解決するため、いわゆるエンジン模擬音と呼ばれるエンジン音に代わる音響信号を車両の外部へ放音することにより車両の存在・接近を歩行者に知覚させる装置を電気自動車、ハイブリッド車に搭載することが検討されている。
【0004】
また、車両の接近を歩行者等に知らせるための技術として、従来より特許文献1、2に示すような技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−173499号公報
【0006】
【特許文献2】特開2009−078632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにエンジン模擬音を放音すれば、歩行者に車両の存在・接近を知覚させることができるが、電気モーターを用いたことにより走行音を静かにできたことに反して単に走行音を大きく戻したしたのみであり、車両の存在を知らせる以上の効果を得ることができないというジレンマがある。特許文献1、2のものは、歩行者等に情報を伝達することができるが、電波を用いるものであるため、車両に電波を送信するための新たな装備が必要であり、コストアップにつながる問題点があった。
【0008】
この発明は、警告音を放音しつつ、情報の伝達が可能である接近警告音発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、移動体に搭載される装置であって、主たる警告音を発生する主警告音発生部と、符号化された情報によって変調された変調信号を生成する変調信号生成部と、前記主警告音と前記変調信号とを合成して接近警告音を生成する合成部と、前記接近警告音を前記移動体の少なくとも外部に放音する放音部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、前記変調信号生成部は、擬似ノイズ信号からなる拡散符号を発生する拡散符号発生部と、前記拡散符号を前記符号化された情報で変調する変調部と、を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、移動体に搭載される装置であって、擬似ノイズ信号からなる拡散符号を発生する拡散符号発生部と、前記拡散符号を前記符号化された情報で変調する変調部と、前記前記変調された拡散符号を接近警告音として前記移動体の少なくとも外部に放音する放音部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項2、3の発明において、前記移動体の移動速度に基づき、放音された接近警告音に生じるドップラシフトの大きさを算出するドップラシフト算出部と、算出されたドップラシフトをキャンセルする比率で前記拡散符号の時間軸上の長さを伸縮させる時間軸制御部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、接近警告音で歩行者等に警告を与えることができるうえ、接近警告音に情報を重畳して送信することができる。すなわち、接近警告音に情報符号を重畳して放音することにより、情報受信装置に対して接近警告またはそれ以外の様々な情報を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施形態である接近警告音発生装置のブロック図
【図2】接近警告音発生装置が放音する接近警告音の周波数特性を示す図
【図3】接近警告音を受信して情報を復調する情報受信装置のブロック図
【図4】変調部の構成例を示す図
【図5】復調部の構成例を示す図
【図6】復調部の他の構成例を示す図
【図7】前記接近警告音発生装置の変形例を示す図
【図8】この発明の他の実施形態である接近警告音発生装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1はこの発明の実施形態である接近警告音発生装置のブロック図である。接近警告音発生装置1は、ハイブリッド自動車、電気自動車など走行音の静かな車両(移動体)に搭載され、移動体の外部(主として前方)に接近警告音を放音して、歩行者等に車両が接近していることを知らせ、注意を喚起する装置である。さらに、この発明の接近警告音発生装置は、音響で歩行者等に注意を喚起することに加えて、接近警告音に情報を重畳することにより、接近警告音を放音することによって情報受信装置に対して情報を伝達する機能を備えている。
【0016】
接近警告音発生装置1は、このため、エンジン模擬音発生部2、情報符号化部3、変調部4、加算部5およびスピーカ6を備えている。エンジン模擬音発生部2は、ガソリンエンジンのエンジン音に模した音響信号を発生する機能部である。エンジン模擬音は実際のガソリンエンジンのエンジン音を記録したものを再生してもよく、音源を用いて近似させた音響信号を合成してもよい。
【0017】
情報符号化部3は、接近警告音に重畳される情報を音響信号に重畳可能な符号に変換する機能部である。接近警告音に重畳される情報としては、たとえば以下のようなものがある。
・移動体が接近しつつあることを表す情報
・警告音声文字列(受信側で文字列を音声合成)
・警告音情報(音色、メロディ指定等、受信側で警告音合成に用いる情報)
・移動体の現在の走行速度
・移動体の進行方向情報(進路変更、右左折中の報知)
・移動体の走行レーン(歩道よりを走っているかどうかを区別できるように)
・移動体の登録番号(車両ナンバー)
・移動体の種類(車種、タイプ、緊急自動車、自動運転の区別等)
・エンジン模擬音のON/0FF状態や音量(夜間サイレント走行モード等)
ただし、重畳される情報はこれらに限定されない。
【0018】
変調部4は、情報符号化部3から入力された情報符号が重畳された音声信号(変調信号)を生成する機能部である。変調方式としては、たとえば、M系列などの疑似ノイズ信号を情報符号で位相変調するスペクトラム拡散変調、情報符号でキャリア信号をFSK変調またはAM変調する方式等種々の方式を用いることができる。
【0019】
加算部5は、エンジン模擬音発生部2によって発生されたエンジン模擬音と変調部4で生成された変調信号とを加算合成し、合成音である接近警告音を出力する機能部である。この接近警告音はスピーカ6により外部に放音される。スピーカ6は主として車両の前方に向けて設置されるが、さらに車両の後方、側方に向けて設置してもよく、さらに車室内に設置してもよい。
【0020】
図2は、接近警告音の周波数特性を示す図である。同図(A)は、エンジン模擬音の周波数帯域と変調信号の周波数帯域とが分離された接近警告音の例を示す図である。変調方式、キャリア周波数等を適当に選択することにより、変調信号の周波数帯域を高音域に配置することができ、同図に示すように周波数スペクトルがエンジン模擬音と重なりあわないようにすることが可能である。エンジン模擬音を可聴帯域(0〜十数kHz)に配置し変調信号を非可聴帯域(十数kHz以上)に配置してこれらの占有周波数帯域を分離することにより、変調信号による情報伝達の信頼度を向上することができる。特に、ノイズに弱い変調方式を用いた場合にはこのようにすることが好ましい。
【0021】
図2(B)は、エンジン模擬音の周波数帯域と変調信号の周波数帯域とを重なり合わせた接近警告音の例を示す図である。エンジン模擬音は楽音でなくノイズの一種と考えられるため変調信号が重なり合っていても聴取者に殊更に不快感を与えることはない。したがって、変調信号の変調方式がノイズに強い方式(たとえばスペクトラム拡散方式等)であれば、同図のようにエンジン模擬音と変調信号の周波数帯域を分離しないことにより、変調部の構成を簡略化することができるとともに、接近警告音全体の占有周波数帯域を狭くすることができ、スピーカを含むオーディオ回路に広帯域のものを用いる必要がなくなる。
【0022】
以上のように、この実施形態の接近警告音発生装置は、情報が重畳された変調信号をエンジン模擬音に合成して生成された接近警告音を放音する。これにより、歩行者等に対しては、エンジン音に似た音響によって車両の接近を知覚させることができる。さらに、情報受信装置に対しては、接近警告音に埋め込まれた情報を受信・デコードさせ、この情報に応じた動作を行わせることができる。
【0023】
図3は、情報受信装置の一例を示す図である。この図では、歩行者が所持する各種物品に情報受信装置を組み込んだ例を示している。同図(A)は情報受信装置が内蔵された杖の例を示す図、同図(B)は情報受信装置が組み込まれた補聴器の例を示す図、同図(C)は情報受信装置が組み込まれた携帯音楽プレイヤーの例を示す図である。
【0024】
図3(A)において、杖100には情報受信装置101が内蔵されている。情報受信装置101は、マイク110、復調部111、振動部112を備えている。振動部112は杖100の手元(グリップ)100Aに内蔵されている。マイク110は接近警告音を含む音声を収音する。復調部111は、マイク110が収音した音声から、接近警告音に含まれる情報を復調する。復調部111が復調した情報は振動部112に入力される。振動部112は、入力された情報の内容に応じた態様で振動する。この振動は杖100の手元100Aを介して使用者の掌に伝わる。これにより、種々の情報を振動によって使用者に伝達することができる。
【0025】
情報の内容に応じた態様の振動とは例えば以下のようなものである。車両の接近を検出したとき、一定間隔で振動を発生する(たとえば1秒振動、1秒停止の繰り返しなど)。その接近する車両の速度が大きいほど振動の間隔を短くする。接近する車両が大型のとき振動を強くする等である。なお、接近する車両の大小や種類は、入力された情報の移動体の種別で判別することができる。また、車両登録番号で判断することもできる。
【0026】
図3(B)において、補聴器200は、補聴器の機能を果たすために、マイク201、増幅器202、イヤホン203を備えている。マイク201は、周囲の音声を収音して信号化する。増幅器202は、この音声信号を増幅してイヤホン203から出力する。さらに、補聴器200は、情報受信装置の機能を果たすために、復調部204、音声合成部205、加算部206を備えている。復調部204は、マイク201から音声信号を入力し、この音声信号に含まれている接近警告音に重畳されている情報を復調する。復調部202が復調した情報は音声合成部205に入力される。音声合成部205は、入力された情報の内容に応じた情報音声を合成する。合成された情報音声は加算部206に入力される。加算部206は、マイク201と増幅器202との間に挿入されており、マイク201が収音した音声信号と音声合成部205が合成した情報音声を加算して増幅器202に出力する。これにより、補聴器200の利用者は周囲の音声を増幅して聴くことができるとともに、車両(接近警告音発生装置)から送られてきた情報に応じた音声を併せて聴くことができる。
【0027】
情報の内容に応じた情報音声とは例えば以下のようなものである。自動車の接近を検出したとき「自動車が近づいてきています」の音声を合成する。接近する自動車が大型のときには「大型の自動車が近づいてきています」の音声を合成する。そして、その接近する自動車の速度が大きいほど音声の音量を大きくする等である。また、上記のようなアナウンス音声に代えてまたは加えて、効果音やメロディ再生によって情報の内容を報知してもよい。
【0028】
図3(C)において、携帯音楽プレイヤー300は、携帯音楽プレイヤーの機能を果たすために、音楽再生部301、増幅器302、イヤホン303を備えている。音楽再生部301は半導体メモリや超小型ハードディスクドライブ等のストレージおよびオーディオデコーダおよびオーディオデコーダを備え、ストレージに記憶されている音楽ファイルをオーディオデコーダでデコードしてオーディオストリーム信号として出力する。増幅器302は、音楽再生部301によって再生されたオーディオストリーム信号を増幅し、アナログ信号に変換してイヤホン303から出力する。さらに、携帯音楽プレイヤー300は、情報受信装置の機能を果たすために、マイク304、復調部305、音声合成部306、加算部307を備えている。マイク304は、周囲の音声を収音して信号化する。復調部305は、マイク304から音声信号を入力し、この音声信号に含まれている接近警告音に重畳されている情報を復調する。復調部305が復調した情報は音声合成部306に入力される。音声合成部306は、入力された情報の内容に応じた情報音声を合成する。合成された情報音声は加算部307に入力される。加算部307は音楽再生部301と増幅器302との間に挿入されており、音楽再生部301が再生したオーディオストリーム信号と音声合成部306が合成した情報音声を加算して増幅器302に出力する。これにより、携帯音楽プレイヤー300の利用者は所望の音楽を再生して聴くことができるとともに、車両が接近してきたとき、車両(接近警告音発生装置)から送られてきた情報に応じた音声を再生中の音楽と併せて聴くことができる。なお、情報の内容に応じた情報音声は、補聴器200の場合と同様でよい。
【0029】
なお、図3のブロック図ではフィルタの記載を省略しているが、目的の音声信号の周波数帯域、変調信号の周波数帯域等に合わせて、必要な信号を通過させ不要な信号を遮断するためのフィルタ(ハイ・パス・フィルタ、ロー・パス・フィルタ、バンド・パス・フィルタ、バンド・カット・フィルタ)を適宜挿入すればよい。
【0030】
また、情報受信装置は、歩行者等が所持するもの限定されない。たとえば、道路のある地点に固定された情報受信装置を設けてもよい。たとえば道路監視装置に情報受信装置を設け、道路の通行監視を行うことが可能である。
【0031】
以下、接近警告音発生装置に設けられる変調部、情報受信装置に設けられる復調部の一例について説明する。ここでは、差動符号化スペクトラム拡散変調を行う変調部、および、差動符号化スペクトラム拡散変調信号を復調する復調部の構成について説明する。
【0032】
図4(A)は、変調部4の構成例を示す図である。拡散符号発生部36は拡散符号を発生する。拡散符号としては、M系列等の一定の巡回周期を持つ擬似乱数符号列が用いられる。この拡散符号は乗算器37に入力される。また、情報符号化部3が符号化した情報符号も乗算器37に入力される。この情報符号は、1シンボル周期が拡散符号の1巡回周期と一致するように周期が調整されている。
【0033】
乗算器37は、情報符号と拡散符号とを乗算する。一般的にスペクトラム拡散変調と呼ばれる処理である。このスペクトラム拡散変調により、情報符号の値(1/0)によって拡散符号が巡回周期毎に位相変調されるとともに、情報符号の周波数スペクトルが拡散される。
【0034】
情報符号で変調された拡散符号は、差動符号化部38によって差動符号に変換される。差動符号化部38が行う差動符号化処理は、拡散符号の各チップの値をその絶対値から前チップからの変化を表す値に置き換える処理である。この差動符号化により、受信側の復調部において、送信側に正確に同期したクロックが無くても、遅延検波を用いて高精度にシンボルを復調することができる。
【0035】
図4(B)は差動符号化部38の例を示す図である。差動符号化部38は、拡散符号が入力されるXOR回路45と、XOR回路45の出力を1チップ遅延してXOR回路45の他方の入力端子に戻す1チップ遅延回路46で構成されている。XOR回路45の出力を1チップ遅延してフィードバックすることにより、XOR回路45は、入力された拡散符号とXOR回路45の1クロック前の出力(直前のチップ)との比較結果を差動符号として出力する。すなわち、XOR回路45は、拡散符号の各チップの絶対値が、直前の差動符号のチップとの位相変化の有無を表す差動符号に置き換えて出力する。これが差動符号化である。
【0036】
差動符号は、アップサンプリング部39に入力される。アップサンプリング部39は、入力された符号列をアップサンプリングする。すなわち、1チップを複数(N)個のチップに分割する。拡散符号発生部36が発生した拡散符号のチップレートとこのアップサンプリング部39におけるアップサンプリング率Nにより、送信(放音)される拡散符号のチップレートおよび帯域幅が決定される。
【0037】
アップサンプリングされた差動符号は、乗算器42においてキャリア(搬送波)信号と乗算され、高域へ周波数シフトされる。キャリア信号により高音域へシフトされたアップサンプリング差動符号は、変調信号として加算器34でエンジン模擬音と加算合成される。この合成信号が接近警告音として出力される。
【0038】
なお、変調信号の生成にアップサンプリング処理(アップサンプリング部39)および周波数帯域シフト処理(キャリア信号発生部41、乗算器42)は必須ではない。変調信号に対して周波数帯域シフト処理をした場合、接近警告音は図2(A)のような周波数特性となり、変調信号に対して周波数帯域シフト処理をしない場合、接近警告音は図2(B)のような周波数特性となる。
【0039】
図5は、情報受信装置の復調部111,204,305の構成例を示す図である。復調部には、マイクで収音された接近警告音を含む音声が入力される。入力された接近警告音は、遅延検波器51に入力される。遅延検波器51は、遅延器52および乗算器53を有している。遅延器52の遅延時間は、拡散符号の1シンボル分、すなわち送信側においてN倍にアップサンプリングされている場合には、受信した変調信号のNチップ(Nサンプル)分である。乗算器53は、1チップ分のサンプルと、遅延器52が(Nチップ遅延した)1チップ分のサンプルとを乗算する。この処理が上述した遅延検波処理である。この遅延検波処理によって、差動符号化された拡散符号が元の(アップサンプリングされた)拡散符号に復元される。
【0040】
乗算器53の乗算出力は、LPF54に入力される。LPF54は、キャリア成分をフィルタリングしてベースバンド信号を抽出するとともに、余計な雑音をフィルタリングしてSN比を向上させるためのフィルタである。
【0041】
LPF54の出力は、整合フィルタ55へ入力される。整合フィルタ55は、送信側でデータ符号の拡散に使用した拡散符号を係数に持つFIRフィルタで構成される。係数に使用する拡散符号のチップレートは、送信側におけるアップサンプリング後のチップレートと同じである。すなわち、同じ拡散符号の同じ符号が、整合フィルタ55において、アップサンプリング率N回繰り返すことになる。
【0042】
整合フィルタ55は、LPF54の出力波形と拡散符号との畳み込み演算を実行し、LPF54の出力波形と拡散符号との相関値を出力する。伝送路で受けた妨害や雑音は、拡散符号とは相関が低いため、整合フィルタが出力する相関値に大きな影響を与えない。よって、拡散処理により、外乱に強い伝送が可能となる。
【0043】
相関値は、拡散符号の周期で強い相関ピーク示し、そのピークの位相は、送信シンボルによって位相変調されているため、送信シンボルの1、−1に対応して、正のピーク、負のピークが現れる。整合フィルタ55の出力は、ピーク検出部56へ入力される。ピーク検出部56は、拡散符号の周期付近の大きなピークを検出し、相関ピークとする。検出された相関ピークは、符号判定部57へ入力される。符号判定部57は、ピーク位相からシンボルを復号し、これを復調された情報符号として出力する。
【0044】
図6は復調部の他の実施形態を示す図である。接近警告音発生装置1が放音する接近警告音は、搭載している車両が移動することにより、ドップラシフトして周波数が変動する。変調信号がドップラシフトして拡散符号の時間軸の長さが変動してしまい同期をとることができなくなる。そこで、図6に示す復調部は、受信した接近警告音(変調信号)のドップラシフト率を検出し、このドップラシフト率に応じて整合フィルタ55のフィルタ長を調整するとともに、ドップラシフト率に基づいて車両の移動速度を検出している。
【0045】
図6において図5と同様の構成部は同一番号を付して説明を省略する。この復調部は、図5に示した復調部に加えて、キャリア周波数検出部58、ドップラシフト率検出部59、フィルタ調整部60および速度算出部61をさらに備えている。
【0046】
入力された接近警告音は遅延検波器51に入力されるとともに、キャリア周波数検出部58に入力される。キャリア周波数は、差動符号を周波数シフトするためのキャリア信号、すなわちキャリア信号発生部41が発生し差動符号に乗算されて変調信号に残留しているキャリア信号の周波数を検出する機能部である。検出されたキャリア周波数は、ドップラシフト率検出部59に入力される。ドップラシフト率検出部59は、変調部4のキャリア信号発生部41が発生するキャリア信号の周波数F0を記憶しており、このキャリア信号周波数F0とキャリア周波数検出部58から入力されたキャリア周波数F1とに基づきドップラシフト率(F0/F1)を検出する。なお、ここではドップラシフト率として、通常用いられドップラシフト率(F1/F0)の逆数を用いている。なお、接近警告音にキャリア信号以外の特定周波数の信号が含まれている場合には、その信号を用いてドップラシフト率を検出してもよい。
【0047】
ドップラシフト率検出部59はこの検出したドップラシフト率をフィルタ調整部60に入力する。フィルタ調整部60は、入力されたドップラシフト率に基づき、遅延器52の遅延量の遅延量および整合フィルタ55のフィルタ長を調整する。すなわち、遅延器52の遅延量および整合フィルタ55のフィルタ長をドップラシフトがない場合のF0/F1倍に調整する。これにより、ドップラシフトによって変調信号の時間軸上の長さが変動した場合でも、この長さの変動に遅延器52および整合フィルタ55を追従させて検波且つ同期をとることが可能になる。
【0048】
さらに、ドップラシフト率検出部59が検出したドップラシフト率は、速度算出部61に入力される。速度算出部は、入力されたドップラシフト率に基づき、車両が自装置(マイク)に向かってくる速度を算出し、速度情報として出力する。車両が向かってくる速度aは、以下の式で算出することができる。ただしVは音速である。
a=V(1−F0/F1)
【0049】
これにより、車両の走行により、接近警告音(変調信号)がドップラシフトを受けていても、信頼性高く情報を復調することが可能になる。
【0050】
一方、図7は接近警告音発生装置の他の実施形態を示す図である。図6に示した変調部はドップラシフトを受けた変調信号をドップラシフトに追従して復調できる構成であったが、走行速度に応じて拡散符号の時間軸上の長さ(周期)を伸縮させるすることにより、受信側で見かけ上ドップラシフトが生じていないようにし、図5に示した構成の復調部でも情報を復調させることも可能である。
【0051】
図7は、車両の走行速度に応じて変調信号の時間軸上の長さを調整する機能を有する接近警告音発生装置の構成を示している。この図において、図1に示した接近警告音発生装置と同一構成の部分は同一番号を付して説明を省略する。この接近警告音発生装置は、図1に示した構成に加えて、ドップラシフト率算出部45、時間軸制御部46をさらに備えている。
【0052】
ドップラシフト率算出部45は、外部から車両の速度情報を入力し、この速度情報に基づいて、車両の走行方向正面の観測点における周期の変動率であるドップラシフト率(F0/F1)を算出する。その算出式は以下のとおりである。ただし、aは車両の走行速度、Vは音速である。
F0/F1=1−a/V
【0053】
時間軸制御部46は、算出されたドップラシフト率に基づいて、変調信号が進行方向正面の観測点で受信されたとき、変調信号の周期(周波数)が、静止している車両から送信された変調信号と同じになるように、変調信号の時間軸上の長さを伸縮させる。具体的には、変調信号の時間軸上の長さを、ドップラシフトによる変調信号の伸縮率(縮み率)F0/F1の逆数分F1/F0だけ伸長させる。
【0054】
このように走行速度に応じて変調信号の時間軸上の長さを伸縮させることにより、すなわち、実質的に拡散符号の周期(チップレート)を伸縮させることにより、走行する車両から変調信号を放音した場合であっても、受信装置では静止している車両から放音された変調信号と同じ周期の変調信号が受信されるため、図5に示したようなドップラシフトキャンセル機能がない復調部で情報符号の復調が可能となる。
【0055】
なお、この変調部では、変調信号の時間軸上の長さを伸縮することで変調信号の周期を変更しているが、変調部4の拡散符号発生部36が発生する拡散符号のチップレートを伸縮させることで変調信号の周期を変更するようにしてもよい。
【0056】
図7に示した接近警告音発生装置では、変調信号の時間軸上の長さを、車両の走行方向の正面におけるドップラシフト率に合わせて伸縮させている。したがって、車両の走行方向正面にある情報受信装置、または、すぐ近くをすり抜ける位置にある情報受信装置では、情報を復調可能である。一方、進行方向から離れた位置にある情報受信装置は、(進行方向に対する余弦が小さくなって)ドップラシフト率が異なるため、情報を復調できない。このことを利用して、走行する車両の走行方向に近い位置にある情報再生装置にのみ情報を再生させることが可能になる。
【0057】
なお、騒音を増加させないため、且つ、無用な変調信号を送信しないため、車両が停止している場合、接近警告音発生装置は接近警告音の発生を停止するようにすればよい。
【0058】
上記実施形態においては、エンジン模擬音を主警告音として用いたが、主警告音はこれに限定されない。たとえば、ベル、チャイム、ブザー等の音であってもよい。
【0059】
また、夜間走行時等で騒音を出したくないときには、主警告音の音量を絞ったり停止させたうえで変調信号を通常どおりの音量で放音するようにしてもよい。
【0060】
また上記実施形態では、主警告音であるエンジン模擬音に情報符号で変調された変調信号を加算合成して接近警告音としたが、エンジン模擬音を直接情報符号で変調してもよい。この場合、変調方式としては、たとえば周波数スペクトルシフト方式等が用いられる。
【0061】
また、エンジン模擬音に代えてM系列等の拡散符号列をそのまま接近警告音として放音し、この拡散符号に情報を重畳してもよい。拡散符号の周波数特性をエンジン音に似せたものに加工することにより、拡散符号をそのまま接近警告音として用いても、一般の歩行者が直感的に反応できる警告音にすることが可能である。
【0062】
図8は、拡散符号をそのまま接近警告音として用いる接近警告音発生装置のブロック図である。この図において、図4に示した変調部の構成と同一の部分は同一番号を付して説明を省略する。この接近警告音発生装置は、拡散符号発生部36が発生した疑似ノイズ信号をフィルタ49に通してエンジン音に近い周波数特性に加工している。これにより、別途エンジン模擬音を発生させて合成しなくても、拡散符号から作成された変調信号のみで接近警告音とすることができる。なお、フィルタ49はアップサンプリング部39の後段に設けてもよい。
【0063】
なお、図8の接近警告音発生装置にも、図7に示したドップラシフト率算出部45、時間軸制御部46を設けてもよい。
【0064】
なお、移動体は自動車(四輪車)に限定されない。たとえば、車両であっても二輪自動車、自転車などの軽車両に用いることができる。また、スケートボード、スノーボード、人間(歩行者、ランナー、スケートボーダー、スキーヤー等)、犬などに適用することも可能である。
【0065】
また、この接近警告音発生装置の、情報を変調して音響信号として放音することができる特性を利用し、接近警告音発生装置を車両のメンテナンスに利用することもできる。具体的には、例えば車のバッテリー残量やパーツ交換日時など、車の状態に関する情報を符号化して変調信号に重畳する。ディーラーの整備ブースや充電スタンドなどに車両を入れ、情報が重畳された接近警告音を放音する。整備ブースや充電スタンドには、マイクを備えた情報受信装置が備えられており、この情報受信装置が接近警告音に重畳された情報を復調して外部から容易に車両の状態を知ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 接近警告音発生装置
2 婉然模擬音(主警告音)発生部
4 変調部
101 情報受信装置
111,204,305 復調部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される装置であって、
主たる警告音を発生する主警告音発生部と、
符号化された情報によって変調された変調信号を生成する変調信号生成部と、
前記主警告音と前記変調信号とを合成して接近警告音を生成する合成部と、
前記接近警告音を前記移動体の少なくとも外部に放音する放音部と、
を備えた接近警告音発生装置。
【請求項2】
前記変調信号生成部は、
擬似ノイズ信号からなる拡散符号を発生する拡散符号発生部と、
前記拡散符号を前記符号化された情報で変調する変調部と、
を含む請求項1に記載の接近警告音発生装置。
【請求項3】
移動体に搭載される装置であって、
擬似ノイズ信号からなる拡散符号を発生する拡散符号発生部と、
前記拡散符号を前記符号化された情報で変調する変調部と、
前記前記変調された拡散符号を接近警告音として前記移動体の少なくとも外部に放音する放音部と、
を備えた接近警告音発生装置。
【請求項4】
前記移動体の移動速度に基づき、放音された接近警告音に生じるドップラシフトの大きさを算出するドップラシフト算出部と、
算出されたドップラシフトをキャンセルする比率で前記拡散符号の時間軸上の長さを伸縮させる時間軸制御部と、
を備えた請求項2または請求項3に記載の接近警告音発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−37350(P2011−37350A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185310(P2009−185310)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】