説明

揺動軸受

【課題】位置決め用の突出部やピンを設けるときに形成される軌道面の陥没穴や貫通孔の周縁で、転動するころとの間にエッジロードが発生しないようにすることである。
【解決手段】プレス成形品とした軌道輪1の軌道面1aにエンボス加工を施して、裏面側の外径面に突出する突出部6を成形するときに軌道面1aに形成される陥没穴8の周縁に肩R部8aを設けることにより、軌道面1aの陥没穴8の周縁で、転動するころ2との間にエッジロードが発生しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定部材に固定される軌道輪の凹円弧状の軌道面に複数のころを保持器に保持して配列し、可動部材の凸円弧状部を揺動自在に支持する揺動軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械や農業機械等に使用される油圧ポンプ、油圧モータ、ハイドロスタティックトランスミッション等には、固定部材に固定される軌道輪の凹円弧状の軌道面に複数のころを保持器に保持して配列し、斜板等の可動部材を揺動自在に支持する揺動軸受が組み込まれている。
【0003】
この種の揺動軸受には、製造コストを低減するために、従来は金属の削り出し品とされていた内径面に凹円弧状の軌道面が設けられた軌道輪を金属板のプレス成形品として、軌道面にエンボス加工を施し、その裏面側の外径面に突出する突出部を成形して、この突出部を固定部材の凹円弧状部に設けた位置決め穴に係合させ、軌道輪を固定部材に位置決めするようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、軌道輪を金属材料の削り出し品または金属板のプレス成形品として、軌道面に貫通孔を形成し、この貫通孔に裏面側の外径面に突出するピンを嵌め込んで、このピンを固定部材の凹円弧状部に設けた位置決め穴に係合させ、軌道輪を固定部材に位置決めするようにしたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−286041号公報(第2図)
【特許文献2】特開2004−100805号公報(第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された軌道輪を金属板のプレス成形品とした揺動軸受は、大幅に製造コストを低減できるが、エンボス加工で突出部を成形するときに軌道面に形成される陥没穴の周縁で、転動するころとの間にエッジロードが発生しやすく、軌道面の陥没穴の周縁やころの転動面に、過大な局部面圧による剥離損傷が生じる恐れがある。
【0007】
また、特許文献2に記載された揺動軸受においても、位置決め用のピンを嵌め込む軌道面の貫通孔の周縁で、転動するころとの間にエッジロードが発生しやすい。
【0008】
そこで、本発明の課題は、位置決め用の突出部やピンを設けるときに形成される軌道面の陥没穴や貫通孔の周縁で、転動するころとの間にエッジロードが発生しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、内径面に凹円弧状の軌道面が設けられた軌道輪と、この軌道輪の軌道面に配列された複数のころと、これらのころを転動自在に保持する保持器とからなり、前記軌道輪を固定部材の凹円弧状部に固定して、前記複数のころで可動部材の凸円弧状部を揺動自在に支持するようにし、前記軌道輪を金属板のプレス成形品として、前記軌道面にエンボス加工を施して、その裏面側の外径面に突出する突出部を成形し、この突出部を前記固定部材の凹円弧状部に設けた位置決め穴に係合させて、前記軌道輪を前記固定部材に位置決めした揺動軸受において、前記エンボス加工で突出部を成形するときに前記軌道面に形成される陥没穴の周縁に肩R部を設けた構成を採用した。
【0010】
また、本発明は、内径面に凹円弧状の軌道面が設けられた軌道輪と、この軌道輪の軌道面に配列された複数のころと、これらのころを転動自在に保持する保持器とからなり、前記軌道輪を固定部材の凹円弧状部に固定して、前記複数のころで可動部材の凸円弧状部を揺動自在に支持するようにし、前記軌道輪の軌道面に貫通孔を形成して、この貫通孔に裏面側の外径面に突出するピンを嵌め込み、このピンを前記固定部材の凹円弧状部に設けた位置決め穴に係合させて、前記軌道輪を前記固定部材に位置決めした揺動軸受において、前記軌道面に形成される貫通孔の周縁に肩R部を設けた構成も採用した。
【0011】
すなわち、位置決め用の突出部やピンを設けるときに形成される軌道面の陥没穴や貫通孔の周縁に肩R部を設けることにより、軌道面の陥没穴や貫通孔の周縁で、転動するころとの間にエッジロードが発生しないようにした。なお、陥没穴の周縁の肩R部は、エンボス加工のダイスに肩R部を設けることにより形成することができる。また、貫通孔の周縁の肩R部は、貫通孔を打ち抜き加工で形成する場合は、打ち抜きポンチとダイスのクリアランスを大きくすることにより形成することができる。
【0012】
前記軌道面に形成される陥没穴または貫通孔の周縁の肩R部の外周に環状のだらし面を設けることにより、より確実にエッジロードの発生を防止することができる。
【0013】
前記環状のだらし面の外径D(mm)を前記凹部の直径の2倍以下とし、だらし面のだらし量H(mm)を、(1)式の範囲とすることにより、軌道面ところとの有効接触長さを十分に確保することができる。
H ≦δ=0.00003Qmax0.9/(L−D)0.8 (1)
ここに、Qmax(N):軸受の静定格荷重における最大転動体荷重、L(mm):ころの有効長さであり、δ(mm)はQmaxが負荷されたときの弾性変位量(Palmgrenの式)である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の揺動軸受は、位置決め用の突出部やピンを設けるときに形成される軌道面の陥没穴や貫通孔の周縁に肩R部を設けたので、軌道面の陥没穴や貫通孔の周縁で、転動するころとの間にエッジロードが発生しないようにすることができる。
【0015】
前記軌道面に形成される陥没穴または貫通孔の周縁の肩R部の外周に環状のだらし面を設けることにより、より確実にエッジロードの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1および図2は、第1の実施形態を示す。この揺動軸受は、図1(a)、(b)に示すように、内径面に凹円弧状の軌道面1aが設けられた軌道輪1と、軌道輪1の軌道面1aに配列された複数のころ2と、これらのころ2を転動自在に保持する保持器3とからなり、軌道輪1が固定部材11の凹円弧状部11aに固定され、複数のころ2で可動部材12の凸円弧状部12aが揺動自在に支持されるようになっている。
【0017】
前記軌道輪1は鋼板のプレス成形品とされ、軌道面1aの軸方向両端部に、ころ2の軸方向移動を規制する鍔4がフランジ曲げ加工で形成されるとともに、軌道面1aの円周方向両端部に、ころ2を保持する保持器3の周方向移動を規制する内向きの爪5が曲げ加工によって形成されている。また、軌道面1aにはエンボス加工が施されて、その裏面の外径面に突出する突出部6が成形され、この突出部6が固定部材11の凹円弧状部11aに設けられた円形の位置決め穴13に係合されて、軌道輪1が固定部材11に位置決めされている。突出部6の根元周りには、位置決め穴13の周縁との干渉を防止するために、円環状の周溝7が形成されている。
【0018】
図2に拡大して示すように、前記軌道面1aには、エンボス加工で突出部6を成形するときに陥没穴8が形成され、その周縁に肩R部8aが形成されるとともに、その外周に円環状のだらし面8bが形成されている。この円環状のだらし面8bの外径D(mm)は陥没穴8の直径dの2倍以下とされ、だらし面8bのだらし量H(mm)は、(1)式の範囲とされている。
H ≦δ=0.00003Qmax0.9/(L−D)0.8 (1)
ここに、Qmax(N):軸受の静定格荷重における最大転動体荷重、L(mm):ころの有効長さであり、δはQmaxが負荷されたときの弾性変位量である。
【実施例】
【0019】
実施例として、外径109mm、内径90mm、幅18mm(ころの有効長さL=13mm)、静定格荷重130kN(最大転動体荷重Qmax=13kN)、陥没穴8の直径dが3.5mmで、肩R部8aのR=0.2mm、だらし面8bの外径D=5.8mm(=1.65d)、だらし量H=0.015mm(≦δ=0.040mm)とした揺動軸受を用意した。比較例として、基本寸法が実施例のものと同じで、肩R部8aとだらし面8bのない揺動軸受も用意した。
【0020】
これらの実施例と比較例の揺動軸受について、高速揺動試験機を用いた軸受寿命試験を行った。試験条件は以下の通りである。試験サンプル数は、実施例と比較例とも10個ずつとした。
・荷重 :19.6kN
・揺動速度:600cpm
・揺動角 :±15°
・潤滑油 :出光ダフニー46(商品名;油浴)
【0021】
上記軸受寿命試験の結果、実施例のものは比較例のものの約2.6倍のL10寿命(サンプルの90%が破損しないで使える時間)を有し、耐久性が著しく向上することが分かった。なお、比較例のサンプルの破損は、いずれも軌道面の陥没穴の周縁における剥離損傷によるものであった。
【0022】
図3および図4は、第2の実施形態を示す。この揺動軸受は基本的な構成は第1の実施形態のものと同じであり、図3(a)、(b)に示すように、鋼板のプレス成形品とされた軌道輪1の軌道面1aに、打ち抜き加工によって貫通孔9が形成され、この貫通孔9に裏面側の外径面に突出するピン10が嵌め込まれて、このピン10が固定部材11の位置決め穴13に係合され、軌道輪1が位置決めされている点が異なる。
【0023】
図4に拡大して示すように、前記軌道面1aの貫通孔9の周縁には、第1の実施形態のものと同様に、肩R部9aとその外周側のだらし面9bが形成されており、だらし面9bの外径Dは貫通孔9の直径dの2倍以下とされ、だらし面9bのだらし量Hは、(1)式の範囲とされている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】aは第1の実施形態の揺動軸受を示す縦断面図、bはaのIb−Ib線に沿った横断面図
【図2】図1(b)のA部を拡大して示す断面図
【図3】aは第2の実施形態の揺動軸受を示す縦断面図、bはaのIIIb−IIIb線に沿った横断面図
【図4】図3(b)のB部を拡大して示す断面図
【符号の説明】
【0025】
1 軌道輪
1a 軌道面
2 ころ
3 保持器
4 鍔
5 爪
6 突出部
7 周溝
8 陥没穴
8a 肩R部
8b だらし面
9 貫通孔
9a 肩R部
9b だらし面
10 ピン
11 固定部材
11a 凹円弧状部
12 可動部材
12a 凸円弧状部
13 位置決め穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面に凹円弧状の軌道面が設けられた軌道輪と、この軌道輪の軌道面に配列された複数のころと、これらのころを転動自在に保持する保持器とからなり、前記軌道輪を固定部材の凹円弧状部に固定して、前記複数のころで可動部材の凸円弧状部を揺動自在に支持するようにし、前記軌道輪を金属板のプレス成形品として、前記軌道面にエンボス加工を施して、その裏面側の外径面に突出する突出部を成形し、この突出部を前記固定部材の凹円弧状部に設けた位置決め穴に係合させて、前記軌道輪を前記固定部材に位置決めした揺動軸受において、前記エンボス加工で突出部を成形するときに前記軌道面に形成される陥没穴の周縁に肩R部を設けたことを特徴とする揺動軸受。
【請求項2】
内径面に凹円弧状の軌道面が設けられた軌道輪と、この軌道輪の軌道面に配列された複数のころと、これらのころを転動自在に保持する保持器とからなり、前記軌道輪を固定部材の凹円弧状部に固定して、前記複数のころで可動部材の凸円弧状部を揺動自在に支持するようにし、前記軌道輪の軌道面に貫通孔を形成して、この貫通孔に裏面側の外径面に突出するピンを嵌め込み、このピンを前記固定部材の凹円弧状部に設けた位置決め穴に係合させて、前記軌道輪を前記固定部材に位置決めした揺動軸受において、前記軌道面に形成される貫通孔の周縁に肩R部を設けたことを特徴とする揺動軸受。
【請求項3】
前記軌道面に形成される陥没穴または貫通孔の周縁の肩R部の外周に、環状のだらし面を設けた請求項1または2に記載の揺動軸受。
【請求項4】
前記環状のだらし面の外径D(mm)を前記凹部の直径の2倍以下とし、だらし面のだらし量H(mm)を、(1)式の範囲とした請求項3に記載の揺動軸受。
H ≦δ=0.00003Qmax0.9/(L−D)0.8 (1)
ここに、Qmax(N):軸受の静定格荷重における最大転動体荷重、L(mm):ころの有効長さであり、δ(mm)はQmaxが負荷されたときの弾性変位量である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−263194(P2007−263194A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87157(P2006−87157)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】