説明

描画データの作成方法、荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置

【目的】高精度パターンの寸法精度を向上させながらより高速な描画を可能とし得る方法を提供することを目的とする。
【構成】描画データの作成方法は、電子ビームを用いて描画される描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データを記憶する記憶装置から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す工程(S106)と、切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理する工程(S110)と、マージ処理されたパターンのデータと切り出されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとを出力する工程と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、描画データの作成方法、荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置に係り、例えば、電子線描画において用いる描画データを再構成して新たな描画データを作成する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図7は、可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という。
【0004】
昨今のパターンの微細化に伴って、電子ビーム描画はより高精度かつ高速な描画が求められている。かかる状況に対処するため、マスク内の描画パターンを描画精度に応じてランク付けする方法が提案されている。かかる手法では、高い精度が必要なメインパターンと低い精度で構わない周辺パターンを分離する。そして、それぞれ別々に描画データの演算処理等を行なう。そして、それぞれのパターンはそれぞれの精度に応じた描画パラメータで描画される。
【0005】
一方、かかる電子ビーム描画では、電子ビームをレジストが塗布されたマスクに照射してパターンを描画する場合、電子ビームがレジスト層を透過してその下の層に達し、再度レジスト層に再入射する後方散乱による近接効果と呼ばれる現象が生じてしまう。これにより、描画の際、所望する寸法からずれた寸法に描画されてしまう寸法変動が生じてしまう。そのため、従来、かかる近接効果を補正する種々の手法が提案されている。該当するパターンにおける近接効果を補正するためには、その位置から近接効果の影響範囲内にある周囲のパターンをも考慮する必要がある。
【0006】
ここで、上述したように、高い精度が必要なメインパターンと低い精度で構わない周辺パターンを分離しようとする場合、一方のパターンから見て、他方のパターンが近接効果の影響範囲内にその一部が跨っている場合がある。かかる場合、メインパターンと周辺パターンを分離してしまうと、メインパターンの近接効果補正ができなくなってしまうといった問題があった。その結果、メインパターンの寸法精度が低くなってしまう。
【0007】
ここで、近接効果補正に関連して、照射量の演算に用いる基準照射量Dbaseと、近接効果を補正するための近接効果補正係数ηといった値を位置に依存して変更して照射量を演算するといった手法も存在する(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、かかる手法においてもメインパターンと周辺パターンを分離してしまうと、メインパターンの近接効果補正ができなくなってしまうといった問題を解決することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−150423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、高い精度が必要なメインパターンと低い精度で構わない周辺パターンを分離したくても、一方のパターンから見て、他方のパターンが近接効果の影響範囲内にその一部が跨っている場合がある。かかる場合、メインパターンと周辺パターンを分離してしまうと、メインパターンの近接効果補正ができなくなってしまうといった問題があった。その結果、メインパターンの寸法精度が低くなってしまう。しかし、かかる問題に対して従来十分な手法が確立されていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、高精度パターンの寸法精度を向上させながらより高速な描画を可能とし得る方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の描画データの作成方法は、
荷電粒子ビームを用いて描画される描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データを記憶する記憶装置から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す工程と、
切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理する工程と、
マージ処理されたパターンのデータと切り出されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとを出力する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
かかる構成により、高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンが高精度側のパターンにマージ処理される。よって、高精度側のパターンに対して近接効果の補正を行うことができる。さらに、高速に描画可能な描画データを作成できる。
【0013】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、
荷電粒子ビームを用いて描画される描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データを記憶する記憶装置から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す工程と、
切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理する工程と、
マージ処理されたパターンのデータと、高精度側のパターンとマージ処理されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとに基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料にマージ処理されたパターンと残部分パターンとを異なる描画条件により描画する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
かかる構成により、高精度側のパターンに対して近接効果の補正を行うことができる。さらに、高速に描画できる。
【0015】
また、マージ処理されたパターンと残部分パターンとを描画する際に、描画条件として、最大ショットサイズとビーム偏向時のセトリング時間との少なくとも1つを変えて描画すると好適である。
【0016】
また、マージ処理されたパターンと残部分パターンとを描画する際に、マージ処理されたパターンと残部分パターンとの一方の描画が完了した後に、他方の描画を行なうと好適である。
【0017】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
荷電粒子ビームを用いて描画される描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データを記憶する記憶装置と、
前記記憶装置から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す切り出し部と、
切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理するマージ処理部と、
マージ処理されたパターンのデータと、高精度側のパターンとマージ処理されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとに基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料にマージ処理されたパターンと残部分パターンとを異なる描画条件により描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、高精度パターンの寸法精度を向上させながらより高速な描画を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図3】実施の形態1におけるパターンレイウアトの一例を示す図である。
【図4】実施の形態1における部分パターンの一例を示す図である。
【図5】実施の形態1における切り出された部分パターンがマージ処理された新たなパターンの一例を示す図である。
【図6】実施の形態1における同精度のパターン同士がマージ処理された新たなパターンの一例を示す図である。
【図7】可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0021】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型(VSB型)の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器(ブランカー)212、ブランキングアパーチャ214、第1の成形アパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、及び偏向器208が配置されている。描画室103内には、少なくともXY方向に移動可能なXYステージ105が配置される。XYステージ105上には、レジストが塗布された描画対象となる試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造するための露光用のマスクやシリコンウェハ等が含まれる。マスクにはマスクブランクスが含まれる。
【0022】
制御部160は、制御計算機120、磁気ディスク装置等の記憶装置144、および制御回路130を有している。制御計算機120、記憶装置144、および制御回路130は、図示しないバスを介して互いに接続されている。制御回路130は描画部150に接続され、描画部150内の各機構を駆動および制御する。
【0023】
また、描画データ作成装置500は、制御計算機110、メモリ111、磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。制御計算機110、メモリ111、記憶装置140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。制御計算機110内には、判定部50,52,58,60、切り出し部54、及びマージ処理部56が配置されている。判定部50,52,58,60、切り出し部54、及びマージ処理部56といった各機能は、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。或いは、電子回路等のハードウェアで構成されてもよい。或いは、これらの組み合わせであってもよい。制御計算機110に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ111に記憶される。
【0024】
描画データ作成装置500は、外部から入力され、記憶装置140に格納された描画データを再構成して、新たな描画データを作成する。具体的には、描画データは、描画精度の異なる複数のチップデータ(パターンデータ)で構成される。そして、描画データ作成装置500は、これらの複数のチップデータを描画精度別にマージ処理する。その際、後述するように、高精度パターンの近接効果補正が可能となるようにマージ処理を行う。そして、再構成された描画データは、記憶装置142に出力され、格納される。
【0025】
そして、描画装置100側では、かかる記憶装置142に格納された再構成された描画データを用いて、制御計算機120により複数段のデータ変換処理および近接効果補正演算を行なって、描画装置100に固有なショットデータを生成し、記憶装置144に格納する。制御回路130は、生成されたショットデータにしたがって描画部150を制御することで試料101にパターンを描画する。ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画データ作成装置500および描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。例えば、偏向器205や偏向器208のための各DACアンプユニットを備えていても構わない。また、例えば、外部装置とのインターフェース回路、プリンタ、モニタ、或いはキーボード等を備えていても構わない。
【0026】
ここで、図1では、描画データ作成装置500と描画装置100とが別の装置となっているが、これに限るものではない。描画データ作成装置500が描画装置100の一部の構成であっても構わない。また、かかる場合に、制御計算機110と制御計算機120とに区別せずに1つの制御計算機で構成されても構わない。
【0027】
図2は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図2において、実施の形態1における描画方法は、判定工程(S102)、判定工程(S104)、切り出し工程(S106)、判定工程(S108)、マージ処理工程(S110)、判定工程(S112)、マージ処理工程(S114)、データ変換工程(S120)、及び描画工程(S122)という一連の工程を実施する。ここで、判定工程(S102)、判定工程(S104)、切り出し工程(S106)、判定工程(S108)、マージ処理工程(S110)、及び判定工程(S112)は、描画方法の内部工程として、実施の形態1における描画データの作成方法の各工程に相当する。実施の形態1では、主に、描画データ作成装置500内で行う描画データを再構成して新たな描画データを作成する作成方法について説明する。
【0028】
記憶装置140内には、描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データが記憶されている。ここでは、描画精度の異なる複数のパターンのデータの一例として、複数のチップデータA,B,C,・・・が格納されている場合を示している。そして、各チップデータが定義するパターンに必要な描画精度が精度パラメータデータとして記憶装置140内に格納されている。一般に、複数のチップデータはマージ処理されて1つチップデータとして、描画装置100に入力される。或いは、描画装置100内で複数のチップデータは1つチップデータにマージ処理される。かかる状態で描画装置100により以降のデータ処理および描画処理を行なった場合、描画精度の有無に関わらず、同一の描画条件で描画を行なうことになる。その場合、高精度パターンの精度を低くすることはできないので、低精度パターンも高精度パターンと同様の描画条件で描画されることになる。その結果、描画速度が低下してしまう。そこで、高精度パターンと低精度パターンに分離して、それぞれ別のデータとして描画処理を行なう。しかし、単純に高精度パターンと低精度パターンに分離してしまうと、上述したように近接効果補正が困難になってしまう。
【0029】
図3は、実施の形態1におけるパターンレイウアトの一例を示す図である。図3では、一例として、高い描画精度(寸法精度)が必要なチップ12,14,16,18(チップA,B,C,D)と低い描画精度で構わない周辺パターン20(チップE)が試料101に描画される場合を示している。そして、高精度パターンとなるチップ12の周囲には、周辺パターン20が配置されている。同様に、チップ13の周囲には、周辺パターン20が配置されている。チップ16の周囲には、周辺パターン20が配置されている。チップ18の周囲には、周辺パターン20が配置されている。ここで、図3では、高精度側のチップ12のパターンの領域端から近接効果の影響範囲22内に周辺パターン20の一部が位置している。同様に、その他のチップ14,16,18のパターンの領域端から近接効果の影響範囲24,26,28内にそれぞれ周辺パターン20の一部が位置している。かかるレイアウトで、チップ12,14,16,18による高精度パターン側と周辺パターン20による低精度パターン側とを単純に分離してしまうと、特に、高精度パターン側のチップ12,14,16,18のパターンを描画する際、パターンの領域端付近での近接効果補正のための演算が困難になる。そこで、実施の形態1では、以下のようにパターンを分離して、描画データを再構成する。
【0030】
判定工程(S102)として、判定部50は、記憶装置140から各パターンのデータを入力し、当該パターンの領域端から近接効果の影響範囲内に他のパターンが存在するかどうかを判定する。図3の例では、まず、記憶装置140からチップデータAを入力し、チップデータAが定義するチップ12の領域端から近接効果の影響範囲22内に他のパターンが存在するかどうかを判定する。存在しない場合には、独立したチップデータAのままS112に進む。存在する場合にはS104に進む。近接効果の影響範囲22として、例えば、3σ(シグマ)の近接効果の影響半径にすると好適である。図3の例では、周辺パターン20が存在する。
【0031】
判定工程(S104)として、判定部52は、記憶装置140に格納された精度パラメータデータを参照して、当該パターンに定義された描画精度と比べて、当該パターンの領域端から近接効果の影響範囲内に存在した周辺パターンに定義された描画精度が低いかどうかを判定する。図3の例では、チップデータAが定義するチップ12に定義された描画精度と比べて、近接効果の影響範囲22内に存在した周辺パターン20に定義された描画精度が低いかどうかを判定する。近接効果の影響範囲22内に存在した周辺パターン20に定義された描画精度が低い場合にはS106へ、低くない場合にはS108へ進む。
【0032】
切り出し工程(S106)として、切り出し部54は、記憶装置140から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す。図3の例では、低精度側の周辺パターン20のうち、高精度側のチップ12の領域端から近接効果の影響範囲22内に位置する部分パターンを切り出す。
【0033】
図4は、実施の形態1における部分パターンの一例を示す図である。図4において、部分パターン以外のパターンは、点線で示している。高精度側のチップ12の領域端から近接効果の影響範囲22内には、低精度側の周辺パターン20の部分パターン32が位置する。そこで、切り出し部54は、周辺パターン20から部分パターン32を切り出す。
【0034】
判定工程(S108)として、判定部58は、判定工程(S104)において当該パターンの領域端から近接効果の影響範囲内に存在した周辺パターンに定義された描画精度が低くないと判定された場合に、当該パターンと周辺パターンに定義された描画精度が同精度かどうかを判定する。同精度ならS110に進み、同精度でなければS112に進む。
【0035】
マージ処理工程(S110)として、マージ処理部56は、切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理する。また、同精度と判定されたパターン同士をマージ処理する。
【0036】
図5は、実施の形態1における切り出された部分パターンがマージ処理された新たなパターンの一例を示す図である。図5において、当該高精度側のパターンとなるチップ12と切り出された部分パターン32とがマージ処理されて新たなパターンのチップ42となる。これにより、チップ12の近接効果補正の際に、部分パターン32を演算に含めることができる。その結果、チップ12の領域端付近のパターンも高精度な寸法を維持できる。部分パターン32についても近接効果補正の演算対象となるが、部分パターン32はもともと精度が低くても構わないので、近接効果補正を同様に行った場合にその周囲の影響を考慮できなくても構わない。
【0037】
判定工程(S112)として、判定部60は、全てのパターンについて終了したかどうかを判定する。まだパターンが残っている場合にはS102へ戻り、全てのパターンについて終了するまで判定工程(S102)から判定工程(S112)までを繰り返す。図3の例では、チップ12の他に、チップ14,16,18と周辺パターン20が存在するので、順に、判定工程(S102)から判定工程(S112)までを行う。
【0038】
その結果、チップデータBが定義するチップ14の領域端から近接効果の影響範囲24内にチップ14より描画精度が低い周辺パターン20が存在するので、図4に示す部分パターン34を切り出す。そして、図5に示すようにチップ14と部分パターン34とがマージ処理されて新たなパターンのチップ44となる。これにより、チップ14の近接効果補正の際に、部分パターン34を演算に含めることができる。その結果、チップ14の領域端付近のパターンも高精度な寸法を維持できる。
【0039】
同様に、チップデータCが定義するチップ16の領域端から近接効果の影響範囲26内にチップ16より描画精度が低い周辺パターン20が存在するので、図4に示す部分パターン36を切り出す。そして、図5に示すようにチップ16と部分パターン36とがマージ処理されて新たなパターンのチップ46となる。これにより、チップ16の近接効果補正の際に、部分パターン36を演算に含めることができる。その結果、チップ16の領域端付近のパターンも高精度な寸法を維持できる。
【0040】
同様に、チップデータDが定義するチップ18の領域端から近接効果の影響範囲28内にチップ18より描画精度が低い周辺パターン20が存在するので、図4に示す部分パターン38を切り出す。そして、図5に示すようにチップ18と部分パターン38とがマージ処理されて新たなパターンのチップ48となる。これにより、チップ18の近接効果補正の際に、部分パターン38を演算に含めることができる。その結果、チップ18の領域端付近のパターンも高精度な寸法を維持できる。
【0041】
一方、チップデータEが定義する周辺パターン20では、周囲のチップ12,14,16,18の方が描画精度が高いので、判定工程(S104)の後、判定工程(S108)へと進み、部分パターン32,34,36,38が切り出された残りの残部分パターンのデータのまま判定工程(S112)に進む。そして、判定工程(S112)において、全てのパターンについて終了したと判定されて、マージ処理工程(S114)に進む。
【0042】
マージ処理工程(S114)として、マージ処理部56は、パターンレイウアウト上で同精度のパターン同士をマージ処理する。
【0043】
図6は、実施の形態1における同精度のパターン同士がマージ処理された新たなパターンの一例を示す図である。図6において、切り出された部分パターン32,34,36,38がそれぞれマージ処理された新たなパターンのチップ42,44,46,48は、高精度側のパターンとして、同精度であるため、すべてマージ処理されて高精度パターンチップとなる。一方、部分パターン32,34,36,38が切り出された低精度側の残りの残部分パターン21は、チップ42,44,46,48とは描画精度が異なるので独立の低精度パターンチップとなる。
【0044】
以上のようにマージ処理されて再構成された、高精度パターンチップのデータと低精度パターンチップのデータで構成される描画データは、記憶装置142に出力され、格納される。以上のように描画データを作成することで、本来、高精度側のパターンに対して近接効果の補正を行うことができる。しいては、高速に描画可能な描画データを作成できる。
【0045】
データ変換工程(S120)として、制御計算機120は、記憶装置142から高精度パターンチップのデータと低精度パターンチップのデータとの一方を読み出し、複数段のデータ変換処理を行うと共に近接効果補正演算を行ない、ショットデータを生成する。生成されたショットデータは記憶装置144に記憶される。近接効果補正は、例えば電子ビームの照射量を補正することで補正できる。電子ビームの照射量D(x,U)は、例えば、基準照射量Dbaseと、近接効果を補正するための近接効果補正係数ηとパターン面積密度ρ或いは近接効果密度Uに依存した近接効果補正照射量Dp(η,U)との積で計算される。照射量計算式は例えば次の式(2)で定義される。また、関数U(x)は例えば次の式(1)で定義される。また、関数g(x)は例えばガウシアン分布関数を用いることができる。但し、近接効果補正および照射量計算式はこれらに限定するものではない。他の方法を用いても構わない。また、近接効果補正照射量Dp(η,U)を演算する際には、近接効果の影響範囲として、3σの影響半径を積分範囲とすればよい。
【0046】
【数1】

【0047】
【数2】

【0048】
描画工程(S122)として、描画部150は、マージ処理されたパターンのデータと、高精度側のパターンとマージ処理されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとに基づいて、電子ビーム200を用いて試料101にマージ処理されたパターンと残部分パターンとを異なる描画条件により描画する。具体的には、まず、生成されたショットデータに沿って、制御回路130が描画部150を以下のように動作させる。
【0049】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際にブランキング偏向器212によって、ビームONの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームOFFの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮へいされるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。ブランキング偏向器212は、通過する電子ビーム200の向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する。例えば、ビームONの状態では電圧を印加せず、ビームOFFの際にブランキング偏向器212に電圧を印加すればよい。かかる各ショットの照射時間Tで試料101に照射される電子ビーム200のショットあたりの照射量が調整されることになる。
【0050】
以上のようにブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形を行なう)ことができる。かかる可変成形はショット毎に行なわれ、通常ショット毎に異なるビーム形状と寸法に成形される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、偏向器208によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料の所望する位置に照射される。
【0051】
ここで、マージ処理された高精度側のパターンと低精度側の残部分パターンとを描画する際に、描画条件として、最大ショットサイズとビーム偏向時のセトリング時間との少なくとも1つを変えて描画する。すなわち、低精度側の残部分パターンを描画する際には、高精度側のパターンよりショットサイズを大きくする。ショットサイズを大きくすることでショット回数を低減でき、高速な描画が可能となる。また、ブランキング偏向器212、偏向器205,208の偏向制御には、偏向電圧印加のためのDAC(デジタルアナログ変換器)アンプが用いられる。前回の偏向制御から次の偏向制御を行なう際には、安定した偏向電圧が得られるまでのセトリング時間(静定時間)が必要となる。そこで、低精度側の残部分パターンを描画する際には、高精度側のパターンよりセトリング時間を短く設定する。セトリング時間を短くすることで描画精度は劣化するがセトリング時間を短縮でき、高速な描画が可能となる。或いは、多重露光を行う際の多重度Nを変更してもよい。すなわち、低精度側の残部分パターンを描画する際には、高精度側のパターンより多重度を小さくする。多重度を小さくすることで露光回数が減り、描画時間を短縮できる。例えば、高精度側のパターンを描画する際の多重度をN=4とし、低精度側のパターンを描画する際の多重度をN=2とすればよい。
【0052】
そして、同じ描画処理中にこれらの最大ショットサイズやセトリング時間の設定変更を行うことは描画制御を行なう上で複雑な制御手法となるので、ここでは、マージ処理されたパターンと残部分パターンとを描画する際に、マージ処理されたパターンと残部分パターンの一方の描画が完了した後に、他方の描画を行なう。すなわち、例えば、高精度パターン用の描画条件でマージ処理された高精度側のパターンのすべての描画処理が終了した後に、低精度パターン用の描画条件で低精度側の残部分パターンの描画処理を行う。或いは、その逆でもよい。XYステージ105を可変速で移動させることで、描画しない領域を高速で移動させることができる。制御計算機120でのショットデータ生成と描画処理はリアルタイムで進行させることができる。よって、例えば、マージ処理された高精度側のパターンのデータ変換処理を先に行い変換処理が終了した領域から順に描画を開始し、高精度側のパターンのデータ変換処理後、低精度側の残部分パターンのデータ変換処理を行い変換処理が終了した領域から順に描画を行う。
【0053】
以上のように、実施の形態1によれば、高精度パターンの寸法精度を向上させながらより高速な描画を可能にできる。
【0054】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0055】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0056】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての描画データの作成方法、荷電粒子ビーム描画方法及び荷電粒子ビーム描画装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
12,14,16,18,42,44,46,48 チップ
20 周辺パターン
21 残部分パターン
22,24,26,28 影響範囲
32,34,36,38 部分パターン
50,52,58,60 判定部
54 切り出し部
56 マージ処理部
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110,120 制御計算機
111 メモリ
130 制御回路
140,142,144 記憶装置
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 第1の成形アパーチャ
204 投影レンズ
205 偏向器
206 第2の成形アパーチャ
207 対物レンズ
208 偏向器
212 ブランキング偏向器
214 ブランキングアパーチャ
330 電子線
340 試料
410 第1のアパーチャ
411 開口
420 第2のアパーチャ
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース
500 描画データ作成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを用いて描画される描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データを記憶する記憶装置から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す工程と、
切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理する工程と、
マージ処理されたパターンのデータと切り出されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとを出力する工程と、
を備えたことを特徴とする描画データの作成方法。
【請求項2】
荷電粒子ビームを用いて描画される描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データを記憶する記憶装置から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す工程と、
切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理する工程と、
マージ処理されたパターンのデータと、高精度側のパターンとマージ処理されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとに基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料に前記マージ処理されたパターンと前記残部分パターンとを異なる描画条件により描画する工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記マージ処理されたパターンと前記残部分パターンとを描画する際に、前記描画条件として、最大ショットサイズとビーム偏向時のセトリング時間との少なくとも1つを変えて描画することを特徴とする請求項2記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記マージ処理されたパターンと前記残部分パターンとを描画する際に、前記マージ処理されたパターンと前記残部分パターンとの一方の描画が完了した後に、他方の描画を行なうことを特徴とする請求項2又は3記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
荷電粒子ビームを用いて描画される描画精度の異なる複数のパターンが定義された描画データを記憶する記憶装置と、
前記記憶装置から各パターンのデータを読み出し、描画精度が低精度側のパターンのうち、描画精度が高精度側のパターンの領域端から近接効果の影響範囲内に位置する部分パターンを切り出す切り出し部と、
切り出された低精度側の部分パターンと当該高精度側のパターンとをマージ処理するマージ処理部と、
マージ処理されたパターンのデータと、高精度側のパターンとマージ処理されずに残った低精度側の残部分パターンのデータとに基づいて、荷電粒子ビームを用いて試料に前記マージ処理されたパターンと前記残部分パターンとを異なる描画条件により描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−243805(P2011−243805A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115586(P2010−115586)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】