描画装置、および、物品の製造方法
【課題】 複数の荷電粒子線の間の不均一性の補償に有利な描画装置を提供すること。
【解決手段】 照射系(140)と、アパーチャアレイ(117)と、複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイ(119)と、複数の開口を備えた素子(122)と複数の投影ユニットとを含む投影系(170)と、を有する。レンズアレイ(119)は、上記複数のクロスオーバーのそれぞれの位置が上記素子における対応する開口に整合するように、該開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイ(162)と、上記複数のクロスオーバーを形成するように、補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイ(163)と、を含む。
【解決手段】 照射系(140)と、アパーチャアレイ(117)と、複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイ(119)と、複数の開口を備えた素子(122)と複数の投影ユニットとを含む投影系(170)と、を有する。レンズアレイ(119)は、上記複数のクロスオーバーのそれぞれの位置が上記素子における対応する開口に整合するように、該開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイ(162)と、上記複数のクロスオーバーを形成するように、補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイ(163)と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置においては、複数の荷電粒子線の間の特性の不均一性が問題となる。そのような不均一性として、具体的には例えば、各荷電粒子線の配置誤差や角度誤差等が挙げられる。これらの不均一性は、描画装置のオーバーレイ精度の点で不利となる。
【0003】
当該不均一性を補償する方法として、特許文献1に記載されている方法がある。この方法は、投影光学系の収差に応じて、その前側にあるアパーチャアレイやレンズアレイの各開口の位置をずらし、投影光学系に入射する荷電粒子線の配置・角度を意図的に不均一にしている。そして、当該不均一性が後側の投影光学系の収差によって生じる複数の荷電粒子線の間の不均一性を打ち消すように、アパーチャアレイおよびレンズアレイの各開口をずらす量が決められている。このようにして、複数の荷電粒子線の間の最終的な不均一性を補償している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3803105号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、各開口をずらす量には限界が存在する。この限界について図3を参照して説明する。後側の投影レンズ125の収差量が大きく、その前側で与えるべき開口201のずらし量が大きい場合、図3のように、集束レンズアレイ119において一部の荷電粒子線がけられてしまう。つまり、開口201をずらすことによってなされる補償は、集束レンズアレイ119でのけられによる限界が存在しており、当該けられによって制限されない範囲でしかできないという問題がある。
【0006】
投影系の収差による不均一性に限らず、開口をずらすことによって光学系(荷電粒子光学系)の収差による不均一性の補償を行う場合には、荷電粒子線の光学素子でのけられによる補償限界が存在する。しかしながら、従来は、このような補償限界の課題を解決する方法は示されていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、当該課題に鑑み、複数の荷電粒子線の間の不均一性の補償に有利な描画装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの側面は、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
発散する荷電粒子線が入射するコリメータレンズを含む照射系と、
前記コリメータレンズから射出した荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割するアパーチャアレイと、
前記アパーチャアレイから射出した複数の荷電粒子線からそれぞれ複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイと、
前記複数のクロスオーバーに対応する複数の開口を備えた素子と、該複数の開口に対してそれぞれ設けられて複数の荷電粒子線をそれぞれ前記基板上に投影する複数の投影ユニットと、を含む投影系と、を有し、
前記レンズアレイは、前記照射光学系の収差に依る入射角で前記アパーチャアレイに入射して前記レンズアレイにより形成される前記複数のクロスオーバーのそれぞれの位置が前記素子における対応する開口に整合するように、前記素子における対応する開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイと、前記複数のクロスオーバーを形成するように、前記補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイと、を含む、ことを特徴とする描画装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、複数の荷電粒子線の間の不均一性の補償に有利な描画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1の描画装置の構成を示す図
【図2】投影系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を示す図
【図3】レンズアレイでのけられによる補償限界を説明する図
【図4】レンズアレイの焦点距離を短くして補償限界を改善する構成と、その問題点とを示す図
【図5】投影系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【図6】実施形態2の描画装置の構成を示す図
【図7】投影系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【図8】実施形態3の描画装置の構成を示す図
【図9】照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る荷電粒子線を示す図
【図10】照射系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【図11】集束レンズアレイの焦点距離と集束レンズアレイでのけられとの関係、及び、アライナー実装スペースの問題を示す図
【図12】実施形態3の効果を示す図
【図13】実施形態3の効果を示すグラフ
【図14】コリメータレンズのデフォーカス調整の有無によるアパーチャアレイ・補正レンズアレイの開口配列の違いを示す図
【図15】実施形態4の描画装置の構成を示す図
【図16】アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列と、結像面における荷電粒子線配列とを示す図
【図17】実施形態5の描画装置の構成を示す図
【図18】照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る荷電粒子線と、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列ならびに結像面における荷電粒子線配列とを示す図
【図19】照射系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、原則として、全図を通じ同一の部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る描画装置(複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置)の構成を示す図である。本実施形態の描画装置は、複数の荷電粒子線に対して一つの投影系を有し、当該投影系により複数の荷電粒子線を一括してウエハー(基板)に縮小投影するように構成されている。全実施形態を通じて、荷電粒子線として電子線(電子ビーム)を用いた例を説明するが、それに限らず、イオン線等の他の荷電粒子線を用いてもよい。
【0013】
図1において、電子源108から、ウェーネルト電極109による調整を介して、アノード電極110によって引き出された電子ビームは、クロスオーバー調整光学系111(クロスオーバ調整系ともいう)によって(照射光学系)クロスオーバー112を形成する。ここで、電子源108は、LaB6やBaO/W(ディスペンサーカソード)等を電子放出部に含むいわゆる熱電子型の電子源としうる。クロスオーバー調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、各静電レンズは3枚の電極からなり、中間電極には負の電位を与え、上下電極は接地する、いわゆるアインツェル型の静電レンズとしうる。クロスオーバー112から広角をもって発散する電子ビームは、コリメータレンズ115によって平行ビームとなり、アパーチャアレイ117を照射する。
【0014】
コリメータレンズから射出してアパーチャアレイ117を照射した平行ビームは、アパーチャアレイ117によって分割され、マルチ電子ビーム118(複数の電子線)となる。マルチ電子ビーム118は、それぞれ集束レンズアレイ119によって集束され、ブランカーアレイ122(ブランキング偏向器アレイ)上に結像する(クロスオーバーを形成する)。ここで集束レンズアレイ119は、2段の静電レンズアレイで構成され、1段目の補正レンズアレイ162・2段目の拡大レンズアレイ163ともに3枚の多孔電極から構成されている。補正レンズアレイ162・拡大レンズアレイ163は、いずれも、3枚の電極のうち中間の電極には負の電位を与え、上下電極は接地する、アインツェル型の静電レンズアレイとしうる。なお、アパーチャアレイ117は、集束レンズアレイ119の瞳面における電子ビームの通過領域を規定する役割も持たせるため、補正レンズアレイ162の瞳面の位置(補正レンズアレイ162の前側焦点面の位置)に置かれている。
【0015】
ブランカーアレイ122は、1つの電子ビームごとに1対の偏向電極を持ったデバイスである。ブランカーアレイ122は、描画パターン発生回路102、ビットマップ変換回路103、ブランキング指令回路107を介して生成されたブランキング信号に基づき、複数の電子ビームのブランキングを個別に行う。ブランカーアレイ122によって偏向された電子ビーム125は、後側にあるストップアパーチャ123によって遮断され、ブランキング状態となる。
【0016】
ブランカーアレイ122を通ったマルチ電子ビームは、第1投影レンズ125によってストップアパーチャ123上の単一開口の略中心位置に集束される。マルチ電子ビームは、さらに、第2投影レンズ126によってそれぞれ集束され、その結果、ブランカーアレイ122上の中間結像面でのマルチ電子ビームのパターンがウエハー128上に縮小投影される。ここで、第1投影レンズ125及び第2投影レンズ126は、それぞれ磁界レンズで構成され、これらの磁界レンズは、いわゆるダブレットレンズを構成している。第1投影レンズ125及び第2投影レンズ126を含む投影系の投影倍率は、1/100倍程度に設定されうる。これにより、電子ビームの半値全幅(FWHM)は、例えば、ブランカーアレイ122の中間結像面上で2μmの場合、ウエハー128面上では20nm程度となる。
【0017】
電子光学系は、照射光学系140(照射系ともいう)、マルチビーム形成光学系150(マルチビーム形成系ともいう)、および投影光学系170(投影系ともいう)から構成される。照射光学系140は、電子源108からコリメータレンズ115までを含み、平行ビームを形成してアパーチャアレイ117を照射する。マルチビーム形成光学系150は、照射光学系140により照射された電子ビームをマルチ電子ビームに分割し、さらに複数のクロスオーバーを形成する。投影光学系170は、マルチビーム形成光学系150により形成された複数のクロスオーバーをウエハー128上に縮小投影する。本発明は、特に、マルチビーム形成光学系150の構成に関するものである。
【0018】
ウエハー上でのマルチ電子ビームのスキャンは、偏向器127により行うことができる。偏向器127は、8極の静電偏向器であり、磁界型の偏向器よりも高速で動作が可能である。偏向器127は、偏向信号発生回路104からの信号に従って駆動される。パターン描画にあたっては、ウエハー133はステージ129の移動によってX方向(紙面に垂直な方向)に連続的に移動する。それと並行して、ウエハー面上の電子ビーム130は、不図示のレーザー測長機によるステージ129の位置の計測結果に基づき、偏向器127によってY方向(紙面左右方向)に偏向される。また、それらと並行して、マルチ電子ビームは、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャ123によって、描画パターンに応じて個別にブランキングされる。このようにして、ウエハー128面上に高速に描画を行うことができる。
【0019】
図2は、本発明を適用しなかった場合における投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を示す図である。投影系の収差(球面収差)が存在する場合、無収差ならストップアパーチャの開口205の中心に到達するはずの電子線が、電子線がより外側になるほど図のようにより大きく電子源側にずれてしまう。ここで、図示した点204は、外側の2つの電子ビームの主光線の交点である。このように、電子ビームは、より外側になるほどより大きく電子源側に集束してしまい、マルチ電子ビーム全体をストップアパーチャ123の開口205の中心に集束させることができない。その結果、ウエハー面上でのランディング角やブランキング特性に不均一性が生じてしまう。
【0020】
それに対する1つの解決策が特許文献1の手法である。すなわち、集束レンズアレイの開口202の位置をアパーチャアレイの開口201の位置に対してずらすことによって、外側の電子ビームを外側に傾斜させて投影系に入射させることができる。これにより、外側の電子ビームもストップアパーチャの開口205の中心に到達させることができる。しかしながら、特許文献1の手法は、投影系の収差の補償を行うにあたり、補償の限界が存在しており、当該限界を超える補償を行うことはできない。
【0021】
図3は、当該補償限界を説明する図である。投影系の収差が大きく、外側の電子ビームをより大きな角度で外側に傾斜させなくてはならない場合、集束レンズアレイの開口202をずらす量を大きくする必要がある。しかし、その場合、図示したように、外側の電子ビームには、集束レンズアレイ119によるけられが発生してしまう。すなわち、特許文献1の手法では、集束レンズアレイ119による電子ビームのけられが発生しない範囲での収差補償しか行うことができない。
【0022】
図4は、レンズアレイの焦点距離を短くして補償限界を改善する構成と、その問題点とを示す図である。集束レンズアレイ119でのけられによる補償限界は、集束レンズアレイ119の焦点距離に反比例する。このため、図4のように集束レンズアレイ119の焦点距離を短くする(それ応じてアパーチャアレイ117と集束レンズアレイ119との間の距離も短くする)ことで補償限界を改善することができる。しかし、以下の2つの制約から、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすることは困難である。
【0023】
第1の制約は、ブランカーアレイ122とブランカーアレイ上の電子ビームの間の相対位置を合わせるためのアライナー偏向器120の実装スペース210が必要なことである。ここで、アライナー偏向器120は、集束レンズアレイ119とそれが形成する複数のクロスオーバーとの間の複数の荷電粒子線を一括して偏向して当該複数のクロスオーバーの位置を調整する偏向器である。図4のように、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くした場合、アライナー偏向器の実装スペース210が非常に狭くなり、アライナー偏向器120を実装することができない。その結果、ブランカーアレイ122とブランカーアレイ上の電子ビームとの間の相対位置を保障することができなくなる。
【0024】
第2の制約は、ブランカーアレイ122上に結像される電子ビームの収束角を大きくできないという制約である。ブランカーアレイ122による電子ビームの偏向角は、ブランカーアレイ122上に結像される電子ビームの収束角によって決まっているため、この収束角が大きくなるほどブランカーアレイ122に必要とされる偏向角は大きくなってしまう。ここで、ブランカーアレイ122上での電子ビームの収束角は集束レンズアレイ119の焦点距離に反比例するため、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くした場合には、この収束角は大きくなってしまう。
【0025】
要するに、補償限界を改善するために集束レンズアレイ119の焦点距離を短くする場合には、アライナー偏向器の実装スペースが確保できない点、および、ブランキングに必要な偏向角が増大してしまう点、の少なくとも一方に留意すべきである。
【0026】
これに対し本発明者は、集束レンズアレイ119を互いに開口配列の異なる2段の集束レンズアレイを含む構成とすることにより補償限界を改善する方法を見出した。図5は、投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する第1実施形態に係る構成を示す図である。特許文献1の発明と共通する特徴の説明は省略し、本実施形態の特徴部とその効果とに関して説明する。
【0027】
図3の構成に対する本実施形態の構成の相違点は、集束レンズアレイ119は、補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163の2段構成になっていて、かつ、それらの開口配列が互いに異なっている点である。2つのレンズアレイの役割を以下に説明する。
【0028】
まず、補正レンズアレイ162は、図4の構成における焦点距離の短い集束レンズアレイ119と同様に、投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する役割を有する。補償は、補正レンズアレイの開口501をアパーチャアレイの開口201に対してずらすことにより行う。ここで、マルチ電子ビームは、電子ビームがより外側になるほどより外側に傾斜して投影系に入射するように、補正レンズアレイの開口501をずらす量が調整されるようにする。補正レンズアレイ162の焦点距離は、要求される補償限界が得られるように短く設定される。
【0029】
次に、拡大レンズアレイ163は、補正レンズアレイ162によって電子ビームが結像される第1結像面151上の電子ビーム161を、主光線角度を変えずに拡大するためのレンズアレイである。図5を見ればわかるように、その開口502の配列は、各電子ビームの主光線の角度を変えないように、電子ビームの主光線が開口(レンズ)の中心位置を通るようになっている。主光線角度を変えずに拡大することにより、図4を用いて説明した課題が解決されていることが重要である。アライナー偏向器の実装スペースが取れなかった問題は、拡大レンズアレイ162によって静電レンズアレイ119とブランカーアレイ122との間の距離を長くすることによって解決している。さらに、ブランカーアレイ122上で電子ビームの収束角が大きくなってしまう問題は、第1結像面上の電子ビーム161を拡大することによって解決している。ここで、図からも明らかなように、ブランカーアレイ122上の電子ビームの収束角は、拡大倍率(1倍より大きい結像倍率)に反比例する。
【0030】
要するに、上述のような2段構成の集束レンズアレイ119によって、補償限界を改善しつつ、図4で説明したような制約に係る困難を回避することができる。
【0031】
図5の(A)は、補正レンズアレイの開口501の配列を実線で、アパーチャアレイの開口201の配列を点線で示したものである。補正レンズアレイの開口501の位置は、アパーチャアレイの開口201の位置に対し、開口がより外側になるほどより大きく外側にずらされている。その結果、開口がより外側になるほどより大きく外側に主光線が傾斜するようになる。
【0032】
図5の(B)は、拡大レンズアレイの開口502を実線で、アパーチャアレイの開口201を点線で示したものである。拡大レンズアレイの開口502の位置は、補正レンズアレイ162によって曲げられた電子ビームの主光線が、その開口502の中心位置を通るように、アパーチャアレイの開口201に対してずらされている。電子ビームがより外側になるほどより大きく電子ビームの主光線が外側に傾斜しているため、図5において、拡大レンズアレイの開口502をずらす量は、補正レンズアレイの開口501をずらす量よりも大きく設定されている。
【0033】
図5の(A)(B)に示すような互いに異なる開口配列の採用により、補正限界を改善することができる。本実施形態の技術的特徴は、上述したような2種の役割を持つレンズアレイを併用するところにある。したがって、例えば、補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の少なくとも一方を複数段のレンズアレイとして構成し、同様の効果を発揮させてもよい。
【0034】
[実施形態2]
図6は、実施形態2に係る描画装置の構成を示す図である。実施形態1との相違点は、ブランカーアレイ122の直上に投影アパーチャアレイ601がある点である。この投影アパーチャアレイ601の開口パターンを2段の投影レンズで縮小投影することにより、マルチ電子ビームのスポットをウエハー128上に形成している。
【0035】
このようなアパーチャの開口パターンを縮小投影するタイプの構成においても、投影系の収差により実施形態1の場合と同様の問題は起こりうる。すなわち、投影系の収差(球面収差)によって、電子ビームがより外側になるほどより大きく電子源側に電子ビームが集束してしまう。この場合も、上述したような補正レンズアレイ162と拡大レンズアレイ163との組み合わせにより、実施形態1の場合と同様の補償を行うことができる。
【0036】
図7は、投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する実施形態2に係る構成を示す図である。実施形態1とは異なる点は、補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の対応するレンズの組がいわゆるアフォーカル系を構成している点である。このようにすると、拡大レンズアレイ163の各レンズは、像面が無限遠となるため、無限大の拡大倍率(結像倍率)を有する拡大レンズとみなすことができる。それ以外の点においては、補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163の機能や構成は、実施形態1におけるものと同様であるため、説明は省略する。
【0037】
図7のように、補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163は、対応するレンズの組がアフォーカル系を構成している。このため、電子ビームがより外側になるほどより大きく主光線が外側に傾斜した平行電子ビーム群がそれぞれ対応する投影アパーチャアレイ601の開口に照射される。その結果、ストップアパーチャ123の単一の開口の中心位置にマルチ電子ビームが集束するようになる。
【0038】
[実施形態3]
これまで、投影光学系の収差によるマルチ電子ビームの特性の不均一性の補償に関して、補償限界を改善するための構成を説明してきた。しかしながら、そのような補償は、投影光学系の収差に対するものに限られず、例えば、照射光学系の収差に対しても適用可能である。特に、マルチ電子ビームの各々に関して投影ユニットを有するマルチカラム式の構成の場合、上述のような投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性は原理的に生じない。一方、電子ビームの数を増やすために照射光学系において利用する電子源からの電子ビームの発散角(発散半角)を大きくした場合、照射光学系の収差によるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性が問題となる。高スループットの描画装置を実現するためには、電子ビームの数を増やすことが有効である。このため、マルチカラム式描画装置において上記発散角を大きくした場合に生じるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性を補償することが高スループットの達成に重要となる。以下、照射光学系の収差によるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性を補償するための実施形態を説明する。
【0039】
図8は、実施形態3に係る描画装置の構成を示す図である。本実施形態の描画装置は、1つの電子ビームごとに投影ユニットを含む投影系を備えた、いわゆるマルチカラム式の描画装置である。なお、図1と共通する部分の説明は省略し、マルチカラム式に特有の構成を説明するため、ブランカーアレイ122以後の構成に関して説明する。
【0040】
ブランカーアレイ122によってマルチ電子ビームの個別の偏向によるブランキングがなされる。ブランカーアレイ122によって偏向された電子ビームは、1つの電子ビームごとに開口を有するストップアパーチャアレイ801(ブランキングストップアパーチャアレイ)によって遮断される。ブランカーアレイ122によって偏向された電子ビーム802は、図示したように遮断される。なお、本実施形態において、ブランカーアレイは2段で構成されており、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャアレイ801の後側に、それらと同じ構造の第2ブランカーアレイ804および第2ストップアパーチャアレイ805が配置されている。
【0041】
投影系は、1つの電子ビームごとに設けられ、第2集束レンズアレイ803、第3集束レンズアレイ807、第4集束レンズアレイ807(対物レンズアレイ)によって構成される。ここで、第2集束レンズアレイ803・第3集束レンズアレイ807・第4集束レンズアレイ808は、集束レンズアレイ119と同様に、アインツェル型の静電レンズアレイとしうる。特に、第4集束レンズアレイ808は、対物レンズアレイとなっていて、その投影倍率は、例えば、1/100倍程度に設定される。これにより、電子ビームの半値全幅は、例えば、ブランカーアレイ122の中間結像面上で2μmの場合、ウエハー128面上では20nm程度となる。
【0042】
電子光学系は、実施形態1と同様に、照射光学系140、マルチビーム形成光学系150、および投影光学系170から構成される。照射光学系140は、電子源108からコリメータレンズ115までを含み、平行ビームを形成してアパーチャアレイ117を照射する。マルチビーム形成光学系150は、照射光学系140により照射された電子ビームをマルチ電子ビームに分割し、さらに複数のクロスオーバーを形成する。投影光学系170は、マルチビーム形成光学系150により形成された複数のクロスオーバーをウエハー128上に個別に縮小投影する。本発明は、特に、マルチビーム形成光学系150の構成に関するものである。
【0043】
図9は、照射光学系140がアパーチャアレイ117を照射する照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームを示す図である。図9は、主として図8におけるマルチビーム形成光学系150を図示している。図9において、照射光学系クロスオーバー112から広角に放射された電子ビームは、コリメータレンズ115によって平行化される。しかし、照射光学系の照射する領域が大きい場合、照射光学系の収差により電子ビームは完全には平行化されず、照射角度に不均一性が生じてしまう。ここで、照射光学系の収差は、クロスオーバー調整光学系111の球面収差、コリメータレンズ115の球面収差、及び電子源とアパーチャアレイ117との間に現れる空間電荷効果(クーロン効果)による収差(凹レンズの球面収差とみなすことができる)できまる。
【0044】
例えば、上述した照射光学系の収差のうち、コリメータレンズ115の球面収差が支配的である場合を考える。この場合、凸レンズの球面収差(正の球面収差)により、アパーチャアレイ117への電子ビームの入射角204は、電子ビームがより外側になるほどより大きくなる(より内側に傾斜してしまう)。また、アパーチャアレイを通過したマルチ電子ビームの主光線205も、同様に、電子ビームがより外側になるほどより内側に傾斜した状態となる。これによって、集束レンズアレイ119を通過した電子ビームは、電子ビームがより外側になるほどより大きくブランカーアレイの開口203に対して内側にずれてしまうことになる。その結果、マルチ電子ビームの配列が不均一となり、外側の電子ビームがブランカーアレイ122の開口203の中心を通らなくなる。これは、結果として、ブランカーアレイ122の偏向特性の不均一性を引き起こしてしまう。
【0045】
図9の(A)は、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列、図9の(B)は、結像面(ブランカーアレイ122)上の電子ビーム配列を示したものである。結像面上の電子ビームは、照射光学系の収差によって、電子ビームがより外側になるほどより大きくブランカーアレイの開口203に対して内側にずれてしまう様子を示している。ここで、ブランカーアレイの開口203の配列は、一例として正方格子配列としているが、それに限らず、例えば、千鳥格子配列や多段千鳥格子配列など、他の規則性を有していてもよい。
【0046】
照射光学系の収差のうち、空間電荷効果による収差が支配的である場合、凹レンズの球面収差(負の球面収差)により、アパーチャアレイ117への電子ビームの入射角204は、逆に、電子ビームがより外側になるほどより大きく外側へ傾斜することになる。その結果、結像面上での電子ビームは、電子ビームがより外側になるほどより大きく外側にずれることになる。
【0047】
照射光学系の球面収差は、クロスオーバー調整光学系111及びコリメータレンズ115による凸レンズの球面収差(正の球面収差)と、空間電荷効果による収差(凹レンズの球面収差すなわち負の球面収差に相当)との和によって決まる。そのようにして決まる球面収差によって、アパーチャアレイを照射する光線が内側に傾斜してしまうか、外側に傾斜してしまうかが決まり、それに応じて、結像面上のビーム配列のずれも決まることになる。なお、実施形態3以降の全ての実施形態において、照射系の収差は、コリメータレンズ115の球面収差が支配的であるものとする。すなわち、アパーチャアレイへの電子ビームの入射角204は、電子ビームがより外側になるほどより大きく内側に傾斜してしまう不均一性を有している場合を例に説明する。
【0048】
図10は、照射光学系がアパーチャアレイを照射する照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームを示す図である。図10において、集束レンズアレイ119は、実施形態1と同様、補正レンズアレイ162と拡大レンズアレイ163とを含む2段構成となっている。まず、照射光学系の収差を補償する構成に関して図10を用いて説明し、そのような構成とする長所について図11・図12を用いて説明する。
【0049】
図10において、アパーチャアレイ117及び補正レンズアレイ162の開口位置は、ブランカーアレイの開口203の位置に対して共に同量だけずらされている。ここで、「同量」とは、ずらし量の差が所定の許容範囲内であることを意味し、換言すれば、「実質的に同量」を意味する。このアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口の変位量(ずらし量)は、照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ(傾斜)に応じて、例えば、像高の関数(例えば、3次の多項式)として設定される。また、拡大レンズアレイ163の開口位置は、ブランカーアレイの開口203の位置と一致するように、ずらさないで配置される。ここで、「一致」とは、位置ずれ量が所定の許容範囲内にあることを意味している(以下の記載に関しても同様)。
【0050】
このように、電子ビームの角度ずれに基づき、ブランカーアレイの開口203の位置に対し、アパーチャアレイ117及び補正レンズアレイ163の開口の位置をずらし、拡大レンズアレイ163の開口の位置はずらさない。この場合のマルチ電子ビームの軌道は、結像面上のビーム配列が目標とするビーム配列に一致するような軌道となる。マルチ電子ビームの配列の不均一性が補償されたことにより、外側の電子ビームもブランカーアレイの開口203の中心位置を通るようになり、ブランカーアレイ122の偏向特性が改善される。
【0051】
図10の(A)は、アパーチャアレイの開口201の配列及び補正レンズアレイの開口501の配列を示しており、これらの開口は、ブランカーアレイの開口203に対し、ともに同量だけずらされている。図10(B)は、拡大レンズアレイの開口502の配列を示し、拡大レンズアレイの開口502は、ブランカーアレイの開口203に対してずらされていない。図10(C)は、結像面上の電子ビーム121の配列を示し、補償の結果、電子ビーム121の位置はブランカーアレイの開口203の位置に一致している。
【0052】
ここで、アパーチャアレイ117は、補正レンズアレイ162の瞳面上(前側焦点面上)に置かれているのが好ましい。アパーチャアレイ117が補正レンズアレイ162の瞳面上に置かれた状態で、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口202を同量ずらした場合、補正レンズアレイ162の瞳面における電子ビームの通過領域は変化しない。そのため、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口中心が同軸上にある状態を保って開口位置を同量だけ変位させても、結像面に入射するマルチ電子ビームの主光線の角度は均一に保つことができる。つまり、アパーチャアレイ117を補正レンズアレイ162の前側焦点面に配置して上述の補償を行うことで、結像面上のマルチ電子ビームの配列の不均一性を補償できるだけでなく、結像面への電子ビームの入射角の均一性も保つことができる。
【0053】
なお、アパーチャアレイ117と補正レンズアレイ162との間に平行偏心がある場合、補正レンズアレイ162の瞳面における電子ビームの通過領域がマルチ電子ビーム全体で一様に変化し、結像面上においてマルチ電子ビーム全体が一様に傾斜することになる。このような均一な傾斜は、アライナー偏向120によって、一括の補正が容易に行える。問題は、マルチ電子ビームの間で生じる不均一性であって、本実施形態の目的は、照射光学系の収差によってマルチ電子ビームの間で生じる不均一性を低減することにある。
【0054】
続いて、集束レンズアレイ119を補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の2段構成とする長所について説明する。当該長所は、要するに、照射光学系の収差の補償に関して、実施形態1と同様に、補償限界を改善できる点にある。
【0055】
図11は、照射光学系の収差の補償に関して、補償限界を説明する図である。照射光学系の収差が大きくて照射角度のずれが大きい場合、図11の(A)のように、アパーチャアレイ117を透過した電子ビームは、集束レンズアレイ119によって蹴られてしまい、補償ができない。すなわち、照射光学系の場合も、投影光学系の場合と同様、集束レンズアレイ119によるけられによる補償限界が存在している。また、この補償限界を改善するためには、図11の(B)のように、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすればよく、この点も、投影系の場合と共通している。なお、図11の(A)のf1、図11の(B)のf2は、それぞれの場合の集束レンズアレイ119の焦点距離を示している。また、両者の関係は、f1>f2である。
【0056】
しかし、単純に集束レンズアレイ119の焦点距離を短くするだけでは、投影系の場合と同様の不都合が生じる。すなわち、補償限界を改善するために集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすると、アライナー偏向器の実装スペースがとれないこと、また、ブランキングに必要な偏向角が増大してしまうことが問題となる。図11の(C)および(D)は、それらの問題を示すものである。(C)に対して(D)のように集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすると、アライナー偏向器120の実装スペース210が十分に取れなくなること、また、ブランカーアレイ122上への電子ビームの収束角が大きくなってしまうことがわかる。
【0057】
ここで、図12は、実施形態3の効果を示す図である。図12で示されるように、集束レンズアレイ119を補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の2段構成とすることにより、補正限界が改善するとともに、上述の2つの問題を解決できることが分かる。すなわち、実施形態1の場合と同様に、拡大レンズアレイ163を設けたことにより、アライナー偏向器の実装スペース210を確保できるようになり、また、ブランカーアレイ122上への電子ビームの収束角も小さくなっている。
【0058】
図13は、実施形態3の構成によって、照射系の収差による照射角度の不均一性の補償限界が改善する効果を示すグラフである。ここでは、照射光学系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する場合を例示するが、投影光学系の収差による不均一性を補償する実施形態1・2の場合も同様の傾向となる。グラフは、集束レンズアレイ119を2段構成として補正レンズアレイ162の焦点距離fをf=16mm、f=32mm、f=64mmとした場合と、集束レンズアレイ119を一段構成として焦点距離fをf=100mmとした場合とを示す。横軸に照射角度の補正量(μrad)をとり、縦軸に収差量(ウエハー面換算値、nm)をとったものである。各々のプロットの右端が集束レンズアレイでのけられによる補償限界である。このグラフから、補正レンズアレイおよび拡大レンズアレイの2段構成とすることにより、1段構成の場合には約50uradである補正限界をその数倍程度まで改善できることがわかる。
【0059】
ここで、図13のグラフを参照するに、補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の2段構成とした場合、収差が増大してしまっていることがわかる。しかし、投影系170の収差と比較してマルチビーム生成光学系150の収差は非常に小さいため、マルチビーム生成光学系150の収差の多少の増大は許容しうるものである。ただし、補正レンズアレイ162の焦点距離を短くするほど収差が増加することには留意するべきである。すなわち、補正限界と収差とはトレードオフの関係にある点に留意が必要である。
【0060】
続いて、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501をずらす量を軽減するためのデフォーカス調整に関して、図14を参照して説明する。なお、ここでは、照射光学系に対するデフォーカス調整を例にして説明するが、同様の調整は、実施形態1または2における投影光学系に対しても行うことができる。
【0061】
本実施形態において、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501をずらす量は、具体的には、像高Y、照射光学系の球面収差係数Cs、コリメータレンズの焦点距離f、デフォーカス調整量Δfによって決定される。ここで、照射光学系の球面収差係数Csは、Cs=Cs(CO-adjust)+Cs(CL)+Cs(Coulomb)で表わされる。Cs(CO−adjust)は、クロスオーバー調整光学系の球面収差係数、Cs(CL)は、コリメータレンズの球面収差係数、Cs(Coulomb)は、空間電荷効果による収差を凹レンズの球面収差とみなしたときの球面収差係数である。照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ量Δθは、上述のパラメータを用いて、Δθ=Cs(Y/f)3+Δf(Y/f)として近似的に表わされる。この式は、像高Yに関して3次の多項式である。
【0062】
図14は、本実施形態において、コリメータレンズのデフォーカス調整の有無によるアパーチャアレイ・補正レンズアレイの開口配列の違いを示す図である。図14の(A)は、デフォーカス調整量Δfが0の場合のアパーチャアレイの開口201の配列及び補正レンズアレイの開口501の配列を示す。図14の(B)は、デフォーカス調整を行った場合のアパーチャアレイの開口201の配列及び補正レンズアレイの開口501の配列を示す。図14の(C)は、像高Y(照射位置)を横軸に、照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ量(電子ビームが内側に傾斜した場合を正とする)を縦軸にとったグラフである(Cs=5000mm、f=500mm、Δf=1.5mmの場合)。
【0063】
図14の(C)において、デフォーカス調整がない場合の電子ビームの角度ずれ量は、像高Yの3乗に比例するため、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口の位置をずらす量は、図14の(A)のように、像高Yの3乗に比例させる。一方、図14の(C)において、デフォーカス調整を行った場合の電子ビームの角度ずれ量は、像高Yの3乗に比例する項と、像高Yに比例するデフォーカス項との和により表される。このため、デフォーカス調整を行った場合の電子ビームの角度ずれ量は、図14の(C)からわかるように、像高Yが小さな領域では、負になり、像高Yが大きな領域では、正となる。よって、この場合、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口は、図14の(B)のように、ブランカーアレイの開口203に対し、像高の小さな領域では内側にずらせばよい(開口1401参照)。また、像高の大きな領域では外側にずらせばよい(開口1402参照)。
【0064】
このように、デフォーカス調整を行った場合は、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列が多少複雑になる。しかし、図14の(C)のグラフから明らかなように、デフォーカス調整を行った場合のほうが電子ビームの角度ずれ量の絶対値のレンジは小さくなる。すなわち、デフォーカス調整を行ったほうがアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口をずらす量を小さくできるというメリットがある。このことは、図14の(A)と図14の(B)とを比較するとよくわかる。
【0065】
以上のようにデフォーカス調整の有無によってそれぞれ長所短所がある。本実施形態に限らず、全ての実施形態において、デフォーカス調整によってアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列は変化しうる。したがって、実施形態で示す開口配列は例示に過ぎない。すなわち、当該開口配列はデフォーカス調整に応じて変化させるべきであるものの、光学系の収差に依存するマルチ電子ビームの間の不均一性を開口配列の異なる多段のレンズアレイで補償する構成は、全実施形態に共通するものである。
【0066】
[実施形態4]
図15は、実施形態4に係る描画装置の構成を示す図である。図8(実施形態3)に係る描画装置とは異なる構成をした電子源アレイ1510及びマルチビーム形成光学系150の部分のみを説明する。電子源アレイ1510は、熱電界放出型の電子源(thermal field−emission (TFE) electron source (electron gun))を複数並べたものである。アレイ状に並んだ熱電界放出型エミッタ1501から放出された電子ビーム群は、同様にアレイ状に並んだクロスオーバー調整光学系111によって、同様にアレイ状に並んだ(照射光学系)クロスオーバー112を形成する。ここで、熱電界放出型エミッタ1501には、例えば、ZrO/W等の電界放出に適したカソード材が用いられる。
【0067】
アレイ状に並んだ照射光学系クロスオーバー112から放射された複数の電子ビーム114は、コリメータレンズアレイ1505によってそれぞれ平行化され、互いにオーバーラップしない複数の電子ビームとなる。そして、各電子ビームは、アパーチャアレイ117上のサブアレイ領域を照射する。本実施形態では、サブアレイ領域は9(=3×3)領域あるものとする。図11を参照するとわかるように、電子源アレイ1510のうちの一つの電子源のみに注目すれば、それに対応する電子光学系の構成は、図8の構成と等価である。すなわち、本実施形態は、照射光学系とアパーチャアレイとレンズアレイと投影ユニットとを含む組を並列に複数有する構成となっている。よって、実施形態3で説明した補償は、サブアレイ領域を単位として設けられた複数の電子光学系において並列に行うことができる。
【0068】
図16の(A)は、3×3のサブアレイ領域におけるアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列、図16の(B)は、対応する拡大レンズアレイの開口配列、図16の(C)は、結像面上のビーム配列をそれぞれ示す。図16の(A)に示すように、各サブアレイ領域において、照射光学系の収差による電子ビームの角度の不均一性を補償するように、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501をブランカーアレイの開口203に対してずらしている。一方、拡大レンズアレイの開口502は、図16の(B)に示すように、ブランカーアレイの開口203に対してずらしていない。
【0069】
同一の照射光学系が並列に構成されている場合、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列はどのサブアレイでも同一としうる。なお、図16(A)において、アパーチャアレイ117は集束レンズアレイの前側焦点面701に置かれており、アパーチャアレイの開口201と集束レンズアレイの開口202とは同量だけずらすようにしている。
【0070】
実施形態3に係る補償を図16(A)のようにサブアレイ毎に適用することによって、図16(C)のようにマルチ電子ビームの間の不均一性が補償される。このように、サブアレイ毎に照射光学系が設けられていれば、サブアレイ毎に補償を実施できるという点が重要である。したがって、例えば、各コリメータレンズのデフォーカス調整を行った場合、アパーチャアレイ・補正レンズアレイの開口配列は、図14で示したような開口配列をサブアレイ毎に適用した開口配列とすればよいのは明らかである。
【0071】
[実施形態5]
図17は、実施形態5に係る描画装置の構成を示す図である。同図において、上部の電子源108からアパーチャアレイ117までは、図8(実施形態3)に係る描画装置の構成と同様の構成となるため、繰り返しの説明は省略し、アパーチャアレイ117より後側の構成に関して説明する。
【0072】
アパーチャアレイ117によって形成されたマルチ電子ビームは、補正レンズアレイ162によって中間結像面160上に一旦結像された(クロスビームを形成した)のち、拡大レンズアレイ163によって再び集束される。実施形態5において、拡大レンズアレイ163のレンズパワーは、後側のストップアパーチャアレイ1702上のアパーチャ1703にマルチビームが集束するように設定される。
【0073】
拡大レンズアレイ163を通過したマルチ電子ビームは、ただちに投影アパーチャアレイ601によってさらに分割される。図17は、一つの電子ビームを3×3の電子ビーム(サブマルチ電子ビーム群)へと分割する場合を示している。
【0074】
サブマルチ電子ビーム群は、拡大レンズアレイ163のレンズパワーの設定により、ストップアパーチャアレイ1702上で集束する。ここで、ストップアパーチャアレイ1702には各サブマルチ電子ビーム群に対して1つの開口が設けられている。そして、ストップアパーチャアレイ1702の開口1703の配列は、投影アパーチャアレイ601の3×3のサブ開口アレイの中心の開口の配列と一致するように構成されている。
【0075】
投影アパーチャアレイ601の直下にはブランカーアレイ122が備えられていて、各電子ビームは、偏向によるブリンキング動作が個別に可能となっている。ある電子ビームをブリンキングしたい場合、ブランカーアレイ122の対応する電極に電圧を印加し、ストップアパーチャアレイ1702によって当該電子ビームを遮断する。ブランカーアレイによって偏向された電子ビーム125を図中に例示されている。
【0076】
ストップアパーチャアレイ1702を通過したサブマルチ電子ビーム群は、第2集束レンズアレイ1704によって集束され、ウエハー128の表面に結像される。第2集束レンズアレイの物体面は、投影アパーチャアレイ601となっていて、投影アパーチャアレイ601の3×3のサブ開口アレイは、ウエハー128の表面に縮小投影される。投影アパーチャアレイ601の開口径は、例えば2.5μmであり、第2集束レンズアレイ1704の投影倍率は例えば1/100倍である。その場合、ウエハー128の表面上には、ビーム径25nmの電子ビームが投影されることになる。
【0077】
また、ストップアパーチャアレイ1702は、第2集束レンズアレイ1704の前側焦点面位置に置かれていて、第2集束レンズアレイ1704の瞳面における電子ビームの通過領域を規定している。ストップアパーチャアレイ1702の近傍には偏向器アレイ1701が置かれ、偏向器アレイ1701によりサブマルチ電子ビームのスキャンを行うことができる。偏向器アレイ1701の各電極対は、装置の複雑化を避けるため、共通の印加電圧で駆動されうる。また、各電極対の構造は、くし歯状の対向電極で構成されうる。
【0078】
図18は、アパーチャアレイ117を照射する電子ビームの照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビーム、及び、ストップアパーチャアレイ上の電子ビーム配列を示す図である。照射光学系の収差によって電子ビームの照射角度が不均一となった場合、前述のように、集束レンズアレイ119によって集束される電子ビームの配列が不均一となってしまう。本実施形態の場合、集束レンズアレイ119の結像面はストップアパーチャアレイ1702であり、よって、ストップアパーチャアレイ1702上でのサブマルチ電子ビームの配列は、照射光学系の収差によって不均一になってしまう。その配列を示したのが図18の(B)である。図9の(B)の場合と同様に、電子ビームがより外側になるほどより大きくストップアパーチャアレイの開口1703の位置よりも内側に到達(集束)してしまう不均一性が生じる。
【0079】
本実施形態においては、マルチ電子ビームを投影アパーチャアレイ601によってさらに分割しているため、投影アパーチャアレイ601に照射される電子ビームが傾斜している影響も新たに考慮する必要がある。図18を参照するとわかるように、投影アパーチャアレイ601に照射される電子ビームは、照射光学系の収差によって、電子ビームがより外側になるほどより大きく内側に傾斜する。その結果、サブマルチ電子ビーム群の各主光線は、電子ビームがより外側になるほどより大きく内側に傾斜してしまう(図18の中央のサブ電子ビーム群と左または右のサブ電子ビーム群とを比較するとわかる)。このため、ストップアパーチャアレイの開口1703によって規定される電子ビームの角度分布は、サブマルチ電子ビームの間でばらついてしまう。その結果、ウエハー133面上における電子ビームの配列や電子ビームの電流強度に不均一性が引き起こされる。
【0080】
図19は、本実施形態の構成において電子ビームの照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ、補正レンズアレイ及び拡大レンズアレイを通る電子ビームと、ストップアパーチャアレイ上の電子ビームの配列とを示す図である。アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501の位置は、ストップアパーチャアレイの開口1703の位置に対して、図19の(A)のように、像高に関して3次の多項式に従ってずらしている。一方、拡大レンズアレイの開口502の位置は、ストップアパーチャアレイの開口1703の位置に一致させるようにしている。すなわち、実施形態3において構成の基準とした開口がブランカーアレイの開口203であるのに対して、本実施形態における基準開口はストップアパーチャアレイの開口1703である。
【0081】
図19に示す本実施形態の構成により、サブマルチ電子ビームの各主光線の傾斜角がずれることなく、かつ、ストップアパーチャアレイの開口1703の中心にサブマルチ電子ビームが集束するように、照射光学系の収差を補償することができる。また、集束レンズアレイ119を補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163の2段の静電レンズアレイを含んで構成することによって補償限界を改善できる点も他の実施形態の場合と同様である。
【0082】
[実施形態6]
本発明の実施形態に係る物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板の該感光剤に上記の描画装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板に描画を行う工程)と、当該工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含みうる。さらに、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、アパーチャアレイの開口はずらさずに集束レンズアレイの開口をずらすようにしてもよい。そして、そのようにして、集束レンズアレイの形成するクロスオーバーの位置をブランカーアレイまたはストップアパーチャアレイ等の後側の素子の開口(の中心)に整合または一致させるように構成してもよい。但し、当該構成は、当該素子の開口に入射する電子ビームの主光線が光軸とは平行にならないため、その点には留意が必要である。当該構成は、例えば、そのような主光線の角度ずれが許容できる場合や、当該角度ずれを補償する光学要素を別途追加する場合には、利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
117 アパーチャアレイ
119 集束レンズアレイ(レンズアレイ)
122 ブランカーアレイ(投影系における複数の開口を備えた素子)
140 照射光学系(照射系)
162 補正レンズアレイ
163 拡大レンズアレイ
170 投影光学系(投影系)
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置においては、複数の荷電粒子線の間の特性の不均一性が問題となる。そのような不均一性として、具体的には例えば、各荷電粒子線の配置誤差や角度誤差等が挙げられる。これらの不均一性は、描画装置のオーバーレイ精度の点で不利となる。
【0003】
当該不均一性を補償する方法として、特許文献1に記載されている方法がある。この方法は、投影光学系の収差に応じて、その前側にあるアパーチャアレイやレンズアレイの各開口の位置をずらし、投影光学系に入射する荷電粒子線の配置・角度を意図的に不均一にしている。そして、当該不均一性が後側の投影光学系の収差によって生じる複数の荷電粒子線の間の不均一性を打ち消すように、アパーチャアレイおよびレンズアレイの各開口をずらす量が決められている。このようにして、複数の荷電粒子線の間の最終的な不均一性を補償している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3803105号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、各開口をずらす量には限界が存在する。この限界について図3を参照して説明する。後側の投影レンズ125の収差量が大きく、その前側で与えるべき開口201のずらし量が大きい場合、図3のように、集束レンズアレイ119において一部の荷電粒子線がけられてしまう。つまり、開口201をずらすことによってなされる補償は、集束レンズアレイ119でのけられによる限界が存在しており、当該けられによって制限されない範囲でしかできないという問題がある。
【0006】
投影系の収差による不均一性に限らず、開口をずらすことによって光学系(荷電粒子光学系)の収差による不均一性の補償を行う場合には、荷電粒子線の光学素子でのけられによる補償限界が存在する。しかしながら、従来は、このような補償限界の課題を解決する方法は示されていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、当該課題に鑑み、複数の荷電粒子線の間の不均一性の補償に有利な描画装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの側面は、複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
発散する荷電粒子線が入射するコリメータレンズを含む照射系と、
前記コリメータレンズから射出した荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割するアパーチャアレイと、
前記アパーチャアレイから射出した複数の荷電粒子線からそれぞれ複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイと、
前記複数のクロスオーバーに対応する複数の開口を備えた素子と、該複数の開口に対してそれぞれ設けられて複数の荷電粒子線をそれぞれ前記基板上に投影する複数の投影ユニットと、を含む投影系と、を有し、
前記レンズアレイは、前記照射光学系の収差に依る入射角で前記アパーチャアレイに入射して前記レンズアレイにより形成される前記複数のクロスオーバーのそれぞれの位置が前記素子における対応する開口に整合するように、前記素子における対応する開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイと、前記複数のクロスオーバーを形成するように、前記補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイと、を含む、ことを特徴とする描画装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、例えば、複数の荷電粒子線の間の不均一性の補償に有利な描画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1の描画装置の構成を示す図
【図2】投影系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を示す図
【図3】レンズアレイでのけられによる補償限界を説明する図
【図4】レンズアレイの焦点距離を短くして補償限界を改善する構成と、その問題点とを示す図
【図5】投影系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【図6】実施形態2の描画装置の構成を示す図
【図7】投影系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【図8】実施形態3の描画装置の構成を示す図
【図9】照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る荷電粒子線を示す図
【図10】照射系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【図11】集束レンズアレイの焦点距離と集束レンズアレイでのけられとの関係、及び、アライナー実装スペースの問題を示す図
【図12】実施形態3の効果を示す図
【図13】実施形態3の効果を示すグラフ
【図14】コリメータレンズのデフォーカス調整の有無によるアパーチャアレイ・補正レンズアレイの開口配列の違いを示す図
【図15】実施形態4の描画装置の構成を示す図
【図16】アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列と、結像面における荷電粒子線配列とを示す図
【図17】実施形態5の描画装置の構成を示す図
【図18】照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る荷電粒子線と、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列ならびに結像面における荷電粒子線配列とを示す図
【図19】照射系の収差による複数の荷電粒子線の間の不均一性を補償する構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、原則として、全図を通じ同一の部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る描画装置(複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置)の構成を示す図である。本実施形態の描画装置は、複数の荷電粒子線に対して一つの投影系を有し、当該投影系により複数の荷電粒子線を一括してウエハー(基板)に縮小投影するように構成されている。全実施形態を通じて、荷電粒子線として電子線(電子ビーム)を用いた例を説明するが、それに限らず、イオン線等の他の荷電粒子線を用いてもよい。
【0013】
図1において、電子源108から、ウェーネルト電極109による調整を介して、アノード電極110によって引き出された電子ビームは、クロスオーバー調整光学系111(クロスオーバ調整系ともいう)によって(照射光学系)クロスオーバー112を形成する。ここで、電子源108は、LaB6やBaO/W(ディスペンサーカソード)等を電子放出部に含むいわゆる熱電子型の電子源としうる。クロスオーバー調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、各静電レンズは3枚の電極からなり、中間電極には負の電位を与え、上下電極は接地する、いわゆるアインツェル型の静電レンズとしうる。クロスオーバー112から広角をもって発散する電子ビームは、コリメータレンズ115によって平行ビームとなり、アパーチャアレイ117を照射する。
【0014】
コリメータレンズから射出してアパーチャアレイ117を照射した平行ビームは、アパーチャアレイ117によって分割され、マルチ電子ビーム118(複数の電子線)となる。マルチ電子ビーム118は、それぞれ集束レンズアレイ119によって集束され、ブランカーアレイ122(ブランキング偏向器アレイ)上に結像する(クロスオーバーを形成する)。ここで集束レンズアレイ119は、2段の静電レンズアレイで構成され、1段目の補正レンズアレイ162・2段目の拡大レンズアレイ163ともに3枚の多孔電極から構成されている。補正レンズアレイ162・拡大レンズアレイ163は、いずれも、3枚の電極のうち中間の電極には負の電位を与え、上下電極は接地する、アインツェル型の静電レンズアレイとしうる。なお、アパーチャアレイ117は、集束レンズアレイ119の瞳面における電子ビームの通過領域を規定する役割も持たせるため、補正レンズアレイ162の瞳面の位置(補正レンズアレイ162の前側焦点面の位置)に置かれている。
【0015】
ブランカーアレイ122は、1つの電子ビームごとに1対の偏向電極を持ったデバイスである。ブランカーアレイ122は、描画パターン発生回路102、ビットマップ変換回路103、ブランキング指令回路107を介して生成されたブランキング信号に基づき、複数の電子ビームのブランキングを個別に行う。ブランカーアレイ122によって偏向された電子ビーム125は、後側にあるストップアパーチャ123によって遮断され、ブランキング状態となる。
【0016】
ブランカーアレイ122を通ったマルチ電子ビームは、第1投影レンズ125によってストップアパーチャ123上の単一開口の略中心位置に集束される。マルチ電子ビームは、さらに、第2投影レンズ126によってそれぞれ集束され、その結果、ブランカーアレイ122上の中間結像面でのマルチ電子ビームのパターンがウエハー128上に縮小投影される。ここで、第1投影レンズ125及び第2投影レンズ126は、それぞれ磁界レンズで構成され、これらの磁界レンズは、いわゆるダブレットレンズを構成している。第1投影レンズ125及び第2投影レンズ126を含む投影系の投影倍率は、1/100倍程度に設定されうる。これにより、電子ビームの半値全幅(FWHM)は、例えば、ブランカーアレイ122の中間結像面上で2μmの場合、ウエハー128面上では20nm程度となる。
【0017】
電子光学系は、照射光学系140(照射系ともいう)、マルチビーム形成光学系150(マルチビーム形成系ともいう)、および投影光学系170(投影系ともいう)から構成される。照射光学系140は、電子源108からコリメータレンズ115までを含み、平行ビームを形成してアパーチャアレイ117を照射する。マルチビーム形成光学系150は、照射光学系140により照射された電子ビームをマルチ電子ビームに分割し、さらに複数のクロスオーバーを形成する。投影光学系170は、マルチビーム形成光学系150により形成された複数のクロスオーバーをウエハー128上に縮小投影する。本発明は、特に、マルチビーム形成光学系150の構成に関するものである。
【0018】
ウエハー上でのマルチ電子ビームのスキャンは、偏向器127により行うことができる。偏向器127は、8極の静電偏向器であり、磁界型の偏向器よりも高速で動作が可能である。偏向器127は、偏向信号発生回路104からの信号に従って駆動される。パターン描画にあたっては、ウエハー133はステージ129の移動によってX方向(紙面に垂直な方向)に連続的に移動する。それと並行して、ウエハー面上の電子ビーム130は、不図示のレーザー測長機によるステージ129の位置の計測結果に基づき、偏向器127によってY方向(紙面左右方向)に偏向される。また、それらと並行して、マルチ電子ビームは、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャ123によって、描画パターンに応じて個別にブランキングされる。このようにして、ウエハー128面上に高速に描画を行うことができる。
【0019】
図2は、本発明を適用しなかった場合における投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を示す図である。投影系の収差(球面収差)が存在する場合、無収差ならストップアパーチャの開口205の中心に到達するはずの電子線が、電子線がより外側になるほど図のようにより大きく電子源側にずれてしまう。ここで、図示した点204は、外側の2つの電子ビームの主光線の交点である。このように、電子ビームは、より外側になるほどより大きく電子源側に集束してしまい、マルチ電子ビーム全体をストップアパーチャ123の開口205の中心に集束させることができない。その結果、ウエハー面上でのランディング角やブランキング特性に不均一性が生じてしまう。
【0020】
それに対する1つの解決策が特許文献1の手法である。すなわち、集束レンズアレイの開口202の位置をアパーチャアレイの開口201の位置に対してずらすことによって、外側の電子ビームを外側に傾斜させて投影系に入射させることができる。これにより、外側の電子ビームもストップアパーチャの開口205の中心に到達させることができる。しかしながら、特許文献1の手法は、投影系の収差の補償を行うにあたり、補償の限界が存在しており、当該限界を超える補償を行うことはできない。
【0021】
図3は、当該補償限界を説明する図である。投影系の収差が大きく、外側の電子ビームをより大きな角度で外側に傾斜させなくてはならない場合、集束レンズアレイの開口202をずらす量を大きくする必要がある。しかし、その場合、図示したように、外側の電子ビームには、集束レンズアレイ119によるけられが発生してしまう。すなわち、特許文献1の手法では、集束レンズアレイ119による電子ビームのけられが発生しない範囲での収差補償しか行うことができない。
【0022】
図4は、レンズアレイの焦点距離を短くして補償限界を改善する構成と、その問題点とを示す図である。集束レンズアレイ119でのけられによる補償限界は、集束レンズアレイ119の焦点距離に反比例する。このため、図4のように集束レンズアレイ119の焦点距離を短くする(それ応じてアパーチャアレイ117と集束レンズアレイ119との間の距離も短くする)ことで補償限界を改善することができる。しかし、以下の2つの制約から、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすることは困難である。
【0023】
第1の制約は、ブランカーアレイ122とブランカーアレイ上の電子ビームの間の相対位置を合わせるためのアライナー偏向器120の実装スペース210が必要なことである。ここで、アライナー偏向器120は、集束レンズアレイ119とそれが形成する複数のクロスオーバーとの間の複数の荷電粒子線を一括して偏向して当該複数のクロスオーバーの位置を調整する偏向器である。図4のように、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くした場合、アライナー偏向器の実装スペース210が非常に狭くなり、アライナー偏向器120を実装することができない。その結果、ブランカーアレイ122とブランカーアレイ上の電子ビームとの間の相対位置を保障することができなくなる。
【0024】
第2の制約は、ブランカーアレイ122上に結像される電子ビームの収束角を大きくできないという制約である。ブランカーアレイ122による電子ビームの偏向角は、ブランカーアレイ122上に結像される電子ビームの収束角によって決まっているため、この収束角が大きくなるほどブランカーアレイ122に必要とされる偏向角は大きくなってしまう。ここで、ブランカーアレイ122上での電子ビームの収束角は集束レンズアレイ119の焦点距離に反比例するため、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くした場合には、この収束角は大きくなってしまう。
【0025】
要するに、補償限界を改善するために集束レンズアレイ119の焦点距離を短くする場合には、アライナー偏向器の実装スペースが確保できない点、および、ブランキングに必要な偏向角が増大してしまう点、の少なくとも一方に留意すべきである。
【0026】
これに対し本発明者は、集束レンズアレイ119を互いに開口配列の異なる2段の集束レンズアレイを含む構成とすることにより補償限界を改善する方法を見出した。図5は、投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する第1実施形態に係る構成を示す図である。特許文献1の発明と共通する特徴の説明は省略し、本実施形態の特徴部とその効果とに関して説明する。
【0027】
図3の構成に対する本実施形態の構成の相違点は、集束レンズアレイ119は、補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163の2段構成になっていて、かつ、それらの開口配列が互いに異なっている点である。2つのレンズアレイの役割を以下に説明する。
【0028】
まず、補正レンズアレイ162は、図4の構成における焦点距離の短い集束レンズアレイ119と同様に、投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する役割を有する。補償は、補正レンズアレイの開口501をアパーチャアレイの開口201に対してずらすことにより行う。ここで、マルチ電子ビームは、電子ビームがより外側になるほどより外側に傾斜して投影系に入射するように、補正レンズアレイの開口501をずらす量が調整されるようにする。補正レンズアレイ162の焦点距離は、要求される補償限界が得られるように短く設定される。
【0029】
次に、拡大レンズアレイ163は、補正レンズアレイ162によって電子ビームが結像される第1結像面151上の電子ビーム161を、主光線角度を変えずに拡大するためのレンズアレイである。図5を見ればわかるように、その開口502の配列は、各電子ビームの主光線の角度を変えないように、電子ビームの主光線が開口(レンズ)の中心位置を通るようになっている。主光線角度を変えずに拡大することにより、図4を用いて説明した課題が解決されていることが重要である。アライナー偏向器の実装スペースが取れなかった問題は、拡大レンズアレイ162によって静電レンズアレイ119とブランカーアレイ122との間の距離を長くすることによって解決している。さらに、ブランカーアレイ122上で電子ビームの収束角が大きくなってしまう問題は、第1結像面上の電子ビーム161を拡大することによって解決している。ここで、図からも明らかなように、ブランカーアレイ122上の電子ビームの収束角は、拡大倍率(1倍より大きい結像倍率)に反比例する。
【0030】
要するに、上述のような2段構成の集束レンズアレイ119によって、補償限界を改善しつつ、図4で説明したような制約に係る困難を回避することができる。
【0031】
図5の(A)は、補正レンズアレイの開口501の配列を実線で、アパーチャアレイの開口201の配列を点線で示したものである。補正レンズアレイの開口501の位置は、アパーチャアレイの開口201の位置に対し、開口がより外側になるほどより大きく外側にずらされている。その結果、開口がより外側になるほどより大きく外側に主光線が傾斜するようになる。
【0032】
図5の(B)は、拡大レンズアレイの開口502を実線で、アパーチャアレイの開口201を点線で示したものである。拡大レンズアレイの開口502の位置は、補正レンズアレイ162によって曲げられた電子ビームの主光線が、その開口502の中心位置を通るように、アパーチャアレイの開口201に対してずらされている。電子ビームがより外側になるほどより大きく電子ビームの主光線が外側に傾斜しているため、図5において、拡大レンズアレイの開口502をずらす量は、補正レンズアレイの開口501をずらす量よりも大きく設定されている。
【0033】
図5の(A)(B)に示すような互いに異なる開口配列の採用により、補正限界を改善することができる。本実施形態の技術的特徴は、上述したような2種の役割を持つレンズアレイを併用するところにある。したがって、例えば、補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の少なくとも一方を複数段のレンズアレイとして構成し、同様の効果を発揮させてもよい。
【0034】
[実施形態2]
図6は、実施形態2に係る描画装置の構成を示す図である。実施形態1との相違点は、ブランカーアレイ122の直上に投影アパーチャアレイ601がある点である。この投影アパーチャアレイ601の開口パターンを2段の投影レンズで縮小投影することにより、マルチ電子ビームのスポットをウエハー128上に形成している。
【0035】
このようなアパーチャの開口パターンを縮小投影するタイプの構成においても、投影系の収差により実施形態1の場合と同様の問題は起こりうる。すなわち、投影系の収差(球面収差)によって、電子ビームがより外側になるほどより大きく電子源側に電子ビームが集束してしまう。この場合も、上述したような補正レンズアレイ162と拡大レンズアレイ163との組み合わせにより、実施形態1の場合と同様の補償を行うことができる。
【0036】
図7は、投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する実施形態2に係る構成を示す図である。実施形態1とは異なる点は、補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の対応するレンズの組がいわゆるアフォーカル系を構成している点である。このようにすると、拡大レンズアレイ163の各レンズは、像面が無限遠となるため、無限大の拡大倍率(結像倍率)を有する拡大レンズとみなすことができる。それ以外の点においては、補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163の機能や構成は、実施形態1におけるものと同様であるため、説明は省略する。
【0037】
図7のように、補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163は、対応するレンズの組がアフォーカル系を構成している。このため、電子ビームがより外側になるほどより大きく主光線が外側に傾斜した平行電子ビーム群がそれぞれ対応する投影アパーチャアレイ601の開口に照射される。その結果、ストップアパーチャ123の単一の開口の中心位置にマルチ電子ビームが集束するようになる。
【0038】
[実施形態3]
これまで、投影光学系の収差によるマルチ電子ビームの特性の不均一性の補償に関して、補償限界を改善するための構成を説明してきた。しかしながら、そのような補償は、投影光学系の収差に対するものに限られず、例えば、照射光学系の収差に対しても適用可能である。特に、マルチ電子ビームの各々に関して投影ユニットを有するマルチカラム式の構成の場合、上述のような投影系の収差によるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性は原理的に生じない。一方、電子ビームの数を増やすために照射光学系において利用する電子源からの電子ビームの発散角(発散半角)を大きくした場合、照射光学系の収差によるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性が問題となる。高スループットの描画装置を実現するためには、電子ビームの数を増やすことが有効である。このため、マルチカラム式描画装置において上記発散角を大きくした場合に生じるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性を補償することが高スループットの達成に重要となる。以下、照射光学系の収差によるマルチ電子ビームの間の特性の不均一性を補償するための実施形態を説明する。
【0039】
図8は、実施形態3に係る描画装置の構成を示す図である。本実施形態の描画装置は、1つの電子ビームごとに投影ユニットを含む投影系を備えた、いわゆるマルチカラム式の描画装置である。なお、図1と共通する部分の説明は省略し、マルチカラム式に特有の構成を説明するため、ブランカーアレイ122以後の構成に関して説明する。
【0040】
ブランカーアレイ122によってマルチ電子ビームの個別の偏向によるブランキングがなされる。ブランカーアレイ122によって偏向された電子ビームは、1つの電子ビームごとに開口を有するストップアパーチャアレイ801(ブランキングストップアパーチャアレイ)によって遮断される。ブランカーアレイ122によって偏向された電子ビーム802は、図示したように遮断される。なお、本実施形態において、ブランカーアレイは2段で構成されており、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャアレイ801の後側に、それらと同じ構造の第2ブランカーアレイ804および第2ストップアパーチャアレイ805が配置されている。
【0041】
投影系は、1つの電子ビームごとに設けられ、第2集束レンズアレイ803、第3集束レンズアレイ807、第4集束レンズアレイ807(対物レンズアレイ)によって構成される。ここで、第2集束レンズアレイ803・第3集束レンズアレイ807・第4集束レンズアレイ808は、集束レンズアレイ119と同様に、アインツェル型の静電レンズアレイとしうる。特に、第4集束レンズアレイ808は、対物レンズアレイとなっていて、その投影倍率は、例えば、1/100倍程度に設定される。これにより、電子ビームの半値全幅は、例えば、ブランカーアレイ122の中間結像面上で2μmの場合、ウエハー128面上では20nm程度となる。
【0042】
電子光学系は、実施形態1と同様に、照射光学系140、マルチビーム形成光学系150、および投影光学系170から構成される。照射光学系140は、電子源108からコリメータレンズ115までを含み、平行ビームを形成してアパーチャアレイ117を照射する。マルチビーム形成光学系150は、照射光学系140により照射された電子ビームをマルチ電子ビームに分割し、さらに複数のクロスオーバーを形成する。投影光学系170は、マルチビーム形成光学系150により形成された複数のクロスオーバーをウエハー128上に個別に縮小投影する。本発明は、特に、マルチビーム形成光学系150の構成に関するものである。
【0043】
図9は、照射光学系140がアパーチャアレイ117を照射する照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームを示す図である。図9は、主として図8におけるマルチビーム形成光学系150を図示している。図9において、照射光学系クロスオーバー112から広角に放射された電子ビームは、コリメータレンズ115によって平行化される。しかし、照射光学系の照射する領域が大きい場合、照射光学系の収差により電子ビームは完全には平行化されず、照射角度に不均一性が生じてしまう。ここで、照射光学系の収差は、クロスオーバー調整光学系111の球面収差、コリメータレンズ115の球面収差、及び電子源とアパーチャアレイ117との間に現れる空間電荷効果(クーロン効果)による収差(凹レンズの球面収差とみなすことができる)できまる。
【0044】
例えば、上述した照射光学系の収差のうち、コリメータレンズ115の球面収差が支配的である場合を考える。この場合、凸レンズの球面収差(正の球面収差)により、アパーチャアレイ117への電子ビームの入射角204は、電子ビームがより外側になるほどより大きくなる(より内側に傾斜してしまう)。また、アパーチャアレイを通過したマルチ電子ビームの主光線205も、同様に、電子ビームがより外側になるほどより内側に傾斜した状態となる。これによって、集束レンズアレイ119を通過した電子ビームは、電子ビームがより外側になるほどより大きくブランカーアレイの開口203に対して内側にずれてしまうことになる。その結果、マルチ電子ビームの配列が不均一となり、外側の電子ビームがブランカーアレイ122の開口203の中心を通らなくなる。これは、結果として、ブランカーアレイ122の偏向特性の不均一性を引き起こしてしまう。
【0045】
図9の(A)は、アパーチャアレイ及び集束レンズアレイの開口配列、図9の(B)は、結像面(ブランカーアレイ122)上の電子ビーム配列を示したものである。結像面上の電子ビームは、照射光学系の収差によって、電子ビームがより外側になるほどより大きくブランカーアレイの開口203に対して内側にずれてしまう様子を示している。ここで、ブランカーアレイの開口203の配列は、一例として正方格子配列としているが、それに限らず、例えば、千鳥格子配列や多段千鳥格子配列など、他の規則性を有していてもよい。
【0046】
照射光学系の収差のうち、空間電荷効果による収差が支配的である場合、凹レンズの球面収差(負の球面収差)により、アパーチャアレイ117への電子ビームの入射角204は、逆に、電子ビームがより外側になるほどより大きく外側へ傾斜することになる。その結果、結像面上での電子ビームは、電子ビームがより外側になるほどより大きく外側にずれることになる。
【0047】
照射光学系の球面収差は、クロスオーバー調整光学系111及びコリメータレンズ115による凸レンズの球面収差(正の球面収差)と、空間電荷効果による収差(凹レンズの球面収差すなわち負の球面収差に相当)との和によって決まる。そのようにして決まる球面収差によって、アパーチャアレイを照射する光線が内側に傾斜してしまうか、外側に傾斜してしまうかが決まり、それに応じて、結像面上のビーム配列のずれも決まることになる。なお、実施形態3以降の全ての実施形態において、照射系の収差は、コリメータレンズ115の球面収差が支配的であるものとする。すなわち、アパーチャアレイへの電子ビームの入射角204は、電子ビームがより外側になるほどより大きく内側に傾斜してしまう不均一性を有している場合を例に説明する。
【0048】
図10は、照射光学系がアパーチャアレイを照射する照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビームを示す図である。図10において、集束レンズアレイ119は、実施形態1と同様、補正レンズアレイ162と拡大レンズアレイ163とを含む2段構成となっている。まず、照射光学系の収差を補償する構成に関して図10を用いて説明し、そのような構成とする長所について図11・図12を用いて説明する。
【0049】
図10において、アパーチャアレイ117及び補正レンズアレイ162の開口位置は、ブランカーアレイの開口203の位置に対して共に同量だけずらされている。ここで、「同量」とは、ずらし量の差が所定の許容範囲内であることを意味し、換言すれば、「実質的に同量」を意味する。このアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口の変位量(ずらし量)は、照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ(傾斜)に応じて、例えば、像高の関数(例えば、3次の多項式)として設定される。また、拡大レンズアレイ163の開口位置は、ブランカーアレイの開口203の位置と一致するように、ずらさないで配置される。ここで、「一致」とは、位置ずれ量が所定の許容範囲内にあることを意味している(以下の記載に関しても同様)。
【0050】
このように、電子ビームの角度ずれに基づき、ブランカーアレイの開口203の位置に対し、アパーチャアレイ117及び補正レンズアレイ163の開口の位置をずらし、拡大レンズアレイ163の開口の位置はずらさない。この場合のマルチ電子ビームの軌道は、結像面上のビーム配列が目標とするビーム配列に一致するような軌道となる。マルチ電子ビームの配列の不均一性が補償されたことにより、外側の電子ビームもブランカーアレイの開口203の中心位置を通るようになり、ブランカーアレイ122の偏向特性が改善される。
【0051】
図10の(A)は、アパーチャアレイの開口201の配列及び補正レンズアレイの開口501の配列を示しており、これらの開口は、ブランカーアレイの開口203に対し、ともに同量だけずらされている。図10(B)は、拡大レンズアレイの開口502の配列を示し、拡大レンズアレイの開口502は、ブランカーアレイの開口203に対してずらされていない。図10(C)は、結像面上の電子ビーム121の配列を示し、補償の結果、電子ビーム121の位置はブランカーアレイの開口203の位置に一致している。
【0052】
ここで、アパーチャアレイ117は、補正レンズアレイ162の瞳面上(前側焦点面上)に置かれているのが好ましい。アパーチャアレイ117が補正レンズアレイ162の瞳面上に置かれた状態で、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口202を同量ずらした場合、補正レンズアレイ162の瞳面における電子ビームの通過領域は変化しない。そのため、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口中心が同軸上にある状態を保って開口位置を同量だけ変位させても、結像面に入射するマルチ電子ビームの主光線の角度は均一に保つことができる。つまり、アパーチャアレイ117を補正レンズアレイ162の前側焦点面に配置して上述の補償を行うことで、結像面上のマルチ電子ビームの配列の不均一性を補償できるだけでなく、結像面への電子ビームの入射角の均一性も保つことができる。
【0053】
なお、アパーチャアレイ117と補正レンズアレイ162との間に平行偏心がある場合、補正レンズアレイ162の瞳面における電子ビームの通過領域がマルチ電子ビーム全体で一様に変化し、結像面上においてマルチ電子ビーム全体が一様に傾斜することになる。このような均一な傾斜は、アライナー偏向120によって、一括の補正が容易に行える。問題は、マルチ電子ビームの間で生じる不均一性であって、本実施形態の目的は、照射光学系の収差によってマルチ電子ビームの間で生じる不均一性を低減することにある。
【0054】
続いて、集束レンズアレイ119を補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の2段構成とする長所について説明する。当該長所は、要するに、照射光学系の収差の補償に関して、実施形態1と同様に、補償限界を改善できる点にある。
【0055】
図11は、照射光学系の収差の補償に関して、補償限界を説明する図である。照射光学系の収差が大きくて照射角度のずれが大きい場合、図11の(A)のように、アパーチャアレイ117を透過した電子ビームは、集束レンズアレイ119によって蹴られてしまい、補償ができない。すなわち、照射光学系の場合も、投影光学系の場合と同様、集束レンズアレイ119によるけられによる補償限界が存在している。また、この補償限界を改善するためには、図11の(B)のように、集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすればよく、この点も、投影系の場合と共通している。なお、図11の(A)のf1、図11の(B)のf2は、それぞれの場合の集束レンズアレイ119の焦点距離を示している。また、両者の関係は、f1>f2である。
【0056】
しかし、単純に集束レンズアレイ119の焦点距離を短くするだけでは、投影系の場合と同様の不都合が生じる。すなわち、補償限界を改善するために集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすると、アライナー偏向器の実装スペースがとれないこと、また、ブランキングに必要な偏向角が増大してしまうことが問題となる。図11の(C)および(D)は、それらの問題を示すものである。(C)に対して(D)のように集束レンズアレイ119の焦点距離を短くすると、アライナー偏向器120の実装スペース210が十分に取れなくなること、また、ブランカーアレイ122上への電子ビームの収束角が大きくなってしまうことがわかる。
【0057】
ここで、図12は、実施形態3の効果を示す図である。図12で示されるように、集束レンズアレイ119を補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の2段構成とすることにより、補正限界が改善するとともに、上述の2つの問題を解決できることが分かる。すなわち、実施形態1の場合と同様に、拡大レンズアレイ163を設けたことにより、アライナー偏向器の実装スペース210を確保できるようになり、また、ブランカーアレイ122上への電子ビームの収束角も小さくなっている。
【0058】
図13は、実施形態3の構成によって、照射系の収差による照射角度の不均一性の補償限界が改善する効果を示すグラフである。ここでは、照射光学系の収差によるマルチ電子ビームの間の不均一性を補償する場合を例示するが、投影光学系の収差による不均一性を補償する実施形態1・2の場合も同様の傾向となる。グラフは、集束レンズアレイ119を2段構成として補正レンズアレイ162の焦点距離fをf=16mm、f=32mm、f=64mmとした場合と、集束レンズアレイ119を一段構成として焦点距離fをf=100mmとした場合とを示す。横軸に照射角度の補正量(μrad)をとり、縦軸に収差量(ウエハー面換算値、nm)をとったものである。各々のプロットの右端が集束レンズアレイでのけられによる補償限界である。このグラフから、補正レンズアレイおよび拡大レンズアレイの2段構成とすることにより、1段構成の場合には約50uradである補正限界をその数倍程度まで改善できることがわかる。
【0059】
ここで、図13のグラフを参照するに、補正レンズアレイ162および拡大レンズアレイ163の2段構成とした場合、収差が増大してしまっていることがわかる。しかし、投影系170の収差と比較してマルチビーム生成光学系150の収差は非常に小さいため、マルチビーム生成光学系150の収差の多少の増大は許容しうるものである。ただし、補正レンズアレイ162の焦点距離を短くするほど収差が増加することには留意するべきである。すなわち、補正限界と収差とはトレードオフの関係にある点に留意が必要である。
【0060】
続いて、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501をずらす量を軽減するためのデフォーカス調整に関して、図14を参照して説明する。なお、ここでは、照射光学系に対するデフォーカス調整を例にして説明するが、同様の調整は、実施形態1または2における投影光学系に対しても行うことができる。
【0061】
本実施形態において、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501をずらす量は、具体的には、像高Y、照射光学系の球面収差係数Cs、コリメータレンズの焦点距離f、デフォーカス調整量Δfによって決定される。ここで、照射光学系の球面収差係数Csは、Cs=Cs(CO-adjust)+Cs(CL)+Cs(Coulomb)で表わされる。Cs(CO−adjust)は、クロスオーバー調整光学系の球面収差係数、Cs(CL)は、コリメータレンズの球面収差係数、Cs(Coulomb)は、空間電荷効果による収差を凹レンズの球面収差とみなしたときの球面収差係数である。照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ量Δθは、上述のパラメータを用いて、Δθ=Cs(Y/f)3+Δf(Y/f)として近似的に表わされる。この式は、像高Yに関して3次の多項式である。
【0062】
図14は、本実施形態において、コリメータレンズのデフォーカス調整の有無によるアパーチャアレイ・補正レンズアレイの開口配列の違いを示す図である。図14の(A)は、デフォーカス調整量Δfが0の場合のアパーチャアレイの開口201の配列及び補正レンズアレイの開口501の配列を示す。図14の(B)は、デフォーカス調整を行った場合のアパーチャアレイの開口201の配列及び補正レンズアレイの開口501の配列を示す。図14の(C)は、像高Y(照射位置)を横軸に、照射光学系の収差による電子ビームの角度ずれ量(電子ビームが内側に傾斜した場合を正とする)を縦軸にとったグラフである(Cs=5000mm、f=500mm、Δf=1.5mmの場合)。
【0063】
図14の(C)において、デフォーカス調整がない場合の電子ビームの角度ずれ量は、像高Yの3乗に比例するため、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口の位置をずらす量は、図14の(A)のように、像高Yの3乗に比例させる。一方、図14の(C)において、デフォーカス調整を行った場合の電子ビームの角度ずれ量は、像高Yの3乗に比例する項と、像高Yに比例するデフォーカス項との和により表される。このため、デフォーカス調整を行った場合の電子ビームの角度ずれ量は、図14の(C)からわかるように、像高Yが小さな領域では、負になり、像高Yが大きな領域では、正となる。よって、この場合、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口は、図14の(B)のように、ブランカーアレイの開口203に対し、像高の小さな領域では内側にずらせばよい(開口1401参照)。また、像高の大きな領域では外側にずらせばよい(開口1402参照)。
【0064】
このように、デフォーカス調整を行った場合は、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列が多少複雑になる。しかし、図14の(C)のグラフから明らかなように、デフォーカス調整を行った場合のほうが電子ビームの角度ずれ量の絶対値のレンジは小さくなる。すなわち、デフォーカス調整を行ったほうがアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口をずらす量を小さくできるというメリットがある。このことは、図14の(A)と図14の(B)とを比較するとよくわかる。
【0065】
以上のようにデフォーカス調整の有無によってそれぞれ長所短所がある。本実施形態に限らず、全ての実施形態において、デフォーカス調整によってアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列は変化しうる。したがって、実施形態で示す開口配列は例示に過ぎない。すなわち、当該開口配列はデフォーカス調整に応じて変化させるべきであるものの、光学系の収差に依存するマルチ電子ビームの間の不均一性を開口配列の異なる多段のレンズアレイで補償する構成は、全実施形態に共通するものである。
【0066】
[実施形態4]
図15は、実施形態4に係る描画装置の構成を示す図である。図8(実施形態3)に係る描画装置とは異なる構成をした電子源アレイ1510及びマルチビーム形成光学系150の部分のみを説明する。電子源アレイ1510は、熱電界放出型の電子源(thermal field−emission (TFE) electron source (electron gun))を複数並べたものである。アレイ状に並んだ熱電界放出型エミッタ1501から放出された電子ビーム群は、同様にアレイ状に並んだクロスオーバー調整光学系111によって、同様にアレイ状に並んだ(照射光学系)クロスオーバー112を形成する。ここで、熱電界放出型エミッタ1501には、例えば、ZrO/W等の電界放出に適したカソード材が用いられる。
【0067】
アレイ状に並んだ照射光学系クロスオーバー112から放射された複数の電子ビーム114は、コリメータレンズアレイ1505によってそれぞれ平行化され、互いにオーバーラップしない複数の電子ビームとなる。そして、各電子ビームは、アパーチャアレイ117上のサブアレイ領域を照射する。本実施形態では、サブアレイ領域は9(=3×3)領域あるものとする。図11を参照するとわかるように、電子源アレイ1510のうちの一つの電子源のみに注目すれば、それに対応する電子光学系の構成は、図8の構成と等価である。すなわち、本実施形態は、照射光学系とアパーチャアレイとレンズアレイと投影ユニットとを含む組を並列に複数有する構成となっている。よって、実施形態3で説明した補償は、サブアレイ領域を単位として設けられた複数の電子光学系において並列に行うことができる。
【0068】
図16の(A)は、3×3のサブアレイ領域におけるアパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列、図16の(B)は、対応する拡大レンズアレイの開口配列、図16の(C)は、結像面上のビーム配列をそれぞれ示す。図16の(A)に示すように、各サブアレイ領域において、照射光学系の収差による電子ビームの角度の不均一性を補償するように、アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501をブランカーアレイの開口203に対してずらしている。一方、拡大レンズアレイの開口502は、図16の(B)に示すように、ブランカーアレイの開口203に対してずらしていない。
【0069】
同一の照射光学系が並列に構成されている場合、アパーチャアレイ及び補正レンズアレイの開口配列はどのサブアレイでも同一としうる。なお、図16(A)において、アパーチャアレイ117は集束レンズアレイの前側焦点面701に置かれており、アパーチャアレイの開口201と集束レンズアレイの開口202とは同量だけずらすようにしている。
【0070】
実施形態3に係る補償を図16(A)のようにサブアレイ毎に適用することによって、図16(C)のようにマルチ電子ビームの間の不均一性が補償される。このように、サブアレイ毎に照射光学系が設けられていれば、サブアレイ毎に補償を実施できるという点が重要である。したがって、例えば、各コリメータレンズのデフォーカス調整を行った場合、アパーチャアレイ・補正レンズアレイの開口配列は、図14で示したような開口配列をサブアレイ毎に適用した開口配列とすればよいのは明らかである。
【0071】
[実施形態5]
図17は、実施形態5に係る描画装置の構成を示す図である。同図において、上部の電子源108からアパーチャアレイ117までは、図8(実施形態3)に係る描画装置の構成と同様の構成となるため、繰り返しの説明は省略し、アパーチャアレイ117より後側の構成に関して説明する。
【0072】
アパーチャアレイ117によって形成されたマルチ電子ビームは、補正レンズアレイ162によって中間結像面160上に一旦結像された(クロスビームを形成した)のち、拡大レンズアレイ163によって再び集束される。実施形態5において、拡大レンズアレイ163のレンズパワーは、後側のストップアパーチャアレイ1702上のアパーチャ1703にマルチビームが集束するように設定される。
【0073】
拡大レンズアレイ163を通過したマルチ電子ビームは、ただちに投影アパーチャアレイ601によってさらに分割される。図17は、一つの電子ビームを3×3の電子ビーム(サブマルチ電子ビーム群)へと分割する場合を示している。
【0074】
サブマルチ電子ビーム群は、拡大レンズアレイ163のレンズパワーの設定により、ストップアパーチャアレイ1702上で集束する。ここで、ストップアパーチャアレイ1702には各サブマルチ電子ビーム群に対して1つの開口が設けられている。そして、ストップアパーチャアレイ1702の開口1703の配列は、投影アパーチャアレイ601の3×3のサブ開口アレイの中心の開口の配列と一致するように構成されている。
【0075】
投影アパーチャアレイ601の直下にはブランカーアレイ122が備えられていて、各電子ビームは、偏向によるブリンキング動作が個別に可能となっている。ある電子ビームをブリンキングしたい場合、ブランカーアレイ122の対応する電極に電圧を印加し、ストップアパーチャアレイ1702によって当該電子ビームを遮断する。ブランカーアレイによって偏向された電子ビーム125を図中に例示されている。
【0076】
ストップアパーチャアレイ1702を通過したサブマルチ電子ビーム群は、第2集束レンズアレイ1704によって集束され、ウエハー128の表面に結像される。第2集束レンズアレイの物体面は、投影アパーチャアレイ601となっていて、投影アパーチャアレイ601の3×3のサブ開口アレイは、ウエハー128の表面に縮小投影される。投影アパーチャアレイ601の開口径は、例えば2.5μmであり、第2集束レンズアレイ1704の投影倍率は例えば1/100倍である。その場合、ウエハー128の表面上には、ビーム径25nmの電子ビームが投影されることになる。
【0077】
また、ストップアパーチャアレイ1702は、第2集束レンズアレイ1704の前側焦点面位置に置かれていて、第2集束レンズアレイ1704の瞳面における電子ビームの通過領域を規定している。ストップアパーチャアレイ1702の近傍には偏向器アレイ1701が置かれ、偏向器アレイ1701によりサブマルチ電子ビームのスキャンを行うことができる。偏向器アレイ1701の各電極対は、装置の複雑化を避けるため、共通の印加電圧で駆動されうる。また、各電極対の構造は、くし歯状の対向電極で構成されうる。
【0078】
図18は、アパーチャアレイ117を照射する電子ビームの照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ及び集束レンズアレイを通る電子ビーム、及び、ストップアパーチャアレイ上の電子ビーム配列を示す図である。照射光学系の収差によって電子ビームの照射角度が不均一となった場合、前述のように、集束レンズアレイ119によって集束される電子ビームの配列が不均一となってしまう。本実施形態の場合、集束レンズアレイ119の結像面はストップアパーチャアレイ1702であり、よって、ストップアパーチャアレイ1702上でのサブマルチ電子ビームの配列は、照射光学系の収差によって不均一になってしまう。その配列を示したのが図18の(B)である。図9の(B)の場合と同様に、電子ビームがより外側になるほどより大きくストップアパーチャアレイの開口1703の位置よりも内側に到達(集束)してしまう不均一性が生じる。
【0079】
本実施形態においては、マルチ電子ビームを投影アパーチャアレイ601によってさらに分割しているため、投影アパーチャアレイ601に照射される電子ビームが傾斜している影響も新たに考慮する必要がある。図18を参照するとわかるように、投影アパーチャアレイ601に照射される電子ビームは、照射光学系の収差によって、電子ビームがより外側になるほどより大きく内側に傾斜する。その結果、サブマルチ電子ビーム群の各主光線は、電子ビームがより外側になるほどより大きく内側に傾斜してしまう(図18の中央のサブ電子ビーム群と左または右のサブ電子ビーム群とを比較するとわかる)。このため、ストップアパーチャアレイの開口1703によって規定される電子ビームの角度分布は、サブマルチ電子ビームの間でばらついてしまう。その結果、ウエハー133面上における電子ビームの配列や電子ビームの電流強度に不均一性が引き起こされる。
【0080】
図19は、本実施形態の構成において電子ビームの照射角度が不均一である場合のアパーチャアレイ、補正レンズアレイ及び拡大レンズアレイを通る電子ビームと、ストップアパーチャアレイ上の電子ビームの配列とを示す図である。アパーチャアレイの開口201及び補正レンズアレイの開口501の位置は、ストップアパーチャアレイの開口1703の位置に対して、図19の(A)のように、像高に関して3次の多項式に従ってずらしている。一方、拡大レンズアレイの開口502の位置は、ストップアパーチャアレイの開口1703の位置に一致させるようにしている。すなわち、実施形態3において構成の基準とした開口がブランカーアレイの開口203であるのに対して、本実施形態における基準開口はストップアパーチャアレイの開口1703である。
【0081】
図19に示す本実施形態の構成により、サブマルチ電子ビームの各主光線の傾斜角がずれることなく、かつ、ストップアパーチャアレイの開口1703の中心にサブマルチ電子ビームが集束するように、照射光学系の収差を補償することができる。また、集束レンズアレイ119を補正レンズアレイ162及び拡大レンズアレイ163の2段の静電レンズアレイを含んで構成することによって補償限界を改善できる点も他の実施形態の場合と同様である。
【0082】
[実施形態6]
本発明の実施形態に係る物品の製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。該製造方法は、感光剤が塗布された基板の該感光剤に上記の描画装置を用いて潜像パターンを形成する工程(基板に描画を行う工程)と、当該工程で潜像パターンが形成された基板を現像する工程とを含みうる。さらに、該製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。例えば、アパーチャアレイの開口はずらさずに集束レンズアレイの開口をずらすようにしてもよい。そして、そのようにして、集束レンズアレイの形成するクロスオーバーの位置をブランカーアレイまたはストップアパーチャアレイ等の後側の素子の開口(の中心)に整合または一致させるように構成してもよい。但し、当該構成は、当該素子の開口に入射する電子ビームの主光線が光軸とは平行にならないため、その点には留意が必要である。当該構成は、例えば、そのような主光線の角度ずれが許容できる場合や、当該角度ずれを補償する光学要素を別途追加する場合には、利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
117 アパーチャアレイ
119 集束レンズアレイ(レンズアレイ)
122 ブランカーアレイ(投影系における複数の開口を備えた素子)
140 照射光学系(照射系)
162 補正レンズアレイ
163 拡大レンズアレイ
170 投影光学系(投影系)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
発散する荷電粒子線が入射するコリメータレンズを含む照射系と、
前記コリメータレンズから射出した荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割するアパーチャアレイと、
前記アパーチャアレイから射出した複数の荷電粒子線からそれぞれ複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイと、
単一の開口を備えた素子を有し、前記複数のクロスオーバーに対応する複数の荷電粒子線を集束し、かつ該開口を通過した複数の荷電粒子線を前記基板に投影する投影系と、を有し、
前記レンズアレイは、前記投影系の収差に依存して集束される前記複数の荷電粒子線が前記開口に集束されるように、前記アパーチャアレイの開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイと、前記複数のクロスオーバーを形成するように、前記補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイと、を含む、ことを特徴とする描画装置。
【請求項2】
前記拡大レンズアレイは、前記集束レンズを通過した荷電粒子線の主光線が前記拡大レンズアレイに含まれる拡大レンズの中心を通過するように、前記アパーチャアレイの開口に対して偏心した拡大レンズを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記拡大レンズアレイに含まれる前記拡大レンズは、結像倍率が無限大となるように構成されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の描画装置。
【請求項4】
前記レンズアレイにより形成される前記複数のクロスオーバーと前記拡大レンズアレイとの間の複数の荷電粒子線を一括して偏向して該複数のクロスオーバーの位置を調整するアライナー偏向器を有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項5】
複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
発散する荷電粒子線が入射するコリメータレンズを含む照射系と、
前記コリメータレンズから射出した荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割するアパーチャアレイと、
前記アパーチャアレイから射出した複数の荷電粒子線からそれぞれ複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイと、
前記複数のクロスオーバーに対応する複数の開口を備えた素子と、該複数の開口に対してそれぞれ設けられて複数の荷電粒子線をそれぞれ前記基板上に投影する複数の投影ユニットと、を含む投影系と、を有し、
前記レンズアレイは、前記照射光学系の収差に依る入射角で前記アパーチャアレイに入射して前記レンズアレイにより形成される前記複数のクロスオーバーのそれぞれの位置が前記素子における対応する開口に整合するように、前記素子における対応する開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイと、前記複数のクロスオーバーを形成するように、前記補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイと、を含む、ことを特徴とする描画装置。
【請求項6】
前記拡大レンズアレイに含まれる前記拡大レンズの配列は、前記素子に備えられた開口の配列に一致するように構成されている、ことを特徴とする請求項5に記載の描画装置。
【請求項7】
前記アパーチャアレイは、前記補正レンズアレイに含まれる対応する集束レンズとともに前記素子における対応する開口に対して偏心しているアパーチャを含む、ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の描画装置。
【請求項8】
前記アパーチャアレイは、前記補正レンズアレイの前側焦点に配置され、前記補正レンズアレイにおける対応する集束レンズと同量だけ前記素子における対応する開口に対して偏心しているアパーチャを含む、ことを特徴とする請求項7に記載の描画装置。
【請求項9】
前記コリメータレンズは、荷電粒子線のクロスオーバーから発散する荷電粒子線が入射し、該クロスオーバーは、前記コリメータレンズの前側焦点からずれた位置にある、ことを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項10】
前記照射系と前記アパーチャアレイと前記レンズアレイと前記投影系とを含む組を並列に複数有する、ことを特徴とする請求項5ないし請求項9のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項11】
前記素子は、ブランキング偏向器アレイである、ことを特徴とする請求項5ないし請求項10のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項12】
前記素子は、ブランキングストップアパーチャアレイである、ことを特徴とする請求項5ないし請求項10のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項1】
複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
発散する荷電粒子線が入射するコリメータレンズを含む照射系と、
前記コリメータレンズから射出した荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割するアパーチャアレイと、
前記アパーチャアレイから射出した複数の荷電粒子線からそれぞれ複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイと、
単一の開口を備えた素子を有し、前記複数のクロスオーバーに対応する複数の荷電粒子線を集束し、かつ該開口を通過した複数の荷電粒子線を前記基板に投影する投影系と、を有し、
前記レンズアレイは、前記投影系の収差に依存して集束される前記複数の荷電粒子線が前記開口に集束されるように、前記アパーチャアレイの開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイと、前記複数のクロスオーバーを形成するように、前記補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイと、を含む、ことを特徴とする描画装置。
【請求項2】
前記拡大レンズアレイは、前記集束レンズを通過した荷電粒子線の主光線が前記拡大レンズアレイに含まれる拡大レンズの中心を通過するように、前記アパーチャアレイの開口に対して偏心した拡大レンズを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の描画装置。
【請求項3】
前記拡大レンズアレイに含まれる前記拡大レンズは、結像倍率が無限大となるように構成されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の描画装置。
【請求項4】
前記レンズアレイにより形成される前記複数のクロスオーバーと前記拡大レンズアレイとの間の複数の荷電粒子線を一括して偏向して該複数のクロスオーバーの位置を調整するアライナー偏向器を有する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項5】
複数の荷電粒子線で基板に描画を行う描画装置であって、
発散する荷電粒子線が入射するコリメータレンズを含む照射系と、
前記コリメータレンズから射出した荷電粒子線を複数の荷電粒子線に分割するアパーチャアレイと、
前記アパーチャアレイから射出した複数の荷電粒子線からそれぞれ複数のクロスオーバーを形成するレンズアレイと、
前記複数のクロスオーバーに対応する複数の開口を備えた素子と、該複数の開口に対してそれぞれ設けられて複数の荷電粒子線をそれぞれ前記基板上に投影する複数の投影ユニットと、を含む投影系と、を有し、
前記レンズアレイは、前記照射光学系の収差に依る入射角で前記アパーチャアレイに入射して前記レンズアレイにより形成される前記複数のクロスオーバーのそれぞれの位置が前記素子における対応する開口に整合するように、前記素子における対応する開口に対して偏心している集束レンズを含む補正レンズアレイと、前記複数のクロスオーバーを形成するように、前記補正レンズアレイにより形成された複数のクロスオーバーをそれぞれ拡大して結像する拡大レンズアレイと、を含む、ことを特徴とする描画装置。
【請求項6】
前記拡大レンズアレイに含まれる前記拡大レンズの配列は、前記素子に備えられた開口の配列に一致するように構成されている、ことを特徴とする請求項5に記載の描画装置。
【請求項7】
前記アパーチャアレイは、前記補正レンズアレイに含まれる対応する集束レンズとともに前記素子における対応する開口に対して偏心しているアパーチャを含む、ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の描画装置。
【請求項8】
前記アパーチャアレイは、前記補正レンズアレイの前側焦点に配置され、前記補正レンズアレイにおける対応する集束レンズと同量だけ前記素子における対応する開口に対して偏心しているアパーチャを含む、ことを特徴とする請求項7に記載の描画装置。
【請求項9】
前記コリメータレンズは、荷電粒子線のクロスオーバーから発散する荷電粒子線が入射し、該クロスオーバーは、前記コリメータレンズの前側焦点からずれた位置にある、ことを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項10】
前記照射系と前記アパーチャアレイと前記レンズアレイと前記投影系とを含む組を並列に複数有する、ことを特徴とする請求項5ないし請求項9のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項11】
前記素子は、ブランキング偏向器アレイである、ことを特徴とする請求項5ないし請求項10のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項12】
前記素子は、ブランキングストップアパーチャアレイである、ことを特徴とする請求項5ないし請求項10のいずれか1項に記載の描画装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の描画装置を用いて基板に描画を行う工程と、
前記工程で描画を行われた基板を現像する工程と、を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−243803(P2012−243803A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109449(P2011−109449)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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