説明

搬送台車システム

【目的】 長細い荷物や平面積が広い荷物などの特殊な荷物についても、狭い通路などの特殊な環境でも、低コストで対応することができる、搬送台車システムを提供する。
【構成】 それぞれが複数のオムニホイール付きの、複数の台車を備えており、各台車は自らの情報を取得すると共に、他の台車の情報を無線で定期的に取得することにより、マスターとの同期が必要ではない事項については、各台車(マスター及びスレーブ)が自らを自律的に制御し、発進又は停止などのマスターとスレーブとの同期が必要な事項については、マスターがその発進又は停止を指示するためのスレーブ指示信号をI/Oテレコントロール通信を使用して各スレーブに送信し、各スレーブはこれに基づいてマスターに同期して発進又は停止するようにした、搬送台車システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工場や店舗などにおいて部材や商品の搬送を行うAGV(Automated Guided vehicle)などの搬送台車システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場や店舗などにおいて部材や商品の搬送を行うAGVが使用されている。このAGVは、例えば特許文献1に示すように、工場内の通路や搬送対象物の形状や重量などに対応するようにそれぞれ特別に設計、製作されているのが通常である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−159370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の搬送機器メーカーから提供されているAGVは、前述のように特別に設計、製作されたものであるため、搬送対象となる荷物や使用できる環境が極めて限られてしまうという問題があった。すなわち、従来より提供されているAGVは搬送対象となる通常の荷物の形状などに適合するように設計、製作された高コストの特殊車両に過ぎなかった。そのため、従来のAGVは、通常の搬送作業では扱わない少数の特殊な荷物、例えば通常よりも長細い荷物や通常よりも平面積が広い荷物には対応できないという問題があった(そのような数が少ない特殊な荷物に対応するAGVは高コストの大型車両となるので実用化が難しかった)。また、従来より提供されているAGVは搬送経路(通路)のサイズや形状などに適合するように設計、製作された特殊車両に過ぎないので、想定されていなかった場所や環境では使用できないという問題があった。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって、搬送対象となる荷物の形状や使用環境が限定されることのない、例えば長細い荷物や平面積が広い荷物などの特殊な荷物についても低コストで対応して搬送することができると共に狭い通路などの特殊な環境でも使用することができる、搬送台車システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述のような従来技術の課題を解決するための本発明による搬送台車システムは、それぞれが、その下方に取り付けられた複数のオムニホイールを駆動することにより全方向に移動可能に構成されており且つその上方に搬送対象物の少なくとも一部を載せる載置部が備えられている、複数の台車と、前記各台車に備えられ、自らに関する現在の進行速度と現在の位置及び方向(自らが後述のスレーブである場合における後述のマスターに対する相対的な位置及び方向を含む)などの自己情報を取得する自己情報取得手段と、前記複数の台車の中の予めマスターとして設定された1台の台車(以下「マスター」という)に備えられ、前記マスターを発進又は停止させるためのマスター制御信号を前記マスターの各オムニホイールの駆動部に送信して前記マスターの各オムニホイールの動作を制御するマスター制御手段と、前記マスターに備えられ、前記マスター以外のスレーブとして設定された1台以上の台車(以下「スレーブ」という)に対してその発進又は停止を指示するためのスレーブ指示信号を、前記マスター制御信号の前記マスターの各オムニホイールの駆動部への送信と略同時に、前記スレーブに無線で送信するスレーブ指示信号送信手段と、前記スレーブに備えられ、前記マスターから送信されたスレーブ指示信号に基づいて、自らの各オムニホイールの動作を制御する他律制御手段と、前記各台車に備えられ、前記の自らの自己情報を、他の台車に定期的に無線で同報送信する同報送信手段と、前記各台車に備えられ、他の台車から前記同報送信された前記他の台車に関する情報(前記他の台車の自己情報)を受信する同報受信手段と、前記各台車に備えられ、自らに関する前記自己情報及び他の台車から同報送信された前記他の台車に関する情報(自己情報)に基づいて、自らの各オムニホイールの動作を自律的に制御する自律制御手段と、を備えた、ことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明による搬送台車システムにおいて、前記自己情報取得手段は、それが備えられている台車がスレーブであるときは、自らが予め記録している「当該スレーブの搬送開始時における前記マスターに対する自らの相対的な位置及び方向」、自らの搬送開始時からの移動量及び移動方向、及び、前記同報受信手段により受信された前記マスターの搬送開始時からの移動量及び移動方向に基づいて、当該各スレーブの前記マスターに対する現在の相対的な位置及び方向を取得するものである、ことが望ましい。
【0008】
さらに、本発明による搬送台車システムにおいては、前記各台車に備えられ、各オムニホイールの単位時間当たり回転数を取得するホイール回転数取得手段と、前記各台車に備えられ、前記各オムニホイールの車軸と異なる方向の回転軸を有する複数の各ローラーの単位時間当たり回転数を取得するローラー回転数取得手段と、を備え、前記自己情報取得手段は、前記ホイール回転数取得手段及び前記ローラー回転数取得手段からの出力に基づいて自らの進行速度を取得する手段を含むものである、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の台車が互いに連携して移動することにより荷物の搬送を行うので、搬送対象が長細い荷物や平面積が広い荷物などの特殊な荷物でも、柔軟に低コストで対応して搬送することができる(従来のように搬送対象物が限定されることがなくなる)。また、本発明によれば、複数の台車が互いに連携して移動することにより荷物の搬送を行うので、狭い通路や段差のある場所などを含む様々な環境で使用することができる(従来のように使用できる場所・環境が限定されることがなくなる)。このように、本発明によれば、搬送対象となる荷物や使用環境が限定されることのない、長細い荷物や平面積が広い荷物などの特殊な荷物についても、また狭い通路などの特殊な環境でも、低コストで対応して搬送することができる搬送台車システムを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態による搬送台車システムの基本構成を示す概略ブロック図である。
【図2】本発明の実施例1による搬送台車システムを上方から見たときの模式図である。
【図3】本実施例1により或る荷物Aを搬送している状態を示す斜視図である。
【図4】本実施例1において各スレーブがマスターに追従して移動するための構成を説明するための図である。
【図5】本実施例1において各台車が自らの現在の状態を互いに送信(同報送信)することによりそれぞれが自律的に動作するための構成を説明するための図である。
【図6】本実施例1において各スレーブの発進又は停止の動作をマスターに同期させるための構成を説明するための図である。
【図7】本実施例1により他の荷物(細長い荷物)を搬送している状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の望ましい実施形態の概略構成を示すブロック図である。図1において、1はマスター(親)となる台車、2はスレーブ(子)となる台車である。本実施形態では、マスター1はシステム内で1台のみであるが、スレーブ2は1台でもよいし複数台でもよい。
【0012】
また、図1において、3は各台車の状態、例えば、各台車の進行速度、搬送開始からの経路上の移動量及び移動方向、現在の位置座標及び方向、及び内蔵バッテリーの残容量(充電状態)などを検出するための自己情報取得部である。前記自己情報取得部3は、例えば、それが備えられている台車がスレーブ2であるときは、自らが予め記録している「当該スレーブ2の搬送開始時における前記マスター1に対する自らの相対的な位置及び方向」、自らの搬送開始からの経路上の移動量及び移動方向(搬送開始からの進行速度、移動時間、及び移動方向などから取得できるもの)、及び、マスター1から無線で受信したマスター1の搬送開始からの移動量及び移動方向もしくは現在の位置に基づいて、自らの前記マスター1に対する現在の相対的な位置及び方向を取得する。また、前記自己情報取得部3は、例えば、それが備えられている台車がマスター1であるときは、自らが予め記録している「自ら(当該マスター1)の搬送開始時における位置及び方向」、自らの搬送開始時からの経路上の移動量及び移動方向に基づいて、自らの現在の位置及び方向を取得する。
【0013】
すなわち、前記自己情報取得部3は、例えば、各オムニホイールの単位時間当たり回転数(ホイール回転数)と前記各オムニホイールの外周近傍部分に取り付けられ各オムニホイールの車軸と異なる方向の回転軸を有する複数の各ローラーの単位時間当たり回転数(ローラー回転数)とに基づいて、各台車の進行速度や搬送開始時からの経路上の移動量及び移動方向などを取得する。また、前記自己情報取得部3は、例えば、搬送開始時において予め記録しておいた自ら(各スレーブ2)のマスター1に対する相対的な位置関係(距離と方向)と前記測定データ(前記ホイール回転数と前記ローラー回転数)とに基づいて、各台車の進行速度、搬送開始時からの経路上の移動量及び移動方向、各台車がスレーブである場合のマスター1に対する現在の位置関係(距離と方向)などを取得する。
【0014】
また、図1において、4は各台車1,2が自らの自己情報を他の台車1,2との間で相互に定期的に且つ同報的に所定の近距離無線手段で送受信するための同報送受信部である。また、5は、各台車が前記自己情報取得部1で得られた自己情報(自らの現在の位置及び方向、進行速度、バッテリーの残容量など)と前記同報送受信部4で受信した他の台車の自己情報(他の台車の現在の位置及び方向、進行速度、バッテリーの残容量など)とに基づいて、自らのオムニホイールの駆動部(モーター)6を制御するための自律制御部である。
【0015】
また、図1において、7は、(前記自己情報取得部3からの自己情報などの情報に基づいて)マスター1についてその発進又は停止をさせるようにそのオムニホイールのモーター6を制御するためのマスター制御部である。また、8は、前記マスター制御部7により制御される前記マスター1のオムニホイールの動作に対応するスレーブ指示信号を、スレーブ2に向けて、I/Oテレコントロール通信(ラジオコントロールなどにおいて無線遠隔操作のために使用される通信方式)により無線送信するスレーブ指示信号送信部、である。前記マスター制御部7及び前記スレーブ指示信号送信部8は、マスター1だけに備えられている(スレーブ2には前記マスター制御部7及び前記スレーブ指示信号送信部8と同じ機能を発揮するためのプログラムなどは予め内蔵されているがその機能が予め停止されている)。
【0016】
また、図1において、9は、前記マスター1のスレーブ指示信号送信部8から送信されたスレーブ指示信号をスレーブ2側で受信するためのスレーブ指示信号受信部である。また、10は、このスレーブ指示信号受信部9により受信されたスレーブ指示信号(及び前記自己情報取得部3からの自己情報)に基づいてスレーブ2のオムニホイールのモーター6を制御する他律制御部、である。前記スレーブ指示信号受信部9及び前記他律制御部10は、スレーブ2だけに備えられている(マスター1には前記スレーブ指示信号受信部9及び前記他律制御部10と同じ機能を発揮するためのプログラムなどは予め内蔵されているがその機能が予め停止されている)。なお、図1ではスレーブ2は1台だけ示しているが、本実施形態ではこのスレーブ2は複数台存在し得る。このようにスレーブ2を複数にした場合、図1のスレーブ2の同報送受信部4は、マスター1の同報送受信部4だけでなく他のスレーブの同報送受信部4とも互いに交信する。また、このようにスレーブ2を複数にした場合、図1のマスター1のスレーブ指示信号送信部8は、複数のスレーブ2に対して同時にスレーブ指示信号を同報送信する。
【0017】
本実施形態においては、前記自律制御部5により、それぞれがオムニホイールにより全方向に移動可能な複数の台車1,2が、互いに協働して、荷物などを搬送するようにしている。また、本実施形態において、前記複数の台車1,2の中、マスター1とスレーブ2は、操作者により(又は製造時の初期設定で)予めそれぞれマスターかスレーブかいずれかの動作を行うように設定されている。また、マスター1及びスレーブ2の各台車は、予め、搬送開始時における自らの位置座標と他の台車の位置座標とを自らのメモリに記録しておく。すなわち、搬送開始時に、各スレーブ2は、マスター1に対する自らの相対的な位置関係(前記マスター1に対する距離と方向)を位置座標データとして予め記録しておく。
【0018】
そして、マスター1のマスター制御部7が自らの発進又は停止などの事項(スレーブの動作がマスターと同期する必要のある事項)を決定したとき(そのようなマスター1の状態または動作内容の変化が生じたとき)、そのマスター1の発進又は停止を指示する信号は、マスター制御部7により、前記マスター1の駆動部(前記マスターのオムニホイールを駆動するモーター6)に送信される。また、これと略同時に、前記スレーブ指示信号送信部8から、前記マスター1の発進又は停止にスレーブ2を同期させるためのスレーブ2の発進又は停止を指示する信号が、全てのスレーブ2に向けて、I/Oテレコントロール通信により送信される。前記スレーブ2は、前記送信されたスレーブ指示信号に基づいて、他律的に制御される。これにより、前記マスター1とスレーブ2は、その発進又は停止などの動作が同期して制御される(つまり、前記各スレーブ2は、前記マスター1の発進又は停止と同期するように、前記マスター1により他律的に制御される)。また、マスター1は、例えば、搬送の目的地情報と工場内の見取り図情報とに基づいて経路を自動的に取得し、発進又は停止などを自動的・自律的に決定する。よって、本実施形態において、マスター1が自らの発進又は停止を決定したときは、マスター1は、それらを示す信号に基づいて自らのオムニホイールの駆動部(モーター)を制御すると同時に、各スレーブ2にスレーブ制御信号をI/Oテレコントロール通信を使用して送信し、各スレーブ2がマスター1の動作と同期して発進又は停止をするように各スレーブ2を制御する。
【0019】
なお、各台車1,2は、それぞれ、各オムニホイール本体の単位時間当たり回転数を検出するセンサと、各オムニホイールに取り付けられた各ローラーの単位時間当たり回転数を検出するセンサとを有している。マスター1は、これらの各センサからの各検出データと搬送開始時における自らの位置及び方向データとに基づいて、自らの進行速度、経路上における移動量などを求める。また、各スレーブ2は、前記各センサからの各検出データと予め自らが記録している搬送開始時におけるマスター1に対する相対的な位置関係(前記マスターに対する相対的な距離及び方向)とに基づいて、現在の自らのマスター1に対する相対的な位置関係を求める。前記の各台車が求めた自らの進行速度、現在の位置及び方向(スレーブの場合は現在のマスター1に対する相対的な位置関係)は、他の各台車との間で相互に定期的に同報的に無線で送受信され共有される。これにより、各台車は、自らと他の台車の双方の情報に基づいて、自らの動作が他の台車の動作とうまく対応・適合するように、自らの位置及び方向、及び進行速度などを自律的に制御する(図1の自律制御部5参照)。
【0020】
例えば、各台車1,2は、互いに隣り合う他の台車が突発的に停止したときはそれをカバーするように(前記他の台車の突発的停止により荷物が脱落、転倒したりしないように)自らの位置、進行方向、又は進行速度を自律的に変更する。また、前記同報送受信部4は各台車の内蔵バッテリーの残容量をも各台車から他の台車に同報送信し、各台車は、他の台車の内蔵バッテリーの残容量を監視しながら、他の台車がバッテリー切れで停止する可能性がある場合は予めそれをカバーするように(前記バッテリー切れで他の台車が停止しても荷物が脱落、転倒したりしないように)自らの位置、進行方向、又は進行速度を自律的に変更する。よって、本実施形態では、各台車の自律制御により、複数の台車の中の一つが突発的に停止するなどのトラブルがあっても、荷物が脱落、転倒するなどの不都合を回避することができる。
【0021】
以上のように、本実施形態では、複数の台車が互いに連携して移動することにより荷物の搬送を行うので、搬送対象が長細い荷物や平面積が広い荷物などの特殊な荷物でも柔軟に低コストで対応して搬送することができる(従来のように搬送対象物が限定されることがなくなる)。また、本実施形態によれば、複数の台車が互いに連携して移動することにより荷物の搬送を行うので、狭い通路や段差のある場所などを含む様々な環境で使用することができる(従来のように使用できる場所・環境が限定されることがなくなる)。
【実施例1】
【0022】
図2は本発明の実施例1による搬送台車システムを上方から見たときの平面模式図、図3は本実施例1の各台車により荷物Aを搬送しているときの状態を示す概略斜視図である。図2において、11,12,13,14,15はそれぞれ本実施例1を構成する各台車である。本実施例1では、図2に示すように、前記各台車11,12,14,及び15は、平面が略長方形の荷物Aの計4個の各隅部にそれぞれ対向するように配置され、前記台車13は、前記荷物Aの略中央部に対向するように配置されている。
【0023】
また、図2において、11a,11b,11c,11dは前記台車11の外周近傍部分の互いに均等な間隔を有する4箇所にそれぞれ回転可能に取り付けられたオムニホイール、12a,12b,12c,12dは前記台車12の外周近傍部分の互いに均等な間隔を有する4箇所にそれぞれ回転可能に取り付けられたオムニホイール、13a,13b,13c,13dは前記台車13の外周近傍部分の互いに均等な間隔を有する4箇所にそれぞれ回転可能に取り付けられたオムニホイール、14a,14b,14c,14dは前記台車14の外周近傍部分の互いに均等な間隔を有する4箇所にそれぞれ回転可能に取り付けられたオムニホイール、15a,15b,15c,15dは前記台車15の外周近傍部分の互いに均等な間隔を有する4箇所にそれぞれ回転可能に取り付けられたオムニホイール、である。
【0024】
次に、図3は図2に示すような計5個の台車により荷物Aを搬送する動作を示している。この図3では、図示の便宜上の理由などから、図2の中央の台車13の図示は省略されている。図3において、11e,12e,14e,15eは各台車11,12,14,15の上方に配置された天板、11f,12f,14f,15fは前記各天板11e,12e,14e,15eの上面にそれと平行に回転可能に取り付けられたターンテーブル、である。図3において搬送されている荷物Aは、図示のような4本の脚を有するテーブルで、このテーブルAの4本の脚はそれぞれ4つの台車11,12,14,15の前記ターンテーブル11f,12f,14f,15fの上に載置されている。
【0025】
次に、本実施例1における通常の隊列進行中(隊列運行の過程)における各台車の隊列制御の動作とそのための構成を図4及び図5を参照して説明する。図4は、本実施例1において各スレーブがマスターに追従して移動するための構成を説明するための図である。図4に示すように、本実施例1では、例えば4台の台車11,12,14,15があるとき、その各台車について、搬送開始前に、操作者により、予めマスター(親)となる台車11とそれ以外のスレーブ(子)となる台車12,14,15と、が決められる。そして、マスターとされた台車11は、その内蔵プログラムがマスターとして動作するように予め設定されると共に、搬送開始時の位置座標と目的地までの搬送経路座標とが予めメモリに記録される(なお、マスター11は、搬送開始時には現在地と目的地の位置座標を記録しておくだけで、目的地までの搬送経路については、従来のカーナビゲーションシステムと類似の構成により、搬送経路を含む地図や見取り図の情報を参照しながら、進行途中において随時、最適経路を算出して進行するようにしてもよい)。また、スレーブとされた各台車12,14,15は、その内蔵プログラムがスレーブとして動作するように予め設定されると共に、搬送開始時における自らのマスター11に対する相対的な位置座標が予めメモリに記録される。
【0026】
搬送のための通常運行中は、マスター11は、進行方向(隊列の向き)などの運行内容を決定する(内蔵プログラムがそのように設定されている)。各スレーブ12,14,15は、後述する構成により、マスター11との相対的な位置(距離)及び方向を保持しながら、マスター11が指示する走行速度でマスター11の運行に追従する。
【0027】
図5は、このような、各スレーブ12,14,15が、マスター11との相対的な位置(距離)及び方向を保持しながら、マスター11と同じ走行速度でマスター11に追従する動作を行うための構成、すなわち、各台車11〜15がそれぞれ自らの現在の状態を互いに送信(同報送信)し合いながらそれぞれが自律的に動作するための構成を説明するための図である。
【0028】
図5に示すように、本実施例1では、各台車11〜15は、それぞれ、各オムニホイールの単位時間当たりホイール回転数を検出するセンサと、各オムニホイールのローラー(各オムニホイールの外周近傍部分の複数箇所に取り付けられたローラーであって各オムニホイールの車軸と直交する方向の回転軸を有する樽型のローラー)の単位時間当たり回転数を検出するセンサと、を備えている。また、本実施例1では、各台車11〜15は、それぞれ、搬送開始時の位置座標と前記各センサからのデータとに基づいて、自らの進行(移動)速度、搬送開始からの経路上の移動量及び移動方向、及び、現在の位置及び進行方向を求める。前記現在の位置及び進行方向は、例えば、搬送開始時における位置座標データを予め記録しておき、この位置座標データを基準としてこれに対する相対的な距離及び方向を前記各回転数データに基づいて算出することにより、求める(なお、これ以外に、例えば構内でのGPS類似のシステム(例えば屋内に3個以上の電波発信器を設置してそれらからの各電波を受信するまでの到達時間差に基づいて受信側機器の位置を特定するシステム)を採用することにより各台車の現在位置座標を取得することも可能である)。また、本実施例1では、各台車11〜15は、それぞれ、自らに掛かっている荷物の重量を測定するセンサも備えている。また、本実施例1では、各台車11〜15は、それぞれ、自らの各オムニホイールの駆動モーター用のバッテリーの残容量を測定するセンサも備えている。
【0029】
本実施例1では、図5に示すように、前記各台車11〜15は、前述のようにして求められた自らのオムニホイールに関する前記各回転数、進行速度、それまでの搬送経路(移動量及び移動方向)、現在の位置及び方向、荷重量、及びバッテリー残容量などの情報(各台車に関する情報)を、所定時間毎に(例えば1秒間に1回のペースで)、公知の近距離無線手段(例えばブルートゥースなど)を使用して、他の台車との間で互いに同報的に送受信(車車間通信)する。
【0030】
よって、本実施例1では、通常の搬送・運行の途中においては、マスター11は、予め自らのメモリに記録されている搬送経路の座標データに基づいて進行方向(隊列の向き)や走行速度などの基本的な運行内容を決定しながら走行する。また、本実施例1では、通常の搬送・運行の途中においては(つまり、発進又は停止などのマスターとの同期が必要ではない動作・事項については)、各スレーブ12,14,15は、マスター11から同報送信された位置、方向、速度などの情報に基づいて、マスター11に対する相対的な位置及び方向、及びマスター11と同じ速度を保持しながら、自律的に走行する。
【0031】
また、本実施例1では、各スレーブ12,14,15は、マスター11の情報だけでなく、他のスレーブの情報をも略リアルタイムに共有する(各スレーブ12,14,15は自己情報を互いに同報的に送受信する)ので、各台車11〜15は、例えば、互いの協働により1つの荷物Aを搬送する過程で、或る台車の隣りの他の台車が突発的に移動不能になった場合は、その或る台車は直ちにそのことを認識して、その移動不能になった台車の方に近づく(予めそのように自律的に動作するプログラムを内蔵しておく)ようにし、これにより、荷物Aがバランスを崩して転倒したりすることを防止するようにしている。また、本実施例1では、各スレーブ12,14,15は、マスター11の情報だけでなく、他のスレーブの情報をも略リアルタイムに共有する(各スレーブ12,14,15は自己情報を互いに同報的に送受信する)ので、例えば、互いの協働により1つの荷物Aを搬送するとき、或る台車の隣りの他の台車がバッテリー残容量がほとんど無い状態になった場合は、その或る台車は直ちにそのことを認識して、そのバッテリー切れに近い状態になった台車の方に近づく(予めそのような自律的に動作するプログラムを内蔵しておく)ようにし、これにより、その台車が突発的に停止して荷物Aがバランスを崩して転倒したりすることを防止することができる。
【0032】
次に、本実施例1において各スレーブの発進又は停止の動作をマスターに同期させるための構成を図6を参照して説明する。本実施例1では、前述のように、各台車11〜15から成る隊列の発進又は停止などの隊列運行の基本に関する動作・事項はマスター11が予め内蔵しているプログラムにより各種情報に基づいて決定され、それが各スレーブ12,14,15に送信される。そして、本実施例1では、このような発進又は停止などの隊列運行の基本に関する動作・事項については、前記図5に関して説明した通常の同報送信用の短距離無線手段(例えばブルートゥースなど)ではなく、I/Oテレコントロール通信(ラジオコントロールなどで使用されている無線による遠隔操作方式)を使用してマスター11から各スレーブ12,14,15に信号を送信し(一部「割り込み」を使用して、ソフト的なタイムラグをゼロに抑える)、これにより、マスター11と各スレーブ12,14,15の動作を同期させるようにしている。
【0033】
すなわち、本実施例1では、各スレーブの発進や停止などの「マスターの動作との同期」が必要な動作・事項(隊列運行の基本に関する動作・事項)については、図6(a)に示すように、I/Oテレコントロール通信を使用して、マスター11と各スレーブ12,14,15の発進又は停止の動作を互いに同期させる(タイミングを合わせる)ようにしている(図1の他律制御部10参照)。他方、本実施例1では、発進や停止などの「同期」が必要な事項以外の事項(例えば、進行速度の比較的緩やかな変更、進行方向の比較的緩やかな変更などの、通常の隊列運行の過程における動作・事項)については、図6(b)に示すように、マスター11及び各スレーブ12,14,15を含む各台車の間で、自らの速度、搬送開始後の搬送経路における移動量及び移動方向、現在の位置及び方向、荷物の重量、及びバッテリー残容量などの各種情報を互いに同報的に送受信し、この同報送信により互いに共有された情報に基づいて各台車が自律的に自らを制御して他の台車との間隔を保持しながら且つ互いの進行方向を一致させながら、進行を続けるようにしている(図1の自律制御部5参照)。
【0034】
次に、図7は本実施例1を使用して図2の荷物Aとは異なる他の荷物Bを搬送するときの状態を示す斜視図である。この図7では、図2のような4本の脚付きテーブルの荷物Aと異なって、細長い荷物Bを搬送する場合を示している。この図7では、細長い荷物Bの搬送であるから、マスター11とスレーブ12との2台の台車だけで搬送を行うようにしている。この図7に関しても、本実施例1の基本的な構成及び動作は図2〜6について説明したところと同様である。すなわち、この図7と図2〜6とでは台車の数が異なっているが、それは荷物の形状などに対応した結果の違いに過ぎず、同じ実施例1の使用態様の違いに過ぎない。
【0035】
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明は前記の各実施例として述べたものに限定されるものではなく、様々な修正及び変更が可能である。例えば、本実施例1においてはオムニホイールに取り付けられた樽状のローラーを4個としているが、本発明ではこれに限られるものではないことはもちろんである。また、本実施例1においては、各台車11〜15は、それぞれ、搬送開始時の位置座標と搬送中の各オムニホイールの単位時間当たりホイール回転数や各オムニホイールのローラーの単位時間当たり回転数などから現在の位置座標を求めるようにしているが、本発明においてはこれに限られるものではなく、例えば、各台車は、屋内に3個以上の電波発信器を設置してそれらからの各電波を受信するまでの電波の到達時間差に基づいて受信側機器の位置を特定するなどのGPS類似のシステムにより各台車の現在位置座標を取得するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
11,12,13,14,15 台車
1 マスター
12,13,14,15 スレーブ
1 自己情報取得部
3 自己情報取得部
4 同報送受信部
5 自律制御部
6 オムニホイールのモーター
7 マスター制御部
8 スレーブ指示信号送信部
9 スレーブ指示信号受信部
10 他律制御部
11 台車
11e,12e,14e,15e 各天板
11f,12f,14f,15f ターンテーブル
A,B 荷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが、その下方に取り付けられた複数のオムニホイールを駆動することにより全方向に移動可能に構成されており且つその上方に搬送対象物の少なくとも一部を載せる載置部が備えられている、複数の台車と、
前記各台車に備えられ、自らに関する現在の進行速度と現在の位置及び方向(自らが後述のスレーブである場合における後述のマスターに対する現在の相対的な位置及び方向を含む)などの自己情報を取得する自己情報取得手段と、
前記複数の台車の中の予めマスターとして設定された1台の台車(以下「マスター」という)に備えられ、前記マスターを発進又は停止させるためのマスター制御信号を前記マスターの各オムニホイールの駆動部に送信して前記マスターの各オムニホイールの動作を制御するマスター制御手段と、
前記マスターに備えられ、前記マスター以外のスレーブとして設定された1台以上の台車(以下「スレーブ」という)に対してその発進又は停止を指示するためのスレーブ指示信号を、前記マスター制御信号の前記マスターの各オムニホイールの駆動部への送信と略同時に、前記スレーブに無線で送信するスレーブ指示信号送信手段と、
前記スレーブに備えられ、前記マスターから送信されたスレーブ指示信号に基づいて、自らの各オムニホイールの動作を制御する他律制御手段と、
前記各台車に備えられ、前記の自らの自己情報を、他の台車に定期的に無線で同報送信する同報送信手段と、
前記各台車に備えられ、他の台車から前記同報送信された前記他の台車に関する情報(自己情報)を受信する同報受信手段と、
前記各台車に備えられ、自らに関する自己情報及び他の台車から同報送信された前記他の台車に関する情報(前記他の台車の自己情報)に基づいて、自らの各オムニホイールの動作を自律的に制御する自律制御手段と、
を備えたことを特徴とする搬送台車システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記自己情報取得手段は、それが備えられている台車がスレーブであるときは、自らが予め記録している「当該スレーブの搬送開始時における前記マスターに対する自らの相対的な位置及び方向を示すデータ」、自らの搬送開始時からの移動量及び移動方向、及び、前記同報受信手段により受信された前記マスターの搬送開始時からの移動量及び移動方向に基づいて、当該各スレーブの前記マスターに対する現在の相対的な位置及び方向を取得するものである、ことを特徴とする搬送台車システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記各台車に備えられ、各オムニホイールの単位時間当たり回転数を取得するホイール回転数取得手段と、
前記各台車に備えられ、前記各オムニホイールの車軸と異なる方向の回転軸を有する複数の各ローラーの単位時間当たり回転数を取得するローラー回転数取得手段と、を備え、
前記自己情報取得手段は、前記ホイール回転数取得手段及び前記ローラー回転数取得手段からのデータに基づいて自らの進行速度を取得する手段を含むものである、ことを特徴とする搬送台車システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−216007(P2011−216007A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85218(P2010−85218)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(510091446)株式会社ジー・イー・エヌ (2)
【Fターム(参考)】